雄英高校期末の演習試験。チームの組み合わせが発表されていく中で
「物間と……印照がチームで……俺とだ」
相澤が捕縛布に手にかけてニヤリと笑うと自らが対戦する相手を宣言した。
それに対して才子と物間は
「これは……相性最悪ですわね……」
「ははは……」
才子はすぐに相性の悪さを呟き物間も乾いた笑いを浮かべた。
だがすぐに
(ですが……出久さんが言ってたように……ヒーローが最初から諦めて逃げるわけにはいきません!例え勝てずともこの試験……絶対にクリアしてみせます!)
と意気込んでいた。
「あ、あと物間もそうだが今回の試験テレポートは禁止とさせてもらうからな」
・・・・
次々とクラスメイトが合格していく中、物間と才子は作戦を練っていた
「テレポートが禁止となると……サイコキネシスで空中を飛んでいくのは?」
「それは悪手ですわ。相澤先生の的になって落ちかねません」
「だよねえ……透視で相澤先生の動向を探って二方向に分かれるのは?」
「確かによさそうですが……相澤先生のことです。個性に関しては対策を練っていると思いますわ。もしくはゲート前に待機しているか……」
そしていよいよ才子たちの番となって演習場に向かう。
演習場は地下で遮蔽物が柱だけのシンプルな場所だった。
「これはこれは……」
「おそらく私たちの作戦を見通してのことでしょうね」
これでは二方向にわかれようにもすぐに見つかってしまう。
それに天井までの距離が短いので低空飛行しかできない。
「これじゃあサイコキネシスで物を飛ばすって案も無理そうだねえ……」
「ですわね……ですが全く勝ち筋がない試験なんて聞いたことがありません……なにか……あるのでしょうか……?」
『物間、印照チーム演習試験スタート』
考えようとしたのも一瞬試験の合図で目の前の試験に集中する。
「……どうする?」
「まずは……」
透視で相澤の位置を視認する印照
「これは……罠も仕掛けてありますわ。流石相澤先生、抜け目がありませんわ」
才子が視認した罠とは相澤が使う捕縛布が死角になりやすい位置などに張り巡らされていて、通れるルートが限られているのだ。布には鈴までついているので通ったらすぐに気づかれるうえに、サイコキネシスで利用しようにも攻撃がバレてしまう。
「さて……相澤先生の個性がスカでないことを祈るか」
物間の個性は蓄積する個性や一部の個性に対しては意味がないこともある。イレイザーヘッドの個性に対して、物間が優位を取れる条件は出久曰く、個性のコピーそのものを無効化するのかそれともコピーした個性の使用を制限するのかで変わってくる。
そして開始と同時に物間が飛び出した。正面から、才子が左に回って飛び出した。
物間は才とテレパシーである程度の距離の把握をするとともに個性の解除のタイミングを見切っていたのがだが
『ねえねえ?緑谷くんとはどうだい?』
『べ!別に!?なにもありませんわよ!それに貴方には関係ないでしょ!』
『クラスメイトの恋路を邪魔するつもりはないさ!ただ応援したいだけだよ!』
『よ、余計なお世話ですわ!応援される必要もありません!』
『今、認めたね?』
『あっ……も、物間さんのバカあ!』
テレパシー故にモニタールームの出久たちに話は聞こえないが才子たちの様子を見ていた出久たちは
『物間くん……才子さんに何を言っているんだろ……』
『あの様子だと恋バナじゃないの~?ねえ一佳~?』
取陰切奈がふざけたようにからかったがそれと同時に一佳たち出久LOVERたちがボンっ!と顔を赤くした。
『あれ……皆知っているようだけど……もしかして……』
『皆さんで出久さんに告白したのですかー!?』
ポニーの言葉にアワアワとなる一佳たちを見たクラスメイトは
『え……?マジで?』
『祝福のあらんことを……』
『すごいノコ!』
と女性陣が盛り上がるのに対して男子陣が
『緑谷あ~?どういうことか説明しろい!』
皆、一佳たちが緑谷へ恋心を抱いていたのは知っていたが正式に付き合っているとは知らなかったのだ。
『緑谷テメエ!リアルハーレム築きやがってえ!』
『俺たちだって羨ましいんじゃあ!』
『わ!?ちょおっ!?皆落ち着いて!説明するからさ!』
モニタールームがこんなことになっているとは知らず物間たちは演習試験の真っ最中。最もそんなことにしたのは物間のせいなのだが……
・・・・
物間が才子をおちょくってから数分後、物間はこのままゲートまで行けると踏んでいたのだがそれは甘かった。
突如念動力が弱くなって地面に向かって落ちそうだったのだが咄嗟に微弱の念動力を地面に放つと落ちる速度が下がり受け身を取って着地する物間だったが
「上か!」
「それぐらい予想しろ」
柱と柱の間に張られた捕縛布から飛び降りたイレイザーヘッドが捕縛布を物間に向けて放とうとするが物間は前回り前転で回避して振り向きざまに取り出したスーパーボールを投げる。
このスーパーボールは炸裂すると中身が破裂して粘着性のスライムが相手を拘束するというものだった。
物間は個性の性質上、変に奇をてらったコスチュームが必要ないとされていたのだったが出久に
『物間くんは確かに個性が強力だけど相手によって戦略や作戦を変えないといけない。だけどひとつだけどんな個性でも通用する戦法がある』
それが投擲だった。
どんな個性をコピーしても対応できるように投擲の術を出久から習っていたのだった。
相澤は予想外だったのか一瞬反応が遅れたが捕縛布で弾き飛ばしたが中からスライムが飛び出て捕縛布にくっついてしまった。
相澤はすぐさま捕縛布を捨てて物間に肉弾戦で挑もうとした。
(全く……主役のような君から僕が勝ち方を教えてもらうなんてね……でも君なら嫌にならないよ……不思議なことにね)
相澤が右手を突き出してきたが物間は体を捻って避けるとそのまま相澤の右手を掴んで背中を左手で押さえつけ、地面に叩きつけた。
(せめてこの試験だけは……僕は脇役ではなく主役になれたかな……出久くん?)
それは試験が始める少し前
「物間さんが相沢先生の相手をするのですか!?無茶です!相澤先生との肉弾戦では……」
「印照くんの言いたいこともわかる……でもここは……僕を信じてくれないかな……」
「物間さん……わかりましたわ!」
こうして現在に至るー
物間は欲を言えばカフスもかけたかったのだが少しでも拘束を緩めれば相澤先生の脱出を許してしまうのがわかっていたためこのまま押さえつけることにしたのだ
物間に押さえつけられたイレイザーヘッドは
「物間……おまえその格闘術どこで習った?」
「……緑谷くんですよ……彼は不思議ですね。こんな僕にも主役になれるなんて言うんですから」
「……おまえがコンプレックスを持っているのがわからないわけではなかったが……克服したんだな」
「ええ……嫌というほどさせられましたよ」
思い出されるのは出久とウォズによる地獄の特訓
「確かにすごいな……だが甘い!」
「なっ!?」
突然相澤の裾から捕縛布が飛び出すと同時に物間も下がったが相澤が脱出するには充分だった。
「やれやれ……なぜ最初から使わなかったんですか?」
「酷なことを言うようだったがおまえには使う必要がないと思っていたし、手の内を晒すリスクを考えてのことだが……どうやら俺はお前を甘く見すぎていたようだったな」
イレイザーヘッドの目つきがさっきとは変わる。
そして裾に隠していた捕縛布を首に巻いて戦闘態勢に入る。
(やれやれ……せっかく主役になれたと思ったのにな……さっきの一瞬で透視して見てみたが……ふっ……やっぱり僕は脇役だね。でも……)
と相澤が捕縛布を出すと同時に物間が横に避けたが地面に踏み込んで物間に迫る相澤だったが
「っ!」
突然横から飛んできた鞭によって行く手を阻まれたイレイザーヘッド。
「印照くん……なぜ戻ってきたんだい……君が行けば条件を達成できたのに……」
「確かに……あのまま行けばゴールはできたかもしれません……ですが!助ける力もあるのに行かないなんてヒーローではありません!ですが物間さん。さっきのはお見事でした」
「ハハハハハ!全く……君といい緑谷くんといい!なんてヒーロー精神なんだ!まるで主役じゃないか!」
「話している暇なんてないぞ!」
イレイザーヘッドが才子に向かって捕縛布を伸ばしたが鞭で弾いた。しかしその隙にイレイザーヘッドは接近したが前に物間が躍り出るとジャブの体勢に入って相澤に向かって鋭い突きを放つと
「ほぉ……やるな」
相澤は衝撃と同時に下がったおかげでダメージは少なかったが現在の物間の戦闘能力の高さに内心では驚いていた。そしてある人物が脳裏に浮かんだ。
(緑谷出久にウォズか……あいつらがB組全体の意識の向上になっている……)
と目の前に切り替えると相澤は捕縛布を再び出したが物間は右に避けると同時に捕縛布を掴んで引っ張った。体勢を崩された相澤は咄嗟に捕縛布を掴んで踏みとどまるが視界には既に物間はいなかった。と視界に映った横から飛んでくる物体に相澤は目を丸くした。
それは天井を支える柱の一つだった。物間が先程才子とテレパシーの中で立てた作戦だった。物間が時間を稼いでいる隙に才子のサイコキネシスでボルトのネジを緩めて天井が落ちない程度の数の柱をぶつけようとする作戦だった。
これにはさすがの相澤も後ろに退いたがそれと同時に視界に映った才子を無力化した。
だが……
ガチャン!
「これは……」
『印照、物間ペア条件達成』
相澤はすぐに気づいた。あの時なぜ印照がわざわざ視界に映る位置を飛んでいたか。それは……
「物間への注意を逸らして隙を作るためか……はぁ~……やられたよ」
勝利した才子は
「やりましたわ!出久さん!」
物間も
(ま、主役を支える脇役にはなれたかな)
と今度ばかりは満更でもない心からの笑みを浮かべていた。
・・・・
モニタールームでは
「やったね!才子!」
「ん……よくやった……」
「すごい……」
一方男子陣は
「物間すげえ!」
「漢だったぜ!」
「あいつがあんな協力プレーができるとはな……」
出久も
(物間くん……よかったね!)
ウォズは
(ふ……彼も少しはマシな面になったな)
こうして印照才子と物間寧人の演習試験は終わった。