バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】 作:熊影
赤熱していた刃は優しい夕焼けを彷彿させる色へと変わり、金色に輝いていた瞳には海色の光が宿る。
それはかつてアッシュとして至った極地。光と闇のそれぞれの優しさに気付き、大切な者とともにどこまでも歩んで行くことを望み、必要な条件を満たしたからこそ得た海王星の輝き。
極晃星(スフィア)、第4の星。
太陽系の中で最も離れた惑星が、救世主の想いによって世界を超えて現出する。
ヘリオスから受け取ったのは海王星にアクセスする為の特殊なパスと回廊、それにより前世でなければ使えない筈のこれを使うことが出来る。
流石はウルトラトンキチ、やることが規格外だ。
閑話休題。
しかし今のカイには十全に扱うことは難しい。何故ならスフィアに至るには1人ではなく2人の人間が願う事で至れるものだから。
だから今の状態はスフィアではなく星辰光クラスにまで付属性を除く要素は下がっている。
けれどそれはさして問題にはならない、何故ならこの星の本質は付属性にこそある。
夕焼け色の刃から炎が吹き出す、そのまま切っ先を背後に回すと同時に炎を切っ先に集中して激しく噴射、その勢いはロケットの噴射のようで、瞬く間に尚冬と拳打を交わしていたアントとの距離を詰める。
ニュークリアクラスター、アッシュが使っていたものを再現して詰めた距離を余さず活かし、振り下ろされた炎の刃を咄嗟に気付いたアントは防御態勢を取る。
そして衝突、激しい金属音が鳴り響く。
(バカなっ⁉︎)
未だ見えないアントの素顔が驚愕に歪む、金属音は刃と装甲がぶつかったからではない、どういう原理なのかすら不明だが炎と衝突し、金属音を発生させた。
だが、異変は終わらない。
「ーーーーっ⁉︎カハッ⁉︎⁉︎」
苦悶の声が漏れる、装甲に覆われた口からは見えていたなら吐血している姿が分かっただろう。
炎と衝突して数瞬、身体の内に直接拳打が叩き込まれたような衝撃が走る。明らかに普通では起きない現象は直ぐに能力によるものであることを理解させる。
だが理解が及んだのはそれまで。衝撃により体勢が崩れ生まれた隙を縫うように黒の髑髏がアントの正面に躍り出る。
《ピリオド‼︎マキシマムドライブ‼︎》
右腕が引き絞られる、それはまるで弓を引きしぼる様にも見えてーー寒気が走る。
アレはマズイと本能が警鐘を鳴らすも、防御も回避も取れない程に隙を突かれてしまう。
「グレイシャル・ピリオド‼︎‼︎」
オリジナルの能力名を敢えて冠したそれは、一見ただの右ストレート。
しかし拳が装甲に触れた刹那、爆発的に冷気が氷となり増殖しアントをいとも容易く吹き飛ばした。
轟音と共に壁と衝突するアント、その様子を見ながらも油断なく構えている尚冬の隣にカイは同じように油断することなく隣に並ぶ。
「手応えは?」
「あった、それこそこれで終いでも不思議じゃないくらいには綺麗に。」
そこまで言い切れても構えを解かないのは、知っているからだ。
たとえ致命傷だろうが腹が裂け臓物が溢れ出そうが、それこそ完全に息の根を止めない限りは歩み続ける英雄を。
そもそもアントは関係者を攫ってまでカイのことを確かめようとしているのだ、やつと同じくらいとまでいかなくても似た気概であっても不思議ではない。
「……見事だよ、あぁ全く。予想以上の結果で何よりだ。」
衝突によりひび割れた壁で体を支える様に寄りかかっている姿が見える、マキシマムドライブの威力の凄まじさを物語る様に腹部の装甲は、凍りつきつつ罅が入っていた。
だがまだ倒れる気配はない、恐らくは意志と気合いで奴は立っている。
「いざ蓋を開ければロクにダメージを与えられずにこのザマか……全く、意気込んで臨んだ割には実に無様としか言えないな……」
だが、と壁から離れ力強くこちらに向け歩いてくる。そして一定の距離を保ち歩みを止めた。
「確かめただけの価値はあった、それが確かめられただけでも充分だ。だからそろそろ幕引きとしよう。」
言うだけ言って、アントは腰を低くして構えた。何をするつもりかは知らないが、一つだけわかる、宣言した通りこの戦いの幕を引くつもりだ。
アントが卑下する程に楽な戦いではなかったが、終わらせることに依存無く、2人もまた静かに構えた。
カイは刀身に炎を集中させ、尚冬はデットメモリを引き抜きマキシマムドライブを発動させる。
それを合図に3人は同時に駆け出しーー
「シィッ‼︎‼︎」
「オアァ‼︎‼︎」
「ライダー・エッジ‼︎‼︎」
交差し、位置が入れ替わる。程なくして倒れたのは、アントだった。
その胸部に掛けてクロスを描いた裂傷が走り、倒れた後に爆発が起きた。
こうして戦いは終わった、いきなり非現実を叩きつけてきた理不尽な戦いは、それなりにあっさりと終幕となるのであった。
……これから、様々なものを巻き込み、後に【星辰大戦】と称されることになる戦いの、序章となる戦いは。