魔法少女リリカルなのはStrikerS ~The After Reflection/Detonation IF~   作:形右

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 どうも、Ⅳがお初という方は初めまして。
 Ⅰ、あるいはⅡやⅢに引き続いての方は続けてお読みいただいている方はお久しぶりでございます。
 またお読みいただき光栄です、久方ぶりの投稿となります駄作者こと形右です。

 随分と掛かってしまいましたが、ようやくⅣを書き上げることが出来ました。
 思ったよりもめっさ長くなってしまいましたが、その分それなりのモノになるように頑張りましたので、少しでも満足のいくものになっていたら良いなと思います。

 さて、では今回の話に少し触れていきます。
 ネタバレというか、読んでいてつまらなくない程度に抑えますが、だいぶ詰め込みまくったので、一応概要出しておいたほうが読みやすいかなぁと思いましたので。

 ということでちょっと説明させていただくと、今回の話は大まかに分けて三つの段階に分かれています。

 任務と同窓会、エルトリア来訪、最後のⅤとその後の本編へつながるラストパートと、この三つが、今回の話の大筋になってます。
 正直、Ⅳにおける要はあくまでも三つ目のところなんですが、なんか筆が思ったよりも滑ってしまい、前二つがやたら長くなってしまいました……。これについては、ちょっと読みにくい作りになってしまったかもなので、そこについては申し訳ございません。
 まさかの八万文字超えているという話になっておりますので、かなりのお時間をいただくことになるかと思いますが、自分としても全力を注いで書き上げた話になりますので、皆様に少しでもお楽しみいただけるものになっていたなら何よりも嬉しいです。

 まぁそういった部分の詳細の説明や言い訳に関してはあとがきの方で行いますので、そちらも併せてお読みただければと思います。
 また、その他でご不明な点や、誤字・ご表現などありましたらお気軽にお教えくださいませ。

 と、ちょっとくどい前置きになりましたが、ひとまず最初に述べておくことは以上です。
 あとは本編とあとがきに託します(笑)

 なお、今回はまたこちらに懲りずにまた前作のリンクを張らせていただいております。
 正直「またかよ!」というツッコミを食らいそうですが、そのあたりはどうかご容赦を。
 まぁ自分のペースが遅いのがいけないのですが、割とここからは前作から続いてきたものや、派生要素が二つ目のパートからバンバン入ってくるので、初めての方はもちろん、引き続きの方もまた読み返していただけると、より分かりやすいかなと。
 相変わらず宣伝じみていますが、前回に引き続き、一応の前置きとしてしていただけたら幸いです。

 https://syosetu.org/novel/165027/

 では最後に、恒例の簡易注意事項でございます。

 ・お気に召さない方はブラウザバックでお願いいたします。
 ・感想は大歓迎ですが、誹謗中傷とれる類のコメントはご勘弁を。

 それでは、本編の方をお楽しみいただければ幸いでございます───!



Prologue_Ⅳ ──Explosion──

再会、新たなる始まり Alumni_Association.

 

 

 

  1(Age76-April_24)

 

 

 新暦七十六年、三月中旬。

 この日、かつて地球を襲った三度の厄災から星を守った魔導師たちが、舞い込んだ合同任務に際して、久方ぶりに一同に介しようとしていた。

 

 場所は、第一六二観測指定世界。その軌道上に置かれた、時空管理局の保有する次元航行船・アースラの指令室より始まる。

 

「エイミィ、首尾はどうだ?」

 指令室(ブリッジ)の中央に座った黒髪の青年、クロノがそう問いかけると、軽快にキーボードを操作していたチーフオペレーターのエイミィが、意気揚々と言った様子でこう応える。

「順調順調♪ 先陣を切ったヴォルケンズのみんなはもちろん、今出ようとしてるなのはちゃんたちも準備万端。いつでも行けるって」

 正面の投写画面(モニター)に浮かぶ三人の魔導師たちの姿を確認しながら、エイミィはそう言う。そんな彼女の返答にひとつ頷くと、クロノは「そうか。なら早速で悪いが、出動の方を頼む」と、待機中の三人に対してGOサインを出すように言った。

「オッケー、クロノくん。……あ。クロノ艦長、だったね?」

 楽し気にそう返され、クロノはやや照れた風にそっぽを向く。

「エイミィ」

「ごめんごめん。長い付き合いだから、つい」

「…………」

 こんな風に言われると、どうも二の句を継げなくなる。

 実際のところ、二人の付き合いはクロノが母であるリンディからこのアースラを引き継ぐ以前からのもので、元々は姉弟の様な関係であった。

 しかし、すっかり背丈も逆転し、クロノの階級が提督となり艦長へ就任した今となっても、どうにもまだこうした舌戦ではクロノはエイミィには及ばない。……尤も、それもまた何時ものやり取りとして、心地好くもあるのだが、何となく悔しい気がするのは心内に留めて置くべきだろう。

 ひとつ溜め息を()き、クロノは話を戻す。

「ゲートを頼む」

「りょ〜かいっ♪ それじゃあみんな〜、ゲート開くよー?」

 そうエイミィが呼びかけると、

 

「「「はーいっ!」」」

 

 と、画面の先から三人の声が重なって聴こえてくる。届いた声に併せて頷くと、エイミィは「ではでは、行ってらっしゃ〜いっ!」と再び幾つかのキーを叩いて、魔導師たちを今回の舞台となる世界へと送り出した。

 

 

  2

 

 

 転移魔法で象られた光の道を抜けていくと、程なくして目的地が視えて来た。

 岩と砂塵が織り成す、やや寂しさを感じさせる光景。時空管理局によって第一六二観測指定世界と区分されたこの場所に、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人の魔導師が舞い降りる。

 空の果てより送りこまれた三人は、身体を引き付ける星の力に牽かれ、擦れる様な大気の感触を全身に浴びながら、傍らにある友と目を見合わせ頷き合う。

「行くよ。フェイトちゃん、はやてちゃん」

「うん」

「せやね」

 なのはの呼びかけに答えた二人は、心得たとばかりにそれぞれの愛機(デバイス)をその手に握りしめた。

 丸く小さな赤い宝石をしつらえたペンダントと、三角形の台座に据えられた金の宝石。そして、金色の剣十字を象ったネックレス。三者三様なそれらを掲げ、少女たちは愛機へ向けて、自身を魔導師へと変える起句を告げる。

 

「レイジングハート」

《Yes, My master.》

「バルディッシュ」

《Yes, Sir.》

「リインフォースⅡ」

《はいですっ!》

 

「「「───セーット、アーップ‼」」」

 

 愛機の名に次いで告げられた言葉に呼応して、彼女らの愛機が起動する。

《Stand by ready.》

《Barrier jacket-Set up.》

《ユニゾン・イン!》

 淑やかな、悠然とした、愛らしい愛機(デバイス)たちの声の三重奏。次いで、桜色の羽、黄金の雷、白銀の風といった色彩を乗せた魔力がそれぞれを包み、魔導師たる姿へと変えていく。

 そうして魔力で編まれた魔導装束(バリアジャケット)を纏い、三人は自らを包み込んだ魔力の膜を弾き飛ばして、己の色彩を乗せた翼を羽ばたかせる。

 

 目指すは、北部・定置観測基地。

 今回の任務はそこからだ。此処で発見された、ある古代遺失物(ロストロギア)の回収が、今回の三人に与えられた任務である。

 

 

 

 第一六二観測指定世界にある、北部・定置観測基地。この基地へ辿り着いた三人を、見知った顔が出迎えてくれた。

「皆さん、お久しぶりです。遠路はるばるお疲れ様でした」

「シャーリー! 久しぶり~♪」

 そういって微笑みかけてくれたのは、シャリオ・フィニーノ。彼女とは以前、なのはたちのデバイスをよく見てくれる、本局の技術部長マリエル・アテンザの元で開発技師(デバイスマスター)としての見習いをしていた折りに知り合った。やや暗めの茶髪のロングヘアと、まるっこいメガネが愛らしい後輩局員である。

 前に海鳴市(ちきゅう)の方で起こった事件にも参加したことがあり、なのはたちとの付き合いはそれなりに深い。しかし、開発技師としての見習い期間を終えてから、しばらくは新宿支局のエイミィの元で通信士としての研修を積んでいたところで、元来の機械畑(メカニック)としての血が騒いだのか、いつの間にか通信を行う装置(ハード)系統にも精通する様になってしまい、人柄と腕の良さから様々な部署に引っ張りだこにされて、忙しくしていた。

 そんなわけで久方ぶりの再会に湧いていた女性陣であったが、そこに諫めるように差し込まれる声が一つ。

「シャーリー。久しぶりなのは分かるけど、公私の区切りはちゃんとつけないと。まだ状況を説明してないだろう?」

 呆れたとばかりにため息を吐く、紫の髪をした少年。キチンと真ん中で分けられた髪と、角ばった眼鏡がどことなく堅そうな雰囲気を醸し出しており、柔和な印象を与えるシャーリーとはちょうど対になっているように見えなくもない。

「あ、そうだった。ゴメンゴメン」

「まったくもう……」

 そんな二人のやり取りを眺めながら、はやてはくすくすと微笑ましそうに笑みを浮かべた。

「ふふ。二人とも、あいかわらずやね~。グリフィスくんも、その真面目なトコ、お母さんそっくりや」

 はやてがそういうと、グリフィスと呼ばれた彼は「よく言われます」と苦笑する。

 彼は、はやてたちがお世話になったアースラの元艦長で、クロノの母であるリンディが親しくしているレティ提督の息子である。ちなみにシャーリーとは昔から家が近所だったそうで、昔からの幼馴染らしい。 

 そうした長い付き合いからか、二人の真面目さと柔軟さをみていると、実に息の合った良いコンビをしているなと、三人は二人を見ているといつも思う。

 と、そこで、和んだ場を一度引き締めるようにして、グリフィスが毅然とした敬礼で三人へ向けて、再度自身の所属を名乗る。

「では改めまして……。遠路はるばるお疲れさまでした。本日皆さんのバックアップを務めさせて頂く、本局・管理補佐官、グリフィス・ロウランです!」

「同じく、シャリオ・フィニーノ通信士ですっ!」

 緩やかな雰囲気を正した後輩たちに、なのはたちも先輩として厳粛に敬礼で応えた。

 旧交を温めるのも大切だが、何時までも日常に浸ってばかりもいられない。完全に気を緩めるのは、この任務(しごと)を終えてからだ。

「じゃあ早速だけど……。シャーリー、今『レリック』は何処に?」

 なのはが訊ねると、シャーリーは「はい」と首肯して、今回の任務について語り始めた。

「今回の現場となるのは、ここから少し離れた遺跡地帯。件の『レリック』が発見された場所そのままですね。発掘自体は既に済んでいますので、本来なら皆さんの手を煩わせる程ではなかったかも知れませんが……封印処理をしたとはいえ、『レリック』はかなり強力な超高エネルギー結晶体ですので、皆さんに来て頂いた形です」

「そういうのはかまへんよ。せっかくある力なんやから、わたしらのことも使ってもらわな」

 はやてがシャーリーの説明にそう相づちを打つと、グリフィスが「助かります」と言って笑みを浮かべた。

 そのまま言葉を継いで、グリフィスが説明を続けていく。

「はやてさんたちに行って頂くのは、第二発掘地点。先行したヴォルケンズの皆さんが向かった地点から、少し西に逸れた場所ですね。皆さんの飛行速度でしたら、恐らくは十五分ほどで現地に到着するかと」

「短いですが、わたしたちもしっかりサポートさせて頂きます。まだまだエイミィさんには及びませんけど、これでも腕は上がってますから!」

 ぐっ、と拳を握り胸の前に持ってくるシャーリー。やる気十分といったその面持ちは頼もしく見える。

 が、傍らのグリフィスはと言うと、意気込んでい彼女を少し宥める様な事を口にした。

「シャーリー。意気込むのは良いけど、比べる人が凄すぎだろう? まだ駆け出しの通信士なのに、本局の通信指令に張り合うのは……」

「あー、そーゆーうコト言う? わたしだっていつかクロノさんとエイミィさんみたいに、バリバリ執務官を支えられる補佐官になるんだからね!」

「意気込みは良いけど、メカに目が行きすぎる癖は直した方が良いんじゃない?」

「むぅ~~っ!」

 先程までの引き締めた気合いは何処へやら。微笑ましい小競り合いを始めた二人をみて、なのはたちはくすくすと楽しそうに笑う。

「あはは、仲良しだね」

「あ……す、すみません。つい……」

 軽い小競り合いをしてたことに謝るグリフィス。シャーリーの方も、ややバツが悪そうに頭に軽く手をやっている。

 しかし、二人とも今回の任務に関する資料を精査する手は止めて居らず、出動への準備はこの間にもしっかりと進められていた。二人の優秀さと、なかなかのコンビだという事が分かるその様子に、はやては優しい微笑みを浮かべている。

「ほんま仲ええなぁ~、二人とも。幼なじみで、ツーカーって感じや」

「だと良いんですけど……。グリフィスくんの方は、またちょっと別のとこ向いてる時もありますから」

「ありゃ……どこでも似た様な話はあるんやなー、一筋縄ではいかへんゆーのは」

 ぼそりと漏らされたシャーリーの愚痴の様な一言に、何となくはやてはなのはの方を向いてそんな事を言う。

 が、なのはの方はというと、「?」と疑問符を浮かべ、話の流れが自分に向いているのはよく分かっていないみたい様子である。

 はやて自身もそこまで人のことはいえないが、ここまで天然だと、苦戦してしまうのも仕方の無いかもしれないなと思った。とりわけ、分かっているらしいのに、ちゃんと飲み込めていない辺りは特に。

(あかん。こうしてると、なんや心配になってくるなー……。特に、ここのトコはフェイトちゃんとかも、結構前に出て待ってるし。こうも見せつけられてると、わたしやって少しは思うトコあるんやけど……)

 なんというか、せっかく直ぐ取れる場所にあるのに、何時までもその本人が手を付けないご馳走でも見せられている気分だ。

 もどかしく、どうせだったら……なんて思いたくもなりそうな。

 だが、生憎と分かりやすい指標のないコレに関しては、結局のところ、その機会がそれぞれに訪れるのを待つ他ないのが現状であるのだが。

 と、そんな風に思われているとはつゆ知らず。管理局の本局では、件のソレが、ちょうど目の前の親友をある意味一番脅かしている誰かさんと再会を果たしていたのだが───今の三人が、それを知る由はなかった。

 

 

  3

 

 

 三人の魔導師が、後輩たちに見送られ基地を発った頃。

 軌道上のアースラの司令室(ブリッジ)では、クロノとエイミィがこんな会話をしていた。

「なのはたちは、そろそろ基地を発つ頃か」

「たぶんね。このまま何もアクシデントがなければ、回収自体もそんなに掛かんないとは思うよ」

 進行状況を確認しつつ、クロノは現状では問題は見受けられないと判断したらしい。

「ならこちらも、先に用事を済ませておくとしよう。エイミィ」

 そう告げると、エイミィは心得たとばかりにクロノの意図を汲み取る。

「はいはーい。先に無限書庫、ユーノくんのとこでいいかな?」

「ああ。進捗を聞いて、順調なようなら、聖王教会の方に。あのフェレットもどきにも、一応話に加わって貰うとしよう。アレでも例の件においては中心だからな」

「相変わらず仲の良いことで結構。おねーさんは嬉しいよ~」

 悪友とのやり取りに関しては恒例なので今更だが、弟でも揶揄う様なその言い草に、クロノはやや眉を顰めた。

「エイミィ。もうお互い良い年なんだ、そろそろ弟扱いは止めてくれ……それに」

 と、そう続けようとしたところで、話題を割られた。

「分かってるよー。そろそろ、そんなんじゃいられなくなるもんね」

「…………」

 結局、いつもどおりの流れだった。

 相変わらず推され気味のまま、エイミィのペースで話が進んでいく。まぁ、自分が素直でないのも自覚しているので、クロノは仕方ないかと当たりをつける。

 が、たぶんこの先も適わないのだろうな───といった感慨を感じながら、クロノは表示された画面の先を見やるのだった。

 

 

 

 時空管理局・本局。

 次元航行部隊の本拠地である此処は、『次元の海』の中に設置された大型の人工居住衛星(コロニー)である。中央の支柱から大きな十字の棘突起と、いくつかの星環の様な円に囲まれた外観をしている。

 数多の世界へと通ずる港口である本局には、ある施設が置かれている。より正確には、そこへ通ずるゲートが、だが。

 次元世界の誇る超巨大アナログデータベース、『無限書庫』。

 管理局におけるもっとも大規模な情報を保持する機関であるが、施設自体は本局の創設より以前から存在しているとされていて、ここには次元世界に存在するすべての書籍と、管理局の保有する重要なデータが保管されている。最も古い書籍は六五〇〇年前のもので、書庫の持つ歴史は管理局のそれよりも長い。

 そうした事から、『世界の記憶を収めた場所』と呼ぶ者もいる程だ。

 納められたモノの膨大さから、本館は局内にはなく亜空間に置かれており、亜空間内はいくつもの区画に別れている。

 しかし、開かれて十年近くが経つというのに、未だにそれぞれの詳細な広さ、また全容は未だに謎のままになっている部分も多い。魔法が技術体系として確立したミッドチルダにおいても、その存在はまさに魔法の産物であるといって差し支えないだろう。

 そして、そんな多大なる神秘を抱えたかつての情報の墓場を拓いた、うら若き司書長の元へ、悪友である提督からの通信が寄せられてきた。

 

『そちらの進行はどうだ、ユーノ?』

「今出てる部分は大体。解析も三人が戻ってくる頃までには終わりそうだよ」

 クロノからの通信を受けて、ユーノはそう応える。

 悪友の返答に、クロノは満足そうに『そうか』と頷き、続けた。

『では引き続き頼む。それと、頼んでおいてすまないが、教会の方との話にも同席してもらいたい。構わないか?』

「うん、それは大丈夫。この解析自体はそこまで大掛かりなものじゃないから」

『助かる』

 と、二人が一度区切りをつけた辺りで、背後から声が掛かった。

 幾らかの書籍を抱えて、ひょっこりと姿を見せたのは、十歳くらいに見える少女。ただ、普通といくらか違うところがあるとすれば、それは恐らく橙色の豊かな毛並みを魅せる狼の尾と耳を持つことだろうか。

 しかし、それは当然の代物である。

 何せ彼女は、『使い魔』と呼ばれるヒトの姿を持つ誇り高き獣であるのだから。

「はいよ、ユーノ。さっき言ってたの、持ってきたよー」

「ありがとアルフ」

 そういって本を受け取っていると、画面の向こうでエイミィがやや感慨深そうな呟きを漏らす。

『にしても、アルフもすっかり司書が板に付いてきたねぇ……。いつもフェイトちゃんと一緒だった頃を見てた身としては、なんだかまだ慣れないトコあるよ』

 エイミィの言葉に「あー、まーねぇ~」と、返事をして、アルフはこう言った。

「もちろんフェイトの(リンク)は今も繋がってるけど、確かに今のアタシみてると、下手すりゃユーノの使い魔に見えたりもするかもね」

 可笑しそうにくすくすと笑い、「けど」と続ける。

「今のアタシじゃフェイトの傍には立てないし、主を守る『使い魔』としては思うところもあるけど……ずっと傍にいて守るだけが、守り方じゃないし。

 フェイトはもう十分強くなった。だから今は、掛かる負担(まりょく)を減らして、フェイトの帰ってくる場所を守るのが、今のアタシの一番」

『フェイトちゃんも同じこと言ってたなぁ……。やっぱり、離れててもツーカーだね』

「そりゃあ、もちろん」

 胸を張って応えるアルフに、エイミィを始め、三人とも微笑みを浮かべる。

 と、そこへ、横槍を入れてきた声が一つ。

「気高く、善い志を聞かせてもらいました」

「え、シュテル?」

 いつの間に来たのやら、平然と背後にいたシュテルに、アルフを除いた面々は驚きに目を見開いた。

「おー、匂いが近かったから着いてたとは思ったけど、みんな早かったな~」

「はい。以前師匠から、書庫内で位置を割り出す位置補足(マーカー)機能をルシフェリオンにつけて頂きましたので。今回は全員、さして迷う事も無く着くことが出来ました」

 シュテルがそう言って視線を後ろへ向けると、彼女と共にやって来た仲間たちの姿があった。かつて、地球での事件の折に共に戦った、遠き星・エルトリアから遥々やって来た旧友たちである。

「久しいなユーノ。今日は世話になるぞ」

「うん。いらっしゃいディアーチェ。レヴィとユーリ、アミタさんにキリエさん、それにイリスさんも。お久しぶりです」

 そう言って出迎えたユーノに、家族を代表して長女のアミタが挨拶を返す。

「お久しぶりです。ユーノさんにアルフさん、エイミィさん、クロノ支局長……いえ、今は提督さんでしたね。本日はお招き頂きありがとうございます。おかげさまでみんな無事に着けました」

 丁寧にお辞儀をして挨拶をしたアミタに、クロノやエイミィたちも画面越しにではあるが出迎えの言葉を短く告げた。

 と、ひとしきり挨拶が終わったと思ったのだが、そこへレヴィがこんなことを言った。

「無事に着けたのはよかったけどぉ、ボクはもーちょっと色々見てから来たかったかなぁ……。結局途中で見つけた幽体門番(ゴースト)くらいしか手ごたえあるのなかったしー。前みたいにさぁ、デッカイ鎧みたいなのがよかった~」

 なんて口を尖らせるレヴィに、ユーノは苦笑を浮かべる。相変わらず無邪気というか、ベタな迷宮好きの様だ。

 そんな不満を垂れるレヴィを、ユーリは「まぁまぁ」と窘める。すると、その傍らにいたイリスも同様に注意をした。

「そーよ、レヴィ。アンタはもう少し落ち着きってものを覚えなさい」

「えー。なんだよー、二人してさぁ」

 拗ねたように反論するレヴィだが、長女の血が疼いたのか、アミタもそこへ口を挟んで来た。

「ですが、ここは大規模とはいえ曲がりなりにも書庫。あまり騒ぎ立てるのは好ましくありませんよ?」

「うぇぇ……アミタまでボクのこと叱るのぉ~?」

 割と普段は寛容なアミタなので、レヴィとしてはここで一人また味方を失った様な気がして、少々ショックを受けた様な顔をしている。

 そこに若干揺らぎそうになるが、

「少々厳しいかもしれませんが、これもまた愛ゆえに。レヴィも立派な淑女といっていい年齢ですからね」

 が、これもまた妹分の為。

 アミタもここは譲れないと言葉を紡いでいった。……が、しかし。

「ま、今でもザッパー振りかざしてるアミティエも、その辺に関してはどうかと思うけど」

「い、イリスっ! これでもわたしとて乙女なのであって、そういう言い方はいささか傷つくのですが……ッ⁉」

 何故か矛先が、今度はアミタの方を向いてきた。

 急な転換に焦りを隠せないアミタだが、イリスの方はというとさしてお構いなしに言葉を発していく。ここら辺は、見た目には分かりにくいがフローリアン家における年長組ゆえの経験の差なのだろうか。

 いや、どちらかというとこの辺は本人のちょっとした意地悪さからかもしれないが。

「事実じゃない。あと、大食らいなとこも」

 けれど、だいぶ乙女の尊厳的なものになってヒートアップしてきた所為か。はたまた普段が女所帯であるが故か。

 そこで展開は、またしても周囲を置き去りにして変な方向へと向かってしまう事に。

「そ、その分、女性らしいところに回っているから良いんですっ!」

「あ、はいはーい! それならボクもおっぱいおっきいから大人でいいよね~?」

「そういう話じゃないわよッ‼ っていうかそんな事で決まってたまるかってのぉっ!」

 一気に旗色が悪くなった(より正確には若干のコンプレックスを突かれたともいう)イリスが、そう声を荒げる。しかし、傍目に見ても形勢は、いろんな意味で既に逆転してしまっているように見えた。

「あの、ウチの姉たちがすみません……」

 キリエが、背後でやいのやいのと言い合っている妹分と姉二人に代わって謝罪を口にした。しかし、面白いのが好きなエイミィはというと、

『あははー、いいよいいよ~。むしろ楽しいからもっとやってもオーケー。ねー、クロノくん?』

『……ここで僕に振らないでもらえないか』

 なんて、完全にこの流れに乗り気で、クロノまで巻き込もうとしていたくらいであった。

「なんというか、ゴメンなさい……」

「すみません。みんな、悪気はないので……」

 結局、キリエとユーリはこちらの皆に謝りつつ、姉たちの小競り合いが明けるのを見守る他なかった。

 

 それから約一分後。

 見かねたディアーチェの仲裁(という名の制裁)によって、小競り合いは終わりを告げた。

 流石に画面越しのクロノにも、その場にいたユーノにとっても色々と困る内容に発展しそうだったので、ディアーチェの判断に口を出すと藪蛇になりそうなこともあり、心内で多大なる感謝の意を示すに留め置くことに。

 なお、ディアーチェからのお仕置きを喰らったらしい三人はというと。

「あぅぅ……いたい」

「くっ……長女ながら、不覚でした……」

「このチビ猫ども……かわいくないっ」

 と、そんな三者三様のぼやきを漏らしていたが、それを我らが闇王様(ディアーチェ)はというと「まったく、この阿呆どもが……」と言って呆気なく「反省せよ」という一言で、まとめた。

「すまなかった。話を戻すがよい」

「あ、う、うん……」

 話を振られてユーノは呆けていた意識を引き締め直して、「ええと」と口の中で言葉を発しながら、話の流れが止まった部分を思い返す。

 確か、止まったのは。

「───あぁ、そうだ。クロノ、教会側との話って……?」

『そう、例の件だ。事前に今回の件で一度連絡を取るが、君が参加するのは資料が出来たらで構わない』

 分かった、とユーノがそう返そうとしたところで、シュテルがユーノにこう訊ねてきた。

「師匠。その資料作成に、まだ手は必要ですか?」

 訊かれて、ユーノは手元の解析を行っていた資料と、先ほどアルフに頼んだものをもう一度見返す。

 エルトリア組の到着に合わせて切り上げるつもりだったのだが、今こうしているというのなら、いくらか手を借りたい。

「頼めるかな?」

「無論です。そもそも、初めは師匠の方ですよ? わたしたちの力が必要だと言ってきたのは」

 シュテルがそう応えると、他の面々も表情はそれぞれ異なりはするものの、誰もその言葉に反するものを持ってはいないことが伺えた。

「……ありがとう」

 頼もしい返答に感謝を告げると、「では指示を」とシュテルが促した。

 そこからは()()()()もので、皆あっさりと受けた指示を実行へと移し、目指すべき区画へと飛びたった。

『流石に、手慣れたものだな』

 彼女らの様子に、クロノはやや畏れを込めて、そういった。

「うん……。こうして手伝ってもらえるのは、申し訳ないけど……すごくありがたいなって思う」

『僕とて、そこに異論はないさ。これでも一応、()()()()()にも一枚噛ませてもらっている身だ。初めにエルトリアとの交流口を残すことになった時から、ある程度の覚悟は持っていたつもりだからね』

 が、クロノは『しかし』と言葉を重ねる。

『それでも、末恐ろしいと思う時もある。本当に不思議な場所だよ、「無限書庫」というのは……。そこに納められたものにしても、集う縁にしても。仮に敵に回すとしたら、正直なところ、相手に取りたくはない』

「そんなこと……」

『分かってはいるさ。昔からそういっているだろう。これでも、僕は君を買っていると』

 もちろん、そんなことが無いというのは分かっている。

 少なくとも、ユーノがいる限りは、ほぼ絶対といって良い程に。

「ならよかった。これからも全力でサポートさせてもらうよ。僕はそのために、ここに居るんだから」

『いうようになったな、フェレットもどきも』

「伊達に司書長になったわけじゃないよ、提督。この場所を守りながら、外で戦うみんなの事も支える───なら、このくらいはしないと。でないと、どっかの黒いのがうるさいからさ」

『言ってくれる。尤も、此方も君たちが応えるからこそ、託し、応えているワケだが。都合の良い字面に見えるが……まぁ、これも一つの信頼というやつだ』

「……だね」

 苦笑を交わす二人をみて、エイミィは楽しそうに「うんうん」と頷いている。

『相変わらず仲良しだねぇ~、二人とも。なんていうか、男の友情って感じ?』

 どことなく茶化す様にしてそう言われて、ユーノとクロノは示し合わせたわけでもないのに『「どこがだ/ですか」』なんて声が重なり、画面越しに互いをちょっと睨み合った。

 二人のそんな様子にますますエイミィは楽しそうに微笑む。

『あはははっ! ホント仲良しさんだ。なーんか妬けちゃうなぁ~』

「ありゃりゃ。大変だぞ~、クロノ。このままじゃ、式の前にお嫁さんに逃げられちゃうかもよ~?」

『アルフ……。縁起でもないことを』

『そーだよー、アルフ~。それにちょーっとそれはもう少しだけナイショがよかったかなぁ~……?』

「あー、まぁいいじゃん? それに、今更そんな恥ずかしがるコトでもないだろー?」

 にやっとしたアルフに、「うう……そりゃそうだけどさぁー……」と、エイミィは珍しく恥ずかしがった様子を見せる。

 しかし、いきなり上った話題ではあったが、身内では薄々その兆候は感じられていたことではある。まぁ、流石にこのタイミングでのカミングアウトというのは本意ではなかっただろうなというのは、二人の反応を見ていれば分かったが。

 なのでどう返すべきかやや迷ったものの、ともかく祝福の弁は述べるべきだろう。

 そう思ったユーノは、

「えっと……おめでとうござます、エイミィさん。クロノも、やっと決心着いたみたいだね」

『うう……ありがとー』

『……まぁ、色々とな』

 まだ少し困ったような笑みで応えるエイミィと、照れているのか顔を逸らしているクロノの様子は、長く寄り添いあっていた二人にしては随分と初々しい反応である。

 が、そこで。───いや、ここだからこそ、だろうか。

 エイミィからユーノに向け、こんな言葉が飛び出してきた。

『……というか。そーゆー、ユーノくんの方はどうなのさ』

「??? どう、というと?」

『なのはちゃんとのコト。……ホントに、何にもないの?』

 皆まで言われて、やっと合点がいった。「ああ」と、ユーノは納得をかみしめるように呟いて、自分の中にある色々を考えてみる。

「……そうですね。まったくそういう気持ちが無いって言ったら、嘘になるかもしれません。ですが、かといって今すぐにどうこう……っていうのも、あんまり」

『むぅ……まぁ、確かにまだ二十歳っていったらそうだけどさ』

 ちなみに、こういっているエイミィは御年二十六歳。旦那さんになる予定のクロノは二十四歳なので、いわゆる姐さん女房だったりする。

 しかし、二人にしてもそこまで遅いとも言えない結婚だ。年下の二人を急かすのも違うのかもしれない、と思い直しておく。

 とはいえ、

『まあ、二人とも自分の仕事が好きだしねぇ。まだ先かな、そういうの話は……。けどさー、ユーノくん? あんまりふらふらしてるのもよくないんだからね~?』

 一つくらいは忠告しておくべきだろうと思ったのか、エイミィはそんなことを言った。

 が、当の本人はというと「ふらふら?」と首を傾げている。鈍いことだ。尤もそれが思い当たる節が多いのか、それとも件のなのは同様に鈍感であるがゆえかは分からなかったけれど。

『ほら、こないだもフェイトちゃんとピクニック行ったって言ってたし』

 尤も、これ以上は考えても詮無い事なので、エイミィはさっさと話を戻そうとしたのだったが───。

『なっ……聞いてないぞッ⁉』

 ここに、どうやら事情を知らなかったらしい義兄(あに)が一人。

『おやおや? おにーちゃんには言っていなかったのかい、アルフさん』

「いやー、ゴメン。たぶんメンドクサイことになりそうだと思ったから、スルーしちゃった。フェイトから話を聞いて、さっさとコイツを送り出す方優先で」

 エイミィとアルフのやり取りから察するに、どうやらこの前アルフがユーノをさっさと書庫から蹴り出してフェイトのところへ行かせたのは、そんな経緯があったらしい。

 そういえばフェイトからの連絡をもらった後、アルフは随分すんなりと業務の肩代わりをしてくれた。もしかすると、最初からある程度流れが組まれていたのだろうか。

「まー、そう怒りなさんなって。クロノもさー、そろそろ妹離れしなよ~」

『僕はそういうのじゃない! ただこれは、義兄(あに)として義妹(いもうと)がそこのフェレットもどきと勝手に会ってたのが……その、なんだ。聴かされてなかったからであって……』

 結局、妹想いな兄である。あと、別に友人を信用していないわけではないのだが、なんというか、ちょっと外されたのが寂しかったのかもしれない。尤も、これもこれでいつものコトみたいなところがあるので、「相変わらずだなー」とアルフはほのぼのした目で見ていたのだが……。

 

「───そのお話、わたしにも詳しく聞かせていただけますか? 何分、()()なものですから」

 

 そこへ、放り込まれた火種を感知して、新たなる焔が巻き起ころうとしていた。

「しゅ、しゅてる……?」

「教えていただけますよね、師匠?」

 やましいことはない。ないのだが、なんだか怖い。

 迂闊に口を開いたが最後、消し炭にされそうな気さえした。

「あー……えっと、その……」

 言葉に詰まりながら、最適解を探すユーノ。

 そんな彼の様子を、シュテルは燃え滾った溶岩と凍り付いた凍土を両立したみたいなオーラを背負いながら見ている。

「こっちもこっちで相変わらずだなー」

『前は本人の方かと思ってたけど、こりゃあ苦労するのはなのはちゃんたちの方だったりするかもだねぇ……』

 と、アルフとエイミィが口を揃えて生暖かい目でユーノとシュテルを眺めている。

 なお、先ほどまで憤りを見せていたクロノはというと。新しく湧いた焔の勢いに押されて、口の矛先を引っ込めることに決めたようだ。

 賢明な判断であると言わざるを得まい。だんだんと勢いを増す嵐は、共に来た雷や闇を引き寄せて、やいのやいのと喧騒を増していく。

 囲われていくユーノの様子を見ていると、ふとエイミィは海鳴の方にいる友人の事を思い出した。そういえば以前、なんだか似た様な事があったと愚痴を聞いた事があったような気がする。

 たしか、兄の周りの愚痴を聞かされたのだっただろうか。……まぁ、傍らのクロノに負けず劣らずな彼女としては、それも仕方のないことかもしれないのだけれど。

(美由希ちゃんも案外引きずってたなぁ……。そーいえば、恭也(おにー)さんの方は結婚してドイツ行ったんだっけ。なんかこないだも向こう(ヨーロッパ)でひと悶着あったとか言ってたよーな)

 なお、ちょっとした騒動が起こったのは独逸ではなく英国の方ではあるのだが、それに関してはここでは割愛しておこう。

 そんなこんなで色々ある世界ではあるが、どうにか回っている。

 楽しい時間がいつまでも、穏やかに続いていけば良いなと思いながら、エイミィはそろそろお仕事に戻っておこうかと、卓盤(キーボード)を再び叩き、なのはたちの現状を確認するべく彼女らを追った画面(モニター)へと視線を移す。

 どうやら、そろそろ目的地に到着しようかという頃合いの様だった。

 

 

  5

 

 

 無限書庫がやや賑やかになっていた頃。

 なのはたちは第一六二観測して異世界の空を翔け抜けていた。

 素晴らしい速度で飛翔していく三人をモニタリングしながら、シャーリーが『皆さん、そろそろ目的地付近です』と、到着までの距離がだいぶ詰められたと告げてくれる。

 それに「了解」と三人は返して、少し速度(ギア)を上げて行く。

 このままいけば、さしたる問題もなく任務終了出来るだろう。しかし、誰もがそう思っていた、その時。

 ふと、何か不可思議な反応があった。

「……あれ?」

「どうしたんだ、シャーリー?」

「シグナムさんたちが向かった方の観測モニターが、急に……。それに、なのはさんたちが向かってる発掘地点でも、何か不自然な反応があって……」

 と、シャーリーが呟くのに呼応するようにして、モニターの中で激しい魔力反応が起こった。

 安穏とした時の波を荒立てるかの如く、何かが起こり始めていると。

 その予兆が、この舞台に揃った魔導師たちの目に、自らを焼き付けんとばかりに巻き起こる。

 

 

  6

 

 

 魔力反応の発現が観測されるより少し前。

 先行したヴォルケンリッターの面々は、二つ目の観測地点へと向かう空路を翔け抜けていた。

 とはいっても、さしたる障害があるわけでもない。

 空路を進む足取りは順調であると言って差し支えなかったが、名だたる騎士たちにはやや退屈な航路であったのだろうか。

「……しっかし、今日のはあんまし張り合いのねぇ任務だよなあ」

 ふと、ヴィータがそんなことを口にした。

 普段はそこまで戦闘狂(バトルマニア)という訳ではないが、珍しくやや不満げな口ぶりである。そして、珍し事は重なる物なのだろうか。ぼやくヴィータを、普段はどちらかというとバトルマニアの気が強いシグナムが窘めた。

「そういうな、ヴィータ。人命に関わる事態でないことは喜ばしいことだろう?」

「そりゃそうだけどさ……」

 ヴィータとて、分かっている。

 八歳程度の見た目とは裏腹に、これでも悠久の時を過ごしてきた『夜天の守護騎士』の一角を担う『鉄槌の騎士』だ。当然ながら、そのくらいの道理は弁えている。しかし、だからといって、今求めている答えはそうでないというのも確かで。

「気持ちは分からんでもないがな。私とて、偶には腕の立つ輩を相手取りたいという気持ちはある」

 と、自分にも覚えがある気持ちに同意する。

 血みどろの乱戦を望むわけではないが、闘争心というものは、往々にして平和の中においても存在するものだ。

 決して両立できないわけではないが、気まぐれに訪れるものもある。

 分かる部分も多いものの、あまり血の気の多いのも考えものだ。

「もう、シグナムったら……。みんなあんまり荒事を期待しないように。お医者さんとして見逃せんませんからねっ!」

 二人のやり取りに、シャマルはそう言って釘を刺す。

 仲間たちの命を預かる位置としては、窘めずにはいられなかったのだろう。彼女のそうした気持ちを慮ったのか、ザフィーラも重ねて告げる。

「シャマルもこう言っているのだ。あまり手を煩わせてやるな」

「……わーったよ、ザフィーラ」

 流石に、二人に言われると弱いのか、ヴィータも言葉を引っ込めた。

 勝手なこと言って悪かった、とシャマルに短く謝ると、ヴィータは一端そこで言葉を区切る。

 が、まだ少し思うところはあったようで、少し矛先を変えて話し出した。

「でもさ。実際のとこ、アタシらが此方(ミッド)に来てから五年くらい経つけど……あんまし大きい事件ってのはなかったよな」

 そう振られて、シグナムは「そうだな」と一つ頷いた。

「前にあった機械兵器の出現も、既に六年前か」

「ずいぶん経つわよねぇ……。けど良いじゃない? 平和なのは、わたしたちとしても嬉しいし。───ただ、こうして言葉にしてみると、思うところが無い、ってわけじゃないんだけど……」

「例の予言か」

 そう言われて、「ええ」とシャマルは首肯し、応える。

「はやてちゃんが騎士カリムから話を聞いた時から数えても、六年と少し……。なのに相変わらず、予言の兆候すらないっていうのは、凄く不気味だと思うの」

 確かにそうだ、と皆が思った。

 カリムの予言は、れっきとした魔法の一つ。行ってしまえば未来予測と呼ばれるものの類だ。

 故に、単なる世迷言を垂れ流すだけの紛い物ではない。本来なら、半年から五年程度の間に、予言は起こるとされているのだが……。

 しかし、未だにハッキリとした予言の兆候は見られない。

 それが変質した特異な事態であるからなのか、或いは本当に今回はハズレだったという事なのか。

 それとも、単に特異というだけではないからなのか。

 真実は、未だに誰にも読み解けてはいない。

(いにしえ)の世を継ぐ地にて───だったか。予言の書き出しは」

 ポツリと、シグナムがカリムの予言の冒頭(あたま)を口にした。

 それを「ああ」とヴィータは受けて続ける。

「〝古い世界〟って言ってもなぁ……。単純に考えればいくらでも当たるとこはありそうだしな」

「まぁ、そこはスクライアたちが調査(しらべ)を進めてくれている。もうしばらく待つ他あるまい」

「でも、ユーノのやつも随分かかってるよな。珍しくさ」

「解釈次第でどうとでも変わる、というのが『予言』の厄介なところだからな……。一度の調査で資料と推察を揃えても、他の可能性を解析から回されれば、考えざるを得ないのだろう」

 実際のところ、ユーノだけが予言の解読を行っているわけではない。

 解読自体はその専門部署がある。しかしそれも当然と言えば当然のことだ。

 資料を集め、推察を重ねてはいるが、ユーノ個人の解釈だけでは解読を完遂には至らないのだから。

 分かっていない訳ではないのだろう。

「……それもそうか」

 そうヴィータは一つ区切りを付けて、向かっていく先の空へと目をやった。時差の為か、それとも単純にこの星の特性か。昏く色を変え始めた天蓋は、少しばかり不気味にも思える雰囲気を醸し出していた。

 目的地まではもうほど近い。

「何はともあれ、今は備えておくことだ。何が起こるかわからない以上はな」

「わーってるっての───」

 窘めるようなシグナムの言葉に、口を尖らせて応えるヴィータ。

 しかし、その時だった。

「? なんだ……なんか、急に」

 何か、大きな魔力が膨れ上がる感覚があった。

 唐突に顕れた違和感に、ヴォルケンリッターの皆が足を止めた。いや、不意に起こった違和感との距離を測れなかったというのが正しいか。

 周囲への警戒を取り、後衛を務めるシャマルとザフィーラがいつでも防御に入れるように術式を走らせ、前衛のヴィータとシグナムは、(きた)る一撃を超えた先の本丸を叩くべく構えを取る。……だが、咄嗟の警戒に入った四人への肩透かしを食らわせるように、起こったそれは、彼女らへは直接牙を剥きはしなかった。

 しかし、突き立てられる牙痕の代わりに。

 大地に灼け痕を残すが如く、魔力の火柱が天高く立ち昇った。

 

「「「「な───⁉」」」」

 

 ドッ! と、四人を吹き飛ばさんとばかりに吹き抜けていく熱風を受け、どうにかその場に踏み留まる。

 幸い、熱風そのものはBJによる防御で防ぐ事は出来た。が、注目すべき部分は、そこではない。

「……言っている傍からこれか。まったく、数奇なものだな……」

 起こった現象を目の当たりにしながら、シグナムはポツリとそんなことを呟いた。

 平和な、単なる回収任務程度であった、今日の仕事は───どうやら、穏やかなまま済みそうにはなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「魔力反応……⁉ シャーリー!」

「うん、分かってる!」

 グリフィスの鋭い声に、シャーリーがそう即答した。

 ───それは、急に来た。

 なのはたちが北部観測基地を飛び立った直後。

 観測基地では、ヴォルケンリッターの向かった目的地付近で起こった膨大な魔力反応を検知。突然の事態であったが、シャーリーとグリフィスはこの状況に対応するべく即座に現状の把握に努めていた。

 そんな二人の元へ、同じく起こった何かを感じ取ったらしいあの二十歳から通信が入る。

『シャーリー、いま何か、魔力反応があったけど───』

「はい、ヴォルケンズの皆さんが向かった付近からです。確認のため、いま回線開いてます!」

 答えを返すとほぼ同時。

 シグナムたちヴォルケンリッターとの回線が繋がった。開かれた回線から、騎士たちの将の声が響く。

『シャーリーか』

「シグナムさん! よかった……皆さん、ご無事みたいですね」

『ああ、私たちには被害はない。だが……爆発の方向からすると、遺跡付近のようだが』

「それなら大丈夫です。シグナムさんたちの向かった第一発掘地点からは、既に調査員の皆さんは退避しています。タッチの差ではありましたが、数分前の報告(ログ)には全員分の退避を確認したと」

『ならばいいのだが……。ひとまず確認のため、我々は予定通り先ほどの爆発の起こった地点と、遺跡へ向かう。構わないな?』

「はい、よろしくお願いします。お気をつけて!」

『了解した』

 シグナムがそう言って通信を切った。すると次いで、なのはたちの方からの窓が開く。

『シャーリー。シグナムさんたちの方は大丈夫だったみたいだけど……』

「……はい。先程の魔力爆発の影響なのか、現在通信に一部障害が生じています。それで遅れているだけならいいのですが……なのはさんたちの向かわれている地点からは、まだ退避の報告が来ていません。調査員の方が残っておられる可能性もあるかと」

『やっぱり……』

『幸い分かりやすい魔力反応は上がってへんけど……逆にいうたら、今のとこ手がかりがないっちゅーことでもある。現場が心配や、わたしらも急がなあかん』

「お願いします」

『了解や。八神、高町、ハラオウン三名───現場へ急ぎ、向かいます』

「こちらでも引き続き観測支援(モニタリング)を続けますので、情報が入り次第すぐにお伝えします」

『うん、任せたよ。ほんなら二人とも、ここからはちょっと飛ばしていくよ……っ!』

 はやての呼び掛けに頷き、なのはとフェイトは『うんっ!』と応え、もう一段速度(ギア)を上げる。纏わりつく空気の渦を突き抜けるようにして、三人の魔導師たちは目指すべき場所へ向けて加速的に突き進んで行った。

 

 

  7

 

 

 なのはたちが第二発掘地点へ向け凄まじい速度で向かう中、ヴォルケンリッターの面々は一足先に第一発掘地点へと到着していた。

 彼女らがこの場所へ至り、初めに目にした光景は、深く地を穿った巨大な孔であった。

 

「……これは、魔力の暴走とみるべきか?」

「ええ。けど、その原因が何なのかまでは、きちんと調査をしないと断定出来ないわ」

 現場を見ながら、シグナムとシャマルは互いの見解を交わす。しかし、彼女らとしても、大方の原因は想像がついていた。

 ここにあったロストロギア───『レリック』は、膨大なエネルギーを秘めた魔力の結晶体だとされている。そして、星において他に魔力が暴走する要因は、ほぼ無いと言っていい。必然的に、原因は絞られる。問題なのは、それが自然的なものかどうか、という事だ。

「……にしても、ひでぇな、こりゃ」

 焼け野原と化した目の前の光景を眺め、ヴィータは淡々とした声を漏らした。

 広がる、色を無くした景色は、酷く空虚である。まるで、古めかしい一枚の写真を見せられているかのようだ。

 それは、旧き時代の彼女たちの戦っていた戦場を思い起こさせるものだった。

「…………」

 それ前にして、やや険しくなった表情を覗かせるヴィータの背を、シグナムはポンと叩いた。

「おわっ───な、なんだよ、シグナム……」

「なに、怖い顔をしていたお前が心配でな」

「……うるせーなぁ、この顔は生まれつきだっての」

 固まりそうになった空気を解しながら、シグナムはシャマルの方へ視線を戻して、周辺への調査魔法を走らせるように頼んだ。

「了解」と朗らかに応え、シャマルの新緑を思わせる鮮やかな魔力光が枯れた大地に煌めいた。その情報をアースラと無限書庫の方に転送してくれるようにシャマルが観測基地の二人へ伝えたところで、シグナムはヴィータへこういった。

「そう気を張るな。片を付けるのはもちろんだが、久々の合同任務だ。なんら憂う事もあるまい」

「……ああ、アタシらが揃ってんだ。どんなのが来ても、そうそう負けたりなんて」

「その意気だ。この後の同窓会にいけば、イリスたちとも会える。この間も、メールではあったがやり取りをしていたな。楽しみなのだろう?」

「ふんっ、勝手に見てんじゃねーですよ」

「すまなかった。では、さっそく仕事に戻るとしよう。状況は、いつ変わるともしれないからな」

「応よ」

 そんな言葉を交わしながら、二人は現場検証の方へと回っていった。

 

 一方その頃。

 現場からの情報を受け取ったアースラでは、先ほどから繋いでいた無限書庫との通信に引き続いて、更にもう一つの回線を開いていた。

 

 

  8

 

 

 第十二管理世界。

 ミッドチルダからさして遠くないこの世界には、ミッドとは所縁の深い『ある組織』の支部が置かれている。

 

 かつて、次元世界の覇権を握っていた旧世界・ベルカ。

 ミッドチルダの祖となった世界の一つであり、恐らく旧時代においては、次元世界における覇権を握っていた強大な世界であった。しかし、現在では世界そのものは既に滅亡しており、滅亡してからかなりの時間が経過している。ミッドチルダの成立よりも前の時代である為、俗に古代と称される程度には、ベルカは旧い世界だと言って良い。

 だが、魔法体系などの面から色濃く影響を遺しており、ミッドの一部には、今でもベルカの自治が行われていたとされる区域が残っている。

 古代ベルカの強大さは疑う余地もなく、後世にも響き渡っている。けれど、歴史というものは、華々しいだけでは成り立たない。

 ベルカは、一つの『国』という単位では成り立っていなかった。

 幾人もの『王』が乱立し、領地(だいち)資源(みのり)を争いながら、長い長い戦乱を繰り返し続ける。

 何者よりも強く、どの国よりも強く在れと。

 力が大地に血の痕を刻み、また同じように血を贖わせるべく力を求める。終わらぬ戦に明け暮れ、哀しい連鎖に囚われ続けた、荒れ果てた世界だったのである。

 この騒乱の地に置いて、誰よりも名を馳せた人物がいた。

 それが、『聖王・オリヴィエ』である。

 血みどろの争いに包まれたベルカを(おさ)めたと伝えられる、気高き王。長い戦乱に終止符を打った存在として、半ば神格化にも等しい伝えられ方をしており、()()を祀った宗教組織も存在している程だ。

 

 その宗教組織というのが、ミッドチルダ北部地区に本部を置く、『聖王教会』と呼ばれる宗教組織である。

 

 尤も、宗教組織と言っても、カルト的な独立団体という訳ではない。むしろ宗教組織としては戒律の類はさほど厳しくはなく、次元世界に点々と置かれた教会は、信仰の有無に関わらず門を開き、若い夫婦の契りの場を設けるなど、次元世界において広く人気を博している。……余談だが、クロノとエイミィの挙式も、此方の系列で執り行われるのだそうだ。

 話を戻そう。

 では、この組織のそもそもの目的とは何か。

 大本が滅び去ったベルカに置かれているため、実は原初の事柄については明らかにすることが出来ていない。

 ただし基本的には、『聖王』が為した平和を尊び、結果的にベルカが回避する事の出来なかった滅びを齎した過ぎた力の調査、保守を使命としている。

 この目的の合致から、管理局とも密接な繋がりを持っており、長い歴史により数多の次元世界に置かれた教会からロストロギア関連の情報を共有し、協力して次元世界の秩序維持を行っている。

 そうしたことから、管理局と提携して事件に当たる事も珍しくはない。

 今回クロノたちが受けた任務にも、教会側の協力を得た部分が多くある。クロノとエイミィが通信を繋いだ本題は別件であるが、今回の任務に協力してもらっている部分も大きい為、その報告も兼ねている部分もあった。

 繋いだ先は、第十二管理世界。そこに置かれた聖王教会支部、その中央聖堂へ向けたものである。

 

『───以上が、現場からの情報です。片方は現在三人が確保に向かっていますが、此方の方は発掘現場ごと消失(ロスト)してしまいました。ですが、引き続き爆発現場の調査を行ってもらいますので、後ほど詳細を報告させて頂きます』

「……クロノ提督。現場の方々は、ご無事でしょうか?」

『ええ。現地の発掘員たちにも、此方の魔導師たちにも被害はありません』

「そうですか……よかった」

『教会側の協力で、第一発掘地点(ポイント)の避難が迅速に済んでいたのが幸いしました。ありがとうございます、騎士・カリム』

 クロノからの説明を受けて、金色の髪をした女性───騎士・カリムと呼ばれた彼女はホッとした表情でそっと胸を撫で下ろした。

 彼女は聖王教会でも有数の、騎士の位に就いた優秀な人物であり、またはやてとも懇意にしており、そこからの関係でクロノたちとも親しくしている。今回の任務では、教会側からの協力という形で、発掘後の対応の幾らかに関わっている。

「危険な古代遺失物の調査と保守は、管理局と同じく『聖王教会』の使命ですから。名前だけとはいえ、私は管理局の方にも在籍させて頂いていますし。

 教会(こちら)記録(データ)では、『レリック』は無理矢理な開封や、魔力干渉をしない限り暴発はないと思われますが、現場の皆さんに十分気をつけてくださるようお伝えいただけますか」

『はい。それでは……』

 短く通信を終えて、改めて「ふぅ……」と息を吐く。

 ハプニングもあったが、一先ず事態は収束しつつあるようだ。もとより、はやてたちの力を疑ってはいない。

 しかし、やはり諸手を挙げて……という訳にもいくまい。何せ今回の件には、教会側のよく知る古代遺失物の、『レリック』が関与している。

 クロノに説明した通り、少なくとも単体ではそこまで危険性はない。

 だが、魔力の暴走なのか、爆発を起こしていしまってもいる。そうなると、やはり心配は残ってしまうのも仕方がないことだろう。

「騎士カリム。やはりご友人が心配でしょうか?」

「シャッハ」

 そんな彼女の意を汲んだのか、カリムの傍付きであるシスター・シャッハがそう声をかける。

「よろしければ私現場までお手伝い伺いますよ。非才の身ながら、この身を賭けてお役に立ちます。クロノ提督や、騎士はやてはあなたの大切なご友人。万が一のことがあっては大変ですから」

 非才とは、また謙虚な事だ。

 シャッハの気遣いを心強く思いながら、カリムは「ありがとうシャッハ」と言って、「でも平気よ」と続ける。

「確かに心配だけれど……はやては強い子だし、今日は特に祝福の風(リインフォース)はもちろん、守護騎士たちも一緒で、はやての幼馴染の本局のエースさんたちもご一緒だから……」

「それでは、私の出番はなさそうですね。今日は大人しくあなたの傍についているとしましょうか」

 幾らか心配の抜けたカリムに微笑みを向けて、シャッハは「次の通信が来るまで間もあるでしょうし、お茶でも淹れてきますね」と続けた。

 そんなシャッハに「うん、お願い」とカリムもまた、笑みで応える。

「畏まりました。では、せっかくのお天気ですし、もう少ししたら中庭(テラス)の方へ来て下さい。騎士カリム」

「ええ」

 やや肩を竦めたカリムにシャッハはそう応えて、聖堂の外にある給湯室へと向かっていった。

 元々無かった人気が更に失せ、聖堂はしんと静まりかえる。

 そんな中で、カリムは一人想い願う。せめて、人々の命が失われる事がない様にあって欲しいと。

 穏やかな陽光の中に包まれながらの祈りは、何処かに偽りを含んでいるかも知れない。けれど、願う想いにはウソはない。

 ただ、何処にでも駆けつけ、全てを守るなど出来ない。

 当たり前の理の味を苦く噛み締めながら、一つ息を吐いてカリムまた聖堂を後にするのだった。

 

 

  9

 

 

 アースラと聖王教会での通信が交わされる中、なのはたちは第二発掘地点上空へと足を踏み入れていた。

 しかしそこには、

 

「───機械兵器(ガジェット)……ッ⁉」

 

 なにやら、あまり好ましくない来客があった。

 突然に出現した機械兵器。

 発見が確認されなかったのは、あの機体たちの持つ何らかの妨害機構の所為だろうか。そのあたりは詳しく調べてみないと断定はできないが、その光景は、否応にもかつてのそれと重なって見えてくる。

 ちょうど六年前。

 演習中のなのはやヴィータを襲った時と、現状は非常に酷似していた。

 重なるのは偶然か、それとも。

 しかし、今は考えている暇がない。此方が二つ目であるからか、残っていたらしい局員の姿が見える。あのままでは、

「はやてちゃん、フェイトちゃん。わたしが救護に回る。だから、」

「分かってる、遊撃は任せて。はやてとリインは上空から指揮をお願い」

「うん。ほんなら……」

《はいですっ! 広域スキャンによる逃げ遅れた人たちの補足と、敵性無人機の殲滅補助。両立して見せるですっ!》

 と、フェイトとはやて、リインは、なのはの声に当然とばかりにそう応えた。

 返って来た仲間たちの頼もしい返答に思わず笑みを零しながら、なのはも「うん!」と改めて首肯する。

 不測の事態ではある。だが、恐れなど微塵もない。あとはただ、護るべき戦いを、全力で行うのみ。

「……行くよっ!」

 指揮を執ったはやての声を皮切りに、三つの『了解‼』という声が重なり、一斉に彼女らは其々の役割を果たすべく動き出した。

 まず行うべきは、局員たちの安全確保。

 なのはが張った『プロテクション』が眩い桜色の光を放ち、強固な防護膜を形成する。

 守りが固まった事を確認し、フェイトが複数の射撃魔法を発動させ、機械兵器を撃ち落しにかかった。

《Plasma Lancer.》

「───ファイア……ッ!」

 愛機の発動句(ガイダンス)に次いで、フェイトが射出指令を告げる。

 すると雷を纏った光球から、稲妻の槍が閃光もかくやとばかりに迸り、機械兵器たちを撃ち抜いていく───。

 かに見えたが、

「⁉」

 敵へ当たるかどうかと言ったところで、()()()()()()

《Sir, Searched jammer field.》

「AMF……でも、こんな高出力なのは……」

 これまでにもAMFの存在自体は確認されていた。以前の襲撃の際にも、機械兵器がAMFの発生器を搭載しているのは判っていたのだが、ここまで高出力なものは確認されていない。それも、最初から───というわけではなさそうだ。

 魔法を放ったフェイト自身、手加減したつもりはない。だというのに、魔法が消されてしまった。どうやら、此方に検知されない程度に、出力を変える事が出来る様だ。

 何処までが上限か分からない以上、下手に魔法を撃っても意味がない。

 あのフィールドは、かつて戦った『フォーミュラ』の様に魔法で発生したエネルギーを分解したり、或いは術式を解析して解除しているのではない。

 AMFの名の通り、魔力素の結合を阻害するものである。

 エネルギーの塊を粉々にするのではなく、結びつける楔そのものを消し去って非活性状態に戻す、といえば判り易いか。要するにあのフィールド内に置いては、魔法はその効果を失い、魔力の結合が阻害され、内側では魔法が発生させることさえ出来なくなってしまう。

 しかし、対処法自体はそれほど難しくはない。そも、たった一つで無敵を得られる技術など、この世界にはまず存在していないのだから。

 以前、『フォーミュラ』と戦った際に受けた改修は、質量兵器に寄り過ぎたと更なる改修が施されて、いくらかの制限が設けられている。尤も、完全に外されていない為、今でも使用することは出来る。

 そもそも、単に対処というだけなら、手段は他にもある。

 AMFは確かに『魔法を無効化』する。しかし、それはエネルギーを消しているわけではなく、魔法というカタチを崩しているだけだ。『フォーミュラ』の様にエネルギーそのものを分解して霧散させているわけでもなく、加えてヴァリアントシステムの如く無機物を変形させる事も出来ない。

 そう。つまりAMFは、フィールドの外で発生した魔法で起こされた物理的なエネルギーや効果を消すことは出来ないのである。

 故に、こと戦闘に置いては、フィールドという枷に囚われたAMFは、『フォーミュラ』には劣ると言って良い。

 であれば、

「バルディッシュ」

《Yes, Sir.》

「レイジングハート」

《All right, My master.》

 なのはとフェイトの声に従い、デバイスたちは即座に担い手たちの望む魔法を自らの機体へと奔らせる。

 瞬間。天に放った雷が轟き、大地の岩が砕かれ舞い上がる。

 そして、

「スターダスト……!」

「サンダー……ッ!」

 力を籠めるようにして、言葉を紡ぎ、なのはとフェイトは、それぞれが発動させた魔法を解き放つ。

 

「「───フォールッ‼」」

 

 末句が揃うと同時、二人の魔法が機械兵器の躯体を粉砕した。

 AMFは、ここにおいては効果を発揮しなかった。何故か、といえば単純な話で、AMFは魔法の結合を阻害する術式である。つまり、魔法を消せても、魔法によって発生した通常の物理的現象は消す事が出来ない。なのはたちは、その性質を逆手に取ったのだ。

 しかし、相手側もまた、ただやられるだけではなかったらしい。

 幾らかの躯体は二人の魔法の範囲から逃げ出しており、自身らの不利を悟ったかのように後退を始める。

 が、それを許さないものが一つ。───否、正確には二人か。

「逃がさへんよ……!」

《行くです! ───凍て付く足枷(フリーレンフェルッセン)ッ‼》

 上空から状況を確認していたはやてとリインの放った魔法が、氷結の力で以て躯体を完全に凍り付かせ、拘束する。

「ナイスや、リイン♪」

《これなら解析に回す時もばっちりですっ!》

 融合している状態ではあるが、得意げに胸をハッキリと分かる声色で応える末っ子に、はやては穏やかな笑みを溢す。

 これにて、此方の現場における機械兵器の対処は完了した。

 それを受けて、観測基地にいるシャーリーとグリフィスは一つ目の事態が解決したことに「よし」と拳を握る。

 ───が、喜びを得たのも束の間。二人の元へ、すぐさま次の報せが舞い込んで来た。

 シグナムたちのいる第一発掘地点にも、なのはたちの元を襲ったのと同系の機械兵器の出現が確認された。急ぎ二人はヴォルケンリッターの面々へと通信を繋ぐ。

 

『こちら観測基地。先ほどと同系と思われる機械兵器の出現を確認! 地上付近で低空飛行しながら、皆さんの居る地点を通る進路(コース)で移動中。高々度飛行能力があるかどうかは不明ですが、このままいくと、なのはさんたちとも当たりますね。このことから察するに……狙いはやはり、護送中の「レリック」かと』

「まぁ、そう考えるのが妥当だな」

 シャーリーの言葉に肯定の意を返しつつ、ここからどう動くかを思考する。

 少なくとも、あの三人とかち合って機械兵器の側に勝機があるとも思えないが、ここは順当に行くべきだろう。

「了解した。では、二手に分かれる。シャマルとザフィーラは主はやてたちの方へ行き、守りについてくれ。私とヴィータは、機械兵器(ヤツら)の方を叩く」

「分かったわ。二人とも、気をつけてね?」

「あまり逸りすぎるな」

「おーよ、わーってるって」

「ああ。───では、行くぞ!」

 

「「「了解ッ‼」」」

 

 観測地点から飛び出していく四つの影。

 今の魔導師たちだけに技を振るわせてばかりはいられないとばかりに、古の騎士たちが、この世界でも舞い踊るべく技を振るいに掛かる。

 

 

  10

 

 

 ほどなくして、ヴォルケンリッターが第二発掘地点を発ち、機械兵器と接敵した。

 けれど、そこに苦戦の色など微塵も見えない。先んじたなのはたちの戦闘からAMFを持っている事は割れている。加えて古代ベルカ式の担い手たる騎士たちは、魔導師よりも物理的な戦闘を行う。

 『アームドデバイス』と呼ばれる、明確に武器の特性を写し込んだデバイスたちを振るう様は、まさしく騎士のそれである。魔法によって強められた武技は、剣や槌を模したデバイスによる斬撃や打撃によって機会兵器質を粉砕していく。

 その様子を、軌道上のアースラで頼もしげに観測(モニタリング)していたクロノとエイミィだったが、次第にクロノの表情が陰りを帯びていた。それに気づいたエイミィはどうしたのかと訊ねると、彼女に対しクロノはこう返す。

「……この後のことを、考えていた」

 短かったが、伊達に長年コンビを組んでいるわけではない。

 彼の意図を、エイミィはそれだけで汲んだのだろう。「ああ」と、彼女もまた多くは語らずに応じる。

「けど、指揮官がそんな難しい顔してると、現場にも伝わっちゃうよ?」

「分かってる。けど、難しい顔にもなるさ。前回の出現に引き続き、こうも魔法に対する技術が露見していればね」

「まぁねぇ……」

 そういって、二人はもう一度画面のほうへと目を移した。

 戦況は好調といって差し支えない。死傷者はおらず、第二発掘地点での()()を除けば、今回の任務の運びは一見して順調といえるだろう。

 しかし、AMFという技術が、一線級の魔導師たちにも通じるレベルで実用化がされようとしている───この事実だけは、目を逸らすわけにはいかない。そして、それを操っている何者かがいることも。

「だがあのレベルなら、今のところまったく対抗できないわけじゃない。地球での事件以来、〝魔法に対する技術を持つ敵〟という想定は局内でもされてきた。……尤も、あのレベルで敵側が()()()()()()()()()だが」

 これから、新たな事が起こるとしたなら。

 起こる事件に対して、どれだけの人員や装備が要るのか。揃えられたとして、それらをどのように動かすのか。

 そもそも、動き出せるまでにどれだけの時間が掛かるのか。

 考えて行けば切りが無い。とりわけ、『魔法』という技術に依存している世界であれば、なおさらに。

「指揮官の頭の痛いところだね……」

「そのあたりは、僕らだけじゃない。どこの部隊でも行き当たる命題だ」

「だね……。けど、そういう意味では、今回の事件で手に入ったのは、前の時と併せて、本局とか地上本部との交渉材料にはなるんじゃない?」

「それは……そうなんだがな」

 クロノの抱える命題は、管理局全体の抱える問題でもある。

 管理局は、万年人手不足に悩まされている。管理世界には魔法を使える人間は数多くいるが、魔導師としての力は、才能に依存する部分が大きい。その為、安定して優秀な魔導師を保持し続けることは、非常に難しいのである。

 魔法は、優れた技術だ。これだけは間違いない。

 非殺傷設定という特異な性質を持つ魔法は、こと生命を相手にする場面において、こんなに便利なものは他に類をみない。制圧を試みるにしても、魔法による制圧と質量兵器による制圧では、出る被害には決定的な差がある。

 あの『フォーミュラ』でさえ、この点は完全に解決はしていない。

 とはいえ、これだけで魔法が全てにおいて秀でていると言うわけではなく───もちろん、魔法にも欠点は存在している。

 才能に依存することや、対抗する技術が存在すること。質量兵器による対抗にしても、全く不可能ではないという点も挙げられる。

 けれど、それでも魔法が次元世界で廃れないのかと言えば、そうではなかった。

 どれだけ欠点を突きつけようと、幸か不幸か、次元世界はそのバランスを保ち続けてしまった。……いや、そうなるように創られたというべきなのかもしれない。

 古代ベルカの諸王時代から、世界はそこまで軸を変えていないのだ。

 強者の元には強者が集う。それは戦乱においても、背中合わせの秩序においても、何も変わらない。

 時代ごとに顕れる英雄が、そういった不条理を覆してしまう。

 それもまた、魔法の持つ歴史の一端である。世界はそうして破滅と再生を繰り返して、今へと至る。

 言ってしまえば、これもまた時代の流れなのかもしれない。

 やがて滅ぶべき世界の抱える矛盾という、ヒトが突き当たる壁。ただ、それだけのことだと受け入れてしまえば───と、考える者もあるだろう。

 しかし、それだけで諦めがつくほど、ヒトは賢い生き物ではなく。

 時代ごとに、己のあるべき場所で藻掻き足掻くような、そんな切ない定めを背負う、哀しい生き物。

 が、だからこそ先の世へ希望を(いだ)けもする。

 ただ安寧を求めるだけでも、絶望に浸るだけでもない。いつかへの夢を持てるものであるがゆえに、そんな矛盾を、明日へと繋げて行けるのだから……。

 結局、すべてを変えるのは容易ではない。同じように、何かに挑むことは簡単ではないのだ。

 これまでも、これからも変わらない。

 そして、だからこそ。

「大丈夫だよ、クロノくん」

 と、エイミィはクロノにいった。

「みんな、何とかしてきてるんだもん……。なら、これからだって変えていけるよ。だから今は、みんなにお疲れさまって、笑顔で迎えてあげよう? 今すぐになんて、変えられないんだから」

 もしかすると、それは酷く夢想的なものだったかもしれない。けれどその言葉に、クロノは短く「そうだな……」と頷いた。

 こんな筈じゃなかった───そう思える事柄は、世界にいつだって存在している。それを何とかするために足掻く道を選び、ここまで来た。それもまた、いまさら揺らぐものではない。

 なればこそ。

 今は先へ進むために、今出来る事を全力でするとしよう。

「エイミィ、ユーノに繋いでくれ。資料が揃っている様なら、もう一度聖王教会の方に」

「オッケー」

 やっといつもの調子に戻ってきた二人は、収束していく事態に合わせ動き出す。

 操作に合わせて何気なく目を向けると、仲間たちを捉えた画面の先では、機械兵器たちの大半を撃墜した様子が映し出されていた。

 一旦の終わりが、すぐそこに迫りつつある。

 掻き乱された水面に浮かんだ波紋は薄れ始め、次第に元の静謐さを取り戻し始めていた。

 

 

  11

 

 

 聖王教会・中央聖堂。

 そこでは、束の間の休息を終え、テラスから戻ってきたカリムたちが、クロノからの通信を受け取っていた。

『護送隊とレリック、先程本艦に収容しました。残念ながら、爆発地点からはレリックやその残骸は発見出来ませんでしたが……』

「お気になさらず、クロノ提督。事後調査は、聖王教会の方でもいたしますので」

『確保したレリックは、厳重封印の上で、自分が本局の研究施設まで運びます』

 そうクロノが言ったところで、「その件なんですが……」と、カリムが何かを思い出した様に口を開いた。

 何だろうか、と返答を待ち構えていると、カリムはこう続けた。

「此方から『警護員』が一人、そちらへ向かっています。ご迷惑でなければ、ご一緒に運んで頂ければ……。併せて、例の件も彼の方に直接お話し下さい。ユーノ司書長もそちらに出向かれるそうですから、通信を介するよりも確実かと」

『ああ……はい』

 やや予想の斜め上を行った追伸に、生返事を返す。

 確かにロストロギアを運ぶなら、人員は多くいた方が良い。聖王教会の側の協力を得られるのも、決して悪いことではないのだが……いきなりであったからか、カリムの話を聞いていたクロノとエイミィは、思わず顔を見合わせていた。

 カリムはそんな二人を楽しそうに眺めており、クロノたちはますます彼女の意図を図りかねて首を捻る。

 無理もない。重要な件を話す心算(つもり)でもあったのだ。困惑は覚えてしかるべきだとも言える。故に誰が来るのか訊ねようかとも思ったのだが、カリムの方からは「大丈夫ですよ、会えば直ぐに分かりますから」と、楽しげな様子のまま告げて来た。

 そのまま「今度の式では、二人の門出を告げる役をしっかりと務めさせて頂きますね♪」と言って、通信を終えた。……一応、クロノやエイミィと同じか、少し年上のハズなのだが、こういうところはうら若い悪戯娘の様である。

 しかし、仕事はきっちりとこなすタイプだ。そも、カリムは管理局にも少将としても席を置いている。実績から言っても、いい加減な事はする質ではない。信用には足るか足らないかで言えば、間違いなく前者だといえる。

 結局いくらかの疑問は残しつつも、クロノは早速その警護員とやらに会いに向かうことにした。

 するとまるで図ったかの様なタイミングで、アースラの出入口(エントランス)から程近い応接室に着いているとの連絡が来た。なんだか遊ばれている様な気もしたが、そこへ赴いてみると、ここまでの疑問は呆気なく晴れた。

「やぁ、クロノくん。久しぶり♪」

「ヴェロッサ! 君だったのか……」

 (にこ)やかに片手を挙げて、そう挨拶してきた彼は、カリムの義弟にして、クロノの友人でもあるヴェロッサ・アコースだった。

 僅かばかりの驚きを覚えつつも、これで先ほどまでのカリムの楽しげな態度(ようす)にも合点がいった。どうやら彼女も、此方で同窓会をやっているという話を知っていたらしい。せっかくの趣向(はからい)だ、ここは旧友との再会を得られたことに肖るとしよう。

 旧友との再会に笑みを浮かべ、クロノはヴェロッサと握手を交わす。

「先の調査行以来だね」

「ああ、元気そうで何よりだ。しかし驚いたよ、まさか君が来るとは……」

「その点については義姉(カリム)に感謝だね」

 ヴェロッサはそういって、応接室の卓に置かれていた紅茶を口へ運び、続ける。

「カリムが君たちを心配している、と言うのもあるんだけど……本音を言えば、面倒で退屈な査察任務より、気の合う友人と一緒の気楽な仕事の方が良いなってね」

 局員とはしてはあまりにも軽い物言いだが、嫌味に感じるところはなかった。

 普段は堅物と呼ばれがちなクロノにしても、「相変わらずだな、君は」と苦笑するに留め置かせているのは何も旧友だからというだけではない。ひとえにそれは、この軽さと本人の実力がまた別物だという確かな事実があるからだ。

「そうしていると、局でも名の通ったやり手とは思えないから、返って怖い」

 そう。彼もまた、義姉であるカリム同様、管理局に席を置いている。

 彼がついているのは、一般組織や施設を調査し、不正を発見することを仕事(おも)とする査察官と呼ばれる役職だ。

 これは、調査能力・対人交渉に優れた者が配置される役職で、言うなら管理局側の諜報員のようなものである。

 とはいえ全員が全員そうであるという訳でもなく、単に各世界の局の支部を査察する管理職的な部署もあるが、ヴェロサの就いているのは前者の方だ。そして、裏と表の橋渡し役ともいえるこの役職は、管理局の中でもかなり特殊な部類───有り体に言えば、曲者揃いの部署というべきか。

 そんな場所で優秀であるがゆえに、彼自身もそれなりに曲者ではある。が、本人としてはそういった認識には不満があるのか、「こっちが素なんだけどねぇ……」と溜息を交えることも。

 しかし、やはり彼もまた貴重な人材であることに違いはない。

「君と、君の義姉君(あねぎみ)である騎士カリム。それにはやてを加えた三人は、局内でも貴重な古代ベルカ式の継承者で、有用で重要な稀少技能(レアスキル)保有者。その上、それぞれの職務でも優秀だ」

 そうクロノが言及するも、やはりヴェロッサは「確かにカリムは優秀だし、はやては色々凄い子だけど、僕は別さ」とかぶりを振って見せる。

「謙遜を」と、クロノは軽く笑みを見せるが、あまり掘り返しすぎるのも好ましくはないというのもわかってはいる。ひとまずそこでいったん話を区切ることにして、クロノはヴェロッサにこう言った。

「ともかく君が警護に就いてくれるなら心強い。出る前に、はやてたちにも声を掛けるか?」

 せっかく来たのだから、と思ったのだが、ヴェロッサは「ああ、それなら大丈夫だよ」と、のんびりとした応えを返す。

「お土産はもう届けてあるからね」

「?」

 お土産が何を指すのか分からなかったが、どうやら応接室に来るまでに何かをしてきたらしい。

 義姉同様、こういうところは悪戯っぽいなとクロノは思う。

 さて。随分と雑談を挟んだところで、そろそろ本題に入るべきではあるのだが、肝心要の人物がまだここへ来ていない。エイミィの方から、既にアースラヘ向かっているとの報せはあったのだが……。

 と、件の悪友を浮かべてみれば、ちょうどこちらも到着をしたらしい。

 小さな資料入れ(ポートフォリオ)を抱えて、ユーノが応接室を訪れた。

「ごめんクロノ、遅くなった……って、あれ? アコース査察官?」

 部屋に入ってきたユーノは、見知った顔がいることに驚いた顔を見せる。無理もない反応だが、ヴェロッサは相変わらず飄々とした風に挨拶を返していく。

「やぁ、お久しぶりです。ユーノ司書長」

「少し遅かったな、ユーノ。何あったのか?」

「いや、大したことは何も。シュテルたちをみんなのいるレクリエーションルームに送ってきたから、少しね」

「なるほど。ああ、そうだ。例の話し合いは、騎士カリムの代わりに、ヴェロッサが同席することになった。構わないか?」

「それはもちろん。いきなりだから、少しは驚きましたけどね」

「そこは、僕の義姉の方に。ま、これもちょっとした趣向というやつですよ」

 なるほど、とユーノも話の流れで、なんとなく事情を察したようだ。

 理解が早くて助かるとクロノは一つ息を吐き、早速例の話し合いの方へと移行するようユーノに頼む。

「それでは、ユーノ。来て早々で悪いが、現時点までの報告を頼む」

「うん、わかった」

 持ってきたらしい資料と合わせて、ユーノは現時点までで判明したことを二人へ語っていく。

「ひとまず例の〝預言〟について、今のところ最も有力なものを挙げていきますが……解読班の方では、まだ別の解釈についても調べを進めているので、そのつもりで」

「ああ」

「わかりました。で、今のところ最も有力な解読は、なんと……?」

 ヴェロッサがそう促すと、ユーノは「ええ」と応えて、続ける。

司書陣(ぼくら)の推測が正しいのだとしたら───〝預言〟はやはり、古代ベルカに由来しているものではないかと考えています」

「その根拠は?」

 問われ、短く「こちらを」と応えると、ユーノは手元にあった資料を出すと共に、宙に画面を表示させる。

 出された資料には、以前ユーノとはやての訪れた遺跡の写真が。

 映し出された画面には、カリムの預言の文面が浮かび上がっていた。それらを指し示しながら、ユーノは続けて語っていく。

「変質前の預言と、変質後の預言。それぞれの預言には同一の言葉がいくつか見られます。

 一つは〝旧き結晶〟、もう一つは〝彼の翼〟……そしてこれらは、前後にある単語に深い関わりを持っているように解釈できます」

「───『王』、ですね?」

「はい。〝死せる王の下〟というのが最初の預言に書かれていた文脈でしたが、変質後の預言には、明確に『王』という言葉が二度出てきます。この事から、〝彼の翼〟とは、その『王』に関連する代物であると推測するのが自然かと。とりわけ、今回発見された『レリック』のこともあります。

 『レリック』に関わるもので、かつ〝翼〟と表現できる何か。僕らはそれを、古代ベルカの諸王時代に存在していた巨大戦艦───〝聖王のゆりかご〟なのではないかと、考えています」

「……やはり、そうですか」

 ユーノの言葉に、飄々とした態度を顰め、ヴェロッサは険しい表情で短く呟いた。

 とはいえ、ここまで薄々感づいていたことではある。問題なのは、これがどの程度ありえるかという点だ。

 ……そう。この推測自体は、元から可能性の一端として存在していたものだ。

 けれど、あくまでも可能性に過ぎないとされていた。───否、それどころか優先度的には、かなり低く設定されていた事柄だったと言っていい。

 何故か? と問えば理由は単純なもので、これらが存在する可能性が極めて低いからだ。

 『レリック』はもちろん、『ゆりかご』に至ってはベルカから伝わる御伽噺に登場する代物。ミッドチルダの人間であれば、主だった認識としてはそんなところだろう。しかし今回の任務において、その前提が覆されてしまった。

「『レリック』が発見されたことで、少なくともアレが『稼働するロストロギア』だという事が確認されてしまった以上……可能性は、高まったと言っていいと思います」

 続けられた言葉に、クロノとヴェロッサの表情は険しさが増していく。

 だが、やはり疑念を完全には拭えない。使用されたという記録こそあれ、この二つは、やはり神話(くうそう)に近しい代物なのである。

「……しかし、本当にあるんでしょうか? あんなものが、現実に蘇るなど……」

 だからこそ、疑念は尽きない。ヴェロッサの問いかけは、非常に自然なものであったといえよう。

 が、それに対して「無い、とはいえません」とユーノは応えた。

 調べたユーノをして、断定は出来ない。けれど同時に、否定もまた、出来ない。

 『レリック』が稼働している以上、そもそもが謎の多い『ゆりかご』が動かないなどとは、断じることが出来ないのだ。

 信じるか否か、それさえも難しい。が、それでも可能性だけは依然と存在し続けているという、非常に厄介な代物なのである。

「あまり考えたくはないが……。ユーノ、その解釈が合っている可能性は、見積もるとどの程度に?」

「正直、それもあんまり……かな。古代ベルカにおいて使用された記録こそ残っているとはいえ、実在が確認されているわけじゃない」

 そう前置いて、「けど」、とユーノは続ける。

 眉唾に等しいとはいえ、記録がある。それも、神話級の伝承へと昇華されるほどの結果を残して。

 本当に動くのなら、その力は計り知れない。

 そして、『ゆりかご』の最終消失地点とされているのは、現在の次元世界の要であるミッドチルダ———旧ベルカ統治にあった地帯の上空なのである。

「つまり、伝承に残っているそれが……今もなお、存在しているのなら」

 というよりも、預言に記された事柄を踏まえて考えるのであれば。

「何者かが起動させることができたとすれば、ミッドチルダ───それどころか、次元世界を根底から揺るがす脅威に成り得る、と……?」

「ええ……」

 ヴェロッサの問いかけに、ユーノが短く応じた。

 返された肯定を受けて、軽い眩暈に襲われそうになる。そしてそれは何も、古いモノが動きだす可能性があるということだけではない。

 またそこから、ある事柄を浮かべるのが容易いからでもある。

 記録通りなら『ゆりかご』は、全長数キロに及ぶ超巨大な空中戦艦。しかも、戦乱期におかれて武力開発が推し進められていた古代ベルカですら、『ゆりかご』の力は、ロストロギア級であるとされていたほど。

 こんなものが『ミッドチルダ』に、時空管理局の一番目の届くところにあったのなら、見つかっていないのは不自然だ。

 が、仮に。

「もし、今でもゆりかごが存在しているというのなら……こんな巨大な代物(モノ)が見つからない理由があるということになる」

 で、あるならば。

 それは、

「誰かが隠している、極めて大きな……現実的な、財力や権力を持った何者かが」

「……そういうことになります」

 ゆえに、この可能性を信ずるのなら。

 それは、管理局に並ぶレベルの何かがある、ということを認めることだ。それどころか預言の文言を思えば、それらは管理局というシステムそのものを瓦解させる可能性を孕んでいる。

 紐解かれた可能性の重さに耐えかねて、場に沈黙が落ちた。

 話の区切りに至ったにも関わらず、三人の裡には、見出された可能性が重く圧し掛かっていた。

「……途方もない話だな」

 その重しを載せた様な深い息を吐きながら、クロノは誰ともなく呟いた。

「気持ちは分かるよ、クロノくん。僕も、正直参っている。……けど、それはユーノ司書長の方が上かな? 実働を担当する僕らが、こんなことでは調べてもらったというのに、情けない」

「いえ、そんなことは……」

 少しばかりおどけたように言って見せるヴェロッサの言葉から、滞留していた空気が再び流れ始めた。

 こういうところは流石だと改めて感心しながら、クロノは一度話題を仕切り直すことにした。まだ先があるというのあるが、結局は出来ることをするしかない。

「ユーノ、今のところ調べあがったものは以上か?」

「うん、今のところはね。まだ調べあがっていない事柄の方が多いくらいだから、引き続き調べるよ」

「頼む。予定より長く引き留めてすまなかったな。そろそろ、みんなのところへも行ってやってくれ」

「え? けど、クロノとアコース査察官は……」

 クロノはそういうが、今回はアースラメンバーがせっかく揃う日だ。なのに自分だけ先に行くというのは、とユーノは言う。

 そんな気遣いを「らしいな」と思いつつも、クロノは苦笑交じりに「気にしなくていい」と、先に行くように促した。

「僕らは、参加するにも一度これを本局に持って行ってからだ。それにここのところ、今日に合わせて書庫に籠る時間が長かったみたいだからな。せっかくエルトリアの(みな)も来ているんだ、最後まできちんとエスコートをしなければならないだろう?」

 引き受けたからには責任を果たすべきだ、とクロノはユーノの背中を軽く叩いた。

 背を押され、ユーノも「分かった」と頷いて見せる。流石にここまで言われて、食い下がるのも違う。

 ありがとうと礼を言って、ドアへ向かっていく。

「それじゃあ、行ってくるよ。アコース査察官も、今日はお疲れ様でした」

「いえいえ。ではまた書庫のほうにも」

「ええ、ぜひ」

 そうして、ユーノを見送った後。クロノとヴェロッサもまた、自分たちの向かうべき場所へと足を踏み出しており、転移門までの通路を歩きだした。

 幾らかの談笑を交えていると、途中で先ほどの続きに話が振れた。

「ところで、さっきは聞けていなかったけれど……最近はどうだい? 次元世界(うみ)の方は」

主要地上世界(おか)と同じさ。芳しくない。

 〝世界は変わらず、慌ただしくも危険に満ちている〟───旧暦の時代から言われている通りだ」

 世界の在り方が危ういのは、『魔法』という技術が普及した世の中でも変わらない。……いや、というよりもその魔法技術が、そもそも世界を狂わせている原因なのだろう。

 管理局が創設されてより、一五〇年ほどの時間が経っている。長く歴史を重ねてきた分、管理世界と呼ばれるこの区分は次元世界では広く浸透した。けれど、次元の果てはというものは、見果てぬほどに広い。

 そして、そこには同じだけ過去と現在へ続く様々な事象が渦巻いている。

 ミッドチルダがベルカを始めとした世界から続いているように、ある世界で生まれたモノが、また次の世界へ植え替えられていくことは往々にしてある。

 だから今は、とクロノは言う。

「各世界の軍事バランスの危うさ。世界内での紛争や闘争。それぞれの世界が壊れないようにするだけで手一杯さ……」

 それを受けて、ヴェロッサもまたそうだねと同意する。

(おか)も相変わらずだね。危険な古代遺失物(ロストロギア)の違法捜索や不法所持。さらにはそれらの密輸問題……。地上とはまさに、そういったことの舞台だからね」

 これが、次元世界。

 牽いては、魔法という技術の持ってしまった厄介な面であると言えよう。

 そして、そんな世界だからこそ。

 『魔法』を秩序維持のために用いる管理局が、率先して古代遺失物───ロストロギアを追うという、まさしくそういった世界の在り方(くりかえし)を象徴しているともいえる。

 が、そうした秩序維持も完璧ではない。

 ただでさえ広い次元(この)世界においては、一部の平和は決して全体の平和を意味しない。それどころか、魔法の特異性から生まれた司法は強力な力を持つ反面、歪で脆い部分を多く持ち合わせてさえいる。

「破滅的な力を持つ古代遺失物(ロストロギア)は、よからぬ輩の手に落ちれば、すぐさま争いの道具となる。まして〝秘匿級〟の古代遺失物(ロストロギア)ともなれば、戦いの道具として手に入れることが出来れば……」

「世界のバランスを崩す、どころじゃない」

「……破滅へ向かって一直線、ってね」

 力の使い方を知る者が、邪悪な方へ進むためにその力を使う。まして、その規模が組織単位にまで昇ってしまえば……それは、何よりも性質(タチ)が悪い。

 しかし、世界を巻き込む滅びというのは、そういったものによってもたらされるケースが多いのも事実。故に、対抗するためには力がいる。

 だが、

「そうやって滅びた世界はいくつもあるのに、それでも自分たちを守るために力を求めなきゃならない……そういう気持ちも、分からなくもないんだけどね」

 それすべてを是とすることは、出来ない。

 増長しすぎた力がもたらすものは、何も悪の側のみに留まらない。過剰に蓄積された善というのも、同じように災い足りえるものへと変わってしまうのだから。

 しかし、それでも───と、クロノは思う。

 すると彼の思考を読んだように、「それを防ぐために、働かなきゃならない……だろう?」とヴェロッサは、その続きを代弁する。

 そんな友の言葉に険しい顔を緩め、笑みを浮かべながら頷いた。

「こういう仕事を選んだ以上はな」

「だね」

 そういって頷き合ったところで、二人は転移門へと辿り着いた。

 担当に頼み、さっそく本局までのゲートを開いてもらう。後は本局まで一直線に運ぶだけだが、最後まで気は抜かないで置かねばなるまい。

 質実剛健を地で行くクロノに、「相変わらずだね」とヴェロッサは苦笑するも、自分もまた、最後までしっかり役目を果たさせてもらうと応えた。

「それに、クロノくんには早く終わらせて、みんなのところへも行ってもらいたいからね」

「心遣いは嬉しいが……どちらかというと、僕は保護者側だ。あまり甲斐甲斐しいのもよくないだろう」

「良いお兄ちゃんだねぇ」

「なんだそれは……」

 自分も似たようなものだろう? とクロノに言われると、「まぁはやてとはよく一緒にいるけどね」とヴェロッサは応えた。

「けど、あんまりほかの二人とはご一緒する機会はなかったからね。実際に彼女たちの活躍を目にした機会は、なかったかな。クロノくんから見て、今のみんなはどうだい?」

「今さら僕が語るまでもないさ。皆、素晴らしい力を持っている。管理局のエースとして、三人とも堂々たる成長をした」

「確かに、ちょうど申し合わせたみたいに技能も能力もバラけているよね」

「ああ。頼もしいことにね」

 そう応えたクロノに、ヴェロッサも首肯する。

「本当に、三人揃えば……世界の一つや二つ、軽々救ってくれそうな気がするよ。()の〝三提督〟の現役時代みたいに」

「まぁ、夢物語のようではある。だがまぁ、それでも……正直、夢は見たくなる」

 しがらみや、やるせない出来事。手を伸ばしても届かない、苦しみばかりを背負う立場(しごと)であっても。

 あの三人であれば本当に、光だけをつかんでくれるかもしれないと。

「やっぱり、クロノくんはみんなのお兄ちゃんって感じだ。さっきユーノ司書長の背中を押してたのも、そんな感じだったよ?」

「ま、あれくらいはな。あいつにも、同じくらいには期待している」

「へぇ、あんまり司書長の荒事の話は聞かないけど……。ああ、でもそういえばクロノくん、模擬戦にも結構誘ってたって……」

「まぁな。あいつは攻撃はからっきしだが、腐らせるにはもったいない程度には戦える」

「はは。そこまで言っているのに、最後だけは素直じゃないね」

「……うるさいぞ、ヴェロッサ。あいつだって男だ、それくらいの方がちょうどいいだろう」

「ふふふ……」

 なんて話を終えた辺りで、本局へのゲートが起動する。

 さあさあ、と、ヴェロッサはそっぽを向いたクロノの背を押して門をくぐる。

 そうして転移の光が作る道を抜けて、さっそく二人は、最後の仕上げを果たすために動き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 紡がれ行くそれぞれの軌跡 The_Eternal_Bonds.

 

 

 

  1

 

 

 クロノたちとの話を終え、ユーノは(みな)の集まっているレクリエーションルームへと向かった。

 応接室からはさして遠くないこともあり、一つ二つ廊下を抜けると、目的の場所が見えてきた。にぎやかな声と、料理の良い香りが漂っており、楽しんでいることが廊下にまで伝わってくる。

 盛り上がっているみたいでよかったと、笑みを浮かべながら、ユーノもさっそくドアをくぐって、その中へと入っていった。

 

 自動ドアのスライドする音と共に、部屋の中の視線がユーノの方へと集まる。

 見慣れた顔の来訪を、一同が暖かく出迎えた。

「ユーノくん! やっと来たね~」

「師匠。お話の方は、もう宜しいのですか?」

「うん。クロノとアコース査察官は、『レリック』を本局に運びに行ったよ。たぶん、それが終わったらまた来るかも」

「そうですか。では、師匠もこちらへ」

「だね。美味しいもの、いっぱいあるよ~」

「ありがと。じゃあ、さっそく僕も食べよっかな」

 いの一番に声をかけてきたなのはとシュテルに招かれて、ユーノも会食のテーブルに着いた。ちょうどビュッフェ風に自分で好みの料理(もの)を取り分けるようになっていて、卓へ向かう途中で、リンディからお皿を渡された。

「それにしてもすごい料理だね……」

 と、ユーノは呟いた。

 卓上は、それこそ壮観とさえいそうな光景だった。

 色とりどりの料理が並び、どれから手をつけようかと、迷わせてくる。

「そうですね。アコース査察官からの差し入れだそうです」

「ああ、なるほど……」

 シュテルが飲み物を渡しがてら、そう説明してくれる。

 そういえば先ほどクロノたちに遅れて部屋に入った時、入りがけに二人がそんなことを話していた様な気がした。

 ユーノがぼんやりと先ほどの事を逡巡していると、そこへフェイトとはやてがやって来た。

 二人とも、自分たちも戦闘後であるのに、「お疲れ様」と労いの言葉をかけてくれた。そこでユーノは、遅れてきて話に出遅れていたのもあるが、まだみんなにお疲れ様を言っていないことに気づいた。

「遅れちゃったけど、みんなお疲れ様。シュテルも、手伝ってくれてありがとう」

 言って、渡されたばかりのグラスを、はやてたちの持っているグラスとカコン、と合わせた。

「ありがとうなぁ~。こっちは終わってみると割と平気やったけど、ユーノくんの方はどないやった? クロノくんとロッサとのお話」

「うん。こっちも、調べは進んだって感じかな」

「ふぅん、順調そうならええんやけど……あ、っていうかユーノくんまだ何も食べてへんやん」

 はやてに言われて、そういえばまだ何も食べていなかったことに改めて気づく。

 すると傍らから、フェイトが彩りよく盛り付けられたお皿を「はい」と差し出してくれた。

 ありがとうと礼を言うと、フェイトは「ううん。食べ損ねちゃもったいないし、ユーノはもうちょっと食べなきゃね」なんて笑っていた。

「せやなぁ~。ユーノくん、ちょーっとだけ細いもん」

「そ、そうかな……?」

 多少なり、所謂〝男らしさ〟に欠けている自覚はある。……しかし、それにしても「せやせや」とその通りだとばかりに頷かれると、流石に色々と思うところもあるのだが。

 そんな風に苦笑いするユーノであったが、そこへシュテルも「それについては、私も少し思うところがあります」と言って首を突っ込んできた。

「具体的には、師匠はもっと食べるべきかと。ここのところはあまりフィールドワークにも出ておられないとはいえ、食を細くしてはいけません」

 日頃の摂生は大切です、とシュテルは言う。

 何となく、師弟が逆転しているようにも見える光景である。が、それもあながち間違っていないのかもしれない。

 実際のところ、ユーノとしても彼女の指摘は耳が痛いところだった。

「たはは……。弟子に心配かけるようじゃ、ダメだね」

「そう思っていただけるのなら、師匠が此方(エルトリア)に来ていただいたときは、しっかりとお世話をさせていただきます」

 ここまでくると、もはや師弟というよりは姉弟か、親子とでも言えそうな光景である。が、それはそれとして、少しばかり気になる事柄が浮上してきた。

「もしかしてユーノくん、エルトリア行くん?」

 はやてがそう訊ねると、ユーノは「うん、ちょっとね」と頷きながら、シュテルたちを今回の同窓会(あつまり)に誘った際に向こうへ行く事にしていたのだと応えた。尤も、今回は完全に私用だけではなく、いつもの資料共有も理由の一つではあるのだが。

 はやてはユーノの説明に「ふぅん」と納得しつつも、やや淋しそうに自分も行きたかったと呟いた。それに、フェイトも「そうだね……」と相槌を打つ。

「温泉はお休みが合えば行けるけど、エルトリアにはあんまり渡航許可が下りないもんね」

 そこまで言われて、ユーノは「ああ」と、この前誘われたのを思い出した。

 はやてがいま研修で向かっている陸士第一〇四部隊のあるミッド北部には、自然豊かな観光スポットと名の知れた温泉地がある。一〇四部隊での研修を終え、次の部隊へと移る合間が開いたので、遊びに来ないかという誘いを、はやては友人たちに掛けていたのだった。

 しかし、いつもの三人は予定があったものの、ヴォルケンリッターの面々は任務が入っているので、そちらを訪れるにしても仕事を終えた後でないといけない。加えて、中学の卒業後から少し離れている海鳴の二人にも声をかけていたのだが……。

「アリサやすずかにも声をかけたけど……二人とも、連休中に大学の方でちょっと用事があるみたいで、それに」

「ユーノくんも一緒に、って誘おうと思ってたのに……」

 そう言って、フェイトとなのはは少し寂しそうな顔をする。同い年の面々が全員集まれるのは中々ないので、今回はちょうど良い機会ではあった。しかし、どうにもタイミングが悪かったらしい。

 ユーノはそんな三人の様子を見ていると、何となく申し訳ない気分になった。

 とはいえ、女の子同士での旅行の方が気楽なのではないかとも思ったのだが、それを言い掛けると、なのははなんだか剝れた様子でユーノをジトっと見詰めてくる。

 どうにも納得されていないらしいと苦笑いを浮かべているユーノ。そんな彼の様子に、なのははますます拗ねた様に口を尖らせた。

 そしてそっぽを向きながら、

「……シュテルたちのとこにはいくのに」

 なんて事を口にした。

 弁解したくなったが、間違いでもないのでなんとも言いようがない。しかし何か応えようはないものかと、迷いつつも「けど、それは───」と、ユーノが口を開こうとしたところで、そこへ傍らから更なる横槍が入った。

「ご心配なく。明日よりの出張で、師匠が此方(エルトリア)へいらっしゃっている間は、()()()がしっかりとお世話(サポート)させていただきますので」

 新たな火種の投下。それもどことなく挑発的なシュテルの物言いに、なのはも流石にカチンときた。

 しかもいつの間にか、ユーノの左腕にシュテルが絡んでいる事に気づき、ますます「むぅ~~っ」と頬を膨らませて、逆の腕を引っ張って自分に寄せる。

「…………」

「…………」

 互いに、一歩も譲ろうとしない。

 バチバチィッ! と、不可視の(みえない)火花を散らし始めた二人に、「あの、二人とも……ちょっとその、いたいかなぁ……って」と申し出たのだが、二人は全くもって自分から離す気はないらしい。むしろ力を込められた指と腕に圧迫されて、ユーノはこれからどうなるのかと、自身の行く末を思い、冷や汗を流し始めていた。

 そんな三人の様子を、年長組はのほほんと、或いは呆れたようにため息交じりに見守っていた。

「相変わらずねぇ、あの子たちは」

 素直でない、何というか皮肉屋めいたところのあるイリスは、三人の戯れをニヤニヤとイジワルそうに笑う。

 それを少し緩和しようと口を開こうとしたアミタとキリエであったが、生憎と目の前で繰り広げられているものは、どうにも言い表し難い。そもそも痴話喧嘩など、元より犬も食わない代物である。

「……まぁなんていうか、激しいわよねぇ」

「ええ、まぁ……そうかもしれません」

 と、結局そんなことしか言えず、二人は苦笑を零すのみであった。

 では彼女らよりも付き合いの長いヴォルケンズの面々はどうかと言えば、此方も似たようなもので───いや、というより、親しみ深いからこそ呆れているというべきか。何時までも中々進展もしない光景に、四人は半ば感嘆さえ覚えそうな気がしていた。

「アレで未だに……というのは、いささか不憫に思えるな」

「どっちのこと言ってんだよ、それ」

「皆まで言うな、という事だろう」

「そうよー、ヴィータちゃん。それに、まだまだ続きそうじゃない? ねー、ユーリちゃん?」

「……ええと、どうでしょう」

 シャマルに急に降られて、ユーリは濁すように苦笑いで応じた。

 その傍らで、ディアーチェが「はぁ……」と溜息を一つ。この間にも熱冷めやらぬといった風になのはとシュテルは睨み合いを続けていたが、ユーノの方ははそろそろ限界の様だ。

 そもそも話の発端を思えば、この状況は些か本末転倒であろう。

「おい、そこな二人。いい加減離してやれ。手が塞がっていては、いつまでたっても食を進められまい」

「「───あ」」

 そうだった、とでも言わんばかりに、ぽかんとした二人に、我らが闇王様は再び深く、盛大な溜息を洩らした。

「阿呆どもが……」

「まぁええやないの王様。これでもユーノくんも食べられるし」

 頭を押さえているディアーチェにはやてがそうフォローを入れるも、それはむしろ別の火種を呼び寄せていたらしい。

 先程までリンディやエイミィの方で食欲に忠実すぎる行動をとっていたレヴィが、流石に膨れた小競り合いに気づいたらしく此方へと首を突っ込んできた。

「んー? 何だユーノぉ、まだ食べてなかったの~?」

 もぐもぐと口に食べ物を詰め込んだまま、そんな事をいうレヴィ。行儀が悪いというのは簡単だが、どうにも彼女の場合、どことなく小動物っぽさがあるので、愛嬌の方が勝るのが不思議なところである。

 と、それはともかくとして。

 問われた事柄に、ユーノは「まぁ……ちょっとね」と腕を擦りつつ苦笑い。その傍らで、バツが悪そうに眼を逸らしている星光の魔法を持つ二人がいたが、そこにはノータッチにとどめておくのが得策だろう。

 一連の流れにまるで気づいていなかったのか、なのはとシュテルの反応には首を傾げていたレヴィであったが、そもそも細かいことを考える性格でもないので、先程の流れとは真逆にさっさと事の本懐を遂げに掛かった。

「しょーがないなぁー。じゃあはい、トクベツにボクのこれあげる~」

 そう言ってレヴィは抱えていたお皿に盛られた料理(ヤマ)の一角にフォークを刺して、それをそのまま、ユーノの口に突っ込んだ。

 突っ込まれた方は流石に驚いていたが、驚いたのは最初だけ。

 もぐもぐと咀嚼して「……あ、あふぃがと」と礼を言う。

「どうどう? おいし~?」

「う、うん、おいしいよ?」

「そっかぁ~♪ あ、じゃあこっちもー!」

「ま、まって、自分で食べれるから……むごっ⁉」

 そして此処からは半ば繰り返し。雛にでも餌をやっている気分なのか、或いは本人の元々の素体が猫だからなのかは知らないが、レヴィは面白そうに次々とユーノの口に料理を放り込んでいった。

 ユーノもユーノで、小動物形態に慣れている事もあってか、割とさっさと順応して終わるまで食べる方に専念することに決めたらしい。

 しばらく放り込んで、お皿が空になったところでようやくその流れは終わった。

 ユーノは重ねてありがとうと言って、後は自分で食べるからとレヴィにも食べる方に戻ったらという。レヴィも流石に満足したのか、特に異存はないらしく、また

 無邪気に笑っているレヴィだったが、本人はまたリンディやエイミィのところへふらふらと戻って、またパクパクとその細い肢体(カラダ)のどこに入るのか疑問になるほどの健啖っぷりを発揮していった。

「あー、これもおいしーっ♪」

「おー、相変わらずいい食べっぷりだねぇ~」

「こっちもおいしいわよ~」

 一応、レヴィはもう見かけの上では二〇歳くらいなのだが、すっかり背丈は伸びたものの、リンディやエイミィは猫の子(間違ってはいない)を可愛がるみたいにして彼女を甘やかしていた。

 昔は色々あったが、こういうところもレヴィの気質のなせる業だろうか。

 

 ……さて、そろそろ(とま)っていた刻の針を動かすとしよう。

 レヴィの放り込んだ爆弾が、幾らかの間を置いて炸裂する。……具体的に言うと、小規模な超新星爆発みたいな感じで。

「ユーノくんッ‼」

「師匠! ズルいではないですかッ‼」

「待って、何がっ⁉」

 またしても星光の二連撃。

 いうなら、第二ラウンドの勃発である。

「あーあ、まぁた始まってもーた」

「……もう放っておけ」

 ついにディアーチェも匙を投げた。

 ……実は似た様な事はなのはも子供の頃に(番外編四で)やっているのだが、それはそれ、これはこれらしい(というかこの後エルトリアに連れていかれる事が確定しているので尚更に、ということだそうな)。

 

 

  2

 

 

 で、その後。

 何とかそこからなのはとシュテルは冷静になったが、はやてやシャマルも悪乗りして、前みたいに八神家へおいでなんていうところから、ディアーチェも彼女らに煽られてちょっぴり震える程に暗黒(ヒートアップ)していたりもした。

 そうしてかくも混然とした諍いがようやく鎮まり、やっとこさ歓談らしい流れになって来たあたりで、次の話題にエリオとキャロの事が挙がった。

 

 発端はというと、ユーノがフェイトに二人の近況を聞いた事がきっかけだった。執務官として様々な世界で活動する中で、助けた人は大勢いる。フェイトにとって、その中で特に関りが深いのが、エリオとキャロの二人だ。

 フェイトが二人の正式な保護責任者の任について、もう一年。

 程なく二年目が訪れようとしている今となっては、フェイトにとっても、また二人にとっても、互いに紛う事無き家族そのものと言って良い存在になっていた。

 ……が、今回の集まりに二人の姿はない。

 その理由はというと、二人が第六一管理世界『スプールス』の方へと向かっているからであった。

 キャロが向こうにある管理局の『自然保護隊』に興味を抱いていたので、元々行く事になっていたのだが、彼女につられてエリオも行く事になったのである。

 とはいえ、そこまでは元々決まっていた事である。

 だから、それは問題ない。問題はないのだが、()()()()()()のはこの後だ。

 すっかり子供らしく元気さを取り戻した二人は意気揚々と、フェイトが幼馴染たちと集まると聞くと、ならとばかりに『はじめてのおつかい』のノリで、自分達だけで行きたいと言い出した。

 見学の許可自体は取ってあるし、二人共力のある魔導師なのは間違いない。未熟とはいえ、エリオはフェイトに教わって使える魔法も多くなっており、キャロもまた多少なり転送魔法を使えるくらいだ。

 そもそも公共の交通機関を使って管理世界間の移動をするだけ、と言ってしまえばそれまでのこと。それだけならば問題はあまりない筈なのだが、ちょっとばかり心配性なフェイトはそれに苦言を呈した。

 けれど結局は純真な向上心に負け、()()()()()()で二人を送り出すこととなった。

 なのでフェイトは物凄く来て欲しがっていたのだが、二人は今日ここにはいない。

 もちろん、到着するまでは逐一連絡を取っていたし、到着後は現地の局員さんにお願いして二人を見てもらっている。……ただ、笑顔で楽しげにしている二人が贈ってくれた写真を見ていると、なんだかこう、無性に寂しくなってくるとフェイトは言った。

 そんな彼女に、話題の発端を挙げてしまったユーノはちょっと申し訳なさそうな顔をして、「なんだか、ごめんね……」と謝った。

 しかし、それを聞いていたシグナムは謝る事も無いだろうと笑う。

「子供というものは自然と大きくなっていくものだ。理不尽な痛みや苦しみに打ち勝った子供ともなれば、なおさらにな」

「で、でも二人はまだ小さいんですよ! 心配しちゃうのはしょうがないじゃないですか!」

「やれやれ。図体(カラダ)は大きくなったが、お前の中身は寧ろ子供の頃よりも幼いかも知れんな? テスタロッサ」

 揶揄う様に言われて、フェイトはそんなことはないと反論するも、シグナムの方は飄々とそれを躱して畳み掛けてくる。

「そうはいうが、お前の仕事はそう言った子供たちが自分で未来へ歩き出せるためのきっかけとなるものだろう? だというのに、いつまでも縛り付けておくのはいただけんな」

「だ、だけど二人はわたしの子供みたいなもので……」

「それなら余計に子離れをせねばな。執務官になれたまではよかったが、こういうところはまだまだ青いままでは、先が思いやられるぞ?」

「…………ぁぅ」

 出会った事件でいち早く刃を交えたこともあってか、割とシグナムはフェイトに遠慮がない。というか前にも似たようなことで揶揄われたことがあったと思いながら、ちょっとだけ不貞腐れたくなるフェイトであった。

 本人としては子煩悩(かほご)ではないつもりらしいが、生憎と答えは火を見るよりも明らかである。古代遺失物の私的利用や違法研究などを取り締まり、巻き込まれた幼い命を守ってきた敏腕執務官の弱点は、むしろその子供たちだったのかもしれない。

「ま、まぁその辺で……」

「フェイトちゃんもほら、そんな落ち込まないで……」

 しかし流石にこれ以上はという事で、ユーノとなのはが仲裁の位置に入ってきた。

 が、そもそもの話題の発端は───いや、それよりも根本的な原因は目の前の青年だと、フェイトはシグナムに軽くイジメられた分を、その原因へとぶつけて来た。

「その辺も何も、だいたいユーノがいけないんだよっ! エリオとキャロにスクライアでの事とか、ひとりで初めて発掘した話とかするから!」

「え、僕⁉」

「そうだよっ。その所為でなんか二人とも自分達だけでいろんなとこ行ってみたいって、わたしとあんまりお出かけしてくれなくなっちゃったんだからね!」

 ちょっとこれは八つ当たり気味ではあったものの、実のところあんまり間違っていなかったりもする。

 まぁそれにしても思うところはないではないが、涙目になったフェイトからは理不尽さや迫力以前に、逆に庇護欲さえ誘いそうな雰囲気が出ていた。

 結局ユーノは言い返せず、ぷんぷん怒るフェイトに責められるままになっていた。……尤も、怒る内容はほぼほぼ子供の喧嘩のそれであったのだが。

「もう、そんなに心配?」

「当たり前です! だってまだ二人とも五歳ちょっとなんだよ⁉」

 しかしまぁ、見方を少し変えてみれば。

 たじろぎながらもフェイトを宥めそやすユーノは、なんだか妻に詰め寄られた夫の様に見えなくもなかったかもしれない。

 ……故にか、

「けど、二人とも随分しっかりして来たし……ほら、前に四人でアルトセイムに行った頃よりは───」

 そこまで言い掛けて、ユーノは背後に黒いものを感じた。

 しかしもう時すでに遅し、二度ある事は三度ある。───否、三度程度で済んだコトだっただろうか。

 確かな事はだた一つ。火種はまた放たれた、という事のみであった。

 

「───お話があります、師匠」

「…………はい」

 

 

 

 それからまたしばらく追及を受けた後。やいのやいのと騒がしさはそのままに、楽しく同窓会は過ぎて行った。

 こうして任務は滞りなく終了し、三日ばかりが経った頃。ユーノは此方での用事を済ませエルトリアへと帰還する面々と共に、遠き星へと足を運ぶ事となった。

 更にその二日後。同じようになのはたち三人は、ミッド北部にある陸士第一〇四部隊の拠点にほど近い温泉地へと足を踏み入れており。

 

 そして彼女らと時を同じくして、二人の少女がその場所へと降り立った。

 

 新暦七六年四月二九日。

 ミッドチルダ北部にある、臨海第八空港の搭乗受付場にて。

 そこではやや藍色が勝った長い青の髪をした少女が困った顔で、受付嬢に迷子の呼び出しを頼もうとしていた。

「───迷子のお呼び出しですね。それではまず、お客様のお名前のご確認をさせて頂きます。それから出発なされた場所と、御連れの方と(はぐ)れてしまわれた場所をお願いします」

「はいっ。ミッドチルダ西部『エルセア』から来ました、ギンガ・ナカジマです。

 迷子になってしまったのはわたしの妹で……たぶん、エントランスの辺りで逸れてしまったと思うんですが……」

「エントランス付近、ですね。承りました。お連れ様のお名前は……?」

「あっ、スバルです。スバル・ナカジマ。年齢(とし)は十一歳です」

 

 と、そうギンガが受付嬢に告げたのと同刻。

 逸れた姉を探して、その妹は好奇心旺盛な澄んだ瞳で、波打つ人混みの中を楽しげに歩き回っていた。

「んー、おねーちゃんここにもいない……うん、今度はあっちかな。よーし、それじゃあ捜索開始~♪」

 探し回る表情には、悲壮感は感じられない。むしろこの状況さえ、彼女にとってはちょっとした冒険譚に思えたのだろう。

 そんな、姉と同じ青の髪をした幼き少女。

 姉とは違う快活そうなショートヘアを靡かせながら、その子はエントランスから次第に離れた場所へと向かって行った。

 けれど彼女の幼き冒険譚は、そこまで長くは続かない。

 その代わり、彼女自身の物語はその終わりと共に幕を開ける。

 

 先を行く三つの(ひかり)に引き続き。(そら)の星に焦がれた、地上より駆け昇る蒼き流星がついに動き出す。

 

 ───その為の幕が今、遂に開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 祈りはやがて願いへ Can’t_Stay_Here.

 

 

 

  1 (Age76-April_27)

 

 

 惑星エルトリア。そこはかつて、死にかけた星であった。

 『死蝕』と呼ばれる星を侵す病に蝕まれ、滅びかけていたその星は、今から九年ほど前に蘇生の兆しを得た。

 涙と、痛みと、零れ落ちそうになった生命(いのち)がいくつもあって。

 誰しもが希望を失ってしまいそうだったけれど、それでもやがていつかまた、そう未来(あす)を想い、希望(ユメ)の果てを描くために顔を上げて歩み出した。

 難しい事ではあった。

 苦しみ、藻掻いて、血を流してしまう事もあったのに。

 だからといって、それで諦めるだけで終わる事を、良しとしない者たちがいた。……いや、それは少しだけ正確さを欠いている。

 華が咲くまで時が掛かってしまっただけで、元々そういうモノはあったのだ。

 元より、この星に(かえ)って来た生命(いのち)は、生きる事を選んだ心の結晶。長い間、積み重ねて───ようやく実を結んだ、人々の祈りのカタチであったのだから。

 

 そして、この場所に立っている事をユーノは改めて心に刻む。

 目の前の光景、それを創り出して来た人の意思を。

「……やっぱり綺麗ですね、この星は」

 彼がそう呟くと、傍らに立っていたアミタは「ええ」と頷いた。

「だからもっと、何度でも皆さんには遊びに来ていただけたらと思います。わたしたちの故郷は、とても綺麗な星ですから」

 以前、なのは達と此方へやって来た時に貰ったメッセージにあったものと重なるその言葉に、ユーノもまた、「はい」と首肯を返した。

 この間の同窓会ではやても言っていたなと思い返しながら、なるべく早く、また皆でエルトリアへ来られるように算段を付けたいと、ユーノは考えた。

 復興を遂げたとはいえ、まだエルトリアは完全な姿を取り戻してはいない。

 『あの夜』から、エルトリアを救いたいと願った少女たちが再び一堂に会したのは、事件が起こってから二年ばかり後の事。それから復興が進み、緑が戻るまでに更に数年の月日を要した。

 もちろん、これまで重ねられてきた時間を想えば、驚異的と言ってさしつかえない速度ではあった。しかし、急速な復興を遂げるという事は、同時に、一度去った人々へもう一度、故郷への道を辿らせる為の時間が短かったという事を意味する。

 エルトリア政府は、四十年以上前に既に拠点を人工居住衛星(プラントコロニー)の方へ移していた。そしてエルトリアの住人は、事件の数年前にアミタ達フローリアン一家を残して其方へ全て移住してしまっている。だからこそ、星が完全に元の姿を取り戻すまでには、まだ長い時間がかかる事だろう。

 如何に『ヴァリアントシステム』などの優れた工業技術があるとはいえ、元々これらは事件の首魁だったマクスウェルが所長を務めていた『惑星再生員会』で主に研究されていた、〝惑星を再生させる為の技術〟としての側面が強い。

 一応、アミタとキリエの用いている防護服(プロテクトスーツ)の開発については、コロニーの市長の方から、危険生物への対処目的として依頼されたこともある。しかし、市長も当時は、彼女らの父母であるグランツやエレノアと同様、『惑星再生委員会』に関わっていた時期があった。故に、どちらかと言えばこれは、星の再生に対する姿勢───病に陥る前のグランツに希望を見出していたからこその、もう一度星へ戻る為の準備作業に近い。

 そして、グランツの病が深刻化してからは、そういった依頼はもう来なくなっていた。危険生物に対処するよりも、コロニーで安全に暮らすべきであると、市長もそう考え始めていたのだ。無理もない。そもそも、グランツが助かったのでさえ、本当に偶然の奇跡みたいなものであったのだから。

 が、時に世界は姿をがらりと変える。

 管理局側の、というより『無限書庫』や魔法技術との関りがグランツの病が緩和する役割を果たしたことも。そこから、定期的な資料提供(とりひき)が行われるようになった事も、そのおおよそは偶然の産物であった。

 けれどそれが、悪い事であるというわけではない。

 イリスやユーリがエルトリアへと帰って来てくれた事で、危険生物に対する対処は一気に進んだ。ディアーチェたちや姉妹の力ももちろんあったが、本来であれば欠けたままであった星を救う要だった二人の帰還は、エルトリアの姿を短い間に瞬く間に戻すだけの力があった。それこそ、彼女たちだけでも、本来想定された対処のための部隊と同等以上だといっても良い程に。

 イリスやユーリの存在は市長も承知のところで、事の顛末自体は快く受け入れた。しかし、それは同時に、彼女ら以上の戦力の増強を思い留まる───否、それどころか風化させてしまう事にもなってしまった。

 だが、それも仕方がないといえばその通りだ。実際のところ、惑星の再生のためとはいえ、軍事転用されそうだった技術を広めすぎるわけにもいない。加えて、それらの根本足る『フォーミュラ』は、ナノマシンの供給さえあれば半永久的に、誰であろうと使う事が出来る。かつてマクスウェルがそうしようとしたように、軍事目的での利用が容易いため、全体にバラ撒く様な真似は出来ないのだ。

 この辺りは、資質を必要とするが故に絶対数が少なく、けれど同時に驚異的な技術体系でもある魔法と対になる関係かもしれない。結局のところ、技術というものは便利すぎても扱いに困り、また高精度であっても使い勝手が悪ければそれもそれで困る。要するに、万象に対し完全なものなど存在し得ない。そうした当たり前の理屈は、理想を現実にしてくれない意地の悪さを孕んだ、神の定めた摂理(わくぐみ)なのだろうか。

 と、そこまで思考が飛んだところで、アミタはユーノにそろそろ準備が出来る頃だと告げて、家の方に戻るように促した。

 最後の調整が少し掛かっていた為、ユーノも二日ばかりこちらへ留まって手伝っていたのだが、仕上げには手を出せそうになかったので、少々の暇を頂戴していたのである。

 しかしどうやら、それも終わったらしい。

 その事を聞いてユーノは、順調に行ったという安堵と、言い知れぬ不安が、胸中で複雑に絡み合っているような気がした。

 浮かび上がる感情が、果たして手にすることに怯えているのか、それともこれから起こるかもしれない何かを恐れたのか。

 答えはまだ、彼の中にはない。だが、此処で迷ってはいけないという事も、ちゃんと理解していた。

 大地を覆う緑の絨毯の上を進みながら、ユーノは気を引き締め直す。

 遠くに小さく見えた皆の姿に微かな笑みを浮かべながら、彼はそこを目指して行く。

 それだけでも、随分と気が落ち着いて来たのが分かった。

 そう、今更恐れるなど馬鹿げている。元より決めていた筈だ。守り支える為に、この身は戦うのだと……。

 

 

 

 フローリアン家に戻ると、外で待っていたシュテルたちが、戻って来た二人を出迎えてくれた。

 次いでフローリアン夫妻が顔を覗かせて、一度家の中へと招かれる。

 入ってすぐのところにある研究区画(ブース)へ向かったグランツは、机の上に置いてあった掌大の正方形をしたモノを取り、彼に渡した。

「ユーノくん、これが……君に託す、新しい力だ」

 そう言って掌に載せられた品は、アミタやキリエの使うアームズの待機形態、ヴァリアントユニットと呼ばれるそれにそっくりだった。

 ただし、彼女らの用いるそれとは少々異なる部分もある。

 中央には歯車ではなく、半時計周りに四枚の花弁が重なっていく様な意匠が施されていて、中心には翠の宝石が据えられている。円形をしたその中央上部には鳥の羽みたいな装飾があり、花弁に掛かるその色は、鮮やかな桜色をしていた。

 その色は、他の部分の彩る緑と金によく映える。

 たったそれだけの事ではあるが、なんだかそれが、とても嬉しい。

 穏やかな瞳で、ユーノは柔らかな微笑()みを零す。そんな彼を見ながら、グランツも口角を上げて、優しげな顔をした。

「───さあ。流石に此処では試運転は出来ない、一度外へ出て、やってみようか」

「はい」

 そう応えて、ユーノたちはもう一度、家の外へと出て行った。

 

 

  2

 

 

 天候は良好。取り立てて障害となるものも何もない。

 しつらえたような場に立ちながら、ユーノは手にした小さな力の源へと、静かに視線を落とした。

 今後用いる事になる術の核を包む鋼には、かつて彼が少女へ託したものとは異なり、なんら特別な意志が宿っているという訳ではない。ただ、それでもこの小さな金属の塊が、彼にとって何時かの命運を託す相棒に成り得るというのだから、不思議なものだ。そうユーノが小さく微笑んでいるところへ、グランツが声を掛ける。

「ではユーノくん、さっそく起動してみてくれ。ああ、それとフォーミュラを使用する準備は出来ているかな? ナノマシンには、ある程度身体を慣らしていたみたいだが……」

「大丈夫です、問題ありません博士。ここのところこっちの術式(フォーミュラ)はあまり使う機会が無かったので、試運転には支障をきたさない程度には残っています」

「ならいいんだが。それじゃあ試運転を始めてみてくれるかい?」

「分かりました」

 短く応えて、魔法とフォーミュラの運用を開始し、掌の中に収めたユニットに力を通わせていく。すると、一秒もかからずにユーノの前に浮遊する二つの『盾』が生成された。

「どうだい? 生成の速度は」

 盾が出たところで、グランツはユーノにそう訊ねてきた。

 それに対し、ユーノは「正直、僕自身はあまりデバイスの類を使っていなかったので……体感的には早すぎるくらいな気がします」

 と、半ば呆気にとられたように応えを返した。そもそも魔導端末の類に触れることさえ久方ぶりなくらいだ。感覚としては、新鮮と言う方が合っているかもしれない。

 無論、周囲には様々な種類のデバイスを用いる仲間がいたこともあり、ある程度のイメージはあった。だが自分自身で使ってみると、改めて感じるところもやはり数多くある。

 とはいえ、これで起動は成功。

 第一段階としては、ひとまず成功だろう。

「拒絶反応や、不具合は……うん、特に無さそうだね」

 ざっと見た限り、ユーノ本人のナノマシンに対する適性や、併用についても特に問題はなさそうだ。年齢を重ねたことによる体質の変化等もないようである。

 ユーノも、自身の中で並立する二つの技法の運用の感覚を確かめてみるが───十一歳の頃と変わらず、順調に二つの流れ(エネルギー)が巡っているのが分かった。

「今のところ、問題はないです」

 ユーノがそう言うと、グランツは「うん」とひとつ頷いて、

「なら早速、次の段階に進むとしよう。ではユーノくん、盾の制御の方を……となると、フォーミュラを相手にする方がより特性を活かしやすいかな? なら───」

「アタシの出番、ってとこかしらね」

 指名に先立って、イリスが前に出てきた。

「随分とやる気ですね、イリス」

「当たり前でしょ。この中じゃ、アタシが一番『フォーミュラ』を使っていた時間が長いんだから」

 シュテルに言われて、不敵な笑みを返すイリス。

 確かに、フォーミュラの第一人者としては装備を介した試運転をする相手に対して、色々な思いも在るのだろう。特に、ユーノは以前の事件においてはフォーミュラを武装には応用せず、基本的には術式同士の融合と運用のみで戦っていた。

 しかしその割に、魔法を分解・無効化するフォーミュラに対して、魔力の結合を促進し、ユーリの生命操作を操る中で、それらを緩和させる結界を生成するなど、地味に当時イリスの計画を散々邪魔してくれた。だからというわけでもないが、これまで武装を使ってこなかったユーノが改めて使うというのなら、確かめて見たいという気にもなる。

「それとも、相手がアタシじゃ不満かしら? ねぇ、ユーノくん」

 背丈では、ユーノの方がもう既にだいぶ高い。けれど下から見上げながら、高圧的かつ妖艶に笑う姿は───かつての〝群体イリス〟を率いた際の女帝の如き(さま)を思い起こさせる。

 イリスはユーノを誘うように、ユーノを煽った。

 そこまで言われれば、ユーノとてただ引っ込んでいるばかりではない。

 「分かりました」と頷いて、イリスとの手合わせに応じる。そうして二人は、各々の戦闘装束を身に纏うと、射撃手(ガンマン)同士の決闘を思わせる間合いを取った。

「……言っておくけど二人とも、まだ試運転段階ではあるから、熱くなりすぎないようにね?」

「もちろん」

「判ってます」

 イリスとユーノへ向けて、グランツは一応の確認を取るも、二人の視線は既に相手に照準が合ってしまっている。鋭く視線を交わす二人に、「やれやれ」と溜息を漏らす。ただの試験運用程度のはずが、これでは最早試合である。しかしまぁ、二人の気質を思えば、それ仕方ないのだろうか———と、グランツが考え始めた辺りで、シュテルがこの手合わせの審判を買って出ると決めたらしく、前に出てきた。

「では、簡単な確認を。ひとまず加速機動(ドライブ)は、今回のところは封じ手とさせていただきますが……構いませんね?」

 シュテルの宣言に、ユーノとイリスはこくりと頷いた。

 加速機動を行わないのは、まだユーノがBJ(バリアジャケット)防護服(プロテクトスーツ)のシステムを完全に組み切ってはいないからである。

 『アクセラレイター』も『システム・オルタ』も、基本的には防護服(スーツ)に組み込まれたシステムによる補助機構。これが前回ユーノが補助役に徹して、加速機動は用いなかった理由だ。

 併せて、シュテルは転送魔法についても使用はなるたけ避けるようにと言ってきた。

 が、それもまた然り。あくまでも今回の手合わせは、ユーノに合わせた装備のテストを主目的として据えている模擬戦だ。搦め手を先行させる勝利より、確かめる動きこそが求められる。

 故に試運転の決着は、

「今回は師匠の拘束か、イリスの一撃が師匠に当たるか。簡単に言えば、先に初撃(クリーンヒット)を取った方の勝利とします。宜しいですか、二人とも?」

 分かり易く『守り』が突破されるか否か。また、敵の攻撃を搔い潜れるかどうかによるべきだとシュテルは暗に告げる。

 そして、二人にとってもそれに異論はない。

「「ええ/はい」」

 重ねられた問いに、二人は迷いなく応えた。

 揺らぎは一部とも存在せず、ただ始まりの(オト)を静かに、けれど鋭く張り詰めたまま待っている。

 さながらそれは刃の如く。

 そして、高められた鋭さは、シュテルの一言によって開戦の火蓋を切り落とす。

 

「それでは、存分に。───試合開始(スタート)です」

 

 告げられた合図に合わせ、イリスが即座に自らの武装を編み上げる。

 構えられたそれは、彼女らしい鮮やかな紅い輝きを持った拳銃(ハンドガン)。イリスのウェポンだけでなく、アミタやキリエの用いるアームズにおいても共通する、最も基本的なヴァリアントシステム由来の武装───『ヴァリアントザッパー』であった。

 イリスはそのまま一気に速射。

 当然ユーノもそれを防ぐべく、盾を続けて撃ち放たれた光弾を防ぐように翳した。

 抜き撃ち(クイックドロウ)じみた動作であったこともあり、放たれた光弾は四発のみ。一度に撃った為、次弾までには短いながらも(ラグ)がある。

 しかし、これはあくまでも初手の牽制。加えてユーノは、普段の魔法戦技とは異なり、生成した物理的な盾で攻撃を防いだ。試す必要があったのもあるが、半ば試合展開に近くなってしまった事もあり、彼にとってこの隙はなかなかに痛い。

「ま、そりゃ防ぐとは思ったけど───も、こんなもんじゃないわよね」

「⁉」

 イリスはもう片方の手で速射銃(バッシャー)を生成する。

 此方の形態は、かつてキリエがヴォルケンリッターとの戦闘で用いた事がある。射程こそ狭いが、機関銃(マシンガン)じみた連射だけでなく、散弾銃(ショットガン)としても扱える武装だ。もちろん、それなりに充填(チャージ)までの時間はかかるが、相手側は今のところ単なる制圧射撃代わりにあれを選択したらしい。

 今度は先ほどまで以上の連射に晒されるユーノ。

 余裕そうに片手撃ちを続行させるイリスに、肉体的なスペックに開きがあると改めて感じる。

 当時の『死蝕』に対抗するアミタやキリエも同様であるが、先天的か後天的かを問わず、過酷な環境に適応出来るだけの力を持っている彼女らは、単純に筋出力などの肉体面が優れている。

 それなりに大きな一撃でも撃たない限り、単なる射撃の反動程度ものともしない。

 尤もユーノの側も、今のところシールド本体と、周囲に生成されている魔力とエレメントによる防御膜が何とかしてくれてはいる。

 が、とはいえこのままでは埒が明かないのも事実。制圧射撃を破る何かが必要だが、どうするべきか。

 一度、空へ上がるべきか───と、そう彼が思った直後。

 イリスが両手の銃を合体させるようにして、得物を換装した。大型の迫撃砲(ブラスター)形態に変わったその銃口を真っすぐに狙いすまし、ユーノへ向けて撃ち放ってきた。

 ドッ! という重い銃声と共に盾へ被弾する一撃。

 被弾にこそ至らないものの、その衝撃はかなりのものであった。しかし、イリスとしてはこの結果は不満らしく───ジトっとした目でユーノへと視線を送りながら、ぼやくように呟いた。

「……はぁ、相変わらず()ったいわねぇ。製作に関わってはいるけど、流石に大した傷にもならないっていうのもイラっとくるわ」

「えぇっ⁉ そ、それはまた違うんじゃ……」

「そんなコトは分かってるわよ。単純に、いつまでも貫かれないアンタに腹が立ってるってだけ」

 流石にちょっとばかり理不尽である。……まぁ、似たような事は他でも言われ慣れているのでアレだが。主に模擬戦などで防御が固かったという意味で、相手側から。

 と、そんな益体も無い思考に及ぶのも束の間。

 イリスは苦笑いしているユーノに「ふんっ」とそっぽを向いてから、小手調べは済んだとばかりにギアを上げて行くと言ってきた。

「本番はここから、着いて来られるかしら?」

 不敵に笑うイリスだが、ユーノはまっすぐに「いつでも……!」と返した。それを聞いてイリスは生意気ねと言い放ち、そして。

「けど、嫌いじゃないわ───そういうのもねぇッ!」

 と、勢いよく地面を蹴った。

 威勢の良い相手というのは嫌いではない。故にこそ、ここからはもっと激しくなると自らの行動で示して見せるイリス。

 既に手の中の武装は次の形へと換装され、緋と黒に彩られた片手剣へと姿を変えていた。

 今度は近接戦か、とユーノは考えるよりも先に空へ上がる。魔法に比べると、フォーミュラの射砲撃の威力はそこまででもない。しかし使い手たちの肉体資質(フィジカル)面を鑑みれば、銃撃よりも直接的な分、剣撃の威力は折り紙付きだと言っていい。

 となれば、一度距離を離すべきだろう。

 フォーミュラと魔法では、魔法の方が基本的には空戦においては上手(うわて)だ。

 ユーノ自身そこまで()()に秀でているというわけではないが、一度距離を離すくらいならば十分───と、そう踏んでいた。

 しかし、

「遅いッ‼」

「っ⁉ 速───」

 い、と言い終わらないうちに、イリスの振るった刃がユーノの盾と激突した。

 今度は単なる余波(ひかり)というわけではない、鋼と鋼のぶつかり合った、本物の火花が空に舞い散った。

「ぼさっとしてると、その奥まで叩き込むわよ!」

「っ……!」

 苛烈な剣撃とは裏腹に、試してくるように、またもっと思考せよと煽り立てる言葉に急かされて、ユーノも改めて自分自身に喝を入れ直す。

 新しい装備だからといって、何もかもが知らないものというわけではない。使い慣れていないからと、その程度の理由で、乗りこなすための努力を放棄していい道理になどなるはずもないのだから。

 確かにユーノ自身は積極的にデバイスを用いるタイプの魔導師ではない。まともに使用したといえる経験は(ほぼ)なく、目的を持ってとなると、精々なのはに託す以前のレイジングハートを術式補助に使用したことくらいだ。もちろん、それでも魔導師とデバイスの関係としてはオーソドックスなものであるが、ユーノとレイジングハートは適性がズレていたので、本来の力を十全に発揮する事は出来なかった。

 自律思考型魔導端末(インテリジェントデバイス)と主となる魔導師(マスター)との間には、互いに互いの能力を必要とする相互関係が必要になってくる。そういう意味では、ユーノとレイジングハートは性格や趣向とはまた別に、適正───つまりは『魔導師と杖』の関係において相性が悪かった、と言える。

 故に、結界魔導師としてより、砲撃魔導師としての適性を伸ばすデバイスであった彼女とは相棒になれなかったユーノであるが、別段それがユーノの魔導師適性や、レイジングハート自身の適性を貶めるものではない。

 元々、ユーノを始めとする結界魔導師はデバイスを用いない術者が多い。そもそも戦闘における瞬時の判断や、多彩な戦術を組む必要がなければ、デバイスの役割はもっぱら術式補助と魔力の運用補助に振られる。

 要するに、自分自身で問題なく術式を高速で走らせ、魔力運用を行える魔導師であるのなら、デバイスを必須とはしない。

 その為、ユーノら『非戦闘系』である結界魔導師は本質的にデバイスを用いる必然性がない。例外的にリンディのように外部の魔力によって自身の魔法を増幅する魔導師もいるが、これはデバイスによる術式補助というより、魔力運用の範疇で、外部電源を自分に自らの意思で接続できるという稀少技能(レアスキル)によるものだ。

 が、それらを差し引いたとしても、ユーノがこういった戦闘に対しての経験が少ないのは事実である。

 けれど、だからこそ───まだ何も引き出せてなどいないというのなら、その為の試行錯誤の余地が必ずある筈だ。

 手合わせ(しあい)はまだ始まったばかり。

 何も出来ていなかった、或いは動けていなかったというのならば頭を回せ。動けないのなら、動けるようにする道を探せ。

 そう。託されたものは、こんなものではないハズだろう。

「チェーンバインド……っ!」

 意を決し、魔法を織り交ぜていく。

 牽制代わりに拘束魔法を放つ。翡翠色の輝きを伴った魔力(ひかり)の鎖が、イリスを放射状に取り囲む。その数は八つ。しかし、イリスは迫るそれらを見てもさして焦ることもなく対処して見せる。

「甘いわよ……ッ!」

 と、放った鎖は、彼女の鋭い叫びと共に()(はら)われた。

 流石に『解析』のみでどうにか出来る程度とはいかなかったが、それでも対処するのは容易い。鎖の群れをまとめて掃い除けたイリスは、すかさず二刀に持ち替えて次撃へと移ろうとした。

 が、切り払うひと手間を稼げたのならば十分。換装を行う隙としては、それだけでも事足りる。

布陣変更(チェンジ)三重展開(シフト・トリプレクス)……!」

 一枚だった盾を、三枚に変える。設計思想に含まれるフォートレスの基本布陣に近い展開だが、単に枚数を増やしたというだけでは意味がない。そもそも相手にしているのは近接型、物理的な壁であれば隙間から剣先を捻じ込まれでもすれば一撃で勝負が決まってしまう。

「数だけあっても、操れなきゃ意味なんてないわよ……ッ!」

 イリスの側も、此処での布陣変更はさして効果を生むまいと踏んだらしい。

 隙間を抉じ開ける気満々で迫る彼女を前にして、ユーノは肌に()り付くような緊迫感に襲われた。

 が、それも当然。

 イリスが強いということも、今この瞬間に対しての手抜きをしないことさえ、最初から承知した上での決断だ。故に、判っていて敢行したのであるなら、当然そこには何らかの意図が存在するのが道理である。

「まずは、一撃───!」

(───此処ッ!)

 振り下ろされた一撃に対して、ユーノは初めて()()()()()()()を発動させる。

「っ、……⁉」

 思ったような手応えがないことに、イリスも誘われたと悟ったのだろう。しかし、それではもう遅い。

「ワイド、プロテクション……ッ!」

「ッ⁉」

 魔法の起句を告げると、盾を介して増幅された魔法がイリスのぶつけた刃を弾き飛ばした。

 防御膜を形成するバリア系の魔法には、敵の攻撃を弾く性質がある。けれど本来、広域に展開する『ワイドエリアプロテクション』には、広域防御を可能にした代わりにその性質がない。

 だが、盾を起点にして使用することによって、通常とは異なり———より広範囲に防御膜を広げた上で、相手をより指向的に弾き飛ばせるように調整してある。

「こ、の……やってくれるじゃない……ッ!」

 相手の魔法を反射する魔法も多く存在するが、この魔法はどちらかといえば相手の力の分だけ衝撃を弾き返す。それゆえに元から重い剣撃を放ったイリスには、実に効果的であった。

 しかもご丁寧にフォーミュラの無効化(ぶんかい)も想定して膜を多重に構成しているのか、今回の攻撃は本体に当たる前に弾かれてしまったらしい。

 初使用でこれとは、本当に可愛くないことをしてくれる。

「調子いいじゃない。っていうか、出来るなら最初からしなさいよね……対処する手間が増えるじゃないの」

「最初から見せて、墜とされたくはないですから」

「あ、そう……それは愛弟子が見てるから、とかかしら?」

 眼下のシュテルに視線をやりながら、イリスはユーノにそんなことを問う。けれど、生憎とそれは少しばかり的を外した質問であった。

 ユーノは不敵に笑みを崩さないイリスに「いえ」と素直に首を振って、

「これでも、案外負けず嫌いなんです」

 それを聞いて、イリスは「奇遇ね」とくすくす声に出して笑いながら───次の瞬間、獰猛とさえ言えそうなくらい鋭く緋色にぎらつく瞳を向けて、

「あたしも嫌いなのよねぇ……やられっぱなしなのは特に、ねぇッ‼」

 両手の剣を別の形態(すがた)へと変えて、空を足場にでもしたかのように蹴って、再びユーノへ向かってきた。

 ぎゅん! と一気に空いた距離を詰めたイリスは、換装したザッパーで光弾を四方からバラ撒いて、ユーノの動きを封じに掛かった。

 加えて意趣返しもあるのか、イリスもまた(バリア)を貫通するように弾丸を調整しているらしいことが窺える。一度はSランクのはやての魔法さえ貫いてみせた彼女だ。補助を得たとはいえ、素の魔力量の多くないユーノには分が悪い。

 そもそも魔法を増幅するような調整がされているとはいえ、これは本質的にエネルギーを増しているわけではないのである。

 素の魔力量の割に周囲の化け物じみた面子と多少なり渡り合えるのは、ひとえにユーノの魔力運用の緻密さゆえだ。ただ、それにだって限界はある。フォーミュラの『外部に干渉する』性質を無理矢理に周辺魔力の操作にも当てることで、疑似的な循環、或いは集束に近い方法を取っているものの、一度崩れれば終わってしまう。

 下手に浪費させられては堪らないと、ユーノは盾たちの防御布陣を維持しながらも、なるべく被弾を避けて立ち回る。幸い、フォーミュラには魔法とは違い通常のエネルギー弾には、そこまでの追尾性はない───が、そこまで容易く対処させてくれるほど、イリスは甘くはなかった。

「膜が破れるまで、それか盾が欠けるまでぶつけるっていうのも悪くないけど……それだけじゃあ物足りないわよね。───だからここで、墜とす!」

 強く響いた声は、互いの間合いがそう遠くないことを示している。

 これ以上の加速は困難。となれば、迎え撃つしかない。けれどイリスはまた、銃から剣と武装を変えている。魔法による防御(たて)では防ぎきれるか心許ない。尤も、「所詮は模擬戦だ」と割り切ってしまえばそれまでの事である。

 だが、その程度で割り切れるのならば、初めから模擬戦で、ここまで熱くなんてなるわけもない。

(───まだ、こんなところで……ッ!)

 残された意地で盾を重ねるように翳した。

 イリスも獰猛な笑みを隠す事無く、益々輝きを強めた緋色の瞳は、一点のみを見据えている。

 最早、模擬戦なんて事柄は二人の脳裏から消えてしまっていた。

 ただひたすらに、負けまいとする意地が思考を加速させる。

「せぇああああぁぁぁ───ッ‼」

「っ、……ぐっ!」

 盾と刃が、再度激突する。

 周囲へと散らされた弾丸の雨を追うように、イリスは刃を真っすぐに突き立てて来た。

 強烈な刺突の一撃。しかし、事はそれのみには終わらず、イリスはもう一方の手に持った剣を更に盾へと叩きつけてくる。

 一枚目を突きから右へと払い除け、その次撃で二枚目を弾き飛ばすと、最後の盾へ蹴りを叩き込んだ。かなり強引ではあったが、だからこそより直接的(ストレート)な威力で以て、ユーノを襲う。

(開いた!)

 生んだ隙を、今度こそは逃すまいとして、イリスが拳を見舞った。

 このままではクリーンヒットは確実、ならせめてと魔法で防御を試みた。円を象る盾が、迫る拳を阻むが……。

「さっさと……墜ち、な───さいッ‼」

 邪魔だとばかりに、イリスはもう一度ユーノの円盾(ラウンドシールド)へ、いっそうの力を込めた殴打を叩き込んだ。

 拳が、盾を抉り、穿つ。

 障壁を越え迫る決定打が、戦いの終局を告げようとしていた。しかし、耐え切れなくなった盾が音を立てて罅割れる刹那───ユーノは最後の最後で、悪足掻きを試みていた。

「───捕獲楔子(キャプチャー・ウェッジ)ッ!」

 ユーノの叫びに合わせて、掃い除けられていた盾から四つの楔型の小型機が飛び出した。喚び出された自律楔子が、盾から飛び出してイリスを取り囲む。

「ッ……⁉」

「囲え……ッ‼」

 その声に合わせて、楔子が魔力の障壁を作り出してイリスを閉じ込める。もう勝負はついているが、半ば本能的に自身を囲った魔力障壁を殴りつけるも、正八面体(ダイヤ型)檻籠(ケージ)はビクともせず、淡い翡翠の光を放っていた。

「…………!」

 ぎりっ、と歯軋りをして、苦々しい表情(かお)でイリスは眼下へと墜ちていくユーノを睨みつけた。

 ユーノの方もイリスを向いており、もう地面との激突は必至。大人しく緩衝陣(フローターフィールド)を敷くことに集中すればいいものを、ユーノは最後の最後まで、諦め悪く喰らいついてきた。

 ……確かに、円盾(ラウンドシールド)は貫いた。けれど、本人にもクリーンヒットしたかといえばそれは怪しい。だから終わっていなかったとでもいうのか、単に意趣返しだったのかは分からない。

 だが、ユーノは墜ち行く体躯を放り出しながらも、その操作(しこう)だけは絶対に止めなかった。

 見上げ、見下ろし、この語に及んで交錯する視線は火花を散らしている。

 戦いは、決して長いわけではなかった。

 しかし、ぶつかり合い、火花を散らし、何処までも何処までも加速して行って───この終着(おわり)までの空白は、酷く長く感じられた。

 

 程なくして、ユーノが地面に叩きつけられた音が周辺へと響き渡る。

 気づけば雲は流れ切り、出鱈目に蒼く染まった空の下で行われていた戦いは、ついにそこで終わりを告げたのだった。

 

 

  3

 

 

「お疲れさまでした。師匠、イリス……善き試合を見せていただきました」

 戦いを終えた二人を労うシュテル。だが、イリスの方はどこか納得しかねている様子で、不満げに顔をしかめていた。

「最後の最後で……やってくれるわ。ホトホト感心するわよ、その往生際(あきらめ)の悪さには」

「まぁ、その……なんというか、負けるのがほぼ確定した状況でしたから……」

 チクチクと刺さる様なイリスに苦笑を返しつつ、ユーノはそう応えた。

 元々支援型のユーノは、基本的に単体で戦うという事には特化していない。それを考えれば、次へ繋ぐ様な行動は間違いではなかったと言えるだろう。

 ……が、実際のところは、もう少しシンプルだったかもしれない。

 あの瞬間、複雑に組まれた理由が彼の中にあったのかと言えば、そうでもなかった。

 負けたくない、たったそれだけの意地。

 勝敗になんて意味もなく、当たり障りなく済ませることだって出来た。しかし心は正直なもので、一度白熱した本能(しょうどう)は止めどなくなだれ込んでくる濁流みたいに、理性や妥協なんてものを呆気なく吹き飛ばしていった。

 らしくない、と言ってしまえばそれまでだが───それでもユーノは、負けると判った瞬間だったからこそ、死中に活を探そうとした。

 そうして出来た結果が正解かどうかは分からないけれど。

 形を得ないものであっても、最後まで手放さなかったものは、決して無価値ではなかったと、ユーノは思う。

「ありがとうございました、イリスさん。ここまでしてもらって」

 だからこそ、彼は素直にイリスへの感謝を述べた。

 それを受けて、イリスはこそばゆいのか、「ホントにね」なんて口を尖らせる。だが、そっぽを向きながらも、ポツリと。

「……けどまぁ、経験も無いのに、初めてにしてはそこそこ動かせてたみたいでよかったわ」

 あんまり素直でない口ぶりだったが、ユーノがそれなりに新しいモノを使いこなせていたと言ってくれた。

 それがとても嬉しくて、ユーノは微笑みを深めた。

 力を貸してくれた人たちの好意を、無駄にはしていないと言ってもらえた様な気がしたから。

「……ありがとうございます」

 重ねてそう礼を告げるユーノ。

 だが、イリスは「もう良いわよ」と手をひらひらと振って見せながら、もっと言うべき相手がいるだろうという。

「お礼を言うならグランツくんの方に言いなさい。アタシたちもいろいろやったけど、開発者は彼なんだから」

 言われて、「はい」とにこやかに頷くと、ユーノは(みな)と共に傍らに来ていたグランツにお礼を言った。

「遅くなってすみませんでした、博士。無茶な頼みを聞いて貰って、造って頂いて……本当にありがとうございます」

「いや、此方こそなかなか刺激的な時間を貰えたよ。それにユーノくんもかなり製作過程には関わってくれたし、そう畏まらないでも良いから」

 きちんと頭を下げていたユーノにくすぐったそうにそう告げて、グランツは顔を上げるように促した。

「それにしても……不思議なものだね」と、グランツはポツリと零す。

 何が不思議なのだろうと、ユーノが訊ねた。すると、グランツはこう応える。

 こういった分野は苦手だった筈の自分が、惑星の再生という本懐を遂げた後にも、こうして研究を続けているといるのは、なんだか不思議だと思ったのだと。

 元々、グランツの開発した防護服(フォーミュラスーツ)は、市長からの依頼で危険生物への対処を目的にしたものだった。

 惑星再生委員会においても同種の研究はあったが、当時はまだ危険生物の脅威もそこまで問題視されておらず、裏で行われていたものを除けば戦闘における研究は盛んというわけでもなかった。

 それらを引き継いで発展させたグランツ自身も、基本的には『星の再生』と『悪化した環境への適応』を主軸に置いて研究を進めていた。しかし、刻一刻と変化していく星の環境(すがた)に、道を見出すために現実を見る必要があった。

 年月(としつき)を追う毎に、星を去っていく人々。

 枯れ果て逝く緑と、荒廃を続ける大地。

 死への路を辿り続ける星を甦らせる為に、人が再びこの地に根を下ろす事が出来る様にと、守り導く力が求められていた。危険を前にして足を竦ませるだけではなく、向き合い立ち向かえるだけの力が。

 けれど、そうした想いは、決して正解だけを見せてはくれない。

「僕は星を蘇らせることを人生の目的にしていた。今でもそれは変わらないし、これからもエルトリアを見守っていきたいと思っている。これは研究者としての、僕自身の矜持でもあるからね。

 ただ、その想いは間違っているとは思ってはいないけど……少なからず夫として、父親として、家族に大きな重石を背負わせてしまってもいたから。気づけていなかったらと思うと、それが何よりも恐ろしい」

 心配をかけてしまう事そのものではなく、気づけていなかったかもしれないという事が、何よりも恐ろしいと、グランツは思った。

 何時でも寄り添ってくれた妻にも病を背負わせて、愛している娘たちを遠き星へも駆り立てさせてしまった。自身の願いを汲んでくれたからこそ、険しい路へ足を踏み入れさせてしまった。

 

 後悔云々の話ではなく。

 これは、ひとつ間違えば『何も残らなかったかもしれない』ということ。

 

 今あるものは、(たぐ)い稀なる偶然が呼び寄せた幸運が、信じ繋げた想いが呼び寄せた奇蹟が織り成したものだ。

 無論、誰しもが自分に出来る事を必死に手繰り寄せた結末を、その一言で片づけるつもりはない。

 けれど、そこへ至るまでに半ば諦め掛け、折り合いをつけてしまうところだった生命を拾って。また家族と共に過ごせる日々(じかん)を得て。辿り着いた、未来への路を見てしまっては、そうしたものを感じてしまうのも無理からぬことだろう。

 ()に不思議なものだ。願いや祈りと言った、『想い』というものは。

 時にそれは無限にも等しい希望であり、時に底の見えぬほど深い絶望でもある。

 ヒトが生きて行く中で切り離せない根源的なモノでありながら、決して明確な形にはならない、非常に厄介な存在だ。

 これらは容赦なく、容易く在り方(カタチ)を変えて……不安定で、真逆な側面を常に両立して持ち続けている。

 しかし、だからといって、どちらの面にも偏ることは許されない。

 惰性的な弱さを許容するのと、こうした『想い』を胸に掲げるのは違う。

 傷だらけになっても、泥の中で溺れ藻掻いたとしても。

 絶望と希望は背中合わせで、世界に敷かれた条理(ことわり)が優しくないのだとしても。

 その合わせ鏡をどういうものにするのかを選び取るのは、何時だって結局は、最初に掲げた者と同じ……ヒトの『想い』に他ならないのだから。

 

 そして今、一人の少年が自らの想いを形にしようとしている。

 

 エルトリアとミッドの資料や技術の交流が始まったきっかけは、様々な思惑(エゴ)に塗れたものではあったけれど。仕方のない事でもあったし、何より幸運なことに、関りを持った人たちはとても善い人たちであった。娘たちの事を思い遣ったと解る措置をして貰えて、後悔する道理もない。何よりも発端には自分自身が関わってもいたのだ。今を過ごせている事への感謝こそあれ、後悔などする筈もない。

 だからこそ、とグランツは言った。

「苦手なものでも、見ないでいて良いという理由にはならない。利己的な考え方かもしれないけど……出し惜しんではいけないと、僕は思う。これから、また『何か』が起こってしまうかもしれないというのなら、尚更にね。

 その上で、覚えて置いて欲しいんだ。この力は───『フォーミュラ』は、星や人々を守り、導く為のものだという事を」

 グランツはユーノに『フォーミュラ』や『ヴァリアント』といったエルトリアの技術を提供するに際して、かつて姉妹(むすめたち)に語った言葉を、再び彼にも伝える。

 そうして(おも)いを伝えると、ユーノもまた、「はい」と応えた。グランツ博士の心をしかと受け止め、託された力の意味を違えないと誓う。

 手の中にある小さな重みを確かめながら、決して無駄にはするまいと。

 と、改めて覚悟を噛み締めているユーノに、イリスがふとこんな事を言って来た。

「そういえば、名前って付けたの?」

「え……名前、ですか?」

「そ。ウェッジとかシールドとか、名称(きごう)はあるけど、アタシたちのアームズやウェポンと同じで、何か名前があった方が、近くに感じるもでしょ?」

 言われてみれば、とユーノは思った。

 人格搭載型でこそないが、これから命運を共にし、支える為の力となる愛機に対して、一方的に心を載せるだけの器というのも、些か簡素過ぎる気がする。しかし、思い立ってはみたものの、即座に浮かぶかと言えばそうでもないわけで。

「そういえば……まだ考えてなかったです」

 素直に応えると、ならちょうどいいから今考えてみたら? とイリスは言う。

 するとそれに乗っかって、皆もふむと首を捻る。もちろん簡単に浮かぶものでもないのだが、レヴィだけはノリノリで名前を挙げて行った。

 曰く、『隼人ノ盾(はやびとのたて)』や『真経津鏡(まふつのかがみ)』とか諸々。どうにもレヴィは漢字系統の名前が好きらしく、自身の技にもふんだんに盛り込んでいたもする。目覚めたばかりの頃からその傾向があったので、よほど地球(とりわけ日本)の何かが彼女の感性にバッチリ引っかかったのかもしれない。

 機関銃(マシンガン)さながらに雪崩込むアイディアに圧されつつも、ユーノもちゃんと考えねばと頭を回していく。

 が、しかし。

(……名前、名前か……)

 頭を捻ってはみるが、中々これというものは浮かばない。そこまで凝る必要はないのかもしれないが、かといって簡潔過ぎるのも風情に欠けるというもの。

 うーん、とユーノは小さく唸る。が、それを見てイリスは彼にこういった。

「そんなに一から考えようとしなくても良いんじゃない? アタシの名前も、元は躯体名称から捩った愛称(マスコットネーム)だったし。

 システムとか機構は、ヴァリアントだけはなく、ユーリとかなのはちゃんのも基にしてるんだから、その辺りから考えてみるのも良いと思うわよ」

 これを聞いて、ユーノは成程と思った。

 確かに、この新しい装備はヴァリアントシステム由来のモノではあるが、機構にはデバイス用素材(フレーム)なども組み込んでいる為、厳密には純然な『アームズ』や『ウェポン』とは少し異なる。系統としては、なのはがRH(レイジングハート)にヴァリアントコアを取り入れたのと近いが、なのはが基本を魔法主軸にしていたのに対して、此方はそれぞれの要素を半々に設定してある。

 またイリスの言った通りなのはの『フォートレス』やユーリの『魄翼』の特性なども基礎に取り入れている為、形態を変化させ自律的に扱えるという意味では、ユーリの『鎧装』が一番近いといえよう。尤も、あくまでも近いというだけで、『鎧装』の様に完全に遠隔操作のみを主軸に置いているわけではない。現段階では『盾』のみだが、今後は試行的に近接用にも幾らか形態を増やす算段がされてもいるのだが。

 とはいえ、だ。

 やはりこの装備の主軸となるのは、やはり『盾』だろう。

 『フォートレス』や『魄翼』に類するものとして、それらに肖った名前を付けるのだとしたら───。

「……イージス、とかですかね?」

「ふぅん……。地球の伝承に在った盾の名前だったかしらね。ある神が娘に与えた、厄災を祓う盾って話だった気がするけど」

 流石というべきか、地球にある神話の知識なども、イリスは頭に入っているらしい。

 元々が星を開拓・再生する為のテラフォーミングユニットだった彼女だが、付け加えられた機能によって記憶を司る側面も持っている。加えて意識体として遺跡板に張り付いていたこともあったので、彼女の情報処理能力は、知恵の迷宮(むげんしょこ)を拓いたユーノにも劣らないものがある。

 と、そう周囲が感心している間も、イリスはつらつらと知っている事柄を語っていく。

「確か、その辺から転じて防衛システムの名前にもなってるんだったかしら。使用者を守る城塞や、闇に対する翼に肖るモノとしては、それなりにイメージもあってるかもしれないわね」

 悪くないわ、とイリスが言うと、周りの皆も同じようで、一様にユーノが示した名に頷いていた。

「うん、僕もとても良いと思うかな。その名前は」

「そうですね。ユーリたちの流れを牽いた、ユーノくんの武装に合っていると思います」

「父上殿と母上殿もこう仰っておるし、ひとまずシステム全体の名はそれでよかろう。あとは、装備としての名の方か。一応、そちらもあった方が良かろう? 何せ、(うぬ)の装備はデバイスともアームズとも異なっておるのだからな」

 フローリアン夫妻の同意に次いで、ディアーチェがそう言って来た。複合的なものを扱うのであれば、別々のイメージを持ってくるよりは、合わせた新しい区分を示すべきだという事なのだろう。

 また頭を捻らねばと思ったユーノだったが、そこへ今度はアミタからこんなことを告げられた。

「それなら、こういうのはどうでしょう。この武装は、ヴァリアントアームズやウェポン、そして魔導をそれぞれに融合させて、同時に運用しているわけですから……。それぞれを繋ぐ、わたしたちの武装に次ぐ三番目の姉弟(きょうだい)機として───『ヴァリアントギア』、というのは」

「ギア?」

「ええ。魔法とフォーミュラ。それぞれに付随する技術を併せ持ち、それらを繋ぎ合わせる歯車(モノ)……といった意味を込めてみました」

 アミタがそう纏めると、ユーノは口の中で彼女の付けてくれた名を繰り返してみた。様々な繋がりを示す名は、どこか暖かい。自分程度にはという思いさえ浮かびそうであったが、そんな感慨を抱くのは、名付けてくれたアミタに失礼だ。

 認められた絆を、自分から切るような真似は、決してあってはならない。名付けてもらった名を受け取ると決め、ユーノはアミタにお礼を告げた。

「ありがとうございます、アミタさん。有難く、その名を頂きます」

 そういったユーノに「お気に召したのなら良かったです」と、アミタもまた微笑みを返した。

 

 と、そこで凡その作業は終了し、一先ず終わりを迎える事となった。

 使用後の整備にも特に問題はなく、今後も必要に応じて幾らかの機能を増設していくかもしれないといった話をしたが、それ以上の事は特になかった。

 そのままユーノはフローリアン家にもう少しだけ滞在して、一家の仕事を手伝うなどした後、ミッドへ帰還することになった。

 シュテルは非常に残念そうであったが、こればかりは仕方がない。レヴィと今度はフェイトたちも連れてきてねといった約束などをして、ユーノはさっそくミッドチルダへの帰路(みち)を辿る事に。

 そうしてユーノは程なくして時空管理局の本局へと至った。

 着いた時刻は、四月二十九日の夜。ちょうどなのはたちがミッド北に行った日に重なる。この前のなのはたちはああいっていたが、時刻はもう夜で、今から行くというのも水を差すような気がした。

 なので、ユーノは一旦自宅に戻ろうかと考えていたのだが───ちょうどその矢先、転移門(ゲート)から外に出たところで、何か違和感を覚えた。

 

「??? なんだろう……」

 

 局内が、妙に騒がしい。

 何か事件でも起こったのだろうか。いや、それにしても雰囲気がいつもより荒々しいような気がする。

 単に大捕物というだけなら、こうはならない。

 ならばもっと別の類いかとも思ったが、あまり想像出来る事は多くない。というより、あまり思い込みで動く方が危険だと考え、ユーノは通りがかった局員に、何かあったのかを聞いてみる。

 すると、尋ねられた局員は焦りを強く滲ませながら、堰を切ったようにこう言った。

「大変なんです……! 現在、ミッド北部第八空港にて、大規模な火災が発生。原因は未だ不明ですが、どうにもただの火災事故という訳ではないらしく……今、地上()だけでなく、本局(こちら)の魔導師にも要請が掛かるほどで……‼」

「な……本局にも、ですか?」

「ええ、なんでも現場の消火が上手く立ちいかないとかで……。第八空港は、それなりに外部との交流もありますから、何かしらのロストロギアが絡んでいるかもしれないとの疑いも……」

 そんな───と思ったが、可能性はゼロではない。

 実際、こうも慌ただしくなっているのがいい証拠だろう。

 何か、通常では起こり得ない事が起こっている。それだけは、帰ってきたばかりのユーノにも理解できた。

 そこまでの話を終えて、説明してくれた局員は、自身にも呼び出しが掛かっているということで、足早に駆けて行った。その背にお礼を告げつつ、ユーノは短く逡巡を行い、自らの行動を決める。

 茫然としている暇もない。

 即座に元来た道を戻り、再び転移門(ゲート)起動させ路を拓く。

 現在、局内が慌ただしかった事と、転送魔法が得意だったのが幸いした。ユーノはさして手間取る事も無く、帰って早々に本局を後にする。

 

 ───もちろん、その行先は迷うまでもなく決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間 後奏(はじまり)へ、交わり響く物語へと捧ぐ

 

 

 

 どうしてこうなったのか、そんな事は分からない。

 

 いつもの、当たり前の様に。ただ、大好きなおとーさんに会いに行こうと、三歳年上のおねーちゃんと一緒にここへ来た。

 

 普段はあまり来ない、鉄の鳥の巣。

 

 広くて、大きいこの場所は、とっても楽しそうな場所に見えた。でも、見るもの全部が珍しくてはしゃいでたら、気づいたら迷子になっていて……。

 

 だけど、恐くはなかったから、「探検だ」なんて、そこら中を奔り回ってた。

 

 きっと、この探検が終わった頃には、おねーちゃんが見つけてくれていて、「心配した」って叱られて。それから何時もみたいに、「ごめんなさい」をして。

 

 それで、全部終わるんだって、そう思ってた。

 

 「行こう」って手を引かれて、しっかりと手を繋いでから、お父さんのところに会いに行くんだって。

 そうなるんだって、思ってたのに───

 

 

 気づけば独り、何が起こったのかも判らないまま。

 弱くて脆い小さな身体を、朱くて、紅い、真っ赤な海の中に晒しながら───ひとりぼっちで、そんな灼けついた地獄を彷徨っていた。

 

 

 そう。

 青い星の始まりは───こんな、赤く焼け付いた地獄から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転章 Ⅳ

 

 

 

 焔が躍る。

 鉄の鳥が住まう巣を囲み、自らの色に染め上げて行く炎。

 

 赤く、朱く、紅く───そしてなお、(あか)い。

 

 (いや)、むしろもう、(ソレ)は黒くさえあった。

 その色の元となったモノを思えば、ある意味この陰鬱な光景もまた、生命の色なのかもしれない。

 

 蒼穹(てん)まで焦がす、というのはこういう事か。

 

 果ての無い天蓋(そら)さえも穿ちかねない程に立ち上った熱の柱を見ながら、ふとアネモイはそんな感慨に耽っていた。

 そこへ、この地獄には不釣り合いなほどアナログチックな音がする。

 繋がれた通信(まど)の先には、眼鏡をかけ、髪をおさげに結った、見慣れた少女の顔があった。

「クアットロですか」

《ハァーイ♪ いつでもどこでもあなたのお傍に、出来るオンナは四番こと、クアットロでございます♡ アネモイさん、そちらの手筈はいかが?》

「問題はないさ。ノトスも、上手くやっているみたいだからね」

 視線を向けた先にいる弟の姿を、画面越しにクアットロと呼ばれた少女に見せる。

 見慣れた姿ではあるが、場所を考えると些か不釣り合いにも思えそうだ。

 十と少しといった風貌は酷く幼い印象を与え、まさか周囲一帯に張り巡らせた毒の雲海を彼が造り出したなどとは、凡そ他者には思い至るまい。

《それにしても、ノトスちゃんは随分と張り切っちゃってますねぇ。おかげでわたし達のISもほんの少しとはいえ影響を受けちゃってますしぃ~?》

「それは済まない。だが、許してやってはくれまいか。何せ初舞台だ。気も逸るというものだろう?」

 悪戯っぽく()うクアットロに、アネモイは素直に謝罪を述べた。しかしその上で、どうか許容して欲しいと頼む彼に、クアットロはやや拗ねた様な顔をする。

《あらあら、弟想いなお兄様ですこと》

「無論、君もだよ。レディ」

《これまたお優しいことで……。け・ど、あんまりお安いと旨味に欠けてしまいません?》

 皮肉っぽい言い分であるが、彼女のそういった言動には慣れていた。むしろ、彼にとってクアットロの態度はいじらしくさえある。

 素直ではない、と微笑み、アネモイは姫君に従う騎士の如くこう告げた。

「もちろん、努力は惜しまないさ」

《うふふ。なら、楽しみにしていますネ。では、また───》

 通信が途切れると、窓の消失に合せて先にあった焔が揺らめいた。

 ヒトの本能という奴なのか、不思議と引き付けられる気がする。しかしその感慨は、傍らから掛かる声でふわりと融けた。

 

「クア姉様(ねぇさま)の方は順調ですか? 兄様(にぃさま)

「ああ、程なく終わるだろうさ。彼方(あちら)はこういう事に特化しているメンバーが揃っているからね。炎が上がった時点で、既に目的は済んだようなものだ。もちろんノトス、君の力も在りきだが」

「ありがとうございます、兄様」

「構わないさ。因みに、範囲は何処まで制御出来たんだい?」

「この空港の区画全体には効果は及んでいます。ただ、完全に力が働く範囲は僕を軸とした半径五〇〇メートル圏内と言ったところでしょうか。効果範囲外では、そこまでの効果は見込めません。単に威力だけで言えば、やはりボレア兄様の力の方が魔導師相手には有効かと思われます」

 つらつらと、初めての戦場で行使する自身の力を分析して見せるノトス。

 なんとも頼もしい事である。しかし、やはりどこか高揚に任せ、逸っている部分も感じられた。

 あまり長引かせるのも良くはないだろうか。

 と、アネモイがそう思ったところで、クアットロから任務完了(ミッションコンプリート)の報せが入ってきた。

 それを受けて、頃合いだと判断したアネモイはノトスに撤退を呼び掛ける。

「ノトス、向こうもひと段落したようだ。我々も、そろそろ戻るとしようか」

「もう少しだけ、ダメでしょうか? まだ、完全なデータは……」

 引き上げるかというアネモイに、ノトスはやや渋った様子を見せる。もう少し力を試したいというが、あまり力を無茶に使っては感覚が狂うとアネモイは言う。

「それにだ、弟よ。引き際を図る事も、実戦においては必要な心構えの一つだ。何より、私たちに課せられた今回の役割を、忘れたわけではないだろう?」

「……分かりました」

 そこまで言われてしまえば、これ以上反論は出来ない。ノトスは不承不承ながら、兄の言うことを聞き入れた。

 行くぞ、と炎の中に歩み出した兄を追うべく、ノトスは能力の解除を行おうとした。

 

 ───が、その時。

 

 効果範囲(エリア)全体のISを解こうとしたところで、ふと自身の敷いた毒霧に何か、違和感を覚えた。

 敷いていた力のフィールドが、何か違うものに変換さるような感覚。

 魔力素とエレメントを誤認させ、魔導師に対して疑似的な魔力不適合。つまり、循環不全を引き起こさせるのが、ノトスの能力(IS)だ。そして、彼が感じ取った違和感は、その逆を行く力。歪められた力の流れを正し、強めるようなものである様に感じられた。

 劣っているつもりはないが、面白いものではない。

 端的に言えば、ノトスはその力が気に入らなかった。───けれど、もはや撤退を決めた今となっては、それは反証に値しない。どうせ、父親(ドクター)たちも何かしらの監視記録をつけている事だろう。

 であれば、ここから何が起ころうとも、それは後から調べ、邪魔なものであれば対策を行えばいい。

 そもそも、これはまだ───全ての狼煙(さきがけ)に過ぎないのだから。

 そう当たりをつけて、不意に過ぎったものを捨て置くと、ノトスはそのまま兄の後を追い歩き始めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 アネモイとノトスが持ち場を立ち去る、ほんの少しだけ前。

 発火源(ひもと)となった倉庫区画では、クアットロが姉と妹たちと共に、最後の仕上げに取り掛かっていた。

 

「ふふふ、ご苦労様でした。ですが、お生憎様なコトに、これはみーんな頂いていきますので悪しからず~♪」

 取り上げた『品物(たから)』をチラつかせ、足蹴にした『運び屋』を見下ろしながら、クアットロは嘲るようにそう告げた。

 その姿はどこか、契約(だいしょう)に応じて人間を罠に嵌めた悪魔にも似ていた。いや、もしかすると、そんなものよりも質が悪いかもしれない。

「……あく、ま……め……ッ!」

 が、ぼたぼたと血を溢しながらも、『運び屋』は睨む事を止めずにいた。煮えたぎる憤怒に顔を歪め、己を踏みつけにする()()()への憎悪をぶつけている。しかし、そんな視線さえも心地好いとばかりに、クアットロは口元を悦びに歪めていた。

「あははっ! 良い顔してますよ~、運び屋さん。可愛らしいですねぇ、こんな状況でもまだ口が聞けるなんてぇ♡」

 焼け付く空気(ねつ)の中に、哄笑が高く響き渡った。

 どうしようもなく感情を逆撫でにするクアットロの態度に、『運び屋』の男はありったけの恨み言を吐き出そうとした。

「こ、の……ッ! 人形どもがァ───ごぎッ‼⁉⁇」

 だが、それは呆気なく止められる。貴様如きに呼ばれる謂れはないというように、横から別の足が頭蓋を踏みつけ、男の口を根本から塞いだ。

「閉じていろ。貴様の生命(やくわり)は、既に終わっている」

 冷淡に、金属質な瞳で男を見下す女は、クアットロの姉に当たるトーレであった。

 今回の任務へと赴いた面子において、直接戦闘を目的として駆り出された武闘派である。

 『運び屋』を最初に捕らえたのも彼女だ。幾らか情報を引き出す目的もあった為、ここまで口を開かせておいたが、生憎と単なる下請けだったらしい。

 一度アネモイが読み取ったが、精々が他の区画に潜んでいた仲間の情報と、ケースの在り処が引き出せた程度。余興代わりにと、クアットロが指名したので、目的の品を発動させる瞬間に立ち会わせもしたが、もうこれ以上は無駄だろう。

 アネモイたちも、とっくに残りの始末は着けた。

 故に、後は離脱するのみなのだが───。

「やぁだー、トーレ姉さまってばこわ~い。ふふふっ」

 クアットロはまだ、どこか遊び足りない様子を覗かせる。物好き(サディスティック)な妹に、トーレは呆れた様な溜息交じりに咎めた。

「嗤いが隠し切れていないぞ、愚妹(クアットロ)。私とて、お前のその腹黒さには負ける」

「あー、姉さまってばひっどぉーい」

 分かり易くぶりっ子して見せるクアットロに、トーレはますます呆れたような溜息を漏らす。するとそんな二人を、一緒にいた水色の髪の少女が呼んだ。

「ねぇねぇ、トーレ姉、クア姉。まだ出発しないのー? あたし、もうここ飽きたよ~。管理局の連中もそろそろ出張ってるみたいだしぃ」

「そう急かすな、セイン。心配せずとも、もう出る」

「それじゃあセインちゃん、おねーちゃんたちの事よろしくねぇ~♪」

「はいよー。それじゃ、IS・無機物潜行(ディープダイバー)。超特急で行きますよ~!」

 セインの力が発動したと示す陣が現れ、クアットロとトーレは彼女に掴まると、そのまま()()()()()()()()()

 が、その時ふと───クアットロもまた、ノトスの感じたのと似たような違和感(かんかく)をその身に受けていた。

(あらあら、まぁまぁ……。なーんだか懐かしい反応が一つ……いや、二つですかねぇ? それに次いで、これまた分かり易い馬鹿魔力が三つ、と……ふぅん♪)

 周辺感知から感じ取った反応は、なんとも面白い構図になっていた。しかし、今の彼女たちはもう十分に場を掻き回したばかりだ。

 となれば、あとはどうなるかもまた運命次第。

 

(───はてさて。(ゼロ)(エース)は、どんな組み合わせになって帰ってくるんでしょうねぇ……?)

 

 (いず)(きた)る『約束の時』に、果たしてこの数奇な巡り合わせは、どのような結果を結ぶのだろうかと。

 (よこしま)に、けれど(たの)しそうに。

 意地の悪い()みを浮かべながら、クアットロはその場から去って行くのだった。

 

 仕込みは終わり、既に賽は器へと投げられた。

 あとはただ、始まりを待つのみ。

 

 回りだした運命は、ここから始まる。

 ───見送られた(ゼロ)は、やっとここで、(エース)出会う(いたる)為の路へと分かたれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さながらそれは、流星の如く A_Falling_Star.

 

 

 

  1

 

 

「……くそッ‼ 何て勢いだ……っ」

「隊長……ッ!」

「分かってる……解かってるさ‼ ここを突破しなけりゃいけないって事ぐらい───、ッ⁉」

 意志を持って、立ち入るものを拒むかのように。

 火の手が、そこへ踏み入ろうとする消防部隊(ものたち)を阻み、襲った。

 燃える、なんて言葉ではもう足りない。火の海という言葉でも言い表したりないくらいの惨状(こうけい)が、眼前(めのまえ)に広がっている。

 それなりの場数を踏んできたつもりであったが、火消し役の身としても、こんな状況は滅多に遭う事はなかった。

 端的に言って、今回の状況は酷いものだ。

 急に起こったというのもあったが、災害というものは常にヒトの都合など聞いてはくれない。ごくごく当たり前の道理ではあるが、だからといって、それがイコール納得につながるかといえばそうはならない。

 ましてや、ヒトの命がかかっているのだから猶更に。

 現状、空港内に取り残された人々の内、九割方の救助は完了している。

 とはいえ、その大部分が発火源(ひもと)から遠い場所にいたエントランスホール内の乗客たち。職員たちも含め、入り組んだ場所に置かれていた者は火が起こってから、しばらくの間取り残されてしまっていた。

 彼らの隊が到着したのち、ひとまず浅い部分にいた人たちは救助を行った。

 しかし、いつもだったら共同で救助活動を行う救助隊の魔導師たちが、謎の不調に陥る事態が発生した。

 この折り重なる事態に、救助は混乱を深めた。

 もちろん、誰しもが指を加えて見ていた訳ではない。当然ながら、少しでも事態を改善させるために、幾らかの無茶を敢行した者もいる。

 助ける為の仕事は、決して理想通りの慈善事業ではないけれど。

 たとえ仕事であっても、現実と折り合いをつけながら、誰かを守りたいと思う心を捨てられるはずもない。

 仕方がないからとか、無理だとか。

 その程度の言葉で片付けられてしまうのならば、初めからこんな場所に居る筈もないのである。

 

 だから、という訳でもないが───。

 そんな人の意志は、決して無意味ではないのだろう。

「何とかならないのか……っ」

「隊長! 今、本局からの応援部隊が動けるようになったそうです!」

「駄目だ! 今からでは遅すぎる。まだ中に子供が取り残されているんだぞッ⁉」

「それが、本局からとは別に、応援に来た魔導師たちが奥へ向かったそうです。我々は、消火作業を優先するようにと」

「……何?」

 先ほどまでの不具合はどうなったのか。というより、本当にそちらへ任せきりでいいのか。疑問が幾つも頭を過ぎるが、しかしここで問答を重ねても意味が無い。

 事は一刻を争い、その僅かな間ですら人命を左右する。少なくとも指示系統がこの判断を妥当だと下したのであれば、此方は仲間を信じ、己の役割を果たすべきだ。

「分かった。それで、向かったのは誰だ?」

 が、それでも一つ納得を得る為にそんなことを部下に問う。

 疑うのとは少し違う。何せこんな仕事だ、役割(せなか)を預ける仲間(あいて)の名を知るくらいの事は許されてしかるべきだろう。

 訊かれた側もそれを理解しているらしく、応えは直ぐに返ってきた。

「一人は現役の執務官で、もう一人の方は例の教導隊のエースだそうです」

「なるほど。納得したよ、あのエース・オブ・エースか」

「ええ」

「なら、こちらも向こうに負けているわけにはいかないな。俺たちも俺たちの役割を果たす。だが、消火に切り替わったとはいえ気を抜くな。細心の注意を払い、事に当たれ!」

「「了解ッ‼」」

 自分たちに喝を入れると、消防部隊もまた自らの役割を果たすべく動き出す。

 

 そうして、人々の意志が重なり行く。

 降りかかる災厄に抗い、己が心を貫く為に。明日へ向かうべく、闇夜を焦がす炎へと立ち向かう。

 ───どこかそれは、星座に似ていた。

 大昔の人間たちが夜空の星を紡ぎ、手の届かない空に絵を描いたように……いま誰もが、自分たちの魂をかけて軌跡を繋ぎ遇う。

 その意志はやがて、ほんの少しずつ、悪意によって仕組まれた運命を変えて行こうとしていた。

 

 

  2

 

 

 中央広間(エントランスホール)へと通じる螺旋階段の傍に、恐らくは旅行に来ていたのだろう三人の夫人の姿があった。

 三人はもう随分長い時間此処にいるようで、かなり疲弊しながら、必死に煙と炎に耐えている。

 だが、それも次第に限界が近づこうとしていた。

「っ、ぅ……ごほっ……げほ……ッ」

 炎に取り囲まれた中で、煙に巻かれた人たちの咳き込みが、焼けた空気に虚しく溶けていく。

 彼女らの周囲には淡い藍色の輝きを放つ半球(ドーム)状の障壁(バリア)が張られていたが、時間経過のためか、次第に効果を失い始めている。

 ()()()()()()()()()()()()が、遂に覚悟を決める時が来たのかもしれない。

 と、彼女たちが思いかけた瞬間。

 「管理局です!」という声と共に、うら若い、まだ少女と言えそうなくらいの女性の声が場に響き渡った。

 ともかく助けが来たらしいと知り、婦人たちは自身らの居場所を告げる。

 すると、傍らにやって来た金色の髪をした女性は、「もう、大丈夫ですから」と言って、彼女の愛機であろう黒い戦斧を翳して、今ある障壁を覆う様に、新たな障壁を造り出した。

「直ぐに安全な場所までお連れします」

 そういって、此方を安心させるような笑みを浮かべる。

 彼女の表情につい気が緩みそうになるが、ちょうどやって来たのが若い少女だったのが幸いしたのだろう。どうしても彼女らには、伝えねばならぬ事があった。

「あ、あの……っ」

「はい?」

「あの……魔導師の女の子が、バリアを張ってくれて……それから、妹を探しに行くって、あっちに───」

 もう自分も辛いだろうに、自分たちを助けてくれた少女のことを必死に伝え、婦人は指先で通路奥を示した。

 その意志をしかと受け取り、

「分かりました。皆さんをお送りしたら、直ぐに探しに行きます」

 そう返答し、うら若き執務官───フェイト・T・ハラオウンは、まだ助けを待つ者たちのもとへと向かう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 首都圏から離れているとはいえ、ミッドチルダは次元世界の中心である一大世界である。

 ここからは数多の世界へ向けて、人々が日々行き来を繰り返している。ゆえに、この空港は酷く広い作りになっていた。

 いま少女のいるこの螺旋階段も、その広大さを示す一端である。

 壁に沿って底へと繋がるように渦を象るそれは、終わりが黒く見えないほどの高さを持っていた。

 非常階段として用いられる事の方が多いことを考えれば、この簡素さも仕方のないのだろうが、今ばかりはこの長ったらしい階段が、少女には恨めしく思えた。

「はぁ……はぁ……っ」

 体力には自信があるほうだが、精神的な疲弊と、追い詰められた状況が彼女を酷く焦らせる。

 深く深い階段が、自分を阻む悪魔の罠にも思えてくる。

 悪魔なんて、いくら魔法の世界に暮らしていても、所詮は空想の産物と理解できる年頃ではあるけれど。

 今年十四になったばかりの彼女に、この緊迫した状況で、いつまでも冷静さを保ち続けろというのは、あまりにも酷である。

「スバル……っ、ひゃあぁッ⁉」

 ぽつり、と妹の名を漏らした刹那。

 壁が、通路が、大きく振れた。幸い火の手が回ってきたわけではないが、どこかで爆発があったのだろうか。

 空港という場所だけに、火が燃料辺りに引火するのは容易く想像が効く。

 が、ならば尚の事、急がねばならない。必死に妹の名を呼びながら、少女は階段を必死に階段を降り下っていく。

「スバル……スバル、返事して……! おねーちゃんが、直ぐ……助けに行くから……っ!」

 歯を食いしばり、折れそうな心さえ縛り付ける。

 姉である自分が折れるわけにはいかない。もしもう外に出ていたなら良いが、まだ中に取り残されていたら。……独りで、心細い思いをしてしまっているのだとしたら。

 助けに行かずして、なんとするというのか。

 鋼にも似た硬い意志を無理矢理に保ちながら、藍色の髪をした少女は、妹の元へと向かって必死に進む。

 が、しかし。

 彼女のいた通路が、寄りにもよってこの瞬間に───呆気なく、崩れ始めた。

 

「───ふぁ、きゃあああああッ⁉」

 

 高いところだというのが幸いしたのか、少なくとも崩れて直ぐ地面に叩きつけられる、という思いはせずに済んだ。

 しかし、それは一時しのぎでしかない。

 無慈悲な重力(ほしのちから)は、ほどなく彼女の軽い体躯すら容赦なく地面へと引き付けて叩きつけることだろう。

「ひゃぁぁぁ───ああああああっっ‼」

 悲鳴が、暗い階段の上下に渡って広く反響する。

 が、どれほどの高さがあるか分かり易く伝えてくれることもなく、ただひたすらに底へ底へと加速する自分の身体が受ける風ばかりが少女を襲う。

 当然、それはとてつもない恐怖だ。けれど、そんな命の瀬戸際にありながらも、少女の胸中は単に怯えるだけでなく、助けられなかったことを悔やむ心の方が大きい。

 未熟な己が恨めしい。

 まだ魔導師として半人前な事も、この状況をどうにかできる術を持っていない事も、そのすべてが情けなく思えた。

 たしかに、自分には飛べる翼はないけれど。

 憧れだった母は、空さえ駆け抜けて見せたのに。

 恐さと悔しさが綯交ぜになったまま、少女は落ちていく。こんなところで、終わりたくなんてない。

 まだ、ちゃんと助けられてもいないのに、と。

 そんな彼女の意志に呼応したかのように───

《Sonic move.》

 という小さな音が耳に遠く響くや、迸る紫電と共に飛来した閃光が、彼女の落ちる身体を掬い上げた。

「……危なかった」

「ぇ……?」

 柔らかな、自分以外の声がした事に驚いて、閉じていた目を開く。

 するとそこには、二つに結った長い金色の髪を揺らした、紅の瞳の女性がいた。

「ゴメンね、遅くなって……。もう、大丈夫だよ」

 よく頑張ったね。そう微笑み掛けられて、助かったのだとぼんやり分かったが、実感が追いつかず、うまく応えを返せない。

 少女が言葉を返せずにいると、空中に通信窓が開いた。

《こちら通信本部、本局〇二(ゼロツー)応答願います》

「はい。本局〇二、フェイト・T・ハラオウンです。先程の三名に次いで、非常階段内にいた女の子を救助しました。───あ、そうだ。お名前は?」

「あ……。ギンガ、ギンガ・ナカジマ。十四歳です」

 応えると、フェイトと名乗った女性は口の中で一度「ギンガ」と反芻して、いい名前だと言って、微笑んだ。通話口(ほんぶ)の方でも名乗りを受けて、救助された少女を記録したと応えた。

《了解しました。では引き続き、要救助者の方々の救助をお願いします!》

「はい。では、この子(ギンガ)を救護隊に引き渡してから───」

「あ、あの……っ!」

 フェイトと本部との通信に、ギンガが割って入る。

 ここへ来て、やっと事態が頭に沁み込んで来た。要するに、ギンガはフェイトに助けられて、このままではここから()()()()()()しまう。しかし、そうなってしまっては妹の元には行けなくなる。

 そんな焦りから出た言葉であったが、それをフェイトと通話口の局員は真摯に受け止めていた。

 いや、というよりも、それは。

「大丈夫だよ。話は、あなたが助けた人たちから聞いてるから」

「ぇ……?」

「妹さんを探してるんだよね。妹さんの名前と、何処に行ったかとか、分かる?」

「ぇ、ぁ……あの、エントランスホールの方ではぐれてしまって、名前はスバル・ナカジマ。十一歳です」

「スバル……照合お願いします」

《了解しました。スバル・ナカジマ、十一歳の女の子……まだ救助報告は入っていません。ですが、エントランスホール内からの反応は確認しています。

 今、そちらには本局〇一(ゼロワン)───高町教導官が向かっている模様です》

 まだ救助されていない、という報せを受けて、ギンガの表情に不安が増す。しかし、腕の中にいる彼女に、「大丈夫だよ」と、またフェイトは繰り返した。

「妹さんは、わたしの仲間が必ず助けるから……。だからまずは、あなたが無事に帰ろう。そして、帰ってきた妹さんを迎えてあげて?」

 諭す様な口ぶりは、どこか遠い記憶を思い起こさせる。

 似ているからなのか、それとも告げられた声がとても優しかったからなのか。

 真のところは、よく分からない。けれどギンガの心は、不思議なほど落ち着きを取り戻していた。

 はい、と短く彼女が応えると、フェイトは一つ頷いて、その場から外へと向けて羽ばたくように飛び出した。

 その途中、フェイトはギンガに「偉かったね」と言う。

 不意を突かれたギンガは、驚いたような顔をしていたが、フェイトはやはり柔らかな笑みを崩すことは無く。妹だけではなく、通りがかりの人たちの事も助けようとしていた彼女を褒めてくれた。

 しっかりとしたお姉ちゃんだね、なんて言われたのが照れくさくて、ギンガは「いえ、そんな……わたしは」と言葉を濁そうとした。しかし、懐かしい記憶を思い起こした事も手伝ってか、

「……これでも、陸士候補生ですから」

 と、最後に言葉を結んだ。

 そこに込められた様々な思いを感じ取りながら、フェイトは「そっか……」と、目を閉じて、また頷いた。

「候補生、か……。未来の同僚だ」

「きょ、恐縮です……!」

 そんな言葉を交わしながら、二人は程なくして、炎に呑まれた鉄の巣から飛び出して行った。

 

 

  3

 

 

 火災発生から、一時間ばかりが経過しようとしていた。

 しかし、火の手は一向に止んでおらず、空港を包み込む炎のベールは、激しさを未だに保ち続けていた。

 無論、誰もが傍観しているわけではない。

 中に突入した者たちだけではなく、外でも懸命にこの災害に対処するために立ち回る者たちがいた。

「───二〇三、四〇五、東側に展開してください! 魔導師陣で防壁張って、燃料タンクの防御を! 六〇七はそのまま南へ……!」

「はやてちゃん! 応援部隊の指揮官が到着です!」

 前線指揮に参加していたはやての元へ、リインが応援に来た部隊の指揮官を連れてきた。

「すまん、遅くなったッ!」

 と、そう言いながらやって来た男性は、ちょうどはやてが次に行く予定だった部隊の隊長であった。

 少し驚いたが、今は世間話をする余裕がない。

「ここの陸士部隊で研修中の、本局・特別捜査官。八神はやて一等陸尉です! 臨時で応援部隊の指揮を任されてます」

「陸上警備隊一〇八部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐だ」

 敬礼と共に、互いに手早く自己紹介(かくにん)を済ませると、早速はやてはゲンヤに部隊指揮を任せても良いかと訊ねた。

 やって来ていきなりではあったが、次の研修に際してはやての事を知っていたゲンヤは、「ああ、お前さんも魔導師だったな」と、特に異論も無く引き継ぎを受けた。

 知ってくれていて助かるとばかりに、はやても「広域型なんです。空から消火の手伝いを───」と消化へ向かう旨を伝えようとしたが、そこへ一報が入る。

《はやて。指示のあった女の子一人、無事救出。名前はギンガ・ナカジマ。さっき、無事救護隊に渡したよ。妹さんの方にも、今なのはが向かってるって》

「了解、わたしも直ぐ空に上がるよ!」

《うん!》

 フェイトからの短い報告を受けて、親友(なかま)たちも着実に救出を続けているのが判った。

 それを聞いて、はやてもまた、自らの役割を果たさねばと奮起する───が、その前にふと、引っかかった単語があって。

「ナカジマ……?」

 その単語は、はやてより先に、リインが言葉にした。

 はやての出身である地球(にほん)では珍しくないが、ミッド(こちら)ではあまり聞かない珍しい苗字である。しかも、奇妙な偶然なのか、それはここに居るゲンヤとも同じもので。

 二人が視線の向けると、ゲンヤは少し苦い顔で応えた。

「───その二人は、ウチの娘だ。二人で部隊に遊びに来る予定でな……まさかとは思ったが、そうか」

 親と局員の狭間に立つ、酷な現実。

 だが、それを目の前にしているからこそ、決して屈しないために動き出さなければならないという事を……その場の誰もが言葉にするまでもなく、理解していた。

「ではナカジマ三佐、後の指揮をお願いします。リイン、しっかりな? 説明が終わったら、(うえ)でわたしと合流や!」

「ハイですっ!」

 指揮権を渡し、リインに状況を伝えるように任せると、はやては空へと向かって駆けだした。

 ここからは、彼女のもう一つの本領を発揮する段だ。

「こちら本局〇三(ゼロスリー)、八神はやて。これより消火支援のため、空に出ます!」

《了解しました、八神一等陸尉。第一ポイント、第五ブロックへお願いします。それでは出撃どうぞ》

「了解ッ!」

 黒と白に、金の意匠が施された魔導装束を纏い、はやては空へ飛び立った。

 彼女の背に宿る黒翼(スレイプニール)が大きく羽ばたくと共に、その姿は一気にこの場を離れて行った。

「すっげぇな、ありゃあ……。こっちも、呆けてるわけにゃいかねぇか。それじゃ、よろしく頼むぜ。おチビの空曹さん」

「分かりました、こちらへお願いします!」

 感嘆と共に、はやてを見送ると、ゲンヤはリインに状況の確認をして、さっそくこの区画の前線指揮を再開していくのだった。

 

 

  4

 

 

 通信本部とは別に置かれた、仮設的な区画司令部となった指揮車に乗り込んだゲンヤは、リインと共に状況の整理を行い、指示を送っていく。

「リイン曹長、補給物資の方はどうだ?」

「あと十八分で、液剤補給車が七台到着します。首都航空部隊も三〇分以内には主力が到着する予定だそうです」

「遅ぇな……。要救助者は?」

「あと二〇名ほど……魔導師さんたちが頑張ってますから、なんとか」

「最悪の事態は回避できそうか……」

「ハイですっ」

 リインの返事に、ゲンヤはうむと頷いた。今いる魔導師たちだけでも、ひとまず事態の収束自体は済みそうである。それならば、後はどちらかといえば、消火活動を迅速に進めるべきだろう。

 ならば、とゲンヤはリインにこう言った。

「よし……。おチビの空曹さんも、もういいぞ。自分の上司のとこに、合流してやんな」

 そう促されるも、リインはまだ状況の整理や指示系統の調整が済んでいないと応える。しかしゲンヤは「いや」と言って、彼女へ出撃して欲しいと、再度促した。

「現状、どちらかといえば消火の方に手がかかりそうだ。広域型の八神の力は、かなり必要になってくる。となりゃ、その八神(マイスター)が力を発揮するのに、アンタの力も必要だろう?」

「ですが、ナカジマ三佐の負担が……」

「何、構わんさ。元々、魔導師でないオレが出来るのは状況管理(これ)くらいだからな。それにいざとなったら、当てはある。

 今ちょっと治療系が出来る奴が少ないってことで救護隊(むこう)を手伝ってもらってるが、搬送のラインは航空部隊の到着よりも動きは早い。だったら、この状況ではこれがベストだと思うんだが……どうだ?」

「ナカジマ三佐……。判りました、では行かせていただきます!」

「おう、空は頼んだぜ」

「ハイですっ!」

 ひゅんっ、と、見た目通りの妖精のように主の元へ飛んでいくリインを見送りながら、ゲンヤは自分の仕事を再開する。

 しかし、それなりに見栄を切った為だが、作業量はそれなりだ。

 これはやはり()()を頼ることになりそうか、とゲンヤは苦笑しつつ、連れて来た部下に連絡を入れる。其方がひと段落したら、此方に手を貸して欲しい、と。

 了解、と、間髪入れずに応えた彼に頼もしさを感じつつ、不甲斐ない上官で終わらないように、自身も手を動かす。

 ただ、冷静に固めている心は、未だ炎の中にいるかもしれない娘のことで絶え間なく揺れている。

 本当なら飛び込んで連れ出したいくらいだが、生憎とそれで取り戻せるものはないのが現実だ。

 その事実と、脳裏には下の娘の事が掠めるたび、無事を祈るしかない自分が不甲斐なくて仕方がない───が、今は最善を尽くし待つしかない。

「……ままならねぇな」

 長い息を漏らしながらも、ゲンヤは自分に出来る事を続けるしかなかった。

 手を止める事無く、仕事を熟して行く。けれど、親としてのありったけの祈りを込めながら、ひたすらに。

 

 

  5

 

 

 上空で合流したはやてとリインは、さっそく消火作業に当たっていた。

 空港の上空に待機した二人は、移動が完了するのを待つ。彼女らの本領を発揮するには、範囲内に人がいないことが必須となる。

 ───ほどなく、その時はやって来た。

「八神一尉、指定ブロック避難完了しました!」

「お願いしますッ‼」

「了解ッ! ほんなら……リイン、行くよ」

《はいっ!》

 局員からの知らせを受けるや、はやての足元に三角形を象った魔法陣が展開された。

 二人は詠唱を始めると、彼女の白銀の魔力光が迸る。

「《仄白き雪の王。銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ───》」

 一節、また一節を結ぶ毎に、その輝きは強く、より眩い光を発していた。止めどなく溢れ出る光景は、彼女のとてつもない魔力量を物語っている様だ。

 そうして最後の句が終わり、はやてが杖を眼下の炎の海へと杖を向けると同時。

 

「《───来よ、氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)ッ‼》」

 

 差し示したその杖先から、白銀の猛吹雪が放たれる。

 白銀の輝きを伴う、氷結の嵐渦。さながら竜の咆哮にも似たそれは、たったの一撃で猛り狂う炎の海を沈めて見せた。

「……すっげぇ」

 はやての放った魔法を間近で見ていた局員が、ついそんな事を口にした。思わず感嘆の言葉が漏れてしまうほど、その力は圧倒的なものがあったと、示して見せていた。

「これが、オーバーS(ランク)魔導師の力……!」

 感嘆の声が漏れる。それほどまでに、局員たちは、改めて『魔法』という力を体感した気がした。

 が、いつまでも驚きに浸ってはいられない。

 如何にはやてが広域型とは言え、単騎で全ての炎を対処できるわけでもないのだ。

「ここは完了……次の場所は⁉」

「次の凍結可能区画は、ここの隣のLブロックです!」

「了解! ……せやけど、わたしらだけやとまだ厳しい状況や。これは頑張らへんと」

《はやてちゃん!》

「??? リイン、どないしたん───え、これって?」

 リインが受信したメッセージを確認したはやては、いきなり来た唐突な報せに戸惑いを隠せない。確かまだ、向こうに居るはずなのに、まさか応援に来るとは思っていなかったかだら。

 けれど、いきなりきたとはいえ、彼がそう言ってきたということは、全くの無策というのは考えにくい。であれば、何かしらの考えがある、ということなのだろう。

 それなら、

「リイン、出来る?」

 試してみる価値は、あるだろう。はやてはそう判断して、自らの愛機にそう問うた。

 そして、リインもまた、同じことを思っていたのだろう。力強く、《もちろんですっ!》という肯定が返って来た。

「なら……やってみよか!」

《第二段、準備(セット)急ぎます!》

 避難が終わったと報告のあった区画へと向かい、はやてとリインは再び魔法を発動させる。

 そこへ、再びメッセージが入る。

 内容は、指定座標に魔法を放って欲しいというもの。しかし、その座標というのがまた不思議なもので───示されたのは、眼下の区画そのものではなく空中であった。

 この状況においては、一見すると、ふざけていると取られても可笑しくはない。だが、はやてとリインはそれ信じ、もう一度魔法を撃ち放つ準備を整えた。

「……よっしゃ! 二発目、特大の行くよ‼」

《ハイですっ!》

 威勢よく応じ合った主と愛機の声と共に、再び白銀の光を放つ、氷結の魔法が(そら)へ向かって放たれた。

 対象とは異なる方向へと向かう一撃であったが、その光の奔流は、指定座標地点に触れるや、まるで水路に出会った水の如くその道に沿って流れ出す。

 ちょうどそれに近い光景を、はやてとリインは昔、見たことがあった。

「あれって……」

《はい。なんだか……クロノさんの『エターナル・コフィン』に似てるです》

 自身の放った魔法ではあったが、その魔法はまた違うものと似た動きを始めた。

 かつて、〝『闇の書』事件〟でクロノが用いた超広域型の凍結魔法、エターナル・コフィン。あの魔法は、対象となるモノや地点に対して冷気を放ち、周囲に拡散する余波(エネルギー)自律反射板(リフレクター)で一点集中させる事で、威力を引き上げるといったものである。しかし、いま起こっている現象はそれに近いが、同一ではない。

 そう。エターナル・コフィンが冷気の檻で敵を囲うのに対して、目の前で起こる現象は、寧ろその力を()()()いた。

 その要となっているのは、おそらく空に浮かんでいた盾型のユニットなのだろう。魔力で象られた光の羽根から、薄く光が波を打つ。たくさんの光の粒が、薄く翡翠の燐光を放つ宙域(そら)を、水面に広がる波紋のように彩っていく。

 広げられ、そして増幅された魔法が、それぞれの基点から、炎の海へと注がれて───揺れる焔を鎮められて行き、次第に灼熱の地獄を元に戻して行った。

 しかし、

「……にしても、いつの間に準備してたんやろうね、リイン」

《ですね。けど、やっぱりみんな、前に進んでるんですよ》

「うん……せやね」

 立ち止まってはいない。誰もが、前へ前へと進んでいる。

 はやては、改めてそのことを知った気がした。そして、それは彼女自身もまた、同じである。

「───さあ、まだ全部は終わってへんし。合流して残りも消火していくよ!」

《はいですッ!》

 そう言って、二人は残りの消火へと当たる。更にそこへ、本局からの応援も加わり、皆で事態の収束へと尽力する。

 事態は次第に終わりを覗かせ始めており、この始まりの狼煙はついに消えようとしていた。

 しかしそれは、完全なる幕引きという訳ではなく。

 むしろ、新たな始まりへの一歩でもあった。

 

 予てよりの想いを形にしようと決めたはやてを始めとして、誰しもが前へと。

 祈りも望みも、等しくすべてがヒトの想いのカタチであるがゆえに───強き心は、また同じだけの強き心を引き寄せる。

 善意も悪意も、中庸である事すらも問わずに。

 ただひたすらに、いずれ来る嵐への序曲が始まろうとしていた。

 

 ───そして、最後の星が、ついに始まりの星と出会う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いずれそれは夢の道標(しるべ)へ Run_Up_to_Your_Draem.

 

 

 

  1

 

 

 ───あつくて、くるしかった。

 

 浮かぶ言葉は、もうそれだけで。けれど、それ以上考えてしまったら、押し潰されてしまいそうな気がした。

 

 此処が何処かも判らない。行く当てもない。

 だけど、どうしても足だけは止められなかった。

 

 死にたくない、というのは少し違う。

 ソレが怖いものだと言うことは知っている。

 とても冷たくて、寂しくて、苦しいモノだというのも知っている。こんなところで同じ事になっても、そうなるのかは判らないけど……でも、違う。

 

 胸に抱く決意か、意地か。……いや、どちらかといえば、呪いなのだろうか。

 まとまらない思考は、ただ(ひとえ)に心によって括られていた。

 

 本人でさえ定かではない感情は、哀しいほど一途に、この残酷な世界でも、彼女の命を繋ぎ止める鎖となっていた。

 

〝……此処で死んでしまったら、もう二度と、おとーさんとおねーちゃんに会えない〟

 

 漠然と、幼いながらに、少女は本能的に悟っていた。

 

 もしかしたら、おかーさんには会えるかもしれないけど、不思議と、そう考えてしまってはダメだという確信があった。

 

 ここよりは、昏くて冷たくて……。でも、同じくらいに寂しくて苦しい場所から助けてくれたおかあさんだから。

 きっと、そんな風には望んではいけないと。

 そう言うハズだ、って……そう思っていたから。

 

 だから、歩いた。

 小さな一歩で、熱くて、怖い炎の海の中を。

 たった一人でも、決して止まる事はなく───ただ、ひたすらに。

 

 少女は、絶望に屈することだけはなく。

 涙にまみれても、苦しくても、絶望(あきらめ)はしなかった。

 

 ……しかし、やがて身体の限界が訪れる。

 心だけではどうしようもないこともあるのだと、幼い少女は、現実の非情さを改めて思い知った。

 

 不意に、横から熱の息吹が、彼女を襲った。

 

「きゃっ……‼ あぅ、ッ……ぅ」

 

 轟! と吹き出してきた爆風は幼い身体を吹き飛ばして、容赦なく地面の上へと転がした。……いや、もう転がると言うよりは、擦りつけられたと言う方が正しいか。腕に、足に、顔に、たくさんの擦り傷が出来て、じんわりと血を滲ませる。

 

 ひりひりと、じわじわと。

 痛みが身体を、心を縛っていく。

 

 身体を起こそうとしても、なかなか起き上がれない。

 どうにか頭をもたげても、もうそれ以上のことは出来なくなっていた。

 

 

 

 ───そうして、足が止まった。

 

 

 

 歩みを止められた場所は、少しだけ開けた場所だった。

 どことなく豪華な造りになっている、エントランスホールのようなところ。女神らしき立像が階下と階上を繋ぐように伸びた、二階建てになっている。

 平時のままの、今の様な火の海でなかったのなら、きっと綺麗だった筈の光景。しかし、二階にも既に火の手は回っている。噴き出したそれらは、容赦なく絨毯と像を焼き焦がして、黒く醜く変えていた。

 

 最早、ここに退路は無い。

 もしかすると、火に追いやられて、囲まれてしまったのかもしれない。

 

 これ以上は、逃げることすらもできない。

 

 それが分かった時、少女の心にも限界が来た。

 別に、ここまでだって何かを為したわけではないけれど───だけど、それでもまだ、『何かをしていた』という気はしていたのに。

 

 なのに、今度はもう、それすらも取り上げられてしまった。

 進むことさえも許されない。───では、ここから先に何をすればいいのだろうか。

 

 ……判らない。

 行き先も何も、持っていなかった少女には。

 

 いや、これ以上を望むのは酷だろう。むしろここまで生き延びただけでも、きっとそれは、一つの勝利のようなものだったかもしれない。

 

 けれど、彼女にはそうは思えなかった。

 

 何故、こんなことになったのだろう。

 どうして誰も、ここへ来てくれないのだろう。……否、それよりもどうして。なんで自分は、こんなにも、弱いんだろう? と。

 

 いっそ、背中に羽根でもあったなら。

 立ち止まるだけの足ではなく、竦んでしまう事の無いモノがあったのなら、どんな事にだって、折れずにいられるかもしれないのに。

 

 在るはずもないものを思い浮かべ、少女は立ち止まった。今度こそ、本当の意味で、動けなくなってしまっていた。

 

「…………おとーさん……おねーちゃん……」

 

 漏れ出した声は、今度こそ、何も残っていなかったからこその吐露であった。

 

「いたいよ……あついよぉ……」

 

 しかし、その幼い嘆願を、聞き届ける者はここにはいない。

 

 それは何処にも、誰にも届くことのない。

 そんな、小さな叫びだった。

 

 けれど、少女はそうするしかできなかった。だって、もうそれ以外に出来る事なんて、なにもなくなってしまっていたのだから。

 

「……こんなの、やだよぉ……かえりたいよぉ……っ」

 

 ぽろぽろと、熱い雫が頬を伝う。

 けれどやはり、返ってくる音は何もなくて。次第に炎と、自分の嗚咽以外の音が、消えていく。

 

 それが、周りを取り囲む炎なんかよりも激しく、彼女の心を焼いた。

 目の前にある、変えようもない絶望。そして、ここに蹲って、泣いているしかない弱い自分が。

 

 苦しくて、悲しくて。

 悔しくて、でもどうしようもなくて。

 辛くて、情けなくて……何よりも、それが痛くて。

 

「…………だれか……たすけてぇ……っ!」

 

 そして、彼女の心が砕けそうになった瞬間(とき)───罅割れた硝子が、少しずつ砕けていくみたいに。

 

「…………あ」

 

 頭上から、轟という音がして。

 気づいた時には既に遅く。炎が焼き砕き落とした、大きな女神()の欠片が、彼女目掛けて降り注ごうとしていた。

 

 ───しかし、その刹那。

 場の全ての音を突き抜けて、美しい鈴の音にも似た『何か(オト)』が、ふわりとそこへ響き渡った。

 

 

  2

 

 

 崩れ落ちてきた像の欠片を見て、彼女は死を覚悟した。

 ……が、しかし。迫る恐怖に怯え、震えていた少女の元へ、それは何時まで経っても訪れない。

 それどころか、そもそも何かが降ってくる事さえもなかった。

 どうしたのだろう、と恐る恐る、閉じた瞼を開く。するとそこには、不思議な光景が広がっていた。

「───ぇ?」

 何かが、像を止めていた。彼女の元へ落下(おち)ようとしていた女神像は、桜色の光を放つ拘束帯によって、空中に縛り付けられていたのだ。

 もし冷静であったのなら、それが魔法によるものだと直ぐに分かった事だろう。

 だがいきなりすぎて、今起こっていることに、頭が追いついていなかった。故に少女は、漠然と目の前で起こった事に驚くことしか出来ない。

 するとそこへ、更に新たな人影が舞い降りる。

「……よかった、間に合った。遅くなってごめんね? 助けに来たよ」

 穏やかな微笑みと共にそう告げたのは、姉より五歳ほど上に見える女性だった。

 彼女が傍に降り立つと、その足元から、羽根を象った魔力残滓がふわりと舞う。白い防護服と、赤い宝石の付いた杖を持っている姿も相まって、どことなく天使を思わせるような出で立ちをしている。

「よく頑張ったね……えらいよ」

 優しく微笑みかけられて、そっと頭を撫でてもらうと、自分が夢でも見ているのは無いかと錯覚しそうになった。

 それもきっと、こんな場所だからなのだろう。

 地獄みたいだったこの場所とその姿が、あんまりにも不釣り合いな気がして、ついそんな気分になっていた。

 しかしその女性(ひと)は、ただ綺麗なだけかといえば、そうではなくて。

「もう大丈夫だからね───安全な場所まで、一直線だから!」

 立ち上がると、打って変わって鋭い眼差しを瞳に宿し、炎に塞がれた天蓋へと向ける。

 それに合わせて、彼女の足下に桜色に輝く魔方陣が展開された。

《───上方の安全を確認(Upward clearance confirmation.)

 ファイアリングロック(A “firing lock”)解除します(is cancelled.)

「うん、一撃で上まで()くよ」

 交わされた言葉を聞いても、それが何を意味しているのか、直ぐには理解できなかった。

 が、どういうことなんだろう? と頭で答えを浮かべるよりも早く、答えはこれ以上ないほど明瞭に、目の前に文字通り造り出されていた。

《All right, Load cartridge.》

 主の意志に応える電子的な声にと共に、ガシュンガシュンッ! と、続けざまに二回、何かが()み込まれて行く音がする。

 光の羽根が展開され、周囲にその輝きをまたふわりと散らした。

《Buster set.》

 槍杖を天めがけて掲げると、それを囲むように三つの環状魔方陣が展開された。

 巡り高まる魔力がその帯に乗って、杖の切っ先へと集められて行く。集められた魔力は光球を生成し、眩いばかりに輝きを増して行き、そして───

 

 

「ディバィーン……バスタァァァ───ッッッ‼‼‼」

 

 

 と、力強い声と共に、集められた光は一気に膨れ上がり、杖先より放たれた。

 空へと伸びる柱の如き光は、凄まじい威力を伴った奔流となって、石造りの分厚い天蓋を穿った。

 女性の放った魔法に、少女は言葉もなく、目を奪われた。

 圧倒的なまでの、その鮮烈さに。

 呆気に取られていると、杖を降ろした女性に抱えられた。「行くよ。ちょっとだけ、我慢しててね」と言われて、こくんと頷いた次の瞬間。開け放たれた(ソラ)への(みち)を抜けて、立ち上る煙と共に、彼女らは夜の空へと飛び出して行った。

 

 

  3

 

 

「こちら、教導隊〇一(ゼロワン)。エントランスホール内の要救助者、女の子一名を救助しました」

《ありがとうございます。流石、航空魔導師の〝エース・オブ・エース〟ですね……!》

「西側の救護隊に引き渡した後、直ぐに救助活動を続行しますね」

《お願いします!》

 空へと抜け出すと、その女性はどこかとそんな通信を交わす。

 少女はまだどこか夢見心地のまま、ぼんやりと抱きしめられた腕の中で、交わされたやり取りを静かに聞いている。

 助かったのか───そう少女は短く逡巡する。

 どうにも、実感が湧かない。けれど、それも無理のない事だろう。起こった物事は、あまりにも急すぎて、認識する為の時間を得られずにいたのだから。

 が、そうした不安は、夜空を目にした途端吹き飛んでしまった。

「──────」

 声に為らない息が漏れた。

 あの炎の中から助け出してもらって、連れ出してもらった、広い夜空はとても深く、穏やかであった。

 冷たい風は優しく、焼け付きそうだった頬を冷まし……しっかりと抱きしめてくれる腕は、同じくらい優しく、暖かくて。

「………………」

 羨望にも似た気持ちが胸を埋めていく。

 つい目を離せずにいると、まだ不安が残っていると思われたのか、「大丈夫だよ」と優しく声を掛けられた。

「頑張ったね……。もうすぐ、お姉ちゃんのところへ連れて行くから、もうちょっとだけ、がまんしててね」

「……おねーちゃんの、ところ?」

 でもそこには、少し不思議なことも入っていて。

 なんでおねーちゃんの事をしっているんだろう? と、不思議に思った。その疑問がそのまま口に衝くと、その人は「うん」と頷いて続けた。

「ギンガ・ナカジマさん。あなたの、おねーちゃんだよね?」

「あ……はい」

「良かった。さっき、わたしの友達が助けたって報告があってね。待ってるんだって、スバルちゃんのこと。それに、お父さんも」

「おとーさんも……?」

「うん。いま大事なお仕事してるけど、ちゃんと来てるんだって」

 そう言われて、スバルはまた少し、ぼうっとしてしまった。帰ってこられたのだという感覚が、なんだか酷く、胸に沁みてきて───言葉が、そこで止まった。

 

 程なくして、スバルは救護隊の元へと送り届けられた。

 

 救護隊の元で待っていたギンガと、姉妹の再会がなされたのを見届けると、また再び彼女は空へと飛び立っていった。

 スバルは姉に寄り添われて、姉と一緒にいた橙色の髪をした人に応急処置をして貰っていたが、目線だけはずっと、飛び去る後姿を見つめていた。

 高町なのは一等空尉。

 治療を受ける際中、あの人の名前を教えてもらった。あの人は、本局の〝エース・オブ・エース〟と呼ばれる一線級の凄腕の魔導師なのだという。

 姉と違ってこれまでは普通科の教育しか受けていなかったスバルにとって、いかにミッドチルダに住んでいるとはいえ、その魔導師としての強さは酷く遠いものであった。

 だが、それ以上にスバルの心には、なのはの姿が、鮮烈すぎるまでの憧れとして焼き付いていた。

 

〝助けてくれたあの人は、

 強くて、優しくて、かっこよくて……〟

 

 とても、まぶしく映った。

 けど、だからこそ。

 

〝泣いてばかりで、何も出来ない自分が情けなくて───〟

 

 気づけばスバルはまた、大粒の涙を溢していた。

 急にまた泣きだした彼女に、姉のギンガを含め、周りは酷く心配したような顔をしている。

 それは、とても嬉しいことだ。自分を心配して、大切に思ってくれている人がいるということは、とてもとても幸せなことだから。

 ───でも、それでもスバルは、溢れ出す涙を止められなかった。

 あとから合流してきた父も、娘の姿には困ってしまっていた。助かったのがうれしくて、家族が喜んでくれていても、それだけで嫌だったのだ。

 守られるだけの存在でいるのは、もう。

 だから、

 

〝わたしはあの時───生まれて初めて、心から思ったんだ。泣いてるだけなのも、何も出来ないのも……もう嫌だ、って〟

 

 だからもう、弱いままでいる自分じゃなくて。

 泣いて、蹲っているだけの自分じゃなくて───周りに助けられるだけじゃなく、自分でも、家族やいろんな人たちを助けられるくらいに。

 

 出会いは偶然だったけれど、それだけで十分だったのだ。

 彼女の運命を動かし始める為の、きっかけには。

 

 たった一度の魔法。けれど、強烈な魔法だった。

 

 その光は、とても鮮烈で───周りに蔓延っていた絶望を、ただの一撃で祓って見せた。

 まるでそれは、空へと駆け昇る星の路。

 地上から天空めがけて注ぐ、流星みたいに見えた。

 でも、その光を放った人は、もう空の彼方に飛び去って行った星だ。

 強くて、暖かくて、眩しい輝きを放つ、桜色の星灯。

 そうした輝きに、いつの間にか魅せられて、心を奪われてしまっていた。

 

 無理かもしれない。

 でも、もう諦めてしまおうなんて気持ちは欠片もなかった。

 

 ───いつかわたしも、あの人の居る場所へ行きたい。

 

 弱いままの、泣き虫のままのわたしじゃなくて。

 さっきの光みたいな、地上から天空へと駆け上る流星になって。

 だから、決めたんだ。目指すべき場所を知ったから、ただ真っすぐに、ひたすらにそこを目指すために。

 

 

 

〝───『強くなるんだ』って〟

 

 

 

 そうしてスバルは、硬い決意を胸に刻み込んだ。

 辿り着きたい何時かを心に決めて、青き流星は空への路に足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───さあ。始まりの欠片は、此処に揃った。

 

 まるで星の標(せいざ)みたいに紡がれていった出会いから、人々は新しい物語を描き続けて行く。

 

 柵に満ちた運命を越え、

 闇の呪縛を祓いのけ、

 二つの星を巻き込んだ魔の手さえ討ち破った。

 

 ───だが、物語は終わらない。

 

 古の都より、尽きぬ欲の体現者が生まれ堕ちた。

 やがて彼は秩序を敷く世界の為に、自らの頭脳を働かせて行った。

 しかし、ある時ふと思い至ったのである。果たしてこの程度の事が、己が名たる『無限の欲』を満たし得るのか、と。

 至った答えは、否であった。

 故に彼は、その手をある者へと差し出した。一度は夢に破れた、不滅の悪魔(自らの同類)へ。

 そして、差し出されたその手を───

 星を手に収めようと欲しながらも、望んだものと近しい在り方をした少女らに阻まれた男は、取ると決めた。

 

 まだ、先がある。

 そうとも───こんなところで、終わるなどと思ってくれるな。

 

 古を継いだ血脈(けつみゃく)は、旧き世界に生まれ墜ちた血脈(おう)へと交わった。

 それらをもう一度、旧き世界より続くこの世界へと誘おう。

 

 安寧(へいわ)に溺れ、秩序(せいぎ)に酔った箱庭よ。

 今こそ穢れ堕ちたヒトの幻想を砕き、新たなる理をここに印そう。

 

 今より始まるのは、ヒトの行き着く先。

 そして、そこへと至る為の路である。

 

 ───時は満ちた。

 大いに祝え、これより起こりしは万雷の喝采にも等しき狂乱の宴。

 現世に縛られた枷を外し、忘れ去られた理を常世全てに知らしめる、(けだか)き『王』たちの凱旋である。

 

 

 

 

 

 

 PrologueⅣ END

 ~Next_PrologueⅤ in_Age-80~

 

 

 




 はい、では改めましてこんにちは。
 お久しぶりの投稿へ至りました駄作者でございます。

 まず初めに一言。今回まとめきれずクソ長くなってしまい、本当に申し訳ございませんでした……!

 まえがきにも載せましたが、まさかの八万文字を越えというるというのは流石に長すぎたかもしれません。
 しかも前回の投稿からもう三ヶ月近く経過しており、かなりお待たせしてしまいましたので、これについては本当にすみませんでした……。
 しかし、そんな無駄に長くなった文章を越えてここまでたどり着いてくださいました読者様には感謝以外にありません!
 そして自分としても、掛かった時間の分だけ、自分なりの全力を賭したという自負はそれなりにあるつもりです。なので少しでも、楽しんでいただけるものになっていたのなら幸いでございます。

 とまぁ、いつまでもウジウジしていても仕方無いので、ここからはいつものように今回の無いように触れていこうと思います。

 今回の話は、本当にStSの序盤という感じの内容です
 メインとなる三つのパートから書きあがっていますが、それらを順に追っていくと、まえがきにおいたとおり、

 ・任務、同窓会
 ・エルトリア来訪
 ・空港火災、最後の始まり

 というものから成り立っています。
 一つ目のパートは、主に漫画版StSのEp1~Ep3までのお話を下敷きにしたもので、前回のⅢラストで触れた同窓会に通じる部分になっています。
 また、回収任務以外にも、それらに少々StSss03の内容なども混ぜ込んで、今後の話にも幾らか触れる要素が出させていただきました。
 実際の本当なら『ゆりかご』自体の話が上がるのも結構後になるんですけど、そこが結構前倒しになっている感じです。
 少し早くなってはいますが、ここについては後の話でそれなりに補完というか、早めたことを活かしていけたらなとは。
 この辺りで聖王教会などについての情報を出せたので、個人的には良かったかなと思います。
 ついでに加えると、ここのパートについては、戦闘は漫画版準拠ですが、一応デバイスは映画版のものです。ただそのままではなくて、なのはちゃんでいえばエストレアやストリーマを残しつつ、それらに加えてエクセリオンの時のモードも残しているといった感じですかね。
 各デバイスとこの後で触れるユーノくんの装備についての詳細は、いずれまとめたものを挙げますので、そちらを参照いただければと思います。

 その他の突っ込みどころとしては、年齢をいじった関係上、三人が此処に揃うのは難しいのではないかと言うのが挙げられるかも知れません。
 とはいえ三人娘に関してはそれぞれ『教導官』『執務官』『特別捜査官』と、それぞれ何時も前線に出ている役職ではないので、休み自体を合わせることは不可能ではないかと。
 漫画版でも、とっくに局員として働いている方のアースラメンバーが集まれてたので、そちらもたぶん大丈夫かなと言う感じで、割と漫画版そのままに書きました。
 ここでの突っ込みどころはそんなところでしょうか。ほんの少し伏線というよりは判りやすく匂わせをした部分もありますが、まぁその辺は現時点での突っ込みと言うよりは、本編に絡んできた時に触れた方が良いと思うので、一旦置いておきます。どうしても気になる方は、メッセージか何かでお聞きいただければお答えしますのでお気軽にどうぞ。

 で、ここからは二つ目のパートに行きます。
 このパートについては前のⅡと同様、何故此処に全力で描写を裂いたのか自分でちょっと判んないですが、なんか筆が走ってしまったんですよね……。
 ホントは『こんなことはあった』と後で触れるだけでも十分だったかもですが、劇場版から続いてるこの世界線を語る上でも、出しといた方が後腐れ無いかなと、前回()前々回()と同様に全力で書いちゃいました(汗

 さて、ここら辺は突っ込みどこ満載だと思うので、先程の言い訳タイムに入ります。

 まず一番の突っ込みどころはユーノVSイリスのパートだと思うんですが、この配役についてはぶっちゃけ趣味です(オイ
 前作のADの方では形は違えどVSがあったので、懐かしさを込めたとこもありますが、大きなとこはやっぱ名前繋がりですかね。あと僕がイリス様に殴打叩き込まれて地面へと落下していくけど、往生際悪くユーノくんが最後に拘束を試みるのが書きたかったというのもあります(笑
 一応、Ⅰの時に『可愛がる』的なこと書いたので、前のパートのクロノくんの模擬戦誘ってる的な発言(トコ)と合わせて、弟的存在として鍛えられてるみたいな風だと思って頂ければ幸い。
 ユーノくん実際のStSだとマジで後方ですけど、ここの世界線では、『戦えない訳じゃないなら技術を腐らせる必要は無い』という教導官のそれに近い周囲の思惑が、割とアリアリみたいですね(笑

 あとはここで説明しておくべきは、新しい装備のとこですかね。

 とりあえず名づけの由来から行くと、名前は結構ベタに行きまして、作中の経緯以外、要するにメタ的なとこも言うと───
 ユーノくんについて考えれば絶対に誰もが一度は上げたことがあるであろう『イージス』をシステム名称に(実は2ndでもなのはちゃんが前倒しでフォートレス系を使うかもだった際の設定画には『イージス・シールド』という名称があったのでそれも)。
 あとは劇場版では薄目だったGoDの風呂姉妹のコンビ名の『ギアーズ』からギアを取って来て、ヴァリアントアームズ、ウェポンの三番目の兄弟機として『ヴァリアント・ギア』としました。

 名前の話はそんなところで、ここからは仕様の話になっていきます。

 本編中での言及もあるとおり、ユーノくんの新しい装備は、『盾』をメインとするヴァリアント系の装備です。
 素直にデバイスにしても良かったんですけど、せっかくならヴァリアントアームズの要素も取り入れたら面白いかなと思いこうしました。壊れてもコアユニットさえ無事なら、その辺の物質を集めて即座に修復できますので、戦闘の幅も広がりますし。

 ただ真っ当にヴァリアントアームズではなくて、装備としては盾については『フォートレス』と『魄翼』ないし『鎧装』のイメージを強めにしてます。特に『魄翼』の方が現段階ではメインですね。

 ユーリちゃんの持っている『魄翼』ないし『鎧装』は、元々古代ベルカのモノで、原典の作中ではユーリちゃん本人の固有武装のような扱いになってました。
 しかし、ユーリちゃんの使ってた腕型であったり、第二形態の個人要塞は彼女固有のものかもしれませんが───『鎧装』と言う名称自体は、古代ベルカにおける防御装備の総称であるという記述がありました。なので、まったく同じではないですが、『構想元の一つにはなっている』という体で出してます。

 そして、『魄翼』も『フォートレス』同様に攻撃に転化することのできる武装なので、フォーミュラ寄りの機構ならユーノくんが守るための手段を持つ上で幅が広がるかなぁというのもありました。

 実は『フォートレス』ってただの物理盾だと思われがちですが、実際には魔力防壁を生成する機構や、盾自体に攻撃用の砲口とか、『ストリーマ』みたいに腕に装備して魔力刃を生成する機構がついてたりするんですよね。Forceだと見た目が似てる『ストライクカノン』と一緒に出されてるので忘れられがちですが、あれ自体にもそういう攻撃武装としての面もあるので、そういうとこが今後グランツ博士とのやり取りであった発展の部分に繋がってくるのかなと思ってます。
 とはいえ、だったら素直に『フォートレス』でよくない? という疑問も出てくるかと思うので、そこら辺についても少しばかり釈明を。

 最初に言っておきますと、自分のところのユーノくんの魔力量自体は前作から一貫して原典の総合A(ただし攻撃は不得手で、総魔力量よりも技巧と運用)の魔導師という体で話は進めてます。

 でも、これだけでは経験を積もうと『フォートレス』のようなAEC装備をメインの三人娘以上に扱えるというのは難しいかと思われます。
 盾だけならまだしも、それらで重量が増えた上に(武装型デバイスやAEC武装は普通より自律用の駆動系(ようするにジェネレーター)やバッテリーが追加されているので重い)、ましてや起動そのものに多大な魔力を必要とする『ストライクカノン』は空戦が出来ないわけではないけれど、非戦闘系のユーノくんには相性が悪い。

 結果として空で戦える彼を阻害してしまうので、それらを解消するためにヴァリアントアームズのように〝その場で生成〟出来る装備を考えました。
 また、単純なヴァリアントアームズでは風呂姉妹やイリス様の様な腕力が必要になってくるので、そこらへんはデバイス用の素材(フレーム)を併用するなどして幾らか軽減しているという設定になってます。
 まぁデバイスフレームのところはかなり妄想ですが、待機形態から戻せることを考えても、何らかの収納機構や魔力に感応して形を変えられる性質とかがあるんじゃないかなと思うので、幾分軽量化と魔導師の側面にも合うかなと。

 『魄翼』についても触れたもそこが関連してます。彼方は絶対防御みたいな面が押し出されていますが、アレは〝翼〟として飛行を補助する推力機(スラスター)としての役割も持っているので、自律飛行だけではなく本人の空戦にも補助を行えるかなというのがありましたから。

 ただ、ユーリちゃんが使用する場合は彼女の中にある永遠結晶がエネルギー供給を行っているからこそ、あのデタラメな力を発揮するわけで、単純に機構だけ真似ても同じ性能は出せません。

 なので、それを解消するために、前作でユーノくんにフォーミュラを入れたときに出した、外にある魔力素に直接干渉して使用するという部分を引っ張って来てます。
 なんというか、盾そのものが単なる基点(マーカー)というだけでなく、周辺の魔力素やエレメントを集めて魔法に還元する、疑似的な炉心というか増幅器の役割を持つ感じです。

 喩えを挙げるなら、T&Hのママンズが本編で使用した外部魔力の運用のレアスキルの疑似再現+派生形みたいなものでしょうか。
 ただこっちは個人の運用技術に依存している面が強く、また装備も小型なので、応用性がそこそこある代わりに、一度に使える魔力量は『アースラ』や『時の庭園』を用いる二人ほど強力ではないです。

 後付けの理屈なので分かりづらいかもですが、そこはすみません。
 そのうちもう少し設定を整理してまとめておきます。

 で、ここからはいよいよ最後の部分に触れていこうと思います。

 さんざん言った通り、今回の話の要は三つ目のパートです。
 StSを描くと決めた上で絶対に忘れてはいけない重要な話な訳ですが、ここも少し弄くってあるところがありますので、その辺りに少し触れつつ、最後のまとめとしたいと思います。

 まず大まかな変更点としては、描写していく順番や細かなところを変更したのと、ちょっとだけオリジナルパートを加えたのが挙げられます。
 描写の順番を変えたのは、アニメの方のStSと見比べて貰えれば判るとは思いますが、このPrologueⅣでは漫画版のナカジマ姉妹がはぐれたところから、アニメ一話の冒頭と二話に在った回想も織り交ぜた構成にしました。
 個人的にこっちの方が小説として描く上でそれらしいかなぁと思ってこうしたのですが、いかがだったでしょうか?(どきどき)

 とはいえ台詞はほぼアニメのままでなので、時系列の変更が主なところですね。
 なのはちゃんとスバルの出会いをラストに持って来るために、最初に幕間で炎の中を彷徨うシーンを入れて、そこから暗躍する敵側の動きを描いて、そこからギンガの救出シーンとゲンヤさんの登場、はやてちゃんと帰ってきたユーノくんのタッグと繋げてます。
 本当はエルトリア勢もこの件に絡ませようかとも思ったんですけど、既にだいぶ行き来が激しくなってますが、流石にここは不自然な気がしてこういう流れにしました。

 と、弄くった時系列はそんなところで、ここからは細々したところの説明をば。

 細かく呼んでいただいた方々にはおわかりの通り、実は本局の魔導師たちの到着がアニメより早くなってます。しかし、早く着いていたなら何故救助が遅れてたのか。それは敵側の妨害に遭って上手く魔法が使えない事態が巻き起こっていた為です。
 コレは敵側の造り出した魔力の循環不全を引き起こす領域の効果によるもので、AMFやフォーミュラみたいな起こした魔法に対するものではなく、術者本人に無印や1stのユーノくんみたいな状態に強制的にさせる力です。
 とはいえ、それをちょうど本人が解除した時に合わせて、一気にその効果を浄化する輩が来たので、効果(どく)は早めに解消されてしまいました。想定より早く魔導師たちが動き出してしまったので、敷いた彼は面白くなかった模様。
 この能力と使用者については、またどこかで詳しく書くので一旦置かせていただきます。

 次に挙げるとすれば、はやてちゃんとのコンビプレイですかね。
 ここは二つ目の説明の通り、盾を基点にして囲った領域に氷結魔法を広げた感じです。
 劇中の描写通り、2ndのエターナル・コフィンをデュランダルのリフレクターで中央に集めるアレを、一度受け止めて増幅、それから形成した力場に沿って効果をよりいっそう広範囲に拡張した……といったイメージ。
 正直、いきなりぶっ込みすぎたかなぁと思いますが、遅れていた事の巻き直しみたいなところはありました。それにDetでクロノくんが街一つ呑み込むレベルの凍結魔法使ってましたから、StSで空港を区画ごとに凍結させていった事を思えば、避難がほぼほぼ終わったブロックに効果を広げるくらい出来ても不自然じゃないかなぁは。
 あと一応そこら辺の解消に、アニメと違ってリインを合流させているので、制御はバッチリ。更にはサポートの鬼みたいなのがバックに付いているので、まぁ出来るかなと(笑

 それを終えて、最後はなのはちゃんとスバルの出会いへといく訳なんですけど、この辺りはアニメの流れをなぞったまんまですかね。
 ちょっと臨場感だそうと思って長くしたりしましたが、大まかには変わってません。

 ただここに幾らか変更点があるとすれば、RHとディバインバスターの描写をテレビ版に寄せたことくらいでしょうか。
 劇場版時空だと、カノンとエクセリオンモードなら出てくるんですけども、エストレアとストリーマだと光の羽根出てこないんですよね。いや、まぁエストレアはBJのと似た硬質なのはついてますけども。
 でも個人的に、どうしてもあのふわりと魔力の羽根の舞うくだりを入れたかったので、前半でFモードは残しつつも、本来の魔法に寄せた改修を行われて『バスター』や『エクセリオンモード』も形態として復帰している体で書いてます(趣味に走った奴←)。

 あとはギンガとスバルの姉妹が一緒に救護隊のところで会うところとかですかね。
 原典ではスバルの方が先に救助されたのと、彼女の方が重傷だったので直ぐに搬送されてましたが、此方では比較的軽傷の姉が待っていたので二人で行く感じに。そこにちょっと遅れて優秀な部下と、周りの対処が早かったので指揮が早めに終わり、ゲンヤさんたちも二人に合流していたりも。
 このへんのくだり含めて、ナカジマ親子や姉妹のところをちょっとだけ掘り下げたかった部分からこんな風にしてみましたが、どうだったでしょうか? 良い物になってたら良いなぁと思います。

 ───と、今回のあとがきはこんなとこでございます。

 いや、本編が本編ならあとがきもメッサ長くなってしまいすみませんでした。
 そして、そんな長々としたものをここまで飽きずに読んでくださいました読者様に感謝を……!

 非常に長々とお待たせしてしまいましたが、今回で漸く物語が動き出したような気がします。
 Ⅰでは三人娘たちや、それに合わせたユーノくんやエルトリア組にの始まりを。Ⅱでは、茜色の射撃手を、Ⅲでは竜と雷の始まりを書き。
 それらを追って、ここからは青き流星もまた舞台へと駆け昇ってきました。

 いよいよ、次でこのPrologueも終わり、いよいよ本編に入っていきます。
 時間がかかりすぎてはおりますが、これからもお読みいただければ幸いでございます。今後も楽しんでいただけるようなものを書いていきますので、またお会いできる日を楽しみにしつつ、今回はここで筆をおかせていただきます。
 それでは、本当にここまでお読みいただき、ありがとうございました‼
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