この愛しき空の世界   作:じぶよる

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Rainy, rainy days

灰色の空。

ざあざあと降り注ぐ雨。

ぬかるみと水たまり。

ちょっと湿った空気。

「さっきまで、あんなに晴れてたのに」

屋根がついているベンチに座って、私はちょっとしょんぼりしてしまいます。

「秋の天気って、変わりやすいからね。仕方ないよ」

隣りに座っているグランが、滝のように流れる雨を眺めながら、そう言いました。

「そうなんですか?」

「そう言われてる。実際、ザンクティンゼルも秋になると、ころころ天気が変わってね」

「グランのふるさとも?」

「うん。だから、秋になるとどこでもそうなんじゃないかな」

「へえー」

そんなこと、私は全然知らなかったので、

「グランは物知りなんですね」

すごいなぁ、と思ってそう言うと、

「いや、物知りってわけでもないと思うけど……」

そう言って、グランは頭をかきました。

そんなにけんそんしなくていいのに、と思っていると、

「ええと。それより、寒くない?」

と、グランが話題を変えました。

「ううん、寒くないです」

ちょうどこの雨が降り始めた時にこの屋根で雨やどりができたので、お洋服も体もほとんど濡れていません。

雨が降ってちょっと気温は下がったかな、とは思うけど、言うほどの寒さでもありません。

「そっか。よかった」

「グランは?寒くないですか?」

「ん?いや、僕も寒くないよ」

「本当ですか?」

「うん。全然、寒くないけど」

「そうですか。よかった」

私はほっとして、

「寒いなら、私が暖めてあげたいなって思ったんですけど、大丈夫そうですね」

そう言うと、

「えっ」

ぎょっ、とした目で、グランが私を見ます。

「な、なんですか?」

ちょっとびっくりしてそう言うと、

「いや、その、別に」

少しほっぺを赤くして、グランが顔を背けます。

「……?」

何か、私は変なことを言ったのでしょうか。

寒いなら、私が星晶獣(コロッサスとかかな?)を呼び出して暖めてあげたいな、と思っただけなのですが。

「……寒いって言えばよかった」

グランがすごい小さな早口で何かを言ったので、

「?なんですか?」

なんて言ったのかな?と首を傾げると、

「な、なんでもないよ」

慌てたように、グランがそう言いました。

 

 

「いつまで降るのかな、この雨」

太ももの上で両手でほおづえをついて、あんまりお行儀がよろしくない格好で、私はそう言いました。

「ん?え、ええとね」

まだグランのほっぺは少し赤くて、でも、すぐに、

「多分、これは通り雨だから。すぐ止むと思うよ」

気を取り直した、って感じでそう言いました。

「通り雨?」

「うん。今みたいに、いきなり降り出した雨をそう言うんだ。そして、こういう雨はすぐ止むことが多いんだよ」

「ふぅん……」

ぼんやりしながら、私は雨を眺めます。

「はやくやんでくれないかなぁ」

せっかく二人でおさんぽにきたのに。

傘なんて持ってきていないから、このままじゃずっとここで待ちぼうけになってしまいます。

ちょっとものうげ?な感じで、灰色の世界を眺めていると、

「ルリアは」

ふと、グランが私を見て、

「雨は、嫌い?」

そう言いました。

「……うーん」

たしかに、はやくやんでほしいなぁ、とは言っちゃったけど。

嫌いか、と言われるとそこまででもない気がします。

でも、

「私は、晴れた日の、蒼い空が見えるお天気のほうが好きかなぁ……」

ぼんやりとそう言うと、

「そっか」

ちょっと微笑んで、グランがそう言って。

そうして、少し話が途切れました。

屋根を叩く雨の音が、やけに大きく聞こえます。

ぼんやりしながら、それをなんとなく聞いていると、

「僕は、雨も結構好きだけどな」

ふと、グランがそう言いました。

「雨音とかさ、聞いてると落ち着くし……僕はそんなに嫌いじゃないかな」

「……」

そう言われて、私はもう一度、屋根を叩く雨の音に耳を傾けてみました。

 

ぽつぽつ。どんどん。どかどか。だんだん。

 

それはけっこう乱暴な音だったけど。

なのになんだか、聞いているとしょんぼりした気持ちが薄くなっていくような、そんな気がしました。

(……)

私はほおづえをやめて、グランの方を向いて、

「グランは」

「ん?」

「雨と晴れ、どっちが好きですか?」

そうきいてみました。

でも、たぶん。

「僕は、どっちも好きだよ」

やっぱり。

「ふふ、そう言うと思いました」

と、私は笑いました。

「……?」

なんの話なんだろう、って感じで首をかしげるグラン。

(いいなぁ)

と、私は思います。

雨でも、晴れでも、なんにも関係なくて。

目の前にあるものを、ただ好きだと言える。

それは、グランがとってもきれいな心を持っているから、そう言えるんだと思います。

(私も、グランみたいになりたいな)

この雨を邪魔なものだと思ってしまった自分を、ちょっと恥ずかしく思いながら。

私はもう一度、雨が降る世界を眺めてみました。

 

灰色の空。

ざあざあと降り注ぐ雨。

ぬかるみと水たまり。

ちょっと湿った空気。

 

私が見た世界は、さっきと全然変わっていなかったけど。

 

でも、さっき私の中にあったしょんぼりした気持ちはもう、全然ありませんでした。




「グラン、ありがとう」
「?なにが?」
「ふふ、なんでもないです」
「……?変なルリア」
「ふふっ」
「……あ」
「?どうしました?」
「ルリア、見て」
「あ……」
「……きれいだ」
「虹だ……」

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