バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】   作:熊影

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夕暮れと灰と星とー8

そもそもどうして俺が前世の記憶や能力を持っているのか。

 

きっかけはデットメモリの初使用時が原因であり、このガイアメモリが内包するのは死者の記憶。

 

本来であれば死んだ者の記憶や技術を閲覧、学習する程度の力しかないメモリだとシュラウドさんは言っていた。

 

だが物事にはいつだって例外があるように、無自覚とはいえ転生者、言うなれば前世と言う死者の記憶を内包している人間が使えばどうなるか。

 

その結果がゼファー・コールレインという、男が歩んだ人生と会得した経験、技術を強制インストールすると言う結果に繋がったわけだ。

 

そうして出来上がったのは本来なら存在しない星の力を宿した、詩人尚冬という1度も人を殺したことがないのに殺人経験豊富な探偵である。

 

閑話休題。

 

「まさかこんな形であの世界の知り合いと会うとは思いませんでしたよ。」

 

「そりゃ俺もだ、蘭たちから起動詠唱(エンゲージ)を聞いた時には警戒したが、まさかお前だとは思いもしなかったよ。」

 

出会った時から更に時間は経過していた、現在俺とアッシュ、もとい海原灰翔が居るのは住宅街の中ー屋根の上を風の如く疾走していた。

 

星の力を振るうものー星辰奏者(エスペラント)の力を解放した身体能力ならばこの程度は造作もない、地面を走るより障害物も無いので目的地に早く着ける。

 

因みに大怪我を負っているはずの海原だが、別に完治しているわけでもなく両手には包帯が隙間無く巻いてある、服で見えない部分はガーゼ等がされているそうだ。

 

この状態でも痛がる様子が無いのはこいつの星辰光のものだろう……ゼファーとしての記憶からどうも嫌悪感が溢れそうにはなる、アッシュを知っている分本人を嫌うまではいかないが。

 

「てか蘭たちと同い年なら今の俺ともタメだろ?敬語なんざいらねぇよ。」

 

「了解、しかしまさか蘭たちが探偵に依頼していたなんてね。」

 

「誰かさんが無茶しないようにだとさ、そんな大事な思いを俺は守れてやれなかった訳だが……」

 

あぁ、本当に情けない。油断などしてなかったのに依頼人を危険に晒すことになってしまった。

 

更には依頼の理由であった男まで巻き込むことになってしまった、おやっさんに顔向できやしない。

 

「……ひまりだなそんなこと言いそうなのは。本当にこういった件に関しては昔から信頼が無いよ。」

 

「……恨まねぇのか、大事な連中なんだろ?」

 

恨み言は言われる覚悟はしていたのだが、予想に反して海原は苦笑いを浮かべるだけ。

 

「俺にそれを言う資格はないよ、星辰光(アステリズム)を使うべき盤面で出し渋った挙句にこのザマだ、寧ろ皆の依頼を受けてくれて感謝してるくらいさ。」

 

出し渋った、と言うのは恐らくはストーカーが変身したアントドーパントとの戦いだろうが、実は疑問に感じていたことがある。

 

「寧ろよく使えたな。この世界にはアダマンタイトやオリハルコンは無いだろう?星辰体だけはあの世界と比べて少なくてもあるみたいだが。」

 

そもそも星辰奏者が能力ー星辰光を使うにはアダマンタイトと言う鉱石が必要不可欠。それを媒体に能力は発動出来るのが前世の、新西暦の法則だった。

 

そしてある意味その上位互換出会ったのがオリハルコン、神鉄なのだが、あれは使い手を選び過ぎた。

 

「……それについては多分、予想に過ぎないけどどうも星辰光自体が変化しているように感じるんだ。」

 

「あぁ、やっぱりそっちもか。」

 

「そっちもか、って詩人も?」

 

どうやら俺だけの感覚ではないということか、実際に俺の星辰光にも変化が見られるのだから。

 

と言っても変化はあくまで基準値と出力の底上げだ、ゼファーの際に心底嘆いた一点特化型であることはなんら変わりはない。扱いやすくなり前より気軽に使えるくらいか。

 

そして海原と俺には現状ある大きな差が一つある、俺が星辰光を扱える最大の理由が。

 

「尚冬でいい、それに俺にはこれもあるんだぜ?」

 

そう言って背中からナイフを取り出して見せる、流石に移動している最中に投げ渡す様な真似はしない。

 

初めは訝しげな眼差しを送っていた海原は、しかしあることに気付いて目を見開いた。

 

「それはまさかアダマンタイト…?いや違うそれだけじゃない……⁉︎」

 

「さっすがアッシュ。そうこいつはーーアダマンタイトとオリハルコンの合金製ナイフさ。いやーデットメモリ様々ってな。」

 

詳しく詳細を言うならばデットメモリの特性を発揮したものだ、デットメモリは死者の記憶を読み込むだけではない、読み込んだ記憶にある物質を再現出来るのだ。

 

いや正確にはそういう風に初めから作られていたわけではない、ゼファーの記憶を読み取った際に恐らくは極晃星(スフィア)に触れてしまった為に起きた機能拡張である、というのがフィリップの見解だ。

 

このお陰で使い慣れた形で媒体を手に入れられた、しかも合金のお陰か多少の使いにくさが増した(今は慣れたが)が出力と性能もまた増した。無論それだけではないが、今は良い。

 

「あくまで勘だが、お前もデットメモリの恩恵を受けれる筈。今から大事な幼なじみを助けるんだ……少しは戦力を整えないとな、また爆発、いや暴発なんてシャレにならん。」

 

「っ……気付いてたか、済まない助かる。」

 

互いの能力に関しては移動し始める前に話し合っている、記憶にあった能力と差異は無かったが、それだけにしっかりした媒体があれば暴発は起きなかっただろう。

 

何せアッシュの能力は強力だ……かつての英雄様を思い出してしまうのは、アッシュが悪いわけではないので抑えよう。

 

「ーーっ、見えてきた……‼︎」

 

「あれか……」

 

さて、話をしながらもようやく見えてきた目的地。見た目は……倉庫、か?

 

住宅街から少し離れた位置にあり、かつ奥に入らなければ見えない絶妙な位置にある建物、そこが俺たちの目的地。5人が捕らえられている場所。

 

入り口らしき巨大な搬入扉は重厚な金属で出来ており、開けるには一苦労しそうだが、こじ開ける必要は無さそうだ。よく見れば出入り口はその隣にある。

 

「……海原、ほれ。」

 

「カイで良い、皆そう呼ぶから。」

 

海原、もといカイにデットメモリを投げ渡せば躊躇無くボタンを押した。

 

響く電子音、直後光の幕がカイを覆ってってーー

 

「は?」

 

予想とは違う変化に驚く中、光の幕は直ぐに消えた、そして中から現れたカイはーー

 

「……これまた、懐かしいな。」

 

ゼファーとしてもアッシュとしても、実に見覚えのある姿にーー軍事帝国アドラー率いる星辰奏者部隊の制服を着込み、手には懐かしい太刀が握られていた。

 

「予想外の展開だよ、こいつにはまだまだ秘密がありそうだ。」

 

俺の時はナイフが出ただけだった、いや実は別にもあるが服装が変わったことはなかった。

 

返してもらったデットメモリを懐に入れ、カイと共に入り口を見据える。何にせよ準備は出来た。あとはーー

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