助けて邪神様!(助けて旧神様!×GATE)   作:VISP

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第一話 開幕の喇叭

 その日、銀座で行方不明になっていた人々が一斉に「何もない通り」に現れた。

 位置自体は銀座のど真ん中、しかしそこは何の建物のない虚空で、突然人が現れるのはどう考えてもおかしい。

 加えて、行方不明になった人々と言っても把握されている総数の3割程度しかいない。

 そして、最もおかしな事は行方不明になっていた人々が口々にこう語っている事だった。

 

 曰く、「異世界に浚われていた」と。

 

 いきなり口を塞がれ、背後へと引っ張られたと思ったら、暗闇の中を拘束されて引き摺られて運ばれた。

 暫くすると、まるで古代ローマの様な鎧や武具一式を纏った軍勢の前に引き出され、縄を打たれた。

 ついた場所は大きななだらかな丘の様な場所で一面が草に覆われ、中心には石造りの門があり、彼らはそこを通って日本にやってきていた様だった。

 そこからは凄惨だった。

 身包みを剥がされ裸にされ、拷問されたり、悪戯に嬲られたり、女性なら性的暴行を加えられたりと正しく古代や中世の奴隷か何かと思う様な扱いを受けた。

 もう日本に帰れず、ここで嬲り殺されるか、一部の人々が奴隷商らしき者達に引き取られた様に売られるのだと思った。

 しかし、そうはならなかった。

 双子の少女、銀髪碧眼の彼女らが来てくれたから。

 彼女らはどこからともなく銃火器と鉈の様な剣を取り出すと、それらを振るってローマ兵達を蹂躙し、周囲を臓物と鮮血で彩ると、自分達を解放し、手当をしてくれた。

 そして大よその事情を話すと、自分達を元いた銀座へと案内してから、また門の向こうへと戻った。

 「まだ生きている日本人がいるかもしれない」と言い残して。

 

 無論、こんな与太話を信じる者は殆どいなかった。

 彼らの扱いは連続行方不明事件の被害者から、何らかの理由で錯乱した人達とされてしまった。

 しかし、彼らの体に刻まれた凄惨な傷跡は真実だった。

 治療され、傷は塞がっていたものの、どう考えても拷問されたとしか思えない者や性的暴行を受けたのが体内の残留物等を確認できた女性がいた事はマスコミには漏らされなかったが、警察関係者は一同首を傾げた。

 彼ら行方不明者はずっと必死に真実を話したが、それが信じられる事はなかった。

 だが、真偽の程は別としてこの話は広まっていく。

 特にインターネットで燃料を欲している暇人達を中心に、様々な憶測が語られる事となる。

 

 彼らの話が本当に信じられるのは一か月後、銀座に『門』が出現し、異世界の軍勢が侵攻し、虐殺を開始してからになる。

 

 

 ……………

 

 

 「妙だ。」

 

 アルヌスの丘で帝国軍を殲滅し、その場にいた拉致された人々を治療して銀座に帰した後、他の被害者を助けるべくこの世界の探索を開始した。

 無論、『門』本体に関しても結界で隠蔽し、侵入を遮断している。

 こうして諸々の準備を終えて直ぐに探索を始めたリーアとアーリだったが、早々におかしな点に気付いていた。

 

 「神代にしては大気中の魔力が薄い。なのに、瘴気だけはやたら濃い。加えて、この世界の魔術師共に『門』を繋げ、維持するだけの技術力は無い。」

 「だな。精々ちゃちな攻撃魔法を使うだけだし。」

 

 精々が普通のマフィアに毛が生えた程度の脅威度でしかなく、あの『門』との隔絶した技術レベルには違和感しかない。

 だと言うのに、この世界の魔力は門の向こう側よりは濃いものの、ファンタジー主体の世界にしては薄い。

 それに反比例する様に、瘴気の濃度だけはやたら濃く、こうしている間にも本当にゆっくりとだが、その濃度は濃くなっている。

 まるで魔力と瘴気が置き換わる様に。

 大気成分を変化させ、テラフォーミングするかの様に。

 このまま変化していけば、その内アーカムや東京、ロンドンという世界三大魔都=魔術的超危険地帯が発生しかねない程と言えばその危険性が分かるだろうか。

 

 「極め付けに、こいつらだ。」

 

 げしり、と足元に転がっていた躯を蹴り飛ばす。

 それは魚介類を無理矢理人型にした様な異形の怪物。

 この世界に住まう海生亜人種ともまた異なる、そして二人にはとても見覚えのある者達。

 CCD、つまりCthulhu Cycle Deitiesであり、クトゥルー眷属邪神群である「深き者共」、ディープ・ワンズだ。

 デモンベイン原作にて、九郎にエロガス吹き掛けた奴の同類と思えば思い出せるだろうか。

 要はこの世界にはいない筈の存在だと言う事だ。

 

 「帝都の悪所なら情報集まるとは思ってたけど…。」

 「予想外のがかかった、か。」

 

 悪所の一角、下水道の結節地点の一つにて。

 薄暗く悪臭ばかりが漂うこの場所には、別に死体が転がっていてもおかしくはない。

 だが、最近この界隈では行方不明者が悪所においても異常な程に増えており、帝国の貴族層を中心に最近では既存の神々とは全く異なるカルト宗教が流行っているとか。

 うん、もう3アウトチェンジどころか一発でレッドカードものである。

 

 「帝都ごと焼くには巻き添えが多過ぎる、か?」

 「っつーても避難させるにはこっちにゃ伝手は無いぞ。」 

 

 うぬぬ、と今後の方針=どうやって吹っ飛ばすかに頭を捻る二人。

 

 「いや、その前に拉致被害者助けねば。」

 「そっちが先だな。」

 

 うむうむと互いに頷く。

 最悪、こっちの世界がどうなろうと二人は知ったこっちゃない。

 こっちの連中が邪神に唆され、滅びようがどうしようがそれは彼らの責任だ。

 しかし、自分達が快適に過ごしている世界にチョッカイをかけられるのは我慢ならないし、目障りだ。

 それに加える形で、かつてのホラーハンター時代の名残として、一般人である拉致被害者を助ける。

 かつてと違い、より我欲に寄るようになった彼女らからすれば、これは当たり前の判断だった。

 

 「いやぁ、それはボクとしちゃちょっと困るかなぁ。」

 

 その声を聞いた瞬間、リーアとアーリの二人は己が最速で以て術式を編み、この短時間で生み出し得る最強火力を一切の容赦呵責なく叩き込んだ。

 

 「「イア・クトゥグア―――ッ!!」」

 

 半神半人の少女と、半書半人の少女の織り成す魔術が、とある神性を呼び出す。

 術式の多くを省略したため、その威力は彼女らが出せる最大最強のものに比べれば100分の1にも満たない。

 しかし、呼び出したるはフォマルハウトに住まう旧支配者、生ける炎クトゥグア。

 今は本体の万分の一程度でしかない、咆哮し、燃え盛る獣。

 その炎は一切を焼却し、邪神眷属すら焼滅させる。

 特に敵対している這い寄る混沌にとっては天敵であり、かつては混沌の住処だったン=ガイの森を焼き払ったという。

 例えそれ本体の数%と言えど、生半可な怪異の類では一撃で灰すら残さず燃え尽す火力を持つ神炎。

 

 「えい♪」

 

 そんな炎を、暗がりから這い寄ってきた声の主はまるで焚火から出た煙の様に、少し不快だからといった様子でただ手を軽く振り払う。

 それだけで、約4000度相当の神炎は一瞬で霧散した。

 炎が確かにあったという証拠は、僅かに上昇した下水道内の空気と通路に残った焦げ跡だけ。

 

 「やぁやぁ久しぶり。二人共、元気そうだね。」

 「どの面下げて出てきやがったクソオブクソ。」

 「下水で洗顔して1億回転生してから出直せ。」

 

 胸元を大胆に開けた濃い紫のスーツを着た、黒髪赤目の妙齢の美女。

 一目見れば誰もが魅了されそうな美貌だが、その実態を知る者からすればそれがソイツの持つ無尽蔵なまでの顔の一つに過ぎないと分かる。

 リーアとアーリの二人は顔を最大級の嫌悪に歪ませつつも、内心では災害級の警戒へと移っていた。

 

 「ふふ、酷い酷い。とは言え、今回の一件は元を正せば君達のためなんだ。甘んじて受けてくれよ。」

 

 ニヤニヤと粘着質な、猫が食べもせず鼠を甚振る様な笑みを浮かべて、ナイアは続ける。

 

 「平和ボケした君達に折角のリハビリの機会をあげたんだ。寧ろ感謝してほしい位だね。」

 「バルザイの偃月刀・多重召喚!」

 

 戯言に耳を貸さず、下水道の壁という壁から無数の偃月刀の刀身が生え、一斉にナイアへと殺到する。

 それはまるで飢えたサメが新鮮な肉に食らいつかんとする様であり、事実、ナイアの肢体はものの数秒でバラバラに引き裂かれる。

 しかし、その程度で無貌の神が滅びる訳がない。

 

 「あハハはははははハハハハハははハハハはハハハハハははハハハハハハハはッ!!」

 

 心底おかしいとでも言うように、下水道内に悪意に満ち満ちた哄笑が響き渡る。

 同時、砕け散っていた肉片が暗黒そのものへと変化、下水道内全てを埋め尽くさんと爆発的に広がる。

 

 「チィ!」

 

 残った15本程の偃月刀が主を守るべく、結界を敷く。

 同時、アーリの体が解け、本来の魔導書「泥神礼賛」のページとなり、主と一体化する。

 マギウス・スタイル。

 魔術師と魔導書が物理的・魔術的に一体化するこの形態は、極めて高い戦闘能力を術者に付与する。

 しかし、高位の魔術師であればある程にこの形態を補助輪扱いして頼る事をせず、又は精神汚染の関係で使用しない。

 しかし、極まった果ての果てたる3組の主従にとって、リスクらしいリスクは微塵も存在しない。

 全身をSFとファンタジーの混ざった独特の装甲で覆い、身長3m近い異形が姿を現した。

 マギウス・スタイル、或いは変神形態、その名もゼルエル。

 力天使の名を持つが、そのデザインはギルティギアのジャスティスそのもの。

 しかし、その色は嘗ての深い紺色から灰色へと変わり果てている。

 並みの神性、それこそダゴンやハイドラ程度ならこの状態でも単なる膂力によって撲殺可能だが、こと這い寄る混沌を前にしてそれは無意味だ。

 下水道内を埋め尽くす外宇宙の深淵の如き暗黒に、ゼルエルは成す術なく飲み込まれていった。 

 

 

 

 

 

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