鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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WBC・WBAフェザー級王座統一戦

世界に満ちる光が消えていく。天体観測をするように人々は天上を見上げて、人では届かなくなった舞台に思いを馳せる。

ただ1人を待ちわびるように。そして、1人の生贄を祭壇に奉るために。

 

『神への挑戦。

半年に1度の祭り、タイトルマッチへと辿り着いた漢に許される神話崩落の権利。これはただの奉りじゃない。

無敗神話史上初の大作、王座統一戦である』

 

火が道標となり、祭壇へ続く星空を照らす。

扉の向こうから現れた1人の絶滅危惧種。纏う外套は煌めき、異国の地を狩場に定めて牙を研ぐ。

 

『実現に漕ぎ着けたボクサーは、死神ゴンザレスをも下した日本最強のメキシカンキラー。類稀なる本能を武器に、最凶の牙を以って名を挙げた!』

 

メキシコの住民にとって、新しいスターとなったボクサーを打ち破った仇敵である。栄光を手にして、成長を遂げた男が3度目の夢に挑むことを阻んだ。ゆえに会場に訪れた住民たちは僅かな可能性を見る。

無敗神話に傷が付く、あり得ざる幻想を。

 

『成績名実とも最高に仕上げ、いま日の本の(ティグレ)がリングに放たれる!』

 

最凶の世界を噛み千切った。

格別の挑戦権を手に、伝説の幕を潜った。

 

 

WBCフェザー級チャンピオン

千堂 武士

 

 

(しけとる、異常な場所や。

……これが最強の王者を待つ雰囲気とでも言うんかいな)

 

吸い込んだ空気を味わい、時差では片付かない雰囲気を知る。世界の1番上だというのに、風通し抜群の場所は外界よりも不味い。

入れ替わらないことを受け入れきった住民。絶対に揺るがない王者が棲む国。

 

(こんな湿気ったところでやって楽しいんか、リカルド)

 

そこに、新しい芽が落ちてきた。

 

「千堂ー!リカルドなんかギタギタにしたれ!」

「お前ならやれるって信じとるでー!!」

「お前が世界一や!!」

 

メキシコにまで追ってきてくれた千堂の応援団。

あそこの集団は100人にも成らないが、会場のどこよりも騒がしく、そして暖かい場所だ。

場違いにも思える声援に思わず笑いながら。

 

(ワイは嫌や、だから勝手に塗り替えさせてもらうで)

 

1人、心の中で牙を剥き出した。

もう表情に武器を見せることはしない。本気で神話を堕とすために、感情すら表に出すことが命取りになる。会場の雰囲気が教えてくれた情報に感謝しながら、その時まで静かに待った。

 

『伝説が歴史を刻むため、アレナ・メヒコに降臨する』

 

神話の表紙が現れる。

鉄筋のように無機質で、太陽の如く眩しい存在。

 

『過去10年間、PFP1位を奪い合う無敗神話。歴戦の猛者、その半数以上が左腕(ジャブ)のみに敗走。世界中のボクサーに敗北を刻む、そんな男がここにいる!』

 

地元の住民にとっては見慣れた光景。

だが、応援団には凄まじい威圧感が伝わっていた。生きる伝説、誰も手の届かない存在に思わず生唾を呑む。

 

『79戦79勝75K.O。

凶悪な戦績を積み上げるメキシコ史上最強の男』

 

階段を登り、ロープを潜る。その所作に誰もが見惚れていた。当日のボクサーの強さを測るとすれば、この2つに集約されている。何気ない動作で観客を惹き寄せ、心を奪い去っていく。

だからこそ、彼に不調はあり得ないと知る。

 

 

WBAフェザー級チャンピオン

リカルド・マルチネス

 

 

「今日はいつも以上に賑やかだな。アウェイかと思ったよ」

 

セコンド、ビルが会場を見渡しながら呟く。驚きはない、アウェイではこれ以上の歓声と罵声が飛び交っている。しかし、ホームではあまり見なくなったせいだろう、思ったことをそのまま口にしていた。

 

「懐かしい雰囲気だ。この勢い、よほど慕われている王者なんだろう」

 

リカルドは淡々と言う。試合直前、いつもと違うホームでも自身の心は一切揺るがない。

 

「センドー、この火を絶やさなければ君の勝利だよ」

 

こうなることは予想できた。

期待通りと言ってもいい。

ゆえに、千堂に勝機がある。ここで少しでも会場の波に乗ってしまえば、もしもが発生する。無敗神話を成す者として、失礼な試合は決して許されない。

 

神と獣。

世界初の邂逅、ここに。

 

『掻っ捌くか、それとも飢え死にか!?

生きる伝説と、()ける絶滅危惧種を繋ぐ枷がいま消滅!』

 

フェザー級頂上決戦、開始!!

 

 

 

 

 

 

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