グランサイファーの自室。
机に座って、僕は透明な瓶を手に持って眺めていた。
木の蓋で閉じられているそれには、いくつもの飴玉が詰まっている。数は、瓶にみっしり詰まっているので正確にはわからないが、およそ三十個ほどだろうか。色はそれぞれ様々で、赤、青、黄、緑……など。
これはついさっき、シェロカルテさんに依頼の報告を終えた際、報酬とは別に差し入れとして貰ったものだ。
彼女が以前行商で、飴作りで有名な村に行った際にそこの村長さんに気に入られ、今最も売れ筋だというこの瓶詰めの飴を受け取ったのだとか。
が、
「いま私は少々甘いものを控えておりまして、よければ貰ってください~」
とのことらしい。
断る理由もなく、一緒にいたルリアが目を輝かせていたのもあり、ありがたく受け取って、そのまま現在に至る。
「ふあ……」
と、僕は椅子に座ったままあくびをした。自室の窓からは春の陽光が穏やかに差し込み、飴が詰まった瓶が日光を受けてすこし輝いている。
今のあくびは退屈から来るあくびではなく、疲労から来るあくびのようだった。この所は依頼続きだったし、特に件のシェロカルテさんに報告した依頼はそれなりに厄介な仕事だった。
体が重い。どうやら知らない間に、だいぶ疲労が溜まっていたらしい。
こういう時には、甘いものが欲しくなる。
僕は手に持った瓶詰めの飴を再び眺めて、
(一つ貰おうかな)
と、蓋を開けた。
色とりどりの小さな飴玉の中から、青色の飴玉を一つ取り出す。口に入れてみると、歯と飴玉の間でころりと音が鳴り、素朴な甘みが口を満たした。
美味しい。有名な所が作っただけあり、といっても味の善し悪しは正直僕にはわからないけど、美味しいことはわかる。何より、疲れた体に甘いものはありがたい。
僕は瓶を机において、ぼんやりと椅子に座ったまま飴玉をころころと口の中で転がす。
甘味を堪能していると、だんだんと眠くなってきた。糖分を補給して頭が癒されたからだろうか。
と、
「あ」
声がした。ルリアの声だ。
「それ、さっきシェロさんからもらったやつですよね」
部屋のドアが開いている。入ってきたことにも気づかなかったらしい。
「もう、グランったら先に食べちゃったんですか?意外と食いしん坊さんなんですねー」
笑いながら、ぺたぺたと足音を立ててルリアが僕の隣に近づいてくる。
「うん……」
相槌を打ちながら、僕はいよいよ瞼が重くなってきているのを感じていた。
とても眠い。ベッドに倒れれば、すぐにでも眠れそうだ。
口の中の飴玉がなくなったら、少し昼寝をしようか……
「あ、私も一つもらっていいですか?」
と、ルリアがちょうどいい申し出をしてきた。
「ん……」
舐めきるのにも時間がかかりそうだ。捨てるのももったいない。
「いいよ」
――ちゅ
「!?」
――ころん
「……ふぁ」
僕は自分の口にあった飴玉をなくしたあと、あくびをして椅子から立ち上がった。
「ごめん、少し寝るよ。夕飯になったら起こして……」
そのままよろよろとベッドまで歩き、倒れ込む。
「へ、へ……へ?」
ルリアが何やらうめいている。どうしたのだろう。けど、何より今は眠い。話は後で聞こう。
口の中の残り香のような甘さを感じながら、僕は目を閉じて、
「?」
ふと僕は気づいた。
残り香?
残り香のような甘さ?
残り香ということは、つまり今はない?
ああ、確かにない。さっきまで口に入れていた飴玉がない。
あれ?じゃあ、僕はその飴玉をどこにやった?
「――――」
眠気が吹っ飛び、僕は跳ね起きた。
見る。見るのが怖かったが、それでも見ざるを得ない。
見るのはもちろんルリアの方で、ルリアは顔を真っ赤にしていて、ほっぺには丸い出っ張りが出来ていて、それはまるで飴玉でも入っているかのような出っ張りで、その飴玉はついさっき……
「…………」
「……」
僕は顔を伏せた。自分でもわかる。顔が真っ赤だ。
「……あ、あの、さ」
「は、はい」
「それ、ばっちいから、ぺってして……」
僕はなんとかそう言った。
「ご、ごめん。つ、疲れてて、頭がぼんやりしてて……」
「い、いえ、べ、別に、そ、その」
申し訳なくなるくらい動揺した声が聞こえる。
「び、びっくりしたけど、でも」
「で、でも?」
「でも……」
「……」
「……」
「ご、ごめん……」
「い、いえ、そんな……」
その後、間があった。その間はずっとずっと続いた。
その間、ころころと飴玉が転がる小さな音だけが、部屋に響いていたのだった。