バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】   作:熊影

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次回が戦闘面での最後になれば良いな。


夕暮れと灰と星とー10

灰翔サイド

 

時間は灰翔が牢屋に近付くまでに遡る。

 

ゼファー、もとい尚冬に一旦相手を任せて俺は5人が囚われている牢の前まで駆け寄った。

 

……良かった、見た限りで傷付いた様子は見られない。丁重には扱われていたのか、牢の中にはソファが人数分見られる。

 

「カイ…‼︎お前怪我は…⁉︎」

 

「巴…大丈夫、今は事情があって痛みは無い、万全な体勢で動けるよ。」

 

事情と言うのは今のアドラー軍服のことで、移動中感じていた痛みは今はまるで感じない、まるで一時的に痛みが消えたみたいに。

 

実に不思議な現象だが、今は気にする暇はない。5人の無事を確認した以上は俺も戦わなければ。

 

「ヒィ⁉︎な、何あれ⁉︎」

 

「つぐみ?ってあれはーー」

 

短い悲鳴を聞き、つぐみの視線を辿ればそこには無数のアリの怪物がいた、間違いなく仮面の存在が差し向けたのだろう、姿が見えない。

 

しかしある姿も同時に確認した、起動詠唱を歌う尚冬の姿。確かーー仮面ライダーデット、だったか。

 

歌い終えた尚冬は全身に白銀の光を纏い、そして異形へと駆け出した。

 

速い、星辰奏者としての能力だけではなく変身の影響もあるのか、瞬きも出来ない一瞬で一体の怪物の懐に潜り込んでいた。

 

怪物は一切気付いていない、余りの速度に反応が追いついていないのだろう。

 

その隙を彼が見過ごすはずも無く、ナイフを構えた右腕が霞む、そして消えたかの様に今度は別の個体の懐に。先程まで側にいた怪物は、次の瞬間に光の粒子となって霧散する。

 

最早それは戦闘とは言えない、死の瞬間ですら相手に気付かせずに仕留めるのは暗殺であると言っていい。星の記録を通してデータでしか知らなかった人狼(リュカオン)の在り方がそこにはあった。

 

そう考えている間に瞬く間に敵の数が減っている、前世よりも遥かに高い戦闘力だ、漸く気付いた怪物達が咆哮しながら尚冬へと殺到していく。

 

しかしそれではあまりに遅い、身体を駒のように回転すれば彼に迫っていた怪物の首が宙を舞い、体と共に霧散する。

 

このままでは全て倒されそうだ、奴の目的は俺なのだからそろそろ参戦しなければならない。

 

コート状の軍服を翻し、帯刀していた刀をゆっくり鞘から引き抜いた。

 

あのメモリから出て来た刀だが、やはりというかアダマンタイトとオリハルコンの合金に間違いない。見ただけなのだが直感でそれがわかった。

 

これなら充分に媒体として機能する、刀を正眼に構え、起動詠唱を口にしようとしてーー

 

「カイ君……」

 

涙声で最も聞き慣れた声に止められ、振り向けば今にも決壊しそうな涙を目尻に貯めたひよりが居た。

 

「戦うの……?尚冬君に任せたらダメなの?だって……カイ君酷い怪我してるんだよ……今収まってても治った訳じゃーー」

 

「ひまり。」

 

止まりそうにない、それこそ内に秘めていた想いを全て吐き出される前に止める。

 

それを聞くべきなのは今ではない、ここから抜け出して大切な“いつもの日常”に戻ってから聞くべきだ。

 

「任せるわけにはない行かないんだ、奴が指名したのは俺だしみんなだって奴は巻き込んだんだーー大切な幼なじみに手を出されて黙っていられるほど、俺は寛容じゃない。話し合いで済めばそれが一番だけど、今はもうその時は過ぎ去っているから。」

 

話し合いの大切さは誰よりも知っている、アッシュと言う英雄が何より大切にしていた訳だし、その実績は烈奏にして救世主、自らの半身との話し合いを成功させたことから、話し合いが如何に大事かは分かっている。

 

でも今示すべきは武であり、今出せる全て。

半端では終われない。

 

「それにこの力に関してはいづれ皆にするつもりだったのが今になっだけのことさ。だから約束する、ちゃんと俺はひよりの、皆の居る所に帰ってくるよ。その時には全部話すよ、今まで話せなかったこと全て。それじゃあダメかな?」

 

「…………つぐの家のケーキもつけてくれなきゃ、やだ。」

 

「勿論良いよ、つぐもよろしく。じゃあ……行ってくる。」

 

改めて踵を返し連中を見据える、見た感じ既に全体の3分の1は削られている、このままじゃ本当に出番が無さそうだ。

 

目を閉じ気持ちを集中させる、負けられない理由を改めて認識し手に力が篭る。

 

その時だーー

 

『お前は何も変わらないなアッシュ、かつて半身だった者として実に嬉しく思う。』

 

声が頭に響く、誰の声なのかなんて考える必要はない。

 

だがどうして今その声が聞こえるのか分からない、確かにウルトラトンチキな存在ではあったが今の自分は生まれ変わりだ、半身は既に内には居ないのに。

 

『疑問に思うだろうがそれはいつか会えた時に話そう、時間はないのでな、一方的にことを済まそう。』

 

言い終わった直後、胸の内に暖かい何かが灯ったのが分かった。例えるなら優しい太陽の様な暖かさが。

 

『さらばだアッシュ、今のお前の輝きを直接見れないのは残念だが、いづれ出会えた時に魅せてくれ、今のお前の名と共に。』

 

それ以降、声は聞こえなくなった。しかし胸の内にある暖かさは残っている。これが何なのかは何となく分かる、だから有効に使わせてもらうとしよう。

 

「ありがとうヘリオス。また会える日まで楽しみはとっておくよ。さてーー」

 

今度こそ歌おう、かつて天駆翔(ハイペリオン)と呼ばれた時の歌を。

 

今度こそ、間違えを起こさずに。

 

「創生せよ、天に描いた星辰をーー我らは煌めく流れ星。

愚かなり、無知蒙昧たる玉座の主よ。

絶海の牢獄と、無限に続く迷宮で、我が心より希望と明日を略奪出来ると何故貴様は信じたのだ。

この両眼を見るがいい。視線に宿る猛き不滅の焔を知れ。

荘厳な太陽を目指し、高みへ羽ばたく翼は既に天空の遥か彼方を駆けている。

融け墜ちていく飛翔さえ、恐れることは何もない。

罪業を滅却すべく闇を切り裂き、飛べ蝋翼(イカロス)ーー怒り、砕き、焼き尽くせ。

勝利の光に焦がされながら、遍く不浄へ裁きを下さん。

我が墜落の暁に創世の火は訪れる。

ゆえに邪悪なるもの、一切よ。ただ安らかに息絶えろ。

超新星ーー煌翼たれ、蒼穹を舞う天駆翔・紅焔之型‼︎(マークブレイズ・ハイペリオン)」

 

直後、右眼は金色に輝き、刀身に焔が宿るーーそれがかつての姿。

 

しかし今は違い、刀身は紅く輝き焔を発していない。それは決して星辰光が不完全に発動したわけではない、別の理由があった。

 

「おおっ‼︎」

 

掛け声一つと同時に飛び出す、駆け出した瞬間に足元が爆ぜ、その爆風を利用した結果、尚冬に負けず劣らずの速度で化け物の懐に入り込み袈裟斬りを放つ。

 

その一閃は容易く化け物の身体を切り裂き、身体は斜めにずれ落ちながら消滅する。その切り口は焼き焦げた跡が残っていた。

 

炎熱付加能力、同じ名称でありながら転生したあと得た経験から変化した海原灰翔の新たな星辰光。

 

焔の代わりに収束した熱を刀身に宿した斬撃の威力は以前と決して劣らず、細かな調整が行いやすくなりより負担が減り、長時間の戦闘も可能になった。

 

何よりもその特徴は精神面に現れており、かつての英雄の様にただ前に突き抜けていく精神性は無くなった。

 

代わりにあるのは幼なじみと育んだ暖かな思い出と、当たり前の日常を護りたいと言う意思があり、それこそが能力の原動力となる。

 

「せやぁっ‼︎」

 

返す刀で刃を振り抜く瞬間に収束していた熱を解放、爆発的に焔が刀身から溢れ出す。

 

放たれた一閃は焔を纏って飛ぶ斬撃として解放され、化け物を纏めて包み灰へと還る。

 

直ぐに熱を再収束し化け物の間を真正面から突き進む。進むごとに化け物を斬り伏せながら、進んだ先に居たのは別の化け物の首を飛ばした尚冬の姿。

 

背中合わせに移動すれば尚冬もそれに合わせ、結果お互いの背中を預ける形となる。

 

「充分に話せたか?」

 

「そりゃもう、自分の懐が寒くならないことを祈るばかりさ。」

 

「殺伐としたもんよりマシだろうに。んじゃまぁーー残りをやるか。」

 

「あぁ‼︎」

 

 

 

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