「よォ一歩、こんな時間にどうした」
月が地上に現れて一刻。
鷹村の家のインターホンを鳴らし、俯いた顔を上げきれずに幕之内がメキシコ土産を手渡した。返事はせずとも土産を渡すところを見て、大体のことを察すると鷹村は気楽に家に招いた。
「飯は食べたか?」
「はい。ここに来る前、青木さんのところで」
「そうか。外国から帰って食うラーメンはどうだった?」
「…………美味しい、はずでした」
鷹村の部屋に上がりながら久しぶりの雑談を交わす。
覇気のない一歩を見て、こりゃ重症だな、と内心で呟く。
幕之内の好敵手、千堂がリカルドに負けた。
接戦ならまだ気分が違っただろう。だが、敵地で目撃した散りざまは無惨なものと言わざるをえない。
鷹村の目から見ても、勝機は1、2割だった。ただ勝機はあり、リカルドが勝機を徹底的に潰してきた。
「千堂の試合、観たぜ。
千堂のやつ、かなり良いところまで…」
「僕、少しだけ失礼なことを考えていたんです」
それを指摘するのは後回し。
今夜だけは慰めてやろうと気を回した直後、幕之内は要らないとばかりに言葉を割り込ませる。
「リカルド選手はボクサーとしては最古参。年齢は30代半ばです。肉体的にも全盛期は越えていてもおかしくはありません」
「外人は日本人より肉体のピークは遅いが限度もある。リカルドの全盛期は過ぎてるのが普通だ」
レフェリーストップも少なく、選手生命は10年程度もあれば長いほうだ。それをリカルドは15年を過ぎようとしている。
一重に、現役でダウン経験無し、被弾率ワースト2位という数字が選手生命を伸ばしていると言えた。
「減量の管理も完璧だからこそ、現役をあそこまでやれるんだろうよ」
「伊達さんとの試合と変わっていない…いや、強くなっていた。あの人は自分の限界を上げ続けているうよに見えたんです」
自分の目で見てきた幕之内の身体は震えていた。両拳は握りしめて、正座する膝の上でいっそう力を強めている。
「一歩、リカルドを倒す道筋は見えるか?」
それを見た鷹村は問いかける。
「お前が引退してもうすぐ2年だ。千堂がリカルドを倒すとも考えたが…。まだ間に合うかもしれねえな」
「…まだ、届くでしょうか」
「リカルドは負ければ強制引退の歳になる。いまんとこ、フェザー級でヤツと張り合えるのは1人くらいだ。本人が引退しない保証もねえ。
一回限りの宝箱、最初に開けるのは誰だろうな?」
幕之内の震える両拳を見ながら、鷹村は笑ってみせた。
俯く顔は気落ちしているからではない。
「やることが多くてワクワクすんだろ」
「────はい」
伊達 英二との約束。
千堂 武士の敗北。
板挟みの現実に苦悩していた顔は、鷹村の言葉を聞いて晴れていた。
活気が戻ったところで、鷹村はゴロンと寝そべる。
もう気を遣わなくていいと判断したからだ。
「あーあ、せっかくオレ様の3階級制覇が決まったのによぉ。驚かせようと思ったけどそういう雰囲気じゃないな〜」
「えっ!?」
わざとらしい抑揚で特大ニュースを言い放った。
「ついにですか!相手は誰ですか!?」
「本当ですか鷹村さん!?」
「相手は!?どこの団体すか!?」
すると、ガチャリと家のドアが開いて青木、木村が飛び込んできた。
「テメーら外で聞いてやがったな!!
いつだ、いつから居やがったァ!?」
「ぎゃー!」
2人を蹴り飛ばす鷹村。
幕之内が宥めて数分、落ち着いたところで対戦相手を告げる。
「ストリクス・ワール。WBCの王者だ」
「あっちで人気の王者じゃないですか!」
「イーグルといい、良く日本に呼べましたね」
「どのくらい強いんですか!?」
「オレ様より弱いに決まってんだろ!」
賑やかな夜はこうして終わりに向かっていく。
過ぎた試合、新しい未来を聞いて、3人は帰宅した。
───
──
─
「気晴らしに丁度良かったぜ」
3人が帰ったあと、鷹村はビデオを手にした。
「ワールも強い。だが…こいつに勝ったヤツが上にいる」
”ティム・フェザントvsストリクス・ワール”
それはワールがライトヘビー級にいた最後の試合。
ワールが手も足も出せないまま敗北したビデオを再生する。
「もう、ダメージ抱えてる余裕はねえんだ。
次のベルトは無傷でふんだくるのは最低条件」
鷹村はワールとの試合の勝利を確信していた。
油断も驕りもない。イメージトレーニングで結果は出せている。ただ、そこには完璧だけが描けずにいた。
「手始めはミスマッチレベルに仕上げる」
鷹村の夜はいまから始まる。
肉体の疲弊が来るまで、最強を突き詰めるために。
ゆっくりと目を閉じて、目蓋の裏に現れる最強の男と対峙を開始した。
▼
時は流れ、WBCスーパー・ミドル級タイトルマッチ記者会見後。
鷹村たちは帰路に着いていた。
「ふあ〜」
「随分とリラックスしておったな。これまでの記者会見とは正反対で逆に心配じゃよ」
気が抜けたように欠伸をする鷹村に鴨川はため息を吐く。
「本当に大人しかったですね。
受け答えも紳士みたいでした」
「お相手さんも挑発するような人じゃないからな。記者たちの鷹村さんを見る目、キミ悪がってたぜ」
「鷹村さん、本当にどうしたんすか?体調が悪いってわけでもないでしょう」
気にかける言葉を軽く流すと。
「答えは明日出る。
会場に来るもの全員が愕然とする試合を見せてやろう」
そう静かに答えた。
研がれた集中力に全員が生唾を飲んだ。
3階級制覇の夜はすぐそこに迫る。
interlude-鷹の翼-にてアンケートを開催します。
題名は『読者が選んだボクサーの勝者予想!』
15名のボクサーから1人を選んでください。
投票数1位となったボクサーが登場する試合にて、一部を除いて全試合に勝者予想アンケートを開催させていただきます!!
0票を除いた同数の場合も同様とします。
期限は2022.9.30(金)です。
好きなボクサー、勝敗が読めないボクサー、理由はなんでも結構!
どしどし投票をお願いします!
勝者予想のアンケートが見たいボクサーは?
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幕之内 一歩
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鷹村 守
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青木 勝
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木村 タツヤ
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板垣 学
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宮田 一郎
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千堂 武士
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間柴 了
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今井 京介
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星 洋行
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伊賀 忍
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リカルド・マルチネス
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アルフレド・ゴンザレス
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ウォーリー
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ジェイソン・尾妻