可愛いけど性格は悪い女の人と、性格は良いけど可愛くない女の人。
この二人から、同時に好きですと言われました。
さあ、グランならどっちを選びますか?
◆
「え?なに急に」
昼下がりのグランサイファー艇内。
陽光が窓から差し込む自室のベッドで、寝転がって本を読んでいると、ルリアが部屋に入ってくるなり突然そんな質問をしてきた。
「ふふん、これは究極の選択なんですよ」
ルリアは胸を張り、何やら偉そうな顔をしている。
ローアイン達が前に教えてくれたけど、確か、こういう顔をドヤ顔って言うんだっけ?
何でそんな顔をしているんだろう、と思いつつ、
「なにそれ?究極の選択?」
僕は読んでいた本を閉じて枕の側に置き、上体を上げてルリアに向き直る。
「そうです。さっき、メーテラさんとかコルワさんとかが話しているのを聞いたんですよ。男にとってこれは究極の選択だ、って」
「はあ」
気の抜けた返事をする僕に、
「だから、そんな究極の選択に完璧なグランはどう答えるのかなって、すごく気になったんです」
ふんふん、と息巻いた様子でルリアが変な事を言っている。
「完璧?」
って、僕の何をどう見てそんな事を言っているのか。
僕が完璧な人間なわけがないでしょ、と言う前に、
「さあさあ、グランならどうしますか?どっちを選ぶんですか?」
おかまいなしの様子で、ずいとルリアがこちらに迫ってくる。
「え?いや、ちょっと待って待って」
ずいずいと近くによってくるルリアを軽く制止して、少し距離をおきながら、
「えーと、なに?なんだっけ?可愛いけど性格に問題ありの女の人と?」
曰く男にとって究極の選択だという、その質問を確認してみる。
「性格は良いけど、見た目は可愛くない女の人。そんな二人に同時に好きって言われたらー」
「……僕ならどうするか、って?」
「そうですそうです」
と、ルリアはとても興味深げな顔をしてこちらを見ている。
どうやら僕がどう答えるかが気になって仕方がないって感じだけど、
「そうですそうです、って言われてもなぁ」
僕にはそう言う他がない。
そんなこと考えたこともないし、というかそもそもその質問の意味もよくわからないんだけど、
「どうするんですか?ねえねえ」
ルリアがわくわくした目でこちらを見つめている。
この様子からして、どうやら答えないわけにはいかないようで、
「えー……?」
大分困りつつも、仕方がないと顎に手を当て、僕は少し考えてみる。
可愛いけど性格がよろしくない女の人と、性格は良いけど可愛くない女の人。
その両方から好きだと言われたらどうするか。
「んー」
まずそれがどういう状況なのかがピンと来ないし、そもそもそんな事があるのかって感じでもあるんだけど。
けど、もし仮に、万が一そんな事になったとしたら?そんな状況に、僕が陥ったとしたら?
と、言われれば――
「どっちも選ばない、かなぁ」
考えていると、気がつけばそんな言葉が口から出ていた。
「へ?選ばない?」
意表を突かれたような反応をするルリア。
僕はまだ顎に手を当てながら、
「うん。多分、どっちにもごめんなさいって言うんじゃないかな」
僕だったらそうするような気がする、と思う。
「どうしてですか?」
不思議そうに首を傾げるルリア。
「どうして……?うーん?」
どうしてなんだろう?
と、困りながらうなっていると、
「じゃあじゃあ、可愛くて、性格も優しい女の人ならどうですか?」
と、ルリアが新しい選択肢を出してきた。
「え?可愛くて性格も優しい?」
「そうです。そういう人から好きって言われたら?」
「あー、それなら」
僕は顎から手を離す。
「それなら?あ、っていうことはやっぱり、グランはそういう完璧な女の人が……」
「可愛くて優しいってそれはルリアのことだし、それなら絶対受け入れるよ」
「へっ」
言って、僕は手を打つ。
「あー、そうだ。わかった。そういう事だよ。僕はルリアじゃないと嫌なんだ」
不明瞭な思考が、ようやく明確になった。
「へっ?……へっ?」
僕は嬉しくなり、そのまま続ける。
「だって、僕が好きな人なんてルリアだけなんだから。あ、だからどっちを選べと言われてもしっくりこなかったんだ」
「え、え?え?」
「ああ、そういうことだよ。僕がルリア以外の人を選ぶなんて絶対にありえないから」
「あ、え、え、え?」
「うん。だから、僕の場合のあの質問の答えは、“どちらも選ばずルリアを選ぶ”って事に……」
って、
「……あ」
あれ?
無意識の内につらつらと語ってしまったけど、あ、あれ?
ぼ、僕はいきなり何を言っているんだ?
「…………」
見れば、ルリアが耳まで真っ赤になってその場に佇んでいて、
「あ、いや、その、えっと」
さっきまでの饒舌はどこへやら、僕の口からは意味をなしていないどもり声ばかりが溢れる。
いや、そんなつもりじゃなかった、いや嘘を言ったわけじゃなくて本当のことで、ただ、わからなかった思考が明確になったのが嬉しくて、それでつい無意識に話してしまっただけで、その、
「こ、事に?」
しどろもどろになっている僕に、ルリアが真っ赤な顔で何かを言った。
「え、な、なに?」
意味がわからずそう聞き返すと、
「事に……な、なんですか?さっきの……」
どうやら、僕が我に返る前に途中で切った言葉の続きを聞きたいらしい。
「あ、ああ。さっきの続き?」
「は、はい」
「えっと、だから、そ、そういうことになるんじゃないかな?って……」
「そ、そういうこと……?」
じ、とルリアが僕を見る。
「な、なに?」
「その、そういうことって、ど、どういう……?」
「……う」
「そ、そこ、もう一回聞きたいなー、な、なんて……」
「……うう」
恥ずかしい。
顔から火が出そうという言葉の意味を、僕は今初めて知った。
とても恥ずかしくて、だからルリアの顔をちゃんと見ることはできなかったけど、
「……誰も選ばず、僕は、ルリアを選ぶよ」
“そういうこと”の中身を、今度は無意識ではなく意識的に、僕はなんとかそう言った。
だってこれ、嘘じゃないから。
本当のことだから、どんなに恥ずかしくても、聞きたいと言われれば言うしかないじゃないか。
「……え、えへへ……」
ルリアが真っ赤に染まった自分の頬を、両手で包むようにする。
「き、聞いてよかったです……」
「あ、そ、そう?それは良かったね……」
僕としては恥ずかしいやら不意打ちでこんなことをルリアに言ってしまった罪悪感やらなんやらで、とてもいたたまれない気持ちなんだけど。
「や、やっぱり、グランは完璧な人でした……」
「な、なんでそうなるのさ……」
これで何でそう思えるのか本当にさっぱりわからないんだけど、という僕の疑問には答えずに、
「……えへへ」
ルリアが僕を見つめて、嬉しそうに、そう笑ったのだった。