SAO~Real in the Fiction~ 作:マンソン
ようやくストレア登場です。
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ボスが消滅し、本来なら静まり返っている75層ボスエリア。
しかしそこでは未だに剣戟が鳴り響いていた。
「はぁっ!」
キリトが右手に持つ剣で斬りかかる。
ヒースクリフはそれを盾で受け流す。
それでもキリトはすぐさま左手の剣での連撃に切り替える。
しかしそれもまた剣を合わされることで流される。
キリトはソードスキルを発動していた。
ヒースクリフが攻撃を完璧に躱せるのも当然と言える。
「……」
そしてヒースクリフは連撃と連撃の合間に僅かに存在する、キリトのボディががら空きになる瞬間。
そこにピンポイントに剣を差し込みに行こうと剣を僅かに引く。
だがそこでイレギュラーが入り込む。
「そこだ!!」
「っ!」
二刀流ソードスキルを知り尽くしているのは、制作者の茅場晶彦と所持者のキリトだけではない。
キリトから見せられたそれを反復練習し続けたカインも、熟知しているのだ。
故に彼はヒースクリフは突くであろう隙のタイミングをカバーするように、一太刀を振り下ろした。
当然、ヒースクリフはそれを避けることに動力をさかねばならず、キリトへの攻撃は中断せざるを得なかった。
だがそうなれば、必然的にソードスキルの途中であるキリトの連撃が再び襲い掛かる。
「く……っ!」
ゲームの創造者であり、チートとも言える動きをすることができるヒースクリフは仮に二対一であっても有利的に戦えるハズだった。
だが、彼は確実に押されている。
その理由はやはり、カインだった。
不足している剣術を補ってくれるシステムアシストは、言い換えれば皆の剣の振り方を規格化していると言っても過言ではない。
しかし今のカインはその縛りの外に居る。
彼の剣術は、完全にヒースクリフの想定外なのだ。
**
(……くそっ)
俺は焦っていた。
今、キリトと共闘することでヒースクリフを押しているのは事実だ。
だが決定的な一打を与えることが出来ない。
(このままだと、マズい!)
システムアシストに頼らない剣術を手に入れた俺ではあるが、それはまだ付け焼刃のようなものだ。
実戦経験こそあるが、「長引かせた」ことはないのだ。
他のプレイヤーと比べて、剣の振りに圧倒的に集中力を割かねばならない俺は、その限界を感じ取り始めていたんだ。
やはり、まだ決戦に用いるには早かったのか……。
俺がそう思った時、あの現象が巻き起こった。
ズザザ……ズザザ……、と。
ボスエリアの所々がブレたのだ。
(なっ、何だ?)
まるでバグったようだ、と脳裏によぎる。
いや、これはゲーム内なんだから実際にバグっていてもおかしくはない──そんな思案の続きが思い浮かんだ直後、今自分が戦闘中であることを思いだす。
(早速、集中を途切れさせてるんじゃねえよ! 今は、ヒースクリフを倒すことだけを考えるんだ!)
少し緩んでいた剣を握る手の力を入れ直す。
キリトは今ソードスキルのクールタイム中だ。
俺が我流連撃で休ませてやらないとな。
「行くぞ!!」
両手の剣を交互に打ち込んでいく。
ヒースクリフは変わらずそれを盾を剣で受け止めているが……。
(っ!? どうした?)
俺は強烈な違和感を感じ取っていた。
連撃を受けているヒースクリフは、明らかに今まで以上に押されていた。
勿論、疲労が溜まったことで弱った可能性はある。
しかし疲労により弱るのは自分も同じ。
いや、むしろ我流剣術に精神力を消費する俺の方が、弱るペースが早いハズだ。
(理由は分からない。でもそれが好機であることに違いはない!)
俺は左手により力を込め、最後の一撃をヒースクリフに浴びせる。
無論それは盾によって防がれたが、衝撃を吸収しきれなかったヒースクリフが少し後ずさってしまう。
それを、キリトが逃さなかった。
「はあああああああああああああっ!!」
俺の脇を抜け、ヒースクリフに黒い剣を突き刺す。
体勢を崩していた彼は、ついにそれを防げずに体に受けてしまった。
一気にヒースクリフのHPゲージが0になる。
……これで、決まったのか?
「…………」
ヒースクリフは何も言わないまま、膝を地面に付け……消滅した。
「……」
「……」
俺たちは警戒を完全には解けず、沈黙のまま立っていた。
本来のボス戦なら勝利した瞬間に、それを知らせるウインドウが表示されるからだ。
しかしイレギュラーな戦闘であった今はそれが無い。
だがら実感を感じられなかったのだ。
「勝った……のか?」
「……みたい、だな」
俺とキリトはお互いの顔を見合わせて、状況の共有を行ったことでようやく構えていた剣を下ろすことが出来たのだった。
………………。
結論から言えば、茅場晶彦を倒すことに成功したにも関わらず、俺たちはSAOから解放されることは無かった。
キリトが戦いを始める前に、茅場自身がそう言っていたにも関わらずだ。
麻痺が解けて立ち上がることが出来る様になった、攻略組皆で相談し、俺たちは76層に進むことにした。
しかしそこで更なる事態が巻き起こる。
76層に出て、75層との扉が閉じた途端、そこが開かなくなってしまったのだ。
俺たちは急いでポータルも確認をしたが、想像通り75層以下の階層にアクセスできなくなっていた。
だが悪い事態はそれだけではない。
攻略組全員が所持していた武器や防具が全て文字化けしてしまっていたのだ。
性能もガタ落ちしてしまっている。
これも全て、ヒースクリフとの戦いの最中に見た謎のバグの影響なのだろうか……。
とはいえ、SAOから解放されずに次に進んだ以上、攻略組の目標は変わらない。
100層をクリアするという正当な方法で、現実世界へと帰る。
俺たちは今再び意志をまとめ、目標に向かい猛進することを再決意したのだった。
ポータルから立ち去ろうとした時、誰かがポータルから出現した音が聞こえた。
始めはピンク髪の女の子だった。
そこまで交流は無い為、俺はハッキリと思い出せなかったが、キリトとアスナが彼女と面識があったようだ。
リズベット、下の階層にて鍛冶屋を営んでいた。
けれど、来てしまったのはその子だけではなかった。
「カインさんっ!」
「し、シリカ!」
ポータルには我流二刀流の特訓に付き合ってくれた彼女も来てしまっていた。
シリカの方は俺に会えて嬉しそうだが……。
「バグのようなものが発生して、それを見ていたらカインさんのことが心配になって……」
「そうか……」
理由を説明してくれたシリカに、俺も説明をしてあげることにした。
もう、75層以下には戻れなくなってしまったことを。
「じゃあ、もう戻れないんですね……」
「ああ。来る前にメールで知らせられれば良かったんだけどな」
「──いえ、仮に事前に知ってても私は来ていたと思います」
少し残念そうな顔をしていたシリカだったが、すぐに俺の言葉を否定してきた。
「どうして?」
「だって、カインさんが降りられなくなった以上、私が行かないと会えないですから!」
笑顔でそう答えたシリカに、俺もついつられて笑ってしまう。
まあその通りだ。
彼女の行動力のお陰で、こうして再会出来たんだ。
「私、攻略組の皆さんみたいに強くはないですけど、100層を攻略するまでのお手伝いをしたいです!」
今まで《中層》プレイヤーであった彼女には危険だ。
そう言おうとした。
けれど彼女の目は真剣だった。
その決意は、攻略組の皆と相違ない。
それを突っぱねる理由を、俺は持ち合わせていなかった。
「……わかった。これからも宜しく頼むよシリカ」
「はいっ!」
手を差し伸べると、シリカは頷いてそれを両手で握り締めてくれた。
……周りからの視線が突き刺さっている事実は、意識しないように心掛けた。
ただ、バグの影響はまだ続いていた。
本来この世界には囚われていたかった二人のプレイヤーが、新たに巻き込まれてしまったのだ。
一人は街中にある林の中に佇んでいた金髪の少女だ。
彼女は俺たちを──いや、キリトを見た瞬間に叫んだ。
「お兄ちゃん」と。
話を聞くと、彼女はキリトとは義理ではあるがれっきとした妹だと言う。
どう見ても似ていないが、それは彼女がアルヴヘイム・オンラインという別のVRMMORPGで作ったアバターがそのまま適用されたかららしい。
まあ俺たちがリアルモデリングされたアバターなのは、《始まりの街》で鏡を見ちゃったせいなんだからな。
リーファというプレイヤー名である彼女は、SAO事件に巻き込まれてしまった兄が心配になり、ついナーヴギアでSAOへのログインを試みてしまったのだと言う。
……恐らくは運悪くバグが発生した時間と被ってしまったのだろう。
リーファはデスゲームに巻き込まれてしまった事実に恐怖しつつも、共に攻略を進めることに同意した。
もう一人はリーファ以上に衝撃的な出会いだった。
文字通り、空から降ってきたのだ!
その兆候のようなものが空に浮かんだ瞬間、キリトがダッシュしていなければ間に合わなかっただろう。
こちらの少女の名前はシノン。
シノンはリーファと違い、SAOにログインを試みたわけではなく、ガンゲイル・オンラインというゲームをプレイしていたら突如巻き込まれてしまったらしい。
シノンは誰とも面識がなかった上に、ちょっとした人見知りがあったのか、リーファと比べると少し会話に時間はかかったが、最終的には仲間になってくれた。
そして更なるイレギュラー。
キリトの方から何かが光ったかと思いきや、そこから黒髪の少女が現れたのだ。
この場に居るどのプレイヤーよりも幼い彼女は、キリトとアスナのことを「パパ」「ママ」と呼んでいた。
当然ながらそのことに皆が驚いたので、慌てて二人が説明を始めてくれた。
詳細な説明は省かれたが、彼女はユイと言って、元はカーディナル・システムというAIだったのだという。
しかし何故かNPCとなっていた彼女は一度消されかけたらしく、慌ててキリトが自分のナーヴギアのストレージにデータとして避難させたのだと言う。
そして今、何故か避難したハズの彼女が再びNPCアバターとして復活してきたのだ。
バグの影響なのはあからさまだが……SAO内のデータベースのある程度アクセスできるユイとしても謎なのだと言う。
結局、「パパ」「ママ」呼びについてはハッキリ言われなかったが、NPCをNPCとして扱わない二人のことなので何となくの想像はついた。
………………。
キリト、アスナ、リズベット、リーファ、シノン、ユイ、クライン、エギル、シリカ、そして俺。
ギルドを結成したわけではないが、俺たちは共に100層攻略を目指す仲間となった。
とはいえ75層での戦闘もあり、攻略を始めるのは明日ということになった。
今日の残りの時間は休息と準備に充てることになり、
俺は《アークソフィア》という名の街エリア全体の把握の為の散策を行っていた。
「……ん?」
その道中、謎の気配に気づく。
これは視線、だろうか。
誰かがずっと俺を監視しているような。
実を言うと視線を感じ取っていたのは、この街に着いてからにも何度もあった。
けれどすぐに無くなってしまったので、気のせいだと思っていたんだ。
しかしこれだけ何度も感じ取るとなれば、さすがにもう気のせいでは片づけられない。
恐らくは気配遮断のスキルが相当高いので、こうもハッキリと分からないのだろう。
(今回は俺一人だし、そろそろ誰がつけてるのか確かめておこう)
俺は人ごみのある通りから外れ、人影のない路地裏へと歩いていく。
やはり、警戒の必要性が減った為か、後ろからの視線の気配が強くなる。
そこで後ろに向かって声を掛ける。
「どうして俺の後をつける。そろそろ、姿を見せたらどうだ」
しばらくは沈黙が場にうずまいていた。
けれど遂に角に隠れていた追跡者が姿を現してくれた。
「バレちゃあしょうがないねー」
その言葉と共に見えてきたのは、薄紫のウェーブがかったミディアムヘアーの少女。
……少女と言うにはかなりグラマーな体型ではあるけど。
しかし漂わせている雰囲気には、ただならぬものがある。
「あんた、タダ者じゃないな」
「うん。カインの言う通り、あたし強いよ」
紫の少女は俺に詰め寄ってくる。
ち、近い近い!
「あたしは~、二刀流スキルを持つ《キリト》より、スキルなしで二刀流を使ったカインの方が、ずっと気になるんだよねえ」
その言葉に俺は驚きを隠せない。
キリトと共闘してヒースクリフを撃破した俺だが、それ以前から二人目のユニークスキルの所持者ということで俺よりもキリトの方が知名度が高いのは事実だ。
ヒースクリフの正体を見抜いたのはあいつだしな。
けれど驚いた理由はそこではない。
「75層のボスエリアに居たのか?」
「うん、居たよ」
俺はこのグラマーな少女には見覚えが無かった。
攻略組のメンバーはそれなりの人数ではあるし、会話をしたことがないプレイヤーも存在する。
だが顔を一度も見たことがないプレイヤーはいないと言っていい。
攻略するから攻略組なのだ。
ボスエリアの攻略にはほぼ全員が参加するからだ。
だから全く見覚えが無いというのはおかしい。
本当にこの少女はボスエリアにいたのだろうか……?
しかし少女の方は俺の思考にはお構いなしに、ぐいぐいと引っ張ってくる。
「ねーねーカイン、もっといっぱいお話ししよ? カフェとかでさ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
強引に迫ってくる少女を、どうにも上手く振り切れない。
今までには無いタイプだったからだろうか。
それとも彼女に不思議な魅力があるからか。
「いーでしょ、カイン! ねーカイン!」
「わ、分かった……。じゃあ名前を教えてくれっ」
「ストレア。あたしの名前はストレアだよ♪」
ストレアと名乗ってくれた少女は、俺の同意を得られたこともあり、腕を引っ張る力がより強くなっていった。
俺は引きずられるようにして路地裏から表通りへと連れて行かれたのだった。
……これ、ハニートラップってやつなのだろうか。
脳裏にそんな不安をよぎらせながら。
その後は彼女が望んだカフェで色んな話をした。
彼女は俺から話を聞き出そうとしていたので、ほぼ全部俺の身の上話だったのだが。
彼女は75層ボスエリアでの詳細を知っていた。
キリトが茅場の正体を暴いたことや、俺が強制麻痺でも身体を動かしたこともだ。
信じがたいが、やはりストレアはあの場に居たんだ。
散々話された後、ストレアは仲間たちとの合流を望んできた。
一波乱起きそうではあるが……ストレアなら仲良く出来るだろうと言う予感もあったので、それを承諾した。
そして俺はストレアに引っ付かれたまま、仲間たちのいるエギルの店へと戻ったわけだが、
まぁ当然、知らない女の子を引き連れて戻ってきた俺を見たみんなは驚きを顕わにしていた。
「カ、カインさん!? その人は誰なんですかっ!!?」
特にシリカが大慌てし、俺の元へ駆け寄ってくる。
俺の背中にも何故か冷や汗が浮かんでくる。
慌てて誤解を解く為の説明をしようとしたのだが、ここでストレアが余計に誤解を与えてくる。
「フフッ、私とカインはラブラブなんだよぉ~?」
「え、ええっ!!?」
ストレアの言葉を聞いたシリカは目に涙を浮かべて絶望しているように見えた。
な、何て事を言いだしたんだストレア!?
誤解を解くのには割と時間がかかった。
こんな状況でもナンパできちゃうお気楽男だと思われるのはさすがに嫌だからな……。
勿論、ナンパなんて人生でしたことないけど。
そして案の定、ストレアはあっさりとキリトたちへと馴染んでいた。
……唯一、ライバルに向けるような視線で見ているシリカを除いて。
「ま、とにもかくにも、」
俺はそこで気を取り直してみんなに声を掛ける。
「みんなで目指そう。残る層を全て攻略し、現実に戻るんだ!」
「ああ!」
キリトもそれに続いて大きく頷いてくれた。
他のみんなもハッキリと同意してくれた。
そんなわけで俺、カインによる物語の本当の幕開けとなったのだ──。
これにてインフィニティ・モーメントの導入が終了となります。
ここからはシリカルートとストレアルートで章を分けて書いていこうと考えています。
恐らくはインフィニティ・モーメントとしての本筋シナリオはほとんどカットして、そのキャラとのイベントを中心に書いていく予定です。