あとおそらくホラー要素もあるので読むのでしたら一人ぼっちの深夜はあまり
オススメできません。耐性のある方なら大丈夫とは思いますが。
これは私の後任のための覚書として置いておこうと思う。これを見て彼か彼女かがどう思うかは知らないけど、役に立ったら嬉しい。
ご存知の通り、この会社は異形の怪物を生み出して製薬とか工業などに利用できないか研究している。この怪物
達は社外で色んな名前で呼ばれているけど、社内だとみんな分かりやすくモンスターって呼んでいる。そして、怪物は番号で管理されているけど、しばらくするとあだ名がつくようになる。例えばM2-336-42だとスライムガルって感じで。当然だけどあだ名は性質とか見た目から決まる。でも性質は大抵担当の職員にしか教えられないから見た目から決めつけられて、間違った性質で認識されてる奴もいる。例えば、最近利用価値より危険性のほうが大きいって廃棄されたF4-291-11は、周りのものの動きをゆっくりにする特異性を持っていたけど、基本的に空中にある水分が特異性によってシャーベット状の氷になっていたせいで、あだ名はシャーベットくんだった。見た目もあんまり悪くなかったしそれなりに人気もあったから廃棄が決定した時は結構反感を買ってたみたいだけど、正しい判断だったと思う。日に日にシャーベットの出る範囲が広がっていたしね。
さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろうと思う。この覚書を作ることになったきっかけの事件だ。私は後任である君と同じく、モンスターの管理の業務に就いている。モンスターも生き物なのに変わりはないから、誰かが世話をしてやらねばならない。その誰かが私たちという訳だ。君ももう知っているとは思うけど、当然一つのモンスターにつき複数人の担当者がつくことになっている。そして、私と事件の発端になった彼は同じモンスターの担当だった。私と彼しかそのモンスターの担当はおらず、それ故に会話をする機会もそれなりに多くあった。そしてその会話のうちで、私達は親しくなっていった。ところで、その私達が担当していたモンスターは、知能を持っていてそれなりに賢かった。感情もあるようで、よく提供される餌にも文句をつけていた。人間にも食べられるということで、前にこっそりつまみ食いした時美味しくなかったから、案外私たちと同じような味覚を持っていたのかもしれない。そいつは私達が世話をしてやると、とても嬉しそうに喜んだ。しかもそれが毎回だし人型だったから、私達は次第にそのモンスターとも仲良くなっていった。でも、それは大きな過ちだった。
もしこれを読んでいる君が初めてモンスターの担当になる新人だったら、特に心に留めておいてほしい。
モンスターに、ろくな奴はいない。一見人畜無害そうなものでも、正体を知ればゾッとするようなものも沢山いる。だから、モンスターに心を許すようなことはしてはいけない。あくまでも奴らは異形の怪物なのだ。人間に害をなし、それでも利用価値があると判断されているからこそ、この会社で管理され、研究されているのだ。話しを戻す。私にも彼にも、このモンスターの性質は伝えられていなかった。性質が分かる前にとりあえずでうちの部門に回されてくるモンスターはまぁまぁいるから、こいつもその類だとばかり思っていた。しかし。それは違った。
ある日、一足先に収用室に向かっていた彼は、そのモンスターに耳打ちされていて何かを熱心に聞き取っていた。
そして彼が離れたかと思うと、そいつはいたずらっぽく、大きく笑った。あの時の笑顔は忘れもしない、醜悪な顔だった。次の瞬間、彼の頭は弾け飛んだ。例えるならば、柘榴のように。鮮血と肉片が辺りに撒き散らされ、私は悲鳴をあげた。しかしそれで終わりではなかった。弾け飛んだ彼の頭部の代わりか、断面から肉が生えてきたのである。そしてそれは数度こねくり回されるような動きを見せると、最終的に忌々しいモンスターの貌になった。見た目のおぞましさに私はその場に嘔吐物をぶちまけてしまっていた。そしてその彼だったものが服をドロドロに溶かし、完全にモンスターそっくりの見た目になってしまった。いや、実際にあのモンスターになっていたのだろう。肝心のモンスターはと言うと、こちらもドロドロに溶けてきていた。どんどん形が崩れていって、気が付くと液体になって鮮血や肉片、嘔吐物に混じってしまった。後ろのほうで援護の警備隊が来る声が聞こえたあたりで、現状を処理しきれなくなった私の頭は停止した。どうやら気絶してしまっていたらしい。目が覚めると死んでモンスターになったはずの彼が、私の顔を覗き込んでいた。悪い夢でも見たのかと思ったが、目の前で確かに彼は果てたはずだった。しかし私は認識改変の性質を持つモンスターがいることを思い出した。それは例えばいないはずのものをいると認識させたり、その逆も然り。あのモンスターの性質もそうなのだと考え、安堵した私に、彼は微笑んでくれた。そして、もういちど顔を覗き込んで言った。「無事でよかったよ。……誰にも信じて貰えない真実を知っている者を見るのは楽しいからねぇ」そう言った貌は、確かに私があのとき見た醜悪で不快な笑顔だった。そして私はまた気を失ってしまった。次に目が覚めたとき、彼はもういなかった。そして、あとで異動になったとだけ伝えられた。これがこの悍ましい事件の全てだ。幸いまだ被害は出ていないが、いつ奴が事件を起こすかわからない。私が不安になり彼のことを調べてみても、異動になったという記録しか残っていなかった。しかも異動先は不明。これでは奴が新しく違う身体に乗り換えていてもわからない。忠告の意味も込めて、君には奴のあだ名を伝えておこうと思う。奴の名は「ライちゃん」だ。これは奴自身がそう呼んで欲しいと言っていたからそう命名された。しかし私は畏怖と憎しみを込めて、「かわるもの」と呼んでいる。奴は今も他のものに変わって代わっているかもしれない。それに気づくことができるのは、私のように奴に弄ばれた者だけだ。君が私達と同じような失敗を冒さないことを心から願っている。
さぁ、愚かな作業員の話はこれくらいにしよう。そうそう、言い忘れていたが奴は他のモンスターにも変わるかもしれない。くれぐれも、好意的に接してくるような奴は信用してはならない。それがたとえ、前任者だとしてもな。まぁ彼女はそれなりに頑張っていた。だがしかし、協力者を信じて疑わないのはどうかと思う。私の正体を突き止めようと努力していたのは認めてやりたいが、だとしても周囲の人間を疑わないのはあの凄惨な事件から何も学んでいないと言わざるをえない。君もくれぐれも彼女と同じ轍を踏まないようにね。それにしても、この「かわるもの」という名前はなかなかいいと思う。今度から使わせてもらおう。
さて、愚かな研究員の覚書に親切な注意書きを足してやったところで、これを自然なところに放っておこう。
もうじきこの研究員は「事故死」するから、そうすれば後任が来てこの覚書を見つけてくれるだろう。そいつが
この覚書を見て、大いに役立ててくれると嬉しいのだがね。
ありがとうございました。
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