銀座事件後、其れを見て生き残った人々は口々に語った。
「あの時、確かに死を覚悟した」と。
それまでにあった異世界の古代の軍勢の侵攻も、ゾンビやモンスター等の襲撃も比べ物にならない。
ただただ濃厚な死と退廃、冒涜的な気配を匂わせる20m程の巨体に、その場にいた人々は死を覚悟した。
それは後に捕虜となった数少ない帝国兵らも同様で、彼らは自らを切り捨てる様にあんなものを戦線に投入した帝国へ見切りを付けた様で、捕虜となった後は大人しくしていたという。
「なんだ、ありゃ…。」
銀座方向からゆっくりと進んでくる今までにない巨体に、伊丹達二重橋で防衛戦を行っていた者達は唖然としていた。
「あちゃー、ここまでやるかー。」
また伊丹の下にやってきたアーリも、そう言って頭を抱えた。
この後の展開、具体的には己が半身の事を考えると頭が痛かった。
しかし、自分達がやらねばならない。
何せ相手は鬼械神、紛い物と言えども神の似姿であり、極まった魔導の産物。
余りにも高い情報密度を持つため、通常の物理攻撃はその存在情報を破損させる事が出来ないために無力だ。
破壊するには同じく高い情報密度を持つ鬼械神か魔術理論を応用した兵器、或いはもっと異質なナニカに限られる。
(取り敢えず、合流するまで時間稼ぎかな……?)
そろそろ攻撃範囲に入るベルゼビュートを眺めつつ、そんな事をアーリが考えていると、不意に見知った気配を感じ取る。
「リーア!」
そして、声をかけてから気づいた。
己の半身の持つ碧色の瞳の冷たさに。
それこそ物理的な温度すら超えた、正に負の無限熱量たるハイパーボリア・ゼロドライブ並の冷たさに。
「アーリ、やるぞ。」
「ア、ハイ。」
逆らう気なんて起きない。
元々そんな気なんて無いけれど、何時だったか無限螺旋の時にショッピングをデモンベイン&無敵ロボのバトルで台無しにされた時に近い感じだ。
「っと、自衛隊か?」
そんな時、未だゆっくりと移動中だったベルゼビュート目掛け、9機もの戦闘ヘリが向かっていく。
自衛隊の持つ戦闘ヘリコプターAH-64Dアパッチ・ロングボウだ。
ロケット弾ポッドに空対地ミサイル「ヘルファイア」、30mm機関砲を備え、量産開始から既に30年が経過しているのにアップデートを繰り返しながら各国で運用され続けている名機だ。
冷戦時代のワルシャワ条約機構軍の戦闘車両部隊の対策として開発され、異例の重装甲・重武装を誇る「空飛ぶ戦車」とも言われる。
日本では調達コストの高騰で配備数は13機と少ないものの、第二世代のD型にロングボウ・レーダー装置を搭載した仕様で、装甲目標に対する広範囲の索敵能力を有する。
とは言え、今回の相手は死体と蛆と蠅他正体不明のナニかで構成された鬼械神ベルゼビュート。
正直言ってレーダーは頼りにならないが、その移動速度はゆっくり歩いている事もあって旧式の重戦車と比べても遅い。
だが、それは彼ら対戦車ヘリコプター隊の勝利を約束するものではない。
「やばい!下がらせろ!」
「通信機もなんも無いから無理だ!」
アーリの言葉に、伊丹が叫ぶ。
直後、9機のAH-64Dから対戦車ミサイル・ロケット弾・30mm機関砲が一斉射される。
しかし、それらはベルゼビュートの表皮を僅かに凹ませるだけで、生物的な弾力と鬼械神の中でも特に高い自己再生能力を持つベルゼビュートには意味を成さない。
否、鬼械神というカテゴリに対し、通常の物理攻撃は意味を成さないのだ。
それこそスーパーロボットの様に極めて強大なエネルギーをぶつける位しないと、その存在情報を破損させる事は出来ない。
「って、やっぱりかー。」
その攻撃を煩わしく思ったのか、ベルゼビュートが対戦車ヘリ部隊に頭部を向ける。
すると、ものの数秒で4機のAH-64Dが見えない掌に握り潰される様に爆発四散した。
「んな!?」
それを見た伊丹は驚愕で叫ぶ。
自衛官だからこそ、戦闘ヘリの中でも重装甲・重火力で知られるAH-64Dとそのパイロットらの精強さを知る彼だからこそ、その驚きは大きかった。
「ちっアーリ」
「あいよ、グレネードにイブンガズイの粉薬っと。」
それ見た事かと舌打ちをするリーアの声に応え、アーリの両手にあったグロスフスMG42機関銃が変化し、ダネルMGLという南アフリカ製の回転弾倉式の擲弾発射器となる。
「ほらよ!」
しゅぽぽぽ!という独特な発射音と共に擲弾が発射され、ベルゼビュートの周囲にある何もない筈の中空で爆発して内部の粉薬を、イブンカズイの粉薬を周辺に散布した。
「う、げ」
吹き掛ければ不可視の存在を視認可能にし、霊体を物質化させるイブンカズイの粉薬の力により、その場に隠れていた不可視の存在が明らかになる。
伊丹始め、未だ二重橋で防衛に努めていた警官らが絶句、或いは呻き声を上げた。
それだけ彼らが見たものは彼らの常識に無いもの、否、そもそもこの星の生態系においては有り得ざる存在なのだから当然の反応だった。
彼らが目撃したのはスターヴァンパイアと言われる地球外生命体だ。
触手で構成された球体から、5本の太い触手が放射状に生えているヒトデにも似た姿をしている。
加えてUFOの様に不規則な飛行と浮遊が可能であり、それを活かしてベルゼビュートの周囲を警戒する様に4体のスターヴァンパイアが飛行している。
それらは先程のAH-64Dへの攻撃で搭乗者の生き血を啜ったからか、僅かに血管が浮き出ている。
今は自分達を見る人間達の恐怖や嫌悪の視線を感じてか、クスクスと少女の様な笑い声で嘲笑していた。
それらを視認し、生き残った5機のAH-64Dは一斉に離脱を開始する。
彼らの任務は対地攻撃であり、例え空対空ミサイルを搭載してる時だろと、光学迷彩を搭載した正体不明の飛行生物を相手取るには余りにも機動性・運動性が足りない。
しかし、そんな彼らを見逃す程、星の精は善良ではない。
「はいカットー!」
「ナイスカット。」
なので、襲い掛かろうとするスターヴァンパイアを、空かさずアーリが編んだ対物狙撃銃バレットM82に似た魔銃により撃ち落とされる。
「で、どうする?こっちにヘイト向いちゃったけど。」
「なに、いつもの事だ。」
「そーだけどねー。」
白と黒の双子の少女に、今更ながら多くの視線が集まる。
あの巨大なロボ?と不気味な生物もそうだが、この二人もまた日本での日常を知る人々からすれば異常極まりない。
しかし、二人は動じない。
そんな視線は慣れてるし、何よりもするべき事は微塵も変わらないからだ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■ーッ!!」
ベルゼビュートが咆哮する。
己の眷属の食事を邪魔された所か、害された事で怒りを抱いたのだ。
反撃とばかりに、その巨大な全身から無数の黒い煙が噴き出る。
否、それは煙ではなく、人や怪異兵の死体に群がり喰らい成長した蠅の大群だ。
無論、ただの蠅ではなく、人や動物に卵を植え付けて寄生させるどころか、生きたままその血肉を食らう人食い蠅の大群だ。
肉食化した蝗害か飢えた鼠の地走りが近いだろうか。
兎も角として、事前知識や準備がない限りはどうしようもない人為的大災害だった。
「バルザイの偃月刀、過剰召喚!」
「超攻性防御結界、展開!」
故に、専門家には効きはしない。
魔術にて鍛造された五百本もの偃月刀が宙を舞い、或いは舗装されたアスファルトに突き刺さり、触れる邪悪を焼き尽くす防御壁を展開する。
これにより、銀座方面と皇居は完全に遮断された。
だが、それはあくまで蠅に限っての話である。
「■■■■■■■■■……!!」
遂に皇居前までやってきたベルゼビュートは、怒りのままに結界を殴りつける。
鬼械神による打撃、その衝撃に耐えかねて、一部の偃月刀に罅が入り、結界にも綻びが生まれ始める。
だが、それで十分だ。
それまでにけりを付ければ良い。
「じゃ、行ってきまーす。」
「な、待て待て待て!」
気軽に結界の外へと赴こうとする二人に、何処かで分かっていながらも伊丹が引き留めようとする。
自衛官の、大人としての良識は二人を絶対に止めるべきだと言う。
しかし、オタクとしての知識と勘が行かせるべきだとも言っていた。
「なーに、ちょいと悪党ボコってくるだけだよ。」
「これ以上、この一件で死人を出す訳にはいかない。」
あくまで気軽に返すアーリに、冷厳なまでの覚悟を秘めた声で返すリーア。
対照的な二人に、伊丹はごくりと唾を飲んでから、改めて言葉を送った。
「それじゃ、きちんと無事に帰って来てくれ。お礼に飯でも奢るからさ。」
「あいあい。」
「分かった。」
気軽に手を振るアーリと、僅かに口元を綻ばせるリーア。
そして二人は周囲の人々が固唾を飲んで見守る中、ごく自然に結界へと歩み、あっさりと踏み越えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」
待っていたとばかりに咆哮し、ベルゼビュートがその腕を振り上げる。
それを幼気な双子の少女は、不敵に笑って見上げていた。
そして、轟音と共に振り下ろされる両腕、巻き上がる粉塵と周囲を揺らす衝撃に、誰もが悲鳴を上げ、目を覆う。
しかし、しかしだ。
そんな在り来たりな悲劇なんて詰まらない。
「え…?」
誰かの漏らした声。
それに釣られて目を開ければ、結界の向こう側に、光があった。
「本の、ページ?」
双子の片割れ、ボーイッシュで白装束のアーリの体が解け、本のページとなって二人の周囲を漂っている。
先の衝撃など何の痛痒も与えていないとでも言うように、二人は無傷だった。
「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」
ベルゼビュートは自棄になった様に両腕で打撃を繰り返すが、ページの張る強固な結界を超える事が出来ない。
それは双方の格の違いを、何よりも明確にしていた。
そして、今日の事件の終わりを始めるため、邪悪を狩る刃鋼を呼ぶための聖句を唱える。
「
「
「「機神招喚!」」
その言葉に、編まれた魔術に、解放された字祷子に、二人の周囲に光と共に魔法陣が立体的に展開される。
「■■■■■■!?!?」
悲鳴と共にベルゼビュートが弾かれる。
顕現しようとする存在の情報密度との余りの格差に、ただ傍にいただけで存在情報を破壊されかけたからだ。
その間隙を突く形で、精密無比なる魔術によって編まれた数兆を超えるパーツが組み合わさり、ただ一つの刃鋼となって静かにその場に降り立つ。
それは宙に流した墨の様であり、それは騎士の様であり、何よりもそれは怒りに満ちていた。
全身漆黒の装甲の中、唯一の例外たる真紅のカメラアイが、眼前の邪悪に烈火の如き怒りを込めて向けられる。
「「アイオーン・リスタート!」」
『オオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
この世界では初めて、嘗てあった三千世界においては数えるのも無駄になる程。
その銘を鬼械神「
或いは魔を断つ剣以上に邪悪と戦った邪悪への怒りの具現、その最新の後継が姿を現した。
長い、このままでは長く成り過ぎてしまう…!
だってやっぱりロボもの書くとなったら外せない描写ってあるでしょ?
んで思い付いたの全部入れたら当初の15話程度の予定が30話位になりそう(白目)
アイェェェ…