唯一の心残りと言えば、残してきた妹や弟達だ。積み上げられた兄や姉の仲間入りか、父のご機嫌取りか、逃げ出すか、私の様に自我の成立が早ければ発狂する場合もある。逃げた私の寿命さえも長くて3年、短くて2年とちょっと。行き着く先は変わらない、私達は生まれたその瞬間からあの男に囚われているのだから。
最後の記憶は男だ。ファーストネームしか知らないがクロロ、ファミリーネームはやけに長く噛みそうな名前だった気がする。私のポンコツな脳みその中にいる辛うじて覚えていた男の名前。ところでここはどこだろう、
「あぁ、目が覚めたね。医者を呼んでくるから待ってて」
クロロはいた!が、すぐに消えた。清潔そうな白いベッドに白い壁、窓から零れる陽射しは生まれたばかりの私の肌には刺激が強い。真四角な部屋には均等に並べられたベッドが幾つか。謎は呆気なく解ける
「病院かぁ・・・」
医者を呼んでくると彼は言っていたのだからそれで察せない奴はいないだろう。最後の記憶はあやふやだが凄く気持ち悪かった。足取りはふわふわしていたし太陽がやけに眩しかった、おまけに人はめちゃくちゃいるし一人ひとりの視線もギラギラしていて吐きそうで、紙の向こうにいたイケメンにまさか声を掛けられるとは思ってもいなかったからパニックで、そんで倒れた。
私の身体は思ったより繊細で弱い。強く生きよう、皆使ってるあの不思議パワーをどうにか習得して。
「気分はどうだい、お嬢さん。軽い貧血と日射病だと思うんだけど倒れた時のことは覚えてる?」
「はいドクター、しっかり覚えています」
「肌が極度に日に弱いね、夕方であっても長い外出はおすすめしないね。特に昼間の外出は控えた方がいいよ」
「ご忠告ありがとうございます」
予想はしていたけど思ったよりキツイな、私の身体繊細過ぎる。
「ここにいる彼が運んでくれたんだ、今日はもう暗いし一日泊まっていきなさい」
それじゃあ私はこれで、そう言い終わると案外呆気なく病室を後にした。クロロと2人は気まずい、しかもめっちゃニコニコしてるし何がそんなに楽しいのだろう。もっと冷酷無慈悲かと思ったが私の記憶違いなのか。
「急に声を掛けてごめんね、でも何だか放っておけなくて。俺はクロロ、君は?」
「ありがとうクロロ、ビックリさせてごめんなさい私は・・・?」
名前、名前、私の名前。そういえば、我が子我が子と壊れたカセットテープ並に繰り返していたあの男から私の名前は1度も出されていない。おっと、名前が、無い!!
「・・・ごめんなさい、私に名前は無いの」
「・・・は・・・・え?」
可哀想に、目の前の男は人間の言葉を忘れてしまったようだ。衝撃を与えたのはこちらなので仕方ない、なんとか上手くフォローを
「名前を貰う前に逃げてきたというか、つい数時間前に生まれたというか、記憶喪失とかではなく本当にただ名前が無いだけという訳で」
少々SFっぽくなってきた。普通の人間じゃありえないことまで口走ってしまったが聞こえていないことを祈ろう。
「ちょっと待って、つまり君は既に完成された少女の姿で産まれて名前を与えられる前にそこから逃げてきて俺と出会ったと」
なんて優秀な頭脳、私の情報を繋ぎ合わせかつ分かりやすく翻訳してきた。生まれたてほやほやな私への配慮かな、大変ありがとうございます。出来ればこのまま見逃してくれないかなァ。
「ただの美少女の言葉を鵜呑みにするんですか、嘘をついてるかもしれませんよ」
「この世には人が感知出来ないことも沢山あるんだ、俺はそれを見てきたし体験してる。今更人は造れるといっても不思議には思わないよ。確かに自他共に認める美しさだね、全然嫌味たらしくない」
「生まれた途端、1分に1度は囁かれてましたから」
もはやSAN値/zeroの狂人と言われても可笑しくない。直葬されてしまいなさい。
「行く宛とかあるの、お金や寝床は?」
外出に手間取ったのはそこが問題、まずお金。家の中をひっくり返す勢いで探して見つけた数枚のお札。会話が難なくこなせているということは、こちらの世界の生活や言葉を脳が正常に理解しているとみている。前世の記憶はもはやおまけ、ポケットにねじ込んでいる金額はざっと10万ジェニー。お金の計算も自然と出来るのでこれからの生活に支障はない。次に寝床。ホテルを練り歩くにしろ1週間も持たない。家を借りるにしろ持っているお金では足りない。働くという手段もあるが戸籍も無いし経歴を偽るのも苦労する。最後に行く宛、あるわけが無い。知り合いは父ただ1人、私を知っているのは父だけで私はそこから逃げてきた。お先真っ暗ではあるが上手く逃げる事も出来たし何とかなるだろう。1人で自己解決していたらクロロが話しかけてきた。
「良かったら俺が君の面倒を見ようか?」
「・・・・・・・」
落ち着け私、相手は危険度EXの冷酷無慈悲なクロロ団長。ボランティア精神など欠片も持ち合わせていないはず、美少女に目が眩むのは仕方ないが私は「人」ではない。さっき説明したし本人もしっかり理解している、ならば利用価値か、貧弱な私にハニートラップでもさせる気か、わからない!!
「まあ、警戒するよね。でもこれは紛れもない俺の本心だし、美しい少女に心を射貫かれた哀れな男と思ってくれて構わない」
構うんです。貴方が危険な人だと私は知っています。
「興味があるんだ。君が倒れた後、俺の他にも何人か手を貸してくれた人がいてね、近くの病院が、自分の家の主治医が、とにかく沢山いてね、俺はビックリして暫く動けなくて男が1人、君に触れたんだ」
途端に雷が降ってきてね
「・・・カミナリ?」
空から降ってくるあのイナズマが、あの夕暮れに、降ってきた?
「もちろん空は晴れてたし夕暮れ、雷雲も無ければ雨も降ってなかった。けれど狙ったように男に直撃、黒焦げだよ」
辺りは騒然としたけど何人かは君から目を離さなくてね、合計で5人くらいかな、夕暮れの雷で死んだのは。
ワクワクしたような、楽しそうな顔で私を見つめるこの男は表情で語っている、お前が何かしたのかと。それが私のチート能力だとしたら発動条件が分からない。相手が男は除外、倒れる前にクロロに腕を掴まれた。倒れたから、これがしっくりくる。意識の無いうちは相手が誰であろうと攻撃、では私を運んだクロロは何故無事なのか。相手を選んだ、ストーリーに欠かせないキャラは除外?一理ある、けど説明出来ない。
「俺以外でも死んでないヤツらはいるよ、君を助けようとして触れた人達、男も女も関係無く。それと眠っている間少し実験させてもらった、これなんだと思う?」
手に持っているのはひしゃげたボールペンと思しきもの。
「これで君を刺そうとした」
!?
「雷を危惧して投げたんだよ、そしたら、見えない何かに阻まれてね」
ボールペンはこの有様
「つまり君の絶対的な防御壁の発動は君に対する直接的な害意や敵意、それらに対して裁きを下す」
「死んだ男は下心とかそう言ったのだろうね、美しい君を助けたふりして連れ込んで色々と・・」
念とはまた別の未知なる存在、ここで逃したくはない。クロロは目下この少女を如何にするか、考えていた。少女が持つのは絶対的な防御力、害あるモノを容赦なく殺戮するその力は強大かつ恐ろしい。
「・・・私の寿命は3年余り、衣食住の提供に、退屈は無く刺激と楽しみを私にくださいますか?」
これは一種の賭けである。この物語の流れなど分からない、けれど産まれたからには世界の夢女が羨むような未来をこの手に!!大丈夫、何とかなるよ!
少女はお察しの通り少々理性が蒸発していた
「俺はクロロ=ルシルフル、職業は盗賊で世界に名が知られているほど有名なんだよ」
「私は生後数時間のホムンクルス、フラスコベイビーとも呼ばれます。生まれながらに知識を持った者です」
生まれながらに不思議な力、絶対的な防御力を持つホムンクルスの新たなる人生の爆誕である!!!
ホムンクルスは皆何かしら不思議な力を持っているという暖かい目でご覧下さい。主人公な防御力を持っていますがチートではありません