鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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ライトヘビー級タイトルマッチ 記者会見

試合前日の計量は両者問題なく通過した。

一言も会話はなく、記者たちの声にも応えることはない。

無言で語る。いまは待て、と。

誰も、鷹村へと口を開ける者はいなかった。

 

時間は過ぎ、夕暮れ。

某ホテルにて、両者は再び顔を合わせる。

 

記者会見、ただ2人の王者へと向けられる注目。

先ず記者の口から飛び出したのは、やはり鷹村に対して。ライトヘビー級タイトルマッチへの意気込みだった。

 

「折り返し地点になる。スーパーミドル同様、アクシデント無くさっさと試合を終わらせてやる。見たいだろ、5階級目」

 

その返答は、記者会見に臨む者たちの誰もが鷹村のコンディションが整っていることを確信させるもの。減量苦も緩和され、肉付きは頼もしさを数倍に膨れ上がらせている。

 

記者たちの期待が膨らむなか、次にマイクを握ったのはチャンピオン。

国籍はアメリカ合衆国、身長185cmと鷹村よりやや低めの白人。目元まで伸びる、空気を含んだ金髪。

彼の瞳は、ただ黒い。映すものは日常風景であり、これからも変わらない日々が続くという当たり前。となりに座る鷹村という男への認識であり、視線が1度も動くことはない。

開いた口から発した言葉には、やはり抑揚がなかった。

 

「彼の次の試合は同階級WBAタイトルだ。

栄光に輝くベルトを腰に巻いて、4階級制覇という偉業は成される」

 

過去のフェザントの記者会見をなぞるだけ。

言葉は違えど、鷹村への敗北など考えもしていない。

記者たちは肌で感じる。ブライアン・ホークやデビット・イーグル、かつて鷹村が大苦戦した相手と同じ。一筋縄では終わらない人物がそこにはいるのだ。

 

「俺様を相手にどこまで引っ張れると思ってるかは知らん。だがな、グローブ付き合わせんのは試合前の1回だけだ」

「……あぁ、ライトヘビー級では1回だ。

この試合を最後にクルーザーに行く。また拳を合わせに来い」

 

鷹村は翻訳を聞くとフェザントに視線を向ける。相手は微動だにせず、腕を組み、記者会見が終わることを待っていた。

この場にこれ以上の意味はない。あとは拳を突き合わすことだけを考えて、鷹村は口を閉ざした。

 

愛想笑いすら浮かばない、張り詰める緊張感。

記者たちの額の汗が顎から落ち始めたとき、記者会見は終わりを迎えた。

 

最後に立ち上がり、歩み寄る両者は視線を交わした。

いや、記者たちからは交わしたようにしか見えなかった。

 

「…………」

「…………」

 

互いの瞳には、明日の試合の光景しか見えていない。

交わしているのは拳。いつ顔面を捉えるのかを、水面下で黙して狙っていた。

 

「……鷹村ッ」

 

鴨川の制する声はハッキリと聞こえている。

 

「王とは、なんだ」

 

ぼそりと呟くフェザント。

言葉の意味を理解した鷹村は。

 

「貴様が王の座を降りるときにすれ違うヤツ」

 

視線を外すことなく答えた。

 

「オレ様だ」

「………」

 

数秒後、同時に踵を返す。

 

真反対に歩き出す両者が会場を離れたとき、異様な緊張感が記者たちの首元から離れていった。

 

「な、なぁおい。いまのって…」

 

ティム・フェザントの瞳と、鷹村 守の闘争心が。

 

「あぁ…どっちともK.O宣言していったぞ…!」

 

試合前日にきて勝利予想を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

ライトヘビー級タイトルマッチ当日。

第1試合開始数分前、後楽園ホール出入り口で。

 

「ま、待って!この人混みっ、のまれちゃう!」

「……モタモタするな」

 

スーツ姿の列を横切る肩が並んだ男性が2人。

 

片や顔にいくつもの裂け傷があり、さらに気味の悪さと恐ろしさを備える表情。自然と人が空間を作っていくタイプだ。

もう片方は柔和かつ端整な顔で、先を歩く男とは無縁そうな出で立ち。外を好まず、部屋にこもり読書に耽るイメージがある。

 

強面の男性は難なく列を抜けるも、もう片方は列の勢いに負けて流されつつあった。

 

「き、聞こえませんよ沢村コーチ!!なんて!?」

「はぁ……」

「ぬぐっ、ちょほんとに東京の人ってなんでこんなに歩くの早いんですっ!」

 

やっとこさ抜け出たときには、沢村と呼んだ男性はホールのなかに入ろうとしていた。たまらずゼーゼーと息を吐く。

 

「帰宅ラッシュに巻き込まれてんじゃねえ。あれくらい掻き分けろ疾景(とかげ)、そのための拳だ」

「ぜったい違いますよ〜、コーチの指導はときどき間違ってます」

 

疾景と呼んだ青年をよそに、そんな荒々しい言葉を吐きながらホールのなかへ入っていく。

 

「けど、この試合(タイトルマッチ)を観る意味は俺にも解ります。

すっごく勉強しろってことですもんね!」

「行くぞ、もう試合が始まる」

「メインイベントだけ観るんじゃ……あ、なんでもありません。いま思ったことは口に出しません」

 

スッと持ち上がる沢村の拳を見て、疾景(とかげ)は身を引いた。

 

(幕之内のファンっぽいもんなぁコーチ。あくまでも自分を負かした相手なのに、よくもまあニタリ顔ができるもんだ)

 

思考すら読んだのか、沢村は目を細めて呟く。

 

「ふん……名古屋から来たのは遊びのためじゃねぇぞ。ベルトの獲り合いする相手の視察も兼ねてる」

「────木村 タツヤ」

 

疾景(とかげ)は内心で木村のことを羅列する。

 

引き分けを最後に姿を見せなくなったと思ったら、およそ1年と半年後に復帰。怒涛の試合を重ねて最後の日本タイトルマッチに熱を注いでいる、30近くのベテランボクサーだ。

 

しかし、しかしだ。

たしかに遅めの全盛期を迎えてはいるが、この目で見ておく必要性は感じない。コーチのカウンターを受け継いだ俺なら…。

 

「不満か?あんなヤツ、と思ってるだろ?それでも見ろ。4ヶ月後、この意味を痛感する。目に焼き付けておけ、ヤツらの目を」

「目、ですか」

「勝つヤツの目を知っておけ」

 

言い終えた沢村は席を探しに行く。

目のなにを見るのだろう、と考える疾景は数秒遅れて後を追った。

 

 




ライトヘビー級タイトルマッチ

12/24(火)開幕‼︎‼︎

年内決着まで見逃すなっ!
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