誤っても私を人と認識してはいけない。
造られたモノ、創作物、短命なる運命、決して子を成すことの出来ない不完全なモノ、備え付けられた感情。全てを生まれる前に揃えられ、遺伝子を組み換えられ、出来上がったのが私たちホムンクルスなのだ。身体は1週間で幼体まで成長し、その急激な成長に伴い寿命を持っていかれる。私たちを造って何をしようとしていたのかは分からないがあのジジイの様子を見るかぎり人類の為だの世界の為だのと建前を用意して碌でもない方法に使うに違いない。しかし皮肉な事に結果論であるのだが
「お腹は空くの?」
「えぇ、生きていますから」
クロロに拾われ一日が過ぎた。結局あの後クロロは私を担ぎ上げ病院を後にし、煌びやかな洋装のホテルへ移動した。素人目から見ても超が付くほど高級なのはわかった、初めての体験に物置のごとく固まった。解凍したのは部屋に着いてすぐクロロが私を下ろし好きにくつろいでと言ってくれたからだろう。キラキラして高級リゾートの内装な部屋にちょっとはしゃいだ。
ベッドに突っ伏した後の記憶が無いのはすぐに寝落ちしてしまったから。気が付けば日は昇っており大きな窓から見える外の景色にポカーンとしてしまった。ダイニングルームを見てみればクロロが優雅にコーヒーを飲んでいるではないか、イケメンは何をしても絵になる。
「起きたんだね、一緒に朝食でもどう?」
という訳で冒頭に戻る。
「好きな食べ物とかはある?」
「いえ、目覚めてから食事をとったことはないのでなんとも言えませんね」
つやつやと輝いているフルーツに焼きたてのパン達、ゼリーやヨーグルトにスムージー、机の上に並べられた朝食達。
ちょっと量が多すぎではと思うほど敷き詰められている。クロロは気にせずパンに手を伸ばしている。私は目の前に置かれているゼリーを手にとった。
ふむふむ、なるほど
「・・・・美味しい?」
「はい、少なくとも味覚はしっかりと機能しています」
クロロは何か言いたげな顔で私に聞いてきた、何かおかしかっただろうか?一通り食して分かったことは、肉体の維持に食事は必要だけれど私の身体に食べ物を美味しいと感じる味覚が人より劣っているといったところだろう。病院食ってこんな感じなんだろうなー、食べた事ないけど。
「敬語なんて使わなくてもいいよ、いい所のお嬢様風に見えるけど俺から見れば違和感半端ないよ」
この男、さてはメンタリストか。本性出せやゴラァという意味で間違えはないはず。
「なら聞くけど、どうして私を拾ってくれたの。慈善活動、そういうのが似合う人ではないでしょう、そっちこそ化けの皮剥いだらどうなの」
ニコニコ笑顔は崩れない。
「俺さ、珍しい物とか、希少な物、特別な物が好きなんだよね
「盗賊やってそういうもの沢山盗んで来たよ
「盗んで愛でて、飽きたら売る。何年も繰り返してきたよ
「だけど満たされなかった
「普通の家庭で育たなかった俺は他人と少しズレているんだよ
「心のどこかで俺の中を満たす何かを探してた
「君を見た時、欲しいと思ったんだ
「今までの比ではないくらい、君の事がね
「今回はちょっとした実験みたいなものかな
「君が俺の心を満たすのが先か、
「俺が君に飽きて売り払うのが先か
「精々飽きられない様に頑張ってね」
そう締めくくるとクロロは携帯を片手に電話してくると言って部屋から出ていった。馬鹿みたいにダラダラとクロロの心境を話された私はふと、あのジジイを思い出した。
何かを追い求め
つまり
「人は結局、同じね。」
少なくとも私は思い通りにはなってやらない。1度死を垣間見た私に怖いものなどない、足掻く?笑止、それはお前たちの方だ!
この時代のホムンクルスになにが出来るか分からないけど次はクロロの元からの脱出、これはそこまで難しくはない。
幸せな毎日を享受して3年後ポックリ逝くなんて駄作にも程がある!読者が喜ぶどころか短編小説にもならない。原作なんて知るもんか、私が生まれてきたからにはここは私の世界。独自解釈、原作崩壊大いに結構。
面白可笑しく世界中を引っ掻き回してやる!
「お待たせ、とりあえず仲間と合流したいからここ、か、ら・・」
半分以上残されたフルーツやパン、雲一つ無い晴天に冷たい風。開かれた窓にクロロが持ち合わせていた鞄が消えている。
逃げた・・・!
「あいつ!!」
窓に駆け寄るがこの部屋は最上階、下は見えても肉眼でハッキリと目視は出来ない。彼女の能力を考えれば命綱無しのバンジージャンプも恐らく可能。あらゆる危険を喪失させる能力、まさかここで逃げられるとは
「・・・・狙った獲物を逃したことはないのでね、絶対に捕まえる」
部屋から飛び出しホテルを後にする。あれだけの容姿、逃げたとしても顔を隠さない限り目撃者は多いはず。
窓から逃げたという固定概念にクロロはまんまとハマってしまった。冷静になり、部屋の中を捜索すれば、こういう事態にはならなかっただろう。いない相手をどれだけ探しても見つかるわけがない、少女はまだホテルのバスルームに隠れていたのだ。
「・・・よし、取り敢えず今日1日はここにいよう」
結局1日中近くの街を探し周り、気付いた時にはホテルはもぬけの殻、しかしこれがきっかけでクロロの逃げた少女への執着は年々強まり少女はそれに気付かず再会した1年半後、かなりの波乱を巻き起こす事になる。
クロロはヨークシンまでお留守番