タグに『魔改造』とあるやろ?免罪符やねん。ダメなひとは諦めて違う作品をみよう!
突然の演奏に顰蹙を買うどころかアンコールを頂いた秀人は快諾し、四曲目の『空を見なよ』と五曲目になる『チェインギャング』に続いて六曲目に『HURRY GO ROUND』を選び、気持ちを込めて歌った。
ふと我にかえるように静かな店内を秀人が見渡せば、すすり泣く声があちこちから響いくる。秀人は驚いた。紗夜だけでなく日菜や友希那も鼻を鳴らしているのをみた秀人は空気を変えるように立ち上がる。秀人が歯をみせて笑うと額の汗を雑に拭った手で乱暴にアイスコーヒーを掴む。アイスコーヒーを一気に呷りテーブルに叩きつけ、歩き始めながらアコースティックギターを盛大にかき鳴らして片手をあげた。
「ラストは『Hi-Ho』だっ!」
人の波を縫うように秀人が歩く。いつの間にか増えていた人たちの顔を一人ひとり確認するように目を合わせ、観客の顔がみえる位置で止まれば歌と身体を揺らす。歌い始める前は年配のお客さんが多かった店内、入口付近が若い集団だと気づいた秀人が若い観客の前で跳ねながら歌った。
──美竹さんたちも。
秀人は知らないが『Afterglow』の仲良し五人組も聞き入っていたのか、擦っていた赤い目を忘れて笑顔を浮かべている。汗を飛ばして歌う秀人の愉快気な顔、動き回る身体が音を楽しんでいることをこれでもかと伝えてきた。途中で弦が一本切れたのだが、構わずに歌う秀人は本当に音楽が好きだとわかる。アコースティックギターひとつで歌いきった秀人は喫茶店にいた
「そいつばかりは店長のおっちゃんに頼むわ。ライブだけじゃなくて、ギャラもお願いしやす!」
「君ね。確信犯だろ? これで断ったらうちの常連客がいなくなるよ。ギャラは食事代、アイスコーヒーにランチをつけようかな」
「世知辛い時代やなぁ。ディナーでもええんよ。あとビールも」
「未成年でしょ。ランチタイムが終わった時間に呼ぶから許して」
「はあ。商売人だなぁ。聞きました皆さん。ランチタイムは混むから、お客さんの居ない時間だってさ。あれ? オレのギャラ、ランチの売れ残りじゃね?」
「気づいたか。私は商売人でね」
「汚いなさすが商売人きたない。ランチタイムにゲリラライブすっぞ」
「やめて本当にやめて」
泣いて笑った観客が二人の漫才に拍手を送り、店長の娘である羽沢つぐみが驚きのあまりに固まっている。
「……友希那。秀人くんは凄いな」
「お父さん……。そうね。凄い音楽だわ」
友希那は秀人の音楽に魂を揺さぶられたように泣いてしまった。敗けを認めるしかないと薄い笑みを浮かべた友希那は、歌の感想に照れながらも二回目は近いうちにやると約束している秀人のくるくると変わる表情をみてか細い声で笑ってしまう。
──こうしてみれば年下の男の子なのにね。
「湊さん。どう? うちの秀人は? 凄いでしょ」
「おねーちゃんのいう通り! ホントにヒデの歌は楽しーよねー。ね? 友希那ちゃん」
「そうね。今日は敗けたけど次は勝つわ」
氷川姉妹は首を傾げた。
「ええー。アコギの弦一本切れたのにもう一曲歌うの? 聞いたかよ、おっちゃん。その水ちょうだい。あとさ。ギャラは今日から頼むわ」
「水ね。どうぞ。ギャラは売れ残りでよければね?」
「まいどっ。……にしても若いねぇ、君ら。え? おっちゃんの娘? 儲かってまっか?」
「え?」
「ぼちぼちね。では娘と友人たちのお願いだ。最後の最後を頼むよ」
「え? お父さん?」
「あいよ。聞いてください。若いナンバーの『子ギャル』と、アンコールのアンコールのラストは『TELL ME』」
◇
「秀人くん。お疲れ様」
「うぃーす。楽しかったわ」
ハイタッチを交わす父親と秀人に友希那は微笑む。座ろうとする二人に近寄る仲良し五人組の中で一番テンションを上げていた上原ひまりが両手をあげながら叫んだ。
「よかったよぉぉぉ。ホントよかったよぉぉぉ」
「なにこいつ。病気?」
「ヒデ、やめなさい」
「ひまりちゃーん」
「日菜先輩ぃぃぃ」
──なぜ抱き付いてるのかしら。
「紗夜ねぇも知ってるひと?」
「上原ひまりさんね。この五人組は幼馴染で結成したAfterglowという王道のガールズバンドよ。同じライブにも立ったわ」
「Roseliaと? なるほどねぇ。……つか紗夜ねぇのヒデ呼びも懐かしいな」
「んんっ。秀人。早い再開ね」
「どこからやり直してんのよ。我が姉ながらポンコツすぎる」
「流しなさい。ところで秀人。日菜から独身女性の家に転がり込むと聞いて探したのだけれど。いろいろとダメじゃないかしら。あなたは未成年なのよ」
「大丈夫だいじょーぶ。紗夜ねぇの知り合いっていってたから連絡はとれるよ。まりなは仕事もあるし成人してる女だ。常識もあるよ? たまに壊れるけど」
「待ちなさい。まりな?」
「おう。月島まりな。知ってる?」
──紗夜。その表情は危ないわ。
「ちょっと『CiRCLE』に行ってくるから、秀人はここから動かないで。いい?」
「ライブハウスの? 今日のシフトは休みだったはず」
「秀人。話し合いましょう。立ちなさい。そして床に座りなさい。話があるわ」
荒ぶる紗夜を止めたのは友希那の父親だった。
「はいはい。すまないが、話をしていいかい? 秀人くんの保護者になる件なんだけどね。彼女たちにも証人になって貰おうかな」
「いいぜ? オレはちっと休みたいからオッサンから頼むわ。一応、名乗ろうか。氷川姉妹の弟、優秀と天才に続く変態、氷川秀人ね」
「そうね。あなたは変人だわ」
「湊さん?」
「友希那ちゃん?」
「やめなさい。説明は任されたよ」
秀人の環境は愉快ではない。専業主婦の母親からの監視ともいえる拘束を受け、父親からは仕事の手伝いを強要されていた。それもこれも、秀人が幼少の頃に暴露した『前世の記憶がある』ことが根本にある。母親は自身の子が殺されたと嘆き、父親は悪魔の子と言われないか世間体を気にした。それがエスカレートしたのは秀人の理解だ。
──元オッサンだもの。仕方ないよね。
醜い感情を理解された両親は荒れた。腫れ物を扱う態度から異物への虐待にシフトする。秀人の環境に納得のいかない姉妹を宥めた秀人は両親の感情を受け入れているからこそ、秀人自身は両親を恨んではいない。それでも付き合うのは義務教育までと決めていた。歩み寄り、和解するよりも距離をとって時間をかけることを選んだのだ。
仲良し五人組にはキツい話題だろう。困惑と同情に満ちた視線を秀人に向ければ、秀人に迫る紗夜と友希那に迫る日菜がいた。姉妹と弟の良好な関係に五人は息を吐いた。
「そして友希那の父親である私が保護者の候補にあがったわけだ。秀人くんはまだ未成年だからね。……そうそう。秀人くん。保護者を引き受けるには条件がある」
「あいよ。聞こうか」
「私がこれから作る事務所に所属すること」
「おう」
「秀人くんの記憶にある全ての音楽を世に広めるためにはメジャーで、商業的な音楽も必要になる」
「だな」
「もちろん。売り上げに関わらず好きな音楽や秀人くんのオリジナルも頼むけどね」
「そっちは別名義にすればいい」
「そうだね。本当にそうだ。僕たちもそうできれば良かったけど……。秀人。僕は一度、音楽から距離をとった。僕の手は信念を曲げた音楽を奏でて汚れているかもしれない」
「それもまた音楽だぜ」
「秀人は音楽を愛しているかい?」
「いい言葉があるぜ」
──NO MUSIC, NO LIFE──
「オッサン。オレの保護者になれ」
「秀人。ロックスターになれ」
▼△
この日、羽沢珈琲店で秀人と居合わせたひとたちは、秀人が長らく公で語らなかった出生を知る初期のファンとなり、いつまでも秀人を支え続けている。秀人のライブがステージによって雰囲気を変えるのは、これが原点だと後のインタビューで語っているのは有名だろう。秀人がその場の客層による選曲を、その場の空気を掴む歌に年齢を問わず酔いしれ、ヒデちゃんの愛称で親しまれ始めた原点でもある。ひとりのファンとしては原点のゲリラライブに立ち会えなかった悔しさが今でもある。それでも、おじいちゃんやおばあちゃんからも愛されるロックスターの原点のゲリラライブ、その前から知っている私は自慢をしたい。私があなたの最初のファンであると。
また、原点のゲリラライブにいた初期のファンだけでなく、秀人のファンは秀人が何歳になろうが健康でいて欲しいと願う。いつまでも辞めない秀人に、喫煙と飲酒を辞めさせようとファンが結託しているのだ。秀人はファンとの闘いだと笑って語った。ファンがあらゆる禁煙グッズを事務所に贈ればライブ中に喫煙し、いろんなノンアルコールをライブの控え室に差し入れるのを秀人以外の全員がいただくお約束となった。そんな秀人がファンに笑いかけるように、四月一日の正午に毎年公開する人間ドックの情報にファンは一喜一憂している。今年も健康だと。
いくつか余談を挟んだが、『オレの保護者になれ事件』を語り終えよう。これからもひとりのファンとして、ひとりのアーティスト、『Hide』を追い続けたい。
──語り手、月島まりな。
『空を見なよ』シャ乱Q
『チェインギャング』ザ・ブルーハーツ
『HURRY GO ROUND』hide
『Hi-Ho』hide
『子ギャル』hide
『TELL ME』hide
PS、タグにひとり追加しますた。