Iアイランドの中央にそびえ立つセントラルタワー
そのタワーの診療室には二人の男性がいた。
一人は平和の象徴でありナンバーワンヒーローのオールマイト、ただし今は診察カプセルのなかで弱弱しい状態のトゥルーフォームになっているが
もう一人の眼鏡をかけたオールマイトと同年代の男性はオールマイトのアメリカ時代からの相棒にして世界にその名が知られている天才発明家であり天才科学者、デイヴィッド・シールド。
ピッピーという機械音が診療室に鳴り響きデイヴィッドはモニターの数値を見ると落胆したように頭を落とす
「どういうことだトシ……なぜ…これほど個性数値が下がっているん……だ……?」
今行っていたのは個性の力を表す検査である。オールマイトの個性数値が異常に下がっているという結果はデイヴィッドにとって受け入れがたいものだった。モニターの折れ線グラフは途中でガクンと急降下し、その数値は全盛期の1/60まで下がっていた。
「オールフォーワンとの戦いで内臓を摘出したからとはいえ……この数値は……」
デイヴィッドはオールマイトのトゥルーフォームのことやオールフォーワンとの戦いで内臓を摘出したことは知っていてもオールマイトの個性や緑谷出久に自身の個性を譲渡したという事実は知らなかった。
「このままでは平和の象徴が失われてしまう……君のおかげで日本のヴィラン発生率は他国より遥かに低い……君がアメリカに残ってくれたらとなんど思ったことか……」
デイヴィッドが俯き頭を抱える。
その光景を見たオールマイトは自信が秘密にしていたせいで親友を苦しめているんだということにようやく気付いた。
だが
(それでも……デイブにはメリッサもいる……戦いに巻き込むわけには……)
と思った矢先、ウォズに言われた言葉を思い出した。
『彼の気持ちを蔑ろにしてるんじゃないか?』
(私は……)
『少なくとも私が知っているヒーローは最後まで仲間を……こんな私のことすらも信じていたぞ』
(そうだな……私たちは仲間で親友だものな)
「……デイブ、真実を話そう」
「トシ……?」
「今から言うことは信じられないかもしれないが「トシの言うことだ。信じるよ」ありがとう……」
そして一拍置き、意を決して口を開く。
「もう私には”個性”がないんだ」
「--は……?」
流石のデイヴィッドも予想斜め上の言葉に絶句した
「ど、どういうことだ!まさかオールフォーワンやそれに関する個性に!!」
困惑するデイヴィッド。だがオールマイトはゆっくりと口を開く。
「違うんだ……私の持っていた個性はワンフォーオール、オールフォーワンと対になる聖火の如く引き継がれ……力を得てきた個性……」
「なっ……!?」
デイヴィッドは次々と飛んでくる予想外の情報に混乱していた。
「じゃ、じゃあ個性数値が急激に下がっていったのはー」
「そうだ……私の弟子であり教え子の一人……緑谷出久に私の個性を継いでもらったんだ……かくいうこの私も元々無個性だったのをお師匠に託してもらった」
「まさか……!?」
あの絶対的ヒーローのオールマイトが無個性だった事実はさらにデイヴィッドを驚愕に染めた。
頭を抱えて悩むデイヴィッドを心配させないまいとオールマイトは口を開く。
「そう絶望しないでくれデイブ。緑谷少年は……かつての私を超え始めている」
「……?」
かつてのオールマイトを誰よりも隣で見ていたデイヴィッドにとって信じられない事実だった。
「彼は私が敵わなかったヴィランも倒し……試験ではこの私も倒し……そしてオールフォーワンをも退けた……」
「な……!?」
全盛期でないとはいえオールマイトが倒せないようなヴィランをも倒し、オールマイトに勝ったという事実だけでなくあのオールフォーワンをも退けたというのはデイヴィッドでなくとも衝撃するだろう……
「だからもう少し待ってくれ……次代の平和の象徴は……確実に芽を伸ばしている……」
「……」
オールマイトは信頼した目でデイヴィッドを見るとデイヴィッドも微笑んで握手を返した
・・・・
「拘束しました。警備は予定通り5人でした」
Iアイランドのセキュリティを管理するタワーの最上階にあるコントロールルーム
そこには5人の警備員が拘束されていた。
「順調だな……こちらも動くぞ」
とその時、響く着信音
その中のリーダー格の男がスマホを手に取る
「なに?オールマイトが?わかったそれはこちらで対処する。で?なんだ。ちゃんと手伝ってくれるかって?安心しろ。約束通りアンタの計画に支障はない」
そして電話を切った男はニヤリと笑みを浮かべていた
「くっくっく……これで奴はもう戻れない……それに……あの方からもらったこれも……」
そしてそのボタンを押すと
<……キカイ……>
禍々しい音声が鳴り響いた
・・・・
あの後オールマイトと別れたデイヴィッドは研究室に座り込んでいた。
だらんと垂らした手にはスマホ
その着信相手は……先ほどの男だった
デイヴィッドは偽のヴィランを利用して永久凍結された自身の研究成果を取り戻そうとしていた。
サムから提案された時には戸惑ったが、今日にいたるまで完全に決められないでいた。
だが……
(オールマイト……確かに君の言う通り……次代の希望は芽を伸ばしているだろう……でも君は?君はこれからも戦い続けるのだろう?君が個性を失って戦えば、その先に待っているのは……)
オールマイトは弱っていたとしても戦い続けるだろう……それは長く隣にいたデイヴィッドだからこそわかっていたのだ。そしてその先に待っている未来を想像してしまうと……
だからといって、説得してもオールマイトは戦いを止めない。そうすれば待っているのは平和の象徴の喪失という未来だからだ。
ならどうすればいい?
その迷いがデイヴィッドに決断させる材料となってしまった。
(この計画が成功すれば彼はまだ戦える……!彼の意思を途切れさせずにすむ……!オールマイト……君が死ぬのだけは
嫌だ
嫌だ
嫌だ)
そして頭を抱え、苦い笑いを浮かべるデイヴィッド
もうどんな声も今の彼には届かない……
タイトル名は英語で『絶望』という意味です!