それはフラスコから生まれた   作:危険信号

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もう少しズルズル主人公ターンを伸ばしたかったのですがいい加減誰かを登場させようということでクロロターン入りマース




この世で最も美しいものは

男の名前はクロロ=ルシルフル、職業「盗賊」その危険度はA、幻影旅団、通称クモと称され人々に恐れられている。行ってきた残虐無慈悲は両手で足りないほど、しかし極たまに慈善活動もしているという噂も。総合的に考えれば行き着く先は結局同じ、ネジの飛んだやばい奴らである。

そのクモの中でもトップに君臨するのが上記の男だ。眉目秀麗であり頭脳明晰、冷酷さも持ち合わせカリスマEXも伊達ではない。天に二物も三物も与えられた女性の理想の男性図である。しかし、この男、決して暖かな家庭で育ったのではない。世界から存在しないと明記されている街「流星街」でその幼少期を過ごしたのである。ガラクタが山の如く積み上げられたそこで泥水を啜り腐りかけのパンを食み、仲間達で身を寄せ合い寒さをしのぎ、1日の生きるのが精一杯なそこで生きてきた。奪い奪われ、子供ながらに彼はこの世の理不尽に嘆き、苦しんだ。空は排気ガスで覆われ流星なんぞ見たこともなくそれでもここは流星街。降り注ぐガラクタが流星なのかと皮肉げに呟いた。ならば己達の手で世界を変えようと、存在を主張しようと立ち上げたクモは瞬く間に人々に認知された。存在しない街で生まれた存在しない自分達、未来は簡単に切り開けたのだ。

狙う獲物は美術品や骨董品、希少民族の人体や古書。一通り愛でれば売っぱらってしまう。それなりに目利きも良いので基本美しいものに目がない。女性経験も豊富であちらからふらふらと寄ってくるのでそういう事には困らない。しかし、女性に対して美しいだの綺麗だの、そういった認識は低いので1度抱いた女を一々覚えたりしない。彼の美的感覚は全て盗品にしか向かないのだ。

 

しかし彼は真に美しいものを見つけた。とある繁華街、日も沈みかけた夕方、帰宅ラッシュに差し掛かり人通りはやけに混む。立ち止まったりウロウロしている人間は基本的に邪魔であり、目だけで文句を言う者、そくさくと通り過ぎる者、わざとぶつかり喧嘩を売る者と三者三様である。相手にどのような対応をされてもクロロの目には1点しか映らない。そこだけ切り取られた、空間が別に存在する様に、思わず誰もが1度足を止め魅入ってしまい、決して踏み入る事の出来ない聖域に目を向け、諦めたように帰路につく。声をかけることすらはばかられる。自分の容姿は自他共に認めるほど整い、羨ましがられるが彼女はそもそも次元が違う。美しさとは、人の求める美とは、それらを詰め込み具現化した、神が造り上げた人形のように、陳腐な言葉で言い表せないほど少女は美しいのだ。

 

「・・・美しい」

 

恍惚とした甘い声がよもや自分の口からでようとはクロロさえも気付かなかった。視線の先にいた少女とパチリと、目が、合った。

頭の中の何かが弾かれ、脳より先に身体が動いた。少女と目を合わせたまま距離を縮め、迫り、逃げられない様に腕を掴み、人生で初のナンパを試みた。

 

「あの、どこかでお茶でもどうかな」

 

今時のナンパ師でも使わない古臭いセリフに言った本人が自分を殴りたくなるがとにかく目の前の少女をどうにか逃がさないようにするのが現時点での最優先事項である。

 

少女が地上に出てきたのは約1時間前、脱出を決意したのは2時間前であった。クロロがぐうたら古書を読みふけていた2時間前、少女は戦慄していた。犯人の犯行現場を偶然目撃してしまったかのような、そんな気分で。

モブの生死が極めて危険な世界、HUNTER×HUNTERと分かった少女はここに留まるか思い切って外に飛び出すか究極の2択に迫られていた。地下に備えられている本を熟読し食事を済ませ、考え込んでいた。衣食住が完璧に揃った自宅(仮)しかしSAN値をゴリゴリ削られるジジイの相手をする生活or身一つで飛び出し宛もなくさ迷うしかしSAN値は削られない若干精神を取り戻す生活、で悩みに悩んでいた。

実際に一日平均何人死んでいるんだろう、某暗殺一家に盗賊集団、バトルマニアなイケメンピエロに世に蔓延るハンター達。可笑しい、もう詰んでる。美しさで生き残る時代は終わった、私完全にカモネギじゃん。鍋もカセットコンロも持参してるよ。捕まれば奴隷市場に配達のちにお先真っ暗な人生、転生特典に最強とか付属してないかな、大抵の夢女はそれがあるから乗り切ってんだよ!!

パラパラっと流して読んだだけだから大まかな設定とかキャラしか知らないし時系列も詳しくない、最終的に暗黒大陸がどうとか。もっと働け私の脳みそ。まぁざっくり考えれば顔の整ってるやつは主要キャラ、これで乗り切ろう。ともかく部屋の探索をさっさとすませて・・

 

ガチャん!!

 

「おや・・閉まってる」

 

鍵の掛かっている少々分厚い扉。いかにも秘密が詰まっていますよと激しく主張する扉を少女は、

 

「さまざまな知識を取り入れたのがアダとなったな、ピッキングなんて朝飯前よ」

 

この数時間で大変強くなられた。自室(仮)からヘアピンを持ち出し頭の中に詰め込まれている知識からピッキングを披露。カチャカチャと弄くり回す事1分でカチャリと呆気なく解錠した。

 

「女スパイみたいでドキドキするね」

 

宝探しをしている子供の気持ちが分かる、そう考えて扉をゆっくり開ける。何があるのだろうか、ドキドキする胸を抑え中を覗き込む。現実はしかし、残酷であった。

 

中は薄暗くけれど光が無かった訳では無い。どこか見覚えがある。ここは、

 

「私が生まれた、私を造った装置・・?」

 

目についたのは空っぽの大きなビーカー、そして並ぶ同じ機械。中を満たしているおそらく培養液の色は赤で確かに自分もこの中に入っていた。ということは、ここに入っている子達は

 

「顔は似てるけど別人、妹や弟達」

 

白髪の子供達、目を閉じているから分からないけどおそらく瞳は赤眼だろう。なんとも多い、軽く30人はいるぞ。生まれる度にあのリアクションは疲れる。

一通り眺めて奥に進む。少し薄暗いけど目は慣れてきているから問題ない。子供達の装置も中を照らしているので部屋に何が置いてあるかは大抵見える。しかし部屋の奥、薄暗くて見えにくいが小さな山が出来ている。2、3個はある。書類か機械か、それにしては一つ一つの山が大きい。近づくにつれ正体がわかった。

 

「ひっ!!」

 

腕や足、はたまた頭や胴体、人であった。もっと詳しく言えば、おそらく姉や兄、失敗作のホムンクルス。服を着ている者もいれば裸体のまま、足が無い手が無い頭が無い。色んな死体が積み重なっていた。開きっぱなしの瞳と同じ赤が、紅が、あるいは変色した黒が兄弟達に降り注いでいた。

自分が初めての成功作では無い、服を着るところまでクリアしている子を見るに、おそらくどこかで父の機嫌を損ねた、あるいは欠陥があった。ここにいても安全では無い、最後の審判を下すのが父である限り、自分は量産されている人形のうちの1つに過ぎないのだから。ならば私の答えは既に決まっている。

 

「逃げなくちゃ、ここから」

 

自我が成立する前に死んだのであろう兄弟達の顔に恐怖は無かった。けれど、勝手に造られ造作もなく終わってしまう未来など耐えられない。

逃げよう、この世界に産まれたのならば、命が燃え尽きるその瞬間まであの男から逃げなければ!!

 

逃げる準備に少々手間取り1時間かけて外へ飛び出し、電車に揺られること1時間、繁華街に足を踏み入れクロロにナンパされているのが現在、紙の向こうにいたキャラクターとまさかここで相見えるとは夢にも思っていなかった少女は極度の急激なストレス、紫外線、人酔いに倒れた。

 

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