バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】 作:熊影
「……どこぞの英雄様の一撃かよ……」
仮面が参号と呼ぶ怪物が、奴の言葉に従い離れていったため、尚冬もまたカイの側まで戻り、目の前で起きた光景に昔を思い出して装甲の内側で顔を歪める。
「流石に放射能まではないですけどね。」
「あったらマズイだろう、それに……身体は大丈夫か?模倣とはいえど、あいつの一撃は……」
前方を見ながら告げる、オリジナルにこそ届かなくても強力な一撃はカイの目の前を高過ぎる熱量で焼いていた。地面のコンクリートが軽く融解している部分がある。
そんな熱量の一撃に男がいた場所には白煙が上がっている、今ので終わりとは2人は一切思っていない。
前世の経験からくるものではあるが、同時に晴れていく白煙の中から見えてくるものがあるからだ。
人影、ではない。現れたのは壁だ。いやーー壁のようにしか見えない巨大過ぎる日本刀、カイの予想通りならそれは……
「脇差をそういう風に使うなんてね、大方巨大化の能力を付加したってところかな。」
唐突に日本刀が消える、その背後から無傷ではないが五体満足で仮面と異形が姿を見せる。
「……その口振りだと、わたしの能力が分かったみたいだね。」
「確証は無いけど……差し詰め《複製と付加(コピーアンドペースト)》ってとこだろ?であれば今迄の状況もある程度の説明がつく。」
複製と付加、成る程と尚冬は心の中で納得する。カイの予想通りなら今までのことが説明が出来るからだ。
複数のアントメモリがあることも、あの化け物の数も、そして今の一撃を受けて五体満足でいられたのも、能力を遺憾無く駆使した結果ならば納得がいく。
「…………満点まではいかなくてもある程度は正解だ、確かにわたしの能力は君が言う《複製と付加》に類似したものさ。だからこそ出来た芸当、しかしーー君達を相手するには今出せる全力では足りないか。」
けど、と続けながら左腕を水平に伸ばし、切っ先がこちらに向いていた、手にしていた脇差を手の中で半回転させてーー
「使える手はまだある、だから最後の確認でーージョーカーを切らせてもらう。」
背後にいた参号の胸に、堅い装甲があるとは思えないほどあっさりと、音も無く突き刺した。
「っ、てめーー」
奇行とも取れる行動に数瞬呆気に取られたが、直ぐに気を取り戻して仮面を止めようと踏み出して、一瞬光が視界を覆ったが気にせずに一息に距離を詰めナイフを振り下ろした。
しかし手に感触はなく、代わりに強烈な衝撃が腹部に走り、2度ほど地面をバウンドして5人が居る牢屋の脇を勢い落とさずに通り過ぎに壁に衝突した。
「がああぁぁぁぁ⁉︎」
身体が悲鳴をあげる、変身中は一時的に肉体をデータ化するメモリ系ライダーだったのは不幸中の幸いか、生身があれば内臓が幾つか損傷していた可能性が高い。
しかし痛みがないわけではなく、思わず声を上げるも尚冬は壁から離れて自分を吹き飛ばした相手を見据える。
「それが奥の手……まさかの融合か……」
「正確には強化装甲に変化させた参号を纏っただけさ、最も単純な強さは2倍どころじゃない。」
仮面の姿は本人の言うように参号を装甲にして纏ったような姿ーー有り体に言えばまるで仮面ライダーだった、蟻をベースにしたその姿は生物感があり、機械的な要素は頭部以外にはあまり見られない。知り合いの所でデータのみ見たアナザーアギトというライダーが一番造形的に近いだろう。
そして強さは2倍どころじゃないというのも本当だろう、少なくとも反応が難しい速度の一撃を放ってくるのだから。
また、その姿からあれをアントと呼称するとしよう、最早仮面ですらないのだから。
その姿が唐突に炎の柱に包まれる、行ったのはカイだが少し息が上がっている。模倣とはいえ鋼の英雄の一撃だ、相応に体力を削られている。
その中で放たれた炎は少なくとも直撃すれば
生身なら灰すら残さないだろう、しかしーー
「温い。」
「くぅ……⁉︎」
その一言で炎は消し飛び、アントはカイとの距離を一瞬で詰めて拳打を弾丸の如く放つ。ぎりぎり反応出来たそれをなんとか刀で捌きながらも、再度炎を刀身に宿す。
体制を整えながらも拳と打ち合わせる為に刃を振るうが、予想通りの光景が広がる。
立て続けに響く金属音、しかし炎の刃と打ち合う拳は一切焼ける事は無い。まるで炎なんて初めからないかの如く、打ち合う拳に炎はまるで意味を成さない。
「炎熱無効か……⁉︎」
「正確には耐熱耐性付与、一定の温度以下なら炎はこの外装には意味を成さない、そしてーー」
唐突に打ち合いをやめ、その場から背後に跳ぶ。
そして空中で後ろへと身体を反転させながら振り上げた右脚は、音も無く振り下ろされた高速振動したナイフと甲高いを音を立ててぶつかり合う。
「耐振動性もある、ジョーカーは伊達じゃない。そう直ぐに君達に有利な状況にはならない。」
「ちぃ。」
衝突は一度、2人は距離を取り形的にはカイと尚冬がアントを挟む形になるが、正直有利とは言えない。
「成る程、確かにジョーカー、切り札とは言ったもんだ。……お前の能力、恐らくだが制限があるな?可能性としては付与数、1つの対象に対して付与出来る能力や耐性は限られてんだろ?出なければあの瞬間、カイの溜め込んだ一撃に参号とやらをテメェの背後に下がらせる必要は無かった筈。」
あくまで推測に過ぎないが、そう考えれば納得できる理由もあった。