日本へとやってきた「ホラーハンターズ」が先ず第一にした事と言えば、一緒に持ってきた各種怪異やモンスター等のデータが入ったシミュレーター(歩兵・戦闘車両向け)を自衛隊にプレゼントする事だった。
既に彼らはそれなりに対人外戦闘の経験を積んでいるとは言え、それは日本国内の妖怪変化か特地産がメインであるため、クトゥルー系の経験は原産地に当たる米国よりも少ない。
また、欧州文化圏の怪異は基本物理系が多いが、東・東南アジア圏の怪異は呪殺系が多いため、その辺りの情報もしっかり交換しておく。
こういう形で戦訓の共有ならび新商品のシミュレーター(現在は米国から委託を受けた企業が生産・開発中)の体験プレイをしてもらいつつ、いよいよ来週には門を潜るという段階まで来た。
で、リーア&アーリの二人が何をしていたのかと言うと、態々北海道にまで来ていた。
というのも、神州世界対応論によれば北海道は北米大陸に対応する場所だ。
なお、根室と北方四島は南米に対応している。
つまり、この地で異変が起これば、即座に北米に異変が起きるという事だ。
北米側では表に出てきてるものは既に二人率いるホラーハンターズに根切りにされている。
よって、北米側での再度の騒乱を防ぐために来たのだ。
そして、北海道の山林の一部はかつて大陸の成金らによって無秩序な乱開発をされ、一部が荒れている。
管理された農地等はそうでもないのだが、耕作放棄地や荒れた山地はどうしても増加傾向であり、そんな場所には魑魅魍魎や妖怪変化が発生し易いし、廃屋や寂れた神社に古井戸等は厄が溜まりやすい。
無論、地元の寺社仏閣関係者に古くから存在するアイヌの人々もいるため、門が接続直後はそれなりに荒れていたものの、現在はかなり落ち着いている。
しかし、彼らをして「とても手に負えない」という場所も存在する。
「死ね。」
「Gygigyaaaaaaa……。」
耳障りな断末魔の叫びを残しながら、名も無き怪異が消滅していく。
「ここもクトゥルー系かー。」
「北米は原産地だからな。仕方あるまい。」
ここ五日で何とかピックアップされた地点全てを回って討伐したが その全てがクトゥルー神話体系だった。
クトゥルー系の何が他よりやばいかと言うと、その侵食力だ。
外来種同様に、他には無い侵食力で既存の神話体系を汚染し、己のものとする。
一度でも侵略を許すと、例え一度滅ぼしたとしても気を抜くと再び発生し、また侵食を開始する。
封じるにはその場所を完全に清め、封じ込めるしかない。
そのため、そういった場所を事前に日本国政府と相談し、CIAの極東支部所属のペーパーカンパニーを通じて土地を購入し、都市部なら教会を建て、それ以外なら要石や石碑を設置する事でその地を鎮める。
幸い、先進国の中で真っ先に立ち直った米国では神父らの数に比較的余裕があり、従軍神父らの中でも特に選抜した者を北海道に送っていた。
また、北海道は日本式仏教だけでなく、その開拓の歴史の中で多数の御雇外国人が活躍した事もあり、十字教への偏見もないため、割とあっさり受け入れられる事となる。
「よし、後は後続の仕事だ。急いで銀座に戻ろう。」
「あいよー。んじゃ鋭角から行くぞー。」
こうして、北米はほぼ完全に霊的治安を取り戻す事となる。
……………
さて銀座、正確には東京都である。
で、この中心に当たる銀座だが、実は世界でも屈指の霊的防御力の高い場所だったりする。
理由はその狭い土地に江戸時代から多数の寺社仏閣や道祖神等の石碑や御利益がある歴史的遺物が無数現存し、現人神たる陛下のお住まいたる皇居まであるからだ。
第二次大戦の空襲で多少は減ったが、建て直されたものも多く、それは今日までしっかりと首都の霊的治安の工場及び対外防衛において機能していた。
が、世界屈指の大都会として成長したが故に、その光には必ず陰が付き纏う。
繁栄の影で溜まりに溜まった厄はそうした防衛・浄化機構でも消化しきれず、遂には門という巨大な異世界からの厄を招くに至ってしまった。
「普通に攻城戦を想定していたら、いきなり爆撃機がやってきたでござる。」
銀座の霊的防衛網から門の存在を見ると、こうなる。
まっっっっったくの想定外の所からの攻撃に、関係各位も流石に対応できなかったのだ。
これが神隠しだとかだったらまだどうにかなったのだが、次元アンカー(神造兵器)とか神話の時代終わってるのにどないせいと言うのだ。
また、変なもの突っ込まれたせいであちこちの結界やら縄張りやらがガタガタになっており、それの立て直しに関係各位は不眠不休の努力を強制されている。
「とは言え、国からも正規の予算が来るようになったお陰で、やっとどうにか出来そうですよ。」
「それは良かった。こちらとしても、その点は懸念事項でしたから。」
公安の人間として、門関係を担当しているという駒門からの報告に、リーアはそう返した。
「我々が行うのは、要は外科手術です。悪い部分を切る。しかし、その予後に関してはその土地に合った処置が必要となります。」
「術後の肥立ちが悪く……なんて事態は御免被りたいですな。」
斯く言う駒門の目は、公安所属という事もあって一切笑っていない。
寧ろ彼らにとって、リーアとアーリはあの銀座事件まで一切彼らの情報網に引っかからない個人で戦略級核兵器を超えうる戦力を保持した人物なのだ。
そんな人物が秘密裏に、一切の情報を残さずに自由に密入国できる。
はっきり言って、敵であったら負けを覚悟で絶望的な戦いに身を投じるしかない相手だった。
(ホント、味方で良かったぜ。)
門が開いてからこっち、米国は同盟国という事もあって日本とは歩調を合わせてくれている。
常に新しい市場を、フロンティアをもとめる米国とは思えぬ程に慎重に門への対処に協力してくれる様子に、駒門は感謝しつつも油断なく情報を収集する。
(そして、このお嬢さん?は間違いなくこの件の中心だ。パイプの構築及び情報収集は必須だな。)
そんな事を考えられている事を予想しながら、リーアはどうやって日米両政府にとって得になる、或いは損にならない門の閉じ方を考えていた。
(日本にとっては報復戦争かつ長年の資源問題を解決する可能性。米国にとってはこの諸々の事態の原因。どう考えても向こう側に配慮する必要性は薄い。)
原作でこそ日本は弱腰とも言える程に丁寧な対応を心がけていたが、それは占領地政策において米国が味わったアフガンやイラクの様な泥沼な事態を避けるためだ。
加えて言えば、民間人に犠牲が出たとは言え、自国の戦力でどうにでもなる相手だったからとも言える。
が、今回においてはそんな余裕はなく、隙を見せたらどんな手段をしてくるか分かったものではない連中が相手となると、そんな丁寧な事は期待できない。
加え、あの門の構造的欠陥を既に上層部が認識している。
最善は素早く向こう側にいるであろうハーディ神とクソオブクソをぶちのめした後に門を破壊して縁切りする事だが、国家としての体面がそれを許さない。
(最悪、別の門を開く事も視野に入れねば…。)
各種新技術は科学分野に関しては別に良い。
それは何れ人類が到達するだろう領域だろうし、技術者や使用者が精神汚染される事もない。
だが、魔導技術に関しては駄目だ。
今現在は地球由来のもののみに限定して、才能のそこそこある者に教えて科学技術でエミュレートさせ始めているが、米国の厚い人材層にしても完全に未知の分野なので余り進んでいない。
だと言うのに、門を開けて維持するにはどうしても魔導技術が、それも地球外由来のクトゥルー系のそれが必要となる。
(地球内部なら地脈に乗って移動する術とかがあるんだけどなぁ…。)
通常の異界なら兎も角、流石に完全な異世界間の移動は無かった。
(逆説、科学技術で門を開ける人材さえいれば解決するんだよなぁ。)
それが可能な人材が、脳裏に高笑いとエレキギターの不協和音と共に登場するが、努めて無視する。
(流石にもう死んでるし……いや、英霊召喚ならワンチャン……でも本人が死者蘇生系嫌いだしなぁ…。)
覇道鋼造の様に一生を一つの世界で後の世のために使い切る覚悟があるのなら兎も角、中途半端な魔導技術の拡散だけは避けねばならない。
(難しいな、どうにも…。)
リーアの苦悩は深かった。