SAO~Real in the Fiction~ 作:マンソン
まだストレアが登場できないので、登場ヒロインはシリカのみです。
「この世界でHPがゼロになれば、その者の脳がナーヴギアによって焼き切られ死に至る。文字通りデスゲームとなった」
ソードアード・オンライン。
次世代型VR装置『ナーヴギア』の世界初のVRMMORPG大作として、世界中から賞賛されると思われていたゲームは、一瞬で世界から恐れられる恐怖のゲームと化した。
ただ、ゲームの中に囚われてしまった俺たちはそれを知る由は無かったのだが。
(このゲームの世界が、俺たちにとっては生死を賭けた『現実』になっちまったってことか──)
だが多くのプレイヤーが現実に帰れない、死ぬかもしれない世界に閉じ込められてしまったことに顔が蒼白してしまっているのにも関わらず、
俺は一抹の喜びを感じ取っていた……。
──
───
────
SAOがデスゲームと化してから、もう一年が経過した。
ゲームを脱落してしまう人間は後を絶たない。
モンスターに倒されてしまう者、
終わりの見えないデスゲームに絶望して自殺してしまう者、
そしてプレイヤーによって殺されてしまう者──。
しかし俺はまだ生き残っている。
それも攻略組と言う、最前線で戦う者たちの一員として。
最初の一ヶ月は、始まりの街から出ることが出来なかった。
ワクワクしていたと言っても、それは公的にVRMMOに浸れるという意味でだ。
やはり死ぬかもしれないフィールドに踏み出る勇気は無かったんだ。
ゲームを攻略したいという根っからのゲーマーたちは死を恐れず、既に前線を走り始めていたのにも関わらず。
それでも俺が街を出て攻略組を追い駆けはじめたのは──同じく始まりの街に引き篭もっている人たちを現実に帰してやりたいと思ったからだ。
偽善かもしれない。
それでも、前に進む為には十分だ。
俺は荷物をまとめ、第1層フィールドエリアへと足を踏み入れた。
………………。
あれから何か月も経過し、俺は何とか攻略組にまで追いつくことができた。
長らく使ってなかったコミュ力をフル活用したので、中々苦労したが……。
(他のメンツに比べて、情報の無い強敵と戦う経験が少ない以上、せめて他の奴等より剣の修練度を上げないとな)
俺は攻略層より下の階層フィールドで素振りをしていた。
モンスターと戦うのも良い訓練だが、こうして素振りをして武器と一体になる感覚を研ぎ澄ますのも忘れてはいけないんだ。
(……よし、素振りはここまでだな。モンスターと戦闘しに行くか)
規定していた500回の素振りを終えた俺は、武器を背中に納めて移動を始めた。
素振りがしやすいようにモンスターが極力現れないエリアを選んでいるので、モンスターに遭う為には場所を変える必要性があるからだ。
(ん……?)
ある程度、森の中を進んでいたら、自然音とは別の音が聞こえてきた。
その正体はすぐに気付いた。
これは、ソードスキルを発動している音だ。
だが……連撃数が俺の知っているそのソードスキルよりも多い。
どういうことだ?
俺は念の為、気配と足音を忍ばせてその音の方向へと近付いた。
(あれは……キリトか)
森林フィールドの僅かなスペースにいたのは、攻略組でも少し名が売れているソロプレイヤー、
《黒の剣士》キリトだった。
(両手のそれぞれ片手剣を持ってソードスキルを!? 二刀流スキルなんて聞いたことがないぞ!!?)
自身が習得していない武器種のスキルも、ウインドウを開けば全て確認することができる。
だがそこに二刀流の文字を見たことはない。
二刀流等、スキルに存在しない武器を振るうことは可能だ。
だがその場合は、ソードスキルを放てないだけにあらず、剣も握ったことがない現代人が振るいやすくなるようにしてくれるシステムアシストの恩恵も一切受けられなくなってしまうのだ。
これがないと、プレイヤーの技量によってはダメージが激減してしまうのだ。
しかし目の前のキリトは間違いなく、二刀流状態でソードスキルを使っている。
連撃数が多かった謎は解けたが、結局二刀流スキルという大前提の謎が解けていない。
(……思い切って聞くしかないな)
俺は忍んでいた気配をわざと解除し、キリトがいる開いたスペースに足を踏み入れた。
「よ、キリト」
「!! カ、カイン!?」
一応、キリトとは個人的な友好もある。
まだ攻略組を追い駆けている途中、武者修行目的でフィールド内にあった隠しダンジョンに潜り込んでいたことがあるのだ。
自分の適正レベルより少し高いダンジョンだったので、ジリ貧で少しずつ追い込まれていた。
そんな時にキリトが助太刀してくれて、ダンジョンを出るまでパーティーを組んでくれたのだ。
彼は隠しダンジョンの奥にあるレアアイテムの情報を手に入れる為に来ていたらしい。
片や武者修行、片やレアアイテムの入手。
目的が合致していなかったからこそ、仲良く出来たとも言える。
「見られちまったか……」
「ああ、ビックリしたよ。それ、ユニークスキルなのか?」
ユニークスキル。
文字通り、特異的なスキルということだ。
攻略組のトップの一人、ギルド《血盟騎士団》の団長ヒースクリフという男が、大盾というユニークスキルを持っていることで有名だ。
あれだけだと思っていたが、まさかキリトも持っていたとはな。
「……そうだ。その、悪いんだが……」
「ま、隠れて特訓してるくらいだしな。ユニークスキルともなればやっかみも多いだろうし、気持ちは分かるよ」
バツが悪そうにしているキリトに、俺は同調を示す。
といっても、無条件に受け入れたりはしないが。
「その代わりと言っちゃなんだが……二刀流のソードスキル、全部見せてくれないか?」
「ソードスキルをか?」
「ああ。データとして存在する以上、今後人型のボスが二刀流ソードスキルを使ってくる可能性を否定できないだろ? 知っておいて損は無いからな」
俺が交換条件の理由を説明すると、キリトは「なるほどな」と納得している様だった。
でもこれは口から出まかせに近い。(まあ完全に考えていなかったわけじゃないが)
本当の理由は、「知りたい」のではなく「覚えておきたい」からだ。
「わかった。じゃあそこに立っていてくれ」
「おう。ド派手に頼むぜ!」
俺は樹の幹に背中を付け、リラックスした状態で二本の剣を構えるキリトの姿を逃すことなく見たのだった。
────
───
──
三ヶ月後、俺は《迷いの森》と呼ばれるフィールド内で一人の少女と出会った。
パーティーを組んでいたメンバーから離脱して彷徨っていたところ、モンスターに襲われて身代わりとなった使い魔のモンスターが死亡してしまったらしい。
彼女の名前はシリカ。
「きゃああ! …………あ、あれ?」
「大丈夫か!?」
やられかけたシリカを助けた俺は、47層にて使い魔の蘇生が可能かもしれないアイテムが存在することを教える。
彼女は一人で行こうとしたが、適正レベルを超えたフィールドなので俺はそれを看過できず、同行することにした。
「あの……」
「ん?」
「どうして会ったばかりの私に、ここまでしてくれるんですか……?」
シリカは会った時からハッキリと視線を合わせることはない。
どうやら男性に対して強い苦手意識を持っているようだ。
《迷いの森》から街に戻って来た時、何人かの男性プレイヤーに好意的な声を掛けられていた。
下心しか感じない結婚の申し込みを何度もされ、嫌になってしまったんだろうな。
そんな彼女を納得させる為には……。
俺の本心を話すしかないだろう。
「……ゲーム内で現実の話をするのはタブーだけど、自分から自分の話をする分には構わないよな」
「現実……です、か?」
いきなり話が現実の方へ飛んだことにシリカが呆気にとられる。
けれど彼女の信頼させるには必要な話なんだ。
「数年前、俺は交通事故に遭ったんだ」
「こ、交通事故……?」
「ああ。運良く命は助かったけど、それによって俺は体のほとんどが動かせなくなってしまったんだ」
昔は元気に友達とサッカーをしているようなアウトドア派だった。
サッカーボールが公園の外に出て行ってしまったので拾いに言った時、トラックが衝突してしまったんだ。
一命は取り留めたが、重大な障害が残ってしまった。
「動かせるのは、首から上と左手だけだった。日常生活のほとんどは介助なしには出来ない身体になってしまったんだ」
「そうだったんですね……」
同情してくれているのか、シリカは顔を少し伏せる。
「そんな時にナーヴギアを知ったんだ。この世界の中なら体を自由に動かせるかもしれない。俺は直ぐにソードアート・オンラインにベータテスターに応募したよ」
あくまで脊髄が運動命令を通してくれなくなっただけで、脳から発信はされているからな。
実際にやってみるまで不安はあったとは言え、大丈夫だとは思っていたんだ。
「そして運良くベータテスターになれた俺は、すぐさまこの世界に飛び込んだ」
「ベーター、だったんですね」
「そうだよ。……あの時の嬉しさは今度もずっと忘れない。もう二度と走ることは出来ないと言われた脚が、自由に動かせるんだ。泣きながら草地を走り回ったよ」
泣きながら走り回って、
泣いてるせいで視界が不明瞭になって転んで、
それでも嬉し涙が止まらない。
この記憶は、強く焼き付けられている。
俺がVRMMORPGに憑りつかれたのも当然と言える。
「結局、楽しく遊び回れると思っていたこのゲームは、制作者本人によって恐ろしい死のゲームと化してしまったけれど……」
「そう、ですね……」
彼女は情報が十分に出回り、気を付ければ十分に遊べる範囲でSAOを冒険している、所謂《中層》プレイヤーだ。
つまり彼女も死を強く恐れているんだ。
「最初の一ヶ月は怖くて始まりの街から出られなかったよ。でも、街の中に居る色んなプレイヤーを見て、俺は一つ決心をしたんだ」
「決心、ですか?」
「ああ。俺は現実世界では助けられてばっかりだ。だからせめて、自由に身体を動かせるゲーム内だけでは助ける側になりたいと」
そう言うと、シリカは俺の顔をジッと見つめてくる。
彼女の中で俺に対する抵抗感はほとんど無くなったらしい。
「だから、むしろこっちがシリカにお願いしたいんだ」
「え? カインさんがですか?」
「俺は困っている人を見捨てたくないんだ。だから、少し言い方は悪くなるけど……シリカだから助けたいってわけじゃないんだ。俺の我が儘なんだよ」
シリカは少しだけ残念そうに眉尻を下げる。
自分を軽んじられたような言い方だからな、仕方ない。
「俺に、君を助けさせてもらえないかな?」
とはいえまずは全てを話しきる。
これが嘘偽りない俺の本意だから。
少し不安はあったが、シリカの頬が緩んだ。
「……はい。宜しくお願いします、カインさん」
「ありがとう。よろしく、シリカ」
明日、一緒に47層へと行く約束を取り付けることが出来た俺たちは、それぞれの宿部屋へと戻った。
そして47層で、俺たちは無事にピナの蘇生に成功した。
道中、シリカはずっと俺に笑顔を向けてくれていた。
同行してくれるパートナーが笑ってくれていると、こっちも嬉しくなれる。
しかし街へと戻る直後、別の事件が発生した。
シリカが《迷いの森》で離脱したパーティーメンバーの一人が、彼女に仕返す為と言って仲間を連れてきたのだ。
そいつはプレイヤーキルを行ったレッドプレイヤーでこそなかったが、殺人ギルド《ラフィン・コフィン》の一員であることが判明する。
「悪いけど、それじゃあ俺には届かないよ」
「こ、こいつ、攻略プレイヤーだ!!」
結果だけ言えば、仲間を含めた敵全員が俺のレベルを下回っていた為、自動回復分も削れずに退散してくれた。
そのせいでシリカに俺が攻略層のプレイヤーだとバレてしまったが。
……特別隠していたわけではないけどさ。
でもシリカは大きなショックを受けていた。
「ごめんな、黙ってて」
「行っちゃうんですね……カインさん」
「こういった人助けも大事だけど、やっぱり一番の人助けはみんなをこの死と隣り合わせの世界から解放してあげること、だからね」
無事に街まで帰ることが出来た俺たちは、すぐさま別階層へワープする為のポータルに来ていた。
そこでシリカと別れる前の最後の会話をしていたのだが、彼女の表情は使い魔のピナがいなくなった時とほぼ同列の表情になっていた。
その顔を見て助けようと決めた俺の性分的に……どうにも無視できなくなってしまう。
(……そうだ。アレがあるじゃないか)
俺の脳裏には一つの思い当たりがあった。
「また会えるさ、シリカ」
「……はい」
シリカは顔を伏せたまま、頷いてくれた。
まあ彼女にこれを頼むにはまだ少し準備が必要だからな。
そんなことを考えつつも、俺もシリカと再会できることに内心喜んでいる節があった。
──
───
────
あれからかなりの時間が経過した。
俺たちは始まりの街でデスゲームの開始を聞かされてから……もう二年が経過した。
それまでには色々あった。
そしてまだゴールの100層にはまだ遠い。
第75層のボス・スカルリーパー。
74層のボスから一気に手ごわさが上がり、俺たちはより一層結託してボスに挑んだ。
最小限の犠牲で、ボスは討伐された。
《大盾》と《二刀流》というユニークスキルを持つ二人のプレイヤーがいたから、とも言える。
ボス戦から解放された喜びと疲れで皆が束の間の寛ぎを楽しもうとした時──
「……やはり、貴方だったんですね。ヒースクリフ、いや──茅場晶彦」
キリトが不意の死角からヒースクリフを攻撃し、本来不可能な動きでそれを避けた彼の正体を見破ったのだ。
正直なところ、俺も茅場晶彦がプレイヤーとして潜り込んでいたことは想定していたし、ヒースクリフは候補の一人ではあった。
だが、まさかここであいつが当てるとはな……。
「流石だよ、キリトくん。その褒美として、キミには特別にここで私と戦う権利を与えよう」
そういってヒースクリフが指を鳴らすと、キリト以外のプレイヤー全員が床に倒れてしまう。
勿論、俺も例に漏れず。
管理者権限により、強制的に麻痺状態にさせられたのだ。
そして、キリトとヒースクリフの1対1が始まってしまった。
(くそ……っ!! これじゃ、あの努力が台無しじゃねーか!!!)
激しく鳴り響く剣戟の音を聞きながら、俺は悔しさで歯を食いしばった。
何故なら俺はずっとこの時を待ち望んでいたからだ。
茅場晶彦を戦う時を──。
**
「あ、カインさん!」
「シリカ、久しぶりだな」
「はい! 本当に……また会えるなんて」
俺はあの時の約束通り、シリカと再会した。
勿論、その時に想定していた頼みごとを彼女にする為だ。
「それでカインさん、私にお願いごとって……なんですか?」
「ああ。フィールドに移動しながら話すよ。あんま、他の奴に聞かれたくないからね」
俺はそう言って、シリカと共に街の外へと歩いていった。
「茅場晶彦との、決闘……ですか」
「ああ。その時は必ず来る。こんなスゴいゲーム作っといて、高みの見物だけってのは勿体ないってのは誰だって思うことだろ?」
「それは確かにそうですね……」
周りにプレイヤーの気配もないフィールドエリアまで辿り着いた俺は、話を始めた。
隣で話を聞いているシリカの距離が前より近い気がするが、まあ気にすることもないだろう。
「そしてあいつはこのゲームを知り尽くしている。ソードスキルなんて使おうものなら、連撃全てを見切られて隙の部分に的確に反撃を入れられるだけだ」
「た、確かにそうかもしれません!」
「だから必要なんだよ、ソードスキルに頼らない剣術が」
俺はそう言いつつ、ウインドウを開いて剣をアイテムパックから取り出す。
だがフィールドに出ている以上、俺は既に一本の剣を背中にしょっている。
つまりこれは二本目。
「だから付き合って欲しいんだ。──二刀流の特訓にさ」
「に、二刀流ですか!!?」
シリカは分かりやすく、目を丸くして驚いてくれた。
だから俺はもう少し丁寧に教えてあげることにした。
二刀流は本来ユニークスキルであること。
それを所持しているプレイヤーからソードスキルを一通り見せてもらったこと。
そしてそれをマスターしたいと。
……まあシリカは攻略組じゃないし、教えても問題ないだろう。
悪いな、キリト。
「で、でもカインさんはそのユニークスキルを持ってないんですよね?」
「勿の論だ。だから俺はソードスキルを放てないし、それどころか剣の振りのアシストすら存在しない」
「そ、そんなの無茶ですよ!」
システムアシストすら頼らない剣の訓練。
それはもう、本物の剣士になると言っているようなものだ。
数ヶ月、いや数年程度でだってどうにかなるものではない。
だからシリカは、せめて普通の武器種でソードスキルを使わない戦い方を学ぶべきだと提案してきた。
しかしそれではいざという時に暴発する恐れがある。
窮地に追い込まれた時、人間は咄嗟に慣れた動きをしてしまう生き物だからな。
「シリカの言う通り、まだ俺の二刀流はまともに振れたもんじゃない。だから訓練の間、護衛を頼みたいんだ」
「護衛……ですか?」
「この状態でモンスターに襲われたらひとたまりもないだろ? だからピナにも協力してもらって、モンスターが現れそうになったら警告して欲しいんだ」
そうなれば、パパッと剣一本をストレージにしまえばいいからな。
俺は本来槍使いだが、キリトの二刀流を目撃してからは、片手剣のスキルも習得するようにしたんだ。
その後、シリカは護衛の頼みを承諾してくれた。
だから俺は攻略の合間を縫って、度々彼女と会って二刀流の特訓を続けたんだ。
最終的には、中層程度のモンスターなら倒せる程度には仕上がっていた。
(このペースを維持できれば、100層に辿り着くことには渡り合えるレベルにまで行けるハズだ)
俺はそう確信した。
**
(まさか、こんなに早く奴との決闘が行われるなんて……っ)
実際には俺は茅場晶彦との戦いの舞台にすら上がれなかった。
あの特訓は無意味だったのだろうか。
(あれは……)
そんな時、俺の視界の右端にあるアイテムが目に入った。
それは麻痺状態を回復するのに使用する消痺結晶だ。
(あれが……使えれば……!)
この麻痺は茅場が管理者権限によって付与した麻痺だ。
アイテムは効かないと考えるのが定石だ。
だが目の前に可能性がある以上、縋らずにはいられなかった。
シリカと共に鍛えた二刀流を無駄にはしたくない。
その一心で。
それでも俺の右腕は動かない。
──同じだ。
これは俺の現実の右腕と同じなんだ。
今の俺のアバターは、全身麻痺状態の現実を彷彿とさせる。
(何も……できないのか……俺は)
視界の奥ではキリトとヒースクリフが死闘を続けている。
しかし、大盾による強靭な守りとユニークスキルによる鈍重な攻撃が、確実にキリトを押している。
いつキリトが焦り、ソードスキルを暴発してしまうか、もう時間の問題のように見えた。
(くそがああああ!!)
俺は右腕に全身全霊を込める。
ビキビキという幻の音が俺の耳には聞こえてくる。
そして、右腕の悲鳴のような強烈な痛みも。
アバターではこんな痛みは発生しない。
だが俺は知っている。
この痛みは、現実の俺はリハビリをしようと麻痺している身体に強引に力を込めた時に感じたものを全く一緒だ。
現実の俺は、それで諦めてしまった。
医者に「もう動かすのは難しい」と言われたからもあるかもしれない。
でも俺は逃げてしまったんだ。
だが……
俺はもう……
『カインさん! カインさんならきっと出来ます! 私、信じてますからねっ』
俺は心に誓ったんだ!!
俺が──茅場晶彦を倒すんだって!!!
その瞬間、キリトがソードスキルを暴発させてしまった。
彼自身マズいとは思ったが、もう発動した連撃が止まることはない。
それを待っていたと言わんばかりに、ヒースクリフはキリトの連撃を防いでいく。
最後に訪れる、大きな隙を狙って。
(させるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)
プルプルと、右腕が震える。
普段と比べれば格段に遅い。
でも、動いていた。
幻痛は現実で味わったものより格段に強くなっている。
なのに俺はもうそれをほとんど認識していなかった。
そして俺は、
右手で消痺結晶を掴みとり、
握りつぶすようにして発動させた。
「茅場、晶彦おおおおおおおおおっっ!!!!」
「「っ!!!」」
全身の痺れが無くなった俺は、背中の剣を抜き、全速力で二人の間に入り込む。
キリトの連撃を全ていなしきったヒースクリフが放った止めの一太刀を、俺の剣が止める。
「カイン!!?」
「……ほお。あの麻痺状態を脱したと言うのかね」
ヒースクリフは冷静な物言いだったが、その目が大きく見開かれていた。
あいつは盾を構えつつも、ウインドウを開いて何かを確認している。
俺はその隙にキリトに駆け寄る。
「キリト、大丈夫か」
「あ、ああ……お前のお陰で、何とか」
あの一撃が自分にとっての致命傷であることが分かっていたキリトは半ば放心状態だった。
現実であれば脂汗でびっしょりになっていたことだろう。
「ふむ……。私の強制麻痺そのものは解除されていないようだが……」
ヒースクリフはウインドウで俺のステータス異常の確認をしていたようだ。
確かにもう、俺の身体にまだ痺れのようなものが残っている。
いくらか体の動きが鈍っているとは思う。
だがもう、動けない程ではない。
しかし次の瞬間、その痺れはスーッと消えていった。
「面白い。自力で戦いの場に赴くことが出来た君を讃えて、この決戦に参加することを許可しよう」
最後にウインドウをタップしたヒースクリフは剣を構え直しながら言ってきた。
どうやら俺の強制麻痺だけは解除してくれたようだ。
今度は俺はウインドウを開き、ストレージに入れてあった剣を一本取り出す。
そして背中の剣を今一度引き抜く。
「……その言葉を待っていたぜ。俺はずっと、あんたと戦う時を待っていたんだ!」
「! 二刀流かい? しかし君にそのスキルは存在しない」
「んなこと分かってる。だがソードスキルも、システムアシストもあんたとの戦いにとっては邪魔なものだ。──だから俺は、《本物の剣》で戦う」
この場に居る俺以外のプレイヤー全員が驚いているのが目に見えて分かる。
普通なら、そんなもの自殺行為だからな。
だが、ヒースクリフはすぐに俺の本気を感じ取ったようだ。
「──まさか、君のようなプレイヤーが現れるとはね。先程のは愚問だったようだ、撤回しよう」
ヒースクリフは笑っていた。
今までに見たことがない微笑み。
初めて、ヒースクリフが俺のことを見たような気がした。
「カイン、本当に大丈夫なのか?」
「お前に見せてもらってから、ずっと特訓してきたんだ。もう後には引けねーよ」
気を取り戻していたキリトが俺の横に並び、最後の確認を取ってくる。
勿論、俺は自信たっぷりに頷いてやる。
正直言えば不安はある。
茅場晶彦本人と戦うのは、早くても90層以降だと思っていたから、俺の我流二刀流はまだ未完成だ。
けれど、キリトと協力できるなら、あいつにきっと敵う。
「……そっか。なら、任せた」
「ああ、お前の背中は守ってやるぜ!」
俺とキリトはお互いの剣を軽くぶつける。
キィンという音が、胸に心地よく鳴り響いた。
「行くぞ!」
「おう!」
「来たまえ!」
ヒースクリフとキリトと俺。
三人の剣士による最後の戦いが、今度こそ始まったのだった。
個人的にゲームがバグったからヒースクリフがキリトに負けたというのが少し納得できなくて、オリジナル主人公と共闘するという展開を考えました。
まあ麻痺状態の解除に関しては少し強引かもしれませんが、そこはご容赦を。