魔法少女リリカルなのはStrikerS ~The After Reflection/Detonation IF~   作:形右

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 どうも、Ⅲがお初という方は初めまして。
 Ⅰ、あるいはⅡに引き続いての方は続けてお読みいただいている方はありがとうございます、お久しぶりでございます。
 本日二本目の投稿と相成りました、駄作者でございます。

 今回の話はⅡほど極端にメインキャラが出てこない、というでもないので、まえがきの方は、なるべく簡潔に済ませられればなと思います。

 Ⅱのまえがきにも書いた通り、Ⅱは幕間を全力で書いた様なものだったので、少しばかり単話での投稿に抵抗があったので、此方と一緒に投稿する事にさせていただきました。
 とはいえ、此方もこちらでⅢの要素は引き継いでいる部分もありますので、是非とも併せて読んでいただけたらなと思います。

 さて、今回のお話は前話のあとがきにあった通りの内容で、主に『雷と竜のはじまり』、そして『Ⅳへの布石』が主な内容になっております。

 これだけで大体察せられた読者様からすれば、そいう話かというものかもしれませんが、自分なりの全力で文章にいたしましたので、読んでいただけるものになっていたなら幸いでございます。

 流石に今回はこれ以上のまえがきは野暮というか、余計なネタバレになりそうなので、一旦こんなところにしておいて、残りはあとがきへと引き継ごうと思います。

 加えて、こちらでも前作のリンクを貼らせていただきました。
 宣伝じみていますが、Ⅱ、Ⅲ揃って久方ぶりの投稿であり、また初めての方もいらっしゃるかもしれませんので、一応の前置きとしてご容赦願います。
 また、もし宜しければ、既読の読者様もまた読んでいただけたなら幸いでございます。
 https://syosetu.org/novel/165027/

 では以下、恒例の簡易注意事項でございます。

 ・お気に召さない方はブラウザバックでお願いいたします。
 ・感想は大歓迎ですが、誹謗中傷とれる類のコメントはご勘弁を。

 それでは、本編の方をお楽しみいただければ幸いでございます───!



Prologue_Ⅲ ──Emperor──

 始まりの鼓動(オト) The_Beating.

 

 

 

  1 (Age-Unknown.)

 

 

 暗がりの中。溶液で満たされた円筒(ポッド)が、怪しげな光を放つ。そんなぼんやりとした淡い輝きが、この部屋の中を微かに照らしていた。

 コポコポと音を立てて、容器の内側で泡が噴き出す。どこか飼育水槽じみた、けれど飼育などという言葉には収まりそうもない大きさのそれからは、非常に怪しい雰囲気が醸し出されている。

 しかし、あながちそれも間違いではない。

 何せそれは、確かに目的のモノを納めた容器(たからばこ)に他ならないのだから。

「ククク……よくやってくれたねぇ、ドゥーエは」

 紫髪をした白衣の男が、容器の中身を眺めながら満足げな()みでそう言った。 

 すると、その傍らに同じように白衣の男が足をやって来た。此方は黒髪で、どこか尖った印象のある前者とは裏腹に、非常に柔和な印象を与える容姿をしていた。

「ああ。まだいくらかの欠損はあるが、埋め直しの手間はさして変わらないだろう。むしろ、彼方の方は良いのかね? 此方に比べると、素となるモノの傷みが激しかったようだが」

「そこは問題ないよ。彼方(アレ)の不足分は、此方(コレ)で補える。……いや、逆にそうした方が、再現としては合っているだろうさ。何しろ、これらの『繋がり』が出来ない事には、真打の動かしようがない。

 例の結晶(しな)との適合調整もあるし、そう焦ることはない。───せっかくならば、万全で行きたいだろう? キミも」

 愉しげな紫髪の男にそう問われ、黒髪の男もまた「違いない」と、どこか可笑(たの)しそうに嗤っていた。

 二人はひとしきり嗤った後、また少しだけ話を続ける。しかし、此方は本題という訳ではなく、どちらかというなら余韻の様なものだ。

「ところで、新しい素体がまた別にあったが……アレもキミのいう万全の為のものかな? ジェイル」

「そうであるともいえるし、そうでないともいえる。理由自体は、実に他愛の無いものでね。まぁ、だからと言って雑兵程度で済むものではないのだが」

 振られた話題に対し、嗤みを交えそう応える。すると相手の側も「ふふ……それはまた、愉しみな事だ」と言って、また嗤った。

 そうして男たちは他愛の無い話を終え、今度こそ部屋を立ち去って行く。

 まだ幼い───否、幼いとさえ言えない程、文字通り『未完成』であるその姿は、さながら罅割れた硝子片のようでもある。

 だが、それはやはり『生命』だった。

 音の消えた部屋の中で、雑音を遮る様にして───小さな、けれどハッキリとした鼓動が鳴り響く。

 いずれ来るその時へ向けて、己が存在を象り始めている、魂の脈動が。

 父によらず、また母にもよらず。

 だとしても、確かに育まれつつある生命(いのち)が、生まれ出る時を、ただ静かに待ち続けている。

 

 そんな、誰にも知られる事の無い時の中で起こり始めた生命。

 これとまた同じ様に。生まれ出でながらも、存在を否定された(だれにもまもられなかった)生命が───伸ばされた手を取って、物語へと至る道を辿り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷と、竜と Intertwined_Fate.

 

 

 

  1 (Age-74_Late-Fall.)

 

 

 ───始まりは、随分急な話だったと記憶している。

 時は、新暦七四年の秋。時空管理局本局にある『無限書庫』での事だ。

 

 ちょうどそれは、フェイトが執務官になってしばらく経った頃の事。

 何時ものように『無限書庫』での業務に励んでいたユーノは、彼女からある相談を受けていた。

 とはいえ、事柄自体はいつもと同じ依頼。ただ、この時のフェイトがユーノに調べて欲しいといった内容は、何時ものそれとはどこか違っていて───。

 その内容はというと、

「〝ル・ルシエ族に関する資料〟……?」

「うん、その資料が欲しいんだ。通常のだけじゃなく、本当にちっちゃな事でも……出来るだけ、たくさん」

 ここ最近は皆忙しく、直接出向いてくること自体そもそも珍しかったが、それを差し引いても、この依頼は不思議なものだった。

 ……だからだろうか。

「それは良いんだけど……急にどうしたの?」

 ついユーノは、フェイトに内容について訊き返してしまっていた。

 本当なら、訊くべきではなかったのかもしれない。酷く無粋で、無神経な質問だったかもしれない。

 けれど、心配だった。フェイトの持っている事情が、とても大事なものであると、感じ取れたから。

「……うん。少しだけ、訳ありでね?」

 そんなユーノの意図を汲んだのか、フェイトはぽつりぽつりと事情を話し始めた。

 

 彼女が資料を求めた理由は、()()()()について知る必要があったからだそうだ。

 そしてこれを語るには、もう少しだけ時を遡らなければならない。彼女がそれを決断するに至った始まりである『ある計画』と、そこから始まった昨年の冬の出来事にまで。

 

 ───そう。きっかけは、彼女の出生に纏わる話から。

 そして、昨年の冬。フェイトが、ある少年を保護した事による。

 

 

 

  2 (Age-73_Mid-Winter.)

 

 

 フェイトは元々、ミッドチルダの出身だ。

 色々と経緯は複雑であるが、彼女が生まれ育ったのはミッドチルダ南部にあるアルトセイムという地方であるといって間違いない。

 幼少期をそこで過ごし、最愛の教師との別れを経て、彼女は母の願いを叶えるべく様々な世界を巡り───最後に第九十七管理外世界、地球へとやって来た。

 そこでまた、いくつかの出会いと別れを経て、彼女は母と別れ、また新たに家族や友人を得る事になった。

 少しだけ間違ってしまっていた頑なな心を解き、フェイトは自分と同じ様に間違ってしまった人を助ける力になるべく、義母となったリンディや義兄であるクロノと同じ管理局員となる道を選んだ。

 この選択は、一度間違えてしまった彼女自身の償いでもあった。しかし、だからと言ってそういった心のみで彼女は道を選んだ訳ではない。

 彼女の心根を知る者であれば、少なくともそんな風に思う輩はまずいないだろう。

 こうした経緯もあり、フェイトは地球で九歳から十五歳までの月日を過ごし、その間に兄であるクロノと同じ執務官を目指して、その目標を達成。中学校を卒業すると、本格的にミッドへと戻り、同じ様に管理局員となったなのはやはやてたちと共に、所属は違えど、真摯に任務に励んでいた。

 そうしてフェイトは、兄であるクロノが母から引き継いだ次元航行船『アースラ』に、兄から執務官の役を引き継ぐ形で就任する事に。

 『アースラ』での基本業務は、次元航行(パトロール)中に発見した違法魔導師たちの摘発などが主であったが、それ以外にもいくつかの事件を担当していったフェイトは、やがて『ある事件』の捜査に就く事になった。

 ある意味でこの事件は、彼女が真に追うべきものであったと言えよう。

 ───Fの遺産。

 その頭文字は、事件そのものではなく、発端となった、ある研究計画(プロジェクト)に由来する。

 基となった計画の名は、『Project_F.A.T.E』。

 彼女の出生と、その名の所以となった違法研究であった。

 

 

 

 時は、十数年前に遡る。

 新暦六〇年頃。フェイトの産みの親であるプレシア・テスタロッサは、亡くなった愛娘、アリシア・テスタロッサを蘇らせる為に、ある研究を始めた。

 それが、『Project_F.A.T.E』。

 この計画を簡単に説明するならば、『人造魔導師を生み出す技術』と『その魔導師に記憶を転写する技術』を併せたもの、というのが一番分かり易いだろうか。

 『容れ物(カラダ)』を創り、そこにそれを動かすための『記憶(ココロ)』を焼き付ける。

 要点を挙げればそんなところだ。

 これは『使い魔』の創造にも似ている。

 必要な知識を、素体となる動物に、ヒトの姿と共に与える。そうする事で、必要な知識を持った魔導生命(つかいま)を生む。ただ、これと『F』の違いを挙げるのならば、『使い魔』の創造で生まれる人格は、魔導師が与えた疑似的な魂である事だろうか。

 確かに、素体となった動物の記憶と心は残る場合が多い。だが、生まれてくる時に与えられる魂は、魔導師側の魔力を基とした、人造魂魄と呼ばれるものだ。これは魔力の供給が途切れれば、或いは魔導師側が供給を止めてしまった瞬間、失われてしまう。

 故に『使い魔』の創造は、蘇生であるように見えて、蘇生ではない。

 しかし『Project_F.A.T.E』は、人造魔導師という『生命(いのち)』を生み出して、そこに『記憶』という魂の情報を与える。

 結果だけを見れば、そこまで大差が無いように見える。

 実際のところ、この計画の基礎となった理論を構築した者からすれば、要となるのは『魔力供給の要らない人造魔導師』を、『優れた素体からの情報で以て造り出す』という部分でしかなかった。

 しかし、着眼点を少しズラすと、この方法はまた別の見方が出来てくる。

 仮に、オリジナルである人間が死んでしまったとして、それとまったく同じ身体を造り出し、まったく同じ記憶を写し込めばどうだろうか。

 魔力の供給と言った無粋な生命維持など不要の、全く同じ身体で、全く同じ記憶を持って人間を生み出す───これが可能であるのならば、確かにそれは、紛う事無き『蘇生の法』であると言えるのではないか。

 この点に着目し、実際に実行して見せたのが、プレシアである。

 プレシアは、この理論に則り、事を為した。……それによって生まれたのが、アリシアのクローンであるフェイトだった。

 

 確かに、プレシアは『娘』を生み出す事には成功した。

 ───けれど、それは『娘』を蘇らせる事にはならなかったのである。

 

 当時、不当な事故によって汚名を被せられ、最愛の娘を奪われたプレシアにとって、それは失敗に他ならなかった。

 結果としてプレシアは別の手段を模索し、最期までフェイトを娘としては認めず、彼女を道具の様に使役したままこの世を去ってしまう事になった。

 だが、彼女は今際の際まで気づけなかった───否、()()()()()()()()()()事ではあるが、彼女が為した様に、少なくとも『Prject_F.A.T.E』は、失ってしまった自らの『子』を、もう一度この世に生み出す事には出来ていたのである。

 確かに、完全に一致するとは限らない。死者を本当に蘇らせる術など、今の魔法には存在しないのだから……。

 残酷な言い方をするのであれば。子を失った場合、もう一度『子』を望むのであれば、通常の夫婦ならば次の子を育む道を選ぶしかない。取り戻す術など無い以上、本来の道理は此方の方だろう。

 ……しかし、だ。

 次に生まれてくる子供が、まったく同じ姿、性格であるとは限らない。

 当然である。本来、生命のカタチを自由に決めるなど、ヒトに出来るわけがないのだから。

 であるならば、どうだ。

 次の子を望む気持ちが残ろうと残るまいと、そこに亡くなってしまった我が子にもいて欲しいと願いが消えないのであれば───それをヒトは、単なる紛い物として切り捨て続けるのだろうか?

 

 ───答えは、否だ。

 

 人造魔導師を生み出す研究は、実際のところコストパフォーマンスは良くない。

 しかし、研究としては非常に意義がある。何せ、資金とノウハウさえあれば、優秀な魔導師を幾らでも、必要なだけ生み出す事が出来るのだから。

 そこで、一つの環がここに成り立つ。

 先も言った通り、親が子を愛する気持ちに、完全に区切りを着ける事は難しい。

 時にプレシアの様に完璧を求め、生まれた命を紛い物として見てしまう事もあるだろう。だが、そこまで己の力で道を拓こうとする者は、ごくごく稀である。

 多くは、たとえどんなに歪でも、そこに在る事の方を望む。

 そして望みを叶える為には、どんな代償でも払おうとするだろう。ヒトは、それが悪魔の甘言であると知って尚、そこに希望を見出してしまう生き物であるが故に。

 取り分け、それが手の届く場所にある者である程に、そこへと手を伸ばす者は後を絶たなかった。

 そうしてミッドだけでなく、次元世界に存在する富豪や資産家が、『Prject_F.A.T.E』による()()を求め始めた。

 研究に対し、素体となる遺伝子と、それらを行う為の資金を提供する。

 実験を行うものにとっては、まさしく天啓であっただろう。高い地位に居る者には、それなりに魔導師としての素養が高い者も多い。仮にそうでなくても、実験を行えるだけでも十分に利用価値はある。それどころか、人造魔導師を生み出す際にどこまで魔導師としての資質を高められるか。その限界を解き明かすには、むしろ資質の無い素体にこそ価値があるといえなくもない。

 こうした連鎖が、『Prject_F.A.T.E』の研究を進める環となった。

 生きたデータと、それに伴う資金の全てを、自ら望んで差し出す輩がいる。これを、本来の『Prject_F.A.T.E』を研究したいと望んだ研究者たちが見逃すはずもない。

 互いの願いと欲望を両立させる形を取った悪魔の営みは、こうして行われていく事となった。

 やがて管理局による取り締まりが活発になり、段々と違法研究者たちも摘発され、計画によって生み出された素体(コドモ)たちもまた同じ様に、管理局による保護を受ける事になっていくのだが……生憎と、司法組織であるとはいえ、管理局もまた単なる慈善によってのみ動いている訳ではない。

 組織というものは、その規模が増すごとに一枚岩である事が難しくなる。

 そして、管理局は次元世界を統括する司法組織。当然ながら、秩序を維持する為には力が必要だ。

 故に、この『Prject_F.A.T.E』に置いて、生み出される魔導師たちに関するデータは、実に価値のある代物だった。

 

 現在の主要次元世界において、力の指標となるのは、やはり『魔法』だろう。

 質量兵器の様に誰でも使える訳ではない反面、無差別に人を殺すだけの力ではない辺り、魔法には他にはない圧倒的な特異性(アドバンテージ)がある。

 しかし、『魔法』は資質によるところが大きい為、安定して強力な魔導師を管理局が一定数保有し続けられるかはかなり微妙なところだ。

 凶悪犯罪に手を染める強力な魔導師が現れた時、局の側に抑止となる同格の魔導師がいないのでは、鎮圧には相当の犠牲を払う事になるだろう。とりわけ、制限されている質量兵器などを秩序維持の名目で導入すれば、魔法における広域殲滅とは比べ物にならない犠牲が生まれるのは想像に難くない。

 無論そうならない為に、魔導師の育成はもちろん、対魔導師用の戦術や戦略などの研究も行われている。

 ただ、それだけで簡単に克服できるかと言えば、実際はそうでもない。

 実状としては、時代ごとに現れる英雄(エース)たちの力が、管理局に置いて最も分かり易い抑止力となっている。

 それも決して悪いとはいえない。人は完全なる秩序(システム)に守られるよりも、華々しい英雄譚に焦がれるものだ。そうした憧れが連鎖して、英雄たちを管理局という『正義の味方』に繋いでいる部分もあるのもまた事実。

 そも、理想を語るのならば、ヒトは善なるものであるという方が、本当ならば好ましい。

 とはいえ、理想はあくまでも理想。現実にその在り方を引き寄せることは、平和を維持するよりも難しい。

 それでも、時代の英雄たちが残してきた善なる意志は紛い物ではなく。

 たとえ現実を生きる上であっても、理想を『在るべき道』として見せてくれている。

 これは、決して『悪』ではない。けれど、それだけで全てが解決するわけでもないのも、また事実。

 であるからこそ、現実の抑止として力を求めるのは必然の動きだったと言える。

 

 ───そう。フェイトが目の当たりにしたのは、正しくそんな現実だった。

 

 

 

  3 (Same_Year.)

 

 

 捜査で踏み入ったその場所(ばしょ)は、一言で言えば悪魔の檻だ。

 そして、彼女にとってはどこか、今では少し遠のいた過去に通ずる何かを残した様相をしていた。だが、懐かしいという感傷を抱くには、そこはあまりに凄惨が過ぎる。

(…………酷い……)

 様々な培養容器や、実験器具の山。しかしそれだけなら、単なる研究施設と変わらないだろう。……けれど、此処にあるのはそれだけではない。

 施設の彼方此方に遺された痛々しい傷の数々から、巣食った悪魔たちの欲望の爪痕が見て取れる。

 果たして、目的を遂げる為にどれだけの血を重ねてきたのか。

 推し量れるものだけでも、ここが地獄であったのかが判る。目の前に骸が転がっていないのが、せめてもの救いであるといえよう。

 だが、それでも酷く不快である事に変わりはない。

 早く、終わらせなければ───と、フェイトは共に此処を訪れた局員(なかま)たちと共に、施設の奥へと足を踏み入れた。しかしそれが、そもそもの地獄の底への入り口である事を、フェイトたちはまだ、きちんと認識していなかった。

 

 

 

 奥へ進むと、更に酷い光景が視界を埋める。

 牢屋の様な部屋が幾つもあり、そこに納められた人造魔導師(こどもたち)は力なく部屋の中で小さくなり、近づいてくる足音に酷く怯えていた。

 ……どうやら、かなりキツく刷り込みが行われている様だ。

 ここの研究者たちは、彼らが逆らわぬ様に恐怖で意志を縛り、牢獄に置いてその身体を圧し留めていたらしい。

 実験・研究のために都合の良い、実験動物(モルモット)として。

(……なんてことを)

 灼ける様な怒りが湧きそうになる。───けれど、それを気取られてはいけない。(おもて)に出してはいけないのだ。

 当たり前だ。この感情は、ここに巣食っていた悪魔たちにこそ、償わせるべき罪科である。

 既に、施設に残っていた違法研究者たちの身柄は拘束した。『F』に関わる輩にはまるで蜘蛛の巣の様な広い繋がりがある。研究施設を一つ押さえたからと言って、その全てが終わりはしない。

 悪魔たちの営みは、今もしつこく世界に残り続けている。

 しかし、だからと言って意味がないと断じてしまえば、決して悪夢は終わらない。

 いつ終わるとも知れぬこの負の連鎖に、いつか終止符を撃つ為に。その為にフェイトは、こうして一つ一つ……悲しみの枷を解き、外して行くのである。

 

「……行きましょう」

 

 短く、誰ともなしにそう告げて───彼女らは、子供たちの保護を開始した。

 牢を開け、中に居る幼子たちに呼びかける。怯えてはいたが、聞き分けられない、という事はなかった。それは恐怖により縛られた、固い心による反射に近い。

 一人、また一人と、小さな身体を檻から解放していく。

 その度に心が締め付けられて、鈍く深い痛みが、身体の芯を捻じる。ここから出て、この恐怖を拭うまでに、果たしてどれだけの時間がかかるのか。

 そんな事、想像も着かない。唯一分かるとすれば、それがとても苦しく……難しいのだという事だけだった。

 

 苦しみを噛み潰しながらも、思い遣りを忘れずに。たとえそれが偽善的であっても、決して始まりの想いを違えぬ様に。

 そうしてまた、檻を開けていく───。

 やがて最後の部屋を残すのみとなったのだが。そこでフェイトは、その部屋が他の部屋と少しだけ異なっている事に気づいた。

 微弱だが、何かの魔力反応がある。それが部屋そのものに施されているのか、或いはそうでないのかまでは分からない。

 加えて、その部屋は他の部屋とは異なり、窓らしきものがなく中の様子が伺えなかった。

「………………」

 こうした研究施設では、人造魔導師に様々な能力を付加させる研究も行われている場合が多い。

 通常の魔導師としての能力だけでなく、もっと別の。

 他の魔導生物の融合なども、次元世界における違法研究の中では皆無という事も無い。

 故に少しだけ注意して、部屋の扉に手を掛ける。

 しかし扉は、さして重くない。それどころか、意外な事にその部屋には、鍵はさえかかっていなかった。

 隔てる意味がない、というのなのだろうか。

 けれど、それなら先程の魔力の反応は何なのだろう。そう、思考を巡らせながら、フェイトはその扉を開け放つ。

 ───が、次の瞬間。

 見えた事実に、フェイトは、その直前までの思考を恥じた。

 

 ここは、等しく地獄の様だった。

 受けた苦しみに、貴賤などは存在する筈もない。ないが───それでも、その子を見た時、フェイトは思わず言葉を失ってしまった。

 

 

 

 部屋の中に居たのは、子供だ。

 ここまで保護した子供たちと同じか、それよりも更に幼い少年である。……しかし、その子はこれまでの子供たちとは、明らかに異なる反応をフェイトに示した。

「ぅ───、……ッ‼」

 昏い部屋の中で、ギラギラと青い瞳が怒りに燃える。彼の赤い髪と相まって、その様相はどこか獅子を思わせる。

 獣。少年の様子を言い表すのであれば、まさにそれであった。

 さながら獣が敵へ威嚇する様に、侵入者に対して、その子は牙を剥いている。とはいえ、その反応自体は不自然という訳ではない。彼からしてみれば、このドアの向こうから来る者に良い感情など抱くまい。

 だが、それでもこの怒り様は異常である。

 ここまでの子供たちの無気力な反応を見てきたから、尚更に。

 しかも少年は、四肢を白い拘束着によって抑えられ、口に(くつわ)を噛まされた状態だった。……そんな状態でなお、彼はどこまでも深い怒りを向けていた。

 何が、彼をここまで駆り立てるのか。

 詮無きことだと判りながらも、敢えて思考を巡らせる。

 無論いまは、それを解決する事も、知る事さえ出来ないだろう。

 とにかく、何よりも早く拘束を外して、彼を保護しなくてはならない。

「き───」

 み、と言いかけたところで、フェイトの言葉は止まった。

 正確には、()()()()()といった方が正しいのかもしれない。

 部屋の暗がりの中で、光が奔った。

 黄金色より、どこか初々しい黄色の火花。そこでようやく、フェイトは先ほどの魔力の出所に気づく事が出来た。

 注意してみれば、微かに少年の額の付近(あたり)から、薄い火花が起こっているのが分かる。それが意味するところを、フェイトはよく知っていた。

 変換資質。先天的、或いは後天的に、魔力を特定の性質へと変換する事が出来るという特異体質(レアスキル)を持つ者が稀にいる。フェイトと、この少年がそれだ。

 そう。つまり、今の現象はこの子の魔法───いや、それにも満たない力の漏出であった。

 この奥の部屋に居たのは恐らく、この資質も絡んでいるに違いない。

 変換資質において、電気への変換の力を持つ者は、比較的多い部類であるといわれている。だが、それでも変換資質を持つ人間の絶対数は多くはない。

 故に、素体として研究者たちはこの子を別枠に置いたのだろう。

 成功した研究の成果。……或いは、珍しい結果を残した実験動物として。

「…………っ」

 覗かせるまいとしたのに、怒りがふつふつと湧いてしまう。

 しかしそれでも、ふざけている、と率直にそう思った。

 ぎり、と微かな音が響く。見ただけでも、この子がまだ一〇どころか、五つにも満たない事が分かる。そんな子供を、()()()()()()()()()など、在って良い筈がない。

 局員として、なんて堅苦しい理屈付けなど要らない。目の前に苦しみがあり、同じ様に悲しみがあるのならば、それを晴らそうとするのは、ごくごく当たり前の事だ。

 そして、その当たり前の事を成す為に、フェイトは今ここに居る。

 乱れた心に終止符を打ち突けて、フェイトは留めてしまっていた一歩を踏み出した。

「⁉ ───、ッ……ぅぅ!」

 再び威嚇。迸る電撃は、同系統の魔導師であるフェイトにとっては即死を招く程のものではなかった。

 ……しかしだからといって、痛みが皆無という訳ではない。電撃は皮膚と肉を焼き、身体を麻痺(しびれ)させる。

 当然、その痛みは激しい。

 けれど、

「───っ、ぅ……!」

 それでもフェイトは、足を止めなかった。彼女のその姿に、恐らく一番驚いたのは少年であったのだろう。

 きっと彼は、そんな在り方を知らない。

 知っていたとしても、幼い身には当たり前であった筈のそれは、当に過去へ置き去りにされてしまっていた。

 そして、幼い心に刻まれた傷に、いま直ぐにこの想いを伝える事は出来ない。

 だが、それでも。

「…………大丈夫」

 静かに、穏やかに。けれど、どこまでも真っ直ぐに。

 ただ、「大丈夫だよ」と告げる。この暗闇の中から、その身に降りかかる苦しみから、あなたを引き上げたいのだと───そんな想いを込めて。

 闇の中。深い慈愛に満ちた紅の瞳と、戸惑いを併せた青い瞳が交錯する。

 未だ通じているとは言い難い。だが、それでもやがて───やや時間を置いたところで、フェイトは少年の拘束具を外し、彼を部屋の外に連れ出した。

 

 

 

  4 (Same_Year-A_Little_Later.)

 

 

 それから少しして、フェイトはその少年の素性をきちんと知る事となった。

 彼の名は、エリオ・モンディアル。───より正確に言うなら、そのクローンと呼ぶべき存在だった。

 資産家であるモンディアル夫妻の一人息子として生まれた『エリオ』だが、そのオリジナルは既に病気で亡くなっている事が分かっている。

 現在、保護施設に保護されているエリオの年齢は、三歳程度。亡くなったとされている記録もそうである事から、何らかの方法で成長を止めでもしない限り、現在(いま)のエリオと過去の『エリオ』は同一ではないと考える方が自然だろう。……よしんば前者であったのだとしても、あの施設に居た時点で、そこまで都合よく『実は』とはならないのであるが。

 そして、研究所にも記録は残されていた。

 夫妻は死んだ我が子をどうしても忘れらず、違法研究である『F』に救いを求め、エリオをこの世に呼び戻したのだそうだ。夫妻が資産家であったが故、この技術を利用するのは容易かったのだろう。殆ど死から間を開ける事無く、エリオは夫妻の間に戻って来た。少しばかり隠蔽を行った様だが、少なくとも二歳から三歳になろうかという時期までは、夫妻の元で過ごしていた事も分かっている。

 しかし、今から約半年ほど前。

 エリオは、あの研究施設によって夫妻の元から引き剥がされる事になった。

 夫妻も最初は応じなかった様だが、違法研究を利用したという事実を突きつけられ、それ以上の反論をする事は出来なかったらしい。

 優しかったのだろう。本当は、愛情に深い両親であったのだろう。けれど、失くした子の面影を追って、悪魔と盟約を交わすに至っても。それを最後まで貫き、世界全てに反してでも守れる程には、彼らは強くはなかったのだった。

 そうしてエリオは、あの研究施設へと囚われた。

 研究所に送り込まれてからしばらくは、ただ怯え、されるがままの日々だった様だ。だが、やがて彼は現実を認識し、自分自身が両親の都合で愛され、そして捨てられたのだという事を知る。

 

 ───そこからが、地獄の始まりだった。

 

 エリオの持つ特異性。人造魔導師としての高い素養を持っていた事が分かると、研究者たちは彼に対し数多の研究(じっけん)を施して行った。陽光(ひのひかり)はおろか、星灯(ほしあかり)すらも届かない、深淵(やみ)の底に彼を閉じ込めて。

 当然、抵抗はあった。しかし、まだ守られていて当たり前の幼い子供が、拠り所たる父母を失っても抵抗を続ける事が、果たして、どれほどのものであったか。

 言葉になど出来る筈もない。

 そんな地獄に、エリオはいた。

 生命としての尊厳を貶められ、抵抗の意思さえも踏みつけられて尚、矜持を失わなかった。弱々しくはあったが、あの時フェイトに向けた電撃(キバ)。アレもまた、そんな心の表れだったのだろう。

 折れなかった心に、賛辞を示すべきか。───否だ。しかし、では憐憫を向けるべきであるかと問えば、それも否である。

 

 必要なものは、何なのか。

 情けとは、或いは憐みとは。

 

 そうした感情は、決して他者を下に置き、向ける施しの為にあるのでない。

 誇りと思う事も、恥辱と吐き捨てる事も、どちらも等しく容易い。けれど、ヒトはそれでも前に進めるものだと。その為に、その手を取りたいのだと。

 ……そう。あの日、あの出会いの中で出会った、幾つもの心はきっと。あの出会いにあった、そこから始まった、今の自分へ通ずる全てを───今度は、自分が伝えて行く為に。

 エリオのこれまでを知り、改めてフェイトは、そう決意したのだった。

 そんな彼女の決意に応える様に。エリオを保護した管理局の医療施設から、一つの報告が入った。

 ……目を覚ました彼が、いま施設の職員たちに反発し、暴れていると。

「──────」

 報告を受けたフェイトは、ほんの少しだけ目を閉じ、ひと呼吸分の間を置いた。

 その胸の内に浮かんだのは、何だったのか。

 言葉にする意味は、きっと無い。ただ、いま何よりも必要な事を、為さねばなるまいとだけ考える。

 そして、次に目を開けた時。

 彼女の瞳には、揺らがぬ何かが宿っていた。

 

 ───さぁ行こう。

 もう、彼が悲しまなくて済む様に。その為に、自分に出来る事を、成す為に。

 

 

 

 

  5 (Same_Time.)

 

 

 管理局の保護施設。その一角で、獣の様な(こえ)がした。

 医療スタッフたちは、その姿(こえ)に、何を連想したのであろうか。

 憤りか、憐みか、或いは恐怖か。どれであったとしても、きっとそれは、彼の逆鱗に触れてしまう感情であった。

 ……ああ、恐らくは酷く癪に障った事だろう。

 他者から向けられる全てが不快だった。いったい、それらの何を愉快に思えるというのか。

 

 

 ───いつの間にか、意識を無くしていた。

 どうしてそうなったのか、そんな事は知る由もない。ただ気が付いた時、あの暗がりの中ではなく……少しだけ、違う場所に居た。

 

 光があった。

 

 久しく見ていなかった、ただ青白いだけではない、不快でない光が。……でも、そこに在ったのは。あの場所と同じ、白で───

 

 

 それに気が付いた瞬間、心は自分を守ろうと叫びを挙げた。

 

 ……あの時、何かが変わる様な気がした。

 だが、それも気の迷いに過ぎなかったのだろう。

 

 結局、場所が変わっても何も変わらない。

 誰も判らない。そして、自分にも何も解らない。

 

 此処は何処で、自分は誰だ。

 何故、生きている? 今も、こうして、この場所で。

 誰が今更、この命を求めたというのだ。与えられた意味など、当に投げ棄てられてしまったというのに……。

 

 幼い心は、きっとそんな事を叫んでいた。

 知らぬ言葉の方が多く、どう表現して良いのかさえ知らない。

 世界の在り方も、現実に起こり得る悲劇も。それが、自分の身に降りかかるという事も。何も、何も知らない。

 だから、(さけ)んだ。

 分からなくてもいい。どうせ誰にも伝わらないのならば、もう、何も。

 悲しみの雫の代わりに、眩い雷が流れ出した。……忌々しい、こんなモノを望んだわけではないのに。こんなものがあるから、もう誰にも触れられない。

 目の前に居る人たちの事は知らない。

 ただ、あの白い服は嫌いだった。

 

 黒い、雷の獣に触れる為の手袋()をして……まるで、此方の方が、汚らわしいものであるかの様に見る。

 綺麗すぎるくらい、白い。

 なのに心に爪を立て、疵を刻む。

 あの場所に居た、研究者たち(コワいモノ)に、重なる姿が。

 

 ……でも、あの昏い場所では、それだけだったのだ。

 自分の傍にある、何かは。

 だが、アレが最初に自分の居場所を奪い去った。幸せだったのに。気づかないままで、居させて欲しかったのに。

 そしてきっと、本当なら、()()()()()()()なのに。

 けれどそれは嘘になって。呆気なく、伸ばされた手は伸ばした手を掴む事はなく……下げられてしまった。

 

 どうせこうなるなら、どうして生きているのか。

 消えてしまえればいいのに。誰も自分を死なせず、あまつさえ生かした。───それが、どうしようもなく、腹ただしかった。

 ……だから、死ぬよりも叫びを挙げる事を選んだ。

 

 それが、間違いなのだろうとは、何となく分かる気がした。

 でも、それ以外に方法を知らなかった。

 だって、何も知らない。

 なんでこうなったのかも、どうしてここに居るのかも。

 でも、誰も止めてくれない。目の前に居るヒトは、ただ此方をとても不快な眼で見据えているだけで、何一つ教えてくれない。

 何も、何も、何も───!

 ……そう。誰も、触れてさえ、くれない。

 

「ぅ……、───ッ‼」

 

 怒りと悲しみが綯交ぜになり、自分という存在を、どこにも確かめられずにいる憤りばかりが積もり積もる。

 そうした憤りを載せた、鋭く幼さを消していく眼光は、さながら刃の様でもあった。

 だが、それは脅かし、傷つける為のものではない。

 むしろその逆で、己を囲む全てを恐れ、拒絶しているかの様な───怯えた子供の、慟哭(さけび)そのものだった。

 

 届けようのないその叫び。

 何かを傷つければ、この気持ちは晴れるのか。……それとも、そんな()()さえ許されないのか。

 

 何処にも、誰にも。

 繋がりも、拠り所も何も無いままで。

 答えなんてものが在るのかさえも判らず、幼い心は悲鳴を上げ続ける。

 しかし、それを。

 

「エリオ」

 

 ───しかと聞き届けた者が、此処に一人。

 

 

 

  6 (Turning_Point_1.)

 

 

 名を呼ばれた時、エリオは息が止まったかの様な錯覚に陥った。

 あんなに暴れていたのに、形振りを構うどころか、構えるものさえ何も無かったのに。それでも何故か、エリオは止まってしまった。

 怯えるでも、憐れむでも、悲しむでもない。不思議な色を載せた、その紅い瞳に見つめられて……。

 

 ───あの時と、同じだ。

 

 暗い、昏い闇の中で、エリオはそれを見た。そして同じ様に、自分を止められてしまったかの様な錯覚に陥ったのを覚えている。

 でも、それは鎖に繋がれるのとは違っていて。苦しいどころか、逆に穏やかでさえあった。

「──────」

 何なのだろう、この女性(ひと)は。

 分からない事に苦しむのではなく、純粋に疑問に思った。

 目の前に居る人物を見ていると、何故か焼け爛れた衝動が沈み、やがて消えてしまいそうになる。

 穏やかな双眸が、真っ直ぐにエリオを捉えてくる。思わず呆けてしまっていると、また言葉が重ねられてきた。

「エリオ。ダメだよ、あんまり暴れたりしちゃ……」

 まるでそれは、本当に心配している様な旋律(ひびき)を孕んでいた。そうした、柔らかで穏やかな声音に、心が解かれてしまいそうになる。

「う、うるさい……! 関係ないだろッ⁉」

 咄嗟にそう言い返したものの、先ほどまでの鋭さは声から薄れつつあった。

 目の前の女性は、この状況でも動じた様子を見せない。しかしそれは、機械的、或いは無機質な反応だという訳ではない。むしろ、その女性(ヒト)からは、そういったものとは真逆のものが感じられさえした。

 だが、だからと言って、変に芝居がかってもいない。それどころか、突き返した言葉に対する応えさえ、酷く穏やかだった。

「関係なくないよ。わたしは、エリオに幸せになって欲しくて、あそこから連れ出したんだから……」

 そう。ただ、目の前に居る人は穏やかなのだ。感情の起伏が薄く動じない、というのでなく───どこまでも、荒波の様な怒りや悲しみを前にしても、それに向き合うだけの強さを持っているのだろう。

 これまでとはまた別の何かが、エリオの心を乱す。

 知らない何か。───否。知っているが、遠くに置き去りにしたそれが、今のエリオを揺らしている。

 いつの間にか信じられなくなったヒトのぬくもりが、迫る。

 

「そんなの……頼んでないッ!」

 

 だから、拒絶しようとした。

 また失ってしまうくらいなら、傷つく事になるくらいならば。また、最後には棄てられてしまうくらいなら。……最初から、そんなものは要らないと。

 けれど、

「うん……。だからアレは、わたしのワガママだったのかもしれない。でも、わたしは」

 ───それでも、と。

 一歩、また一歩。その女性(ひと)は、エリオへと近づいて───そして、その手を、彼へ向けて伸ばそうとした。

「ッ⁉」

 その時、何を思ったのか。

 分からない。何もかもがごちゃごちゃと、混濁し混ざり合って、形を失って行く。

 ただひとつ確かな事は、何よりも恐かったという事だけ。

 いったい、『何が』恐ろしかったのだろうか。実際のところ、それも解からなかった。……いや、より正確に言うなら、解かりたくなかったのだ。

 何故なら、それを理解した時点で。

 

 ───きっと、求めていたものが、そこに在ると認める事になる。

 

 だから、それに()()()()()()()()、もう戻れない。そして、もしそこが心地よいのだとしたら。

 いつかまた、失ってしまう事になるかもしれない。

 それは、イヤだ。

 もう、恐い思いなんてしたくない。

 辛い思いも、怒りも憎しみも……悲しみも苦しみも、味わいたくなんかなかった。

 

「僕にッ、───さわるなァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼‼‼」

 

 黄色の紫電が、エリオの身体から迸る。

 もはや、電撃というより殆ど爆発に近い。放った本人ですら驚くほど、これまでのものとは比較にならない凄まじさであった。

 間違っても、ヒトに向けるべきものではない。

 いかな子供であっても、裁かれても文句は言えない程のものであったといえる。

 だが、触れれば肉さえ灼けつきそうな威力であったにも関わらず、それでもまだ、エリオの前に彼女は立っていた。

「………………」

 今度こそ、本気で言葉を失った。

 浅い息が漏れる。気づかない内にキツく、掌に爪を立ててしまうほど固く握り込まれていた拳は、微かに震えていた。

 動揺し、エリオは目の焦点が合わなくなる。

 いつの間にか震えは全身へ伝わって、足元もおぼつかなくなっていった。

 息はやがて枯れた様になり、喉が潰れたみたいに止まって行く。

 もう、先ほどまでの恐怖はなくなっていた。しかしその代わりに、今は全く別の恐怖がエリオの全身を包みこんでいる。

 そこからどうなるのか、もう本当に解らなくなった。

 ただ、取返しがつかない事をした。という思考だけが、他人事のように頭をよぎる。

 今度こそ、本当に───けれど、

 

「大丈夫、平気だよ……わたし、結構強いんだから」

 

 そんな、どう解けばいいのか分からなくなった拳を、そっと、暖かな掌が包む。

 痛々しい焼け跡が見える手が、自分の手を包み込んでいる。先程、あれだけ拒絶したというのに……彼には、それを振りほどく事は出来なかった。

 互いの手を通い合う熱が、だんだんと、だんだんと……。その固くなった、苦しみに塗れた心を解いて行く。

 まるでそれは、お互いの心そのものを通い合わせるかの様に───。

「ねぇ、エリオ。エリオがいま悲しい気持ちも、許せない気持ちも……わたしはきっと、全部は分かってあげられない。───だけど、それでも分かりたいんだ。悲しい気持ちも、辛い気持ちも……分け合いたいって思ってる」

 やはり、穏やかに。

 その女性(ヒト)は言葉を紡いで行った。

「…………わたしもね、エリオとおんなじだったんだ。一番大好きな人に要らない子だって言われて、失敗作だって言われて……寂しくて、苦しくて、死んじゃいそうだった」

 苦い思い出(きおく)と共に、自分の疵を明かしながら───目の前にある疵へ語り掛けていく。

 決して惰性の共感などではない。

 確定的ではないのだとしても、いつかへと向けた、祈りの様なものを込めて。

「だけど悲しいのは、ずっと……永遠になんて、続かないから。

 楽しいことや嬉しいことも、探して行けば、絶対に見つかるから。わたしも、探すの手伝うから……」

 挙げられた悲鳴を聞き届け、慟哭に濡れたその声を真っ向から受け止める。

 (ひとえ)に想いを伝えていく為に───いつかまた疵を癒し、もう一度、優しい未来(あした)を見られる様に、と。

 

「だからね、お願いがあるんだ。───そんなに悲しい気持ちで、誰か(ヒト)を傷つけたりしないで? ……そんな風に自分を、傷つけないで?」

 

 そっと、頬に手が触れた。

 嫌悪も恐怖も、そこにはなく。ただ、気づかぬ間に零れ落ちていた滴を拭う指先だけが、酷く優しい。

 ……落ち着かな(うるさ)かった鼓動(みゃくどう)が、いつの間にか静かになっていた。潰れていたみたいな咽喉が、息を身体に送り込める様になっている。

 何故、この女性(ヒト)は、

「…………なんで……どうして、そこまで……」

 知らぬ存ぜぬと切り捨てる事だって、出来るのに。

 どうしてそこまで、気にかけてくれるのか。どうして、こんな傷を負ってまで、自分の傍にいてくれようとするのか。

「…………あなたは、」

 誰? と、要領を得ない問いかけが漏れ出した。

 たどたどしく、言葉を紡ぐと、それに彼女はこう応えた。

「わたしはね? フェイトだよ。フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウン。

 あなたをあそこから連れ出した人で、管理局の執務官をしてる。……でも、それだけじゃなくて……幸せになって欲しいって、そう思ったから。

 どんなに世界が悲しいままでも、きっとどこかに、ちゃんと優しいものがあるんだって……そう、伝えたかったから───わたしは今、こうしてここにいる」

 何度でも、何度でも───真っ直ぐな想いを、そこに込めて。

「だから、エリオがまた……ちゃんと幸せを見つけられるまで。エリオの傍に、居させて欲しいな……」

 その言葉に、今度はもう、返せる言葉なんて無くなっていた。

 偽りだなどと、言える筈もない。あまりにもまっすぐで、どうしようもなく優しいそのまなざしを前にしては。

 世界を恐れていた幼子は言葉を無くし、何も応えられなかった。けれどその代わり、これまでとは違う嗚咽(こえ)が漏れ出し始める。

 いつの間にか、忘れてしまっていた。

 誰かの腕の中で泣く事など、もう無いのだと思っていたから。……もう二度と、許されていない事だと、そう思っていたから。

 

 そうして大声を挙げて、エリオは泣いた。此処までに抱え込んでいたもの全てを、涙と声に変えて。

 特別な事は何もない、普通の子供と同じように。

 

 悲しいと、苦しいと。

 ……助けて、欲しかったのだと。

 

 やっと、ようやくそう告げる様にしながら───エリオは、ただ泣いていたのだった。

 

 

 

  7 (Turn_Up_To_Now.)

 

 

 それから、さして間を置かずにフェイトはエリオの保護責任者となった。

 本来であれば、あまり管理局員としては好ましい選択ではなかったのかもしれない。しかし、エリオという少年を導く大人(せんだつ)として、フェイト以上の適任はいないのも確かである。

 理由としては、やはり『F』に関連するという事。

 そして、フェイトがエリオと同じ、電気変換資質を持っているという事が挙げられる。

 諸々の理由はあったものの、フェイトは選び取った。また歩み出すその幼い手を取る事を、かつて自分が、親友たちや家族にそうしてもらった様に。

 そうしてフェイトはエリオと出会い、支える者として彼の保護責任者としての役を、正式に担う事になった。

 が、その矢先。局内にある少女についての噂が流れ始めていた。

 ───曰く、その少女は、どんな部署でも持て余してしまう人材であるそうだ。

 初めにそれを耳にした時、フェイトはこの噂に対して、強い憤りを感じた。しかし、いくら執務官であるとはいえ、彼女はまだ十七歳。手を広げ過ぎてしまえば、どれだけ立派な想いであろうとも、違えてしまうかもしれない。

 それは、あってはいけない事だ。

 責任はもちろん、他の現実的な課題にしても、挙げていけばキリがない。

 理想と夢想を履き違えてしまえば、夢はいつか呪いへと変わってしまう。

 急いては事を仕損じる。

 ここは、動くべきではない……筈だ。

 が、そう警告する理性とは裏腹に。心の隅に留めて置くには、その噂は耳に届き過ぎた。故に、一先ずは事実の確認だけはしておこうと、フェイトは件の少女の事を調べる事に決めたのだが───それはまた、随分と特殊なケースであったと思い知る羽目になった。

 

 少女の名を明かすのは、さして難しい事ではない。フェイトが執務官であるというのも、それに拍車を駆けた。

 基本的に所属部署を一律にしていない分、執務官は任務時に置かれた場で、事件解決の為に一通りの役をこなす。例えば、フェイトや兄のクロノが着く事が多かった、次元航行船での任務においてもそうだ。現場検証から捜査、武装局員の指揮、そして自身での武装介入に至るまで、執務感は全般的に事件捜査に関わって行く。それゆえ、執務官という役柄は様々な部署、局員と顔を合わせる機会も多い。余程の人間嫌いでも無い限り、執務官というのはかなり広く交流(コネクション)を持つ事になるのだ。

 そうして調べを進めて行くフェイトだったが、調べ始めて直ぐに、その『噂』が単純ではないと言う事を思い知った。

 件の少女の名は、『キャロ・ル・ルシエ』。第六管理世界・アルザスに住む少数民族、ル・ルシエ族出身の少女だという。

 フェイトも、名前くらいは聞いた事があった。友人であるユーノの出身であるスクライアほど管理局の関わりがある訳ではないが、『召喚魔法』を得意とする少数民族で、特に『竜』を使役する術に長けているのだとか。

 そして、どうやらその力が、キャロという少女が持て余されている原因らしい。

 エリオと同い年であるこの少女は、過去に一族を追放され、そのまま各地を巡り、やがて管理局に保護されたのだそうだ。

 追放された理由は、『竜』の使役する力。力を持たぬが故にではなく、持ち得た力の強大さ故に排斥されてしまったらしい。ル・ルシエ族に限らず、本来『召喚士』の一族というものは、喚び出す魔法生物との共生・友好が基本であり、基本的には人里に近い場所に集落を持つ事はない。また、喚び出す生物たちと密接な絆を結び、強力な存在を召喚する資質を持つ者を巫女、或いは巫覡と呼ぶ。本来であればキャロは、巫女としての高い資質を持った、一族にとっての宝ともいえる存在である。

 だが、一族はキャロの力を善しとはせず、追放してしまった。

 理由は、キャロがその資質を御し切れていなかったからだと言う。

 強力な竜を喚べるのだとしても、友好と築き、その力を使役し、借り受ける。けれどそれが出来ず、ただ強大な力を呼び起こすのみであると言うのならば、恐ろしい時限爆弾を抱えているのと変わらない。

 とはいえ、キャロは幼い。

 まだ五つにも満たない子供である彼女に対し、今すぐに、と結果を求めるのは、余りにも酷な要求だといえる。

 いつかは、いずれは。初めは誰もが、きっとそう思っていた筈だ。

 しかし、何事においても過ぎる力は疎まれ、恐れられるという事なのだろう。

 キャロの力は、幼い身にはあまりあるものであった。それこそ、子供らしい癇癪で街一つ、或いは国さえ滅ぼしかねない程に。

 幼く、恐らくはこの先に並び立つ者など、そうはいない。

 神からの祝福を一身に受けた、といってもいい。だが、多数の中で生きる訳ではない一族の者たちにとって、キャロの力は祝福を受けた巫女のものではなく、さながら悪魔が齎した厄災そのものであった。

 結局キャロは、齢四つになろうかという頃に、一族を追放されてしまった。小さな一族の中(セカイ)に生まれ、外をほとんど知らないまま育った少女は、幼い身にはあまりにも厳しい旅路(セカイ)へと誘われる事になったのだ。彼女が生まれた時から傍にあり、彼女自身が孵し育てたという、一匹の若竜と共に……。

 これは、就業年齢の低いミッドチルダ───より正確にいうのならば、魔導師として独り立ちする年齢にしても、あまりにも早すぎる。まして、絶縁を前提とした排斥による()()()など、幼い身に酷である事には変わりはない。

 

 であればこそ、フェイトに選び取れる道は二つ。

 

 一つは、これ以上関わらないという道。初めの思考の通り、フェイトはまだ若く、広げられる手は広いとは言えない。分を弁えるのなら、恐らくはこれが、最も理性的な選択なのだろう。

 これに対して、二つ目はその逆。理不尽に憤るのであれば、分を弁えずとも、真っ向からその理不尽に叛逆してみせるというものである。

 どちらが賢い選択か、そんなものは問うまでもない。同じ様にまた、どちらを選ぶべきか───そんなもの、問うまでもなく決まっている。

 たとえ愚かでも、傲慢であったのだとしても。それでも譲れないと、手を伸ばしたいと、そう思えた。

 だからこそ、フェイトはその為にもう一度手を伸ばすと決め、動き出したのだから。

 

 

 

  8 (Age-74_Late-Fall.)

 

 

 そうして話を聞き終え、ユーノは事の顛末を知った。

 依頼の理由と、彼女の硬い決意についても。

「……そっか、そうだったんだね」

「うん……。依頼の細かいところまで、っていうのはそういう事なんだ。わたしはまだ、ル・ルシエ族とか、召喚魔法の事……あんまり、詳しくはないから。それで、少しでも知らなきゃ、って思って……」

 フェイトは、そうユーノに言った。

 キャロが持て余されている理由は、何も彼女の力の強さだけが理由ではない。その力を制御し切れていない事を、彼女自身が恐れている所為でもある。……無理もない。何しろそれこそが、彼女が一族(かぞく)を追われた理由そのものなのだから。

「エリオの時は、わたし自身が近かったからっていうのもあるけど、手を伸ばせた。それが今回も上手くいく保障になんてならないけど……でも、嫌なんだ。

 自分から犯したわけでもない罪を背負って……持って生まれた力を無暗に振るったり、逆に怖がりすぎて力に潰されちゃうのは、見たくないから。分からないなら、知っていけるんだって。それが、怖いだけのものじゃないよって……そう伝えられたら」

 きっと、変わる。

 もちろん、必ずなんて保証はない。逆に、より深く傷つけてしまう可能性だってある。

 この先にはきっと、たくさんの壁が待っている。

 至らない事ばかりで、折れそうになるかもしれない。

 だが、それでも手を伸ばしたいと思った。

 力により絆を失い、また自身でも持て余し……自分自身を恐れてしまっているその少女の、助けになりたいのだと。

 その想いに偽りはない。だからこそ、それを本当にする為に今。

「ユーノに、力を貸して欲しい」

 自分に足りないものを、貸して欲しいと。フェイトは、ユーノに頼みを告げる。

 これに対し、ユーノは間髪入れず、迷う事なくこう返した。

「分かった」

 と、短くもハッキリと。その想いに応え、支えるという意志を込めて。ユーノは強く頷き、そう応えた。

 成し遂げようとする心を支え、その固めた決意と意志の、背を押す為に。

「出来る限り早く準備するよ。ル・ルシエ族の事や、召喚魔法についてをまず先に。そのほかの情報についても、出来る限り探しておくから」

 一先ず調べておく範囲を先に挙げ、ユーノはさっそく検索に取り掛かる旨を告げる。

 それを聞いて、フェイトは嬉しそうな顔をした。しかし、直ぐに舞い上がりかけた笑みを抑え、少し申し訳なさそうにこういった。

「ありがとう、ユーノ……でも、ごめんね。忙しいのに」

 ある意味、勝手ではあった依頼ではあった。

 ここ数年は余裕が出てきたとはいえ、依然司書長として、ユーノは忙しい身である。それを幼馴染という間柄に甘えて、頼みを聞いて貰っている様なものだ。……尤も、彼女らの身内はお人よしも多く、ユーノもその例外ではないのだが。

 しかし、それでも大手を挙げて喜ぶのは、あまり褒められたものではない気がした。

 けれどユーノは、そんなフェイトの様子に苦笑し「大丈夫だよ」という。

「心配してくれてありがとう。でも、気にしないで。フェイトのしようとしている事は、難しくても、間違いなんじゃないんだから。一人じゃ難しい事だからこそ、頼ってくれて嬉しいよ」

 それにね? と、ユーノは続ける。

 自身らの周りに広がる膨大な書架の螺旋を指しながら、

「情報は、活用する為に在るんだ。誰かが何かに挑む時、その背を支えられる様に。それが『無限書庫』と、僕ら司書の役割。だからフェイトが想いを遂げられるまで、全力で支えさせて欲しいな」

 と、言った。

 誰かを助けたいという願いがあるのなら、自分の力も使って欲しい。そんなユーノの言葉を受けて、フェイトの表情からは、もう曇りは消えていた。ただ、また一つ手を取り合ったという温かさだけを残して。

「ありがとう」

 迷いを失くし、晴れた言葉は、短くすんなりとした音のまま外へ出た。

 二人は微笑みを交わし、フェイトの依頼はユーノへと託される。

 小さな心がもう一度、暖かな場所へ行ける様に。自分自身を怖がったりせずに、幸せに笑える様にと祈りながら───二人はこうして、動き始めたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ───それから三日の(のち)

 フェイトは膨大な資料を前に、数多の情報を読み込んでいた。

 前に置かれているそれらは、彼女自身が集めたものが少しと、この前ユーノに依頼して送ってもらったものである。

 にしても、

(流石……依頼して、まだ一週間も経ってないのに)

 そう。思わず溜息が漏れてしまうくらいに、集められた資料(じょうほう)は膨大であった。

 約束に違わず、ユーノは調べられるだけの情報を調べ挙げ、フェイトに渡してくれた。その数たるや、先んじて調べていたフェイトも追いつかない程である。しかもそれらには単純な歴史資料などだけでなく、もっと細かな情報もたくさんあった。

 無論、完全とは言えないまでも、入り口としては十分過ぎる。その上、まだ不足や必要があれば再び要請を送って欲しいとの事だ。本当に、支援という観点に置いて、彼の在り方は実に心憎い。

(……ユーノってやっぱり、先生気質なのかな?)

 ふと、そんな事を考えながら、フェイトは資料を読み進め、保護責任者になるうえで必要だろう事柄を頭に叩き込んでいく。

 召喚士や、『竜』について。その他にも、いくらかル・ルシエ族に纏わるものを。

 ただ、これらはあくまでも基礎知識に過ぎない。何よりも大切なのは、本人の心を支える事であり、これらは糧とすべきモノのごく一部でしかないのだから。

 本人と向き合い、伸ばした手を取り合う事。

 そしてそこから、どう歩みを進めていくのか。

 何よりも大切であるのは、そうした積み重ねであり、想いなのだ。恐れの原因となってしまった、魔法に準ずる者としても、それ以外の面においても。これから先において、その心を支え導く為に。

 そも、フェイトとキャロでは魔導師としてのタイプが違う。

 『召喚魔法』という特殊な魔法を使っている、というだけではない。

 フェイトは空戦魔導師として学んだ、高速戦技を軸としたスタイルを取っている。対してキャロの用いる魔法は、『召喚魔法』といった特殊性を除けば、後方支援に類するものが多いと聞く。

 元々フェイトは、そういった支援系統の魔法の手持ちが少ない。高速戦技を主としている事や、生まれ持った魔力量の多さもあって、どちらかというと真正面からの防御よりは被弾前の回避であったり、或いは向けられた攻撃と同程度の魔力で相殺、といった手法を主としている。

 そういう意味でいえば、フェイトにはキャロを魔導師として完全に導くのは難しいといえよう。しかし別に一人でなければいけない理由など無く、むしろそういった事柄を知っているという方が、此処に置いては重要なのだ。

 故にこそ、また知り合いに頼る事もあろう。

 少し自分の至らなさを不甲斐無く思わないでもないが、それを承知で選び取ったのがこの道だ。

 至らなさはこれからも埋めて行く。為すべき事も、やるべき事も、当に決まっているのだから。

 何もかもが、まだまだこれからだ。

 だかこそ、支えて行こう。それが、手を取る責任と―――まだ青い、未熟な愛の証明であるがゆえに。

 

 手を伸ばす先は、もうそこまで迫っているのだから。

 

 

 

  9 (Turning_Point_2.)

 

 

 白。

 ここを一言で言い表すのなら、たぶん誰でもそういう言葉になるだろう。そして、そんな雪よりも冷たい色調の中に、少女は居た。

 明るい桃色の髪から受ける印象とは裏腹に、あまり表情を覗かせない。どことなく、その部屋の色調に同化してしまっている気さえする。

 少女は特に何に興味を示すでもなく、近くに転がっている玩具をぼんやりと眺めながら、大人しくその場に座っていた。どこか、動く事さえ億劫な様に。……いや、正確にいうのなら、動く事を避けているというのが正しいか。

 野山を駆け回る、とまではいかずとも、本来なら、外を出歩きたくなる年頃だろうに。

 けれど、少女は静かに座っている。藍色がかった瞳は、今のこの部屋と———彼女自身を写す鏡の様に、虚ろな色を湛えていた。

 ぽつんと、そのまま部屋の色彩に溶けて消えそうなくらいに。

「きゅる」

 しかしそこで彼女を呼ぶ声がした。

 それを受けて、少女はようやく視線を定め、声の場所を見る。そこには、一匹の小さな竜がいる。

 それがこの部屋の中で。……あるいは、この世界の中でただ一つ。

 彼女の傍らから離れない、稀有な存在。

「……フリード」

 短く名を呼ぶと、また鳴き声が返ってきた。

 竜らしからぬ、しかしだからこそ、柔らかな優しさを感じさせるその声に、少女はようやく、微かに口角を上げる。

 そっと手を伸ばし、その背を撫ぜる。

 蜥蜴か鳥か。あるいは両方であり、それでいてどちらでもない感触。けれど確かなぬくもりを持った、幼い頃から共に在った友であり、家族。それが、彼女にとっての『竜』という存在。……そして同時にそれは、彼女がここにいる理由の一端であり、家族から隔絶した力の象徴でもあった。

 

〝───大きすぎる力はいずれ、諍いや災いを齎す〟

 

 ほんの一年前に、彼女は自身がそういうものだという烙印を押された。

 そうして家族の枠から出され、外へと足を踏み出した。ちょうどそれは、今いる部屋と同じで、白く冷たい、雪の舞う季節だったのを覚えている。

 外は、怖かった。

 どこへ行けばいいのかも、何をすればいいのかさえ分からない。

 知らない事だらけで、分からない事ばっかりで。ただ、自分もまた、怖いものなんだという事だけが、心の中に残っていた。

 今こうしている部屋は、あの時ほど怖くはないけれど、やはりどこか怖いなと思う時がある。

 だが、そうした怖いものさえ、自分は壊してしまうらしい。

 帰りたいと思った事がない訳では無い。……だけど、帰れないし、帰りたくなかった。

 微かに矛盾を孕んだ思考は、何時まで経っても堂々巡りを続けている。ある意味、それこそが今の彼女を表しているといえなくもない。

 囲いの中でも、外でない場所に居られるなら。

 でも本当に行きたい場所は、ここじゃない。なのに、それがどこであるのかすら、分からなかった。

 何をしたらいいのだろう。

 どこへ行けばいいのだろう。

 もし何かをして、どこかへ行って、そうしたら───いったい、どうなってしまうんだろうか。

 自分が本当にどんなものであるのかすら、分からないのに。

 

 今が酷い、とも思えない。

 だって、何も分からないのだから。

 

 いっそ、切り離してしまえばいいのだろうか。

 『竜』とも、その『力』とも、自分の全てを。

 

 ───もしかすると、それが()()()のかもしれない。

 切り離してしまえば、或いは無くなってしまえば。そうかもしれないという恐怖からも、逃れられるのかもしれない、と。

 そう、思った事も、あった。

 しかし、それは出来なかったのである。

 傍らにある『(とも)』のぬくもりも、残された存在も。そして、自分がその傍らに在る事も。

 どれもこれも、捨てていいなんて、思えない。

 失くして遺されるのも、自分から消えて遺すのも、嫌だった。

 

 何が間違いで、何が正しいのか。

 そんな事は分からない。どうしたらいいのかさえ、何も。

 

 ただ、それでも捨てられないものがあって。……それだけは、きっと本当だったから。だからこそ、彼女はい今もずっと、こうして留まっている。

 いつ終わるともしれない、逡巡の螺旋の中に囚われながら、この怖くなく居られる何時かを思いながら。

 けれど何故か、世界(うんめい)の潮目は、急に変わり始めていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「───君に、会いたいという人が来ている」

 

 言葉自体は、比較的呆気なく耳から内へ下るのに。初め、キャロはそれがどういう意味であるのか、まるで分らなかった。

 何か、別の意味があるのだろうか。しかし告げられた言葉は、いくら反芻しても変わらない。

「あの、それって本当に……わたしに、ですか?」

「ああ、そう聞いているが」

 思わず訊ね返したものの、返って来る言葉は淡々と、『そうである』とだけ告げてくる。

「…………そう、ですか」

 半信半疑のままそう返して、口を閉じる。変わらぬ応えに、キャロはますます訳が分からなくなった。

 自分に、会おうとしている人がいる。

 この『外』において、知り合いと呼べる人は、果たしてどれくらいいるのだろう。ここに来るまで、いろいろなところを渡りはした。けれど、会いに来てくれるほど、親しくなった人物に、心当たりはない。

 であれば、と。一抹の可能性を浮かべようとしてみるが、それはありそうもないと思い直す。追放されて、関わらぬ様に言いつけられたのだ。今更、()()()()という事もないだろう。

(…………どういうこと、なんだろう……?)

 自分に、会いたいというのは。

 会いたいと想ってくれる人がいる。どうにも、それが信じられなかった。

 必要とされる道理がない。もしもこの、『力』が欲しいと言われるとしても、上手く使えるとも思えない。それだけを求められているなら、渡せるものなら、渡してしまいたいけれど……そんな事、出来る筈も、ないけれど。

 (しろ)く、思考が塗り潰されて行く。

 出口の見えない、長い迷路にでも迷い込んだ気分だった。

 結局、そのまま答えは出ないまま、キャロはただ一言。「分かりました」とだけいうと、それ以上は何も言わず、口を噤んだ。

 過ぎ去っていく流れに身を任せる以外、出来る事など無かったから。

 

 そうして、その時は来た。

 しかし、激しい雨か冷たい雨の様であるのかと思っていたそれは。想像に反して、酷く静かで穏やかに。

 キャロの前に、その女性(ひと)は現れたのだった。

 

 

 

  10 (Same_Year-A_Little_Later.)

 

 

 酷く大人しい女の子。フェイトが初めてキャロと対峙した時、受けた印象を言葉にするのなら、こうだ。

 ……いや、大人しいというのは、少し違うのかもしれない。

 感情を押し殺していて大人しいのではなく、それはむしろ、そういったものをどこかに忘れて来てしまったかの様に感じられた。

 白い部屋の中で出会った彼女は、訪れたフェイトの事を、とても不思議そうに見ている。

 驚きでも、困惑でもない。

 フェイトという存在が、なんであるのか。それが分からないから見ている、ただそれだけの事だ。

 自分がどうなるのか、どうしたいのか。

 何も分からないから、時に身を任せている。

 ……その空虚さに、フェイトは覚えがあった。拠り所を無くした、迷子になってしまったような、寂しげな瞳に。

(……今のキャロは、昔のわたしとよく似ている)

 エリオの時とはまた違う、小さな共感。自分の存在を置くべき場所を見失い、進む事の出来なくなってしまった経験が、フェイトにもある。

 苦しくて、悲しくて、目の前が真っ暗になった。

 居るべき場所というのは、とても曖昧なものだ。ふとしたきっかけで、呆気なく砕け堕ちてしまう。

 

 けれど。

 だからといって、それが全てではない。

 

 忘れる事は出来ない。

 壊れても、突き放されても。本当に大切なものであるのならば、絶対に。

 でも、いつまでもそこに居ては、今度は先に進めなくなる。……ずっとずっと、悲しいままでいなくてはならなくなってしまう。

 一人で乗り越えられるのなら、それに越した事はないのかもしれない。しかし、全てがそうではないというのも、フェイトはよく知っている。

 だから、もし───一人きりでは進めない場所にキャロがいるなら、手を伸ばしたかった。

「キャロ」

 その為に、名前を呼んだ。

 初めは、それだけでいいのだと。そう友達が教えてくれた、人と人を繋ぐ、始まりの言葉を。

 名前を呼ばれ、キャロは少し驚いた顔した。

 彼女の反応が、少し悲しい。それはつまり、そうした反応を示すくらい、キャロが己の名前を呼ばれていなかったという事だから。

 だが、それでもと、前へ進む。

「こんにちは。わたしは、フェイト───フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウンっていいます。よろしくね」

 簡単な自己紹介をすると、キャロは戸惑いながらも、小さく頷いた。

 キャロの反応に、「よかった」と、フェイトは胸を撫で下ろす。とりあえず、恐がられているわけではないようで、安心した。

 が、そんな彼女の感慨を他所に、二人の会話を遮る声がする。

「では、()()に入らせてもらいますが、よろしいでしょうか?」

 感傷を遮り、フェイトに連れ立ってやって来た施設の職員がキャロについての説明を始めたいと告げて来た。

 無粋だと思えたが、しかし言い返したところで、何の意味も無い。

 やって来たのはフェイトの方で、彼らは彼女に対応している。仕事の対応に口を挟み、得られるものも無いだろう。

「……どうぞ」

 棘を残しながらも、フェイトはそう続きを促した。すると、「分かりました」という返事と共に、職員は手に持った端末を操作し、キャロについて述べ始める。

 空中に浮かべられた画面(モニター)には、この施設に来るまでの簡単な概要と、管理局の下に就いてからの戦績があった。

 しかし、直接戦うタイプの魔導師ではないにせよ、こんな子供をあっさりと戦闘に送り込むというのは、少々引っ掛かりを覚える。尤もフェイト自身もまた、似たような経験があるので、あまり強くは言えないのだが。

 そもそも魔導師の才というのは、年齢が低いかどうかなど関係ない。呆気なく、子供が大人を追い抜く事も往々にしてある。

 そして、管理局は次元世界の秩序を司る組織だ。

 世界に在る『力』を管理し、バランスを保つ為に局員たちは任に就いている。

 故に、強大な力を知るというのは、非常に重要な行為だ。

 それが味方であれ、敵であれ、知らなければどうする事も出来ない。だからこそ、キャロという才能を計る必要があった、と。要するに、そういう事なのだろう。

 ただ、淡々と聞いているには、ある程度の忍耐を要した。

 フェイトの心裡を知ってか知らずか、話はそのまま続いて行く。

「見ての通り、すさまじい能力(さいのう)を持ってはいるんですが……制御が碌に出来ないんですよ。

 こちらに来てから上げた戦果もそうです。『竜召喚』だって、使役によるものというよりは、この子を守ろうとする竜が、勝手に暴れまわった結果というだけで……。とてもじゃないですが、マトモな部隊でなんて働けませんよ。使えるとすれば、精々が単独で殲滅戦に放り込むぐらいしか───」

 もう、それで()()だった。

「……結構です」

 話を遮るようにして言葉を止めたフェイトに、職員は「ああ、では……」と、やはりとでも言いたげな様子である。まるでそれは、最初から欠陥品のプレゼンをさせられている様にさえ感じられた。

 だから、

「そういう事でしたら、この子は───」

「ええ。最初のお話の通り、わたしが預かります」

 フェイトもまた、決まりきった事を淡々と述べた。しかし、職員たちは逆に怪訝な顔をしている。

「……あの、よろしいんですか?」

「何か問題が?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……」

 歯切れの悪い受け答えである。だが、フェイトはもうそれ以上問答を続ける意味を見出せない。

「そうですか。では早速ですが、手続きの方をお願いします」

 正直なところ、業腹だと感じる部分は少なくなかった。しかし、蒸し返して何がどうなるわけでもない。

 ならば、何時までもこんなところに居る意味はない。

 ……そう。心無い言葉に幼子を晒し続けるくらいなら、早く終わらせてしまう方が、良いと思ったのだった。

 

 

 

 そうして話を通し、フェイトはキャロの引き取りに関する諸々の手続きを済ませて行った。

 手続き自体はそう難しいものではなく、割と呆気なく済んだ。……厄介払い、とでも思われていたのか。職員たちは不思議そうな顔で、終始物好きでも見ている様な様子であったが、フェイトにとって、そんな事はもうどうでも良かった。

 さして間を置く事もなく、フェイトはキャロを連れて施設の外に向かう。

 外へ出ると、秋らしからぬ肌寒い空気が二人を出迎えた。しかしそれは、一度此方へ来たフェイトはともかく、簡素な恰好をしているキャロには、あまり好ましくない気候である。

「ちょっと、ごめんね」

 そこでフェイトは、自分の持っていたマフラーを、キャロの首に優しく着けた。

 やはり大きかったが、それでもないよりはマシだろう。どうせ、一度はミッドに戻らねばならないのだ。それまでの間なら、十分に役割を果たしてくれる筈だ。

「少し大きいけど、少しだけ、これで我慢しててね」

 結び目を確かめ終えて、フェイトは一度立ち上がろうとする。けれどその時、キャロがポツリと、こんな事を訊ねて来た。

 

「……わたしは、今度は何処へ行けばいいんでしょう?」

 

 その言葉に、伸ばしかけた膝を留める。

 投げかけられた言葉は、無理もないものだった。

 当然である。これまでの事を考えれば、自分の意志でどうすればいいのかなど、直ぐに分かる筈も無い。

 こうして急に外へと連れ出されてしまっては、漠然とした不安もあるだろう。

 しかし、だからこそ応えなければならない。壁の外へ連れ出した意味を、込めた願いと共に、きちんと届ける為に。

「それはキャロが、どこに行きたくて、何をしたいのかによるかな」

 行く先も、そこで何をするのかも。自分自身の意志で、決めていいのだと。目線を合わせたまま、真っ直ぐにキャロを見つめながら、フェイトは静かにそう告げた。

「どこに、行きたいのか……?」

「うん。───キャロはどこへ行って、何をしたい?」

 どこへ行きたいのか。そこで、何をしたいのか。優しい声色は、穏やかな眼差しと共に、キャロの意志を確かめている。彼女の、願いの行き先を。

 だが、

「……わかりません」

 キャロには、直ぐに答えを出す事は出来なかった。

 今、自分は『外』に居る。あの部屋の中とは違う。でも、初めて外に出た時とも違う、ここに。けれど自分の内側を覗いても、その何処かを、何かを見つけられない。

 いや、そもそも。

(どこにいきたいのか……そんなの、考えたことも無かった)

 初めから、そういう場所がなかった。本当に最初には、在ったのかもしれない。だけどもう、そこは無くなっていて、帰る事は出来ない。しかし、そこでキャロの足は止まってしまっていた。

 新しく何かを見つける事の無いまま、その切っ掛けすらないままに。幼い心は、広い世界の片隅で、いつの間にか置き去りにされてしまっていた。

 故にか、

「分かりません……考えても、なにも」

 キャロは顔を伏せて、フェイトにそう告げた。

 少し、情けない気もしたけれど。他に言葉など持っていなかったから、素直な今の自分の言葉を言うしかなかった。

 呆れられるだろうか。それとも、失望されるのだろうか。

 そんな新しい不安も浮かんできたが、さして間を置かずに消えて行った。

「そっか。じゃあ、ゆっくり探して行こう? 焦らず、ゆっくり……キャロが、本当にしたい事が見つけられて、行きたい場所に行ける様に。わたしも、手伝うから……。ね?」

「…………」

 紅の瞳に見つめられながら、キャロはぼんやりと頷いた。

 フェイトは嬉しそうに微笑んで、「それじゃあ、とりあえず()()()か。キャロもフリードも、ずっと外に居たら、風邪ひいちゃうかもしれないし」と言って、手を差し出してきた。

 その手を取るか、キャロは少しだけ迷った。あまり、そういう事をしてもらった経験がなかったから……。

 どうしたら良いのか、よく分からなかった。

 けど、何時までもこうしている訳にはいかない。

 早く決めなければならない。と、そんな彼女の焦りを察したかの様に、『(ここ)』に来るまでずっと大人しかったフリードが、小さく鳴いた。まるで、恐がらなくて良いといっているみたいに。

 

 ───これも、選ぶという事なのだろうか。

 

 漠然と、キャロは先程のフェイトの言葉を思い出した。

 何をしたいのか。どこへ行きたいのか。具体的な事は何も分からないけれど、今、伸ばされた手に、キャロ自身はどうしたいのだろう。

 それを考えてみると、思いのほか、呆気なく手が伸びた。

 差し出された手に、自分の手が重なる。フェイトは嬉しそうにしていて、迷った時間など微塵も気にしていないように、ただ本当に喜んでいるように見えた。

「それじゃあ、行こうか。———行きたいところへ、行くために」

 握った掌が、少し大きな掌に握り返される。伝わる熱は、久しく忘れていたヒトのぬくもり。

 そしてそれは、また違う何かを思い起こさせる。

 ……とても、不思議な気分だ。

 あまり覚えのない、けれど心地良い、不思議な感覚。

 でも、これからどこへ行くにしても。いま手を引かれているのは、悪くないと思えた。

 フェイトは、無理やり連れて行こうとしているわけではない。それが、とても不思議で……でも、とても暖かかった。

 そうして、二人は手を繋いで先へと歩いて行く。

 気の早い雪が降り始めた道の果てに、何処へ辿り着くのかは分からない。ただ、いつかそこへ至る為に。

 今はこの道を歩いて行くと、そう決めた。

 

 これから、何が始まるのか。この先に目指せる場所に何があって、自分がどうしたいと思えるのか。

 分からない事は変わらない。

 でもそれが、悪くないと───

 

〝とても、とても不思議な気持ち。この人と出会ってから、ずっと心がふわふわしてる。暖かくて、優しい……。こんなのがあるなんて、考えた事も無かった。わたしの前にはいつも、わたしがいちゃいけない場所が在って……わたしがしちゃいけないことが、あるだけだったから。

 ……だけど、まだ。それか、これから。その先を目指してもいい、って。目指して歩き出して、何かが見えるなら。この人がそんな道を探す間、一緒に居てくれるなら───それは、とっても嬉しいな……って〟

 

 ───そう、思えたのだった。

 道を過ぎていく事に、段々と秋は冬へと足を進めて行く。

 それに合わせ、段々と寒い空気が二人を寄り強く抱き込んでいった。だけど、そんな事は気にならないくらい、繋いだ手は暖かくて。時折交わす言葉には、それと同じくらいの温もりがあった。

 時間にしてみれば、たぶんとても短かい。でも、それでもたくさんの事を、フェイトはキャロに話してくれた。

 これから向かうミッドの事や、そこに居る大切な友達の事。これからキャロにも、そうした友達ができると良いなといった事や、そこから少し前に出会ったキャロと同じくらいの男の子の事など。

 他にも沢山の事を話して、教えてくれた。

 実感が伴っているかと言われれば、まだそうでもない。しかし、何時も胸に巣食っていた不安は、だいぶ薄れを見せ始めていた。新しい場所へ行く不安はあまりなく、寧ろ楽しみになってさえいる。

 その変化は、決して間違いではない。

 そうして胸に暖かいものを抱きながら、キャロはフェイトと一緒に、()()()を歩いて行くのだった。

 

 

 

 幕間 紡がれ出した絆と共に The_Bonds_With_Family.

 

 

 

  1 (Age-75_Mid-Spring.)

 

 

 出会った日から、いくらかの時間(とき)が過ぎた。

 寒い冬はあっという間に過ぎて、いつの間にか緑芽吹く季節(はる)へ至る。

 そうして年が明けた頃には、ぎこちなく取り合った手は硬く、確かな絆となって結ばれていた。

 未熟で、至らぬところは数多く残っている。しかし、エリオとキャロの二人と、フェイトは少しずつ打ち解け、彼女は二人にとっての家族(いばしょ)になりつつあった。

 

 今日は、久しぶりのお出かけの日。

 フェイトが次元航行船の仕事へと赴き、離れてしまっていた分を埋める為のひと時である。

 

 

 

「───そのはず、なんだけど」

 何故か、ユーノはそんな場所に一緒に居た。フェイト、エリオ、キャロの三人が一緒に出掛けた先に。

 自分で決めた事の筈なのに、なんだか奇妙な感じがしていた。

 そんな疑問の呟きであったのだが、傍らに座っているフェイトはというと、「どうかした? ユーノ」なんて不思議そうに訊ねてくる。

 この自然さに、ユーノは思わず苦笑を浮かべ、応えた。

「いや、僕がいていいのかな……って」

「……怒るよ?」

 そういったフェイトは、眉を顰め、ジトっとした目でユーノを見ている。心なしか、頬も膨らんでいた。普段のしっかりした雰囲気とはやや離れた、こうした子供っぽさは好ましくもある。

 だが、何といえばいいのか。

 こういう時のフェイトには、適わない様な気がしてならないと、ユーノは思う。……尤も、適わないと思うのは、何もこういう時ばかりではないのだが。

「……ユーノ。何か、失礼なコト考えてない?」

「か、考えてないってば……」

 浮かんでいた思考は、失礼という程ではない、筈だ。……おそらく、いやきっと。そう心の中で自問自答を繰り返しつつ、ユーノはフェイトに対する返答を返す。しかし、「怪しいなぁ……」とフェイトは追従を続けてくる。

 冷や汗が流れていないといいが、どうにもそこまで抑えられているかはよく分からない。

 ただ、此処で焦るのは余計に動揺を呼ぶだけだ。

 疚しい事を考えているわけではない筈だが、どうにもこういう時、男というイキモノは女性に弱いらしい。

 言葉に詰まってしまったユーノに、今度はフェイトの方が苦笑する。

「もぅ、そんな難しく考えなくても良いのに」

 呆れた顔をするフェイトに、ユーノは何となく申し訳なくなってしまう。しかし、そんな顔をするのは悪手だ。

「ごめん。でも……ホントのとこ、よかったのかな? 家族水入らずに、僕が来ちゃっても」

 実際のところ、ユーノは自分がどうしてここに居るのか、今でも少し疑問に思っていた。誘われたのが嬉しくなかったわけではないが、家族水入らずでのお出かけ(ピクニック)に参加している現状は、やはり不思議といえば不思議だ。

 だが、そんな遠慮にも似た疑問をフェイトはバッサリ斬り捨てる。

「良いのっ。それに、二人もユーノに会ってみたかったみたいだからね」

 そう言いながら、フェイトは視線を少し向こうで遊んでいる子供たちに向ける。しかし、それはユーノにとって新しい疑問を表出させた。

「え……二人が、僕に?」

「そう」

 頷かれて、ユーノは思わぬ戸惑いに襲われる。

 フェイトからの通話越しに話す機会はあったが、直接会った事はない。しかしだからと言って、会ってみたいと言われる程、自分が興味を抱かれる心当たりはなかった。

 が、疑問はそう長くは続かなかった。理由が判らないでいるユーノに、フェイトが訳を説明してくれた。

「初めは、どっちかっていうと、キャロの方かな? 何時も『召喚魔法』とか、補助系の魔法に関する資料をくれる人に会ってみたい、って。それで『無限書庫』の事も教えたら、エリオも興味持ったみたいで、二人共会えるなら会ってみたかったんだって」

「ああ、なるほど……」

「うん。それに、段々気持ちを出してくれるようになったけど……やっぱりまだ、少しは遠慮みたいなとこがあるから。キャロとエリオがそう言ってくれたのが嬉しくて、つい」

 急いじゃったんだ、とフェイトは言う。

 ユーノはそれで納得するも、同時にここ最近の彼女に対し、漠然と浮かんだ言葉を口にした。

「……子煩悩だね」

「そ、そんな事無いよっ!」

 思ったよりもその反撃が功を奏したのか、言い返してきたフェイトの顔は、面白いくらいに赤かった。

 もちろん、子煩悩というには年齢が足りていない気もする。だが、エリオとキャロの年齢は五歳で、ユーノとフェイトは今年十九になるところ。傍目に見れば、見かけの上ではまったくそう見えなくもない。……かもしれない。

 そこまで考えたところで、ユーノもちょっとだけ赤くなる。

「「…………」」

 何だかこれ以上の言葉を出すと藪蛇になりそうなので、つい口を噤んでしまっている二人。しかしこれをすると、沈黙が余計に気まずくなるという事を、二人はよく分かっていなかった。

 時間の経過とともにそれを経験として身に刻み、学ぶ羽目に。そして結局、そのまま黙っているのも何なので、先ほどまでの事は一旦水に流す事にして、話を進めて行く事にした。

 しかし、それもあまり長くは続かなかった。

 長閑な自然は、普段から忙しくしている二人に対してゆったりとした時の流れを見せてくれる。

 柔らかな時が過ぎて行き、二人の視線は自然と遊んでいる子供達の方へと向いて行った。

 昨今では、あまり外で遊ぶという機会は減っているという話だが、キャロは出身が出身だからか、自然の中に居るのが好きらしい。フェイトがアルトセイム付近の自然豊かな場所を選んだのは、自分が昔過ごした場所と、キャロが好ましく思ってくれそうな場所が似ていたからだという。

 逆に、エリオはこうした場所での遊びにはあまり馴染みが無いらしく、キャロのやっている草花を使った遊びを物珍しそうに見ていた。男女の差もあるだろうか、やはり育った場所の差もあるのだろう。短くも、自然の中で培われたそれらを、エリオはとても興味深そうに眺めている。

「すっかり仲良しだね。エリオとキャロ」

「うん。……でも、ちょっとだけ、寂しいかな」

「まだ小さいもんね、二人共……」

 そう相槌を打ったユーノに、フェイトはこくんと頷いて続ける。

「子供って、直ぐ大きくなっちゃうから……だからかな。余計に、まだ小さいままでいて欲しいなんて、思っちゃう時もある」

 慈しみに溢れた眼差しは、確かに寂しげな色を湛えていた。我が子の巣立ちへ迫る時を惜しむその姿は、本当に母親の様である。

「やっぱり、子煩悩だね」

 つい、先程浮かべた言葉を口に出す。終わった話を蒸し返されて、フェイトは少し剝れてしまった。

「もう、それはもう言わないでってば……」

「ごめんごめん」

 穏やかに笑うユーノに、フェイトは「ホントにもぅ……」と、やや不満そうに口を尖らせる。

 しかし、

「……でも、間違ってもない、のかな。子供の巣立ちを想う、親の気分って」

 彼女自身、想うところはあったらしい。が、先程よりも素直に出てきた言葉でも、彼女自身にも本当は意味を確立出来てはいないのだろう。

 ヒトの心には、知り尽くせるという事はないのだから。

「かも、しれない」

 親と子という在り方からは縁遠く育った彼にとって、今のフェイトの気持ちがどうであるかは、完全には察する事は出来ない。

 家族同士の絆や、家族というものを知らない訳ではない。だが、親の気持ちというのはやはり、なってもいないユーノには判らないものである。だからユーノに返せた応えは、そんなものだった。

 けれど、

「だけどもしかしたら───寂しいのと同じくらい、妬けてるのかも。ちょうど二人も、昔から見てた()()()()()みたいなとこあるから」

 何故かフェイトは、また別の方向に話を広げて来た。今度は母というより、年相応の少女の様に、とても楽しそうな顔で。

 思わず見とれてしまいそうなくらい無邪気な笑顔だったけれど、ユーノには彼女の言っている人物に心当たりがなかった。

「誰かさん達、って……誰?」

 気になったユーノは、フェイトに訊いてみたのだが、生憎とフェイトの方はというと、種明かしをするつもりはないらしい。

「内緒。鈍感さんには教えてあげません」

 と、問いかけには、素っ気ない答えが返って来た。

「???」

 悪戯っぽく言うフェイトに、ユーノはますます不思議そうな顔をしている。親友共々、こういうところが何ともむず痒いのだが、「まぁそれも仕方ないのかな」などと、勝手に自分の中で結論を出したフェイトは、また楽しそうに微笑んだ。

 そんな彼女の様子に、どうやら教えてくれそうにないと悟ったのだろう。

 ユーノは一つ息を吐いて、エリオたちの方へと視線を戻す。フェイトの様に直接関わった訳ではないし、支援としての関りも微々たるものだ。しかし、事の凄惨さは聞き及んでいる。

 だからこそ。

 こうして目の前で、笑顔を取り戻せた子供たちの様子が、とても暖かいと思えた。

 

 ───たった数か月。

 そう言葉にしてしまうのは簡単だ。だが、幸福にせよ不幸にせよ、たとえ短い時間であろうとも。それらを理不尽に晒されてしまう事や、或いは取り戻していくというのは、言葉ほど簡単ではない。

 確かに、ヒトの生に置いて、何不自由なく生きるというのは難しいものだ。

 必ずどこかに足りないものが生じて、在ったものでさえ、時には呆気なく失ってしまう事もある。だから、幸福、不幸の側を問わず。それらを『当たり前の事』と断じてしまうのは違う。

 ただ、簡単ではないというだけだ。

 そしてフェイトは、簡単ではない事を成し遂げた。

 

 泣いている少年の傍へ行き、その傷に寄り添う道を選んだ。

 力に怯え、迷っている少女の手を取って、一緒に歩むと決めた。

 

 これに、他のカタチもあったのかもしれない。でもその時、動くと決めたのは彼女で、選び取ったものが、目の前の光景に繋がっていった。

 だから、アレが間違いかと問われれば、()()()()()()()()()()()()()

 紡がれ、広がり始めた安らかな世界を見ながら。ユーノは、そんな事を想い、優しげな笑みを浮かべていた。

 そして、そんな彼の心情を察しているのか。

 フェイトもまた同じ様に、穏やかな笑みで子供たちを見守っていた。

 

 少しだけ不思議な形で始まった『お出かけ』は、こうして柔らかに過ぎて行く。

 ここから、また色々な事があるのだろう。

 言葉を交わし、知り合い、縁を結ぶ。ひとつひとつ出会いを束ね、ヒトは進む生き物だから。

 そうして、互いに新しい事を知って行くのだ。

 自分よりもずっと先に居る人たちを、自分が守りたいと想える人を。

 知り合う、というのはきっと。本質としては、こういう事なのかもしれない。

 

 ───そしてまた、同じ様に。

 

 親と子の絆や、出会いと、新たな芽吹き。

 新しい物語への幕が、最後のベールを脱ごうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二章 芽吹き出した心へ捧ぐ Blaze_of_Evil_Precursor.

 

 

 

  1 (Age-76_Early-Spring.)

 

 

 ミッド西部に拠点を置く、時空管理局・陸士警備隊第一〇八部隊のオフィスにて。

 部隊長を務めるゲンヤは、部下であるティーダと、今度ここへ研修に来るらしい少女に関する諸事を話していた。

「───八神はやて一等陸尉、ですか?」

「ああ。そいつが今度、陸士一〇八部隊(ウチ)に研修に来るらしい」

 そう言いつつゲンヤは、はやての概要をティーダへ渡した。

 受け取ったデータを開きながら、ティーダは「それにしても、珍しいですね」というと、それにゲンヤも「まぁな」と応え、続ける。

本局(うみ)のSSランク魔導師。それも、『特別捜査官』として優秀な成績を残しているのが、地上本部(おか)の部隊に……なんてのは、あんまり聞く話じゃねぇな。ま、偶に来るのもいるにはいるんだが」

 言って、ちらりとティーダの方を見る。

 そんな上司の仕草に、ティーダは苦笑にも似た表情(かお)をして、応えた。

「確かにそうですね。特に、負傷した空戦魔導師を自分の部隊に置いてくれる、物好きな上司とかもいるくらいですから」

「お、言うようになったじゃねぇか」

 ティーダの返しに、ゲンヤは楽し気に、「良い傾向だ」なんて言っている。

 この気さくな在り方と、有事の際に置ける指揮官としての資質が、何よりゲンヤという人物の凄い所だ。

 彼のそういう部分に助けられたティーダとしては、何時まで経っても中々近づけない懐の広さに、尊敬の念を抱かずにはいられない。

 そんな敬愛すべき上官との言葉遊びに興じるのは悪くない。が、そろそろ話を基に戻さなければなるまい。

「でも実際のところ、どうして第一〇八部隊(ウチ)に来る事にしたんですかね。確かに此処には優秀な捜査官はいますが、八神一等陸尉は特別捜査官の方ですし」

「さあな。オレとしても、実際よく分からねぇってのが正直なとこだ。一応、少し耳に入る程度の情報から、第一〇四部隊の方にも行っているらしいが」

「一〇四……ということは、北ですね。そこから西(こちら)に、と」

「そうらしい。尤も、向こうでのは元々の特別捜査官としての任務の延長にある、という話も耳にはしたがな」

「なるほど。……でも、それだと尚更分かりませんね。特別捜査官として研修、という事なら、まだ執務官や次元航行船(ふね)の方が、経験を積むという事なら、合ってそうな気もしますが」

「確かに、特別捜査官は普通の捜査官より、もっと受け持つ範囲が広い。いや、正確に言うなら受け持てる種類が多い、というべきか。八神の場合は何でも、本局の方で随分と物騒な通り名を付けられているらしいしな」

「僕も聞いた事があります。本局にいる魔導師の中でも、有名な方ですから」

 改めて詳細な所属を確かめたのは初めてだが、名前は聞き及んでいた。

 稀有な総合SSランク保持者というだけでなく、彼女は現在では珍しい『古代(エンシェント)ベルカ』という術式の魔法を主に用いるという事も。

 しかも、それだけには飽き足らず。彼女は『蒐集』という希少技能(レアスキル)を持ち、『ミッドチルダ式』の魔法も同時に使用できるらしく、騎士としてだけでなく魔導師としても高い資質を持っているらしい。

 故に、彼女を形容する際には『魔導騎士』という呼称を使う者もいる程である。

 更にそれだけではない。現在(いま)ではもう略いない融合騎(ユニゾンデバイス)を愛機とした使い手(ロード)であり、彼女の身内には、他にも古代ベルカに通じた優秀な『騎士』が多いという。

 そんな彼女の特異さを、誰が呼んだか『歩くロストロギア』。

 改めて考えてみると、実に凄い才覚を有している。しかもこれでまだ十九歳だというのだから、天才というものは本当にいるところにはいるものだな、とティーダは思う。

 しかし、だからこそ分からない。

「ホント、なんでオレんとこに来る気になったのかねぇ」

 はやての真意が判らず、どことなく遠くを見ながらぼやくゲンヤ。だが、字面ほど困っている様子はなかった。

 どちらかというと、研修に来る者に対し、部隊長として何を教えるべきか定まらない事の方が不満なのかもしれない。

 これを見ていると、少なくとも失敗になる事はないだろうとティーダは思う。

 案外、はやてもこういう上官の在り方を学びに来るのかもしれない、と。自分でも少しばかり飛躍しているなと思いながらも、ティーダはゲンヤに励ましの言葉を掛ける。

「大丈夫ですよ、ゲンヤさんなら」

「そうかねぇ。ま、なんにせよ、実際には奴さんが来てからか……とはいえ、やっぱ気が重いのは変わんねぇな」

 しかし、ゲンヤには他にも何か悩みの種がある様だ。ただ、ティーダには心当たりがない。

「??? 何か、他にもありましたっけ?」

 そこで確かめてみると、ゲンヤからはこんな応えが返って来た。

「ああ、いや……こっちはそういうのじゃあねぇんだがな。ただちょっと、タイミングが悪かったかもな、と」

「タイミング、というと?」

 重ねて問いかけると、ゲンヤは少し照れくさそうに頭を掻くて、少しばかり間をおいた。それから少しの逡巡の(のち)、理由を語りだした。

「実は今度、娘二人がここに来ることになってる。といっても、主には上の子の方だ。下の子の方は旅行ぐらいの気分だろうさ」

 それを聞いて、ティーダは「ああ」と、ゲンヤの弁を理解した。

「そういえば、ゲンヤさんの娘さん方……確か、ギンガちゃんと、スバルちゃんでしたっけ。局員志望なんですか?」

 以前にも耳にしていた事があった為、ティーダにはその二人には覚えがあった。

 ちょうど自身にも同じ年頃の妹がいたのもそうだが、その話を一番始めに聞いた際、ゲンヤから自身ら兄妹とも似たところあると告げられていた事もあり、印象に残っていたのである。

 そんな彼の反応を受けて、ゲンヤは話を続けていく。

「みたい、だな。オレ、というよりは女房の方か。憧れてるとこもあるんだろう。スバルはまだ一般の方に通ってるが、ギンガの方はもう陸士候補生になっててな。女房と同じ捜査官を目指してる。それで将来の為に現場を見ときたいらしい。ちょうど今は大きな事件も抱えてないし、見学にはちょうど良いと思ってよ。許可を出してたんだ」

「なるほど……。自分で道を決めるのは、偉いですよね。僕の妹も、似たような感じです」

「ほう。妹っていうと、あの時の嬢ちゃんか。いま幾つだ?」

「十二になるところですね。そろそろどこかの訓練校に通い始めようとしてます。どこになるのかは、まだ完全には決まっていないみたいですが」

「そうか……。もう、そんなになるか」

 感慨深そうに、ゲンヤは嘆息を漏らす。

 ゲンヤの方も、ティーダの妹には覚えがあった。前に一度、ティーダの病室で会った事もある。しかし、その時の印象からすると、十二歳というのは随分と時の流れを感じさせる年齢だった。

「ウチのも今年で十四と十一ってとこだが……それだと、やっぱり寂しいだろ?」

「……はい。早く大きくなろうとしてるのは、心強い反面、やっぱり寂しいですね。もちろん同じ道を志してくれるのは、誇らしいところもありますけど……特にティアナの場合は少し、僕の事が枷になっているところもあるみたいで。そういうところが、不安になる時もあります」

「……だな」

 ティーダの言葉に、ゲンヤは静かに頷いた。

 数年前にかなり重い負傷したティーダは、本職であった空戦魔導師から少し離れた、ここ第一〇八部隊にて任務に就いている。

 現在では主に捜査官の支援やデスクワークを主としているが、当然ながら魔導師としてのリハビリも進めている。しかし、やはり未だに負傷の痕を残し、一線を引いてしまった兄の姿を見た妹の心は複雑なのだろう———と、ティーダは感じていた。

 そして、それはゲンヤの側にも覚えがある事であった。

「家のチビ共も、女房には随分と憧れていた。実際のとこ、あんな事が無けりゃ、今でも第一線で活躍してただろうしな……。そういう憧れ(せなか)を追って、ギンガはもうその入り口にまで来ちまった。親や兄弟に憧れる、っていうのは自然な感情だから止められねぇが……やっぱり見守る側としちゃ、寂しさとか不安とは無縁じゃいられねぇよな」

「……ええ、本当に」

 見守って来た小さな命が、大きな翼を得て強く在ろうとしている。

 それ自体はとても嬉しい。しかし、自分たちの居る場所を目指すというと、やはり心配は避けられなかった。

 管理局に努めている以上、命を賭ける場面というのは出てくる。とりわけ、ギンガやティアナの目指す場所は、命を賭ける比率でいえば重い側だ。これで心配するな、という方が難しい。けれど、本人たちの意志を無視する事だけは、それ以上に在ってはいけない事である。

 結局、自分にできるサポートをしながら、見守る以外に道がないのが現状だった。

「難しいもんだな、見守るってのは。今までさんざん、正義とやらの為に働いて来たつもりだったが……。こういう守るって行為は、仕事のそれとはやっぱり違う」

「そうですね。局員としてはあまり好ましくないかもしれませんが、他の選択も考えて欲しいな……って、そう思う時もあります」

 親として、兄として。抱くものは近く、けれどやはり違うもの。それでも心配する心は、同じくらい大きく、重いものである。

 しかし、

「……ま、それも結局は、()()()()だな」

「はい。やっぱり、そうですよね……」

 やはり未来へ向かう道は、今は見守るしかない。

 心配する想いは面に出し過ぎず、今は胸に仕舞いながら。むしろ、進みたいという想いを支えていくしか、ないのである。

 二人は、今ひと時の結論を設けて、思考を一度リセットする。そうしておおよその話を終えたゲンヤは、最後にティーダに一つ頼み事を告げた。

「ティーダ。八神の方は、来たらオレが受け持つことになる。すまんがそっちに就いている間、娘たちの相手を任せても良いか?」

「僕で良ければ、もちろん」

 訪ねてくる見学者の応対は、確かに通常任務に就いていない自分向きだろう。そう思ったティーダは、ゲンヤからの頼みを、快く引き受けた。

「ありがとよ。助かったぜ、ティーダ。流石にこういう親父の甘さみたいなのは、よくよく知ってる奴のが任せやすいからな……。それに、お前さんは妹もいるし、あの年頃の子の相手に慣れてそうだったしな」

「期待に沿えればいいんですが……。ティアナは結構、大人びているというか、マセてるとこがあるので」

 少し苦笑交じりにティーダが応えると、ゲンヤもまた笑って返す。

「なに、そこは問題ないだろうよ。ウチのも似たようなもんだ。ギンガの方は特に、スバルも素直だから、きちんといってくれりゃ大丈夫だろうさ」

「それを聞いて安心しました。じゃあ改めて、お引き受けします。任せてください」

「おう。頼むぜ」

 そういって一度話を切り上げて、ゲンヤは「よっ」とデスクから立ち上がる。

 軽く伸びをしながら、「それじゃちょっと、外にいる連中の様子も確かめてくる」と言い残してドアへ向かう。

「はい」とティーダは返事をして、ゲンヤを見送り、残った仕事を再開していった。

 

 

 

 時は静かに動き出し、新たなる始まりへと向かおうとしていた。

 

 鉄の鳥たちの集う、その場所で。

 新たなる強き者が、激しき焔へと巻かれてそこへ至る。

 

 先んじた雷と、茜色の影を追って。

 遠き星を目指す青き流星が、己が色を写したような(そら)への路を駆け抜けて行く。

 

 その始まり───四つめの幕が、遂に上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 転章Ⅲ

 

 

 

  1 (Age-76_Early-Spring.)

 

 

『───同窓会、ですか?』

「うん。今度アースラでやるんだけど、シュテルたちもよかったらどうかな、って」

 新暦七十六年の早春。

 いつものように、資料のやり取りなどをするべく定期連絡を寄せたシュテルに、ユーノはこんな誘いをかけていた。

『アースラというと……確か、以前リンディ次長が艦長をしてたという次元船の事でしたか。そこで、同窓会を?』

「そうなんだ。今はクロノが提督をしているけど、アースラも建造されてからかなり立つからね。廃艦処理される可能性が出てきたから、昔あの船で一緒になったみんなとも同窓会をしようって話になったんだって」

 ユーノがそういうと、通話口のシュテルは『なるほど』と頷いた。

 旧交を温めるという意味では、悪くない催しであると。あの夏の夜からは随分と長い時間が経ったものの、エルトリアとミッドの間を行き来するのは、未だあまり好ましいとはされていない。

 だが、アースラは次元船であり、当然ミッド以外の場所を移動する事もある。

 であれば、そのついでにという事であれば、ある程度の言い訳も効くというもの。

 それに表立っていないだけで、この技術・資料のやり取りも、半ば()()の下で行われているものだ。ならば無粋な仕事を取り払い、久々に会って語らうくらいの自由はあっても構うまい。……尤も、それ以外でもシュテルらは割と頻繁に『無限書庫』を訪れていたりもするのだが、それはまた、別の話である。

 ともかく、そういう事ならばと、シュテルはユーノらの誘いを受けると決めた。

『そういうことでしたら、喜んで参加させて頂きます。ディアーチェたちも誘って、こちらも皆でお邪魔させていただきます。久しぶりに直に会うというのも、とてもいいものだと思いますから』

 色よい返事に、「よかった」と、ユーノは微笑む。

「それじゃあ、みんなにもそう伝えておくね。詳しい時間は改めて伝えるから、その日は一度『無限書庫』の方に来てもらえるかな? そうしたら、僕が転移門(ゲート)で案内出来るし」

『分かりました、ではその様に。……ところで師匠、例の受け取りはいかがいたしましょう?』

 やや声のトーンを落とした真剣な声で、シュテルがそう訊ねて来た。それを受けてユーノもまた、同じ様に面持ちを少しばかり鋭くする。

 以前の襲撃に際し、ユーノはある品をシュテルに───より正確には、エルトリアにいる皆に頼んでいた。

 どうやらその品が完成したらしい。

 きっかけがきっかけだけに、胸中に浮かぶ思いは素直な喜びという訳にはいかなかった。だが、それでも自分の無理(たのみ)を聞いて貰えた事には、感謝という以外にない。

「ありがとうシュテル。ごめんね、無理な注文を聞いて貰っちゃって」

『構いません。我々としても、それなりに得るものがありました。此方ではあまり見ない型の魔導に合わせたモノを作るというのは、なかなかに興味深く、楽しめましたから』

 そう言って、シュテルは柔らかに微笑みを浮かべた。彼女の様子にユーノも表情を緩め、笑みと共に、もう一度「ありがとう」と、感謝の言葉を返す。

 乱れていた心持ちが正されたところで、早速とばかりにユーノは受け取りについての段取りを決めて行く。

 合理的に考えれば、シュテルたちが此方に来るついでに持ってきて貰うのが一番であろう。指してかさばるモノではなく、また『無限書庫』に来るのなら司書長室にでも持って来て貰えば良い。

 ただ、此方で試運転を行うには少しばかり難がある。

 そもそもユーノは別に戦闘局員でもないのだ。訓練室を借り受けてるには、誰か知り合いの伝を辿る事になるだろう。

 となると、

「アレは……うん、同窓会が終わったら、今度は僕がエルトリアに取りに行くよ」

 少しばかり迷惑が掛かりそうだと思いつつも、せっかくだから試運転も済ませて起きたい。

 大まかにはそんなところだったのだが、何故かシュテルはちょっと固まっている。

 もしかして都合が悪かっただろうか。ユーノは慌てて「ああ、もちろんその、迷惑じゃければなんだけど……」と付け足そうとした。

 が、それをシュテルは彼が言い終わるよりも早く、

『そんなことはありません。是非ともいらして、ゆっくりしていって下さい』

 平静な表情とは裏腹に、どことなく食い気味にも見える勢いでそう返してきた。

 何となく圧に押されながらも、ユーノはどうにか「う、うん」と応えると、シュテルは満足そうに、

『では、お待ちしております』

 と、先ほどの静かな勢いを忘れさせる程に穏やかな表情で応えた。───尚、この時。口調は平静を装っていたものの……実はシュテルが思いっきり拳を強く握りしてめいた事に、ユーノはついぞ気が付かなかった。

 

 それから幾らかの雑談を挟み、二人は通信を終えた。やがて来る日へ向けて、今から楽しみだなという昂揚を残して。

 

 ……が、来るべき日を待ち望むのは、何も彼らだけではないと。

 そう気づくのは、まだ、先の事であった───

 

 

 

  2 (Age-Unknown.)

 

 

 何処とも知れぬ研究施設。そこに、二人の男が並び立っていった。

 彼らはしばし立ち並ぶ円筒の光を愉しんでいたが、しかし、ただ永遠にそれを見続けているわけにも行かなかったのだろう。

 ほどなくして、彼らは他の()()にも取り掛かろうとしていた。

 が、そこへ一本の通信が入って来た。

 けれどそれに不快感などは占めず、むしろ待っていたとばかりに笑みを浮かべ、紫髪の男は通信を取った。

 窓を開くと、そこからは妙齢の女性の声が聞こえてくる。

「おお、どうしたんだいウーノ」

《お忙しいところ申し訳ありません、お二方。ですが、いくつか報告させて頂きたい事項がございます。よろしいでしょうか?》

「構わないとも。それで、どうしたのかね?」

 紫紙の男がそう促すと、ウーノと呼ばれた女性は、画面越しに「はい」と首肯し、言葉を続けていく。

《先日、以前ボレアたちが保護されたモノとはまた別個体の『レリック』が発見されたそうです》

「ほう? それはそれは、実に僥倖……と言いたいところだが、どうもその様子では、それだけではないようだね?」

 どことなく()()の入った物言いであるが、この様子では、既におおよその検討はついているのだろう。

 彼のこうした性格を熟知しているらしいウーノは、この流れを損なわぬように応える。

《ええ、その通りですドクター。ここからが本題です。新たに発見された『レリック』は、()()()()の派遣した『運び手』によるものだそうです。ドゥーエからの報告を鑑みても、そこに偽りは無いかと》

「ふむ、なるほど……。本当に、よくわかっていない連中だ。残念極まりないね。それで、老公たちからは何と?」

《どうやら、前回の余興に際した反省を経た(のち)、我々が彼方側へ帰還するように求めている模様です》

 ウーノの報告に、紫髪の男は実に愉快そうに嗤った。それはもう、誰しもが笑わずにいられない滑稽話でも聞いたかの様に。

 ひとしきり嗤い終えると、

「クク……いやぁ、なんとも、実に有り難いお申し入れじゃないか。どうやらご老公どもは随分と焦れているようだねぇ……。まったく、年齢(とし)ばかり重ねて堪え性のない」

 嘲りを込めて金色の瞳をぎらつかせ、口元を歪ませた。

 さながらそれは、獲物に喰らいつこうとする獣を思わせる。そんな、どこか凶暴な面持ちでいる彼に、ウーノはその意志を問う。

《では———》

「ああ。ご老公たちへの返事は、〝取引には応じる〟とだけ伝えてくれたまえ」

 名を受けて、ウーノは恭しく己が主へと(こうべ)を垂れた。

 (ふところ)に入り込んでいる妹へもそう告げておくと応え、その続きへと踏み込んでいった。

《一つ目の方は確かに。では、二つ目の方は?》

「おいおいウーノ、君は姉妹達(ナンバーズ)の長女なんだ。まさかとは思うが、君まで青く堪え性のないままなのかね?」

 が、そんな娘の急いた言葉を、男は一笑に付す。

 しかしそれを、また同様にしてウーノも返していく。

《ドクター、それは流石に心外(セクハラ)です。それに、別段どうということはありません。そもそも、()()()()()()()()()()()のでしょう?》

 流石に遊びも行き過ぎと見たのか、ウーノはそれを窘める。

 どことなく秘書じみた物言いに、さしもの彼もその言葉の矛先をしまうと決めた。

「……クク、娘に気が早いところを見られるのはいささか恥ずかしいものだ。だがまぁ、実際のところその通りでもある。そうだねぇ、セインとクアットロ、そしてトーレ、ノトスにも言伝を。構わないだろう、マクスウェル君?」

 いくつかの名前を出していく中で、紫髪の男は、ここまで静観を貫いていた傍らの黒髪の男へと声をかけた。

 よく喋る相方が本題へ入ったのを見て、彼もそろそろかと口を挟む。

「もちろん、問題はないさ。むしろ、ノトスにもいい経験になるだろう。それに、あの子の力は、いざという時に役に立つ」

 確かな()()を込めて、マクスウェルと呼ばれた彼は、『ノトス』についてそう断言して見せた。

 相方の研究者(どうるい)としての自信(それ)を心地良さげに受け、「だ、そうだ」とウーノに告げる。

「では、皆に伝えておいてくれ———そろそろ動く、とね」

《承りました。では、そのように。詳しい日取りは、決まり次第もう一度、お二方の元へご報告致します》

「ああ。頼んだよ、ウーノ」

 最後にそう告げると、ウーノは淑女然とした礼をみせ、通信を切った。だが、話し終えた似も関わらず、紫髪の男はどことなく愉しげである。

 どことなく浮かれた様子の彼に、マクスウェルは「随分と浮かれているね」と、()み混じりに言うと。

「当然だとも。我々が手を組んでから暫く経ったが、いよいよ動き出すときが来たのだ。これで浮かれるな、という方がどうかしているとは思わないかい?」

「ふふ……違いない」

「だろう? ───とはいえ、実際に狼煙を上げるのはもう少しばかり先だ。今は残った些事を片付ける為、我々も、ぼちぼち動き出すとしようか。

 ここからだよ、我々の野望は。そして、まだ分かっていない老人共に、()()()()()()()()()、存分に教えてあげなければねぇ……」

 

 この世界が、磐石であるなどといった───ましてそれを、未だ己の手で為せているのだと。

 そんな風に考えている幻想(おもいあがり)を、この手で。

 

 高く響く嗤い声。

 常世(セカイ)へ向けたその音は、やがて来たる狼煙(ほむら)に先駆けた宣戦布告である。

 

 ───始まりの炎へ向けて、物語はついに動き出す。

 

 

 

 PrologueⅢ END

 ~Next_PrologueⅣ in_Age-76~

 

 

 




 はい、では改めましてこんにちは。駄作者ことU GATAでございます。

 やっとこさ、きちんと物語を進めることができました……!
 今回の話は重めですが、最後の方はある程度明るめに行けたのではないかなとおもうのですが……いかがだったでしょうか?

 時間移動する関係上、とあるの旧約五巻みたいな感じの書き方に挑戦してみたんですけども、やっぱり慣れてないと結構戸惑いがあるものですね……。

 あとちょっと正直、最後の方は勢いと遊びが勝ってしまったかもしれないのでちょっとばかり不安ではありますが、うじうじしていても仕方がないので、さっそく今回の話について触れていこうと思います。

 今回の話はⅡのあとがきとⅢのまえがきにしつこく乗せた通り、エリオとキャロのお話と、Ⅳへ向けた布石を打ったものになっております。
 原典で言えば、結構バラつきのあるものを大まかにまとめた感じでしょうか。

 エリオのエピソードは漫画版のEp九を主軸に、TV本編の十七話や二十四話を練り合わせて、キャロの関しても同じように漫画版の部分からと、本編の五話や十話の回想シーン等からイメージを出していきました。

 Ⅱのあとがきにも書いた通り、これでおおよその下地というか、変更した部分や、このシリーズの内での設定や時系列の土台をある程度固めることができたのではないかと思います。
 ただ、正直しつこいくらいに『プロジェクトF』についてや、竜召喚士について書いたのはもしかしたら悪手だったかもしれません。結果として長くなりすぎてしまって、投稿も遅れてしまいましたので……(確か昨日ツイで書き終わった報告をした時はⅡ、Ⅲ併せて七万文字くらいでした)。

 まぁそれも後から先に出しておいたことで先が楽に進められればいいのですが、何分物語の組み立てがへたくそなもので、一助となるかは今後次第といったところでしょうか(汗

 ただまぁ、最後のとこでそこそこユーノくんを出せたのは、まずまずだったかなと思います。
 若干理由としてはこじつけでしたが、そこまで不自然でもないかなぁと。
 あと、本来エリオとキャロはStS本編時まで会った事はないんですけども、今作ではちょっと我慢できなかったので会わせちゃいました。
 次元世界では割と早い段階で魔導師としては一人前として見られる場合が多いですけれど、なんていうかその辺に少し切り込んでみたかったとこがありまして。
 一応、フェイトちゃんは漫画版のとこから見ると、ちゃんと保護責任者になっているのが二人というだけで、執務官としてエリキャロの他にも子供たちを保護したり、助けたりはしているみたいなんですよね。
 ただ本来のStSよりは年齢が進んでいるとはいえ、フェイトちゃんもまだ保護責任者としては若いですからね。姉は十分にしても、母親として在るにはやはり経験はまだ浅いだろうなと。
 そもそも保護責任者になる、と決めるからには何かしら覚悟があるだろうと思っているので、今回はその辺りを、もちろん完全とはいえないまでも、自分なりに少し掘り下げてみました。
 実際のところ、エリオとキャロの二人の持っている力を一人で保護責任を持てるかといえばちょっと疑問が残っていまして。
 エリオはミッドも使うけど、基本はベルカ。キャロは後方支援型で、召喚魔法を使う。
 そして二人とも、自分の生まれや、持った力について悩んでいた。ここで、力が悪いものでないと伝えて、魔導士として自分の力を制御できるように導くとしたら、フェイトちゃんは二人とだいぶタイプが違いますから、万全を期すなら周りの助けは当然必要になってくるだろうと。
 ですが、原典ではエリオは管理局の施設で六課創立まで過ごして、キャロは本人の希望で自然保護部隊の方で過ごしていました。引き取られた時期に差があったのものありますが、今作ではちょうど差は一年弱。
 なら、その間に二人があったり、魔法の制御などを学んでから、自分の路を探していこうとして行った……みたいな流れでもいいかなと。
 迷いがすぐに晴れるわけではないでしょうし、施設に囚われていたエリオにしても、管理局の部隊にいて一度は召喚士としての力を使ったらしいキャロにしても、自分の力を自分なりに見つめなおして、同世代と過ごす時間があってもいいのではないかと思いまして。

 そうした部分を自分なりに紡ぎなおしてみたのが、今回の話になります。
 なお、お気づきの方も多いかと思いますが、当方某ユノフェ神ssのファンでありますからして、この四人で過ごしている風景を作ってみたかった欲も多少なりありまました←オイオイ

 ここで少しばかり悔やまれるのは、二人が仲良くしてるシーンを出すかどうか散々迷って本編にまで出し惜しみしてしまったところでしょうか。
 今はまだ見えないほうが尊いかもしれないとか思わず書けばよかったかなぁ。でも、本編でめっちゃ仲良しこよししてほしいからもう少しだけ、次の話も少し重いし……とか考えているうちにこうなりました。
 エリキャロのほのぼのイチャイチャが見たかった皆さま申し訳ございません。
 本編入ったら砂吐くくらい書きますのでご勘弁を。

 と、ひとしきり書き終わったところで、残された部分にも触れていきましょうか。

 残された部分は冒頭と終わりの三節のあたりなんですが、あの辺りは完全にⅣへの布石です。
 もう次回からほぼ本編といっても過言ではないので、そこへ至るために出来る限りの流れを作ってみようと頑張った感じです。
 ついでにユーノくんの新しい試みもちょっとずつ進んでいますので、そこらへんをⅣかⅤの幕間でうまく出してから本編へ行けたらなと思います。
 あともしかしたら炯眼な皆様にはバレバレかもですが、敵サイドの人数や名前の法則なんかも考察していただけたりすると嬉しいですね。

 とまぁ、大まかに話の内容を語るとこんなところでしょうか。
 まだまだ拙いところは多々ありますが、本編を良いものに出来るように残った二本のPrologueも全力で書いていこうと思います。

 長々と申し訳ござません。
 次回の更新はまだ未定ですが、今回みたいに間を開けすぎないように頑張りますので、今後も読んでいただけたら幸いでございます。

 では、また次回もお会いできるようにと祈りつつ、今回はこの辺りで一度筆をおかせていただきます。
 重ねて、今回もお読みいただきありがとうございました!
 また次回もお会いしましょう^^
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