堕ちた先は人形道   作:杭打折

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今回ちょっと残酷な描写入ります。
あとAK-15の出番はあんまり無い。


8話.サプライズ

 その日は、いつもと何も変わらない一日だった。

 昨日のように明日が続いていくため、間をつなぐ今日という時間なのだろう。いつものように今が過ぎていくから、きっと明日も何もない。

 日常というのは、そういうもののことを言うのだろうと私は思っていた。 

 

「アウラー!」

「ナターシャ、こっちこっちー!」

 

 自分を呼ぶ声に応え、急いで駆け寄ってくる友人――ナターシャに、大きく手を振って居場所を示す。

 人の群れの中を縫うように進んできたナターシャは、私の前につく頃にはすっかり息が上がっていた。

 

「お待たせ、待たせた?」

「大丈夫。時間通りだよ、ナターシャ」

「よかったぁ……」

 

 息を切らし、頬に汗の筋を流しながら、大げさに安堵する友人の仕草についつい笑ってしまう。

 

「わ、笑わなくたって良いでしょ?」 

「ごめんごめん、何かおかしくって……」

 

 ナターシャはむう、とわかりやすく頬をふくらませた。そんな表情をするから、ついつい此方も笑ってしまうのだが、彼女はきっと、そんな事実に気付いていないのだろう。

 

「それで、何処に行く?」

「んーっと……まずは服を買いに行こう?それからご飯とか食べに行って、それから――」

 

 指を折って一つずつ、やりたいことを並べ始めるナターシャの言葉を聞きながら、タイムスケジュールを組み立てる。

 ナターシャの事だから買い物の時間は長めになるだろうと推測して、少し遅めの昼食になることを考慮し、近場でやっている店のリストを記憶の中から呼び起こす。

 傍らでこれからどうするかを語るナターシャをよそに、行動計画を策定。

 というか、この友人、どこかでストップをかけなければタイムスケジュール的に不可能な願望まで喋りそうな勢いだ。

 

「わかった、わかった。まずは小物から買いに行こう?それからお昼を食べて、そのあと服を買いに行こうよ、ナターシャ」

「うんっ、アウラが言うならそうしようかな。ね、早く行こう?」

 

 陽性の笑みを咲かせてナターシャが私の手を取る。

 他の友人はナターシャを押しが強いとか、やかましいと言う。私もそう思う。

 しかし、一緒に居れば忘れてしまう程度でしかない。だから、私は彼女達と違ってナターシャの友人なのだろう。

 

「あ、戦術人形だ」

 

 暫く歩いていると、隣のナターシャがそう言った。視線を追えば、彼女の言ったとおりに個性的な服装に身を包む少女達がそこにいた。

 

「よく戦術人形ってわかったね」

「ダミーを連れて歩くのは戦術人形だからね。それにほら、皆ガンケースもってるから」

「ふーん、なるほどね……流石アウラ、詳しいね?」

 

 正直に言えば、遠目からではそれが戦術人形かの見分けをつけられなかった。私はナターシャほど詳しくないから、彼女が言うならそうなのだろう、と。

 いつものやり取りだった。

 自律人形に詳しくない私がナターシャを褒めて、ナターシャが得意げに説明する。それを私が程々に聞く。

 だけど、今日は違っていた。私が褒めても、ナターシャはいつになく真剣な表情を浮かべたまま、あちらこちらに視線を飛ばしている。まるで何かを探しているようだった。

 

「どうしたの?」

 

 違和感を覚え、呼び掛ける。声で私の存在を思い出したか、ナターシャは振り向いて手を握ってきた。

 彼女の細い指が手首に食い込む。いつもより、力が籠もっている。瞳は不安に揺れているが、私のことを縋るように捉えている。

 初めて見るナターシャの怯えた表情。私は困惑していた。

 

「ナターシャ?」

「アウラ、ここから離れよう?」

「どうしたの?」

 

 何故?彼女の言葉の理由がわからなかった。

 きっと呆然とした表情を浮かべてる私に、ナターシャは焦りをにじませながら顔を近づける。そして、私にだけ聞こえるように静かな声音で主張する。

 

「だって、武装した戦術人形の部隊がいるなんて、普通じゃない……っ」

 

 私がナターシャの言葉の意味を理解できたのは、付近の乗用車が爆発と共に火柱を立ててからだった。

 

 

 

 

 全ては計画通り。

 爆破を見届けた男はそう考えていた。

 のうのうと平穏を享受し、安寧に浸りながら生きている連中が大勢吹き飛んだのだろう。結構な事だ。

 大国の身勝手さと、そこに住まう愚かな者共により振り回され、全てを奪われた者達も居る。だというのに、それを忘れたように惚けた顔で生を貪る連中なぞ、生きている価値も無い。

 大戦で我々が何を失ったのか。その後の環境の崩壊で、犠牲となったのか誰なのか。奴らは考えようともしない。

 その時、男の胸ポケットの端末が震え、着信を告げる。

 男は無造作にそれを手に取り、応答ボタンを押して受話器を耳に押し付ける。

 

「……ああ、あんたの言った通りにしたよ」

 

 相手の言葉を聞き届け、不機嫌そうに眉をひそめながらも男は語る。

 

「お陰で、PMCの人形共も木端微塵だ。邪魔を出来る連中はもう居ない」

 

 男にとって、事態はうまく運んでいた。寧ろ、上手く行き過ぎて不気味なほどですらあった。

 

「分かってる。心配するな、あんたから貰ったデータに従う」

 

 それは、この電話の向こうにいる者のアドバイスに従った結果だ。

 戦術人形の行動パターン、治安維持を行うPMCの動き方。それらを知悉する何者か。それだけの知識を持ちながら正体は不明であるという得体の知れなさはあったが、それの持つ知識は男が特に必要とするものだった。

 

「ああ、ああ、忘れちゃいないさ。増援が来るまでに片付ける。それで良いんだろう?」

 

 悪魔か、それとも天使か。男からすれば、どちらでも良い事だった。

 彼にとって重要なのは報復、ただそれだけ。

 通話を終えた彼は、通信端末を操作して別の番号へと発信を行う。

 

「自分達の生活が何を犠牲に成り立ってるのかを考えようともしない、恥知らず共。俺がお前達に痛みというものを教えてやる」

 

 男の瞳がギラつくのと時を同じくして、幾つもの銃声が響き始めていた。

 

 

 

 

 爆音とともに炎が生まれた。

 続いて無数の悲鳴が上がった。

 平和だった市街地は、いまや魔女の窯の底と化している。

 実に忌まわしい行いだと言わざるを得ない。

 誠に痛ましい事件と評せざるを得ない。

 故に、度し難い行いだと断罪し、下手人へと怒りの鉄槌を下さねばなりません。

 民間人を守護するという大義名分は、人形が殺人を犯す事さえ正義として許容するのですから。

 

 皆様ごきげんよう、AK-15です。

 

 急ぎ、状況から報告させていただくと、爆破テロが発生した。

 時刻は人の多い昼下がり。複数地点で同時に起爆した爆薬により、メインストリートで日常に浸る数多の民間人が吹き飛んだ。

 爆発が起きる直前、駅へと向かう間も感じ取っていたあの電波が一際強くなった。そして、それは今も感じ取ることができている。事件との因果関係は不明だが、少なくとも無関係ではないだろう。

 さて、それよりも重要なのは、この事態が単なる爆破に留まっていないことだ。

 どうやら、爆破されたメインストリートでは、今は銃撃戦が行われているらしい。

 少し離れた位置にいる私の耳にも届く発砲音は、無秩序に乱射してると思われるパターンを持つ集団と、不均一で控えめな銃撃を行う集団の二つがある。

 どちらがテロリスト側か。難を逃れた、あるいは負傷した民間人が多数残ってると想定される状況で銃を乱射をするような馬鹿は、治安部隊にもいないだろう。

 

「AK-15、これはいったい……」

「テロリズムだよ、サブリナ」

 

 未だ電脳の処理が追いついてないのか、無機質な表情に困惑した気配を交えているサブリナの問いかけに答える。

 これは、テロだ。何が目的かは知らないが、民間人を爆破するだけでなく、更に銃撃まで加えているかなり過激なタイプと見える。

 既に私達の周りには、少しでも現場から離れようとしている民間人の濁流が生まれている。

 

「私達はどうすれば?」

「行動する」

 

 こんな状況だ。座して待つなどありえない話で、是非も無く行動はしなくてはならない。その上で我々が考えるべきなのは、いつ、どのように行動するかだ。

 

「命令を求めるのが優先では……?」

「いいや、それでは遅い」

 

 命令を求めるべきではというサブリナの考えは、マニュアル的には正しい。緊急事態に伴い、人間に命令を求めるというのは戦術人形として満点の対応だろう。

 しかし、だ。人間が戦術人形に求める姿としては、不合格だ。

 人間は、こういう時にこそ人形が助けに行くべきだと言う筈だ。人間の為に行動する人形と、その電脳こそを、素晴らしいと讃えるだろう。

 逆に言えば、人間の危機に対して動けない人形など存在として不適格、不要なのだと言われかねない。

 故、動くのならば即座に動くべきであると、私は思考する。

 それに、これは願ってもない好機なのだ。実利と保身を実現し、そして私の欲求を満たせる可能性まである。一石三鳥な絶好の機会。

 行動は早ければ早いほど良い。銃撃戦をしているということは、双方の戦力が存在しているということだ。テロリスト側が増援(おかわり)を用意してるなどとは思えない。

 時間が経てばテロリストは鎮圧されるだろう。

 それ故に、私が何人殺せるかというのは、スピード勝負なのだ。

 

「司令部に伺いを立てて、我々を指揮系統に組み込み、命令を下す。時間がかかり過ぎる。それを待ってる間に、貴重な人命が喪われる」

 

 私の言葉に、サブリナは沈黙を返す。電脳の中で考え込んでいるのだろう。しかし私は答えを待つつもりはない。先程も言ったように、これはスピード勝負なのだから。

 多少強権的になるが、やむを得まい。

 

「サブリナ、私は君の上位権限を有している」

「その通りですが、AK-15」

 

 こちらの意図を理解したのか、サブリナの目が少しだけ見開かれている。

 私は正解だと彼女に告げるべく、上位権限者としてサブリナへの命令を下す。

 

「やるぞ、サブリナ。民間人保護のため、我が隊は偶発的に遭遇した戦闘への介入行動を取る」

「――了解しました、隊長」

 

 その命令を与えられたサブリナは、二つ返事で受領する。手にしていた荷物の荷解きを行い、私の後ろで急ぎ武装を開始する。

 

 なんという幸運なのだろうかと、私は自らの境遇に想いを馳せる。

 一度は失った命を再び手にしただけでなく、このような好機に恵まれるなど、普通では考えられない。

 戦術人形という不自由な身体に堕とされたと知ったときは、しばらくは欲求不満を解消出来ないとさえ覚悟していた。

 だが、実際はどうか。こんなにも早く、望んだ機会が巡ってくるとは。

 今この瞬間、世界の全てへの感謝で胸がいっぱいだった。あとはこの溢れんばかりの喜びを解き放つだけ。

 

「次の命令を、願います」

 

 その声に振り向けば、ボディアーマーに身を包んだサブリナがショットガンを携え、私の命令を待っている。

 堅牢なボディアーマーと稼働型シールド、防御機構を多数兼ね備えたその立ち姿に、頼もしさを実感する。個人携行火器程度であれば、彼女は難なく耐えきるだろう。

 

「行動開始だ。一つたりとて、くれてやる命はないということを教えてやろう」

「了解」

 

 私とサブリナは逃げる人々の流れに逆らって、幾つもの黒煙が上がっている現場へと向かう。

 これは戦術人形と化した私に許される数少ない快楽。有効かつ最大限に使わなければならないし、立ち回りには気を使わねばならない。

 だがそれでも、ほんの少し楽しんだところで、誰も咎めはしないはないだろう。

 

 

 

 

 

「っぅ―――何が、起きて……っ」

 

 身体が重い。素直に動かない。

 最後に覚えているのは凄まじい音で、そして熱と同時に襲いかかってくる衝撃。記憶はそこで途絶えていて、自分は気を失っていたのだと理解する。

 そこで何が起こったのかを思い出そうとして、自分に覆いかぶさってくる友人の姿が蘇る。

 

「そう、だ……ナターシャ……っ!」

 

 未だに頭は上手く回らず、身体も泥のように重い。爆発でやられたのか、音もろくに聞こえないし、視界もぼやけている。そんな状態でも、ナターシャか爆発から守ってくれたのだと言うことは理解できた。

 彼女のことを探さなければならない。拒む身体に鞭を打ち、震える両腕で支えながら上半身を起こそうとする。

 しかし、一際大き破片についた手がずるりと滑り、支えを失った上半身を打ち付けてしまう。

 その痛みで一瞬意識を失いかけるが、体の内側で反響するように残り続けている別の痛みが、意識を繋ぎ止めていた。

 起きなければ。起きてナターシャを探して、此処から逃げなければ――

 

「っぅ……!!」

 

 どうにか起き上がろうとして地面に手をつくが、また滑ってしまう。姿勢を保てない身体は重力に引っ張ぱられ、地面へと強かに叩き付けられる。

 なぜ、どうして、こんなに滑るのか。掌は確かに傷ついているが、感覚はある。ならば地面に原因があるのではないか――そんな思いで地面へと目を向ける。

 そして、そこに広がる光景を目の当たりにして、私は言葉を失った。

 

「あ……っぁ……」

 

 赤い。赤一面の大地がそこには広がっている。

 ただ一色に染めあげている染料の源泉が何なのか、否応もなく理解させられる。

 

「ぁ……、ああ……?」

 

 私の目の前で、力なく横たわっている友人の身体から、血が流れ出ていた。

 

「ナタ……シャ……ナターシャ……っ!!」

 

 這って身体を引きずりながら近付いて、ナターシャの身体に触れて呼びかける。しかし、答えてくれる気配はない。目を閉じたまま、ピクリとも動かない友人に必死に呼びかけ続ける。

 しかし、どうしようもできない無力感だけか広がっていく。

 

「っ……た、助けて……っ私の、友達が……!」

 

 視界の隅に入り込んだ人影にも、なりふり構わず助けを求めた。

 その人影はこちらを認めたのか、まっすぐ向かってくる。 

 助けが来たのだ。そう安堵したのは僅かな間で、近づいてくる影の輪郭がはっきりしてくるにつれ、人間から大きく外れた姿をしているのがわかってくる。

 2メートルほどの身体の材質は鋼鉄。各部は生命的な気配のない角ばったパーツで構成され、赤く光る単眼を頭部の中心に備えている。

 

「戦術、人形……?」

 

 形状には見覚えがあった。ナターシャが読んでいた雑誌に載っていたのを、見たことがある。

 古いタイプの軍の戦術人形で、確か既に退役が決まっているモデルだと、ナターシャは語っていた。

 何故、こんな場所に旧式の軍の人形がいるのか。

 軍の人形が何故、自分に銃口を向けているのか。

 

 ようやく機能を取り戻し始めていた私の耳が、周囲で起こる幾つもの発砲音と悲鳴を拾い上げたことで、その答えへと思い至った。

 

 何故かは知らないが、この旧式の軍用人形は暴走している。周囲ではこれと同じ人形による虐殺が行われているのだ――と。

 

 焦点を合わせるかのように、目の前の戦術人形はカメラのレンズを収縮させた。ほんの少し、銃口の向きが上にずれる。

 銃の経験なんて微塵もないが、直感的に、頭部を狙っているのだと理解できた。

 相手は機械だ。さぞ狙いは正確なのだろう。

 どうやったって逃げられない。一般人でしかない自分には振り下ろされる暴力に抗う術はない。

 

 だから、自分の背後から飛び出してきた何かが目の前の戦術人形に襲い掛かっても、見ている事しかできなかったのだ。




◎すぐわかる8話解
楽しい休日が吹き飛んだ(物理)
テロリスト「奴らに裁きを!」
AK-15「民間人保護!(対人戦闘ktkr)」
旧式軍用人形「排除、排除、排除」


やあ(´・ω・`)
評価とお気に入りが増えて嬉しい半面、遅筆なのを申し訳なく思う今日この頃。
月一更新くらいになってるけどペースを上げたい。

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