鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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星を追う残骸

 

 

日本フェザー級タイトルマッチが行われる当日。

幕之内 一歩は後輩同士のマッチングに複雑な心境を抱えたまま、イベント開始から後楽園ホールを訪れていた。少しでも心を落ち着けようと、座席に腰を下ろして新人たちの試合を観戦していたとき。

 

「……え、なんで」

 

幕之内の声音は驚愕を漏らし、思わず立ち上がっていた。

 

『さぁ、7連敗をここで食い止めることが出来るか!?

対戦相手はデビューから9戦9勝の勢いあるホープだ!』

 

現れたのはかつて幕之内が新人王で対戦したボクサー。

アマチュア時代無敗のインファイター殺し。

ショットガンという無数の連打を得意とするボクサー。

 

「速水さん……」

 

ポツリと溢した苗字。

速水 龍一。

 

東日本新人王決定戦準決勝で対戦し、幕之内を相手にインファイトで応じてみせた。自己主張の強さ、負けん気は並大抵のボクサーが越えられる壁ではない。

 

幕之内との試合後、ジュニア・フェザー級に転向していた。そこでタイトルマッチにも挑んだことがある。決して倒すことは容易ではないはずなのに、7連敗という衝撃の戦績に理解が追いつかない。

事実、第1ラウンドは対戦相手から1発も貰うことなく、一方的にパンチを打ち込んでいる。幕之内は、なぜ速水が散々な結果を出しているのかより困惑するばかりだ。

 

それも、連敗の理由は間もなく知ることになる。

 

第2ラウンド、たった1発の軽いジャブを顔面に受け、リングに転がる姿を目撃してしまったからだ。

 

「ば、ばかな……!あんなパンチで倒れる人じゃない!」

 

簡単すぎる。

脆すぎるにも限度を越している。

 

呆気ないダウンに様々な否定を浮かべる。少なくとも、幕之内が知る速水 龍一とは別人の如く崩れていく。倒れるたびに現実を受け入れざるを得ず、そして試合終了の合図がレフェリーから言い渡されたとき。

 

「終わった……あの速水さんが……」

 

8連敗目を背負いリングを去る男を、幕之内はなんと声を掛けるべきか思いつかないまま試合はセミファイナルまで進んでいった。

 

 

 

 

 

 

控え室、男は藍色のセミロングをグローブで掻いて立ち上がる。視線の先に映し出されるモニターには、速水が敗北した姿が刻まれていた。

 

「…ダメでしたか、速水さん」

 

俯く視線には、本心で速水の敗北を悔しがることが知れる。吐息のように漏れる言葉から、今は見る影のない栄光を懐かしむ。

169cmとやや小柄ながら、人懐っこい顔立ちが陰るさまは余程、速水のことを気に入っていた節が伺える。

 

「いつか、貴方と戦えると思っていた。

……けど、壊れてしまうくらいなら、芸能界に身を移してほしい。時折、そういう話が舞い込んでいるはずなのに……。そんな願いは俺の勝手だろうか」

 

一緒に仕事がしたい、そう零して灰色の瞳を閉じる。

そして、直ぐに心のなかの思考を振り払う。

男にとって、今日の試合はベルトを賭けたもの。

憧れる男の敗北を引き摺るわけにもいかなかった。

 

セミファイナル、ジュニア・フェザー級タイトルマッチ。

挑戦者、(みずち) 剣哉(けんや)は刻限まで一切の雑踏を脳から除外する。見据える先に一点の曇りがないと確信したとき、王座への路は開かれた。

 

そして第2ラウンド、黄色い歓声が会場を乱舞する。

彼の身体に痣は1つとしてない。対してダウンし、ぴくりとも動かない王者の身体には無数の打撃痕。

息ひとつ乱れない挑戦者は、コーナーで静かに天井を仰ぐ。

 

俳優兼ボクサー、(みずち) 剣哉(けんや)

王者をK.Oし、ジュニア・フェザー級王者となった。







【お詫び】
速水 龍一の対戦相手の戦績を『3戦3勝』と記載していましたが、正しくは『9戦9勝』です。
勝手に4回戦に降格させていました。読者さまを混乱させてしまい申し訳ございません。

訂正 2022.8.22

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  • ハンマーナオ
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