とりあえず書けばいいらしいので続けてみた。
なんやかんやで神様とやら異世界転生させてくれるうえに得点をくれるとかいったのだが、よく分からない。神様ならオレより先に死んだ親友を生き返らせて欲しいと頼んだら断られた。すでに輪廻転生したらしい。かつての親友よ、どんまい。
『他に希望は? なんかないの? 聖人じゃあるまいし欲望を吐き出せよ』
そんなら、今も生きてる親友たちに金運を。家族には健康運を。輪廻転生したヤツには音楽の才能とかできます?
『おけ。やっとく。お前自身は? 生き返っても記憶あるからさ。お前自身なのは変わらないわけよ。だから欲望を吐き出せってば』
いやあ、ヤツとバンド組みたかったけど来世は他人だからなぁ。どうすっぺ。あ。最近、物覚えが悪くなってきてさ。良くしてもらえない? あ。あとさ。手先が不器用でね。なんとかしたい。なんとかなる?
『なるぞ。お前の欲望、ちっちぇな。もっとないのか? すげぇ強くなったりできるぞ』
ばっか、神様のばっか。不器用なめんな。すげぇ苦労したんだぞ。社会人は会話と器用が重要だからね。給料上がんないよ? 結婚できないよ?
『お前な……。死ぬ三年前からいないだろ。彼女。どうする? 女にモテモテになっちまうか?』
ばっか、神様のばっか。修羅場は外からみるのが楽しいんであって、体験するもんじゃないぞ。
『確かにな。同性からストーカーされるヤツとか初めてみたわ。嫌がらせ目当てだったとしてもよ』
あれは不幸な出来事だったね。女が別れたといったとは言え、男は付き合ってるつもりだったから浮気になったんだよなぁ。現実は世知辛いね。
『お前なぁ。あれは別れる、別れないってケンカ中だったろ。食いつくなや』
据え膳は喰うからね。仕方ないね。
『もういいわ。お前の欲望を聞きたいのに説教してるじゃねぇか。完全記憶能力と手先の器用さな。おまけで健康体と音楽の才能もくれてやる。来世はブラック企業に入るなよ。……転生先はバンドリでいいか? 来世はバンドやれ。お前の後悔で一番強いのはそれだからな。親友が死んだからって無気力になりやがって。お前自身の幸せってヤツを掴めよ?』
……神様。ありがとよ。ばんどりは分からないけどさ。オレ、音楽好きだからさ。来世はバンドやるよ。ありがとう、ございます。
『おう。しっかりな。いってこい』
いってきます!
◇
そんなわけで転生したのだが、両親がクソだったから義務教育が終わるまで我慢して家出してやったわ。当面の生活費を財布から盗んでな。ざまぁ。姉二人には伝えてあるから心配はしてないはず。両親? するわけねーですよ。姉二人には落ち着いてから会うつもりだしな。
一応、名乗るか。氷川秀人だ。
中学の卒業式をサボり、十五歳のクソガキが朝から美容室にいって髪を派手に染めた。憧れのギタリストに似すぎてビビったけど、テンションは急上昇。世間体を気にする両親がオレの居ない卒業式に出てると思うと笑えるだろ? 盗んだバイクはないが『十五の夜』を口ずさみながら歩き回り、ふと目に入った公園に入ったわけよ。それで一発目に『リンダリンダ』を歌い、ヘンテコなダンスを繰り広げながら騒いだのさ。
あ、うん。通報はされなかったな、うん。
まあいいじゃん。バカ騒ぎも楽しいぞ。お嬢ちゃんもやってみ。それで〆に『青空』をノリノリで歌ってたら、あんたらが来たのさ。ネグレクトの詳細? オレを養うつもりがなけりゃいわんぞ。なにが楽しくて不幸自慢するのさ。これから独身女性の家に潜り込んで養ってもらうつもりだからね。あんま心配しなさんな。オレは大丈夫。
少女よ。その目はやめたまえ。いじめたくなる。
アア? オッサンが養う? ──そだな。一応訊こうか。オッサンは仕事なにしてんのよ。オレと同じってオッサン。……無職はヤバいだろうが。このお嬢ちゃん、娘さんだろ? 二つ上? ははっ、どんまい。オッサンの年齢とかいらんわ。はいはい。三十七ね。……二十歳かやるな?
娘さんが睨んでるぞ。たくよぉ。おう、オッサン。おごるわ。ここの会計は任せろよ。なぁ、オッサン。前なにしてたの。音楽? プロ契約を切られたぁ。自分の納得いく音楽がやりたいなら事務所を立ち上げたらえぇんじゃないの。オレの前世のプロは使い分けてたぞ。売る音楽、やる音楽をよ。まぁいいか。飲もう。おう、おっちゃん。ビール二つ!
▲▽
湊友希那は驚いていた。今では行き付けの喫茶店のひとつである『羽沢珈琲店』に父親を連れてくる途中に出逢った少年、氷川秀人の背景は灰色ではない。黒だ。双子の姉妹である優秀な姉の氷川紗夜から詳しく聞いている。友希那の印象はめちゃくちゃな弟だったが、たった今納得した。優秀と天才ときて変人である。
「おっちゃんが店長? ビールは? ないの? しけてんなー。んじゃあ、ブランデーとかない? デザートに使うヤツとかあるよね? あと灰皿ちょうだい」
「秀人くんはアレだねぇ。本当にロックンロールだ」
「私が店長だけど、君は未成年だろ? 今日はお客さんが少なくてね。話が聞こえてたよ。それ。咥えないでね?」
「ダメなん?」
「ダメだねぇ。それとね。一応は伝えるけど、店内は禁煙です。はい。アイスコーヒー二つね。友希那ちゃんはカフェオレでよかったかな?」
「……ありがとうございます」
「はい。ごゆっくり」
ぶつぶつと何かを言っていた秀人に呆れながら友希那の父親が笑いかけている。ストローに口をつけた友希那は改めて秀人を注視した。赤のような色をした派手なトサカ頭、蛍光色の黄色のレインコートを着た秀人は父親と楽しそうに会話を弾ませている。一言でいえば『気に入らない』友希那の眉間が寄った。男二人は未成年がどうの、喫煙者の差別がどうのと盛り上がっているが、友希那の関心はそこではないのだ。
──音楽。
秀人の口から垂れ流された歌に衝撃が走ったあの瞬間が友希那の頭から離れない。秀人は自然体でだらけたように歌い、合間合間の奇妙な動きの意味が友希那には分からなかった。喫茶店までの道中の鼻歌も気になっている。秀人の言葉を信じるなら生前の世界の音楽だ。今生と似た世界だとはいえ、秀人が語るアーティストを友希那だけじゃなく父親さえも知らなかった。まるでそう。
──異世界ね。
声を出さずに舌を転がす。面白くなってきたじゃない。友希那は知らず、口角をあげていた。
「そんじゃ、オッサンがレーベル作ってさ。オレが所属してやんよ。一緒に前世の音楽を広めようぜ。いやぁ、いい拾い物したなオッサン」
「ははっ、簡単にいってくれるねぇ」
「苦労は若いうちにやれって。前世の母ちゃんがいってたぞ。中年は四十歳からだ。まだまだ若いからイケるべ」
「そうかな? まだイケてる?」
「イケるイケる。ジジイになってもタバコ吸って酒瓶片手にロックンロールだ。どうよ?」
「いいなぁ……。確かにね。それもロックンロールだよ」
「──待ちなさい」
友希那は意気投合しかけてる父親と秀人を睨み付け、身を乗り出さないように二度三度と深呼吸をした。
「お嬢ちゃん。なんぞ?」
「私の音楽……。違うわ。父さんの音楽を知らないのに一緒にやる? 笑わせないで」
「友希那……。お父さんはね」
「黙って。私は、私たちには音楽しかないの。あなたに分かるかしら」
「分からん」
「なら、簡単に言わないでくれる?」
「お前もな」
友希那の視線が強まるのを受けた秀人は心の底から楽しそうな笑みを浮かべた。
「なにが面白いの?」
「──アカペラで一曲聞いたらオレの世界の音楽が分かるか?」
「知らないわ」
「だろ。ならよう。勝負でもすっか? 審査員はオッサンで、オレの音楽とお嬢ちゃんの音楽を」
「望むところよ」
「友希那……。お父さんは事務所の社長をする話でね」
「るん♪ ってきた! 来て来てお姉ちゃーん。ヒデがいるよー」
「ちょっと日菜! 待ちなさいって、ヒデ? 早い再開で嬉しいわ」
友希那はゆっくりと息を吐いて目を瞑った。音楽の勝負。友希那は父親の音楽を、自分たちのバンドの音楽を愛している。負けるわけにはいかない。相手が誰であってもだ。それが紗夜の弟であろうとも。
──だから。
目を開いた友希那の前に氷川姉妹がいた。優秀で生真面目な姉はいい。友希那の音楽に対する姿勢と似た音楽感をもつ氷川紗夜はまだいいのだ。紗夜はここの常連客でバンド仲間だ。笑顔とまではいかないが、話し合えば分かってもらえる。明るく元気で天才肌の妹もいた。気まぐれの気分屋で今日明日にも音楽を辞めてしまうような危うさがある氷川日菜までいるのだ。氷川姉妹が揃うのは不味い。先日の友希那は痛い目にあったのだから。
──私は知ってしまった。
そう。友希那はとある日に知ってしまったのだ。姉の紗夜が隠れブラコンであり、妹の日菜が隠さないブラコンであることを。あの日は辛かった。秀人の話題だと二人は止まらないのだ。打ち明けて貰った立場としては嬉しいのだが、練習をそっちのけで見学にきた日菜と話さないで欲しかった。世間体を気にする両親の手前、表で口に出せないストレスもあったのだろう。友希那は仲間を思いやり、その日は黙って聞き役に徹したのだ。
──アレをまたやるのは嫌。
事情を聞いた日菜は全力で、紗夜は見え隠れする態度で秀人を応援するのだろう。そうすればどうだ。二歳下の男の子に大人気なく追い詰めたことにならないだろうか。友希那の頭をよぎったのは、紗夜がバンド仲間に秀人の存在を打ち明けたときに幼馴染の今井リサが泣きながら助力すると言っていた場面だ。
──困ったわ。
「困ったわ。リサに怒られてしまう」
「だからね、友希那。お父さんは……。これは聞いてないのかなぁ?」
「どうすれば……。紗夜日菜が彼の味方をするのは決まってるわよね。リサは分かってくれるかしら。ううん。リサなら大丈夫」
「日菜ねぇ。ナイスタイミング! アコギ、ありがとー。それでは聞いてください。『雨あがりの夜空に』と、『パパの歌』と『デイ・ドリーム・ビリーバー』のメドレーです」
「るん♪」
「これは不味い状況なのかしら? まぁいいわ。秀人の歌は久し振りだし、静かに聞きましょう」
『15の夜』尾崎豊
『リンダリンダ』ザ・ブルーハーツ
『青空』ザ・ブルーハーツ
『雨あがり夜空に』RCサクセション
『パパの歌』忌野清志郎
『デイ・ドリーム・ビリーバー』ザ・タイマーズ