WBCスーパーミドル級タイトルマッチ
空はすっかり暗くなり、街灯と建物の照明が目立つ時刻を迎える。
こうして人々の喧騒は訪れ、酒に女に酔い
今夜は″また″一風変わった、漢と漢の狂宴によって、後楽園ホール周辺は熱狂の渦と化していた。
『や、やった決まった!ここに、ついに決着!』
しばしの静寂の後、後楽園ホールから轟く狂喜乱舞の祝福。
通行人はホールの外に張り出されているポスターを見るや、外に漏れ出す歓声に納得する。あぁ、またあいつがやり遂げたのだ、と。一人、誰かがふいに笑う。
後楽園ホールの会場、リング中央で告げられる勝利宣言に、一人の漢が右拳を突き上げていた。
彼に釣られるように、観客たちは伝説の瞬間に総立ちとなっていた。男も女も関係なく、人間が持てる限りの雄叫びを上げる。身体に発生する熱を放出するように、喜びを惜しみなく表現していた。
会場中の注目を浴び続けるそれは、ボクシング。
今宵、鷹村 守の世界タイトル挑戦が行われ、試合は鷹村のKO勝利により幕を引いた。
「本当にすげぇよアンタ!」
「やっぱ人間じゃねぇや!」
「おめでとうございます鷹村さん!」
右拳を下ろした鷹村は、次にボクシングジムの後輩たちのはしゃぐ様を見て笑い合う。
「これだから鷹村の試合は見逃せねぇんだ」
「チャンピオンを圧倒とか、人間やめてやがる!」
「それでこそ鷹村だーッ!!」
客席では、試合終了の余韻に浸るボクシングファンが語り合い、新たな交友を広げていく。
日本ボクシング界の先陣を行く鷹村。迫力のある試合を何度も行い、湧き上がる観客の代償として大きなダメージを受けていた。血を流し、視界が閉ざされるほどまぶたが腫れ、気を失いながら戦う。アクシデントが重なり、だがそれでも最後には相手を倒す。
それが鷹村 守という男。そういう認識が、世界に広まっていた彼だった。しかし、今回のタイトルマッチを通し、普段と違う変化に誰もが気付いていた。
「視界も、両足も、拳も異常はねぇ。故障は言うまでもないが、ダウンもゼロだ。どうだ
リングの上でニカッと歯を見せる鷹村。
大きな外傷はなく、目に見える疲労を感じさせない堂々さ。
彼のトレーナーであり、鴨川ボクシングジムの会長、鴨川 源二は、そんな鷹村の声に大きく頷いた。
「ようやった、鷹村。誰にも文句を言わせぬ、完璧なタイトルマッチじゃったぞ」
「4つ目のベルト。ようやく3階級、半分まで終わりだ」
チャンピオンベルトを受け取った鴨川は、鷹村の腰に巻きながら話に耳を傾ける。
「こっからはダメージ抜く時間なんて必要ねぇ。さっさと階級上げて、パパッと6階級制覇するぞ」
「ダメじゃ、とは言えんくなってきたな。出切る限り早く準備する」
ダメージが無い、とは嘘だ。
試合中に受けたパンチだけがダメージではない。鷹村は試合のたびに減量に苦戦し、体力の温存も危うい状況なのだ。減量に慣れはなく、相手の土俵で勝負することを強いられている。
だから鴨川は俯き、いまの喜びを噛みしめる。
鷹村がアクシデント無くタイトルマッチを終えたことを、我がことのように喜んだ。
「ごほん」
綻んだ頬を引き締めるように、ゴホンと咳払いをする。
「だが、まずはスポーツマンらしくせんことには、それも遠くなるぞい」
鴨川が振り返った視線の先、鷹村は釣られて顔を上げる。
180cmを超える長身、白人茶髪の男性。セコンドに左肩を支えられながら、右手はしっかりと差し伸ばしている。
「オメデトウ、タカムラ」
腫れた右まぶたに似合わない笑顔は、鷹村の王座獲得を心から祝っていた。
試合前とはうって変わり好意的な態度は、紳士という言葉がとても似合う。
「なんだ、もう起き上がって大丈夫なのかよ?」
それに対して鷹村はこれだ。
元チャンピオンは心配ないとジェスチャーするが、鴨川は違った。
「この馬鹿者‼︎」
鴨川はリングの上ということを忘れ、鷹村のボディにストレートを放つ。
「いてッ!クソジジイ、テメーがダメージ増やしてどうすんだ!」
「もっと礼儀を
うるさい奴だ、とグチグチ呟きながら鷹村は一歩前に出る。
「シンジている。キミが、ヘビー級チャンピオンになることを」
「……日本語、うまいじゃねぇか。
言われずとも。このベルトの分も担いで
「ダハハ、そのコブシならウソはつけないな」
チャンピオンと握手を交わすと向きを90度右へ。
インタビュアーの女性の方に歩き始めた。ニコニコ笑顔の視線は豊満な胸へ。
鷹村のことをよく知る者たちは、そこで爆発する。
「鷹村ちゃんと挨拶しろ!」
「チャンピオンだからって図々しいぞ!」
「人間やめておかしくなったんじゃねーか?」
「この鷹村ーッ!」
誰かが空き缶を投げ、それが鷹村の後頭部に直撃したことが火ぶたをきり、次々と罵声を浴びせる。
「んだとこの野次馬どもッ‼︎‼︎‼︎」
元チャンピオンの爆笑する声と、鷹村がいつものように暴れる姿をもって、後楽園ホールの夜は終わった。
199x年(プロ9年目)2月
4R2分20秒KO勝利
WBCスーパーミドル級タイトル獲得‼︎
はじめまして、ひとりのリクといいます。
設定諸々が溜まってきたので投下!
スーパーミドル級は原作で近々やると思うので大幅カット!
仕事の息抜きとして書きました。
お察しの方、さすがです。
鷹村の6階級制覇を題材としています。
ライトヘビー級タイトルマッチは書きます。そのあとが続けられるか分からないので、短編としています。連載なのに連載してないじゃん?ってなると思うので。
試合の構造を終えてから書き始めると、想像以上に話数が増えそうです。なので連載に変更して、ヘビー級タイトルマッチまで時間をかけてでも書きます。
(2019.6.27追記)
仕事よ、まじで減って(切実)。
【次回予告】
藤井記者の取材。
元スーパーミドル級タイトルマッチの一部始終と、元チャンピオンからのコメントを記す。