ナザリックの黄金赤竜   作:ざらつきサムライ

1 / 3
行きて帰れない転移

一世を風靡した体感型ゲームの名をDMMO-RPG、ユグドラシルといいます。

基本の職業は2000以上で、

課金をしデータクリスタルをぶち込めば装備の見た目も自由自在に変わります。

凄まじい自由度を誇るゲームなのですが、

このゲーム、運営がとち狂うことが稀によくあるのです。

某虫ライダーとコラボしてみたり、某変形機械巨人アニメとコラボしてみたり、

古今東西和洋問わず節操なくコラボしまくることはこの界隈ではよくあることでした。

 

2130年に昔の映画スター、ブルー◯・リーの生誕190年記念という

明らかにスタッフの個人的趣向が含まれた祭典を催して、

〝燃えてろよドラゴン祭り〟という奇祭(イベント)を開始したことがあります。

プレイヤー種族に1週間だけドラゴンを選ぶことができたのです。

 

異形種のみの社会人ギルド、

アインズ・ウール・ゴウンの一人である彼はドラゴンが好きでした。大好きでした。

当然、彼はそのイベントでドラゴンとなりました。

ギルドの同士、たっち・みーの作ったNPC、セバス・チャンのような竜人ではなく…、

本当のレイドボス染みた巨大なザ・ドラゴンにです。

200年近い歴史を持ち、

世界的最高峰の知名度を誇るファンタジー小説中の竜の中の竜にあやかり、

プレイヤーネームを「スマウグ」にした程度にはドラゴンを愛していたのです。

ゲーム内で誰にもまだこの名が使われていないのは

奇跡だとすら思えたぐらいには有名なドラゴンです。

彼の中で伝説的なドラゴンネーム、シューティングスターやアンヘル、

シェンロンやシャンマやフラミー、アルドゥイン…

ニコル・ボーラス以上のレジェンドだったスマウグの名を拝借するのには

ちょっとした葛藤があったようですが、

 

「まぁグラウルングやアンカラゴンを名乗るよりは許される行為だろう…」

 

結局、伝説の竜の名を名乗りたいという欲求には勝てなかった彼なのでした。

そして彼はドラゴン種を選択しました。意気揚々とプレイを開始します。

スマウグの名を名乗れた以上、彼は身も心もスマウグ的に生きよう(ロールプレイ)と決意しました。

ドラゴンは男のロマンなのです。

燃えてろよドラゴン祭りによってドラゴンになったプレイヤーは彼以外にも多くいました。

その威風堂々たる巨体は山のよう。

巨体に恥じぬとんでもない体力は大地のよう。

竜の鱗の防御力はこの世のどんな尊い金属よりも強靭です。

理不尽な範囲と威力を誇るブレスも、それはそれは恐ろしいものでした。

様々な独自スキルと合わさって正に公式チートといえる様相を呈していました。

 

「育てきったらワールドチャンピオン級が量産されるのでは」

 

当初はそう騒がれてドラゴン種で作り直すプレイヤーまで大量に出た始末です。

だが、やはりというか何と言うか……、

 

――それは運営の罠だったのです。

 

皆のプレイ経験が溜まれば溜まるほど、

どうあがいても絶望的な欠点だらけだったのが発覚したのです。

例を出すと…、

 

◯部位防御力、部位ダメージが設定されており、

 腹へ攻撃された時50%の確率で防御無視&ダメージ30倍。

 しかも当たり判定が異様に広い。

◯体がでかすぎて建物に入れない。

◯体がでかすぎて殆どのダンジョンにも入れない。

◯装備が殆ど対応してない。異形種装備すら殆どダメ。

◯腹の防御力が異常に低い。

◯異形種なので当然、町にも制限がかかる。

◯拠点にすらサイズ制限がかかり、ドラゴン種が入れる部屋を作ろうとすると重課金必須。

○異形種のうえにデカイので異形種狩りの標的にされやすい。

◯フィールドで戦うしか能がない。

◯とにかく腹が柔らかい。

◯巨体だからあっさりと弱点の腹に潜り込まれる。

◯巨体なのでヘイト獲得率上昇がすごい。

◯じゃあタンクとして優秀かと思ったら、 腹に一撃もらって一発昇天。

◯ドラゴン種プレイヤー8人なら大丈夫だろうと思ったら

 スナイパー20人に弱点の腹を狙撃されてあっさり死んだ。

◯ギルド拠点から徒歩1分のフィールド上でドラゴンが腹から血を流して死んでいた。

◯足元がぐにゃりとしたので草をどけてみたら腹に大穴が空いたドラゴンの死体だった。

◯「そんな弱いわけがない」と出ていったドラゴンが5分後血まみれの腹で戻ってきた。

◯拠点から半径200mはPKされる確率が150%。

 一度襲われてまた襲われる確率が50%の意味。

◯燃えてろよドラゴンイベント期間中のユグドラシルにおけるPK数は1日平均12000人。

 うち約8000人がドラゴン種。

○とんでもなく腹が柔らかい。

◯そもそもこのイベントにブ◯ース・リー要素が皆無。

 

などなど…次から次に問題点が浮かんでくるのでした。

爪と牙、ブレスの超火力……

腹以外を覆う鱗の超防御……

並の近接系の10倍以上の体力……

『モルゴスの加護』という特殊スキルで

魔法も90%カットし状態異常は睡眠と狂乱以外無効……

それらの利点をブッチギリで消し去る、

とんでもない柔らかプニョプニョ腹とサイズ制限がありました。

戦闘では確かに断トツの強さでした。

腹さえ殴られなければワールドチャンピオンにだって勝てるでしょう。

だけど、腹を物理で殴られるともうダメでした。

魔法職でさえ、

 

「ドラゴンは腹に潜り込んで殴ればOK」

 

と言い出したくらいです。

しかもデカイので遠距離からだって簡単に当てられてしまうのです。

腹への遠距離からの物理攻撃で超あっさりとハメ殺される為、弓兵は天敵でした。

ナザリックの爆撃の翼王曰く、

 

「ただのカカシですな」

 

とのことでした。

身動きの取れない狭い所では先述の通り魔法職にさえ腹を殴られ負けてしまうので、

広いフィールドで戦うことこそがドラゴンの天分でした。

ですが広いフィールドということは視界が開けているということで、

そういう場では天敵の弓兵も真価を発揮してしまいます。 

七面鳥撃ちの如く、ドラゴンは面白いようにポロポロ撃墜されるのでした。

 

「もうホントに何なのコイツ、只の的じゃん」

 

「どう見ても運営の罠です。本当にありがとうございました」

 

「これはドラゴンじゃない。ドラゴンの姿をした何か別の雑魚」

 

ユグドラシルの攻略系ウェブ掲示板はそんなコメントで埋まりました。

そんなわけで、一ヶ月も経った時…残ったドラゴン種プレイヤーは

もはやいないと言っても過言ではありません。

おじいちゃんおばあちゃんの歯が欠けるように

ボロボロとドラゴンは廃れて姿を消していったのです。

 

 

 

 

 

 

そんなロマン種族ドラゴンを頑なに貫き続け罠を踏み抜き続けたプレイヤー(ばか)こそが彼です。

ユグドラシル最後のドラゴンプレイヤー、

トカゲ希少種、保護指定巨大トカゲ、天然記念物ドラゴン、

アインズ・ウール・ゴウンの変態(マゾ)ドラゴンとは何を隠そう彼のこと…。

ドラゴンプレイヤーが空を飛ぶ光景が余りにも珍しくなったので、

彼が飛ぶとPKプレイヤーですら生暖かい目で見ることが多い程でした。

そんな彼と、ぶっ飛んだ社会人が集う変態ギルドとスマウグの相性はバッチリだったようです。

 

「この哀れなミミズ蜥蜴を最強のドラゴンにしようぜ」

 

ギルドの誰かがそう言いました。

たぶん、悪ノリさせたら世界一の腐れゴーレムクラフターだったと思います。

その日からアインズ・ウール・ゴウン総出で空飛ぶオオトカゲ強化作戦は始まったのでした。

アインズ・ウール・ゴウンは反骨精神を持った悪乗り好きなお子様精神を持つ大人達で、

それはある意味で運営への反逆で彼らの嗜好に甚く合致した行為だったのです。

運営が設定したどう見ても地雷なロマン生物を、その見た目の威容通りの暴君と成す為に。

その日から地道な反逆作業は始まりました。

 

部位ダメージがあるドラゴン種はプレイヤー本人のリアルスキルが重要と判明し、

腹を地面に擦り付けるようにズリズリと移動するプレイングが大事とピンクの肉棒粘液が言い出しました。

竜は空を飛んではいけなかったのです。飛べば自然と弱点の腹が晒されるのですから。

スマウグは、

 

「こんなのドラゴンじゃないわ!羽の付いたトカゲよ!」

 

飛べない竜なんてただの豚だと思いつめ女言葉で泣いて抗議しましたが、

飛べないドラゴンに価値がないなどと言った彼は偉大なる祖龍グラウルングに食いちぎられるでしょう。

それは置いておくとしても、

 

「ダメだ」

 

ビルドアップに対しては妥協はないたっち・みーにニベもなく断られ、

 

「時間がもったいないっ!今日中にあと20周グレンデラ沼地ランだよ!

 そんなプレイングじゃとても最強になれないぞ!」

 

半魔巨人(ネフィリム)のやまいこが尻をムチで叩いてきます。

その日の夜、スマウグは涙に暮れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

スマウグが腹ズリ歩法をマスターしつつあったある日、

 

「おい、ドラゴンに装備できるアイテム見つけたぞ!」

 

円卓に踊るように駆け込んできた腐れゴーレムクラフターがはしゃいでいました。

 

「なんだと!」

 

「どういうことだるし★ふぁー!」

 

円卓の椅子でだらだらと座っていた誰かと誰かがわざとらしく驚きます。

 

「なんとドラゴン種は、金貨とか宝石とかを装備できたんだ!

 奴の名前の元ネタ由来の装備理由だったんだよ!

 コンソール合わせてみろ!投入金額を指定できるぞ!

 さぁ全財産注ぎ込め哀れな蚯蚓ドラゴン!」

 

おお!と同部屋で雑談をしていた骸骨なギルドリーダーが喜びの声をあげました。

ギルメンのスマウグが熱く語っていた指輪物語シリーズのドラゴン。

確かに彼の名の由来のその竜は、

貯め込んだ黄金や宝石を腹にこびりつかせて宝石の鎧を着込んでいました。

運営もどうやら指輪物語の世界が好きだったようです。

そもそもスキルに『モルゴスの加護』などというものがあることからして可笑しな話しです。

ブルー◯・リー生誕記念で開かれたはずのイベントだったのにどういうことでしょう。

トールキ○財団とは話がついているのでしょうか。

まぁ2138年現在、著作権保護の問題は無いでしょうが、

それはともかくとして運営の脳みそ内を知る者は誰もいませんでした。

 

「金貨と宝石を溶かして腹に塗りたくる感じで装備できたな!

 ちょろまかしたレア鉱物も溶かして装備させたから

 腹周りのディフェンスがそれはもうすごいことになってるぞ!

 あっ」

 

「おい、待て」

 

聞き流せないるし★ふぁーの一言に対し、

温厚なモモンガが素の声とテンションで突っ込んでいました。

その日、ギルドの素材庫から幾らか紛失していた希少素材について…、

るし★ふぁーを白洲に晒しての弾劾裁判が開かれたのは言うまでもありません。

 

 

 

 

 

 

「やっぱさー、モモンガさん。 ドラゴンってかっこよいよなぁ。

 控えめに言ってもるし★ふぁーさんのゴーレム以上の造形美だよなぁ。

 はぁーー雌ドラゴンに種付けしたい」

 

「スマウグさんのドラゴンフリークっぷりがたまに怖い!」

 

「かつて合衆国で流行ってしまったというドラゴンカーセックス道……。

 お前ならきっと復活させられる」

 

「ケモノ……くっ…このペロロンチーノの(せいへき)を持ってしても

 純粋な爬虫類で我が股ぐらをいきり立たせるのは難しいか…!」

 

スマウグを評するは上からモモンガ、ウルベルト、ペロロンチーノです。

巨体で、様々な建物制限を喰らうスマウグの為に造られた

大きな大きな、もはや個人部屋とは言えそうもないぐらい広い個人部屋…

『スマウグの荒らし場』で在りし日の彼らは管を巻いていました。

ギルドメンバーのプライベート空間が集結した第9層ですが、

巨体のスマウグの為に8層と9層の間に彼の個人部屋は特別に造られていました。

第8.5階層とでも言ったほうがいいぐらい広い個人部屋です。

スマウグの荒らし場と名付けられてはいましたが、

そこは実際にははなれ山の『山の下の王国』の宝物庫のようになっておりました。

竜はもちろん、巨人や戦略級攻城ゴーレムまで自由に闊歩できるほどの広大さで、

うず高く積まれた金貨の山と財宝の海もあいまって

ナザリックのもう一つの宝物殿とでも言うべき有様でした。

 

「ちょっとちょっと。人を人間を愛せない異常性愛者みたいに言わないで下さいよ!

 俺は人も獣もモンスターも、エロカワイイ雌は全て性対象だよ!」

 

「あんたいきなり何言ってんだ!」

 

モモンガの骸骨顔の横に

叫びの表情アイコンが浮かんでは消え浮かんでは消え…をしています。

 

「モモンガさん、こんな変態は放っておいて円卓いきましょ。

 このデカブツ変態野郎が!エレボールで封印されてろ!」

 

羽毛ふさふさのバードマン…ペロロンチーノが、

ユグドラシル金貨の山の上に寝そべるドラゴンに吐き捨てるように言いますが、

 

「おお、ペロロンチーノ!

 紳士を気取る変態バードマンよ…

 茶釜さんにこの前の会話のボイスデータを提出してもいいんだぞ」

 

「はっはっはっ!ぼかぁね、そういう友達の心にダメージを与える行為を良しとはしない。

 ぼくら同好の士じゃん………ケモノもロリもおっぱいも尻も全ては等しく愛されるべきだ!

 無機物だって愛してみせよう!友の為に!」

 

熱い掌返しです。

横でモモンガとウルベルトが「えー…」という顔をしていました。

 

「ペロロンチーノ…スマウグ…君らの会話を聞いていると、

 明日にでもお前らアカウント停止になって会えなくなるんじゃないかと常々不安になるぞ」

 

ウルベルトが何故か笑顔アイコンを振りまいてそう言いました。

その笑顔はまるで「さっさと垢バンくらえ」と言っているようにも見えます。

 

「はーー、なんかさー、俺のベッド(黄金の山)拡張したいんだよなぁ。

 金集めを手伝ってくれるバードマンどっかにいねぇかなぁ」

 

「ここにいるぞ!」

 

友よ!と叫びつつペロロンチーノが弓を高々と掲げている姿はとても猛々しくみえます。

色々な意味で清々しい友情なのです。打算ともいいます。

 

「ついでに骸骨も悪魔も手伝ってくれるぞ!

 俺達アインズ・ウール・ゴウン!不滅のユウジョウ!」

 

バードマンは勝手にほざいています。

変態二人の熱い友情の姿を、モモンガとウルベルトは溜息をつきながら見ていますが、

既に狩場へ行く準備を手早く開始していたのでした。

 

――――

―――

――

 

「そんなこともありましたねぇ」

 

笑いながら話に花を咲かせているのは骸骨の王様と大きな竜でした。

彼らの声色は楽しげだけどどこか寂しさに溢れていました。

骸骨の王様モモンガと向き合っている大きな大きな竜、

スマウグは仲間たちのわるふざけという名の尽力で往時には

ナザリックのロマン兵器と呼ばれるくらいには強力な大火竜にまで成長していました。

いつだかのギルド対ギルドのPVP戦では巨大ゴーレム・ガルガンチュアと共に出撃し、

敵ギルドの大城門を見事に破壊せしめ勝利に貢献したこともありました。

 

「アインズ・ウール・ゴウンは産業廃棄物の再利用がうまい」

 

「【悲報】ユグドラシル最後のドラゴンP強くなる【ギャップ萌え消失】」

 

という褒め言葉まで書き込まれ、ユグドラシルのウェブ掲示板を賑わせたものでした。

 

そんなロマン兵器へと成長した竜ですが、

一番大事なロマン要素は腹側の宝石の鎧には一箇所だけ綻びがあることなのだそうです。

なんでも、

 

「竜は英雄の一撃で倒れる運命にある」

 

ということらしいのです。

弱点がなくては可愛げがない。弱点があるからこそ物語の怪物は愛おしい。

スマウグの原作愛的な設定のこだわりなのでした。

ナザリックそのものも、スマウグ自身も、

ここまで強大になれたのはギルドメンバーの皆がいたからこそでした。

しかし、ユグドラシル屈指の強豪ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』にひしめいていた

41の魔神の内、多くが去ってしまい今ではたった二人を残すのみです。

彼らが全員揃っていた日々も今は遠くにあるのみです。

今日の24:00を時計の針が過ぎ去れば、

全ては過去のことなって記憶の中だけの存在となるでしょう。

最後の憩館もいつかはその門を永遠に閉じる時がくるのと同じように、

ユグドラシルにも終わりの時が迫っているでした。

骸骨の王様とドラゴンも新しい道を踏み出さねばならなくなるのです。

 

「リーダー、そろそろ玉座行って魔王ロールプレイで『締め』のお時間です」

 

巨大な首をもたげて、悲しみを振り払うかのように

なるべくいつもどおりの声でドラゴンが言いました。

悪の組織の終わりは、やはり魔王の御言葉で締めるべきだと、

つい昨日、モモンガとスマウグはそういう結論に至ったのです。

時刻は既に23:30を回っていて、ヘロヘロがログアウトしてから1時間近くも経っていました。

時が経つのはあっという間。それが楽しい時間なら尚更です。

 

「……あー、やっぱり…あのー俺…

 やっぱりここでスマウグさんと顔つき合わせながら終わりたいなぁって」

 

竜の寝床であるエレボールの金貨と財宝の山々の中で、

スマウグが埋もれる山の次に大きな山で大の字に寝そべりながら骸骨の王様は答えるのでした。

 

「なんと…昨日の3時間に及ぶ話し合いの結果をいきなり捨て去るとはっ!

 皆が作ったNPC放って終わりってのも可愛そうって結論でたでしょ!」

 

「そ、そう思わないでもないですけど…

 でもスマウグさん、ここから出れないし。やっぱりNPCよりはスマウグさん大事ですよ」

 

「あらー、面と向かってなに照れることを…、コォのヤロっ!へへっ」

 

大きな竜は、照れ隠しのつもりなのかわざと大仰に照れて大きくて長い舌をペロッと出しました。

()はウザ可愛い感じでやっているつもりでしょうが、それはただただウザいものでした。

 

「うわぁウザい」

 

思わずモモンガから本音が漏れています。

 

「この骨……まぁいい。

 まぁいいついでにギルドリーダー…

 二人だけになったとはいえギルメン会議で昨日決めたことを…

 まさか個人的な感情で反故するなんてそんなこと…?

 そんなこと?ある?ないよね?え?」

 

そんなキョトンとした人を食ったような大げさな驚き顔をする大きなドラゴンの燃える瞳が、

昨晩眠気をこらえて導き出した答えをガン無視しようとする骸骨フレンズを見据えていました。

 

「アッハイ。ないです。遵守シマス」

 

怯え顔アイコンがピコピコ浮かび、モモンガは金貨の山で元気よく立ち上がります。

 

「ハハッそうですよね。昨日その会議で睡眠時間1時間ですもんね俺たち。

 その決定を覆すなんてあるわけない。あってはならない。そうだよねマイフレンド」

 

「そうですとも!」

 

「ハハハ」

 

「あっはっはっ!」

 

モモンガは笑いながら骨の手を振って転移の準備に入りました。

これで骸骨の王様と竜は今生の別れとなる筈です。

また違う形で二人は出会うかもしれませんが、

少なくともユグドラシルでは永遠に会うことはないのです。

2人が…至高の41人が築き上げてきたものがいよいよ終わる時がきました。

 

(そうだ…こうやっていつもどおり馬鹿な会話して、笑って終わるんだ。

 これが俺達らしい…ですよね、スマウグさん)

 

「それじゃあ…スマウグさん。俺、いきますね」

 

モモンガは笑って手を振りました。

モモンガの表情は変わりません。でも確かに鈴木悟は笑って手を振りました。

 

「モモンガさん。いつも通りですよ。ああっと……、

 私は…俺はいつもこの金貨の山で埋もれて寝ている。

 会いたくなったらいつでもここに来い…オーバーロードよ」

 

「……ああ、また来るさ。我が友……そう…こう言うのだったかな?

 我が友よ(メルロン ニン)さらば(ナマリエ)。また会おう」

 

「さすがは魔法使いだ。シンダール語まで達者とはな……おさらば、モモンガ!」

 

スマウグが過去、熱く語っていた名作の、

今では多くの資料が散逸した作中言語の一片をなんとモモンガは覚えていたのです。

さすがナザリックのギルド長を勤め上げた男の頭脳は優秀でした。

互いに調子を合わせて役に徹して、そしてモモンガの姿は虚空に消えました。

 

 

……

………

 

 

辺りが急に静まり返ります。

竜は一匹になりました。

この広い宝物殿で命ある者は彼唯一匹です。

巨大なドラゴンはもぞりと動くと金貨の海の中に再び蹲りました。

 

(本当は最後まで一緒にいたかったけどなぁ…

 竜の体はでっかすぎて通路歩けないし……直接転移できないしな…玉座の間は。

 でも、あそこまで熱意込めて作ったNPCを放って終わったらきっと俺もモモンガさんも後悔する)

 

スマウグの中の人は明日は4時起きです。

彼もまたモモンガと同じくディストピアで必死に藻掻く最下層民でした。

汚染されきった現代社会の底辺たる彼らは、

死ぬその時まで労働から免れないのですから仕方ありません。

 

「それにしても……」

 

あぁ眠い。スマウグの意識はただそれ一色に染まっていきます。

なにせ昨日は1時間睡眠。

友との邂逅も終わった途端に()()と眠気が竜を襲い飲み込んでいくのでした。

 

(寝ないぞ……あと15分…寝ないぞ………)

 

「ぐおー、ぐおー、ぐおー」

 

不退転の決意は数秒で決壊したようです。

竜は大きなイビキをかきながら金貨の海に沈みながら眠りこけ、

やがてはイビキも聞こえないほど静かに熟睡してしまいました。

 

 

 

それから20分程経ったでしょうか。

どたどたどたと宝物庫を走る騒がしい音がしました。

モモンガがスマウグのところへ転移してきたのでした。

 

「スマウグさん!スマウグさん!俺達異世界来ちゃいましたよ!」

 

「…………あぁそうか」

 

気持ちよく寝ていたところを邪魔された不機嫌なスマウグは、

一言そう言うとプイッとそっぽを向いてしまいます。

無理もありません。

スマウグは、モモンガの脳内がお花畑になったか…

それか低レベル過ぎる冗談を言い出したとしか思えなかったのですから。

スマウグはそんなモモンガを放っておいて、

自分がはなれ山遥か上空の大空を飛び回る夢を楽しむことにしました。

 

「起きて!起きてスマウグさん!起きてぇーー!一緒に第6階層に来てぇ!」

 

巨竜の鼻先を揺する骸骨の王様の切羽詰まった叫びが宝物庫に虚しく木霊するだけでした。

転移という大事件を挟んでも寝続け、夢の中で中つ国を楽しんでいたこと…

そして自キャラのフレーバーテキストにタブラ・スマラグディナ監修のもと、

中つ国のウルローキらしい…実にスマウグっぽい設定をびっしり書いていたことが原因で

この後起床するスマウグの意識に大きな変化が起きていただなんて、

神ならぬ身のモモンガには予想できないことでした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。