「……朝か」
ウォズの習慣で早く起きるせいか予定起床時間よりも少し早めに起きてしまった僕
周りの皆は気持ちよさそうに眠っているので起こさないように布団を畳む
ちなみに個性関係で問題を起こした吹出くんと凡戸くんは別室で寝ている
こればっかりは皆被害に遭っているからか異議を唱える者はいなかった
二人も納得していたし
部屋の外の洗面所で顔を洗っていたら
「もう起きてるの?早いねぇ」
「おはようございます。マンダレイ」
プッシーキャッツの一人、マンダレイから声をかけられた。なにやら野菜などが入った段ボール箱を持っていた
「あっ、お昼前に頼むつもりだったけどちょうどいいか。ねえねえ。起床時間まであと少しぐらいあるよね?」
「ええと……不味かったですか?」
今は5時だから……1時間前か
「ううん!これぐらいは誤差の範囲内だからいいんだけどね。それでね。クラスメイトの弁当を作るぐらい料理美味いって話をブラドキングから聞いててさ」
「ええとですね。皆の弁当作ってるのはウォズなんですけど……」
「知ってるよ?二人の話は担任から聞いてるし。でさ。夜ご飯は昨晩言ったとおり私らが作るのは昨日だけってことになってるんだけどね?朝と昼は特訓もある以上、イレイザーが時間の都合と調理との連続作業のオーバーワークは身体を壊すからっていうから私らが引き続き作るってことにしたんだけど……正直、特訓の準備やサポートで人手が足りないことになりそうでさ。だからウォズくんに朝ご飯作るのの手伝いと昼飯の用意を頼みたいんだけど……あっ、勿論緑谷くんのスケジュールも少し余裕を持たせるようにするから」
「僕は構いませんが……」
『私も構わないよ?出久』
「ウォズもいいそうです」
「ホントに!?ありがとう!じゃあ食堂に来てくれるかな」
それだけ言ってマンダレイは段ボール箱を持って食堂へと向かっていく。
僕も顔を洗い終わって食堂に向かうと
「早いな、緑谷」
「朝からこんなことを頼んでスマンな」
相澤先生とブラド先生がコーヒー飲みながら資料を読んで話し合っていた。朝から眠気一つ見せずに……すごいな
調理場に入るとマンダレイがエプロンを着て待っていた
『じゃあ変わるね』
『任せろ。出久は少しだけ休んだらどうだ?時間が来たら起こすよ』
『ありがとう。じゃあお言葉に甘えて』
ウォズと精神権をチェンジすると僕は眠りについた
・・・・
ウォズside
「初めまして。出久と共にさせてもらっているウォズだ」
「聞いていたけど本当に別人なんだ……目つきとか声とか仕草とか」
「さて、朝ご飯のメニューは?」
「うん。朝は鰆を使った料理に野菜一品と味噌汁にヨーグルトってなってるんだけど……細かいところはまだ決まってない上に買い出し前だからさ、食材が少ないんだ……」
なるほど……
「鰆とヨーグルト以外で今ある食材は?」
「ほうれん草とカボチャ、後は薄揚げとネギだけど……」
「充分だな。ほうれん草があるなら胡麻和えにして、鰆は塩焼き、味噌汁はカボチャと薄揚げの味噌汁。この献立はどうだ?」
「いいわね……!」
「じゃあ決まりってことかな?」
「勿論よ!じゃあ私は味噌汁と胡麻和え作るからウォズくんは魚焼くのお願いしてもいいかな?」
「勿論さ。鰆はどこだい?」
「勝手口の隣に置いてあるから」
食器棚を通り過ぎると外に出る勝手口の横に大量の発泡スチロールが置いてあり、中を開けると氷で冷やされた鰆が新鮮さを表すように光っていた。ここで豆知識。鰆は寒鰆と呼ばれるものもあって旬は冬だと思われがちだが鰆は回遊魚のため地域によって旬が異なる。瀬戸内海では春から初夏にかけてとされるのでこれらは関西産だろう。関西産のをここまで新鮮さを保ちつつ運んでくるとは……そういえば今年は鰆が大漁だとかニュースで言っていたが……運賃を含めても他の魚を買うより安いのか……ま、それはともかく
「私が魚を捌けなかったらどうするつもりだったんだ……?」
……まあできるんだけどさ。それにしても
「中々いい鰆だな」
触ってみると感触も硬く、斑紋もはっきりとしていて、目も確認したがみずみずしいのでこれは当たりだと思った
さて。ここで鰆の塩焼きの調理方法を紹介しよう(この調理方法は料理下手な作者が家族から教えてもらったものですのでプロのようなものではありませんし、ところどころ間違っているところがあるかもしれませんがご了承くたさい)
三枚におろした鰆を一人分サイズに切っていく。一人当たり100gほどが目安だ
そして切り身を水でさっと洗って水気を拭き取る
その後、塩を振っていくのだがここで違いが出る。
これは鰆ではなく鯖に塩を振る時の例なのだが1時間前、30分前、15分前、焼く直前の4段階があり、それぞれ明確な差が存在する
直前に振るとふっくらするが生臭さが残り、1時間前だと生臭さはないがふっくら感がなっくなり身が締まる
鰆の場合、水分を抜かせて味を濃くするのに適した時間は15分ほど前になる。
ということで塩をまんべんなく振って15分ほど置いておく。その間にフィッシュロースターの準備をしておく
……15分後
置いておいた鰆をフィッシュロースターに入れて表面を5分ほど強火で焼いたら裏面を2分ほど焼く。
これで完成だ
鰆を皿に盛りつけていたら味噌汁のいい匂いが漂ってきたのでそっちに向かう。あ、勿論魚の匂いは消臭剤で消しておいた
「そっちもできたんですか」
「うん。そっちも美味しそうじゃん。フィッシュロースターは便利だった?手間かからないでしょ」
「魚を捌いといてくれたらもっと手間がかからなかったんですけどね……」
「あはは……ごめんね」
「それで?これで終わりかな?」
「あ、あとはお昼の分のおにぎりお願いしてもいいかな?」
「了解した」
昆布や梅干し、おかか、赤紫蘇のおにぎり……ととにかく握っていった
「これだけ握ればいいかな」
握ったおにぎりを盆に並べ、その上にラップをかけてマンダレイに指定された訓練所と森の間にあるテーブルまで持っていく
最後の盆をテーブルに置き終わって戻ろうとした時、
「あの子は……」
視線の先に映ったのは5歳ぐらいの少年。たしかマンダレイが自分の従甥って言ってたな。
気になったことを考えていたら
「なんだよ。さっきからジロジロと」
さっきの少年が前まで来ていた
どうやら私の視線は彼に向きっぱなしだったらしい
彼に向けられる自分への視線を見て疑問が確信に変わった
彼の目に宿っているのは……憎しみ、いや違う。嫌悪感だ
私、いや私たちへの嫌悪感だ。マンダレイにもその視線を向けていたことから……
「なあ少年。ヒーローが嫌いなのか?」
「……お前には関係ないだろ」
それだけ言うと彼は宿舎のほうへ戻っていった
やはりか。だが死柄木たちのような邪悪な嫌悪ではない。どちらかというとヒーローというものが、ヒーローの行動が理解できないというような侮蔑だ
だがそうなった理由は……
私が再び思考を張り巡らせていると
「緑谷」
「む?轟くんか」
「…その声、ウォズか」
「まあね。どうしてここに?」
「……お前らに相談したいことがあってな。マンダレイから起きていることを聞いてここに来た」
「相談したいこと?」
轟くんが口にしたのはさっきの少年の話だった
昨日、轟くんたちもバスから降りた後
森に落とされて自分たちの足で宿舎に行くようにされたらしく
私たちが着いた後、日が沈んだ後にやっと辿り着くことができたらしい
その時に
『あの…そっちの男の子は?』
『ああ、この子は私の従甥。出水洸太。洸太、挨拶しなさい』
轟が近づくとその少年は思いっきり拳の股間に叩きつけようとしたが
『なっ!?』
『……なにか気に触ったなら謝るが……こういうことはあまりしない方がいいぞ』
轟はそのパンチを左手で受け止めて、洸太の目を見る
轟はその目に既視感があった。
鏡でなんども見た自分の目
父を憎んで、自分との繋がりすらも嫌悪した目
憎しみこそ映ってないように感じたが自分を、認めていないように映ったのは確かだった
夕食の後、お風呂場で峰田の覗きを阻止した洸太だったが思わず女子風呂の方へ振り返ってしまい、仕切りから落ちそうになったが轟が受け止めてマンダレイの元まで連れて行った時に聞かされた
彼の両親はヒーローで殉職してしまったこと。それを世間は褒め称えたこと
それが幼い洸太にとって理解できなかったのだ。
「なるほど……そういうことか」
「ああ…あれは親父を認めなかったかつての俺だ。俺と違って誰かを憎んではないが…」
「…………」
彼はヒーロー、というより個性を使って戦うということを嫌悪しているようだな
……当然だろう
個性というものがなければ両親は殺されなかったのだから
その死をマスコミやメディアは人々を守って死んだと取り上げるのだが幼い子供にそんなことが理解できるはずもない
成長したとしても理解する前に嫌悪感が邪魔して認めようとしないだろう
そんな彼に私はどうやって向き合えばいいのだろうか?
……いや、そもそも他人の思いを理解しようともしなかった私が彼に向き合う資格があるのだろうか……
……出久なら彼にどう接するだろうか。いや個性のことで苦しんできた出久には……このことは話したくはないな
私は宿舎に戻った後、出久に精神権を返した
・・・・
うわぁ……すごい美味しそう……
少し焦げ目がついた焼き目に食欲がそそられる
ウォズに精神権を返してもらったら、起床時間直前だったので配膳を手伝うことにした
僕が皿を配膳していると
「出久さんおはようございます」
「おはよう。才子さんって朝早いんだね」
「ええ……朝練の習慣がついていまして……顔を洗おうと外に出たら出久さんを見つけたもので。出久さんはなにをしてらっしゃのですか?」
「ちょっとね。ウォズが朝食の手伝い頼まれちゃって」
「ふふっ、大変ですわねウォズさん。でも出久さんが朝早いのは?」
「ウォズがいつも弁当作ってくれるからかな?僕も習慣づいちゃってるのかも」
「ふふっ、私たちお揃いですわね♪」
そう言って微笑む才子さんからの不意打ちに僕はドキッとしてしまう
それを見てクスクスと笑う才子さんが愛おしくてしょうがない。
妖艶な笑みを浮かべる才子さんにジロジロと見られてどんどん顔に熱が籠ってしまう。
うぅ……遊ばれてる……
「さて、もうちょっと出久さん堪能したいですが、相澤先生や一佳さんたちに見つかる前にやめますか。ですが……」
僕が羞恥心を払いのけようとしていると
チュッ❤
「ふふっ…これは将来の予行演習です♪」
「な…な……!?」
「では出久さん、今日はお互い頑張りましょう♪」
そのまま部屋に戻っていく才子さん
ふと後ろに気配を感じたので振り向くと相澤先生がいた
「……今回は誰もいなかったことだし見なかったことにしてやる……が、あまり風紀を乱すなよ」
「は、はい……」
それだけ言うと相澤先生は一足先に朝食にありつく
・・・・
朝ご飯を食べ終えて宿舎前に全員が揃っている
「諸君、おはよう!今日から行うのはここにいる全員の個性伸ばしだ!これはヒーロー免許の簡易版、仮免取得に必要なことでもあり、これから強大になりつつある悪意に備えるためのものだ。A組はもうやっているぞ。ではついてこい」
ブラド先生が森の方へ進んでいくと皆もそれについていく
「個性伸ばし?そう言われてもパッと思い浮かばないな」
「大体どんなことするんだ?学校ではしないことだとは思うが……」
円場くんと鎌切くんが思ったことを口にするとブラド先生が答える
「まあ無理もない。これまで学校で伸ばしてきたのは技術面や体力であり、あとは駆け引きなどの精神面だものな」
『そう言えば』と気づく皆
「でもなんでこれまで個性を伸ばす訓練をしなかったんだろう?」
庄田くんがそう呟く
「多分……」
「どうした緑谷?なにかわかったのか?」
「……個性ってさ、色々な種類があるよね?」
「そりゃ当たり前だろ」
「そうだよね。となると異なる伸ばし方なのかと思ったんだけど……多分伸ばし方はほとんどが共通してるんだ」
「え?それぞれ違う個性なのにか?」
「発動型は許容上限に発動速度や発動範囲、個性の威力。異形型、複合型はそれぞれに合わせた部位やその能力。違う個性でも種類が同じなら伸ばす方向性はほとんど一緒なんだ」
「言われてみれば確かに……!」
骨抜きくんがハッとした表情になる
「それでその能力や上限を上げる方法といえば……」
「あ、僕わかったかも……」
物間くんはこれから行うことを理解してしまったのか身震いする
「緑谷の言う通りだ!上限を上げる方法!それすなわち……」
ブラド先生が森を抜けると同時に叫ぶ
「限界突破ぁ!!!」
森を抜けた先に広がっていた光景は……地獄絵図だった
発電機に繋がって許容上限を超えた電流を流される上鳴くん
熱湯に手を突っ込んで上空に手を向けて最大爆破を繰り返すかっちゃん
ドラム缶風呂に入って氷結を燃焼を繰り返して温度を調節してると思う轟くん
それぞれ訓練内容は違うがブラド先生の言う通り目的は共通していた
「なんだこの地獄絵図は……!」
「おいおい……」
麟くんや回原くんが絶句するかブラド先生が話を続ける
「まあ、これらは肉体の成長に合わせてやっていくんだが時間がなくてな。雄英もおまえらだけに人員を割くわけにもいかん。だから彼女らに依頼したのだ。よし!では行くぞ!」
『はい!』
僕たちのそれぞれに合わせた特訓場を土流の個性を持つピクシーボブが形成し、ラグドールがサーチで中継して、その状況に合わせてマンダレイがテレパスでアドバイスを送る
んで僕はというと……
「はっはー!行くぜ緑谷ぁ!」
僕がいまいるのは坂に設置されたアスレチックコースだ
夜嵐くんが起こした強風に飛ばされないようにコースを移動して時には遠距離攻撃を鍛えるために指での衝撃波で風を相殺する。これを繰り返すことで身体の強度を上げるらしい
そして時にゴムボールを坂の下に指で弾いて飛ばす。
数十秒ほどすると飛ばしたボールが飛んできたのでそれを躱す
この特訓は
『え?僕が下にいる才子さんに向かってボールを飛ばす?』
『うむ。印照はそれをサイコキネシスで止めることにより念力の強化。緑谷は遠距離攻撃の向上を目指すのだ。そしてそれを緑谷のほうへ飛ばして、それを緑谷は避けることでスピード回避能力を磨く。勿論弾はゴムボールだ』
『なるほど……つまり』
『相乗効果、というわけですね』
『うむ。そういうことだ』
こうして夜嵐くんと才子さん両方からの攻撃をウォズの力を使わずに躱しながら時には迎撃していく。正直一瞬も油断できない
こうして僕たちの特訓が始まったのだった