WBCフェザー級タイトルマッチが行われた数日後。
浪速拳闘会、事務所に入った千堂 武士。
ジムに来ても練習ばかりで、事務所には呼んでも中々来ないというのに、あまりにも珍しい訪問。ただごとではないと、柳岡は千堂の真っ直ぐな瞳を見て立ち上がる。
それを確認して、千堂は柳岡へと宣言した。
「柳岡はん、あえて断言するで。
いまのワイじゃゴンに勝てへんわ」
「千堂、お前……」
開き直りも、甘さもない。
事実を目の当たりにした男の瞳に、柳岡は苦し紛れの慰めすら見当たらない。
千堂の好敵手、幕之内 一歩を倒した男。
アルフレド・ゴンザレスに挑戦状を叩きつけたのは昨日。
ゴンザレスの試合があることも、王者に就くことも想像に容易かった。
翌日、昼のタイミングで話を持ちかけ、難航すると予想していたマッチングはすんなりと受理されたのだ。
そして今日、淡々と千堂は柳岡に告げた。
負けが見えている、と。
「幕之内とゴンの試合、あれからずっと観てんねん。観て、どうするかはなんとなく分かる。けどな、対峙すればアッチはそれを上回るっちゅーことも想像つく」
ゴンザレスに幕之内が敗れる瞬間を肉眼で見た。
そして、次に倒すと決めたときから幕之内戦のビデオを取り寄せてもらい、ゴンザレスのことを観察してきた。
そうすれば、いつものように自信がつき、突破口は自ずと見えてくる。そう考えて時間は経ち、ついに試合も決まったがまだ雲を掴むように倒し方は定かではない。
「ミキストリ引っ張り出すまでが分からへん。どないすれば、幕之内を打ちのめした男に手が届く……?
そこだけ、ワイに経験が足りん。まだ負けてもないのに、やる前からこんなん言いたくないねんけど、認めな進められへん」
視線を落とし、握りしめる右拳。
自慢の拳も届かなければ意味はなく。
進むための活路を探し、事務所に訪れた。
柳岡もまた、千堂の様子に気付いていた。
恐らくはゴンザレスについてだろう、と。
だが、千堂は黙々と練習をこなし、練習量を増やして基礎練に打ち込むばかり。自信があるのか、つけるためかも分からない。
たちが悪いのが、千堂自身がなかなか彷徨っていることを認めたがらないのだ。ボクシングを好きだからこその負けん気。長い付き合いから、千堂の行動は凡そ想定しているものでもあった。
「もっとゴンの資料が欲しい。ビデオ、他にないか?」
「……ちょっと待っとれ。各方面に当たってビデオ取り寄せてもらうさかい。数本だけやが、K.O、判定それぞれ2本は意地でも手にしたる!」
「ほんま恩にきるで。試合で返させてもらうわ」
すでに知り合いのツテに頼み込み、ゴンザレスの資料を掻き集め始めていた。
不必要ならそれも良し。必要なら尚のこと良し。
千堂とゴンザレス。
戦績に接点のある2人を知るからこそ、柳岡はより一層、千堂に勝利をもたらす想いを強く抱いていた。
後日、有志たちにより手にした数本のビデオを大はしゃぎで観る千堂。
同じく、暇な時間を全てゴンザレスの研究に注ぎ込む柳岡の姿があった。
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試合当日。
メインイベンター控え室にて。
セミファイナル第1ラウンド、残り1分を切ったとき。
ピクリと目蓋が動き、千堂が立ち上がる。
「もう終わる。そろそろ準備や、柳岡はん」
「今日はまた、えらい気が早いやないか。
今井の相手、ハンマーナオのことは知っとるやろ。そう簡単に終わるとは思えへんのやが」
1ラウンドK.Oを連発する王者。
柳岡は、少なくとも2ラウンド決着を見積もっていた。
ボクシングの試合がいつ終わるかなど、大抵の人物には予想をつけることしかできない。あーだこーだと、過去の実績から予想をしようとも、そもそも勝敗自体がひっくり返ることも起こる世界だ。
「………どっちが勝つかは分からん。けどな、こっちが出遅れたらどっちもメインに来そうなくらい昂っとる。
ゴンザレスを打ちのめす勢いやで」
千堂の杞憂はただ1点。
自身の獲物を横取りする勢いの後続に、振りかぶる拳の宛てを横取りされたくないということ。
ゴンザレスとの試合まで、死ぬほどビデオを観察して、飽きるほど飽きのないシャドウ、練習をしてきた。いまなら幕之内よりもゴンザレスのことを知っている自負を持ち、コンディションは最高のものとなった。
だからこそ、セミファイナルに。
幕之内に向けた熱い拳に負ける訳にはいかないのだ。
「こっちが冷めて出ていったら熱奪われてまうわ。
漢気、しっかり引き継いでやらんとな!」
千堂 武士は控え室で身体を温め、静かに刻を待ち続けた。
ライトヘビー級編、ベストバウトはどれ?
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木村 達也VSエレキ・バッテリー
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青木 勝VSパパイヤ・ダウチ
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幕之内 一歩VSアントニオ・ゲバラ
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鷹村 守VSティム・フェザント