※原作とは大幅に違う設定が出てきます。
WBC ・WBAミドル級王座統一戦後のIFなので、どうかご了承ください。
鷹村 守がスーパーミドル級防衛戦を3度こなし、その全てを7R以内KO勝利で終えた頃。
鴨川ボクシングジムの2階、事務室のソファに鷹村 守は腰掛けていた。その横で、青木と木村は立ち、似合わずも背筋を伸ばしている。
会長の椅子に座る鴨川と、その横に立つ八木。彼らの真剣にして、疲労が抜けている様子に只事ではないことを察しているのだ。
「なぁ、次の試合が決まったんだろ。それも、とびっきりのがよ」
鴨川は、待たせたと言って、八木に視線で合図をする。
笑顔で答え、八木がここに集めたことの第一目的を明かす。
「鷹村くんのライトヘビー級タイトルマッチが決定した」
「おぉ!ついに来たか、2年近く待たせやがって」
「忘れてるんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ八木ちゃん」
「毎月僕に言ってくるくせに…」
後ろを向きながら呟く八木に対し、青木と木村はご満悦だ。
「んで、次はいつだ。4階級目のベルトが手に入る日は」
「相変わらずだね鷹村くんも。その調子なら、9月のタイトルマッチも安心して見られそうだ」
「まずは2ヶ月後の防衛戦、そこから4ヶ月後にライトヘビー級じゃ。油断はするなよ」
5月の防衛戦に向けて調整中の鷹村。
そこから一年半ぶりのタイトルマッチだ。高揚はすれど、油断はしないのは誰もが知っている。
「団体はWBC、チャンピオンの名前はティム・フェザント。長期戦を得意とするカウンタータイプじゃ」
「フン、宮田の上位互換程度か。軽くコテンパンにして焼き鳥にして食ってやる」
「いよっ大将!」
「あんたが一番!」
鷹村の悪ノリに青木村がはやし立てる。
そんな二人に八木は言葉をさす。
「君たちも浮かれてはいられない。前座として、青木くんと木村くんの試合も決まったんだよ」
「鷹村さんの前座だな!任せてくださいよ!」
「…なんか嫌な気がするのは気のせいか?まさか、やつらじゃねえだろうな八木ちゃん」
興奮する青木、なにかを察する木村。
「そう、そのまさか。青木くんはパパイヤ、木村くんはエレキだ」
「ギャーハハハハ!お前ら変なやつに好かれてやんの!」
「うっせぇ!こっちも好きでやってんじゃないんだよ!」
青木はパパイヤ・ダウチ、木村はエレキ・バッテリーと過去2回の試合を行い、両者2回とも引き分けている。
相手は両者とも国内王者。着々と防衛戦を重ね、未だに陥落していないのだから驚きだ。
「三度目の正直、向こうもチャンピオンだ。意地でも勝ちにくる。二人とも、チャンピオンになりたいのなら絶対に落としちゃいけない」
そんな相手を選んだことの意図を、二人は薄々感づいている。
国内王者になるための通過点、そうトレーナーは言っている。王者になるために、王者を乗り越える。シンプルに分かりやすい壁だ。
「ついこの前、篠田くんがパパイヤとエレキのビデオを入手した」
「まじかよ、最近見ないと思ったら俺たちのために…すごいな!」
「そこまでしてくれてたのか。というか、よく手に入れましたね。見当たりませんけど、いま篠田さんは何処にいるんですか?」
「人の心配より己の勝利を見据えておれ。お主らのポテンシャルは過去最高と言っていい。次は、そのポテンシャルを対戦相手に活かせるよう、イメージトレーニングじゃ」
鴨川 源二、篠田に対してこのような態度ではあるが最大の感謝をしている。いま、フィリピンでエレキの情報を掻き集めている篠田に、このことは黙っておくように言われているのだ。
来週帰ってきた篠田は、トレーナーとして幾分も成長している。青木と木村を勝たせるために、一つの答えを見つけてくるだろう。
「青木、木村ッ!」
鴨川が話を終えようとしたとき、鷹村が立ち上がる。
「どうせこのままやっても、引き分けが関の山だ。てめぇらには迫力が足りん」
鴨川と篠田の考えに早速邪魔を入れる鷹村。鴨川が杖をぶん投げようとしたところで、言葉の続きに耳を傾けたことで手が止まる。
「俺様はなんでもできる。そのせいで相手から技を
「む……」
鷹村がまともそうなことを言っている。
鴨川は悩んだ。いまのうちに止めるべきか、助言ならば言わせても良いのか。
「なんだよそれ。エレキ相手じゃ特質したもんは余計な手荷物になるだけだぜ」
「バイソン戦のせいで余計なことに気づいたからな…」
そんなもの選択するだけ時間の無駄だ。
しかし、ここ最近の鷹村の勤勉さを考えるに、篠田の苦労を軽くできるかもしれない。
「イメージトレーニングだ」
「それはいま会長から聞いた」
「俺らの試合に興味持ってくださいよ」
「そうじゃねぇよ!そっちこそ話は最後まで聞きやがれ!」
「ぎゃっ!」
青木が理不尽に蹴られて、そのことで鴨川が叱責する。
「まぁ、言いたいことは分かる。というか、言っても分からんから先にそう言っておく。今から俺様が言うことは、聞くよりも実際にやってみた方が早いからな。というわけで行くぞ!」
ブツブツと言いながら事務所を出ていく青木と木村。
鷹村があとを追うように立ち上がったところで、鴨川は真意を聞いた。
「鷹村、貴様も調整中の身じゃ。そう余裕があるわけでもあるまい。本当に大丈夫なのか?」
「いまだから見倣えるもんがある。こいつらの事は心配すんな。男子三日会わざれば刮目して見よ。小者の頂点なんざ、いい加減とれってんだ」
ふん、と鼻を鳴らし事務所を出ていく鷹村。
「鷹村くんなりの考えがあるんですよ、きっと。絶好調のエースを信じましょう」
「篠田くんの努力を知っとる間柄じゃ。ワシもそう思いたい」
鷹村の背中を見送ってから数分後。
『こいつ減量中のくせ、顔を見ないと思ったらそんなことしてやがつたのか!』
『そんなこととはなんだ!練習の合間を縫って床屋に頼み込んだんだぞ!!俺様の好意を無駄にすんじゃねぇ!!!』
『んなもん好意と言えるかぁ!』
開けた窓から騒がしい声が響いてくる。
「会長、なぜか1階からバリカンの音が聞こえますよ…」
「う、うむ…」
鴨川は机に両肘を立てながらうなる。
これもまた聞き慣れた風物詩となっている。バカをやっている門下生をよそに、鴨川はすでに別の人物のことを考えていた。
「奴らにとっては日常の一つ。鷹村が少しでも善意でやるとなれば、また違う未来が訪れるやもしれん。
それよりも、ワシが一番心配しとるのは″小僧″じゃよ」
「……」
「もう2年は経とうとしておる。ゴンザレスに負けてから、WBCに勧告を受けるまで一切の試合をしてこんかった。これでも相当見逃されてきた方じゃわい。
その理由を作ってくれた千堂には感謝せねばな」
世界の人間全てに平等に刻まれる時間。
それは負傷し、目に見えない枷に囚われている選手も例外ではない。
鴨川が心配の声を向ける人物はロードワーク中。
己が納得できるまでリングに立つな。そう告げてからリングに戻ってくるまで長く、忙しなく、絶えず苦悶と闘ってきた。
「千堂くんが注目を集め続けてくれました。だからこれまで準備期間を設けることができました」
″幕之内 一歩の再起戦″は半年後、鷹村の前座の一つとしてエントリーされる。
「しかし、だ。たとえ1Rだろうと、10秒だろうと、次に危険と判断したそのとき、せめて止めるのはワシのタオルで…。選手として終わる前に、ワシの手で止める」
咳を数度繰り返す鴨川は、事務所の外を見ながら呟いた。
▼
鴨川ボクシングジム1階、シャワールームにて。
「貴様らも日本ランカーの端くれ、それもベテランときた。イメージトレーニングの10や20はやってきたことだろう」
シャワールームの最奥で仁王立ちの鷹村。その前には椅子が一つあり、背中しか見えないことから気味の悪さは最高であった。
「だがな、それじゃ足りん。試合見てりゃ分かる。突拍子のない動きならともかく、ただのコンビネーションでやられてたんだ。
俺様から言わせりゃ、勝つ気あんのかって話よ」
青木、木村はシャワールームの入口で立ちながらも、奥まで進む勇気を踏み出せずにいた。鷹村の言葉に思うところがありながらも、鷹村が放つ言葉ゆえに頷いていいものではないからだ。
「鷹村さんのミドル級王座統一からは俺ら負け無しですよ。もうすぐ日本ランキングも1位ですし、それだけ力を入れている」
「…それでも不安が拭いきれないのは確かですけど。まだ上にいける手段があるんなら、迷わずもらいますよ」
青木がそう言うや、鷹村は振り向いて満足そうに頷き。
「青木、木村。お前らは今から対戦相手になれ」
「「…はい?」
ニンマリと笑い、二枚の写真を取り出した。
青木にはパパイヤ・ダウチ、木村にはエレキ・バッテリー。
パパイヤはブロッコリーのような髪型、エレキはてっぺんにイナズママークの肌が見えている。なにを思ってこの髪型に行き着くのかは、未だに謎である。
「随分と前に負けたら髪型合わせるっつー話しただろ。今回は負けないために髪型をコレにしろ!」
「なんでそうなる!それが嫌だから勝つために練習するんだろうが!そんな髪型にされて練習なんざできるか!」
「くそっ!やっぱりロクなことじゃ…」
逃げるために背中を見せる二人に、鷹村はボソりと呟く。
「勝ちたく、ないのか」
それは卑怯にも、的確に二人の心を掴む言葉。
どれだけくだらない作戦でも、誇りある限り食らいつく精神でボクサーをしているのだ。ほんの少しだけ、と話を聞く姿勢に二人は入った。入ってしまった。
「もう残された猶予はねぇんだろ。ならこれまで以上に練習時間を積まなきゃならん」
「ぐっ…」
「だが、身体が弱すぎる貴様らにとっては、シャドーを追う時間すら貪り尽くさなきゃならんはずだ」
「そ、それは必要なことですが…そこまでする必要は…」
「俺様はイメージトレーニングを毎日やっている。それも実践に近いやつだ。事実、最近は順調だ。貴様らも見てきただろう」
「確かに…鷹村さんほどじゃなくても、俺たちもそれに寄せるためにイメージしやすい姿がいいのか?」
「そ、それでもあの髪型はねーだろ」
「決定!!!」
「ねぇ俺の話聞いて!?」
鷹村が両手を叩くや、シャワールームのドアが勢いよく開け放たれた。そこには10人を超える男性、それも。
「げぇ、門下生ども!」
「青木組まで!?」
鴨川ボクシングジムの門下生は、あからさまに鷹村に命令された様子。意外なのは、青木を持ち上げるヒョロヒョロした背格好の赤松、
でっぷりとした体格の黄桜の二人〜通称:青木組〜がいることだ。
彼らは青木に憧れて鴨川ボクシングジムにやってきた。ゆえに、鷹村の命令でも動かない不屈の精神を持っている。はずなのだが…。
「バカな!なぜお前らが鷹村さんの方にいる!」
「お前の人望もこういうもんってことだろ!」
否。
「青木先生、これは全て勝つためです」
「先生なら、必ず乗り越えられます!ですから、耐えてください」
たまたま、鷹村と同じことを考えていたにすぎない二人。青木に勝ってほしいため、方向性が一致した鷹村と横並びに突撃しているに過ぎない。
「さぁ、俺様が床屋で培った散髪力をここで解き放ってやる!大人しくしろ!」
「こいつ減量中のくせ、顔を見ないと思ったらそんなことしてやがつたのか!」
「そんなこととはなんだ!練習の合間を縫って床屋に頼み込んだんだぞ!!俺様の好意を無駄にすんじゃねぇ!!!」
「んなもん好意と言えるかぁ!」
日本ランカー二人、されど相手はボクシングの門下生10人以上。背後には3階級制覇の鷹村 守。
結果は言わずとも。
───
──
─
「木村ぁ!」
「青木ぃ!」
無惨。
両者の髪型は、対戦相手と瓜二つ。それも、絶望的に似合っていない。形容などない。
しかし、悲しくも鷹村と青木組が導き出した答えである。
「絶対、絶対に負けねぇからな!」
「ったりめぇだ、絶対に倒してチャンピオンになるんだ」
両者、大粒の涙を流しながら右手と右手をガッチリと握りしめる。握手を越えた漢同士の誓いを声にする。
「「あのブロッコリー/イナズマに誓うぜ」」
「ギャーッハハハハハハハ!!!!!!!」
笑い転げる鷹村をいつか見返してやる、そう深く誓う。
2ヶ月後、鷹村はスーパーミドル級防衛戦を4R15秒でKO勝利した。
鷹村のセリフについて補足。
・「床屋に頼み込んだ」:床屋に来た客をエレキorパパイヤヘアーにした。
床屋に来た客はたまたま鷹村を追いかけてた記者だったので、後日ボロクソな記事を書かれた。
青木、木村のヘアチェンジ後の私生活について。
青木の場合
・トミ子には苦い返答を受けながらも理解を得る。
・髪型が戻るまでブロッコリー料理は出てこなくなった。
・アッチについては回数が激減した。トミ子が乗り気じゃない理由は、大事な試合が控えているから。生意気である。
・ラーメン屋のバイトでは青木組にブロッコリーラーメンを教えた。再びブロッコリーラーメンが話題に。
木村の場合
・町内を歩いただけで通報。
・ついにおかしくなったと両親に泣かれる。
・両親に救急車を呼ばれた。理由はパンチドランカー。
・偏屈な修行僧がいると噂が広がり、見物人が増えてついでに花屋の売り上げ右肩上がり。
二人に共通すること。
・翌日ジムに行くと、後ろ姿を見た鴨川にパパイヤ、エレキ本人が来たと勘違いされジムを追い出される。
・数日後、偵察から帰ってきた篠田にパパイヤ、エレキ本人が偵察返しに来たと勘違いされジムを追い出される。
・気が散ると鷹村の手でジムを追い出される。
・練習時間が増えた。
タイトルマッチの前座は完成次第1話ずつ投稿します。
タイトルマッチについては、複数話にまたがるときはどうしようか悩んでます。全部完成してから投稿か、1話完成したら投稿か。
私としては書き上げてから、数時間おきに投稿が皆さんに丁度いいかなと思ってます。時間はあるので、熟考します。
Twitter始めました。質問箱設置したので、よければ質問などください!
「@rikuHameln」
【今後の予定】
7月:前座①「木村 タツヤ」
8月:前座②「青木 勝」
910月:前座③「幕之内 一歩」
1011月:ライトヘビー級タイトルマッチ「鷹村 守」
※仕事の都合により延期する可能性あり。
【次回予告】
ライトヘビー級タイトルマッチ開催!
まずは、前座の一つ。
木村 タツヤVSエレキ・バッテリー
鷹村 守の前座として、木村が胸に秘める誓いとは…?