鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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憧れの拳

 

側頭部から足元に駆け抜ける熱さで意識が覚醒する。

即座に自身の状態を確認し、両拳をリングにつけて上半身を起こす。ブレる視界を掴み、顎を上げながらやっとの思いで足裏がリングと並行になり、10カウント以内の復帰を果たした。

 

「……ぐ」

 

ダウンから立ち直った京介が真っ先に確認したことは、ダウン直前の記憶だった。

 

(な、なんてフックだ…。鮮やかすぎて、打ち終わるまで反応できなかった……。

左足を、踏み込んでいたのか…!)

 

ナオの左拳をガードし、手元に戻るのを確認したときに左足の軸を京介の足元に置いていたのだ。左打ちの感触が弱かったのは、京介に反撃させるため。カウンターのために視線を上げさせて、自分もまたカウンターを狙っていた。

敵ながら褒めることしか出来ないほど洗練された動き。

 

(ヤツはダッキング気味に…。デンプシー・ロールのようにフックを打ち下ろしたんだ)

 

逡巡し、自らが叩き落とされた一撃に辿り着く。

どこまでを考えていて、どこからが身体に染み込ませたものなのか。

 

(これまでのハンマーナオとは違う。4ヶ月前までの試合にはフックは多用しなかった。…まだ判断するには足りない、打ち合って徹底的に詰めていくぞ)

(…退く気配はない。きっと僕から情報を引き出すつもりだ。なら、見極め終える前に打ち倒すまでだ!)

 

見極め、努力を打ち果たすために試合継続の意思を示す。

様子を確認したレフェリーが試合再開の合図を言い渡した。

 

「残りは2分ある、動き鈍いうちに前さ出ろ!」

 

コーナーから飛び出したナオは両拳を鼻につけ、接触時の反撃に警戒する。

 

(勿論です会長!)

 

駆け寄り、射程範囲に入る手前で低姿勢となり踏み込んだ。

ボディによる一発ダウンを狙われるなか、京介は半歩退がり距離を見定め、ボディストレートを打ち込む。ナオの前進は減速し、ガードした腕が開きかける。それでも攻撃に移行し始めるナオに、僅かに開いたガードへと割り込むようにワンツーを打ち込んだ。

 

『ツーが挑戦者のガードをこじ開けた!』

 

(なんて威力だ!?)

(大人しくしやがれ!)

 

ギリ、前歯を強く噛みしめて己が打ち出す拳に勢いを乗せる。顎を引き、身体の軸を一気に回転させて左拳を軌道に移した。

ナオのガードを通り抜け、右頬に反撃を見舞う。

 

(立ち直りが早いッ)

 

左フックを受けながら、京介の動揺の無さに感心する。

ダウン直後の襲撃を止めることに慣れている。いや、この事態を視野に入れて予め練習をしていた可能性が高い。インファイターからの主導権奪還は、ナオだけじゃなく、それこそ幕之内にも有効な手段だろう。

 

(だけど、止まるほどじゃない!)

 

ダメージはある。しかし、ナオの打たれ強さは予想を遥かに上回っていた。打ち戻りに合わせて踏み込み、左拳を真下から打ち上げた。

 

(ぐぁ!?)

 

タイミングが最高に、最悪に噛み合った一撃。

打ち戻しの隙間から顎を上げられて、京介の意識が僅かに上に飛ぶ。次に現れるのは京介の懐に作られた安全圏内。ほんの数秒、体勢を立て直すまでそこは威力のある拳は振り込まれず、勝負を仕掛けるには十分な世界となる。

 

『強引!相打ちでも構わないと一気に畳み掛ける挑戦者!

チャンピオンこれにたじろいだ!防御に力が入らない!』

 

(僕が勝てるなら今が最後のチャンスと思え!

ダウンした直後なら強引に突破できる!するしかない!)

 

攻撃力極振りの前傾姿勢に移行する。

目の前でガラ空きになった鳩尾に右ボディを打ち込む。

 

(させるかッ!)

 

横から振り回すように左腕で右拳の軌道に割り込んだ。しかし、腰に力が入っておらず、被弾は避けられない。鳩尾打ちを逃れたものの、次に待ち構えるパンチを受けられる姿勢とは程遠い。

歯を食いしばった直後、左ボディのコンビネーションをもろに受ける。

 

ガードは苦し紛れの抵抗。

腰を落とし、ナオの強力な一撃を万全に防がなければ終わりがすぐそこに迫っている。主導権を奪い返すことは簡単ではない。インファイターにペースを握られたとき、奪い返すまでに数発の被弾しかなくとも、取り返しのつかない事態に陥ることは珍しくないのだ。

 

京介は、やるべきことを解っていながら。

 

(グ、ギ‼︎)

 

あと1秒で整う体勢に辿り着けず、迫る右アッパーにはスウェーを出来るほどの余裕もないまま直撃を浴びた。

間断なく左右のボディが深々と突き刺さる。

 

響き渡る打撃音。

誰が聞いても分かるほどに手応えのあるそれは、京介の行動に大きく重い枷を付けたと実感させた。

事実、京介の目は大きく見開かれ、苦悶に表情が歪んでいる。たたらを踏み、後退が停止したのは背後に聳えるコーナーポールによるもの。

 

(これで動きが止まる‼︎)

 

浮いた腰が王座から落ちかける姿を見て、ナオは右ストレートを構える。

油断などない、目一杯にタイミングを手繰り寄せた瞬間。

 

(───、打ち返せッ‼︎)

 

交差する右と右が流れを四散させる。

 

(ぶあ?!?!?)

(重いッ…だが!)

 

『王者巧い‼︎コーナーによりかかり体勢を無理やり起こし相打ちに持ち込んだ!』

 

絶好のチャンスは、王者の意地と技量で打ち崩された。

 

ふらつき、安定性のない足場。

ふとした拍子でどうにでも崩れる均衡。

 

ここを制した者が勝利へと大きく歩み寄る。

 

(よーやく、止めたぞ…!!)

(あそこから間に合った!?)

 

とくに京介がそれを自覚している。

3ノックダウンに近づくことなく、過去最強のインファイターに打ち勝たずには寝てもいられない。

 

覚束ない足元は負けられないという意識(ますい)でダメージを抑え込んだ。瞳に熱を灯し、眼で語るにはあまりにも膨大な量をぶつける。

 

開け放たれるスタイルに淀みがない。

突き刺した感情のなかから、眼前で拳を構える男に真っ先に伝えたもの。それは無意識のうちに溢れ出ていた、歯を食いしばりながらも笑う口元(てきい)

 

(急所を打ち抜かれた人の動きなのか!?)

(彼にも日本一になる器がある…!

なら俺は()てる全てで打ち勝つしかないだろう!)

 

ナオの精神は怯まない。

だが、試合中に見る血混じりの笑みを放置できるほどの余裕はない。

 

まだ途絶えていない主導権を加速させるため、ナオはガードを固めて確実に逃げ場を無くす。

背後に下がることの出来ない京介は、僅かなスペースで足場を立て直し、鋭くガードを破るために力を溜める。

 

そして両者の大砲が火を吹いた。

 

示し合わせたように互いが互いの左頬に直撃する。頬に手応えのある一撃を浴びながらも、王者は拳を僅かに前方へ流す。身体がやや前傾に調えられた瞬間、一呼吸早く挑戦者へと反撃を見舞った。

 

反対側からの斬り返しは十分に予想出来るものだ。

ナオは歯を噛み締めて耐え、ワンテンポ遅れて拳を打ち返す。右ボディが突き刺さる直前、ガードの内側をアッパーカットが滑り込んだ。ナオの拳は減速し、浅くしか入らずに後退を余儀なくされた。

 

(回転が、上がっている…!)

 

京介は身体に掛かる負荷を最大限に、かつ最小の動きで拳を放ち終える。一曲集中、最もリラックスできる打ち方を以って更なる強引をナオに押し付けた。

 

『王者の豪打が挑戦者を押し退ける!

コーナーからリング中央、打ち合いが再び始まった!』

 

腕力だけでは越えられない壁がある。東洋、そして世界に目を向けたとき、インファイターの短期的爆発力は寒気を覚えるものだ。幕之内にもまた同じことが言えよう。インファイトによる被弾、損害による減速の最中で豪打に打ち勝つことが求められる。

最小の回転で最大の威力を放つ位置取り(ポジショニング)は京介の課題だ。ここにきて、高みへと登りゆくために積み上げてきた練習の成果を発揮し始めていた。

 

(譲るものか。この場所(近距離)で負けるわけにはいかない!)

 

ナオが2発打てば京介は3発。

1つ避けて追撃し、確実に京介自身のペースへと引きずり込んでいく。

 

「インファイター同士でも、主導権を握るのに幾つもの種類さある。パワーと回転力、ありきたりで一番差が出るところで拮抗したら、次は知識と練習がものを言う」

 

八戸が拳を握り締めて見守るリング上。

 

ナオは押され始め、京介のペースに離されそうになっている。

これだって想定のうちだ。オズマとのスパーではもっと打ち負けている。打たれ方が下手だったナオも、日が経つにつれてダメージの少ない場所へ無意識に動くようになってきた。

現状、誰の目に見ても一気に劣勢となったナオ。あれこそ、本命の一撃を打ち込むためのボクシングをしている。

 

「相手を識り、倒すために身体を鍛える。長期的に伸ばす体力とは違い、対戦相手に合わせた対策は試合が決まってから身につける。

そこにはセンス、観察力、そして経験が求められるシビアな時間だ」

 

音羽が両手をリングに乗せるほどに拮抗する展開。

 

京介はペースを取り戻し始め、強打者との打ち合いに噛み合ってきている。だが、まだ完璧ではない。ハンマーナオの一撃を緩和するためのパンチも挟み、板垣戦のごとく集中力を注いでいる。

心身ともに、加速度的に消費して疾走しているのだ。

 

「ナオは懸命に、いまも過去も調べ尽くした」

「今井は慎重に、いまも過去も識り尽くした」

 

両陣営、ただ選手を信じている。

必殺に繋げる瞬間を、固唾を飲んで見守る。

 

「ナオ、止まるでねぇ。身体に染み込んだモン信じろ」

「今井、そのまま行け。経験を積んで壁を乗り越えろ」

 

速撃と豪打、真っ向のぶつかり合い。

減速を度外視した主導権の奪還、瞬きを惜しむ王者撃墜への一手。リング上で円を描き、歪に直角を作り突き進み、中央から離れることなく拳が行き来する。

 

(ようやく実感できた。ハンマーナオの打たれ強さは俺を凌ぐ。

幕之内さんとの試合を観ていたから感覚が麻痺していたんだ。あの人のパンチ力が異次元すぎるだけだ)

 

チラついた憧れのパンチが京介を成長させる。

ハンマーナオの拳と重なることはない。だが、ハンマーナオが無意識のうちに幕之内を意識していることは読み取れる。

ずっと止まらず、ひたむきに走り続け、拳を握り締めてきたのだ。少しでも憧れに近づくため…日本の頂点に立つために。

 

(強いわけだ。俺とは違う環境で、ずっと幕之内 一歩を追っていたんだから。

……貴方を倒す。倒して、握手を交わしたい」

 

ハンマーナオの先に立った者として、同じ志しを持つ男として。

自分の先にいる幕之内の背中に追いついたとき、こんな男と戦えて良かったと伝えるため。京介は誇り高く拳を握り締めた。

 

(もうフックにも対応し始めている…。打つたび、位置取りを変えて的を絞れないように変えてきた。ミスブローを誘っているんだ)

 

腰を据えて、度胸を握りしめて、打たれることを割り切ったインファイト。幕之内よりもディフェンスが下手で、リーチが長くないナオの生命を削る戦法。ゆえに、打たれるなかで最小のダメージに抑えるための受け方をナオは深く理解していた。

 

(一度コーナーに戻ってしまえば状況整理される。次のラウンドじゃダメだ、ミスを怖がるな…僕には打つことしか出来ないんだから)

 

全ての土台は幕之内の拳。

打ちかたも、打たれる緩和も、幕之内に習い、教わった。

 

いまは違う。

あの頃よりも余裕を持てている。八戸会長、ジムの人たち、そしてオズマさん。沢山の人たちに背を押されて、日本一の激情の最中を歩いていられる。

背中を押してくれる人のなかに幕之内 一歩はいない。あの人はずっと先で、想像よりも険しい道の途中で右往左往している。幕之内よりも先にいる、バカでどうしようもなく格好良い1人の男が放つ影牢によって。

 

(前にっ!意味がなくても、前に出ることだけは忘れちゃいけない!それが僕にできる、たった1つのことなんだ!)

 

正解などいつ出せるか分からない。

だから進む。オズマさんに教わったように、苦しいことを1人で抱え込んでしまわないように。これは己だけの戦いではなく、王者との真剣勝負。ここまで打った疲労は、相手に苦渋を負わせている証拠なのだ。

 

───喉が渇く。

 

10ラウンドを戦ったかの如く、両者の疲労が積み重なっていく。

 

───酸素が足りない。

 

止まれば負けると己を焚きつけ、休みなく打ち合う。

 

───そして、均衡は崩れた。

 

「づ、っ……!」

 

手数で上回っていた京介は、ナオのリズムを読み取って弧を描きガードを割り込ませた。ジャブを流されたナオは即座に体勢を取り繕おうとするが、既に準備を終えていては敵いはしない。

 

「う、おォ!」

 

必殺の右ストレートが一直線にナオの顔面に着弾する。

さらに踏み込み、左拳で悶絶必須のボディ打ちを成功させた。

 

挑戦者の見開かれる目が如実に語る。

身体の芯に届いた一撃。当然だ、身体をへし折る勢いで放ったのだから倒れないはずがない、と。無意識下で手応えを確信しながら、京介が眼前で目撃したもの。それはあらゆる苦痛を打ち消す、固い決意だった。

 

(あのひとを励ますんだ…!そのためにリングに上がったのに、あのひとより呆気なく膝をつけてなるもんか…!)

 

下唇を噛みしめ、数秒の猶予をナオは作り出した。

 

(学もそうだった……。幕之内さんの周りは、誰もがここから強くなるんだ)

 

侮りはしない。

もし一度も負けていなければ、きっとここで油断していたはずだ。

板垣に判定負けをしているからこそ冷静でいられる。

負けは悔しく、そして掛け替えのない学び。その成果は何度だって発揮できる、そのうちの一度がここだ。

 

両者、右拳を握り締めた。

 

(これが僕の、最後の一歩だッ‼︎‼︎)

(ハンマーナオの渾身が来る…‼︎‼︎)

 

両者の右は全くの同時に顔面に着弾する。

 

勝負の分かれ道はこの先。

拳を打ち抜けるか、どうか。

余力のない2人にとって、打ったパンチを耐えられることは体力を削られることに等しい。打ちきり、余分な力を流して次に繋げることで勝利に近づく。

 

ありったけを拳に注ぎ込み、最高最上の一撃を繰り出す。

全ての経験を宿した拳の衝撃に先に心身が揺らいだのは。

 

「……ナ、ナオ!」

 

打ち負け、上体が逸れる挑戦者。

成し遂げたのは、王者の執念だ。

 

後ろに吹き飛ぶナオは、電飾を眺めながら。

 

”ナオミチ、マクノウチと似てる。だから進めマス!”

 

最高の励ましを思い出した。

 

だからもう一度、苦痛を飲み込むために下唇を噛みしめる。

 

” ボク、ナオミチが勝つと信じています。けっぱって(頑張って)!”

 

どれだけ動けるかは未知だけど。

なおも、憧れへの一歩を忘れない。

 

(ッッッまッッッッだだ!!)

(打ち返してくるのかっ!?)

 

リングを踏みしめ、一気に距離を殺した。

 

綺麗に終わる試合など1つもなかった。

今更、終わりを見誤ったところでどうということはない。ここにきて、意地汚く足掻かなくて誰に胸を張れるというのか。

 

残された体力は両者になく。

一撃、ただのジャブでさえも受け、放つだけで気を失いかけないほどに活動と昏倒の境界線を彷徨っている。肉体の危機で止められるか、意識の切断で終えるか。迫られる選択肢のなか、勝利に漕ぎ着けるものは最早、前を見続けられるかにあった。

 

だから、ここで諦める姿をナオは知らない。

肉体の限界など知っている。もう目前にある深い底。己の限界の先ではない。これは意識が落ちる場所、奈落であり試合の終わり。ナオのボクシング人生の終了を意味する崖だ。

 

『挑戦者、意地の突撃!

チャンピオンもダメージを堪えながら迎え撃つ!』

 

這い上がれるほど崖は優しくはない。

ならば、起死回生の一撃は眼前。

 

(狙いは…!)

 

右拳で構え、見定める先は鳩尾。

一発逆転として申し分のない急所。

 

前傾姿勢となり、体重を乗せた右拳は直線を描く。

 

(ここだなッ‼︎‼︎)

 

肌が炸裂するようにガード音が響き渡る。

それは柔らかく、軽く、速く、そして呆気ない。

 

(ソーラープレキサスは囮……ッ!?!)

(貴方なら、止めると確信していた!!)

 

容易にガード出来たこと。

そして、渾身にしては貫通しない威力に京介の直感が結論を出した。

 

事実、鳩尾打ちを単体で狙うなど愚の骨頂。それはフェイントであり、距離を詰め寄るための投げ銭にすぎない。本命は近距離に持ち込み、最強の一撃を叩き込むことにある。

己の限界ギリギリまで身体から体力を引き絞り、最後の一撃を止めたと確信するまで魂の掘削は終わらない。

 

交わす視線、意味することは単純。

ナオの次弾からボディ打ちが排除されたこと。

京介は勢いに圧され、相打ちも望めないこと。

 

「狙いはフック…!フィニッシュブローのつもりか!?」

「お前ならいける、叩き込めナオ!!!」

 

ナオは腹の底から二酸化炭素を吐き出し、鋭く左拳で一文字を描いた。

 

「──────ッ!」

 

視界が白く霞んだのはどちらか。

 

「ミス、ブロー……!?」

 

流れゆく身体を追いながら、八戸が絶望の吐息を漏らす。

 

『王者のダッキングが僅差で先を行く!』

 

先に間に合ったのは、王者の判断力。

フックを避ける基本、そして反撃の糸口であるダッキングがガラ空きのボディを眼前に捉えた。

 

(打てえええええええええええええ!!!!!)

 

両足で力を捻り出し、右拳が威力を増す。

腰で加速させ、貫通力に磨きがかかる。

練習の積み重ねが咄嗟の反撃にも適応し、考えうる最大威力を振り絞り、勝利の一撃は叩き込まれる。

 

「ぐ、オ………アァ!」

 

京介の右拳は、ナオの左腕に減り込み、腰ごと廻る左腕によって後方に流された。

 

(な、ぜ……………?)

 

あるはずのないガードに気を捉われた。

 

(違う、それもフェイン───)

 

直後。

項垂れてしまう己を引き裂くように、ナオの右拳が真横に斬り返された。

受ける体勢など準備していない。

右拳は顔面を穿ち、京介の身体が後方に吹き飛ぶ。

 

「京介ッ!!!!」

 

板垣の悲鳴が歓声に混ざる。

 

「打ったと思わせるほどの勢いだったんだ…!

ハンマーナオのフェイントが見抜かせなかった」

 

幕之内はリング上の事態をいち早く察した。

 

フックの専門家をも欺く、鮮やかに完成された動作。

ハンマーナオの努力が抉じ開けた突破口。

 

(あとは、倒れるまで…打つだけだ!)

 

勝利へ駆ける。

たたらを踏んだ京介がガードを構えるよりも早く、ナオのジャブが中心を押し通る。だが京介は耐え、それどころか前傾姿勢に移り腰を入れた。

 

(俺も……お、れも、全……力、で……)

 

互いが最後の一撃として選んだ拳は右。

その瞬間、互いが目を見開き、視線を交わす。

勝利を掴むため、筋肉の疲労、疲労による昏倒を退けて右拳を振り抜いた。

 

「打ち…………………………かえ──────」

 

ハンマーナオの頬を掠め千切る右拳。

 

(あぁ、チキ、ショウ……その拳が……)

 

今井 京介の視線を落下させる右拳。

 

(幕之…内さんに、見えちまった)

 

会場に響き渡る、膝から崩れ落ちる音。

 

(あぁ、ぁ…勝ちたい…幕之内、一歩、に)

 

ボヤける視界、客席で立ち上がる男に手を伸ばしながら。

 

(おなじ、リング、に…………────)

 

今井 京介の意識は深い底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

動かなくなった王者を見届け、挑戦者は戦いの終わりとともに右拳を掲げた。

 

 

 

1ラウンド2分55秒、ハンマーナオ王座(タイトル)獲得‼︎

 

 

 

 

 












アンケート結果。
今井 京介 6票
ハンマーナオ 21票
引き分け 6票

ハンマーナオがぶっちぎりです。
私の執筆を見られているのかな?と思いながら決着書いてました笑
え、そんなに分かり易かった?さいですかぁ。
投票していただきありがとうございました!
『ネクチャン編』ではあと一度、勝敗予想を取ろうと思ってます。そのときもまたご参加ください!

第2試合発表は9.30(水)までに行います。
しばらくお待ちください。

今井 京介VSハンマーナオ、勝者は?

  • 今井 京介
  • ハンマーナオ
  • 引き分け
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