魔法少女リリカルなのはStrikerS ~The After Reflection/Detonation IF~   作:形右

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第二章 集結、機動六課

交錯する星々の通過点 GAS-Lost_Property_Riot_Force6

 

 

 

 きっかけは、本当に小さな出会いから。

 出会えた奇蹟が膨れ上がって、たくさんの想いが繋がり合った果てに今がある。

 

 楽しい事ばかりではなく。

 けれど、辛い事ばかりでもない。

 

 順風満帆なだけの道のりなんてどこにもなくて。

 本当は明日、共に在れるかどうかさえ不確かなままで。

 

 でも、確かに今、集まった思いは此処に在る。

 いずれ別たれる道だとしても、その夢へ向けた階段の一段目に、うら若き原石たちが足を掛けた。

 

 ここは、そんな新しい始まりの場所。

 色んな想いが繋がって、また大きくなっていくような、束の間の通過点。

 

 

 ───それぞれの目的を胸に、物語は動き出す。

 

 

 新暦八〇年、四月中旬。

 ミッド中央区画湾岸地区に置かれた隊舎にて、八神はやて率いる新部隊、『古代遺失物管理部・機動六課』が正式に発足した。

 

 

 

 

 

 

部隊始動 Start_Up.

 

 

  1

 

 新部隊の発足式を直前に控えた朝。

 機動六課本部隊舎に到着したなのはとフェイトは、到着した旨をはやてに伝えるべく、部隊長室へと向かっていた。

 が、

「~~~♪」

 何故か先へと進むなのはの足取りは、単に浮足立つという度合いを越えて軽やかであった。

「なのは、なんだか嬉しそうだね」

「えー、そうかな~♪」

 到着して顔を合わせて以降、ずっとこの調子である。

 流石に気になったらしいフェイトが「何かいいことあったの?」と訊ねるものの、なのははますます照れたような顔ではにかむばかり───しかし、ここまでくると、そろそろ見当が付いたのか、フェイトはくすりと微笑んだ。

 と、そんな益体もないやり取りをしている間に、二人は部隊長室の前に着いていた。

 それに気づき、なのはも弛んだ表情を引き締め直した。中に居るのが十年来の親友と分かっているはいえ、ここでは二人は彼女の部下に当たる。

 公私の区切りはきちんとつけねばなるまい。

 装いを正すと、なのはとフェイトは小さく視線を交わし頷き合い、扉の脇に付けられたブザーを鳴らした。

 扉の向こうから聞こえて来た「どうぞ」という招きを受けて、二人も「失礼します」と言ってその中へ。

 部隊長室に足を踏み入れると、はやてとリインが二人を出迎えてくれた。

「いらっしゃい。なのはちゃん、フェイトちゃん」

「いらっしゃいです~♪」

 にこやかに出迎えてくれたはやてたちの笑顔に、二人も穏やかに微笑んだ。

 そうして笑みを交わし合っていると、はやては二人の姿を見て、どこか感慨深そうにつぶやいた。

「三人で同じ制服姿なんは、中学校の時以来やね。なんや懐かしいなぁ」

「そうだね。三人で同じ部隊になるのも、やっぱり中学校くらいまでだったし……」

「でも部隊ではフェイトちゃんもなのはちゃんも、お仕事の関係では、執務官服とか教導隊制服でいる時間も多いかもやしれへんなー」

「まぁ、そういう時間も多いかもだけど、事務仕事とか、公の場ではこっちって事で」

「皆さん、どっちの制服姿も素敵ですよ~♪」

「にゃはは。ありがとう、リイン」

 と、昔を懐かしんだところで、「さて」と一度談笑に区切りをつけて、フェイトがなのはに視線を送る。

 それになのはも頷いて、二人は真っ直ぐはやてとリインへ向き直ると、姿勢を正し、敬礼と共に着任の挨拶を述べた。

「本日只今より、高町なのは一等空尉」

「フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウン執務官」

「両名とも、『機動六課』に出向となります」

「どうぞ、よろしくおねがいいたします」

 二人の毅然とした挨拶を受けて、はやてもまた「はい、よろしくおねがいします」と、返した。

 しかし、九歳の頃からの付き合いを思うと、いくら部隊長とその部下の関係になったとはいえ、堅苦しいままの雰囲気でいるというのは、どうにも皆性に合わなかったのだろう。程なく小さく漏れた笑みから、四人の間には再び柔らかな雰囲気が溢れ出して行った。

 それからまた談笑が始まり、通常状態のリインに合ったサイズの仕事机(ワークデスク)を書庫にやって来ていたイリスが作ってくれたという話や、部屋割りの話などへ移行していった。

「とりあえず、部屋は隊長と副隊長で『スターズ』、『ライトニング』と分けてみたよ。ティアナとスバルはずっとコンビやったみたいやから相部屋で、エリオとキャロは男女の組み合わせやけど……まあ、今はまだ兄妹みたいなもんやからね」

「ホントはフェイトさんと同じ部屋に、っていう話もあったですが、二人も背伸びしたいお年頃なんですかね~。隊長と部下になったから、同じ部屋じゃない方がって希望が出されてました」

「…………確かに、ね。その方が、部隊の運営的には楽ではあるんだけどね……。でも、少しくらい……」

 迷って欲しかったなぁ、と、なのはとはやては、フェイトの声に成らない呟きが聞こえた気がした。

 二人とも一年前くらいまでは一緒に寝てくれていたという話は聞いていたが、ここ一年ばかりの間に局員として本格的に動き始めた所為か、どうにも独り立ちみたいな心がエリオとキャロに根付き始めているらしい。……尤も、エリオの方はもう少し違う理由もあったかもしれないが。

(そろそろママと大好きな子と同じベッドゆーのも恥ずかしくなってきたんやろ~なぁ)

(エリオも男の子ですからね~)

 三人で寝られるくらいのベッドを探してきたフェイトの話を聞いて、エリオがちょっと赤くなっていたのを思い出し、はやてとリインはそんなことを思った。

 ちなみにエリオとキャロの部屋は両サイドにベッドを置いて、真ん中に仕切り(カーテン)を置くような形になっている。そして、用意されてしまったベッドはもったいないので、そのままなのはとフェイトの部屋へ移動されることになった。

(でも、なのはちゃんも結構その辺抵抗あらへんよなー。まぁわたしらも似たような感じかもやけど)

 というか、なのはの場合は昔、ユーノが男の子だと判った後も一緒に寝ていたくらいなので、今更かとはやては思い直した。普通に幼少期から父や男兄弟に可愛がられた末っ子気質なのかもしれない。

 そんな益体もない事を考えていたところで、また部隊長室の呼び鈴(ブザー)が鳴った。

 どうぞ、と招き入れると、今度は眼鏡と紫の髪が印象的な、理知的な雰囲気の青年が入って来た。

「失礼します、八神部隊長にご報告が───あっ。高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご到着なされていたんですね。どうも、ご無沙汰しています」

 見た目に違わず、真面目そうな声音で挨拶してきた青年にそう挨拶をされ、なのはとフェイトはポカンと呆ける。

 が、直ぐに見知っていたはずの面影を見て取り、驚き交じりに問い返す。

「え……もしかして、グリフィスくん?」

「はい。グリフィス・ロウランです。お久しぶりです」

「うんうん、久しぶり~! っていうかすごい、すごい成長してる!」

「うん……前に合った時は、まだシャーリーともそんなに変わらなかったのに。もう、わたしたちよりだいぶ高いね」

「そ、その節はお世話になりました」

 フェイトが四年ほど前に任務で一緒になった時を思い返しながら、手で背丈を測るような動きをする。副官だったシャーリーからちょくちょく話は聞いていたが、実際に見ると随分と印象が違うものだ。

 シャーリーと同い年なので、グリフィスはまだ十九歳。

 母譲りの雰囲気のためか大人びて見えるが、少年と青年の狭間にある年頃の男子は、数年でがらりと印象が変わるものだなと、フェイトはかつての兄や幼馴染の事を思い返しながら、改めてそう思った。

「グリフィスくんは六課ではわたしの副官で、交替部隊の責任者を務めてくれてるんよ」

「運営関係も、色々手伝ってくれてるですよ~」

 はやてがそう紹介すると、「そっか」とフェイトは頷き、シャーリー共々、立派になっていく後輩を頼もしく思った。

「そういえば、お母さん……レティ提督はお元気?」

「はい、おかげさまで。リンディ総務統括官ともよくお会いしている様で、此方も母がお世話になっております」

 母同士が親しくしている事もあり、近況の話題には事欠かない。───が、グリフィスは部隊長室へやって来た当初の目的を思い出し、「しまった」とばかりに慌てて、再度はやてに報告の許可を取る。

「す、すみません部隊長。遅れましたが、報告してもよろしいでしょうか?」

「うん、どうぞ」

「はいっ。フォワード四名を始め、機動六課部隊員とスタッフ、全員揃いました。今はロビーに集合、待機させています」

「そっか、結構早かったなあ。ほんなら、なのはちゃん、フェイトちゃん。早速、部隊のみんなにご挨拶や」

 はやての言葉を受けて、二人は「うん」と頷いた。そうしてグリフィスの案内で、四人は本日より『機動六課』として共に歩む精鋭たちの元へと向かった。

 

  2

 

 それから十分ばかりが経過した後。

 本部隊舎中央ロビーにて、そこに立ち並ぶ若き精鋭たちを前に、はやては部隊発足の挨拶式を行っていた。

 壇上に立つはやてに、部隊員たちは姿勢を正し、彼女の言葉に耳を傾けた。

「機動六課・課長。そして、この本部隊舎の総部隊長、八神はやてです。本日より、わたしたちの部隊、機動六課が正式に発足と相成りました。平和と法の守護者……時空管理局の部隊として、事件に立ち向かい、人々を守っていく事がわたしたちの使命であり、成すべき事です」

 柔らかな声音と小柄な見た目に反して、はやての言葉は凛と場に響いていた。皆静かに、その声に聞き入りながら、どこか真剣な眼差しで続きを待つ。

「この部隊は育成部隊でもありますが、その性質上、実戦に出向く機会も多くなってきます。わたしたちが立ち向かうものは、確かに脅威です。ですが、ここに集まったメンバーの力は、決してそれに劣るものではありません。

 実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ、優れた専門技術の持ち主の、メカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって、それらの脅威に立ち向かっていけると信じています」

 ハッキリと通る声でそう告げて、はやては小さく微笑んだ。

「ま。長い挨拶は嫌われるんで……以上、ここまで。機動六課・課長および部隊長、八神はやてでした」

 そして、彼女の締めの言葉を受け、部隊員たちは盛大な拍手で以て、これより自分たちを統括するはやてを暖かく迎えたのだった。

 

  3

 

 挨拶式が終わり、一同は解散し、それぞれの持ち場へと向かって行った。

 なのはとヴィータは早速新人たちを訓練場に案内し、フェイトははやてと共に地上本部へ出向く準備のために部屋へ戻ろうとして、その途中、廊下を歩くシグナムと出くわした。

「シグナム」

「ん? ああ、テスタロッサか。久しぶりだな。直接会うのは半年振りになるか」

「そうですね。ホント、お久しぶりです」

 八神家の面々との交流は普段から多い方だが、ここ最近は部隊の稼働に向けて忙しい時期が続いた事もあって、面と向かって会う機会は少なかった。

 何より、

「考えてみると……ちゃんと同じ部隊になるのは、初めてですね」

 そう。アースラ時代や新宿支局、執務官として活動する中での任務や訓練など、同じ事件に挑む事は多々あったが、彼女らが同じ部隊に所属を同じくするのは、意外にも六課が初めてである。

 シグナムも、言われてみればそうだな、とフェイトの言葉に頷いた。

「始まったばかりで、色々大変だとは思いますが、どうぞよろしくお願いしますね」

 そういって微笑むフェイトに、「こちらの台詞だ」とシグナムも笑みを返した。しかし、年齢を重ねた事もあってか、かつてよりもフェイトの口調がかなり柔らかくなっている気がすると、シグナムは思った。

 最初に会った頃は中性的、というより、どちらかと言えば堅く、かなり起伏の少ない声音だった。それがすっかり柔らかくなったのは、子供の頃から見守って来た側としては感慨深いものもある。

 だが、柔らかくなったのは声音ばかりで、長く見守って来ただけに、すっかり大人びた話し方をされると、なんだか畏まっているようで、どこかむず痒いような気もする。

「子供の頃と同じように、もう少し砕けた口調でも良いのだがな。だいたい、六課(ここ)ではお前は、私の直属の上官なのだぞ?」

 シグナムはそういうが、一応分隊長と副隊長ともなれば、公私の区切りはある程度必要になって来るだろう。

 というより、見守られてきた側は見守られてきた側で、例え背丈が近くなっても、やはりかつて大人と子供だった頃の記憶は、なかなか薄れないものである。

「それがまた……なんとも、落ち着かないんですが」

 だからという訳でもないが、フェイトはちょっと困ったような笑みを浮かべた。しかし、そんな反応が面白かったのか、大人げなくシグナムは更にフェイトを揶揄ってくる。

「ふむ……まあ、上司と部下だからな。そうなると、テスタロッサに『お前』呼ばわりもよくないか。公私のけじめを付けるなら、これからは敬語で喋った方が良いか?」

「そ、そういうイジワルは止めてください。良いですよ、テスタロッサで。お前で」

「ならば、そうさせてもらうとしよう。けれどお前も、偶には気を張らずに喋ってくれると助かる」

「……はい」

 見守る側になってだいぶ経つが、未だ子供扱いの抜けない烈火の将に、フェイトはまだまだ敵わなそうだなと溜息を吐いた。

 が、少々落ち込んだフェイトを他所に、シグナムはそういえばと、この後の予定について聞いて来た。

「この後はどうするんだ? テスタロッサ。私は新人たちの様子を見に行くが」

「あ、この後ははやてと地上本部の方に、部隊発足の挨拶と、任務表明に行く予定で……」

「そうか。では、此方の警護などは任せておけ。主はやてを頼んだぞ、分隊長?」

「もう……イジワルですね、本当に」

 弄ばれ、やや愚痴っぽい言い草にはなってしまったが、フェイトは最期には「はい」と応えて、シグナムと別れた。

 そして、フェイトと別れたシグナムは、早速これから育てていく原石たちの様子を確認しておくべく、訓練場の方へと足を進めて行った。

 

  4

 

「そういえば……四人とも、お互いの自己紹介とかはもう済んだ?」

 新人たちを訓練場に案内する最中、なのはは後ろから着いてくるスバルたちへ向け、そう訊ねた。

「あ、えっと……」

「名前と、経験や技能(スキル)の確認はしました」

「あと部隊分けと、指揮合図(コールサイン)もです」

 ティアナとエリオがそう応えると、なのはは「そっか」と一つ頷いた。

 まだ完全に打ち解けたという程ではないが、コミュニケーションは取れている様だ。特に衝突している様子もなく、皆向上心が強いタイプであるから、しばらく訓練などで共に過ごせば自然と中も深まって行くだろう。そう判断し、なのはは新人四人に向けて、「じゃあ早速、訓練に入りたいんだけど、良いかな?」と問うた。

 ティアナを筆頭に、スバルたちも「はいっ!」と威勢よくそれに応じる。

 その声を受けて、なのはも改めて満足そうに頷き、新人たちを連れ、再度訓練場へと向かっていった。

 

  5

 

 訓練場に着くと、なのはは新人たちに訓練着に着替えて、準備運動を済ませておくように指示を出した。そうして四人が駆け出して行ったところで、合流してきたヴィータと共に戦技教導用の制服に着替えると、二人でこれから行う模擬戦の準備に掛かった。

 機動六課の訓練場は、屋外の臨海部分に置かれている。

 主に使用されているのは、今新人四人は準備運動(ウォーミングアップ)に使っている隊舎周辺の走路(トラック)区画と、海上に拡張された模擬戦場(シミュレーション)用区画の二つ。

 細かな確認などは、周辺の森林区画で行ったりもする事もあるだろうが、それは基礎が固まってからの話だ。

 今日これから行う模擬戦の舞台となる海上区画は、一見すると単なる板張りに過ぎない様に見えるが、魔法戦技の訓練用にちょっとした工夫が施されている。

 そして、その要となるシステムを組み上げたのが。

「なのはさーん、ヴィータさーん」

「あ、シャーリー!」

 今しがた駆けつけて来てくれた、丸っこい眼鏡をかけたロングヘアの女性局員。六課の通信主任兼技術主任(メカニックデザイナー)のシャリオ・フィニーノ一等陸士である。

 彼女はグリフィスの幼馴染で、以前からなのはたちと交流のある後輩局員の一人だ。

 元々は技術畑の人間であり、なのはたちが魔法に出会った当初、カートリッジシステムなどを搭載する際にお世話になった、当時本局で運用部直属の技術官を務めていたマリエルの愛弟子でもある。

 しかし、機械好きが高じていつの間にかデバイス以外にまで手を広げる様になり、あれよあれよという間に通信士としての腕を上げ、少し前まではフェイトの執務官補佐も務めていたというかなり珍しい経歴の持ち主だ。

 更に余談を加えると、通信士としての研修中には、当時地球の新宿支局にも出張っていた縁もあって、フェイトの義姉(あね)であるエイミィにも師事していた事も。

 フェイトの副官に着いていたのも、この時の縁があっての事らしい。そんなわけで、なのは達と縁深い技術および管制系のスペシャリストたちから学んできた彼女は、六課の運営においてかなり頼もしい存在となっている。

「久しぶりだね~。それと、お疲れさま。色々頼み込んじゃってごめんね」

「悪いな、雑務みたいなことばっかり任せっぱなしで」

「いえいえ! 正直通信主任やってるより、こっちの方が楽しいくらいなので♪」

「相変わらず、師匠(マリーさん)譲りのメカオタだなー。それでどうだった? 新人たちのデバイスの調整は」

「はい、もちろんしっかり仕上がってますよ~! っと、噂をすれば……それじゃあ、せっかくですし、詳しい説明はみんなにも一緒に」

 戻って来た新人たちの姿を捉え、シャーリーがそう二人に告げると、なのはとヴィータもそれが良い、と頷いた。

 そうして全員が揃ったところで、なのはたちは四人に預かっていたデバイスを手渡しながら、デバイスに施された使用について説明していく。

「いま返したデバイスには、データ記録用のチップが入ってるから、ちょっとだけ、大切に扱ってね。詳しい説明の方は、六課のメカニックを務めるシャーリーから。それではどうぞ♪」

「えー、ただいまご紹介に預かりました。メカニックデザイナー兼機動六課通信主任を務めております、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。みんなはシャーリーって呼ぶので、良かったらそう呼んでね。『ライトニング』の二人とはもう面識があるけど、『スターズ』の二人もそう呼んでくれたら嬉しいな。

 で。わたしの主なお仕事は、みんなのデバイスを改良したり、調整したりする事です。なので、時々訓練に関わらせてもらったりもしますが、その時はよろしく。あ、デバイスについての相談とかあったら、遠慮なく来てね? さっきなのはさんの説明にあった通り、運用データは逐一収集してるけど、使い手によって特性とか、もっと機能を先鋭化したい! みたいなのも大歓迎だから♪」

「「は、はい……」」

 一応上官の部類の筈だが、人懐っこく、かなりフレンドリーな話し方をしてくるシャーリーに、『スターズ』の二人はちょっと押され気味である。一方、『ライトニング』の二人は馴れたもので、「はいっ」と元気に返事をしていた。

 そんな四人の姿を小さく笑みを溢すと、ヴィータは気を取り直して、「それじゃ、早速訓練に入るぞ」と四人に声をかけた。

 しかし、新人たちは姿勢を正しはしたものの、「そういえば……」と顔を見合わせ、本日の内容(プログラム)を聞かされていなかった事を思い出す。

 その戸惑いをみて、ヴィータは「まー、無理もねぇか」と苦笑する。

「そう身構えんな。今日はあくまで確認、お前らが今の段階でどこまでやれるかを見るのが目的だ。リラックスして、自分たちの全力を出せるようにだけしときゃあ良い」

「うん。ヴィータ副隊長の言う通り、今日やるのは昇級試験でやったのと同じような無人機相手の模擬戦だから……新しい事を学ぶ前に、今の自分に出来る全部を思いっきり、全力全開でやって行こう」

「は、はい……あれ、でも」

「模擬戦って……ここで、ですか?」

 ヴィータとなのはの言葉に、頷きはしたものの、スバルとティアナはまだ少し状況を呑み込み切れていないようだ。

 無理もない。ついこの間、廃棄都市区画を利用しての大規模な昇級試験を経験した二人からすれば、がらんとしたこの隊舎周辺での模擬戦と言われても、いまひとつピンと来ないのだろう。

 が、なのはとて現役の教導官。当然そこに抜かりはない。

「シャーリー、お願いね?」

「はーい! では早速、機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の、陸戦用の空間シミュレーター。―――ステージ、セット♪」

 なのはの声を受け、シャーリーは組み上げた戦技教導用のシステムを起動させる。

 投射画面(モニターパネル)を幾つか指で叩くと、先程まで無機質な平面に過ぎなかった拡張区画が、一気にその姿を変えて行く。

「わ……すっご」

 目の前に現れた光景に、思わずスバルは感嘆にも似た声を漏らした。

 投影されたのは、陸戦用の仮想市街地区画。ちょうどこの前、スバルたちが試験を受けた第八空港周辺の廃棄都市区画に似通った様相をしている。

 驚いている四人に、シャーリーとなのはから、目の前の訓練区画についての説明が入る。

 曰く、ミッドチルダによく見られるタイプの市街地区画を、結界魔法を応用して疑似的に再現しているらしい。尤も、あくまで魔法の産物とはいえ、建物や障害物は実際に触れる事も出来るなど、かなり本物に近く感触に設定されており、訓練の場としては十分な仕様になっているそうだ。

「この空間シミュレーターは室内にも設定は出来るんだけど、機動六課の担当する範囲はミッドチルダ地上がメインになるから、ライトニングの二人はミッド以外の出身だし、オープンスペースでミッドの空気感に慣れてもらおうっていう目的もあるんだ」

「ま。当然、訓練が進めば市街地以外を想定した訓練もある。ミッド南部とかは未開拓の場所も多いし、そういうところでの戦闘も、ゼロじゃないだろーからな。つっても、今日の市街地だって、あたしらが絶対に守らなきゃならねー場所には変わりはねぇ。気合入れてけよ、新人ども」

 ニヤッと、不敵に笑うヴィータに、やや呆けていた新人たちの目に鋭さが戻る。

 告げた言葉がしっかり伝わってるらしいことを確かめると、ヴィータは少し笑みを穏やかにして、なのはとシャーリーと共に、新人たちを訓練区画内へと導いて行った。

 

『───よし、っと。みんな、聞こえる?』

 

 市街地内に立った四人に、なのはがそう呼びかけると、その呼びかけに、新人フォワード陣は揃って「はいっ!」と返事を返す。

 威勢の良い声音に頷き、なのはは早速シャーリーに訓練を始める準備をするように指示を出した。

『じゃあ早速、仮想敵(ターゲット)を出して行こうか。まずは軽く八体から……』

『はい。動作レベルC、攻撃精度D、ってとこですかね』

 シャーリーがパネルを操作し、新人たちの前に今回の相手役を出現させる。

 青く輝く魔法陣から出現したのは、楕円形の機械兵器。その姿を見て、ティアナは部隊への勧誘の際に見た画像を思い返した。

「ガジェット・ドローン……」

『そう。わたしたちの仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理。その目的のために、わたしたちが戦うことになるのが、このガジェット・ドローン』

『自律行動型の魔導機械。これは、近づくと王撃してくるタイプね? 分類はⅠ型。これまで確認されてるガジェットの中では一番小型だけど、攻撃は結構鋭いから、油断しちゃダメだよ~?』

 軽く釘を刺す様にシャーリーは言ったが、新人たちは既に自分たちの愛機を構え、交戦意欲十分。それを見て、なのはたち三人は目を見合わせ、新人たちに今回の訓練課題(オーダー)を発表する。

『では、第一階模擬戦訓練。任務内容(ミッション)及び目的、逃走するターゲットの破壊、もしくは捕獲。十五分以内に!』

「「「「はいっ!」」」」

 なのはの指示に、四人がそう応える。

 それを受けて、なのはとシャーリーが顔を見合わせ微笑んだ。やれやれ、といった表情のヴィータを他所に、二人は意気揚々と、

『それでは♪』

『ミッション───』

 どことなく楽しそうに、新人たちへの期待を込めて、そろって拳を掲げ、開始を告げた。

『『───スタートっ!』』

 と、なのはとシャーリーの言葉を皮切りに、四人は逃げ出したガジェットを追って、訓練場を駆けだした。

 

  6

 

 はやての元へ向かったフェイトと別れ、シグナムが訓練場前に立ち寄ると、ちょうど新人たちが訓練を始めたところだった。

 四人が走り出したところを眺めていると、「始まったようだな」と、背後から声が掛かる。

 青い毛並みをした、猛々しい狼。シグナムと同じヴォルケンリッターの一角、『盾の守護獣』こと、ザフィーラである。

「ザフィーラ。なんだ、お前もか?」

「ああ」

 言葉少なく挨拶を交わし、ザフィーラはシグナムの傍らから、新人たちの訓練の様子を観戦し始めた。

「新人たちの様子はどうだ」

「青いなりによくやっている。始まったばかりだからな……今はまだ、我武者羅に動くばかりといったところだ」

「ならば、伸びしろは問題ないようだな」

「ああ。強くなろうとする者は、何時の世も自然と出てくるものだ」

「ならば、しかと見守って行くとしよう」

「その若さを宥めるには、私もまだ大人になり切れているか、自信は無いがな」

 おどけた様に言うシグナムに、ザフィーラも小さく笑った。

 確かに、物を教える柄ではないと自負する彼女は、腕前こそ一流だが、どうにも古い騎士ゆえの気質か、戦いにおいて本気になりやすい所がある。この辺りは、彼女がライバルと認めるフェイトも似たようなもので、昔はよく彼女らに触発され、なのはやヴィータを始め、周りを巻き込んでの模擬戦が行われていた。

 そして、その度にシャマルやユーノが結界役として動員され、戦う事自体にはさほど乗り気でないものの、なのはやはやてを始め、負けず嫌いな砲撃型の面々が熱くなる度、本局の訓練室を守る為に全力を出す羽目になるのが御馴染みの光景であった。

「……しかし、早いものだ」

「そういえば、お前もエリオとキャロの面倒をよく見ていたな」

「今更だが、時代に馴染み始めているのかもしれん。ベルカでは、一〇になれば独り立ちも当たり前だったのだがな……」

「親心、というやつか?」

「……かもしれん」

 問いに返された応えに、シグナムも感慨のようなものが胸に浮かぶ。先程、フェイトと話していた時にも少し思った事ではあるが、エリオやキャロばかりではなく、ほんの少し前までは、はやてたちも彼女らにとっては『子供』だった。

 それがすっかり手足も伸び切った大人になっている、というのは、見守ってきた側からすると、目まぐるしい変化であるようにも感じられる。

 時の流れが成長として目に見えても、なかなか長く見守ると、どうにも愛着というものは拭い難い。とりわけ、護る者であるザフィーラには、それもひとしおなのだろう。

 その点では、相手の刃に熱を求めてしまう自分はまだ、親にはなり切れていないのかもしれないな、とシグナムは思った。

 と、そんなことを考えている間に、新人たちに動きがあった。どうやら、予想よりも早く動きがあるらしい。

 そうして、二人の視線が訓練場に注がれていた頃。

 六課のヘリ発着場では、はやてとフェイトが乗り込んだヘリが、中央へ向かって飛び立とうとしていた。

 

  7

 

 六課の本部隊舎に置かれた発着場では、深い緑に染められた機体(ヘリ)が飛び立つ時を待ちかねたように、その回転翼(メインローター)を唸らせていた。

 翼が刃の如く風を切る度に奏でられる轟音は、軽快な楽曲のように操縦者の心を滾らせる。

 この部隊の運用期間中は、長い付き合いになるだろう相方の姿に、六課のメインヘリパイロットを務める、ヴァイス・グランセニックは昂揚を隠しきれていなかった。

 実際、彼は挨拶式が終わって直ぐ、はやてからヘリを飛ばして欲しいとの命が下った時点から、ずっとここで早く大空へ機体を飛ばしたくてうずうずしている。シグナム辺りが見れば、相変わらずだなと呆れられそうな気もするが、こればかりは性分だ。

 男は幾つになっても、こういった浪漫から逃れ得ない生き物なのである。

 と、そんなことを考えていたところへ、背後から声が掛かった。

「あ、ヴァイスくん。もう準備出来たんか?」

「ええ。八神部隊長、それにフェイトさんとリイン曹長も。ご出発で?」

「うん。ちょう早いけど……ええかな?」

「もちろん。此方は準備万端! いつでも行けますぜ」

 威勢よくグッと親指を立てるヴァイスに、はやてとフェイトは頼もしそうに微笑み、これから乗るヘリの方へ視線を移す。

「わ……聞いてはいたけど、これかなり新しい型なんじゃない?」

「JF七〇四式。一昨年から武装隊で採用され始めた新兵器です。機動力、積載能力も一級品っすよぉ~? こんな機体に乗れるってなァ、パイロットとしては幸せでしてねぇ~!」

 フェイトの問いに、ヴァイスは機体に対する熱が再び高まったのか、どこか子供の様に語り出す。一応、彼はフェイトやはやてよりも二つばかり上なのだが、こういうところはガタイの良さとは裏腹に、非常に幼く見える。

 そうしてはしゃぐ彼を、リインが窘めに掛かる。

「むぅっ、ヴァイス陸曹!」

「??? はい?」

「嬉しいのはいいですけど、ヴァイス陸曹はみんなの生命を乗せるパイロットなんですから、ちゃんとしてないとダメですよー!」

「はいはい、わかってまさーね。リイン曹長」

「もう、ホントに分かってるですかー?」

「そりゃあもう。曹長殿のお達しとあれば、心の隅まで刻んでますとも」

 おどけた風に言葉を返すヴァイスに、リインはちょっとばかり剝れ気味である。はやてはそんな彼女を「まあまあ」と宥めつつ、早速ヴァイスに頼んでヘリを飛ばしてもらうべく、機体の中へ乗り込んだ。

「八神隊長、フェイトさん、行先はどちらに?」

 管制用のヘッドセットを装着(つけ)ながら、ヴァイスが目的地に着いて二人に訊ねた。

 すると、息の合った幼馴染らしく「首都クラナガン」、「中央管理局まで」と、二人の声が順に操縦席側へ聞こえてくる。

 それに「了解ッ!」と返して、ヴァイスは操縦桿を握り込み、共に機体を飛ばす相棒に呼びかける。

「いくぜ? ストームレイダー」

《Ok, Take off-Standby.》

 その電子音声(こえ)に合わせ、操縦桿を引き、ヘリは己が巣より飛び立ち、目的地へと向けて唸る翼で空を翔けて行った。

 

  8

 

 それから程なくして、ヘリは首都クラナガンに置かれた地上本部の中央議事センターへと到着した。

 ここまで運んでくれたヴァイスに見送られ、二人は施設の中へと足を進める。帰りは中央(こちら)から出ている交通手段を使ってもよかったのだが、ヴァイスはせっかくなので古巣の仲間に会ってくるからと、二人の用事が済むまで待っていてくれると言ってくれた。

 その気遣いに感謝しつつ、はやてとフェイトはなるべく早く用事を済ませられるようにしようと思う二人だったが───事が事だけに、それは確約できるかについては、あまり自信がなかった。

 予定時刻きっかりに指定された会議室に入ると、既にそこでは、局の重鎮たちが彼女らを静かに待ち構えていた。

「御足労願って悪かったね。八神二佐、ハラオウン執務官。では、よろしく頼むよ」

 入口付近に座っていた、本日の進行役らしい初老の男性役員がはやてに向け、話を始める様促す。それに「はい」と応じ、はやては本日ここへ来た目的である、機動六課の任務表明を開始した。

 照明を落とし、説明のための諸情報をスクリーンに映し出す。

「捜索指定遺失物───いわゆる『ロストロギア』については、皆さんよくご存じの事と思います。様々な世界で生じたオーバーテクノロジーの内、消滅した世界や、古代文明を歴史に持つ世界において発見される、危険度の高い古代遺産……」

 そう前置いて、はやてはこう続ける。

「特に、大規模な災害や事件を巻き起こす可能性のあるロストロギアに対しては、正しい管理を行わなければなりませんが……正規の手続きを経た発掘などに依らない、盗掘や密輸による流通経路(ルート)も、残念なことに未だ多く存在し続けています。

 我々、『機動六課』が設立された目的の一つが、そうしたロストロギアに対する対処という理由によるものです。わたしたちの捜査対象となる品が、こちら───第一種捜索指定ロストロギア。通称、『レリック』と呼ばれる超高エネルギー結晶体です」

 次いでスクリーンに映し出されたのは、真紅の美しい宝石だった。

 ちょうど水晶に似た、小さな六角柱型をしている。見かけには、そこらの宝飾店で売っていてもさして不自然という程でもない、簡素な結晶体だ。しかし、ロストロギアに分類されている以上、そんな見かけで危険度が決まるわけではない事を、ここに集う者たちは皆、嫌という程に知っていた。

 続く二人の言葉を待つ役員たちに向け、フェイトは『レリック』の概要を説明していく。

「このレリック、外観はただの宝石ですが……先の部隊長の言葉にもあった通り、凄まじいエネルギーを内包した品です。作成された古代文明時代においては、結晶を生体(じんたい)への埋め込み(インプラント)技術も存在した事が、調査の中で明らかになっています。ただ、ここ最近までその技術は失われ、レリック自体も失われていたものと考えられていました。ですが───」

 フェイトがそう言葉を区切り、スクリーンに映る画像(スライド)を切り替える。

「───レリックの現存。その事実が、ここ数年で発生した複数の事件から明らかになりました。これまでに確認された事例は四件。うち三件は、周辺を巻き込む大規模な災害を引き起こしています」

 切り替わったスクリーンに映し出されたのは、レリックが引き起こした災害の爪痕だった。

 一つ目の事例は、フェイトとはやても参加した、観測指定世界におけるレリックの回収任務時に起こった大規模な魔力爆発。尤も、この時点までは局も回収前の個体であった事から、『何らかの偶発的な爆発事故』として事件を処理していた。……だが、次の事件で対応を切り替えざるを得なくなる。

 それが、二つ目に起こった臨海第八空港における大規模火災。民間に死傷者こそ出なかったものの、都市区画を丸ごと巻き込んだ災害は、ミッド地上に深い傷を負わせた。しかも、先の回収任務から一週間足らずで起こった火災、その原因となったのもまた、『レリック』であった。

 ただの偶然。そう断じるには、疑わしい点が多く残る。

 失われたと考えられていた『レリック』の発見から続くように起こった、別個体による大規模災害。この時点で既に第一級指定されていたロストロギアが、時を同じくしてミッド地上に運び込まれ、同じように魔力爆発を起こす。果たして、そんな偶然が大して間も置かずに重なるものだろうか。

 確かに、爆発そのものは品が品だけに、封印の甘さといった保管上の問題や何らかの外的要因が無数に考えられるため、完全な特定は難しい。実際、ケースを失い剥き出しの状態で発見された『レリック』には何の痕跡も残されていなかったのだから。

 しかし当然ながら、それがイコール自然的と断じる証拠にはならない。

 そもそも根本的な───何故、空港に『レリック』があったのか? という疑問の答え自体は出ていないのだ。その理由が明らかに出来れば、自然的なものか、或いは人為的なものであるかの判断材料にはなり得る。そう考え、局は捜査部による『レリック』が運び込まれた経路調査を実施した。

 結果は、当然のように空港に運び込まれた『レリック』が正規のルートを通って来た品ではない、というもの。だが、ここまでは大方、疑わしいとされた時点で分かり切っていた事だ。問題は、それがどこから、誰の手によって、何の目的で運び込まれたかにある。

 そうして、捜査が本格化し、管理局が『レリック』を密輸した人物を追い始めたその矢先、二つの無人世界で再び、『レリック』による魔力爆発が起こった。───今度は疑いようのない、ヒトが悪意を持って残したであろう痕跡と共に。

「空港火災から間を置かずに起こった二つの事件において、発見されたこれらは……極めて高度な、魔力エネルギー研究施設です。ご存じの通り、無人世界を始めとした未開の世界であっても、私的な建造は違法とされています。そんなものが災害発生直後に、まるで足跡を消す様に───いえ、()()()()()()()()()()()()破棄されているのが、現地の調査員によって明らかになりました」

 フェイトの言葉に、役員たちは微かなざわつきを覗かせる。……が、少し考えれば分かる事ではあった。

 高度な魔力エネルギーを持つ『レリック』が魔力爆発を起こした近くに、同じ魔力エネルギーの研究施設が在ったというのだから。

 仮にこれが、違法な実験の末に起こった事故であり、施設を完全に破壊して逃走するというのなら、まだ理解出来る。しかし、施設は二ヶ所とも殆ど無傷のままであった。

 よしんば『レリック』が近くで施設と無関係の誤爆を起こしたのだとしても、それならば尚の事、自分たちの痕跡は消すだろう。見つからない事に賭けた線もゼロではないが、施設の規模を考えれば、あまり分の良い賭けではない。第一、ほぼ同一の研究を行う施設が、()()()()()()()()()()()()()()()()など、あるのだろうか。

 可能性としては、かなり低い。

「もちろん、現時点では推察の域を出ない仮説ではあります。ですが、これまでに二度、同じ事故(こと)を繰り返した者がいる、というのはほぼ間違いありません。また、現在でも捜査部や聖王教会、無限書庫の方々からの協力によって、引き続き過去のデータからレリックが関与する可能性のある研究を洗い出して頂いております。

 それによると、レリックの使用された記録が残されているのは主に古代ベルカ戦乱期。いわゆる諸王時代と呼ばれる年代のものが殆どで……いずれも、ロストロギアという()()()()()()()()()()然とした結末を迎えています」

 世界が発展する以上、何かしらの競争が生じる事は避けられない。より強い力を、技術をと求め過ぎれば、最後に到達するのは破滅である。

 とりわけ、魔法技術はその傾向が強い。その気になれば、個人が世界を変えられかねないまでに膨れ上がる魔導は、たったひとつ選択を違えただけでも、呆気なく世界を丸ごと消失させる事もある。古代ベルカが滅んだのも、そんな戦乱による魔法技術の運用研究と、ロストロギアの暴走が原因であったといわれているくらいだ。

 レリックは、そんな時代に生まれた代物の一つ。ただでさえ高い危険度を持つそれを、もしも───

「悪意ある、少なくとも……法や人々の平穏を守る気のない何者かがレリックを収集し、利己的な目的で蘇らせようとしているのだとしたら。極めて凶悪な、広域次元犯罪である可能性が非常に高いと言えます」

 放っておいたら、また空港火災と同じか、それ以上の事態に発展し、取り返しがつかなくなってしまうかもしれないのだと。はやてとフェイトは、レリックの危険性について、そう強く訴えた。

 説明に一区切りがついたところで、役員たちは小さく唸るように息を吐く。

 ここに集まった者なら、多少情報量に差異はあれども、誰もが各案件を耳にしてはいる。事態の重さは、一局員として理解しているハズだ。

 改めて説明を受ける事で、レリックと事態の裏にいる『何者か』に対する懸念がいっそう深まったのも事実ではある。……が、それでも任務表明としてはやや弱いといえる。まだ役員たちは、『機動六課』という部隊が必要であるという事柄については、納得できるだけの理由を二人の口から直接聞いてはいない。

「八神二佐、ハラオウン執務官。君たちの説明から、本件の持つ危険性については理解した。しかし、広域捜査が必要であるのなら、それは地上部隊ではなく本局……そうでなくとも、捜査部の管轄となるものではないかね?」

 当然、確認のための質問が投げかけられる。これに対しはやては、「もちろん、捜査自体は地上・本局を問わず協力しながら行う事になると思います」と応えてから、こう続けた。

「いま少将の仰られた通り、単に捜査というだけなら、六課という新設部隊を用意する必要性はあまり高くありません。ですが、六課という部隊の目的は、単純な遺失物捜査のみではなく、もう一つ。新人局員の『育成』を念頭に置いたものでもあるんです」

 育成という部分に、役員たちは首を傾げた。無理もない。管理局に勤めている人間ならば、ごく自然な反応である。

 確かに、『新人を育てる』のならば、それこそ訓練校や教導隊に任せるのが通例だ。長年培ったノウハウがある分、新設部隊よりも相応しいと言えよう。だが、はやてたちの目指す育成は、単純な『局の魔導師』を育てたり、『強い魔導師』を育てる事のみを目指したものではない。

「こちらを」

 切り替わったスライドを指しながら、はやては続ける。

「レリックと同様……ここ数年の間、局内でも問題になっている存在ですので、コレについては皆さん既にご存じの事と思います」

「ガジェット・ドローンか……」

「はい。レリックをはじめ、特定のロストロギアの反応を捜索し、それを回収しようとする自律行動型の魔導機械……小型ながら強いAMFを有しており、単純な魔法攻撃なら殆ど無効化してしまうほどの性能を持っています。

 ガジェットは、回収に重きを置いた行動を取る事や、過去に鹵獲した機体を技術部の調査で、何者かに使役されている可能性が高いとされています。ロストロギアに付随して現れるため、我々管理局としては早急に対処法を考えなければならない厄介な代物です」

「わたしたち六課としては、このガジェットを使役する者が、先程の施設建造を行った人物と関係が深いとみています」

「なるほど……つまり、六課の目指す育成というのは」

「ええ。レリックを追いながら、実戦の中でAMFに対抗できる魔導師を育てる。それが、機動六課の一番基本となる部分です」

 はやてがそう応えると、役員たちは一応の納得を得たようだった。

 確かに、最近ではガジェットがミッド地上に出現する例も出てきているため、『レリック』やそれに類するロストロギアがミッド周辺の世界に在る可能性は高い。尤も、これ自体は副次的な事なのだろう。

 先程の説明を加味した上で、改めて六課の部隊編成を見れば、それは一目瞭然であった。

 『レリック』を追う上で、ある程度の範囲を捜査するのを見越して、執務官であるフェイトをその主軸に据え、捜査中に行われる育成面では、教導隊から呼ばれたなのはが新人たちの教導を行う。

 そして、実戦に置いてもサポート体制は万全だ。はやての保有戦力であるシグナムとヴィータ、医務局で名の通ったシャマルを始め、バックヤードも今後が期待される新人たちばかり。能力自体は申し分ない。

 何より、この編成にはもう一つ意味がある。

 かつて同じ場所にいた者たちや、個人的な繋がりの深い面子で固められている事から、発足以前より身内部隊などと揶揄される六課だったが、これも実戦を見越してとなれば、話は変わってくる。

 局内にもAMFに対抗する訓練メニューがない訳ではないが、実際にAMFやそれに類する『魔法を封じる相手』と戦った事がある人間は非常に限られる。その点でいえば、はやてたちは稀有な人間であるといえよう。

 彼女らは十三年前に地球で起こった事件において、魔法を無効化する『フォーミュラ』との戦闘を経験し、一〇年前と四年前にもAMFを有するガジェットたちを撃破した経験を持っている。教え、支える側としてはこれ以上ない存在だ。

 加えて、先程の空港火災の例を挙げた辺り、再び似た事態が発生する事も、もしかしたら見越しているのかもしれない。フォワードに所属する四人のうち二人は、魔導師としての適性もさることながら、災害担当として若いながらに目覚ましい活躍をしていたと聞く。

 万が一、空港火災と同じ事態が起こり、そこにAMFを有する魔導師の救助活動を阻害する敵がいても、対抗できる人材がいるのといないのではかなり状況が変わって来る。

 実戦の中で研鑽を重ね、いままで例の少なかった育成の先駆けとなる。そういった意味で、六課は運用が成功すれば、非常に意義のあるものとなるだろう。───尤も、あくまでそれは、成功すればの話だが。

 如何な強力な力を集めても、使いこなせなければ何の意味もない。机の上で論理を綴るばかりではなく、戦いの中で証明するのならば尚のこと結果が重要となって来る。

 賭ける金額を吊り上げるならば、失敗する時に失うものも多いのもまた必然。結局のところ定石から外れた『六課』という存在は、その時になって初めて価値が決まる。

 だからこそ、見極めなければならない。

 果たしてそこに、賭けるだけの価値があるのか。そして、それを受ける側も、掲げた理念を信じ続けられるのかを。

 そうして、それぞれの思惑と意義を示す為に、再びゆるりと歯車は動き出した。

 

 

 

 

 

 

弾丸に宿した矜持 Break_Down_the_Walls.

 

 

  1

 

 はやてとフェイトが、中央でお偉方を前にしている頃。

 六課訓練場では、新人たちが与えられた任務(かだい)を熟すため、隊長たちが見守る中、標的となるガジェット・ドローンを追って、仮想市街地区画を駆けまわっていた。

 しかし、

「おわっ! 何コレ、動き速……ッ⁉」

 思いの外素早いガジェットたちの機動に、新人たちは苦戦を強いられていた。普段なら機動力に自信のあるスバルとエリオでさえ、標的の動きを未だ捉えられていない。

「せやぁあああッ‼」

 スバルの攻撃を躱した群れへ向けて、エリオが魔力を乗せた斬撃を放つ。空気を圧縮し、加速させ刃として撃ち出す『ルフトメッサー』は、かなり高い威力を有する技ではあったが、ガジェットたちはその攻撃を難なく回避する。

「ダメだっ……ふわふわ避けられて、当たらない」

 エリオは、悔しげに歯噛みする。無理もない。実際、直線的な速度でいえば、エリオたちの方がガジェットより速いのだ。それでも捉えられないのは、ひとえにⅠ型の持つ浮遊機動にある。

 飛行と一口に言っても、その種別は様々ある。現状を喩えるなら、ジェット機とヘリコプターの関係が近いだろうか。

 そう。入り組んだ市街地では、単純な速さよりも、精密な小回りの方が有利に働く。おまけに、エリオたちには足場が必要だが、ガジェットたちには必要ない。数の上でも、後衛を含めても四対八で倍の差がある。一体にかまけて背後を取られれば、相手の良い的になるだけだ。

 だからこそ、翻弄される現状を打破するには、より四人の連携が重要になってくる。そのためにチームを組み、それぞれに役割を振られているのだから。

《前衛二人、さっきから分散しすぎ! 少しは後衛(うしろ)の事も考えて!》

《ご、ごめん!》

《すみません……!》

 ティアナから飛ばされた叱咤(ねんわ)を受けて、スバルとエリオは多少なり冷静さを取り戻す。

 後衛に居るティアナとて、正面切って敵と対峙している前衛の負担は理解している。まして、今日顔を合わせたばかりな上に、揃いも揃ってバリバリの近接型と来ている。広範囲の敵に対する相性が悪いのも確かだ。

 だが、考えなしに突っ走る事を勇猛さとは呼ばない。そんなものは、単体で戦況を変え得る英雄にでもならなければ無理だ。今の自分たちに課された任務を達成するには、多少窮屈でも未熟さを受け入れた上で、四人の力を合わせ補う()()が求められる。

 ゆえに、まずは牽制(かくにん)がてら。

「チビッ子……キャロ、だったわよね。威力強化をお願い」

「……はい! ケリュケイオン‼」

《Boost up, Buster power.》

 竜召喚士であるキャロは、他者へ魔法効果を付加する術に長けている。理屈の上ではカートリッジシステムに近いが、此方はより任意の調整が出来る為、単純な魔力付加以上に特化した魔法の『強化』が可能となる。普段は召喚した竜に対して用いる事が多いが、これは仲間の魔導師に対しても遺憾なくその効果を発揮する。

「シュ───トぉッ‼」

 キャロのサポートで威力を増したその魔力弾を、ティアナは立て続けにガジェットへ向け撃ち放つ。

 狙いは完璧。弾速も十分。着弾すれば間違いなく機体を撃ち貫ける射撃だった。だが、放たれた魔力弾は、機体に触れる手前で見えない壁に阻まれた様に掻き消えてしまった。

「……ま、そーなるわよね」

 目の前の結果に、ティアナはなんとも言えない悔しさを覚える。予期していたことではあったが、それでも今の射撃は彼女にとってなかなかのベストショットだったのだ。それをこうもあっけなく無に返されては、毒の一つも吐きたくなる。

「……実際にぶつけてみると、ホント厄介ね」

 そんなティアナの呟きに、隣にいたキャロを始め、前衛二人も実感として敵の持つ力を肌で感じ取り始めていた。

《アレが……》

《魔力を、魔法を消すっていう》

 驚きを隠せずにいるエリオとスバルに、『そう』と、なのはから捕捉(せつめい)が入った。

『これが、ガジェット・ドローンの持つ厄介な性質の一つ。攻撃魔力を掻き消す、フィールド系防御───アンチ・マギリンク・フィールド(AMF)。効果範囲に触れた魔法は、どんな高威力なものでも、フィールドを越える前に効力を失う。わたしやティアナみたいな射撃を主体(とくい)とする魔導師には、かなりの天敵ともいえる力だね』

 威力に寄らず、魔法を消してしまう魔法。なんとも理不尽極まりないモノにも思えるが、立ち止まっていてもどうにもならない。それに魔法を消すという事は、逆をいえばガジェット自身もAMF以外の魔法による防御を行えない、と言う事でもある。

「……なら!」

 と、スバルは再び『ウィングロード』を発動させる。

 直接的な攻撃は阻害されない。そう考えて、スバルは格闘型の本領である肉弾戦による破壊を試みようとした。

「こんのぉおおおっ!」

《ちょ、バカ! スバル、それじゃ……‼》

「え、……ひゃ⁉」

 飛び出して行った相方を止めようとしたティアナだったが、制止の声も虚しくスバルはガジェットの張ったAMFの網に嵌まってしまった。

「わわわ、ふぁああああ~~~っっっ‼⁉⁇」

 何が起こったのか、スバル自身がハッキリと認識するよりも先に、急に掻き消えた『ウィングロード』から放り出され、スバルは勢いよくビルの窓に突っ込んでしまう。

 ガッシャーン! と、派手な音と共に、スバルはビルの廊下に転がり込んだ。しかし幸か不幸か、壁面ではなく窓に飛び込んだ事もあり、衝撃自体はそれ程でもない。派手に硝子を割り砕きはしたが、簡易的なBJ機能が守ってくれているため、大事には至らなかった。

 とはいえ、流石に完全に無傷とも行かなかったようで、「い、っっ……ぅぅ~~~」と、殺し切れなかった痛みにスバルは呻き声を漏らした。

 いったい、何が……と、頭を擦っているスバルの疑問に応えるように、再びなのはたちからの説明が入る。

『今のが、ガジェットの持つ厄介な性質の二つめ。AMFは、確かに魔法を阻害する力だけど……それは、単純な攻撃を無効化するだけじゃないの。その本質は、名前の通り〝魔力結合そのものを解除する〟こと。つまり、フィールドに触れた移動系魔法も無効化の対象になる』

『それに、攻撃に対する防御に使われてはいるけど、本来AMFはフィールド系。ある基点から、一定の空間を覆う結界って捉えて貰うともっと分かり易いかな? 通常の結界魔法と同じように、AMF複数の基点が連鎖することで効果の範囲や威力を高める事も出来る。さっきスバルのウィングロード消されちゃったのも、AMFを全開されたから、ってわけ』

「な、なるほど……」

 なのはとシャーリーからの説明を受けて、スバルは今し方、身を持って学んだ事柄がようやく飲み込めてきた。

 ガジェットはそれぞれを基点として、AMFの効果範囲を中継・拡大する事が出来る。そして、広げられた不可視の力場に嵌まったが最後、既に発動している移動系魔法も無効かされてしまい、先ほどの様に制御を失ってしまう。

 本当に厄介な力だ。

『けどな。AMFは確かに厄介な力ではあっても、絶対無敵の領域ってわけじゃない。さっきスバルがやろうとしてた戦法も、接近の仕方で阻まれはしたが、あながち間違ってもいねぇ。アタシらみたいな近接型は、敵をぶっ叩くコトが本領だしな』

『ヴィータ副隊長のいう通り、AMFに魔法で対抗する方法はいくつかあるよ。魔導師にとって不利な状況である事に変わりはないけど……重石に潰されてるだけじゃ、わたしたちの誰かを守るお仕事は成り立たない。だから、今皆に考えて欲しいのは、()()()()()()()()じゃなくて、自分の今持っている力で、()()()()()()のか。それを素早く考えて、素早く動いてみて』

『ま。立ち止まったが最後、ってヤツだ。お前らはまだまだ進んでる途中だけどな、今だってこの状況を超える力自体は、ちゃんと持ってる。最近はあんまりよく言われねーが、敢えて言わせてもらうぞ。───この状況に屈しない負けん気と根性があるなら、それをアタシらに見せてみろ‼』

 二人の言葉を受け、新人たちの目つきが変わる。

 確かにそうだ。六課に居るのは、ただ高名な先達に漠然と教えを乞う為ではない。自分たちが選んだ道を進む強さを得る為に、ここへ来たのだ。

 そうして戸惑っていた思考を捨て、この状況に打ち勝つ事に意識を切り替えた四人は、手持ちの戦術(ふだ)でAMFを踏破するべく動き出す。

(……現状、単純な魔法攻撃でアレを倒すのは無理。けど、前衛二人の攻撃はAMF下でも有効打になる。問題は、二人の技は近くで届かせなきゃ意味がないコトと、向こうの頭数を減らさないといけないってコトね……)

 時間内に任務を達成するには、地道に一体一体潰して行くのでは時間がかかりすぎる。

 なのはの言葉の通り、AMFは射撃型にとっては厄介な相手だ。彼女らの攻撃は、純粋な魔力の塊を飛ばすのだから、近接型に比べて不利である事は否めない。だが、それも単純な射撃魔法であるなら、の話だ。

「キャロ。手持ちの魔法とチビ竜の技で、アイツらに効きそうなの……ある?」

「───はい。試してみたいのが、幾つか」

 ティアナの問いかけに、キャロはまっすぐな目で応える。それを見て、ティアナはニカッと微笑んだ。

「安心した。あたしも同じ……なら、スバル?」

《分かってる! エリオ、良い?》

《……やってみます!》

「良いわよ二人とも。それじゃ、足止めよろしく! トドメは譲るけど、ぼーっとしてると、後衛組(あたしら)で全部墜とすわよ?」

《へへっ、りょーかいっ!》

 スバルがそういって飛び出し、エリオも彼女に続く。そうして纏まりを一層強めた場が、一丸となって駆け出した。その様子を眺めながら、シャーリーは「みんな、よく走りますね」と新人たちの勝気さに笑みを浮かべる。

「まだまだ危なっかしくて、ドキドキだけどね。収集(モニタリング)の方はどう?」

「良いのが取れてます。四機とも良い子に仕上げますよ~? レイジングハートとアイゼンも、協力お願いしますね♡」

Ja.(了解)

Of Couse.(もちろんです)

 シャーリーのお願いに、二機(ふたり)はそう応えた。

 いずれ新人たちが、手にするだろう後輩たちの力を十分に発揮できるのか否か。今がまさに、その器が試される最初の関門となるだろう。

 

 

  2

 

「せぇああああッ‼」

 ガジェットを追うスバルが、攻撃を放つ。

 先ほどの失敗から学び、接近に『ウィングロード』を用いず、出来る限り地面から離れずに移動する。ローラーブーツも魔力駆動ではあるので、多少なりAMFの影響を受けなくもないが、それでも効果範囲に囚われるまでに得た加速を上手く利用して、普段と遜色なく陸戦機動を行っていた。

 尤も、現状ではスバルにガジェットの群れを一掃する手段はない。元々ベルカ式の使い手である事もあって、あまりスバルは広範囲を殲滅する攻撃は得意ではないのだ。そして、それは同じベルカ使いのエリオも同様である。しかし、だからといって、ただ後衛に任せて引き下がっている、というのはあまりにもお粗末な話だ。

 確かに二人は、単体で一度に広範囲を殲滅する魔法は使えない。けれど、それが必ずしもガジェットたちを捉える手段が皆無であるかと言えば、そんな事はない。

 一人では無理なら、二人で捕らえるまでの事。即座に分担した役割を果たすべく、スバルは標的たちを追い立て、エリオの待ち構えるポイントへと誘導した。

「エリオ!」

 スバルの声に、「来た!」とエリオは、愛槍であるストラーダを構え呼びかけた。

「行くよストラーダ、カートリッジロードッ‼」

 ガシュガシュン! と、()み込まれて行く弾丸(まりょく)を乗せて、エリオはストラーダを振るい、自分の立つ足場へ向け斬撃(ルフトメッサー)を放つ。それによってビルとビルを繋いでいた連絡橋を破壊し、ガジェットたちへ降り注ぐ岩雪崩を起こした。

 周囲にモノが無い空戦とは異なり、陸戦に置いてはこうした地形を利用した攻撃が可能となる。もちろん、ヒトの生活区画となると建築物等への被害は抑えなければならないが、今回の想定である廃棄都市区画や自然の岩場など、利用出来るものがあるのならば、使わない手はない。

 何より、AMFによって無効化されるのは、あくまで魔法のみ。魔法によって壊された副次的な攻撃には、一切効果を発揮しない。ゆえにエリオによって齎された、物理的な質量を伴う攻撃を前にして、ガジェットたちはたまらず上空へと逃げ出した。

 そして当然、

「待ってたよ!」

「ここに来るのを、ねッ‼」

 二人もまた、それを見越していた。橋を崩す直前、スバルは迂回してビルの壁面から、エリオは崩壊と同時に隣のビルの屋上部分へと移り、上昇したガジェットたちを待っていたのである。

 上へ向かおうとするガジェットを下へ叩き落とす様に、二人の拳と槍がガジェットの機体(ボディ)へ炸裂した。

 しかし、

「「……っ⁉」」

 インパクト時の魔力を消されて、威力がやや減衰していたのだろう。機体をひしゃげさせ、切痕を残す事は出来たが、内部の駆動部に攻撃が届いていなかった。

 これでは、任務達成条件の破壊・捕獲のどちらの条件も満たしていない。ガジェットを完全に停止させるには、あともう一工夫が必要だ。

「……それなら!」

 動きの鈍ったガジェットを足で挟み込むようにして、地面に伏せ、そのまま馬乗りになったスバルは、腕に装着したリボルバーナックルで機体を力任せに穿つ。

「つ、ぶれて……ろ!」

 ナックルの歯車(ドリル)部が、金属製の装甲を削り、火花をまき散らしながら、拳を内部にまで届かせた。

 駆動部を破壊され、ガジェットはあえなく爆散した。スバルが傍らに目をやると、エリオも同様に一機撃墜したところだった。

 これで計二機が撃墜され、残るは六機。

 そんな前衛二人の活躍を見て、後衛二人も動き出した。

「やるわね、でも……」

「こっちも連続行きますっ───フリード、ブラストフレア!」

 後衛一番手はキャロ。愛竜であるフリードに、ガジェットへの攻撃を命じる。

「───ファイアッ!」

「きゅくーぅ!」

 見た目は小さいが、フリードは紛れもない『竜』である。アルザスの召喚士たちが交友を結ぶ彼らは、魔法生物の中でもかなり上位に位置する強力な存在───限定的ではあるものの、主からの支援を受けて開放された力は、その名に恥じぬだけの威力を持っていた。

 フリードの放った火球がガジェットたちの足下に着弾し、炎の囲いを形成する。

 次元世界に生息する魔導生物たちの中には、人間の魔導師と同じ様に『リンカーコア』を持つモノも存在する。だが、彼らの特殊な攻撃は魔力を含んでいるとはいえ、魔法そのものではないため、AMFの効果を受ける事はない。

 更に、キャロの後押しを受け、炎に拘束魔法(バインド)に近い性質が付加されている影響もあり、ガジェットたちは自らを囲う熱の檻から逃れられないでいた。

 その機を逃さず、キャロが畳み掛ける。

「我が求むるは、戒める物、捕らえる物。言の葉に応えよ、鋼鉄の縛鎖───錬鉄召喚、アルケミックチェーン‼」

 発動を告げる声に合わせて、炎の中に出現した魔法陣から複数の鎖が飛び出し、素早く三機のガジェットを縛り付けた。

 その様子を眺めていたシャーリーが、「さっすがー、拘束はお手の物って感じですね~」と、感心したように呟く。

「魔法で拘束帯を造るんじゃなく、拘束する鎖を呼び出して操ってるからな。確かにアレなら、AMFからの影響は抑えられる」

「でも、あの無機物操作の精度は、やっぱりキャロの器用さもあるんだろうね。召喚と拘束の片方が阻害されただけで、成り立たなくなっちゃう魔法だから」

「キャロ、頑張ってましたからねぇ~。自然保護隊に行くちょっと前に、ユーノ先生のところで特訓してたみたいですし」

「向こうじゃ凶暴な魔導生物も珍しくねーし、召喚士とはいっても、自衛手段は必要ってこったな……尤も、教える方もあの二人じゃ、どっちが先かは分かんねーけど」

 全く、あの子煩悩(親バカ)コンビめ───とヴィータは軽く毒吐いた。

 生徒たちが優秀なのは喜ばしいが、教える側としてはポンポン先に行かれていると、なんだか仕事を取られた様な気がしなくもない。苦笑交じりに、ヴィータがちょっぴり複雑な気分だと零していると、周りに負けてられるかとばかりに、もう一つの原石の方が動き出した。

 来たな、とヴィータは画面(モニタ)に送られてくるティアナの姿に視線を移す。

 あの中でも殊更負けん気が強い彼女の事だ。何もせず指揮だけして訓練終了、なんて結末に満足する性質(タチ)ではないだろう。

「同じタイプとしちゃ、こっからが見ものだな」

 と、傍らのなのはに訊ねると、短く「そうだね」と返してきた。

「序盤で分かってる通り、対AMF戦闘では、わたしたち射撃型が一番影響を受けやすい。でも、だからって───」

 簡単に、磨き上げて来た自分の得意分野を捨て去れるかと言えば、そんなわけもない。

 魔導師というものは基本的に適正があり、完全なオールラウンダーになれる人間はごくごく僅かだ。

 それは、歴戦のエースと名高い六課の隊長陣であっても変わらない。

 当たり前と言えば当たり前の事ではある。しかし、だからといって得意分野を封じられたからはい終わり、というのはあまりにもお粗末な話だ。

 万能型ではない。

 得意分野は通じない。

 では、そこから先へ進むにはどうしたらいいのか。

 都合よく壁にぶち当たった瞬間、別の戦い方をマスターできればいう事無しだが、付け焼刃の戦法に命をかけるのはあまり利口とはいえない。よしんば上手くいったとしても、毎度同じ様に上手くいく保証など何処にもない。

 ならばどうする。

 簡単な話だ。新しい手札を増やせないのなら、手持ちの札で出来る事をするしかない。

 どうしたらいいのか、ではなく、どう突破するのか。与えられた命題の解法は、既に示されている。

 そうとも。

「───舐めないでよね。こちとら射撃型、無効化されたくらいで『はいそうですか』って引き下がってなんかいらんないのよ!」

 これまで積み上げてきた時間を思えば、ポッと出の壁に打ち砕かれるほど、この身に刻んだ射撃型(ガンナー)としての矜持は軽くはない。

『そんなフィールドくらいで……ッ!』

 その声に、画面を飛び越えて、なのはたちの元にも彼女の持つ強い意志が伝わって来た。

 ガシュガシュン! と、ティアナの構えたアンカーガンの中でカートリッジが弾け、銃口に橙色の光を放つ魔力弾が生成される。

「魔力弾? でも、AMFが……」

「うん。ティアナのアンカーガンには、最近のデバイスやAEC系の装備みたいに、魔力を電磁コートするような機構は積まれてない。仮に非殺傷設定を解除して物理的な攻撃としてはなったとしても、魔力弾である以上、フィールドに触れた瞬間に弾体の結合を断たれて消されちゃう」

 けど、となのはは区切り、

There is an available passing method.(通用〝させる〟方法はあります)

 愛機であるレイジングハートが、主の言葉を継いだ。

 それを受けて、「じゃあ、まさか───」と、シャーリーはなのはとヴィータに問いかける様な視線を送る。

 それに「ああ」と応じ、ヴィータが続けた。

「AMFにぶち当たる機会なんて滅多にねーが、それでも仕組みが解ればイメージはそんなに難しい事じゃない」

 確かに魔法が消されるのは厄介ではあるが、それでもAMFは完全無欠の『無効化』ではない。先ほどのスバルとエリオの様に攻撃を物理にする以外にも、キャロとフリードの様に、魔法を届かせる方法もある。

「さっきのアルケミックチェーンなんかがそうだな。AMFは触れた瞬間に魔力結合の解除が始まるけど、逆を言えば解除される前に届けば問題ねえ。まぁそれを言い出せば、エリオとスバルが取ったのもそうだけどな。

 ありゃ簡単に言えば『魔法で加速してぶっ叩く』って手法だ。最初の時みてーに、足場に全部力を預けたままでいるとアウトだが、最初(ハナ)っから消されるのが解ってれば飛び出していける。射撃でも、本質はこれと似たようなもんだ。だろ? なのは」

「うん。フィールド系防御の効果は、あくまで触れたところから……わたしたちのは魔力弾だから余計に影響を受けているように見えるけど、この無効化にもちゃんとタイムラグがある。だから」

(フィールドを突破する間だけ外殻が持てば、本命の弾は……ッ!)

 確実に標的に命中する。そのためにティアナは、魔力弾を膜状の魔力バリアで覆って、AMFを通り抜けると中身が炸裂する形を取った。

 しかし、多少なりAMFに対する勉強はしていたようだが、本格的な訓練を受けたわけでもない状態で、いきなり実践しようとするとは。

「多重弾殻射撃……ホントは、AAランクのスキルなんだけどね」

 度胸がある、というだけではない。そもそも、単純にAMFを突破するだけなら、格闘戦や魔力以外の弾体を射出する手法もある。

 十六歳になったばかりの新人が選ぶには、かなり思い切った選択である。だが、それでも敢えて『魔法射撃』を選ぶという拘りに、なのはたちはティアナの持つ強い覚悟を垣間見たような気がした。

 そう。教わり、受け継いだこの力は。

 

(あたしの魔法は、AMF(そんなもん)で止められるほど安かないのよ!)

 

 胸に抱く覚悟(それ)こそが、ティアナの根幹。

 長い時を重ねて培った、決して譲れぬ魔導師としてのポリシーを今───立ちはだかる壁を打ち破り証明する!

「(……固まった!)スバル、エリオ! (スリー)カウントで行くわよ、標的(まと)をできるだけ一ヶ所に集中させて!」

《りょーかいッ/はいっ‼》

 ティアナの指示を受け、前衛二人は残りのガジェットを追う。

「───三!」

 カウントを告げる念話(こえ)を受けながら、スバルとエリオは威勢よく標的を追い、その動きを掻き乱していく。

「二……一!」

 斬撃と衝撃波を用いて地面やビル壁面を破壊、崩れ落ちる残骸によって相手側の動きを推し留めた二人は、そのまま牧羊犬の如くガジェットたちを囲うように追い回し。

「……(ゼロ)ッ!」

 その刻限(リミット)に合わせるが如く。後衛の狙う射線上に、遂に獲物が並んだ。

 ここだッ! と、ティアナは間髪入れずに銃爪を絞り、生成した魔力弾を銃口から解き放った。

 

「ヴァリアブル……シュ───トッ‼」

 

 バシュゥゥン! という音を奏でながら、光芒を放つ茜色の輝きがガジェットめがけて駆け抜ける。そうしてAMFを潜り抜けた魔力弾は、その勢いのまま、残った機体を三つ続けて貫き破壊して見せた。

 爆散したガジェットたちを見つめつつ、ティアナは撃ち漏らしもなく状況を終えられた事に胸を撫で下ろした。

 時間を見ると、どうにか制限時間内に終えられはしたようだが、初戦とはいえかなり手こずってしまった。今回は標的の数も少なく、市街地戦の想定であったから良かったものの、遮蔽物の少ない場所や、更に大勢に攻め込まれたら、悠長に弾殻膜を形成している暇もないだろう。まだまだ、研鑽の余地ありだ。

 と、ティアナが今後の課題を浮かべていると、任務達成(ミッションクリア)に浮かれたスバルがテンション高く念話を送って来た。

《ナイス、ナイスだよティア~! やったねー、さっすが~♪》

 じゃれつく子犬みたいに捲し立てるスバルだが、射撃制御に頭を使った後には少々堪える。

 うっさいわよスバル、と、釘を刺しつつ、

「このくらい……とーぜんよ」

 精一杯強がってみせるが、相方ほど体力馬鹿ではないティアナは、深く息を吐き出して仰向けになり空を見上げる。

 まだ先は長い。

 しかし、足踏みしてもいられない。

 夢に届くまで、立ち止まってなんかやるものかと、ティアナはこれから始まる『機動六課』での日々を思いながら、右手を空へ高く掲げた。

 

 

 

 

 

 

まだ、これから Non_Stop_Days.

 

 

  1

 

 初日の訓練を終え、隊舎に戻った新人たちはお昼ご飯を食べるため、食堂に集まっていた。

「それじゃあ、記念すべき一日目の訓練お疲れさまでした、ってコトで───かんぱーい♪」

「「かんぱ~い♪」」

「……ノリ良いわね、あんたらも」

 せっかく同じ部隊になったのだから、と人懐っこいスバルが出した親睦会代わりの昼食会の提案に、エリオとキャロはあっさりと乗って来た。

 どうやら二人とも、人見知りはしないタイプであるらしい。

 というか、

「……あんたとかギンガさんが特別なのかと思ってたけど、エリオも結構食べるのね」

「おー、あたしよりも多いかも。良いねー、育ち盛りの男の子って感じ」

「はいっ、もっと強くなりたいですから!」

 真っ直ぐな眼で夢を語る姿は微笑ましくも頼もしい。尤も、その口の周りは大盛りのオムライスにがっついていた為だろう。ケチャップで赤くなっており、ちょっと締りに欠けてはいたが。

 と、そんなエリオにキャロがナプキン持った手を伸ばし、

「エリオくん、こっちむいて?」

「え、あ、大丈夫だよ? 自分で拭けるし……」

「良いから良いから」

 結局キャロのされるがままになっているエリオの顔は、口以外も赤く染まり出していた。

 二人は一緒に育った兄妹みたいなもの、という話だったが、どうやらそれ以外にも何かありそうな雰囲気である。

「(なんかいいね~、二人とも可愛い♪)」

「(ったく……まだ子供なんだから、こんなもんでしょ)」

 いかにも「楽しんでます」とばかりにウキウキしているスバルに呆れつつ、ティアナはため息を一つ。

 が、しかし。

(……ホント。こういうところは、まだ子供よね……)

 先程まで肩を並べて戦っていた事を思うと、何とも不思議な気持ちになる。

 年齢だけならスバルもティアナも似たようなものだが、それでも二桁に乗ったばかりの子供が実働部隊に所属するというのは、ミッドチルダでも珍しい。

 スバルとティアナにしても、訓練校に入学したのは十二と十三。ミッドの学年区分でいえば、中等科一年かそこらの時だ。それにしても相当早かったのだから、エリオとキャロは二人に輪を掛けて稀有な例ということになる。

 余程の夢か、或いは事情か。どちらにせよ、世間一般の───所謂『普通』の枠組みとは違う道を選んだ以上、何かしらの想いがそこにはある。

 邪推する気もないが、無関心でもいられない。

 それは、同情ともお節介とも違う。ただ、知ったなら静かに心に留めておくべきものであるという事を、ティアナは一見能天気に見える相方との腐れ縁の中で学んでいた。

 だが、

「ねえエリオくん。ここ大浴場あるらしいし、後で一緒にお風呂入ろ?」

「い、いや、流石にマズいんじゃないかな……ほら、その、他の人もいるし」

「? でも十一歳までなら海鳴(むこう)と同じで一緒でも良いよー、って、はやてさ───あ、八神部隊長が」

「でも何というか、あの、えっと……」

 こうして今、肩肘を張らずに仲良くやれている誰かが傍にいるのなら、きっと悪い事ばかりではなかったのだろう。

 自分も似たような経験があるだけに、ティアナは二人を見て、どこか柔らかな笑みを浮かべた。尤も、その似たような経験を互いにした相方には、言葉にするとうるさいので、絶対に面と向かって言ったりなんかしないけれど。

「……ま、なんにせよこれからよね」

「? どうかした、ティア? これからって」

「別に。まだ子供なんだし、気にする事なんじゃない? って話よ」

 そんな事を口にしつつ、ティアナは少し冷めて来たコーヒーを飲みながら、もうしばらく続きそうな可愛らしい同僚たちのやり取りを楽しそうに眺め始めた。

 

  2

 

 新人たちが食堂から立ち去った数刻後。

 任務表明を終えたはやてとフェイトが、中央から六課隊舎へと帰還していた。

「んー、すっかり遅くなってまったなあ……」

 発着場(ヘリポート)から降りる廊下を歩きながら、はやては固まった身体をほぐすように大きく伸びをする。

 傍らでフェイトが、「そうだね」と相槌を打つ。

「ヴァイスくんもだいぶ待たせてもーたし、悪い事してもーた。こらお手当弾んどかんとあらへんなー」

「はやてもすっかり部隊長さんだね」

「まあ、六課も局の中でではあるから、あくまで申請手続きだけではあるんやけど」

 こういうの、悲しき宮仕えってゆーんかな? と、冗談めかして言うはやてに、フェイトは思わず笑いが零れる。

「ふふふっ。でも、今日の任務表明も概ね順調だったし、ひとまずは安心だね」

「うん。あとは、ここからどう実績を積んでいけるかや。あ、フェイトちゃんはこの後どないするん?」

「エリオとキャロの部屋にちょっと行ってみようかな、って思ってる。明日の本訓練もあるから、もう寝てるかもしれないけど……」

 二人が帰って来たのは先週だったのだが、部隊の発足直後という事もあって、フェイトははやての手伝いに出向く機会が多く、二人とあまり一緒に居られなかったのだという。

 尤も、傍から見ればだいぶ子供たちに構ってはいたのだが、フェイトとしては離れていた時間を埋めるには足りなかったようだ。

 ちょっとしょんぼりしている親友の姿に、「相変わらずやね~」と微笑ましげな様子で眺めつつ、

「わたしはヴィータたちに今日の事聞きに食堂行ってくるから、時間あったらフェイトちゃんも来てーな」

 と、はやては言った。

 それに「うん。ありがとう、はやて」とフェイトも応えて、二人は一旦分かれる。

 

  3

 

 フェイトと別れたはやてが食堂へ向かうと、ヴィータを始めとしたヴォルケンリッターの面々がそろって、主の事を待ってくれていた。

「はやて、おかえり~」

 いの一番に駆け寄って来たヴィータを受け止めつつ、はやては「ただいま」と笑みを返す。

 そんな二人の様子を見ながら、シャマルとシグナム、ザフィーラも返って来たはやてに労いの言葉を掛ける。

「お疲れさまです、はやてちゃん」

「中央の方はどうでしたか?」

「うん。任務表明もフェイトちゃんも一緒やったし、問題なく終わったよ~」

「大事ないようでなによりです、主」

「ザフィーラも、しっかり留守番してくれてありがとうな~」

 と、はやてがザフィーラの背を撫でていると、

「そういえば、リインは?」

 末っ子の姿が無い事に気づいたヴィータが、はやてにそう問いかけた。

 するとはやては小さく微笑んで、「ここ」と胸元に下げた剣十字(ペンダント)を指さた。

「任務表明の間も、裏方で頑張ってくれとったからなあ……帰りのヘリの中でぐっすりや」

「全く……相変わらずよく寝るな、こいつは」

 仕方ないな、とでも言いたげな表情で、ヴィータは柔らかな笑いを浮かべる。

 年々しっかりしてきたところが出て来たと思っても、こういうところは変わらない。

 生まれてからもうすぐ十三年ばかりが経つが、未だにこの小さな祝福の風は、八神家の皆にとって可愛い末っ子のままだった。

「部隊運営に関わるのは、リインにとっても初めての経験ですし……今は寝かせておいてやるのが良いでしょうね」

「そやね。あ、お話の前にちょっと注文にしとかな……」

「それならわたしが。はやてちゃんは帰って来たばかりですし、座って待っててください」

「ありがとうなー、シャマル」

「いいえ~♪」

「そだ、あたしお茶取って来るよ」

 そういってくれた二人に甘えて、はやては空いていた椅子に座り卓に着いた。

 脱いだ上着を椅子の背に掛けていると、程なくヴィータがお茶を持って戻り、注文を終えたシャマルを手伝いに行ったシグナムと二人で、人数分の料理を運んで来た。

 いただきます、と、懐かしい日本の慣習通りに手を合わせ、八神家は少し遅めの夕飯を取り始めた。

 食事を勧める傍ら、ヴィータからはやてに初日の新人たちの様子が語られる。

「模擬戦の結果はなかなか。でも、まだまだ体力面では改善の余地はありってとこだな。まあ、なのはの組んだトレーニングも結構えげつなくはあるけど……」

 話を聞くに、どうやら初日だから能力確認の模擬戦だけでも良いという提案もしたものの、新人たちは『強くなるため』に六課(ここ)へ来たと、先へ進む意思を見せた為、教導官はその熱意に乗ってしまったらしい。

 結果、思いのほかハードなトレーニングに、新人たちは食事を済ませた後はもうぐっすりと(とこ)についてしまったのだという。

 出来る生徒だとより伸ばしたくなるのは、教える側の性というものなのだろうか、とはやては幼馴染の教導官の事を思い浮かべ───そういえば、あの子の先生も穏やかそうな顔をして、なんだかんだ生徒が望めば伸ばす方向に全力だったな、と、妙な納得感を覚えた。

「ま、全員やる気と負けん気はあるみたいだし、何とかついて行くと思うよ」

 あむっ、と皿のビーフシチューを頬張りながら、ヴィータはそういった。

 それを聞いて、はやては「そっか」と安心したように頷き、今度はシャマルの方にロングアーチの面々の様子について訊ねた。

「ロングアーチの方はどないやった?」

後方支援(バックヤード)陣も問題ないですよ。和気藹々です」

「グリフィスも相変わらず、しっかりやってくれています。運営に支障はありません」

「なら安心や」

 頼りになる人員に恵まれていると、はやてはホッと胸を撫で下ろした。

 彼女も部隊長として人材の確保に奔走していたため、疑う余地などはなかったが、それでも初めての部隊運用。それも初日だ。

 多少なりとも、不安は残ってしまう。とりわけ、先程まで任務表明でそういった部分を多く指摘されて来たばかりなだけに、意識が向いてしまっているというのもある。

 だからという訳でもないが、話題は再び任務表明の事に移り始めた。

 概ね順調であったのは確かだが、やはり六課という特殊な部隊に対する懸念は残っていた旨を、はやては皆に伝える。

 だが、それは解っていた事ではある。捜査と育成を主軸に据えてはいるものの、『強い魔導師を無理矢理寄せ集めた私設部隊』という印象を完全に拭い切るには、六課そのものの実績は未だないのだから。

「けど、それはしかたあらへん。実際、懸念を抱かれても仕方ない編成なのも確かや。せやからそういう懸念は、実績で証明(ふっしょく)していくしかない」

「ですね。これから頑張りませんと……!」

 腕をぐっと掌を胸の前で握るシャマル。その傍らでヴィータは、「応よ、そういうのは望むところだ」と威勢の良い表情を見せた。

 が、逸る二人をシグナムが軽くたしなめる。

「とはいえ、始めから肩肘を張りすぎるのも考えものだぞ? 急いては事を仕損じる……そうなってしまっては、六課の後ろ盾について下さった方々にも申し訳が立たん」

「そりゃあそーだけどよ……」

 ヴィータが口を尖らせていると、その頭を「なら今は納得しておけ」とシグナムが少し乱暴に撫で回す。

 相変わらずの子供扱いにヴィータは「なーでーるーなぁ~っ!」と抗議を飛ばすが、シグナムはどこ吹く風だ。いつも通りの二人のやり取りを微笑ましそうに眺めつつ、シャマルは先程のシグナムの言葉を思い返す。

「でも、改めて考えるとすごい顔ぶれよね……後見人だけでも、リンディ提督にレティ提督、クロノくん……じゃない、クロノ・ハラオウン提督」

「そして、最大の後ろ盾でもある聖王教会と、教会騎士団の騎士・カリム。これだけの顔ぶれが六課に信頼を置いているというのは、一種の信用にはなる。あとは我らが、どれだけそれに応えられるかだ」

 シグナムの言葉に、はやても「せやね」と頷いて、

「六課は沢山の人の力を借りて成り立ってる。だからこそ、それを違えるような事は絶対にしたらあかん。

 わたしたちが局入りして、もう十年以上。たくさんの事件に出会って、色んな人や物に触れて……その中で繰り返してきた、やるせない想いやもどかしい想いを、ほんの少しでも減らせるように辿り着いた、わたしたちの夢の部隊」

 夢は夢のままでなく、僅かずつでも現実に近づけていくために。

 小さな願いを、この先へ繋ぎ、伝えて行くために。

 此処が、そんな希望を叶える舞台(ばしょ)になれると、そう信じて。

「育成と捜査、カリムからの依頼も全部、みんなで一緒に頑張ろう」

「うん!」

「もちろんですっ」

「我ら守護騎士は主の力と成りて」

「その夢の果てまで、御身と共に」

 家族の言葉を受けて、はやては胸の内に灯るあたたかさを噛み締める様に、「ありがとう」と短く告げた。

「さて。ほんなら、まずはご飯をしっかり食べるところから。腹が減っては戦は出来ぬ、ってゆーからなあ───およ?」

「ん~ぅ……なんだか、いい匂いがするですぅ……?」

 食事を再開しようとしたところで、剣十字(ペンダント)の中からリインが起きて来た。

 管制型というのも手伝ってか、外の情報がある程度フィードバックされている彼女にも、料理の香りは届いていたらしい。

「匂いで起きたか。意地汚いやつめ」

 苦笑するヴィータに次いで、シャマルが「みんなでご飯中よ、リインちゃんも食べる?」と訊ねる。すると、

「食べるですぅ~♪」

 寝起きにも関わらず、リインは食欲旺盛な様子で、ふわりと飛び上がってシャマルの前へ行こうとする。それをシグナムは制し、

「その前に、顔を拭いておけリイン。部隊長補佐なのだからな、身だしなみは整えておけ」

 と、ハンカチを差し出してリインの口の周りを拭いてやる。

 それが終わったところで、シャマルがフォークでリインにプチトマトを「はい、あーん♪」といって差し出し、リインは美味しそうに頬張り始めた。

 ただ、ずっとそれでは食べづらいだろうと、はやてが小皿を用意して料理を取り分ける。ちなみに、剣十字の中にはリイン用の食器具類(カラトリー)が布団や枕などと共にしまってあるのだが、これはいつものデバイスマスターズが追加してくれた収納機能の拡張版だったりする。

 昨今は融合騎をはじめとする人型のデバイスが少ないので、本来なら人間大に拡張する機能に頼る方が安易なのだが、そこは凝り性な技巧派コンビ。魔力消費を抑えるという名目で、拡張機能を弄ってリインの部屋を造り上げてしまった。もうその楽しみっぷりは半ば趣味の領域で、そのコーディネイトはリインの希望を忠実に取り入れ、殆どそのままに仕上げるなど、非常に造り手の拘りに溢れた逸品であったという。

 なお、実際に使用してみた感想はリイン曰く、「とっても快適ですよ~♪」とのこと。

 と、リインがミニサイズのスプーンやフォークでぱくぱく料理を平らげているところへ、ちょっと背中を落としたフェイトがやって来たのが見えた。

 その姿を見て、はやては先程のヴィータの言葉を思い出し、何となく事情を察する。

 本当に保護者(ママ)というのは大変だ、と笑みを溢すと、はやては意気消沈した親友の背をぽんと叩いて、自分たちのテーブルへと招くのだった。

 

  4

 

 はやてたちにちょっと愚痴を聞いてもらって、フェイトは気を取り直して割り当てられた隊長室に戻った。

 相部屋のなのはは既にパジャマに着替えていて、明日の訓練メニューを確認しているところだった。

 邪魔したら悪いと思い、「ただいま」の後は静かに服を着替え始めたのだが、ふとベッドのサイドボードに乗っているバスケットが目に留まる。

「あれ、これって確か……」

「? あ、うん。前にユーノくんが使ってたのだよ~」

 思わず手に取ってみていると、昔よく遊びに行っていた海鳴のなのはの部屋で見た記憶そのままの手触りがした。あれから随分と経ってはいるが、壊れたところも特になく、状態良く扱われてきた事が伺えた。

「懐かしい……持ってきてたんだね」

 前にユーノやアルフと一緒になのはの部屋に行って、なのはがフェレットモードになってと強請ってユーノが撫でまわされてへとへとになったのを思い出す。あの時はたしか、フェイトの膝でぐったりしていたあと、バスケットに移ってそのままみんなでお泊り会になったのだったか。

 懐かしい思い出が甦る中、しかしフェイトは「あれ?」と首を傾げる。

 なのはにとってかなり大切な思い出の品だろうに、いくらミッド地上とはいえ、武装隊の隊舎に持ってきて良かったのだろうか。

 流石に襲撃は考え過ぎでも、自宅か実家に置いておいた方がいい品なのではないのだろうか? と思い訊ねると、なのははちょっとはにかんで、

「ほんとは持って来ない方がいいかなぁ、って思ったんだけど……つい、ね。えへへ」

 朝方にユーノから連絡を貰って、なんだか懐かしくなってつい持ってきてしまったのだと語った。

「それにね? 大人になってからユーノくん、全然フェレットモード見せてくれないから余計に懐かしくって……」

 ちょっと照れ交じりに語る幼馴染は微笑ましくはあるが、フェイトとしてはユーノも恥ずかしいんじゃないかなあ、と幼馴染の青年の心裡を慮りちょっとしんみりとした気分になる。

 実際、キャロがそれを知った時もかなり渋っていたくらいだし、そもそも六課の隊舎に来るなら普通に来られるのに、とも思う。

 いや、もしかしたらこの部屋に招きたい、という気持ちの発露なのだろうか? とも思ったが、それならなおの事人間の姿で良いのではなかろうか。前にエリオとキャロを連れてキャンプに行った事もあったし───と、そこまで考えて、フェイトはちょっと赤くなって思考を止める。改めて考えると子連れだが、ちょっと恥ずかしい事だったかもしれない、という気がしてきたのである。

 まあ、それは置いておくとしても。

「……六課の隊舎じゃ、余計になってくれないんじゃないかな? フェレットモードのこと知らないスバルとティアナもいるし、ロングアーチのみんなも大半は知らないし……」

 何かよっぽどの理由でもあれば別だが、流石にそんなレアな状況は起こるまい。というかその状況自体、まったく予想がつかない時点で余計に。

 が、どうやらなのはは、そんな状況に心当たりでもあるのか、いつの間にかベッドサイドへ寄り、バスケットを抱きしめながらぽつりとこう呟いた。

「でも、前……卒業式の時みたいなことも、あるかもだから」

「卒業式?」

「あ、えっと、なんでもないよ?」

 にゃはは、と、どう見ても誤魔化してますと言わんばかりの苦笑いに、フェイトはますます首を傾げた。なのはのいう卒業式という事柄に、どうにも思い当たる節が無かった為である。

 卒業式というと、中学校の時のだろうか?

 いや、でもあの時ユーノは普通に父兄席にいたような───

「と、ところでフェイトちゃん! 中央の方ではどうだったのかなっ⁉」

「え? ああ、うん。順調だったよ? はやてと一緒に説明して、上役の人たちもだいたいは納得してくれたみたいだし……時間はかかったけど、うん」

 露骨に話を逸らされたものの、ちょうどいい具合にさっきまで落ち込んでいた原因を思い返してプチブルーになったフェイトは前半の話を忘れるレベルでショックがぶり返してしまった様だった。

 なのはは幼い頃の秘密の青春(おもいで)守り果(かくしとお)せた事にホッと胸を撫で降ろしつつ、落ち込ませてしまった親友を慰めるために、もう一人の親友(部隊長)に引き続いて聞き役に回るのだった。

 

  5

 

「はっくしゅ……」

 ところ変わって時空管理局本局・無限書庫の未整理区画。

 例の依頼でまた作業が長引いていたユーノは、不意に襲って来たくしゃみに思わず手を止めた。

「何だ、風邪でも引いたか? ユーノ」

 すると傍らから音を聞き付け、エルトリアから手伝いに来てくれていたディアーチェが声をかけてくれた。

「体調は悪くないんだけどな……なんだろ、埃でも舞ってたのかな?」

 未整理区画にはそんな感じの古い本がたくさんある。特に、今調べている古代ベルカ期の書架は特殊なものも多く、どうみてもどこかに実在しただろう『書庫』そのものが、無理矢理ここへ『持ち込まれた』としか考えられない代物すらある。

 一応、魔法による保護は働いているが、塵一つ無い状態とまでは流石に行かない。

 そんなところだろうか、と当たりを付けていると、ディアーチェは「ふむ」とひとまず納得したように頷いて、

「まあ、風邪は万病の源ともいうからな。明日の弁当には滋養に良いものでも入れておくとしよう」

「いつもごめんね」

「構わぬ。ここにはシュテルもよく来ておるし、第一いま貴様に寝込まれでもしたら皆が困るだろう? 長であるのなら、統べるための責任が伴うものだと覚えておけ。貴様にはその自覚が足らぬ節があるゆえな」

「たはは……耳が痛い話で、気を付けるよ」

「うむ」

 尊大に頷くディアーチェは、まさに王の風格をありありと浮かばせており、一部署の長でありながら不摂生なところがあるユーノとしては、こういう時どうにも頭が上がらない。

 尤も、

「おーさまぁ~っ! ユーノばっかりズルい! ボクもボクも、なんかスペシャルなお弁当食ーべーたーい~っ‼」

 見た目二〇を超えても、いまだ素直で子供っぽい彼女の臣下には、その辺は通じないようだったが。

「ええいっ、落ち着かんかレヴィ! 何だ、またカレーかッ⁉」

 背中に引っ付いて「ねぇねぇ」と駄々を捏ねるレヴィに、ディアーチェは引きはがそうとジタバタしている。が、レヴィはガッチリと張り付いて離れない。その様はさながら、地球の怪談にあるところの子泣き爺の様だった。

 いや、子供ぽい仕草で忘れがちだが、もちろんレヴィは見ての通り女の子ではある。身内にいるユーノの一番弟子を名乗るシュテルや、彼女らの保護者(かいぬし)を語るイリス辺りがうらやむ程度には、どことはいわないが、かなり傍目にも分かり易く。

 しかし、淑女の慎みなど何処かへ忘れてきたと言わんばかりに、レヴィはそのままの状態で楽しそうに喋り続ける。

「うん! あ、でもカレーならどっかでキャンプとかしながら食べたいな~。ほら、この間見つけた遺跡とか、前にユーノとフェイトがエリオとキャロ連れて来た時みたいに、ワイワイみんなで!」

「うーん、流石にそれは難しいんじゃないかな……?」

「えー、なんでなんで~?」

「今二人は六課で訓練中だから、長い休みは取れないだろうし……あ。でも、休暇(やすみ)があればこっちでそういうのも出来るかも?」

「うんうんっ、それも良いっ! 遺跡とか無いのはちょーっと物足りないけど、場所より人が多い方良いもんね。そうだ、アミタたちもこっち呼ぼうよ。おーさま!」

「……その前に、我から降りんか戯け者がぁ~っ‼」

「おわーっ⁉ なんかすっごい飛んだあああぁぁ~~ぁぁぁ……ぁぁ───」

 ディアーチェに放り投げられて、レヴィがぐるんぐるんと無重力の書架をドップラー効果全開の歓声を上げながら飛んでいった。

 しかし、無重力で投げられた感覚が面白かったのか、レヴィはそのまま暫く流れ身を任せて暫く遊んでいたが、調子乗りすぎたのだろう、最後は書架の一つに激突してしまっていた。

「がっ、いっだああぁぁ~~ッ‼⁉⁇」

「「…………」」

 その気になれば飛行魔法でも止まれただろうに、思いっきりぶつかりに行ったレヴィを見て、ユーノとディアーチェはコメントに困る。しかもその直後、名前の通り雷光の如き速度で二人の前に戻って来た彼女を見て、余計に二人は困った。

「おーさまぁ、ゆーのぉ、めっちゃ痛たかったぁ~っ!」

「というより、何故その速度で戻って来れるにも関わらず書架にぶつかるのだ? 貴様は……」

 はあ、と呆れた様子ではあったが、レヴィのぶつけたところを撫でているあたり、ディアーチェもなんだかんだレヴィに甘い。

 もう背丈的にはレヴィの方がだいぶ高いのだが、こういうところは子供の頃のままだ。

 見慣れた光景に、ユーノはなんだか微笑ましくなりつつ、レヴィに治癒魔法をかけるからと手招いた。

 そうしてユーノがレヴィにフィジカルヒールを掛けていると、どこからか通信が入った。

 誰だろう? と出てみると、

『師匠。翻訳作業に進捗があったそうですので、ご確認を頂きたいのですが、お時間よろしいでしょうか』

 画面には、見慣れた暗めの茶髪を首のあたりで一つに結った蒼い瞳の女性の姿が映し出される。ユーノを師匠と慕う弟子であり、ディアーチェの腹心でもあるシュテルだ。

 翻訳作業の方に顔を出してもらっていた彼女の報告に、ユーノは「わかった」と返して、データを送ってもらうように頼む。

 シュテルもそれに首肯し、早速作業に入ろうとして、画面越しにユーノに治癒魔法(ヒール)を掛けてもらっている親友のレヴィの姿を捉えた。

『どうかされたのですか? また開拓中のトラップにでも……いえ、それにしてもレヴィが梃子摺る程のものとなると、増援に向かった方がよろしいですか?』

 レヴィの様子からこちらの状況を案じて、臨戦態勢に入って行くシュテルに、ユーノは苦笑しつつ「ううん。そうじゃなくて、さっきね?」と、ことの顛末を伝えた。

 普段は少々表情に乏しいところのあるシュテルだが、その話を聞いて思わずポカンと、彼女にしては珍しく気の抜けた表情を覗かせる。

『それはまた、なんとも……』

 レヴィらしくはあるが、今回のはまた随分とはしゃいだものだと、なんとも言い難い事が起こったものだと、シュテルは思う。

 そんな臣下の心境に「全くだ」とディアーチェも腕を組み、呆れを隠さない様子で、

「次は気をつけよ」

 と、レヴィを軽く叱った。

「はぁい……」

 ディアーチェの言葉に頷くと、叱られて拗ねた子供みたいな反応で、レヴィはしゅんと肩を落としたまま、手近にあったユーノの手やディアーチェのお腹のあたりにぐりぐりと頭を押し付けてきた。

 素体である猫の習性を思わせる仕草に、ユーノとディアーチェは苦笑し、しばらくはレヴィの好きにさせておくことにした。

 が、この場にいないシュテルだけはその様子をちょっとだけ羨ましそうに見ながら、こほんと咳払いをして。

『では、レヴィも大事無いようですし、送ったデータの検分をお願いしますね。師匠』

「了解。シュテルもお疲れ様、作業が終わったら戻ってゆっくり休んで。ここのところずっと頑張ってもらっちゃったし……」

「それをいうなら、(うぬ)とて似たようなものであろう。つい先程にも同じ事を言っておったのを、よもや忘れたとも言うまいな?」

「……はい」

「それで良い。(うぬ)も一旦休め、暫くは我らが任を引き受ける。そういうわけだシュテル、番は任せたぞ?」

 あとは分かるな、と言外に語るディアーチェに、シュテルは『痛み入ります』と、一気に表情を華やがせ、通信を閉じた。

「そういうわけだ。とっとと寝ていろ、ユーノ」

「でも、これだけ整理してから……」

「もののついでだ。貴様も放り投げて仮眠室に叩き込んでくれようか?」

「───はい、分かりました」

「最初からそうせよ」

 碧銀の瞳から放たれる鋭い圧に当てられて、ユーノは大人しく仮眠室は向かった。

 どうやら王の命令は、こんなところでも効果を発揮するらしい。

 本人に言葉として訊ねたら十中八九みとめないだろうが、エルトリアに生まれた闇統べる王は、今日も今日とて深い優しさに満ち溢れているのであった。

 ───だだ、

(小鴉やナノハたちにばかり、というのも癪であるからな。シュテルを始め、彼奴は存外此方側にも好かれてはいるし……まあ、手駒に出来るのならばそれも吝かではない)

 もしかするとその采配には、他にも理由があったかもしれないが。

「ほれ、いつまで拗ねておるか。行くぞレヴィ、手早く終えられたなら、茶菓子で一服するとしよう」

「お菓子⁉ え、良いの! いつもは夜はダメなのに……‼」

「何。偶に頭を働かせた後ならば、それも悪くなかろうという事だ」

 残りの作業自体もそう多くない。何より、休息の重要性を説いた口で臣下に過労を強いるほど、ディアーチェは愚鈍な王であるつもりはなかった。

 程よく意欲を高めるのなら、褒美の一つや二つ、安いものだ。

「やったっ♪ よぉーし、じゃあズババァっと片付けちゃうもんねッ‼」

「あまりはしゃぎ過ぎるな。先程の二の舞になるぞ」

「はーいっ!」

 俄然やる気を燃やすレヴィを嗜めながら、ディアーチェはこの間、『聖王教会』から送られてきた茶葉に何を合わせるかを考えつつ、無限の書架を相手取るべく、更に奥の区画へと向かって行った。

 

 

 




 本編からお読みいただいた方は初めまして。前作やプロローグ、および設定集等からお読みいただいた方は、改めてお久しぶりでございます。

 お待たせしてしまい申し訳ございません。
 前回の投稿から約四か月。いつの間にか年を越え、新年一発目の投稿が二月半ば……もう少し早く出せていたら良かったんですが、こればかりは己の遅筆具合をただ恥じ入るのみです。

 ただ、それでもなんとか投稿にこぎつけましたので、いまは第二章を皆様にお届けできる事にホッとしつつ、次からは投稿ペースを上げられるように頑張って行きたいと思います。

 では、早速いつもの言い訳タイムをば。

 とはいっても今回は話の動きは少なめなので、大筋はStS本編とあまり変わりありません。

 序盤では、『機動六課』発足式前の三人娘の会話がちょっと増えたくらいですかね。
 エリキャロの事が出て来たり、なのはちゃんとフェイトちゃんの部屋のベッドが何で一つなのか、みたいなところのネタを拾って、いつもの子煩悩ネタにつなげてみたり(笑)

 そこから少し進んで、任務表明のところはというと。
 本作では六課が育成に原典よりも力を入れているという部分と、隊長陣を集めた理由がRef/Detでの『フォーミュラ』を相手取った〝魔法を打ち消す力と戦い打ち勝った〟実績を理由に追加して、実戦の中で育成する事に自分なりの補足を加えてみました。
 災害担当の二人がいたり、前回の終わりでミッド近隣にガジェットが出現したりしている事例を併せて、ちょっとでもそれっぽくなったならいいなと思います。

 続いてここから模擬戦の話に。

 戦闘そのものは殆ど本編のままなので、若干工夫足りなかったかもですね。
 劇場版時空の流れを取り入れていますし、もう少し派手にしても良かったかなとは思いますが、そこらへんは次回以降の装備強化を経てからのが良いかなと。

 なので、戦闘そのものはあまり変化が無いので、その周りを少し変えてみました。
 登場キャラでいうなら、ヴィータちゃんが最初から監督役で参加していたリ、その様子をシグナムとザッフィーが見ていたりとか。

 あとは台詞回りを少し弄ってあって、サブタイから察していた方も多いかもですが、本作ではティアナの経緯が変わっているので、それを意識しながら書いてみました。

 最後の部分については、殆どネタですかね(笑)
 おかしい、はやてちゃんたちのところは普通だったのに、いつのまにかコメディチックに転がってしまっていた……。
 やー、なんでかなぁ。おねむな二人と会えなかったフェイトママだったり、相変わらず元気なレヴィちゃんだったりとか、何時の間にか筆が転がってしまっていましたねぇ。
 久しぶりに、キャラが自分で動く現象を体験出来ました(笑)

 ───でも個人的に、今回一番の見どころは、乙女だったのはなのはちゃんなんじゃないかなと思っている訳なのですが。

 正直、書くまで全く考えてなかったんですが……ふとエリキャロの部屋ってどんなのだったかな? と、作画資料集で探していたら、設定画が無かった(たぶん、男女共同でないからメインキャラ以外と共同か個室だから作画しなくても良い場所ということなのかと思われる)ので、他のページを何の気なしに見ていたら、今更のようにあのバスケットがあったのを思い出し。
 頭の中で、前作の最後の方で書いた『秘密の青春』が思い起こされて、気づいたら想像以上に乙女ななのはちゃんが出来上がっておりました。
 「自分にだけ気づく形で来てくれるんじゃないか?」みたいな、夢見る感じで淡い期待を抱いちゃってるのめっちゃ可愛くないですか? トニカクカワイイですよね? ですよね……ッ⁉←おちつけ

 と、そんなテンションでついついバチバチとキーボードを叩いて〆となった今回の話ではありますが、少しでも楽しんで頂けるものになっていたら幸いです。

 まだ序盤なので動きの少ない話が多いですが、なるべく早く次回、次々回と上げて、物語の山場となる回を書けるように頑張りますので、今後もよろしくお願いいたします。
 ではまたお読みいただけるように祈りつつ、今回はここで一旦筆をおかせて頂きます。
 お読みいただき、本当にありがとうございました……‼


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