その日、合衆国の、世界の歴史に残るだろう電話会談があった。
その内容は公開される事はないものの、合衆国の非公式な記録にして重大な引き継ぎ事項の一つとして受け継がれる事となる。
「ふぅぅぅ………。」
受話器を置いた大統領は、額の汗を拭う事もせず、深く深く息を吐いた。
それだけの緊張が彼の両肩にかかっていた。
「よろしいのですか、大統領?」
「現状、彼女らが世界で唯一の専門家である事に間違いはない。何より他の国に持ち込まれたくない。」
実際、もしロシアや中華辺りに持ち込まれたら、どんな事態になるか見当もつかない。
あのロボットが量産されでもしたら、それこそ第三次大戦待ったなしになってしまう。
加えて、COD対策は本当に喫緊の課題であり、大統領としては異端とされる彼女らの手も借りたかった。
「それに分かり易い利益も提示してくれた。」
大統領の視線の先には、先程黒電話の下にある引き出しから出したものがあった。
一つはUSB。一つは奇妙な五芒星の刻んであるよく磨かれた大理石。
そのどちらも、今の合衆国には大変価値あるものだった。
「直ぐに研究班に持ち込んでくれ。後、用心のためにくれぐれも素手で触らないように。それと…」
「この部屋の改装、ですね。」
こうして、事件発生から約一か月、アメリカは次のステージへと向かう事となる。
……………
「んで、良かったん?国の紐付きになって。」
「あぁ。」
アーリのその言葉に、リーアは懐かしいものを思い出しながら答えた。
「シュリュズベリィ先生を覚えているか?」
「そりゃねぇ。」
二人にとっては魔術の師匠の一人であり、狩人としての先達であり、ミスカトニック大学の教師としての先輩であり、そして家族でもあった人だ。
彼は老いてからホラーハンターとなった人間であり、世界に広がるクトゥルー崇拝の拡大を阻止しようとその脅威を訴え続けた人でもある。
が、そんな事してたら崇拝者や眷属どもに追われるのは当たり前で、逃げに逃げて遂にはセラエノにまで逃げ遂せた。
そして、彼はこの地の大図書館にて邪悪なる神々、特に旧支配者と彼らが持つ知識を調べた。
しかし、彼はその過程で敵の、人類の脅威の余りの巨大さに心折れ、絶望し、遂には両の目を抉った。
だが、彼は最後には立ち直った。
セラエノの大図書館で20年に渡り調査を続け、遂には己の得た情報を纏めた魔導書「セラエノ断章」を著して地球へ帰還し、ホラーハンターとして改めて戦う事を、後進を育てる事を誓ったのだった。
「いやー今思い出しても超☆アメリカン!な先生だったよなー。」
「まーなー。」
邪神復活の儀式にダイナミックお邪魔しますしたり、悪名高きインスマウスの悪魔の岩礁に核ミサイルぶち込んだり、邪神の眷属を崇拝して生贄の儀式やってる邪悪な孤島の少数民族をやっぱり核投下したり、復活しかけてたクトゥルーに核爆弾ぶち込んでまた押し込めたりと、実にやりたい放題なファンキーな爺様だった。
なお、これらは全てミスカトニック大学の陰秘学科の生徒達を連れ、米軍と共同しての事である。
ついでに言えば、自分で書いたセラエノ断章の精霊ハヅキは孫扱いですんごく甘かったりする。
ハヅキはハヅキでダディと甘え、「うちのレディを嫁に出すなら私より強くなくてはな」「私と契約するならダディを安心させられる位じゃないと」と互いに言ってたりする。
そして何より、どんな窮地であっても絶対に生徒達を見捨てない人だった。
「私らもあーすると?」
「懐かしき教師生活も悪くあるまい。」
しょっちゅう見合い勧められたり、告白されてたミスカトニックでの教師生活。
今思えば何もかにも懐かしい。
「こちらの米国にどれだけ適正がある者がいるのかは未知数だが、始めねば芽も育たない。」
「だぁね。とは言え、フットワークは重くなる。その点だけは覚悟しとけよ。」
「言われるまでもない。」
後進を、自分達だけでなく、人の中から時代の抵抗者を育てる。
それはとてつもなく困難であり、そのためにより大勢が死ぬかも知れない。
しかし、やらねばならない。
あの斬魔大戦を経てもなお、全ての宇宙から邪悪が去る事は無かった。
ならば、少しでも増やさねばならない。
邪悪と戦い続ける者を、志を継いでくれる者を、圧倒的邪悪を前にしてなお立ち上がる者を。
かつての世界では覇道財閥とミスカトニックがそれを成したが、この世界にはどちらもない。
なら、ノウハウを持つ自分達でやるしかないのだ。
「所で渡して良かったの?破壊ロボシリーズの基礎設計図。」
「寧ろなんで渡さないと思ったし。」
あれら、デモンベインの前では性能負けしてるものの、あれはデモンベインが異常なだけで、純粋科学の産物としては異常なまでに強いのである。
魔術理論搭載前であっても、ある程度は鬼械神に対抗可能であり、場合によってはデモンベインを撃破できる可能性すらあるのだ(実際、初期型デモンベインは結構負けてたりする)。
魔術理論搭載後はあのマスターテリオンもちょっとびっくりする位には凄いし、五体合体のスペシャル仕様はワダツミⅡを撃破した実績もある。
加えて、破壊ロボの系譜は広まって対邪神眷属への戦力として採用された世界すらあるので、既に実績もあるのだ。
まぁ魔術理論込みはまだ早いと思って、その辺は添削してあるが。
「まぁ他にもブラックロッジの平構成員向けのパワードスーツや完全人型仕様とかなんちゃってATもあるけどさ。」
「それ確かドクターん所にいた時に作った趣味の奴だろ?」
「当たり。死蔵するよりマシだろう?」
「米軍でリアルウォーマシンとか簡易エステバリスとかイェーガー軍団が見れるのか……胸が熱くなるな…。」
そんな実にオタク心擽られる会話はさておき、二人がディレル大統領に提案した事は一つ、技術提供並び人材育成の協力である。
大まかな内容は以下の通りとなっている。
① リーア&アーリは対CODにおいてアメリカ合衆国に協力する。
② リーア&アーリが対CODにおいてアメリカ合衆国に協力を要請した場合、アメリカは率先して協力する。
③ 対CODに向け、リーア&アーリはアメリカに対し技術提供並び魔術師の育成を行う。
④ リーア&アーリが合衆国の不利益となる行為を行った場合、後日必ずその不利益を超える利益を出す事で償いとし、尚且つ正式に謝罪する。逆もまた同じである。
⑤ この関係は双方にとって不利益となるまで続けるものとする。
⑥ 大統領交代後、可能な限り早急に契約を更新するものとする。更新が無い場合、この契約を破棄する。
敢えて穴空きガバガバな内容になっているが、何もかにもを雁字搦めにしたら咄嗟の事態に際して動けないため、こんな感じになった。
なお、手始めに黒電話の下の台座部分の引き出しに、お守りとして機能するエルダーサインの彫られた護符と破壊ロボットの基礎設計図他多数入りのUSBを入れておいた。
また、米国の方でも早速公的身分の作成を行ってもらう事になっている。
「所で日本でなくて良かったん?」
「現場は兎も角、外交に政治屋や隣国、9条とか諸々片付くまでは本籍置くのはちょっと…。」
残当だった。
「つーか、いい加減西日本一帯で暴れてる隣国からの盗賊共どうにかせんと霊的治安崩壊しかねんぞ。」
「だよなー。仏像盗難どころか寺や神社に火ぃつけたり封印の札とか石仏とか壊すのマジ勘弁。」
「盗んだ仏像とかを『ウリの国のもんニダ』とかマジやめろ。」
なおガチリアル話である(憤慨)。
「霊的治安が崩壊した所に侵食とか大得意のクトゥルー系魔術でいつの間にか大規模招喚術式が刻まれて…」
「やめろください。」
実に洒落にならない話だった。
というか、日本は世界中の龍脈の結節点に当たるので、霊的治安が崩壊すると即座に世界中に波及するのでマジふざけんなという話である。
「京都とか東京はまだマシなんだよなー。」
「イギリスとか欧州も比較的な。」
「問題はアメリカさんなんだよな。新大陸開発のために原住民皆殺しとかしてたせいで、霊的治安が脆弱なんだもん。」
「下手に滅んだり弱体化したりして世界的に治安が悪化すると、邪悪に転ぶ連中が増えるしな。」
基本、平和で満たされてる生活を送ってれば、人間は邪悪に転ばない。
しかし、治安が崩壊して生活に困窮すると、途端に転ぶ人間は増えるのである。
「最悪、門を壊して封鎖かなぁ…。」
「その前にあっちでの奴の根拠地にクトゥグアで。」
そんな話をしつつ、二人で魔術師のひよこを育てるためのテキストや教材の作成を進めるのだった。
なお、題名は「チキチキ★これで貴方も新米魔術師~ポロリ(臓物)しないように~」だったりする。
そんなこんなで次回に続く。