「あ~~だりぃ~~。」
「あいす…うめ…うめ…。」
久々の鬼械神同士の戦闘から既に一か月。
突如銀座に開いた異世界との門に関する事件において、正体不明の美少女双子姉妹と言われて今なお世界中で語り草にされ、各国の諜報機関並びマスコミ他多数が血眼になって捜索している二人はと言うと、相変わらず残暑厳しい東京某所のマンションの一室で堕落の限りを貪っていた。
片や窓際の一番風当りの良い場所で寝転がり、片や日陰で今週のジャ○プ読みながらアイスを齧っている。
先日までの凛々しく美しい姿は微塵もなく、「何それ幻覚?お薬でもキメてたの?」ってな具合だった。
「あーもう!2人とも邪魔邪魔!ゴロゴロしてないで散歩にでも行ってなさい!」
各種サブカルチャーグッズに囲まれた二人の楽園に、しかし今日は珍しく第三者がいた。
その名も暴君ネロ、またの名をエンネア。
あの無限螺旋において常に我が子に殺され続ける宿命を背負わされていたロリママである。
ついでに大十字九郎ガチ勢の一人である。
「だってマスゴミとかが五月蠅いし…。」
「日光で溶ける…溶けちゃう……。」
「溶けないし、マスゴミなんて今更どうとでもなるでしょ!こんなずっとゴロゴロしてたら不健康!いい加減に動きなさーい!」
ネロの一喝に、渋々リーアとアーリもクソダサTシャツとパンツから着替えるべく動き出す。
なお、Tシャツに書かれているロゴはそれぞれ「Arts」と「Quick」で、勿論色は青と黄緑だ。
……どこでこんなもん買ってきたのだろうか?
この世界ではまだFGOは始まっていないと言うのに。
「ママだ……ネロママ……。」
「ママみ……これがママみ……。」
「貴方達のママになんてなってないよ!ってコラ!抱き着くな!」
小さなロリボディに溢れ出る母性を感じてか、リーアとアーリの二人は今は同じ様な体型のネロに甘えようと生存者に群がるゾンビの様に、或いは蜘蛛の糸を求める亡者の様に縋り付こうとする。
そこで、唐突に玄関がガチャリと開き、ある人物がこのカオスな状況に参加した。
「なら僕も混ぜてくれないかな、母さん!」
「なんで貴方まで参加してくるのー!?」
金髪金眼の美少年、自称大学生のボンボンことペルデュラボー君(婚約者エセル付き)が現れた!
「あ、お邪魔するわ。はいコレお土産。」
「おひさー。さ、狭い所だけど上がってよ。」
そしてちゃっかりとアーリは一緒に入ってきた旧知の友人たるエセルからお土産のケーキを受け取るのだった。
なお、ケーキはケーキでも3○のケーキ型アイスな模様。
……………
「で、どうすんのさ?」
一同にケーキと氷入り麦茶がサーブされ、もそもそとケーキをぱくついた後、ネロが唐突に切り出した。
なお、ケーキはいつも行列のできる美人パティシエで有名な店なのだが、ペルデュラボーのウインク一つでほぼ並ばずに済んだそうな。
「どうとは?」
「とぼけないで。また混沌のお遊びに付き合う気?」
ジロリ、とネロがリーアを睨む。
並みの魔導士では失神しかねない程の威圧に、しかしリーアは困った様に、すまなそうに眉根を寄せるだけだった。
その様子に、エンネアはただ溜息をついた。
「二人が九郎とアルの真似しなくちゃいけない道理なんて無いんだよ。」
「あるとも。何よりも私達がそう思っている。」
リーアの言葉に、アーリもまた黙って頷く。
あの戦い、斬魔大戦とも言われる数多の宇宙を巻き込んだ戦いにおいて、渦動破壊神となったデモンベインを討った二人は、その志を引き継ぐ事を誓った。
大十字九郎、アル=アジフ、デモンベイン。
彼らを尊敬していた、慕っていた、愛していた。
師として、友として、恋人として、母代わりとして。
だからこそ、道を違えてしまった彼らを泣きながら殺した。
その魂が今何処の世界にあるかももう知らない。
しかし、例え知った所で二人は決して会いに行かないだろう。
その志を継いだとは言え、彼らを殺した当人は自分たちなのだ。
今更どの面下げて会いに行けば良いのだと、二人は自戒していた。
「頑固なのはちっとも変わってない。」
「悪いな。これだけは譲れない。」
そんなリーアとネロを、残り三人は穏やかな目で見守っていた。
「無論、そっちにゃ迷惑はかけない。」
「今現在進行形でかかってるんだけど?」
「「ごめんなさい。」」
ネロの言葉に、リーアとアーリは綺麗に揃って土下座を披露する。
混沌関係なく、この三人の関係は決まっていた。
「ふふふ、三人とも相変わらずだねエセル。」
「そうですね。相変わらず元気な様です。」
そして万年新婚熟年夫婦はのほほんと麦茶を啜りながらその様子を眺めるのだった。
なお、この後滅茶苦茶スマブラやってお開きになった
……………
現在、世界中はパニックに近い様相だった。
何せファンタジーの存在が実際に確認されたのだ。
それも異世界だけでなく、恐らく地球産のものまで。
これはリーアとアーリが態々アイオーンに搭乗しての戦闘時、外部音声をONにしたまま戦闘を行っていた事に由来する。
彼女らの詠唱は日本だった事もあって日本語だし、その内容は基本クトゥルー神話を基とした魔術である。
加えて、あの日の銀座には多くの外国人旅行客も存在し、その中には有名な国際ニュース番組に努める人物もいた。
更に昨今では個人の携帯端末の発展も著しく、彼女らの活躍はかなりの人々が見て、撮影に成功していたし、監視カメラ等にもばっちり映っていた。
この映像、当初は規制されたものの、大勢の人々から流出した事もあって規制に失敗していた。
戦闘シーン、特にベルゼビュートが招喚されてからは精神に異変を来たす人々が多く発生したためだ。
しかし、そんな危険を踏まえてもあの事件の映像を見たい・広めたいと某動画サイトでは削除される量の倍以上の映像が投稿されてしまい、規制は不可能だった。
また、事件後の封鎖された銀座の惨状、特に銀座中心の門及びビル以外のほぼ全てが圧倒的熱量でドロドロに溶けた様子は、動画以外でもあの事件の余りの非現実さ、異常さを知らしめていた。
更には以前の銀座での集団行方不明事件の被害者らにも再度注目が集まり、テレビや新聞で門の向こう側の世界の情報が知られ始めると、事態はより一層混迷を深めた。
特に日本は彼らの他にも多数の拉致被害者が現在も門の向こうにいる事を知り、派兵するか防衛に徹するかで大いに揉める事になった。
こうした物証により、世界はファンタジーの実在を、神々の実在を確信する事となる。
これには宗教関係者を中心に万歳三唱だったものの、逆にクトゥルー神話を知る人々は絶望の余りにSAN値チェックが入る者が続出した。
だって、クトゥルー神話である。
絶望と混沌、恐怖と冒涜が蔓延るカルト的人気を誇る神話である。
そうした人々から、或いはニュースや雑誌で得た知識により、それまでクトゥルー神話を知らなかった人々もあの神話の存在を知り、絶望に膝をついたりした。
特にアメリカ等は宗教的にも、神話の舞台的にも不味いと感じ、国内での徹底的な調査を実行し、異種族やカルト教団等を発見してしまい、一部で州軍並び国軍が出動する事態にもなっていた。
そんな訳で世界は異世界の門ヤッター!ではなく、クトゥルー神話とか絶望じゃないですかヤダー!と叫ぶ破目に陥っていた。
世界中がそんな事になっているのを尻目に、リーアとアーリはさくっと各種準備を進めていた。
具体的には各国の地脈の結節点、龍穴に拠点を設営、そこから湧き出る地球のオドを貯蓄し、いつでも使えるように仕立てたのだ。
無論、守護神銀鍵機関等の文字通り無尽蔵の魔力を汲み出せる炉はあるのだが、それでも用心に越した事はない。
加えて言えば、奴がこちら側で何かやらかす場合、無よりも利用できる有の方が手間が少ないと判断する可能性もある。
そういった場合の防犯ブザー程度の役割も兼ねている。
これにはリーアとアーリだけではなく、「しょうがねーなー」となんだかんだ付き合いの良い邪神一家三人衆の手も借りている。
何せ世界中の龍穴であり、中にはでっかい建物が建ってたり、大都会のど真中だったりするのだ。
幾ら隠形や認識阻害の術をかけた所で、ばれる可能性は常に存在する。
良くも悪くも有名人になってしまった弊害だった。
他にもイブンカズイの粉薬の材料を始め、有用そうな素材やら何やらを片っ端から集めつつ、神代の彼方へと去った地球の神々に代わって地球の霊的防衛網(実際は精々早期警戒網程度)の構築に勤しむのだった。
……………
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「門はフロンティアだよ。」
そこの主人たるディレル大統領は、居並ぶ補佐官や副大統領、閣僚に向けて告げた。
「同時に、極めて危険な兵器に成り得る。」
大統領は、あの門の性質にすぐに気づいた人間の一人だった。
自国の優れた研究機関及び同盟国たる日本からの情報から辿り着いた結論。
それはあの門の向こう側の世界の商業的価値、そして門そのものの戦略的価値だった。
「もし仮に、あの門が中華等の東側に渡ってみたまえ。絶対的な兵站を手に入れるだけでなく、何時何処でも大軍を展開できる上に、最悪ノーリスクの戦略兵器に化けるぞ。」
例えば、敵国の首都と海を繋げたとする。
津波にも似た被害により、敵国の首都は機能不全に陥り、何も出来なくなるだろう。
また、好きな時好きな場所に自国の軍を展開できれば、圧倒的に有利となる。
そうなれば、数だけは多い中華相手に、米国と言えどもどれだけ持ち堪える事が出来るか分からない。
「加えて言えば、あの魔法使いの少女達。彼女らが使った魔法もまた極めて危険だ。」
この世界で初の鬼械神同士の戦いの現場となった銀座では、あらゆる科学的調査が行われた。
幸いと言うべきか、そこは多少の瘴気の残滓こそあったものの、人に害なす怪異や魔性の類は全て焼き払われた後だったため、調査に当たった人員に被害が出る事は無かった。
そこで行われた調査で判明したのは、科学の輩では及びも付かない超常現象が起きたという事だった。
先に出現した多数の生物兵器を扱うロボット?。
特に後から少女達が魔法で呼び出したロボット。
無論、彼らもまた後者が街や人々への被害を避けるために最大限の配慮を行った事は映像からも確認されていたが、それ即ち彼女達が国家の敵ではないという事の証明にはならない。
前者のロボは遠距離からの飽和攻撃でまだ何とかなるかも知れないが、後者は核ミサイルの飽和射撃位しか手立てがない。
何せあの黒いロボット、極小範囲で極短時間であったものの太陽の表面温度に匹敵する炎を放っていたのだ。
更に最後に出した炎の獣に関しては、試算だが最新の戦略核弾頭を超える威力を発揮した可能性すら指摘されている。
一個人、それも見た目は幼い少女二人が大国に匹敵するかそれ以上の戦力を運用している?
その事実に、大統領は頭が痛くなりそうだった。
「現在、我が国だけでなく、日本も公安や警察を最大限動かして捜索しています。ですが…」
「分かっている。過去の映像記録は多少あれども、他の痕跡は一切無いのだろう?」
現在、リーアとアーリは世界各国が注目する中、その所在の一切を掴ませなかった。
無論、目撃情報や監視カメラの映像から東京都内の何処かに定住しているとは推測しているが、それ以上は無理だった。
「仕方あるまい。魔法使い相手の追いかけっこなんて、何処の国も想定していないからね。」
偏にこれに尽きた。
彼ら日本の治安維持組織は日常に隠れ潜む犯罪者や工作員を炙り出すのは経験も実績もあるのだが、魔法使いというファンタジーの住人、それも人類史上でも最高峰を相手にしてはどうしようもなかった。
「それで、国内の調査はどうなっているかね?」
「現在、あの神話の舞台のモデルとなった土地に関しては調査が進んでおります。お手元の資料をご覧ください。」
「ふむ…。」
大統領の持つ資料、当然の用にトップシークレットと判を押されたソレを読み進める大統領。
その表情は最初から最後まで険しいままだった。
「広大かつ自由を標榜する我が国とは言え、ここまでこの様な連中がのさばっていたとは…。」
「正直、このタイミングで気付けたのは幸運だったかと。遅ければもっと被害が拡大していました。」
「おぉ神よ…。」
その資料には悍ましく、冒涜的で、人命を何とも思っていない者がこの合衆国に潜んでいた事がありありと分かる内容が記されていた。
「押収した各種資料は全て研究班に持ち込まれていますが…。」
「研究員が発狂するケースが相次いだので、直接触れるのではなく電子機器を介在する形になりました。」
覇道鋼道っぽい事をやって最適解を導き出す辺り、アメリカの持つ人材の有能さと層の厚さ、柔軟性がよく分かる。
「もしバイオハザードが発生した場合、分かっているね?」
「勿論です。常に研究所周辺には海兵隊一個師団に加え、爆撃機が待機しています。」
「よろしい。」
最悪の場合はガチの滅菌作戦の辺り、彼らはしっかりとクトゥルー神話関連のブツの危険性を認識していた。
が、その程度ではまだまだ足りないのを彼らはまだ知らない。
「今後も国内の浄化は手を抜かないように。対抗策の開発もね。」
「は。」
「門に関しては今現在の我々では手を出せないし、出すべきではない。初手のリスクは日本に負わせよう。」
正直、国内の混乱が収まるまでは派兵とかはしたくないし、出来ない。
国内の浄化が終わるまで、何時何が起こるか分からない。
もしもの時の戦力を考えると、迂闊な行動は出来なかった。
チリリン
「ん?」
不意に、大統領の耳に鈴の音が届いた。
途端、数名の閣僚らが部屋の中央のテーブルから後ずさった。
「どうしたのかね?」
「大統領、それが突然電話が…。」
部屋に備え付けの電話は、大統領の執務机に置いてある。
だが今、部屋の中央のテーブルには、古風なアンティーク調の黒電話が置かれていた。
それには電源ケーブルもアンテナ類も無かった。
なのに、古い時代のドラマに出てくるかの様な呼び出しベルの音が響いていた。
「大統領、ご無事ですか!?」
室内の異変を感じ取ってか、即座に控えていたSPがやってきた。
大統領は彼らに示すように、テーブルの上の黒電話を指差した。
「すまないが、誰か取ってくれないかな?」
大統領のその言葉に、誰もがギョッとした。
無理もない。
よくある怪談の様に呪いの電話とかだったらと思うと、誰も取りたくなかった。
「では私が。」
「すまないな。」
そこでSPらの中で最も年嵩の人物が名乗り出る。
彼はこの場のSPの指揮官でもあり、合衆国への忠誠も部下達からの信頼も厚い男だった。
「私に何か異変を感じたら、迷わずに撃ってくれ。」
「了解。」
素早く指示を出し、ゆっくりと受話器を手に取り、顔に当てる。
「ハロー?」
『ハロー。そちら、ホワイトハウスで合っているかな?』
その声は、彼も映像で何度も聞いた事のある声だった。
「その声は銀座の魔法少女か。一体どうやって電話を置いたんだい?」
『その部屋には120度以下の鋭角が無数にある。幾らでも潜り込めるさ。』
なんて事のないように話す少女の言葉に、知らず耳を澄ませていた一同は戦慄する。
この魔法使いの少女は例えあのロボットに乗っていなくとも脅威なのだと、銀座での生身での戦いで猛威を振るっていた様子は一切の誇張が存在しないのだと、彼らは改めて思い知らされた。
「それでは、ご用件をどうぞ。」
『大統領と話したい。』
その言葉に、その場にいた者が目を丸くする。
が、当然とも考える。
今この場には大統領をトップに合衆国の中枢と言える人材が揃っている。
そして、何か話をするのなら、これ程丁度よいタイミングもない。
それでも、大統領に電話を渡すべきか否か、熟練の兵士たるSPにも判断がつかなかった。
『内容は協力の提案だ。今後のためにも、米国とは仲良くしたい。』
「よし、私が代わろう。」
聞こえてきたその言葉に、ディレルは腹を括った。
後に、ディレルは大統領退任後、この日の事を日記でこう述懐している。
曰く、「あの日の電話と同じ位緊張したのは、大学の合否と大統領選の結果以来だったよ」と。