ヒヨコは卵から孵化したその瞬間、初めて見た物を親として認識する。別にそういう機能を持った生き物はおかしくない。母とは、親とは子に寄り添う者であり、共に成長する生き物なのだから。
その点、人間の場合は刷り込みと称したほうがより分かりやすい。己が親だと、家族であると、語り掛け続けるのだから。それは既に洗脳の域に達していてもおかしくはない。母であると父であると語り続け幼い子供はそれに決して疑問を抱くこともないので与えられた情報を飲み続けるだけでいい。
「美しい、なんと美しいだ我が子よ。どのような装いもまるでお前の為に用意されたようだ」
「ありがとうお父様、とても嬉しいわ」
はやくも疲労困憊、ゲシュタルト崩壊も崩壊どころか大暴落。囁かれる美しい美しい美しい美しいとそろそろ美しいとは何だと哲学的なところまでいきそうなスピードというかステップというか何が言いたいかと言うと逃げたい、もはやこれ以外言葉など浮かばない。
もの凄い勢いで洗脳してる。正直言ってキツい、同じ単語が右から左へ流されるけどこれは酷い。互いにSAN値削りあってない?
「女神の如き美しさ、お前は神が与えた私だけの女神なのだな。もっと私にその顔を見せておくれ」
限界が近い、この華奢な腕や脚で何が出来るか分からないけど色々と限界は近い。さっさと殺って逃げるか隙をみて逃げるか選択は2つ。今更道徳とか気にしてはいけない、美少女スキル「大抵の事は何をやっても優位に立てる」を執行すれば怖くはない。今の自分の考えに若干恐怖したがまぁ大丈夫。
「お父様、此処はどこ、私たちはどこにいるの?」
話を反らせ、少しでも情報を集めて現状をどうにかするのだ。
「あぁ、そうだね、光の入らないこんな地下では場所の特定も出来ないね。ここはヨルビアン大陸に位置する郊外の寂れた田舎さ」
ヨルビアン大陸、はて?どこかで聞いた様なそれとも似た何かか。
「大きな都市としてはやはりヨークシンシティだねぇ、若者の流行の最先端だろう。1年に1度大きなオークションも開催されている」
オークション、なるほどこれだけでは全く場所も時代も大まかにしか掴めない。あまり掘り下げて聞いて不審に思われたら元も無い。困ったなぁ。
「昔ほど戦争や希少民族の虐殺が少なくなったとはいえ、今でも命をかける馬鹿共はいるものだ。ハンターになる為のライセンスの取得でさえ命懸けなんぞ何を考えているんだか」
「ハンター・・・・」
何やら嫌な予感がする。身体が、心が、それを考えてはいけないと危険信号を発する様に。少ない情報とジジイの世間話、ハンターという強烈な単語から導き出される答え。ヨルビアン大陸にヨークシンシティ、そしてハンター。成程、全て繋げれば辻褄が合わないこともない。
「あぁもうこんな時間だ、すまないね我が子よ、私は少し出掛けなければ。仕事なんだ、帰りは遅くなるから家で待っていなさい。しっかりご飯を食べて睡眠をとるんだよ」
「わかったわ、お父様。行ってらっしゃい」
「いってくるよ」
おそらく地上へ通じる扉から出る父。施錠の音は特になく、コツコツと革靴を響かせながら足音は遠ざかる。逃げる時間は十分にあるし、暫くのんびりしてもいいぐらいだ。しかしながら私は脱力し両手を床につけ疲れたように声を絞り出す。
「HUNTER×HUNTERとか、転生トリップとか、そこは神様からの説明があるんじゃないんですかー!!!」
神は死んだ、まさに、私の中の神は既に死んでいたのである。