バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】   作:熊影

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夕暮れと灰と星とー5

 

聞き慣れた音声が木霊する。

 

そして俺たちを囲うように現れたのは、予想外であり予想していた存在だった。

 

「アントドーパント…⁉︎けどーー」

 

「何で5体も居るのっ⁉︎」

 

アントドーパント、逃げたストーカーが再度襲ってくるだろうとは考えてはいた。だから襲撃してくる事に関しては寧ろ好都合だったのだが……

 

「何がどうなってやがる……」

 

囲んでいるアントドーパントに少なくとも違いは見られない、問題はこれがアントの能力だったら良かったのだが、明らかに違うと断言できる。

 

何せ音声は全方位から聞こえた、つまりはメモリ自体が複数あることを示している。

 

別に量産されたメモリ自体が無いわけではないが、マスカレードより上位のメモリがこうも大量に量産出来るとは思えないし、あくまでマスカレード基準なので、それより上位のメモリを量産するほうがメモリを売る側として効率が良いはず。

 

しかもだ、こいつらの意識は蘭たちに一切向いていない。狙いは俺らしい。

 

違和感だけが募る、こいつらはストーカーとは関係が無いと断言できるだけの材料がない。

 

だが今はまずこいつらの撃退が最優先か……

 

こいつを使うのは久しぶりだった、かつて大道克己ーエターナルのマキシマムドライブの影響を受け、一時的に“仮死状態”になっていたこともあり使うのはフォーゼを助けに行った以来か……

 

腹部に意識を集中する、すると浮かび上がるように現れたのはメタリックシルバーの装甲をしたロストドライバーとよく似たベルト。

 

メモリ挿入口に狼の意匠が施されたそれを確認して、次は掌に意識を集中すれば同じように浮かび上がるのはDのイニシャルのガイアメモリ。

 

「蘭、つぐみ、ここを動くなよ。」

 

「何で……ってそれ⁉︎」

 

「えっ⁉︎」

 

2人の驚く声が響くが気にしない、メモリに付いたボタンを押すと《デット‼︎》と聞き慣れた音声が響く。

 

そして俺は口にする、自分を変えるその言葉を。

 

「変身。」

 

メモリ挿入口にメモリーーデットメモリを挿入しスロットレバーを倒す、すると再び音声が響くと身体を覆う様に足下から装甲が張り付いていく。

 

そして頭まで装甲が覆い尽くした時、そこにはアントドーパントとは別の異形の姿。

 

かつてこの姿を見た翔太郎さんは俺のことをスカルと呼んだことがあった。

 

間違えるのは不思議でもない、何故ならこの姿のモデルになったのは他でもない仮面ライダースカル自身、スカルのデータを元に造られた姿。

 

全体的に見ればメタリックシルバーに塗装されたスカル、だが頭部はより本物の骸骨に近い意匠となり、胸部には十字架の意匠が、その身体を黒いローブで覆われ姿は宛ら死神だった。

 

死者の記憶を宿すメモリであるので強ち間違いではないのだが、文句があるとすれば見た目がどう見ても悪役なので高確率で敵と思われることだ。

 

オーズやフォーゼたちはまだいい、だが酷い時にはライダーキックされかけたことある位だ。

 

閑話休題。

 

変身が完了し、驚く2人を尻目に俺はまず真正面にいたドーパントに突撃する。

 

変身直後の突攻、良く変身に驚くドーパントや敵が多い為に好んで使う戦法、6年前のこともあり尚更使い慣れたもので相手の不意を突き、こちらの有利に持って来やすいのだが。

 

対してアントドーパントー数が多いので認識順にアント1とするーは不気味に静かに構えを取る、隙をつけなかった、と言うよりそもそも変身に対して何の感情も抱いていない動きにますます違和感を感じるが今更止まれない。

 

ーーだから更に奇をてらう。

 

およそ10メートル程の距離を詰めたところで、跳躍。

 

そのまま空中で体制を変え、相手の胸部を蹴り抜く。

 

火花を散らし吹き飛ぶアント1、空中で1回転しながら着地、吹き飛ぶ姿を確認しつつも勢い良く背を倒して背後から迫っていた2つの拳を避ける。

 

ソナー自体はまだ切っていない、故に背後に迫っていたのは気付いていた。

 

そのまま地面に手をついて、その場で逆さ立ちになりながら独楽のように身体を捻らせ、脚を開いて素早く回転、アント達の頭を蹴り抜く。

 

回転しながらも残る2体の位置を確認、此方に向かっているのを見つつ、左後方に向けて力を腕に込め、跳ぶ。

 

まさに変身様様である、腕の力だけで此方に向かってくるアント4の背後に降りたてるだけの筋力を与えてくれる。

 

意表を今度は付けたのか、慌てた様子で振り返ろうとするがーー

 

「おせぇ‼︎」

 

ローブの中、“腰に付けていたナイフ”の柄を右手で逆手て握り、前に踏み込みながら水平に切り込む。

 

振り向こうとして無防備な腹部を切り裂き飛び散る火花、のぞけり崩れる体勢。

 

まだ他の連中とは距離がある、ならばここで確実に1体仕留めるっ‼︎

 

だから俺は紡ぐ、あの言葉を、人間を兵器に作り変える力ある譜を。

 

「創生せよ、天に描いた星辰をーー我らは煌めく流れ星‼︎」

 

途端、身体に満ちる莫大な力。“以前”なら使うのさえ忌避していたが、どういう訳か以前よりも反動は低く、かつ2度目の変身様様事象、変身中に使うと反動はほぼ封殺されるのだ、精々軽い疲労感程度なので使わない理由が無い。

 

ただしあくまで力が満ちただけで本領発揮とはいけないが、今は充分。

 

右手を振るう、それだけの行為は強化に強化を重ねた結果、音速を超える。アント4には腕が消えて見えただろう。

 

その状態で5度、音速を超えた斬撃はアント4を切り裂いた。火花がほぼ同時に煌めいた瞬間ーー

 

爆散、目の前にオレンジ色の炎が咲く。

 

ーー残り、4体。


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