他の混線に草が生えるけど、その他は誰を推してるの?教えてよー。体調は戻った?そんな感じです。
その日の秀人は秋山澪と美竹蘭から同時に相談事があると、今井リサを経由して羽沢珈琲店に呼び出されていた。秀人の頭の中では何かを思い悩む二人が似合い過ぎていたので、特に気にすることなくアコースティックギターを背負って入店する。今夜は年二回ある羽沢珈琲店でのディナーショーがあり、普段ならランチタイムを過ぎた時間は空席が目立つのだが、早目に来店する秀人を待ち望んでいたひとたちで溢れていた。
「あ、秀人さん! いらっしゃいませ。今日はお願いしますね」
「おっす、つぐみ。今日は任せろ。とりあえず、待ち合わせなんだけど」
「そうらしいですね。あちらのテーブル席に居ますけど……」
羽沢つぐみが指し示した店内の奥では紗夜に何かしら言われて項垂れている澪と蘭がいた。つぐみは秀人との初対面の印象を未だに引き摺りながらも、高校に通わずに働き出した秀人のことをどこか尊敬している節があり、恵まれない環境でも頑張れるひとだと思っていたりする。もっとも、秀人の軽口には未だに抵抗しているが。
「ツグツグ。なんか聞いてる?」
「特には……。あでも、蘭ちゃんは大学でみんなバラバラで寂しく思ってるみたいで。バンド活動も華道との兼ね合いで時間が厳しいと愚痴を。それと、ツグツグはやめてください」
「ほーん。大学は仕方ないわな。それぞれの将来設計があるからさ。とりあえずツグツグ。カウンター席に座るから頼むわ」
「秀人っ! こっちに来なさいっ!」
「いつものですね。それじゃあテーブル席に運びますから、ごゆっくりどーぞー」
「ちくしょーめ」
「いっつもいっつもツグツグいうからですっ」
──あっかんべー。
可愛いらしく舌を出したつぐみが立ち去ると、紗夜に呼ばれた秀人が店内のお客さんたちの視線を集めてしまう。今夜のディナーショーを楽しみにしているひとたちからは声援を貰い、チケットが入手出来なかったひとたちからは次回のディナーショーの予定を訊かれずにゲリラライブの予定を訊かれた。とりあえず、予定が未定だからゲリラライブですとお茶を濁しながらテーブル席へと足を進めた秀人は、仁王立ちをして待っていた紗夜に着席を願った。腕を組んで座る紗夜はひとり頷く。
「よく来たわね。秀人」
「そりゃ来るよ。呼び出されたし、ディナーショーもあるからね。紗夜ねぇは?」
「うん? いつも通り来たら二人が居たのよ。珍しい組合せだから声をかけてみたら、秀人に相談事って聞いて呆れてたの。美竹さんの年齢差はひとつだからまだ分かるし、あまり気にしてないけど。秋山さんはね?」
「だから澪ちゃんって呼ばれてるんだろ。特にリサなんか完全に妹分をみる目だからな」
「秋山さん……。失礼かもしれないけど、歳上として恥ずかしくないの?」
「実はあんまり……。その、秀人くんとかリサちゃんは頼りになるし、さわちゃんもその手の相談事は秀人くんにしろって。私もそう思ったし」
「山中さんは教師でしょうに。これだからまりなさんの友人は」
「紗夜ねぇ。言い過ぎ」
「なによ?」
「それにほらっ。二人は同い年よりも上っていうか、大人っていうか、大切な弟さんに何かするつもりでは……。すいません」
「めちゃくちゃ萎縮してんじゃん。なにしてんの紗夜ねぇ」
呆れた秀人が目を向ければ、瞼を閉じた紗夜がストローを咥えてアイスコーヒーを啜っている。
「その、秀人くん。迷惑だよね?」
「大丈夫よ? 気にしない気にしない。さわちゃんがいうならオレが適任だろうしね。紗夜ねぇはいないと思っていいから」
「秀人くん。ありがとう」
──ずずぅっ。
「あたしはっ」
「声がでかい。落ち着きなしゃいな。蘭から話があるなんて珍しいな。曲をせがまれて以来じゃない?」
「ごめん。あ。曲はありがとう。あたしはかなり気にいってるから。それに、ライブでも盛り上がるし、悪くないから」
「どうも。気に入ってくれて良かったよ」
──ずずぅっ。ず。ごほっ。
「あのさ秀人。ちょっとバンド活動のことでね。秀人と話せば大丈夫って父さんがいうしさ。あたしも悪くないかもって思って。それで。その。あの。だからさ」
「あのオヤジ。娘の相談を投げやがったな。それと蘭。だんだん小さくなってるからね。普通の音量で頼むわ」
「ごめん」
俯いて顔を染める蘭は控え目にいって可愛いらしい。隣に座る澪もそう思ったようで可愛いと溢している。まあ、すぐに蘭に睨まれて慌てるところが澪らしくて秀人は笑った。
「細かい話はオレのランチタイムのあとでお願いね。もうすぐ売れ残りがくるから」
「売れ残りとはいってくれるね。今日も奇跡的に一食分だけ、一食分だけが残っているよ」
「おう。おっちゃん。今日はよろしく」
「こちらこそ。それよりも秀人くん。お客さんの皆様がね。今日はかなりしつこく訊いてきてね。一食分が残るように計算して注文してきたんだよ。不思議に思わないかい?」
「口笛でも吹こうか?」
「みんな。ここの会計は秀人くんに頼むからね。飲み物のお代わりとか、普段なら頼まないようなデザートとかいかが?」
「鬼畜か。まぁいいか。みんなは好きに頼んでいいよ。ちゃんとギャラに上乗せさせるから。おっちゃん? つぐみは?」
「つぐみは裏で打合せ中の月島さんたちに差し入れをしているからね。あとから来るんじゃないかな。それじゃこれ。毎度ながら、売らせて貰えなかったランチね」
「どもども。いただきます。ああ、店長。追加で注文があるわ」
「まいどあり」
追加注文をして、わざとらしくウマウマと言いながら食べ終えた秀人が二人から詳しく話を聞いていけば、二人ともそれらしい相談事で秀人は苦笑して頷き、紗夜の眉間は寄っていった。
澪の相談事は大学の卒業を見据え、バンドメンバーから音楽関係の就職活動をすすめられて悩み、秀人から話を聞いて参考にしようと思っているとのこと。蘭の相談事はバンド活動の時間を増やしたい気持ちとメンバーの時間を大事にしたい気持ちで揺れており、どちらを取ればいいのか分からなくなったとのこと。
「美竹さんは好きにやればいいじゃない。秋山さんは教師とか大学の先輩を訪ねるのか常識的じゃないかしら。秀人もそれでいいでしょ」
「紗夜ねぇ。フライドポテトあるけど食べる?」
「食べる」
追加注文されたフライドポテトを秀人が紗夜の口元に運べば黙ってパクついてしまう紗夜に、蘭は呆れ、澪は笑顔になった。
「さてさて。二人の悩み事はちゃんと聞いたから提案するけど、澪はオレのライブに裏方で参加してみようか。業界人の話なら参考になるでしょ。蘭は原点に立ち返ること。なんで音楽やり始めた? バンドやる意味は? ちょっとだけ振り返って考えてみろよ」
「裏方……」
「原点……」
「澪はひとりで来いよ? 他のヤツらは普通に就職活動をするんだろ? 蘭だけのバンドか? 全員が揃うからバンドだろ」
「ひとりで……」
「みんなで……」
「お代わり……」
「はいはい。二人とも時間あるならディナーショーを聴いてかない? 気分転換も兼ねてさ」
『うん』
「ヒデポテトちょうだい」
「紗夜ねぇ」
▲▽
ディナーショーの幕開けは秀人の近況を語るトークから始り、アコースティックギターの弾き語りで進行される。こういったディナーショーは普通のライブでは味わえない距離感で行われ、ライブのチケット代金と比較すると割高になるため二の足を踏むひとは多い。秀人が開催するディナーショーは二種類あり、どちらもファンクラブ限定で抽選会と即売会となっている。抽選会は文字通りにファンを対象とした、秀人のディナーショーに参加したことがないファンを優遇する抽選形式で集められるディナーショーだ。即売会はライブ会場のみで売られる限定チケットである。どちらも転売は禁止されており、転売をすれば二度と呼ばれないことが注意されている。
順調に進んだディナーショーの前半が終わり、秀人がファンの質問に応える休憩とは呼べない触れあいの時間となる。すでに五曲も歌い終えた秀人のサービス精神は高い。普段のライブとは違うメロディの『名もなき詩』や『Tomorrow never knows』から始り、『花 -Memento-Mori-』や『終わりなき旅』に『innocent world』という楽曲が秋山澪と美竹蘭の二人にも共感を覚えさせたようだ。ライブの舞台が大きければ大きいほど秀人は遊ぶが、こうしたファンと語り合う時間は秀人が大切にしている笑顔で溢れている。
「それなりに盛り上がったところで大人の時間が始まっちゃうよ。エロエロとドロドロな楽曲がやって参ります」
笑いかける秀人に悲鳴と歓声があがった。
「一応ね。毎回いってるけど、不幸な恋とか愛を応援してるわけじゃないからしないでね。……バレちゃってやり返されても知らないよ? 子供は敏感だからツッコミ入るし。それでもね。今。この時間だけはエロくいこうか。青春が子供の特権なら、大人だって特権がある。オレの年齢は公然の秘密だからツッコミはいらないって。そこ。そこにいってるの。ダ~メ」
いろいろと考えていた秋山澪と美竹蘭にも笑い声が移ったらしい。
「笑いもとれたし後半にいくよ。結構ね。評判いいのよ、大人の時間。大人の音楽。帰ったら旦那とか嫁をみる目が変わったなんていわれるしさ。離婚の報告しちゃうファンもいたけど、みんなは大丈夫? ……おう。若干名の顔が心配だけど帰ったら抱き締めればいいんじゃない? もう歌うよ。許された大人の遊び」
──オレの歌に酔え。
そこから流れる楽曲は良くも悪くも秋山澪と美竹蘭を揺さぶった。『色彩のブルース』で始まる大人の遊びは『DEAR BLUE』と『NITE & DAY (NEW TAKE)』に『強く儚い者たち』と続いて濃くなっていく。また『ここでキスして。』と『One more time, One more chance』が歌われれば、言葉にならない感情に支配されていくのが見てわかる。実は全身を赤く染めているのは秋山澪と美竹蘭以外にもいて、初な反応をしている羽沢つぐみだったりする。年頃の娘の親としては心配しながらも期待していたりするのだ。婿を。
それなりに静かでいながらも確かな熱量が込められたアンコールを受けた秀人は『未完成』で語り口を変える。『セロリ』で盛り上げて『歩いて帰ろう』で幕を閉じかけたが、羽沢つぐみを呼び出して『サプライズゲスト』だと口にした。父親の秘密主義は娘に伝染したらしく、内密に練習した楽曲を披露したのだ。秀人がコーラスに回り、キーボードの羽沢つぐみが歌い出した『未来へ』は父親だけでなく、美竹蘭の涙腺にも直撃した。号泣である。そこから羽沢つぐみもキーボードの演奏で参加し、秀人が歌う『千本桜』と『くちばしにチェリー』は万雷の拍手を貰い終幕となった。
後に幾つかの夫婦が円満に離婚したと報告が続くようになったのは、秀人だけのせいではないが、間違いなくキッカケを作ったひとだと言われている。それでも、大人の遊び、音楽は多くの声援を貰い今も続いていき、秀人の歌に酔いしれるのだろう。
──語り手、月島まりな。
今回は多いけど知ってるよね?
『名もなき詩』Mr.Children
『Tomorrow never knows』Mr.Children
『花 -Memento-Mori-』Mr.Children
『終わりなき旅』Mr.Children
『innocent world』Mr.Children
『色彩のブルース』EGO-WRAPPIN'
『DEAR BLUE』黒夢
『NITE & DAY (NEW TAKE)』黒夢
『強く儚い者たち』Cocco
『ここでキスして。』椎名林檎
『One more time, One more chance』山崎まさよし
『未完成』山崎まさよし
『セロリ』山崎まさよし
『歩いて帰ろう』斉藤和義
『未来へ』Kiroro
『千本桜』(黒うさP feat.初音ミク)
『くちばしにチェリー』EGO-WRAPPIN'
ヒロインレースの勝者は?
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今井リサ
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月島まりな
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湊友希那
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秋山澪
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その他