バンドリらしくない世界で紡ぐ逆襲劇【ヴェンデッタ】 作:熊影
詩人尚冬、何とも偽名臭い名前だ。実際に偽名見たいなものなのでツッコミようがないが。
「しびとって、変わった名字だね〜」
「えぇ、よく言われます。」
灰色の、眠たげな眼をした子にツッコミされるが、割と自己紹介の度に高確率で言われるのであまり気にせず流しながら5人を改めて見ると、一つ気がついた。
「早速ご用件を確認したいところですが、そちらの方は大丈夫でしょうか。何やら気分が優れないように見られますが……」
奥の方に座っていたというのもあるが、1人ピンク髪の子だけが周りと比べ異様に暗い。
他人の俺が気付いたぐらいだ、他の四人もとうに気付いており、チラチラと見ているが当の本人は一切気付いていないのか振り返りもしない。それだけ、気に病むことがあったのか。
「えぇ、その……今回の依頼にかなり関わっているのですが……」
切り出した茶髪の子は視線を所長、亜樹子さんに送ると所長は力強く頷いて答える。
「私からも説明するよ、今回の依頼はね、竜君に相談されたものなんだ。」
「竜さんに?」
竜さん、その人こそ珈琲の淹れ方を教わった人だが、本職は警視。つまりは警官である特殊犯罪を専門に対応する専門家の1人だ。
その竜さんに相談された依頼となれば内容は限られてくるが……
「その、信じてもらえないかもしれないけど、私達は今バケモノにストーキングされてるみたいなの。」
赤メッシュの子は本当に言い辛そうに顔を顰めながら告げる、バケモノと。
確かに普通なら信じられないワードだ、バケモノなんてSFやファンタジーの世界でも無いのにだ。
けどーー
「バケモノ、ですか。それは初めは人間の姿をしていましたか?」
「え、えっと確か初めて見たときは確かに人間だったよなつぐ?」
「うん、けど何か懐から取り出してたよね。ちょうどその時は夕暮れで良く見えなかったけど……モカちゃんは見えた?」
「見えてたよ〜あれは確か、USBみたいだったけど変な形だったよね〜」
「そこまで見えてたんだモカ、私にはそいつがそのUSBを押した瞬間に音が聞こえた気がしたな。確か……《アント》だったかな。それからそいつの身体がバケモノに変わったんだよね。」
USB、そしてアントという音、使った瞬間人間がバケモノになった。
そこまで出て分からない俺たちではない、所長含めた3人に目配せすると3人とも頷いてくれたので、引き続き俺が口を開く。
「情報をありがとうございます。では我々への依頼はそのバケモノへの対処でよろしいでしょうか?」
「そうだけど、その本当に大丈夫なんですか?言ってはなんですけど、その、バケモノに対して有効な手段があるんですか?」
「おい蘭……」
まぁ、蘭というこの言い分は正しい、見た目は自分たちと変わらない少年やどう見ても青年しか居ない場所だ。危険な目にあったのならそう簡単に信用出来ない面子に違いない。
しかしだ。
「ご安心ください、我々は貴女方が遭遇したバケモノーードーパントに関しては間違いなくプロですので」
プロ、そう自負できる位には散々相手してきたのだ。例えどんなメモリだろうが必ず依頼はこなしてみせる。
そう思い、口にしたプロという単語。それに真っ先に反応したのは今まで会話に参加していなかった少女。
「プロ……だったらお願いしますっ‼︎一刻も早くあのバケモノをどうにかして⁉︎じゃないとカイ君が……カイ君がまた自分を犠牲にしちゃうよぉ……」
突然顔を起こしたかと思えば、その眼には大粒の涙が浮かんでいて……
勢い良く立ち上がり、ピンクの髪を靡かせて俺に飛びかかってきたと錯覚するぐらいに勢い良く肩を掴んでそう告げた。
告げた後、彼女は膝から崩れ俺の服の裾を掴んだまま泣き始め、急な事に呆気に取られていた四人は直ぐにひまりと彼女のなをよびながら彼女の側によって慰み始める。
あまりにも必死な姿、カイ君とやらが誰かまるで分からないが、その姿を見て俺が取るべき手段は一つ。
紡いでいるため視線は合わないが、それでもしゃがんでなるべく顔の高さを合わせつつ、敢えて普段通りの口調で。
「任せろ、必ず依頼は遂行する。あんた達の日常を、必ず取り戻してみせる。」
だから話してくれ、事の発端を。
そう告げるとひまりさんはより涙を流しながらもポツリポツリと話してくれた、事の全てを。
それを俺たちは了承、正式に依頼としてうけるとことになる。
……そして俺はこの時は知る由もなかった。
この依頼を機に全てが動き始める、終わった筈の星の物語が再び輝きを取り戻して。
敗者が勝者の栄光を踏み躙る逆襲劇(ヴェンデッタ)が、再演する。