バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】 作:熊影
その日は激しい雨が朝から降り続いていた、バケツをひっくり返したような、という表現が当てはまるほどには強く激しく降っていた。
風の名を持つ街の中にある、とある建物の中で、1人の男が黒いソファーに腰掛けて憂鬱気に窓を見る。
ーーまるで街が泣いているかのようだ。
詩的に心の内でぼやくものの、雨が降り止むことはない。ハードボイルドという言葉をその身で体現している、そう思わずにはいられない容姿をした男。
男は朝からどうも胸騒ぎを感じていた。
具体的なことは分からないものの、男のこれまで得てきた経験から何か良くないことが起きると、確信に近い感じがするのだ。
そしてそれは、現実と化す。
窓から視線を外し、気分転換に普段行っている極上の珈琲を淹れる為の研究をしようと立ち上がり、服の乱れを軽く整えたーー
ーードシャリと玄関から、重いものが落ちた音が、激しい雨音の中でもはっきりと男まで聞こえた。
響いた音にすぐさま反応、整えたばかりの服を翻し、足早に玄関に向かう。
先程までは一切感じなかった筈の人の気配を感じて警戒しつつ、何があっても対応出来るように気持ちを瞬時に整えた後、そっと扉を開けーー絶句。
そこに居たのは年端もいかない少年が、仰向けに倒れていた。
しかも傘もささずに雨に濡れたのか、濡れたない箇所が無いほどに全身ずぶ濡れで、このままでは風邪を引きかねない。
ーーしかしそんなことが考えられない位の衝撃が、少年の顔を見た男の頭に響いた。
その顔は左半分が真紅に染まっていた、それこそ思わず目を背けそうになる程度には。間違いなく重傷であった。
左頬には目元から顎にかけた裂傷、間違いなく跡が残るだろう、10歳になったかならないか程度の子供には酷な傷だ。
けどそれ以上に目を惹いたのは左眼……一言で、潰されていた。
詳しくは分からないがピックの様なものだろう、太く鋭いもので貫かれており、微かな呼吸が聞こえることから死んではいないようだ。それが幸か不幸かは男に到底判断出来はしない。
しかしこのままにしておけば死は明白、男は少年を抱え部屋に戻る。
病院に行くには恐らく時間が足りない、何より潰れた眼をどうにかするには現代医療ではどうしようもなかった。
だが男は一つだけなんとかなるかもしれないツテがある、ただしそれは賭けでしかなかった。
(あいつに、シュラウドに治せるとも限らない、最悪【ガイアメモリ】に頼る事になるかもしれない)
考えただけでも最悪の選択だろう、しかし男の歩みに一切の迷いはない。
何故なら例えばそれが罪だと言われようと、幼い命を見棄てる理由にはならないと、そう断じて。
(もしこれからすることが罪なら、喜んで背負おう。それでこの子が救えるなら‼︎)
玄関を閉じて男が向かうのはこの建物の隠しスペース、地下に目的の人物はいる。
閉じられた玄関、その隣には木製の看板があり、そこには【鳴海探偵事務所】と書かれていた。