魔法少女リリカルなのはStrikerS ~The After Reflection/Detonation IF~ 作:形右
緩やかに過行く日々Ⅰ Wait_for_the_beginning.
1
機動六課・隊舎の部隊長室にて。
囁かな休憩時間を利用し、なのはとはやてはお茶を片手にゆったりと談笑していた。
「新人たちが六課に来てくれてから、今日でもう四日目かー。なんや、経ってみるとあっとゆーまやったな~」
「そうだねぇ。基礎訓練も終わって、今日からは本格的な教導に入れそうだよ」
「新人たちの手ごたえはどないや?」
「四人とも良いね。かなり伸びるよ、あの子たち」
なのははそういうと、レイジングハートが保存してくれていた新人たちの訓練映像を空中に映しながら、ここ数日でハッキリとしてきた四人の資質について語り始めた。
高速機動と電気資質、突破・殲滅型を目指せる
一撃筆頭の爆発力に、頑丈な防御性能。
二騎の竜召喚を切り札に、支援中心に後方型魔導師の完成形を目指して行く
射撃と幻術をきわめて、味方を活かして戦う戦術型のエリートガンナーになって行くだろう
それぞれに持ち得る資質は異なるが、だからこそ四人が『チーム』として共にある事で、その真価を発揮する。
魔導師としてスバルたちが秘めた可能性を、なのははこの数日で確かに感じていた。
「どこまで伸びるか楽しみでね~。四人がしっかり完成したら、すごいことになるよ!」
期待に満ちた様子でそう語るなのはに、はやても「ふふっ、そっか。わたしも楽しみや」と柔らかな笑みを浮かべた。
こういう時、なのはは本当に嬉しそうな顔をする。
前に進もうとする意志を持つ相手に、自身もまた全力で応え、望む場所へ辿り着くための手助けをすること。よく精錬された鉄が打てば響くように、教え子が学んだ事柄を力へと変えていくのが、教える側の一番の喜びなのだろう。
なのはのそういうところは、彼女の先生譲りなのだろうか。
当の先生の方は、あまり荒事を好む性質ではないが、しかし強い意志に応えようとする姿勢はとてもよく似ている気がする。なのはが選んだ教導官という道は案外、そこに端を発しているのかもしれない。
と、
「そういえば、四人のリーダーは誰になるんやろ?」
今はなのはやヴィータの指示を受けて訓練が主だが、実戦の機会もあるだろう。
もちろん、隊長陣も同行はする。だが、自分たちの判断で動かなければならない場合も往々にしてあるはずだ。
なのはも当然、その可能性は考慮している。
「ティアナで決まりじゃないかな。ちょっと熱くなりやすい所があるけど……視野は広いし、指示も正確。自然に他の三人を引っ張ってるしね」
訓練の様子を思い返しながら、なのははそういった。
なのは自身も同じ
が、
「……ただ、ね」
「? うん」
「だからって訳でもないんだろうけど、ティアナ……というか、スターズの
「あー……」
ナルホド、と、はやては二人の昇級試験を思い出す。
やるとなれば無茶も辞さず、必ず道を切り拓こうとする難題にも正面からぶち当たる。負けん気が強く、最後の最後まで諦めない姿勢は立派だが、どうにも普段からその片鱗は覗いているらしい。
無論、昇級試験の際に二人もその辺りは反省してはいるので、少しは落ち着いてはいるようだ。しかし、まだ血気盛んな年頃というのも手伝ってか、難関に対し勇み足になってしまう事が多いのだという。
「……まあ、それを言われると、わたしらにも耳の痛い話ではあるんやけどなー」
「うう……」
苦笑するはやてと、言葉に詰まるなのは。実際、幼い頃から強力な魔導師として局に所属していた二人は、それなりに現場を率いた経験は少なくない。ただ、なまじ相手が強力な力を持っている場合など、二人が先陣を切る場面もあった。
仕方ない、というのもあるが、自発的に出た場面も無くはない。それを思うと、ティアナとスバルの気持ちも分からないでもないのも事実だ。
「まあ、先陣を切って指揮をするタイプがいない訳じゃないけど、二人はまだ自分の武器を磨いてる最中だから……ここは厳しく教えておかないと」
フェイトやその兄のクロノを始め、ごく稀に先陣を切りながら指示を出す強者もいるだろうが、基本的に、指揮をする人間は後衛である事が多い。
はやても過去に先陣を切った場面は何度もあったが、基本はヴォルケンズと共にチームを組み、後方からの広域魔法を用いた戦法が主だ。
だからこそ、そうした年齢を重ねるごとに培ってきた経験を、しっかりと後輩たちにも伝えて行かねばなるまい。
「その辺でいうと、ライトニングの方は実戦の経験は少ないけど、前衛と後衛のバランスはすごくしっかりしてるかな。過ごした時間の長さだけじゃなくて、基本の攻守区分をハッキリさせてるから」
ここは
双方が攻めと守りのという役割に徹している分、攻めきれないと判断すれば退き、守りの中で体制を立て直し易くはある。
もちろん、この前進と後退をスムーズに切り替えるには、
特に突破力は前者に比べると当然劣り、相手の数や戦う場次第では、更に不利になる場合もなくはない。尤も、そこまでの大規模な戦闘になれば、どちらにしてもコンビ単体で戦うというよりは、団体の中で立ち回る事になる為、結局のところ系統に対した優劣はなく、あくまで状況に応じられるかというのが重要になって来る。つまるところ、最後には研鑽と経験こそがものをいうわけだ。
故に、
「今すぐにでも出動できなくはないけど、どっちの分隊も、まだあと一週間くらいはフル出動は避けたいかな……。もう少し、確実で安全案戦術を教えてからにしたいんだ」
「へーきや。そのための隊長・副隊長の
「ありがとうございます。八神部隊長♪」
そういって微笑み合うと、二人はまたお茶を片手に談笑を交えつつ、残った休憩時間をゆるりと過ごし始めたのだった。
2
『隊員呼び出しです。スターズ分隊、スバル・ナカジマ二等陸士。同、ティアナ・ランスター二等陸士。ライトニング分隊、エリオ・モンディアル三等陸士。同、キャロ・ル・ルシエ三等陸士。以上四名、一〇分後に正面ロビーへ集合してください』
オフィスに響いたアナウンスに、フォワードの四人は「なんだろうか」と顔を見合わせる。
この四日間で、新人たちが呼び出しを掛けられたのは初めてだった。事件の
「なんだろうね、呼び出しって」
「さーね。行ってみれば分かるんじゃない?」
スバルの問いかけに、ティアナは重くなった肩を回しながら、素っ気なく応じる。
「筋肉痛?」
「少しね……今までも結構鍛えてたつもりだったけど、まだまだ甘かったんだって思い知らされたわ」
「なのはさんの訓練、ハードだもんねー」
六課に配属されてからの訓練は、体力には自信があると自負するスバルでも、決して容易くはないものばかりだった。
何しろ、完全な後衛型であるキャロでさえ走り回っているくらいだ。主力二人のサポートをする
「ティアさん。良かったら、少し治療しましょうか? あんまり時間が無いので、簡単ではあるんですが……」
そんなティアナの様子に、キャロがそう申し出た。
「ああ。そういえば、
「分かりました。じゃあ、早速───」
そういってキャロはティアナの患部に手を翳し、魔法の詠唱を始めた。
竜召喚士の肩書きを背負ってはいるが、キャロの主軸となる魔法は『支援』。ただ呼び出し操るだけではなく、共に戦い、護り癒すのもまた、彼女の本領である。
キャロの治療魔法で溜まっていた疲労が抜けて行くのに合わせ、普段は堅物なティアナの表情も、さながらマッサージでも受けている様な蕩け具合だ。
そんな気持ちよさそうな相方を眺めつつ、そういえばとエリオの方を向き直り、
「エリオはへーき? 筋肉痛とか」
と、訊ねた。
それにエリオは「はい、なんとか……」と頷く。スバルほど体力馬鹿ではないが、どうやらエリオもそれなりに
「流石、ちっちゃくても騎士だね。今度二人で組み手とかしてみよっか」
「はい、お願いします!」
同じ近接型として、二人は結構気が合うらしい。
交友に積極的なタイプだと自負しているスバルではあるが、エリオとキャロが人見知りしないというのもあるのだろう。過ごした時間こそ短いが、フォワードメンバーの関係はとても良好であった。
「あー、ラクになったぁ……! ありがとね、キャロ」
すっかり解れた身体を確かめる様に揺らしながら、ティアナがそうお礼を言うと、キャロも「はい♪」と微笑む。
二人のそんな様子に、スバルはくすっと笑みを零す。
訓練校時代は斜に構えた様な事を行っていたティアナも、小さな同僚二人には柔らかな態度で接している。存外素直になって来たものだと、スバルは相方の変化を嬉しく思った。
「??? ちょっと、何笑ってんのよ?」
「べっつに~。四人で過ごすのにも慣れてきたなーって」
「ふんっ、とーぜんでしょ。同じ部隊なんだから」
下らないこと言ってないで行くわよ、と口を尖らせるティアナに、「こういうところは相変わらずだなー」と、スバルはまたクスッと笑い、エリオとキャロを連れて、その背を追って隊舎ロビーを目指した。
3
四人がロビーに到着すると、そこではリインが待っていた。
どうやら、先程の放送は彼女からのものであったらしい。しかし、分隊長ではなく部隊長補佐の彼女からの呼び出しというのは、一体どういった内容なのだろうか。
新人たちは姿勢を正し、指示を待っていたが、リインは「あ、そんなに硬くならなくて大丈夫ですよー」と四人に楽にして欲しいと告げ、こう続けた。
「今日の午前中は訓練なしと言う事で、四人に六課の施設や人員なんかを紹介するです。他のみんなは初日にオリエンテーションをやったですが、四人はずーっとなのはさんの訓練でしたから」
それを聞いて、四人はようやく「なるほど」と合点がいった顔をした。
言われてみれば、配属されてからずっと訓練漬けだった為、六課の隊舎をじっくり見る機会はなかった。他の隊員たちとも、数人を除けば、発足式の時にちらりと顔を合わせたきりである。
「みんなはこれからも前線に出る事を想定した訓練が多いかとは思います。ですが、一つの部隊で働く上で、共に働く仲間の存在をしっかりと知っておくのは、とっても大切な事です。
特に、市街地や広範囲で魔導師を運用する場合は、
「「「「はいっ!」」」」
四人の返事にリインは満足そうに頷いた。
「はい、みんな良いお返事ですよ~♪ 実戦はまだ先になるかとは思いますが、そういうところもしっかり意識しておいてくださいね? 最低限の基礎が終わって、今日からは本訓練のスタートだそうですし」
「───、えっ⁉」
リインが最後に何気なく口にした言葉に、ティアナは思わず顔を引きつらせる。
「(……今、なんかすごいことを聞いた気がするんだけど⁉)」
「(あはは、楽しみだね~)」
能天気(で体力宇宙)な相方は、のっけから全身でぶつかって行く気満々の様だが、ティアナとしては何とも言えない気分である。
───昨日までのアレが、最低限。
上を目指す気持ちは人一倍強いと自負しているティアナではあるが、正直六課に来て以来、その認識を疑わされる事ばかりが続いている気がしてならない。
しかし、ある意味でこれが、本物の中に入るということなのかもしれないとも思っていた。
どんなに遠いと解っていても、決して近づく事をやめられない。
(やってやろうじゃないの)
足りないのなら、それまでが甘かっただけであると、どんな壁にも立ち向う。
自分にとって得意な事だけには流れない。研鑽の為であるなら、どこまでも貪欲に喰らいついて、一つずつ識って進んでいく。ともすれば非合理とさえいえそうな、その負けん気の強さこそが、彼女の彼女たる所以であるのだから。
決意も新たに、ぐっと拳を握り締めて、ティアナはふわふわと先導するリインに着いて隊舎の施設を回り始めたのだった。
4
それから程なくして、新人たちの施設巡りは滞りなく進行して行き、最後に食堂を訪れたところで、
「こちらの食堂で、案内は一通り終了です。食堂はみんなもう何度も利用していますし、大丈夫ですよね?」
というリインの確認を受け、四人が『はいっ』答えたところで終わりを迎えた。
「ちょうどお昼休みですし、施設案内はこれにて解散とします。では四人とも、午後の頑張ってくださいね~♪」
「「「「ありがとうございました!」」」」
去って行くリインを見送って、四人は食堂へ向かう。
途中、スバルがアルトから声を掛けられたので、ティアナたちは先に食堂に入って席を取っておくことにした。
昼休みに入ったばかりという事もあり、食堂は人も疎らで、三人はすんなりと注文を済ませる事が出来た。程なく出来上がった料理を配膳してもらい席に着くと、エリオとキャロが率先してテーブルに料理を並べて行く。
食欲旺盛な前衛組がいる為、テーブルはあっという間に満杯になる。
にしても、
「エリオくん。わたし、お茶取って来るね」
「うん。その間に僕も、残ってる分貰ってくる」
息ピッタリに動く二人を見て、ティナアは「相変わらず仲良いわねー、あんたたち」と苦笑い。あんまりにもテキパキ動くので、手伝うことがなくなって手持無沙汰なくらいだ。
「三日間見てて思ったけど……なんか二人共、大勢で食べるのに慣れてる感じよね」
ティアナがそういうと、二人は「家でも、よくこうして運ぶ手伝いとかしていたので」と応えて、「ね?」と顔を見合わせる。
「二人とも、ちっちゃいころから一緒何だっけ?」
「はい。フェイトさ……じゃない、局に入る前はフェイト隊長の実家で、一昨年くらいからは研修で自然保護隊とかにも」
「六課に来る前は別の場所でお世話になってましたけど、四歳くらいから一緒に育ってきたので、兄妹みたいな感じです」
「そっか……」
訓練校や部隊の仲間と食堂にいる事は多かったが、両親を亡くして以来、あまり家族で食卓を囲む機会の少なかったティアナとしては、少々羨ましい事だ。
もちろん、そこに至るまでの過程には、ただ微笑ましい光景と言い切れない部分もあるかもしれない。けれど、こうして仲の良い兄妹のような存在と共に居られたというのは、素直に喜ばしい事だったのだろうと思える。
と、そこへアルトと別れたスバルが戻って来た。
「おまたせ~。三人で何の話~?」
こういう時、スバルの能天気とも言えそうな気質は有難い。相方のおかげで、少しばかり脳裏を過ぎった野暮な思考が晴れるのを感じつつも、ティアナはいつも通りの調子で「別に。ちびっこ二人が仲良いわね、って話よ」と返した。
それを聞いて、スバルは「なるほど」と頷いた。
「確かにエリオもキャロも仲良いよね~。兄妹っていうか……うーん、なんか熟年夫婦って感じで!」
「ふ、夫婦……ですか?」
「そうそう♪ 阿吽の呼吸っていうか、すっごいツーカーな雰囲気出てるもん!」
顔を赤くして恥ずかしがっているエリオに構わず、スバルは何とも楽しそうな様子でそんな事を宣った。
エリオはますます真っ赤になって、キャロは解っているのかいないのか、のほほんと「はい、とっても仲良しです♪」などと応えている。
騒がしくなってきた食卓と、「将来が楽しみだね~♪」なんてニコニコしてる相方に溜息を吐きつつ、ティアナは「良いからさっさと食べるわよ。午後も訓練なんだから」と、取り分けたサラダの皿をフォークで刺した。
5
新人たちと別れたリインは、デバイスの整備をしているシャーリーを昼食に誘うべくデバイスルームを訪れていた。
「シャーリー、一緒にお昼行きませんか~?」
「あ、リイン曹長♪ すみません、もう少しで一区切りつきそうなんですが……」
「デバイスたちの調整です?」
「はい」
そういって、シャーリーは調整中のデバイスたちの方へ視線を戻す。
透明なケースの中で揺蕩いながら、生まれ
「そろそろ完成ですか?」
「マッハキャリバーが、ちょっと手こずってます。スバルのオリジナル魔法の『ウィングロード』……アレをこの子からも発動できるようにしたいんですが、それがもー難しくって」
「あー、なるほど。確かに『ウィングロード』は
この場合の難しさとは、性能面というより、調整する
それ故に、まっさらな幼少期から共に居る
「だから、スバルの相棒になるマッハキャリバーが一番難しい子なんですが……」
「───その分やりがいもある、ですよね?」
リインの答えを待っていたように、シャーリーは「ご名答♪」と満面の笑みを浮かべた。
確かに、困難な事は多い。しかし惰性的であるのは、技術者としての怠慢である。まして彼女らが相手にしているのは、ヒトと魔法を繋ぐデバイスたちだ。
人格を持つか持たないかではなく、『魔導師』や『騎士』として、共に戦う存在であるからこそ、敬意を持って接したい。これはかつて彼女が師事したデバイスマスターが特に大切にしていた姿勢であり、シャーリー自身も共感する部分が多くあったので、今でもその在り方を大切にしている。
だからこそ、デバイス側であるリインたちも信頼を持って、シャーリーに自らを預けられる。
後輩たちもきっと、そんな頼もしいデバイスマスターの心を受けて、強い子として生まれてくるだろう。
「もうすぐ、目覚めとマスターとの出逢いですね。ちゃんと立派に完成して、それぞれのマスターと共に精一杯頑張るですよ? わたしも、全力で応援するです!」
そのリインの声に応える様に、覚醒を待つデバイスたちは機体の
6
「───なのはちゃん的には、この機動六課はどーやろ」
休憩時間も終わりに差し掛かった頃、はやてがなのはにそう訊いてきた。
「どうって?」
なのはが訊き返すと、はやては残ったカップのお茶に口を付けながら、「良い部隊になりそうかなー、とか」と言った。
それを受けて、なのはは口元に指を当て少し考える仕草をしながら、
「人材は本当にしっかり揃ったと思う。ロングアーチやバックヤードまで、本当に良い子たちばっかりだし。新人たちも……特にフォワードたちは、いろんな事情を背負った子も多いけど、ライトニングの二人はもちろん、スバルもティアナも……」
ただ悲しみに昏れるばかりではなく、抗う心を持っている。まだ触れ合った時間は短いものの、なのはは四人から確かな強さを感じ取っていた。
それに、はやても頷いて、
「立ち向かうための意志を持った子───前線メンバーを集めるとき、一番気にしたところや。あの四人は、そこは絶対間違いない。なのはちゃん、フェイトちゃんには苦労かけるし、寄り道してもらって申し訳ないんやけど……」
六課の創設目的や部隊としての意義に偽りはない。しかし、万全を期して集まってくれたとはいえ、六課が友人たちを縛り付ける枷になっているのではないかと、つい考えてしまう事もある。
甘いと言われてしまえばそれまでだが、指揮官としてはやてはまだ若く、力を借りる事に呵責を覚えてしまうのも無理からぬことだろう。
その心情は、教導官として何人もの教え子を持ったなのはも、はやてと同じ様な悩みを抱く事は未だにある。
だからこそ、なのはは「寄り道なんかじゃないよ」と、自分の意志を言葉にした。
「前線で教官って立場は、わたしにとっては夢みたいな話だし……立ち向かうための意志に、撃ち抜く力と元気に帰ってくる技術をしっかり持たせてあげる事。なによりもそれが、わたしの仕事の原点だからね」
柔らかな笑みを浮かべながらそう告げるなのはに、はやてもまた微笑んだ。
そうして志を確かめ合うと、なのはは「さて」と言って、席を立つ。
「そろそろ午後の訓練の時間だから、行ってくるね」
「まだまだ先は長いけど、よろしく頼むな? なのはちゃん」
「うん、了解。はやてちゃん」
はやての言葉にこくんと頷いて、なのはは部屋の外へと足を踏み出した。
幸い六課の訓練施設は設備が良く、基本的に訓練場に持参するものは愛機と己が身一つで事足りる。
着慣れた青と白の教導隊服と同じくらい、今日の空も快晴だ。
ますます晴れやかな気持ちで訓練場に向かうと、既に新人たちは訓練着に着替えてアップを済ませているところだった。
やる気に満ちた教え子たちの姿を嬉しく思いながら、なのはは四人に号令をかけ整列を促した。気を付けをして指示を待つ四人に、なのはは本日からの訓練内容を伝えて行く。
「今日から本訓練───その第一段階に入っていく訳だけど、まだしばらくは個人スキルはやりません。コンビネーションとチームワークを中心に、それぞれ得意の分野をしっかり生かして、まずはチームとしての戦い方を身に着けよう」
「「「「はいっ!」」」」
「それじゃあ、早速……」
訓練開始! というなのはの合図と共に、『機動六課』発足四日目の訓練が幕を開けた。
緩やかに過行く日々Ⅱ Here_begins_the_story.
1
冒頭のなのはの言葉通り、新人たちに課せられた第一段階の訓練は、徹底したチーム戦の強化から始まった。
新人たちの連携は、配属まもない時期にしてはそれなりに取れている方だ。しかし、これは四人の適性がバラけているのが主な要因だろう。
今はまだ、自分の出来る事をバラバラにやっている段階だ。
ガジェットを始めとした無人機相手ならそれも良いが、相手がもっと少数の手練れである場合は、このままでは厳しい。だからこそ、一つ一つ盤面に布石を打って行くように、一丸となる動きを実感として覚える事が、チーム戦に置いては肝要である。
そのためには、あまり派手な戦術ではなく、もっと堅実な基本の陣形を意識しながらの立ち回りが求められる。
前衛、中央、後衛という四人の適性を活かした配置で、お互いに背を押し、護る。この流れを迅速に、状況の変化を見ながら積み上げて行く。単純であるが、この当たり前を完璧に繋げなければ、些細なミスが全体の破綻を招く事も、往々にしてある。
仲間の呼吸を意識し合い、適切な立ち回りが出来る様にと組み上げられた訓練内容は、一見する地味なものにも見えるかもしれない。だが、基礎トレから仲間を意識し合い、本訓練でもその意識を絶やさずコンビネーションとチームワークを一つ一つ磨いていくと、積み上げた者の分だけ、四人の動きが洗練され、確実に力を増している実感があった。
───そして、第一段階に入ってから一週間が経過した朝。
「はーい、整列! 今日の早朝訓練、最後は
「「「「はいっ‼」」」」
「うん、良い返事。じゃあ───レイジングハート」
《All right,Accel shooter.》
愛杖が主の呼びかけに応えると、なのはの足元に魔法陣が描かれ、その周囲に無数の魔力弾が生成された。
なのはの得意魔法の一つ、『アクセルシューター』である。
元より高い操作性を誇る射撃魔法だが、実は任意の操作以外にも、
ある程度自動で追って、標的を追い詰めたところで手動の思念操作に切り替え撃墜する射撃型魔導師の王道の戦法だが、これがなかなか強力なのである。
数を相手にすることもさることながら、急に動きを変える相手への対策というのは、どんなに場数を踏んだ魔導師であっても、完璧にこなすのは難しい。まして、まだ実戦を数えるほどしか経験していない新人たちにはなおのこと。
無論、訓練用に調整されているため、実戦のままのダメージを追うことはないが、それでも被弾すればそれなりの衝撃を伴う。前衛に置かれ、よくその餌食になっているスバル曰く、被弾時の感覚は『ふかふかのグローブで思い切り殴られて吹っ飛ばされるような感じ』らしい。
だからというわけでもないが、この訓練では思い切って向かっていく姿勢というのは、結構重要になってくる。
元より、実戦で『無数の敵、あるいは攻撃に対応する』事を目的とした訓練なのだ。
練習だからこそ当たって砕け、本番では決して踏み込むべき時を見誤らない。そういった力を身に着けられれば、一対多数の戦いを制する足掛かりになるだろう。
ゆえに、
「今回の達成条件は、わたしの攻撃を五分間、被弾なしで回避しきるか、わたしに一発でもクリーンヒットを入れること」
落とされないか、あるいは落としに掛かるか。
そのどちらを選ぶにせよ、やり遂げなければ終わりだ。
当然、
「誰か一人でも被弾したら、最初からやり直しだよ」
この訓練においても、その前提は変わらない。準備はいい? となのはが問うと、新人たちもまた、了解とばかりに威勢よく応じる。
その姿に満足げに頷くと、
「それじゃあ、頑張って行こう!」
と、なのはは杖を構え、射撃体勢に入る。
それを見て、指揮役のティアナは、手早く仲間たちの状態を確認に掛かった。
しかし、今朝の分だけでも、既に十全とは言えないくらいには疲労している。こんなボロボロの状態では、なのはの攻撃を五分間捌き切るのは難しい。
となれば、答えは一つ。
「短期決戦ね。スタミナが尽きる前に、なんとか一発入れるわよ?」
「応ッ‼」
「はいっ!」
「やってみます!」
どうやら方針は決まったようだ。
「それじゃあ、行くよ? レディ……ゴーッ!」
なのはは手を掲げ、開始の合図と共に振り下ろした。その手に合わせて、なのはの周囲に配置された魔力弾が、一斉フォワードメンバーへと迫る。
「全員、絶対回避! 一分以内に決めるわよ‼」
ティアナの声を受け、四つの影が一斉に散開した。単なる逃げでなく、ギリギリまで引き付けてからの回避だったため、的を外れた魔力弾が地面に当たり、舞い上がった粉塵が四人の姿をうまく隠していた。
もちろんその程度なら自動追尾で追える範疇だが───
「!」
なのはの背後に、すさまじい速度で生成された『路』を駆け抜け、スバルが強襲をかけてきた。
更に、その対極ではティアナが既に射撃体勢に入り、こちらを狙っている。
良いコンビネーションである。しかし、なのはもそう易々とは攻撃を通しはしない。
「───アクセル!」
《Snipe Shot.》
加速を掛けた二つの弾丸を放ち、スバルとティアナを同時に狙撃する。
直線的な軌道にはドンピシャな攻撃で放ったが、放たれた魔力弾は二人を捉える事なく通過してしまった。
ティアナの得意とする幻術魔法、『フェイクシルエット』だ。
(やるねティアナ)
相変わらず、見事な幻術魔法だ。
本物と見分けのつかない分身というのは、相手の位置を掴めずにいる状況において、非常に脅威となる。
また、同時に。
「───てぇえええやぁあああああああッ‼」
「
本命はこちらか。
分身となる幻影を作り出し意識を引き付けたところに、隠れていた本体による奇襲。これもまた、分かっていても防ぎがたい王道の戦術である。
とはいえ、この程度ではまだ落とされてやるわけにはいくまい。
《Round Shield.》
レイジングハートの
桜井色の輝きを放つ円形の盾は、彼女の師匠の十八番だった魔法である。それゆえに、強度は折り紙付きだ。
如何な格闘型のスバルであろうと、一撃やそこらで破れはしまい。
「ぐっ……‼」
そうして盾に阻まれ足の止まったスバルを、先ほどの魔力弾を呼び戻して狙撃する。
ちょうど、逆再生されたような軌道を描く弾丸に挟み込まれるが、スバルはそれを後ろに飛び退いて回避した。
「うん、良い反応……けど、それだけじゃ甘いかな!」
「⁉」
標的を逃すまいとして、魔力弾がスバルを執拗に追いかける。
どうにかスバルは躱し続けているが、
「わ、うわわわ……ッ⁉」
《ちょ、スバル!》
ここのところ調子が悪かったローラーブーツの不具合で、動きが鈍ってしまった。
隙が生まれ、距離を詰めてきた魔力弾が彼女の鼻先を掠めていく。持ち前の根性でどうにか耐えているが、体勢はかなり厳しい。
《ご、ゴメン……っ》
弾丸から逃げながら、スバルは念話ごしに謝るが、ティアナは《いいから!》と、素早く相方の援護に回ろうとアンカーガンを構える。
が、
《とにかく当たるんじゃないわよ、いま撃ち落とすから───っ、うえッ⁉》
今度は、ティアナの側に不具合が起こってしまう。
援護が不発に終わり、ぎゅんぎゅん迫る弾丸に追われるままのスバルが《わーっ、ティア援護ぉぉ~~っ‼》と悲鳴を上げる。
「この……肝心な時にっ!」
苛立ち紛れに叫びながらも、ティアナは不発だったカートリッジを薬室から引き抜き、素早く新しいカートリッジを装填。即座に狙いを定め直すと、構えた銃口から四発の魔力弾を撃ち放った。
二発はスバルの援護に回し、残り二発はなのはを狙うように操作する。
どのみち、本体の位置は今の狙撃で割れているのだ。本来なら移動して次の狙撃位置を探すところだが、今回は五分間の制限がついている。少しでもなのはの注意をこちらへ向けられれば───
《エリオ、キャロ。ゴメン、ちょっと段取り狂っちゃったけど、いける?》
《はいっ!》
《いつでも行けます!》
《ありがと。頼むわね、このまま注意を引き付けて道を作るから、そこを狙って!》
「「了解ッ!」」
その返答を受け、スバルとティアナはなのはへ向けて更に牽制を掛ける。
当然、なのはもその意図は判っているだろう。しかし、如何に『エース・オブ・エース』と称される彼女とて、絶対無敵ではない。
技量にせよ経験にせよ、積み上げた力量さというのは一朝一夕に埋められるものではないが───けれど、それでも今の自分たちにできる精一杯で、その差を少しでも埋めて見せる。
「───我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を!」
《Boost Up - Acceleration.》
キャロの詠唱が終わると、彼女から発した加速強化の魔法がエリオに付与される。
かなり大きな魔力を付与され、エリオは思わず「すごい……」と感嘆にも似た声を漏らした。
「大丈夫? 前やった時より、もっと加速がついちゃうけど……」
「任せて。スピードが、何よりの取り柄だから」
心配そうなキャロに、エリオはそう言って笑みを返す。
当然、なのはもその動きには気づいているが、スバルとティアナの攻撃を捌いている状態では、万全の体制とはいかない。
更に、「フリード!」というキャロの声に応え、小さな白竜がなのはに火球を放つ。
ティアナの魔力弾に比べれば、速度自体は大したことはないが、魔力を伴った火炎の威力は馬鹿にならない。
放たれた三発のそれを躱し、なのはは敢えてエリオとキャロの方へ距離を詰める。
援護に徹していたスバルもティアナも、味方の傍では積極的に攻撃には出られない。加えて、こういった個人と集団の戦闘においては、まずは支援役を墜とすことで相手側の戦力を削ぐのがセオリーだ。
勿論、そんなことは新人たちも判ってはいる。しかし、今回の要にエリオを選んだのは、むしろこの状況を狙ってのものだ。
「行くよ、ストラーダ!」
愛機にそう呼びかけると、解かっているとばかりに、噴出口から溢れんばかりの魔力を迸らせる。
その頼もしい猛りと一体となるように、エリオはぐっと構えを取り、
《エリオ、いまッ!》
指令塔のティアナからの合図を受け、ゴッ! 地面を蹴り飛ばして一筋の雷閃のごとく、なのはにその切っ先を突き出した。
キャロの支援魔法による加速を得て、突き抜けんばかりの勢いで飛び出していったエリオとなのはが空中で激突する。
迎撃ではなく防御を張ったのか、魔力がぶつかった際に起こる反発が小規模の爆発を起こし、粉塵が巻き上がる。それと同時、「うぁああああっ‼」と、粉塵の中から弾き飛ばされるように、エリオの姿が覗く。
防がれたのか⁉ と、四人の表情が一瞬強張るが───。
《───Mission complete.》
「お見事、
収まった粉塵の中から現れたなのはは、愛機であるレイジングハートと共に、嬉しそうな顔で四人に向けそう告げた。
「ホントですか……⁉」
ダメージが入ったというわけでもなさそうななのはの様子に、思わずエリオは聞き返すが、なのはは「うん」と頷いて、左肩の少し下あたりを指し示した。
「ほら。ちゃんとバリアを抜いて、ジャケットまで通ったよ」
実戦並みに貫けているわけではないが、幾分か出力が抑えられている状態でも、教官相手にバリアを抜けたのは十分な成果であるといえよう。
それが実感としてわかってくると、四人の表情も一気に明るくなった。
なのはも教え子たちの成長に笑みを浮かべつつ、「じゃあ、今日の早朝訓練はここまで。いったん集合しよう」と言って、BJを解除して整列を掛けた。
「みんな、チーム戦にだいぶ慣れてきたね。動きがとっても良くなってきたよ」
「「「「ありがとうございますっ‼」」」」
「スバルとエリオは
「い、いえ、通常の戦闘訓練だけでいっぱいいっぱいです……」
伸びしろがあると言ってもらえるのはありがたいが、いまこれ以上の内容を増やしたら、正直パンクしてしまいそうだ。
そんな相方の心情を察しつつ、スバルはあははと笑う。
まだまだ先はある。それが楽しいと言わんばかりの相方の能天気さに、ティアナはちょっとだけむっとしたが、その時フリードが何かを嫌がるような声を出した。
「どうしたの、フリード?」
「きゅくー……」
「??? ……そういえば、なんだか焦げ臭いような……?」
なんとなくフリードが翼で鼻の辺りを擦っているのをみて、エリオがそう呟く。すると、ティアナは「あ」と何かを思い出したように、
「スバル、あんたのローラー!」
と、言った。
それを受けて、スバルが自分の足元を見ると、戦闘の負荷に耐えきれなかったのか、ローラーブーツがショートし、微かに火花と煙が立ち上っているのが見えた。
「うわ、やばっ……! あっちゃー、無茶させちゃったぁ……」
「オーバーヒートかな……後でメンテスタッフに見てもらおう?」
「はい……」
とはいったものの、この状態では改修のみで済むかは怪しい。訓練校時代から慣れ親しんだ自作デバイスだが、このところ訓練の負荷とスバル自身の成長に伴って、次第に
そしてそれは、同じく自作デバイスを使用しているティアナにも言えた。
「ティアナのアンカーガンも、そろそろ厳しいかな?」
「はい……正直、騙し騙しです」
訓練中のカートリッジの不発もそうだが、カートリッジシステムを搭載する場合、デバイスには相応の耐久力が求められる。特に、単純なストレージとは異なり、作りが甘いと炸裂不足や魔力の漏れでうまくカートリッジの特性を活かせないことも多々あるのだ。
ティアナの場合、魔導師としての能力を鍛えるために、あまり制御補助の類は載せていない分、どちらかといえばシンプルな構造で修理もし易くはあったのだが、それでも魔導師として成長していくごとに、どうしても素人の自作では耐えきれない部分は出てきてしまう。
けれどそれは、彼女らの持ち得る資質の高さ故でもあり、なのはたち六課の隊長陣も、この事態を予期していなかったわけではない。
「みんな訓練にも慣れてきたし……そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかな」
なのはのそんな呟きを受けて、新人たちは首を傾げる。
「新……」
「……デバイス?」
2
ひとまず新デバイスに関する説明の前に、訓練の汗を流しておこうとなのはに言われ、新人一同は隊舎へと戻ることになった。
四人が隊舎の前に差し掛かると、一台の車が隊舎から出ようとしているところだった。
「あ、エリオくん。あの車……」
見覚えのある黒い車両に、キャロが傍らのエリオにそう声をかけると、エリオもキャロの言いたいことが分かったようで、「うん。フェイトさんのだ」と頷きを返した。
「みんな。朝の訓練、お疲れさま」
「お疲れさまや~」
窓を開けて、顔を覗かせたフェイトとはやてがそう声をかけると、新人たちも「おはようございます!」と応えた。
元気の良い挨拶にはやては満足そうに頷くと、
「みんな、練習の方はどないや?」
と、訓練の調子はどうかと訊ねた。
成果はあったものの、まだ着いていくだけで精一杯という現状では、ハッキリとした答えにはならなかった。とはいえ、はやてもその辺りは分かっているようで、「頑張っとるみたいやね、関心関心」と柔らかな笑みを浮かべた。
「先はまだ長いかもしれへんけど、みんな気張ってなー」
再び「はい!」と応えた新人たちの様子を見て、はやては「うんうん」と満足そうに頷いた。しかし、そんなはやてとは対照的に、フェイトはどこか少し寂しげだ。
「エリオ、キャロ、ごめんね……。わたしは二人の隊長なのに、あんまり見てあげられなくて……」
申し訳なさそうにそう告げるフェイトに、エリオとキャロは「そんなことないです!」と返した。
長い間傍にいたのだ。二人とも、フェイトの役割やその多忙さはきちんと分かっている。
何より、ここは育成を主軸とした捜査部隊ではあるものの、内容としては武装隊の端くれと呼んで差し支えない。だからこそ、しっかりと自分たちの技術を磨き、任務を熟せるように努めるのが最善だろう。
どうやらエリオもキャロも、その辺りの心構えはしっかりと出来ているらしい。……まあ、隊長として部下の局員としての成長は嬉しくはあるものの、見守ってきた『母』としては、若干複雑な心境である。流石に表には出さなかったが、どうにも六課の発足以来、子供たちの親離れが加速しているようで、フェイトの親心はだいぶダメージ過多だった。
「そういえば、二人はこれからお出かけ?」
「うん、六番ポートまで」
「教会本部でカリムと会談や。部隊発足してからはバタバタして、まだ直接挨拶に行けてなかったからなー。そしたら、フェイトちゃんが車出してくれることになって」
「え。この車、フェイト隊長のだったんですか⁉」
はやての言葉に、スバルは思わず驚きの声を漏らした。
どちらかといえば物静かな性質に見えるフェイトが、こんなバリバリのスポーツ車を乗り回すイメージがあまりなかったためだろうか。
ちなみに、割と自身もバイクなどの乗り物を好むティアナは、むしろフェイトに親近感を抱いていた。
(フェイト隊長、結構アクティブなのね)
二輪に乗ることが多かったが、割と四輪も良いかも。
ティアナがそんなことを思っていると、フェイトは「そうだよ。ミッド地上での、わたしの移動手段なんだ」とスバルの疑問にそう答えていた。
魔法技術の中心たるミッドチルダでは、飛行魔法などにある程度の制限が掛かっている。あまり無制限に飛行許可を出してしまうと、有事の際に空を飛ぶ犯人や、公共の公共航空機関を阻害してしまう可能性があるというのが、主な理由とされている。
そのため、ミッドの局員たちは識別のし易いヘリや自動車を、局員としての移動手段に多く用いられる。もちろん本人の嗜好もあるが、こういった機動性重視の選択も、案外局員らしい選び方だったりするのかもしれない。
「……と、そろそろ行かな」
「あ、そうだね。騎士カリムをお待たせするわけにはいかないし」
「二人とも、行ってらっしゃい」
「わたしは、お昼前にはいったん戻ってくるから、お昼は一緒に食べられると思う」
「楽しみにしてますね、フェイトさん」
「うん。それじゃあまたあとでね」
「ほんなら、行ってきます~♪」
はやてのそんなほんわかした声と共に、新人たちの
3
「そういえば、フェイトちゃんはまだカリムに直接会ったことなないんやっけ?」
「うん。でも、はやてもだけど、お兄ちゃんとかからもよく話は聞いてたよ」
公的には、聖王教会の騎士団に所属する魔導騎士で、管理局・本局の理事官。そして、機動六課の創設にも尽力してくれた後見人の一人でもある。また、クロノの親友であるヴェロッサの義姉でもあり、はやてにとっても姉のような存在でもある───フェイトが知っているのは、大まかにはそんなところだ。
フェイトが挙げたそれらに、はやては「せやね」と頷いた。
「カリムとわたしは、
「結構長いんだよね? はやてが初めて教会の依頼を受けてから」
「確か、初めて会ったのは『闇の書』事件が終わって、リインが生まれたばっかりの頃やったから……かれこれ、一〇年近く前になるんかな? それからもよく呼んでもらって、今もそれが続いてる感じや」
はやての言葉に、フェイトは「なるほど」と頷いた。
それだけの時間を共に過ごせば、自ずと絆も深まるというものだろう。なにより、六課の創設も元を辿ればカリムからの依頼がきっかけであることを思えば、カリムがはやてを頼りにしているのがよく分かる。
「まあ、お仕事はお仕事でしっかりやらなあかんけど……。昔からカリム、ロッサもやね。わたしにとってはおねーちゃんとおにーちゃんみたいで、いつも助けてもらってばっかりやったから、頼ってもらえるのがなんや嬉しいっていうのもちょっとあるかな。……って、部隊長が公私混同したらあかんね」
苦笑しながら肩をすくめるはやてに、フェイトもくすと笑みを零した。
立場ある人間としてはあまり褒められたものではないだろうが、人間である以上、そうした情の絡む部分は必ずあるものだ。フェイト自身、似たような立場にある義母や義兄を持つ身であるため、はやての気持ちが分かる部分も多い。
「上の兄弟がいるのって、やっぱり頼もしいよね」
「うん。せやけど、助けてもらった分は結果でちゃんと返すよ。六課の立ち上げも、人材の確保に時間を割けるようにって、カリムにかなり任せきりになってもーたからなー」
ぐっと拳を握って見せるはやてに、フェイトは頼もしそうに微笑み、「全力でサポートしますよ。八神部隊長♪」と言った。
「ありがとうな~。今日は会われへんけど、一区切りついたらちゃんと紹介するよ。もちろん、なのはちゃんも一緒に」
「ふふっ。楽しみにしてるね」
そうして二人が微笑みあっている間に、ほどなく車は六番ポートの入り口に差し掛かろうとしていた。
4
六番ポートに着くと、はやては中央に向かうフェイトといったん別れ、ミッド北部にあるベルカ自治領へと飛んだ。
聖王教会本部の置かれたこの地は、古代ベルカの特色を色濃く残しており、かつての旧世界の文化を受け継いだ古風な街並みが広がっていた。
そして、その市街からやや離れた山間には、聖王教会の『大聖堂』がある。
ここは、古の戦乱の最中、『最後の聖王』が最後に辿り着いた地という所縁の地であるため、教会の本部を兼ねた、多くの信徒たちが足を運ぶ聖地として、この聖堂が建てられたのだそうだ。
聖堂前の広場では、日々の祈りを奉げる傍ら、信徒たちが穏やかな表情で交流していた。
「今日も平和ね……」
その様子を執務室の窓から眺めながら、カリムは柔らかな笑みを浮かべた。
当たり前のように繰り返されるこのひと時が、彼女は好きだった。誰もが安らかであれるようにと祈りを捧げてきた修道女の一人として、平和というのが、何よりも報われる瞬間である気がして。
───けれど、決して世界は平和の中にのみ存在しているわけではない。
諍いなく回るのならばそれに越したことはない。だが、祈りだけでは救えない事もあると理解しているし、何よりも彼女らの象徴であった『聖王』もまた、乱世に苦しみながらも、明日への祈りを遂げるために戦う道を選んだ。
ならば、彼女とて惰性的な祈りばかりを抱きはしない。
他人よりもほんの少しだけ見えてしまう力。しかし、そこに確実な回答など存在しない。それでも、抗えるものならば、抗いたい。だからこそ、生まれ持った力が───災いを乗り越え、いつも通りの平和を守る援けとなれるのならと、そう願ったのだから。
と、その時。
険しくなってしまった彼女の表情を融かすように、カリムのもとへシャッハから通信が入った。
『騎士カリム。騎士はやてがいらっしゃいました』
「あら、早かったのねっ! すぐ、私の部屋までお通しして? それから、お茶を二つ。せっかくだもの、
話の内容は真面目な『お仕事』であるが、それでも友人に会えるのは嬉しいようで、カリムは年頃の少女に戻ったような爛漫さを見せる。
とはいえ、普段あまり教会の外に出られないことを考えれば、無理もないことだった。
シャッハとしても、日頃きちんと仕事に取り組んでいるカリムに息抜きにの機会ができるのは、とても嬉しく思う。
が、『かしこまりました』と、笑みを返したシャッハに、カリムはちょっとだけ寂しげな顔をする。
「……シャッハも参加してくれたらよかったのに」
『申し訳ございません。午後に本局の方で戦技指南が入ってしまったので……』
シャッハ自身、参加できるのならばしたい気持ちはあるのだが、これもまたお仕事というやつだ。カリムも当然分かっているだろうが、人間誰しも、偶には我儘を言いたい時だってある。……まあ、これまた偶にではあるが、時々自分の気持ちに正直すぎる困った子もいるので、それはそれで玉に瑕だが。
「大事なお仕事だものね……。局の皆さんにもよろしく伝えておいて。あ、それとシャッハ。あんまり無茶な教え方はしないようにね?」
『心得ておりますとも』
軽口を交えつつ、シャッハは通信を切り、はやてをカリムの部屋に案内する。
何度も訪れてはいるが、いかんせん教会の本部だけあって、ここはやたらと広い。
基本となる礼拝に関連する施設を始め、騎士団の道場に、学徒を招く資料館、ほかにも医務施設やら食堂やらが合わさっているので、慣れている者でも時々迷うくらいだ。
なので一応、ここを訪れるときは慣れた人についていくのが比較的安心な巡り方なのである。
まあ、それはともかく。
「どうぞ」
そうノックに応える声を受け、はやてが部屋に入ると、カリムがはやてを温かく出迎えてくれた。
「カリム、ひさしぶりや」
「いらっしゃい」
微笑みを交わし、二人がテーブルへと移動してほどなく、シャッハがお茶とお菓子を運んできてくれた。
新茶の良い香りを楽しみつつ、はやてとカリムはしばし談笑に浸る。
「ごめんなあ? すっかりご無沙汰してもーて……」
「気にしないで。部隊の方は順調ってことだもの」
「ふふっ、カリムのおかげや~」
「なら良かった。そういうことにしておくと、お願いも聞いてもらいやすいのかな」
「? もしかして、今日のお話は、依頼も絡んでくるん?」
「まだハッキリと決まった訳じゃないんだけどね……。ともかく、まずはこれを見てみてほしいの」
そういって、カリムは部屋のカーテンを閉めると、いくつかの画像を宙に表示させる。
映し出されたのは、一枚の箱の写真と何らかの数値を示すものが二つ。そして、残ったものはみな、六課に縁深い、ある兵器に関するものだった。
「これ、ガジェット……の、新型?」
はやての問いかけに、カリムは「ええ」と頷いた。
「今までのⅠ型以外に、新しいのがもう二種類。九年前にはやてたちが出会ったものとも異なる機体の存在が、複数件報告されているの」
「前にヴィータたちが戦ったのも、自己修復機能を新しく持ち始めてるって話やったから、新しい型が出てくるのも、予想してなかった訳やないけど……」
そう。元から変化する可能性が示唆されており、まして別機体と思しき存在と交戦さえしている以上、『新型の出現』という事柄そのものに対する驚きはない。
むしろ問題なのは、何故このタイミングで出現したのか、という部分だ。
───恐らく、それは。
「やっぱり、このケース……」
「……ええ。こちらもまだ断定された情報ではないから、正式な報告はできていないけれど、クロノ提督を通して、局の方に警戒を促してもらってる。一昨日付でミッドに運び込まれた不審貨物。これに付随するように、さっきのⅡ型とⅢ型の目撃例が出てる」
短期間、というにもあまりに急な展開に、はやては半ば確信する。
ミッドチルダに、新たな『レリック』が出現したのだと。
「このレリックを、ガジェットたちが見つけるまでの予想時間は?」
「早ければ今日明日中にも……。教会の方でも警戒を強めてはいるけど、まだ現物は抑えられていないの」
カリムは、どこか悔し気な表情を覗かせる。
一昨日運び込まれた貨物と、それに伴って出現した新型。発見が後手に回ってしまった分、捜索が滞っている現状は、非常に危ういものだといえる。
が、それでもまだ確定ではない。運び込まれたケースが
「だから、会って話したかったの。この状況をどう判断するべきか。……この事件も、この後に起こる事件も、対処に失敗するわけにはいかないもの……」
険しい表情を見せるカリムに、はやてはその心中を察する。
六課の成り立ちを思えば、確かにここは最初の山場になるだろう。少なくとも、気を抜いて良い事柄では決してない。
まして、その答えのない問を投げかけられてしまう本人なら、不安に思うのも無理からぬことだ。
けれど、
「大丈夫。何があっても、きっと……大丈夫」
はやては、それでも「大丈夫」だと口にした。
「カリムが力を貸してくれたおかげで、部隊はもういつでも動かせる。即戦力の隊長たちはもちろん、新人フォワードたちも。万が一予想外の事態が起こっても、対応していく意思と力は、ちゃんと持ってる子たちや。
それに、わたしらだけやのーて、他にも力を貸してくれてるたくさんの人たちが一緒に戦ってくれてるんやもん。せやからきっと、大丈夫」
「はやて……」
微笑みながらカーテンを開け、はやてはカリムにそう言った。
楽観的かもしれないが、それ以上に信じているものが確かにあるからこそ、前を向いていられる。
どんなに絶望の中でも、道を開くことはできる。惰性的な安寧ではなく、苦しんでも掴み取りたい幸福を目指して。
そんな想いを、はやてはたくさんの人たちから受け取ってきた。
だからこそ、疑いなく信じて立ち向かえる。傍にいてくれる仲間たちの、今も褪せることのないその心を、ずっと近くに感じていられるから。
「さてと。お仕事の話もひと段落したし、シャッハが入れてくれたお茶が冷めてまう前に呑んでしまわな」
そういってティーポットを差し出したはやてに、「そうね」と微笑みを返し、カリムは空いたカップを差し出した。
5
訓練の汗を流し、新人たちはシャーリーとリインの支持を受け、六課のデバイスルームを訪れた。
四人を待っていたシャーリーは、部屋に入ってきた新人たちの姿を見るや、「おっ、みんな来たね~」と笑みを浮かべ、卓の上を手で指す。
「さっそくだけど、ご対面と行こっか。この子たちも、みんなが来るのを待ちわびてたみたいだから」
そんなシャーリーの言葉を受けて、スバルたちは卓の上に載ったデバイスたちの前に立つ。
真新しい輝きを放つ機体を前にし、感嘆の声がこぼれた。
「わあ……これが」
「あたしたちの、新デバイス……ですか?」
ティアナの問いかけに、シャーリーは「そうで~す♪」とにっこり頷いた。
「設計主任あたし。協力、なのはさん、フェイトさん。それから、レイジングハートとリイン曹長。このメンバーで完成させた、生まれたてほやほやのデバイスたちだよ♪」
改めて、開発に関わった人間の名前を聞き、スバルとティアナは思わず息を呑んだ。
性能の高い魔導端末になるほど、高位の魔導師が開発に関わる話はよく聞くが、まだ局入りして間もない新人魔導師のデバイスに、管理局の誇るエースたちが直々に監修に入るのは、かなり異例といえるだろう。
まして、シャーリーは本局でも有名な技術者の弟子である。こんな豪華なメンバーで造り上げられたという事は、このデバイスたちの秘めたポテンシャルも窺い知れるというものだ。
そうした、緊張とも興奮ともつかない昂揚感に苛まれている二人の傍らで、エリオとキャロは自分たちの愛機の外見が、二人に比べるとあまり大きくは変わっていない事に首を傾げていた。
「ストラーダとケリュケイオンは変化なし、かな?」
「うん、そうなのかな?」
と、顔を見合わせている二人に、「そんなことありませんよ~?」とリインが告げる。
「確かに、ストラーダとケリュケイオンは、スバルとティアナに比べると外見的な変化は少ないですが、それは見た目だけですよ」
「元々この二機はフェイトさんが、実戦的なデバイスの使用経験がなかった二人のために、感触に慣れてもらうように用意した機体だったよね? だから、これまで基礎フレームと最低限の補助機能だったところを、より実践的なものにアップデートしてあるの」
「あ、あれで最低限……?」
「ホントですか? シャーリーさん」
「そうだよ~。ここまでは魔導師としての基礎を固める時期だったから、自分で魔法を使う感覚って言えばいいのかな? 演算処理とかになれるように、って。特に、ブーストデバイスを使うキャロには、なおさらね。フェイトさんも小さい頃、先生にそういうところは大事だって教わったらしいから」
シャーリーからそう告げられ、エリオとキャロは前にフェイトから聞いた子供の頃の話をふと思い出した。
ちょうど二人が出会ったばかりの頃。アルトセイムに出かけたとき、フェイトが懐かしそうに話してくれたことがある。今の二人と同じくらいの年齢の時分に、この場所で魔法の先生から手ほどきを受けていたのだと。
それを思うと、なんだかエリオとキャロは不思議と胸が温かくなる。
二人にとって、ストラーダとケリュケイオンは『母』から託された機体ではあるが───更にそのルーツからも続いている何かも、一緒に込められているような気がして、なんだか嬉しかった。
「この子たちは、部隊の目的に合わせて───そして、エリオやキャロ、スバルにティア。それぞれの個性に合わせて造られた、文句無しに最高の機体です! みんな生まればかりですが……そこに至るまでの間に、いろんな人の想いや願いが込められてて、いーっぱい時間かけて、やっと完成したです。ただの武器や道具と思わないで、大切に。だけど、性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげて欲しいです」
「この子たちも、きっとそれを望んでると思うから……」
リインとシャーリーがそういうと、四人は改めて、自分の手に乗ったデバイスたちに目を落とす。
魔導師にとって『デバイス』とは、共に並び戦う、心を預け合う存在だ。
かつて、ある世界で魔法に出会ったばかりの少女を担い手としたデバイスが、自らをこう称した事がある。
いうなら、自分は『乗り物』と同じであると。
ヒトの力を受け止め、それを高める器。だからこそ、互いの力が同調した時、そこに宿る力は何倍にも増加する。
リインとシャーリーの言っているのは、まさにそれだ。
自らを高める意思を持つ者同士が、己の限界を突き詰めていく瞬間にこそ、ヒトにもモノにも『成長』というものが起こるのだから。
「ごめんごめん、お待たせ~」
「なのはさん~♪」
と、シャーリーとリインが新人たちに伝えるべき事を伝え終えたところに、なのはがやって来た。
「ナイスタイミングです。ちょうどこれから、機能説明をしようかと」
シャーリーがそういうと、「そっか」と一つ頷いて、
「もう、すぐに使える状態なんだよね?」
なのははシャーリーに、デバイスたちの現在の状態について訊ねる。それにシャーリーとリインは、「「ええ/はいっ!」」と応え、各機体の機能説明を始めた。
「まず、その子たちにはみんな、何段階かに分けて『出力リミッター』を掛けてるのね? 一番最初の段階だと、そんなビックリするほどのパワーが出るわけじゃないから……始めのうちは、それで扱いを覚えていってね」
「で、各自が今の出力を扱いきれるようになったら、わたしやフェイト隊長、リインやシャーリーの判断で解除していくから」
「ちょうど、一緒にレベルアップしていくような感じですね~」
その説明を受ける中、ふとティアナが『出力リミッター』という単語について、なのはにこう訊ねた。
「出力リミッターって……確か、なのはさんたちにも掛かってますよね?」
「あぁ、うん。ただわたしたちは、デバイスだけじゃなく本人にもだけどね」
「え……?」
「本人にも、ですか?」
なのはの言葉に、ティアナとスバルがそう聞き返すと、なのはは「うん」頷いて、自分たちにかかっている制限について語り始めた。
「能力限定、っていってね?
「はやてちゃんもですね」
「うん」
なのはとリインが告げた言葉について、新人たちはまだ分かりかねた様子で首を傾げている。それを見て、シャーリーが補足するようにこう言った。
「ほら、部隊ごとに保有出来る魔導師ランクの総計規模って決まってるじゃない?」
「え……えと、そう……ですよね?」
(スバル、絶対分かってないわね……。訓練校で習ったでしょーが)
相方の動揺を見逃さず呆れた様子のティアナに苦笑しつつ、シャーリーはそのまま説明を続けていく。
「何かすごく大きな事件が急に起きて、救援が必要な状況とかじゃない限り、常駐する部隊って、あんまり偏った編成はできないんだよね。だから、一つの部隊でたくさんの優秀な魔導師が必要な時は、能力に制限を掛けて戦力を抑制するようになってるの。……ま、裏技っちゃ裏技なんだけどね」
単純な組織のパワーバランスを考えれば、能力を均等に振り分ければ済む。
ただ、現実は単純な振り分けのみで決まるものでもなく、時折そうした特例が必要になることもある。
魔法は、非常に便利な力だ。
だが同時に、個人の力量が呆気なく大部隊を凌駕する不平等を抱えた力でもある。
そのため、現実との折り合いをつける中で、組織内からの反逆などの行為を防ぐ目的もあり、こうした抑制措置が置かれるようになった。
六課も、ある意味そうした特殊な例から発足した部隊であるがゆえに、この措置が適応されている。
「六課は基本的に育成メインだけど、その内容が〝実戦の中で、AMFに対抗できる魔導師を育てる〟っていうものだからね。AMFとか、魔法を無効化する相手との戦闘経験があるメンバーを揃えようと思うと、どうしても限られてくるから……」
AMF自体は、管理局の技術部でも鹵獲したガジェットなどからデータを取り、かなり実物と同じレベルで再現することができるようにはなっている。
しかし、十三年前の地球での事件や、九年前の無人世界での事件など。急に出現した『魔法を無効化する敵』と遭遇するリスクは、ここ数年で飛躍的に高まっている。
もちろん、綿密な訓練を全体に適用すれば、この問題は解決できるかもしれない。
だが皮肉なもので、予想外の状況というのは、殊の外あっさりと起こるものだ。直近で出現したガジェットの変化など、まさにその良い例だろう。
尤も、これも建前と言ってしまえばそれまでだ。
危険を冒してまで、実戦の中で魔導師を育てる意味は、突き詰めてしまえばきっとない。もちろん、六課の創設に至るまでの理由はそれだけではないが、少なくとも定石から大きく外れてしまっているのも確かである。
そのことは、六課を立ち上げたはやてたちが一番よく分かっている。
けれど、だからといってそれだけが事の全てではない。
込められた想いも、遂げるべき願いも、清濁併せ吞み、今ここにある。
「ま、そんな諸々があって、いま六課の隊長陣にはいろいろ細かい制限がかかってるんだよね」
「そうだね。基本的なところだと、隊長と副隊長にかかってる制限がだいたい
「四つ⁉ ええと、確か八神部隊長って、
「はやてちゃんもいろいろ苦労してるですよ~……」
ティアナの驚きに、リインが少し複雑な表情を覗かせる。
と、それに続いて、スバルから「なのはさんは……?」という質問が投げかけられた。
「わたしは、元々S⁺だったから、二・五
「隊長さんたちははやてちゃんの、はやてちゃんは直接の上司であるカリムさんか……部隊の監査役、クロノ・ハラオウン提督の許可がないと、
なのはとリインの言葉に、新人たちは六課の抱える複雑な事情を知り、しゅんと口を噤む。学ぶ機会を用意し、何かを守る力を集めようとしても、社会や組織の中にある限りは、複雑な規律の中で戦わざるを得ない。
当たり前の事ではあるが、改めて直面した現実は、やはり厳しいものがあった。
が、なのはたちは「その辺りのことは、今は心の片隅くらいでいいよ」と、新人たちに告げた。
様々な事情に囲まれていようとも、六課は既に動き出した部隊である。
ならば、そこで得られるものを、自分自身の糧にする事を第一にして欲しい。かつて、彼女たちも、そんな
なのはたちの言葉を受け、新人たちは『はいっ』と顔を上げて、ハッキリと返事をした。
その返事に、嬉しそうに微笑みながら、シャーリーは頭注になってしまっていた機能説明に戻る。
「さて。それじゃあ、新型の説明に戻るけど。基本的に、みんなの訓練データを基にしてるから、いきなり使っても違和感は無いと思う。エリオとキャロのストラーダとケリュケイオンはもちろん、スバルとティアナも、ローラーブーツとアンカーガンの特性を引き継いでるからね。あ、それから───」
と、シャーリーがスバルに、彼女のもう一つの愛機である『リボルバーナックル』との連携機構についても説明する。
「スバルの方は、収納と瞬間装着の機能を追加しておいたから、BJと一緒に両方を展開できるようにしてあるよ」
「ホントですか⁉」
「うん。何とかうまく調整できたから、ナックル側との
「ありがとうございますっ!」
やはり使い手に喜んでもらえるのは、技術者冥利に尽きるのだろう。嬉しそうなスバルの様子を見て、シャーリーはうんうんと満足そうに頷いている。
そんな二人を微笑ましそうに見守りつつ、
「だけど、感触は実際にやってみないと分からない事もあるだろうし、午後の訓練の時にでもテストして、微調整して行こう」
と、なのはは言った。
「ですね。遠隔での調整も出来ますから、手間は殆どかからないと思いますし」
シャーリーの言葉に、なのはは子供の頃に新装備を使った時の事を思い出していた。
『闇の書』事件の時もそうだったが、《オールストン・シー》の事件で新型装備を使っていた際は特にそれが顕著だった。
AEC装備を始め、愛機であるレイジングハートのFモードの調整に、マリーやシャーリーがかなり骨を折ってくれた。既に組み終わった機構の調整でなく、全く新しい形を試そうとしていたのだから、当然といえば当然ではあるが、それでもここ十年ばかりの間に技術が進歩しているのを感じる。
「はぁ~、便利だよねえ。最近は」
「便利です~♪」
リインの相槌を受けながら、なのはは自分たちも何だか
6
中央から戻る環状道路を走りながら、フェイトは六課の管制室から掛かった通信に応じていた。
「うん。はやてはもう、向こうで騎士カリムとお話してる頃だと思うよ」
『お疲れ様です』
はやてが不在の間、管制を担当しているグリフィスがそうフェイトにねぎらいを告げる。
それに「ありがとう」と応じつつ、フェイトはこの後の予定について確認する。
「わたしはこの後、公安地区の操作部によって行こうと思うんだけど……そっちは何か、急ぎの用事とかあるかな?」
『いえ、こちらは大丈夫です。今、副隊長方が後退部隊と一緒に出動中ですが、なのはさんが隊舎にいらっしゃいますので』
「そう。じゃあ、お昼ごろまでには戻るから───」
よろしく、と、言いかけたところで、隊舎から鳴り響いたアラートが激しく耳朶を打った。
「⁉ どうしたの、グリフィス」
『お待ち下さい! 今確認を……っ、これは?』
グリフィスの驚きを隠しきれない様子で、即座にデバイスルームに居るシャーリーたちとも通信を繋ぐ。
『グリフィスくん、このアラートは⁉』
『緊急出動だ、教会本部から出動要請が掛かってる!』
『ええっ⁉ いきなりそんな……!』
『とにかく、一度シャーリーは
六課の管制を担当する二人が動きだす中、そこへはやてからの通信が入る。
『───グリフィスくん、こちらはやて!』
『八神部隊長⁉ いま、ご連絡しようとしていたところでした!』
『うん……! みんな、いきなりごめんな? せやけど、ちょっと厄介なことになってもーた』
「はやて、状況は……?」
フェイトからの問いに、はやては一つ頷いて言う。
『一昨日から教会騎士団の調査部で追ってた、「レリック」らしきものが見つかった。場所はエイリム山岳丘陵地区。対象は、リニアレールで移動中……!』
「移動中って……」
『……まさか!』
フェイトとなのはが何かを察し、険しい表情を覗かせる。そしてどうやら、その悪い予感は当たってしまったらしい。
こくんと、はやては二人に再度頷きを返し、続ける。
『そのまさかや……。「レリック」を追跡してきたと思しきガジェット群が、リニア周辺を取り囲んでる。しかも、内部に侵入したガジェットたちが車両の制御を奪ったせいで、外部からの停止ができひん。
リニア内に侵入したガジェットは、最低でも三〇体。その上、周辺の空域には、最近確認された新型の
「わたしはいつでも……!」
「わたしも行けるよ、はやてちゃん!」
『うん……! スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。みんなもOKか?』
『『『『はいッ‼』』』』
『よしっ、良いお返事や……!』
新人たちの返事を受けて、はやてはニッと笑って部隊長として部隊指示を発令する。
『シフトはAの三。グリフィスくんは隊舎で管制指揮、リインは現場管制。なのはちゃんとフェイトちゃんは現場指揮!』
「『うんっ!』」
『ほんなら……! 機動六課、フォーワード部隊。出動‼』
はやての指令に、六課メンバーたちが『了解ッ‼』と声を揃え動き出した。
7
そうして、皆にいったん指示を出し終えたはやては、教会から六課の隊舎へ戻る用意をしていた。
「カリム、ごめんなあ。せっかく、久しぶりのお茶会やったのに……」
申し訳なさそうに言うが、カリムは「良いのよ。気にしないで」と微笑む。
「それより早く、聖堂の裏に。まだ出る前でよかった……シャッハが待ってるわ。みんなのところへ行ってあげて」
最速で現場へ向かえる手はずを整えてくれたカリムに、はやては「おおきにな、カリム。今日のお茶も美味しかったよ」とお礼を言って、
「───ほんなら、行ってきます!」
と、力強く告げる。
そんな彼女の背を押すように、カリムもまた「ええ。頑張って……!」と、はやてを送り出した。
8
はやてが教会を発った頃。
同じように、六課隊舎から一機のヘリが飛び発とうとしていた。
「新デバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、練習通りで大丈夫。落ち着いて、覚えた基本を一つ一つ熟して行こう!」
「はいっ!」
「頑張ります!」
なのはの声を受け、スバルとティアナは力強く頷いた。
その傍らに座るエリオとキャロ、そしてフリードに、リインからも激励の声が掛かった。
「エリオとキャロ、そしてフリードも、しっかりですよっ!」
「「はいっ‼」」
「きゅくーっ!」
「危ないときは、わたしやフェイト隊長、リインがちゃんとフォローするから……おっかなビックリじゃなくて、思いっきりやってみよう!」
なのはの言葉に、新人たちは再度『はいっ!』と力強い返事で応じた。
しかし、現場へ向かうまでの時間を経る毎に、それぞれの胸の内には、様々な想いが沸き起こっていた。
不安、或いは矜持。
〝初めましてで、いきなり本番になっちゃったけど……。一緒に頑張ろうね、『相棒』〟
そして、目指す場所へ向けた、意気込み。
其々の想いを乗せ、ヘリはエイリムへと向け、空を駆け抜けて行くのだった。
またかなりお待たせいたしました……。
本編からお読みの方は初めまして。前作やプロローグ、および設定等からお読みいただいた方は、改めてお久しぶりでございます。
お待たせしてしまい申し訳ございません。
今回もまたかなーり時間を経て、ようやく投稿に至りました駄作者でございます。
新年度に入って早三か月。
いろいろ環境の変化もありましたが、何とか書き続け、やっとこさ第三章も完成いたしました。
まだまだ先は長いですが、それでもやっと次から動きのある所に入れそうなので、序盤もそろそろ終われそうなことにホッとしております。
特に、次回は結構書きたかった子供たち二人のシーンなので、原典とは少しズレたこの時空ならではのやり取りを書けたらいいなぁと思いつつ、しっかりとその絡みを書いていけるように頑張りたいですね。
さて、ではさっそく恒例の言い訳タイムをば。
とはいえ、なんだかもうSTARDを書き始めてからは、序盤をかなり長く書いてきたのもあって、あまり動きのあるところがまだそう多くはないので、本当に細かいところが変わってるかなぁ~? くらいの変化ばっかりではあります。
主だったところだと、まあ一番はやっぱりエリキャロの掛け合いですかね。
原典よりも距離が近くなってるので、その分、元のStSに比べるとぎこちなさみたいなのが最初からない感じのやり取りが多くなってはいます。
その辺りに関連して、フェイトママとのこれまでの部分もちょこちょこと小さくネタが入ってきてるので、探してみていただけたら楽しいかも、なんていう風に思うところはあります(笑)
あとは、本当に細かい設定の確認だったり、次の話につなげるための部分だったりが主なので、大きく動いていくのは次回以降からですかね……。
あ、それと今回はユーノくんが出せなかったので、次回は何とか出したい欲求に駆られています。
特に、最後のところとかもう、裏側で動く面子どう対比する感じで出すか楽しみでしょうがない感じです(笑)
それ以外でも、たぶんその前にある二人の絡みにも、この時空だとたぶん結構関わってくると思うので、そこら辺を書くのも。
それ以降で言うと、一応、六話でStSのSS01を踏襲するつもりなので、そこにも絡めたいなぁとは思っているんですが……うーん、やはり先は長い(泣)
これまでに比べると、本当にペースが落ち気味ではありますが、今後もゆっくりとでも、地道にこの物語を書き進めていけるように頑張りますので、読者様方には楽しんでいただけたら幸いでございます。
では、今回は本編も若干短めなことも手伝って、ここでいったん筆を置かせていただきます。
お読みいただき、本当にありがとうございました……‼