鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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ストリクス・ワール

輝かしい成績を修めたオリンピアンボクサーがいた。

その時代、彼は2人の同期とともに金メダルを獲得し、当たり前のようにプロへと転向。各々がライトヘビー級の各団体へと進出後、瞬く間にK.Oの山を築き王者へと至った。同世代が1つの階級で火花を散らし、彼らの人気は加速するばかり。

3人のプロモーター同士が入念なスケジュール調整を行なっている間際、亀裂は走る。

 

『なんてハプニングだ!予想を覆すキリング発生!

ライトヘビー級、決戦前夜の王座陥落劇が起きた!』

 

三つ巴の輪を断つ者が現れた。試合間隔を開けないために、あからさまな格下…かつてオリンピックで圧勝したボクサーと組んだ。それが間違いだったのだ。

 

B級ボクサーの名はストリクス・ワール。

オリンピックで惨敗。銅すら手に出来なかったワールは、プロで12ラウンドを戦い3-0の判定勝ちでWBAのタイトルを奪取。

8勝4敗2K.O、華やかとは言えない戦績から大番狂わせ(リベンジ)を起こし、一躍注目の的に。

 

『ま、まさかだ!?WBC王者も撃沈!

ワールのパンチが無慈悲に全て当たったア!』

 

ワールは特段強い部分があるわけではない。

ただ、純然たる誇りを持っていた。

 

『この男やりやがった!ついに3団体のオリンピアンを撃破!レジェンド・エイジ全員を1人で壊滅させるビッグスターの誕生だ!!』

 

1試合ごとに着実に成長して勝利を掴む。

敗北から学んで強くなる。どん底に立つ恐怖に屈せず、注がれる光全てを飲み込んだ。

 

3団体統一時点で12勝4敗4K.O。

王者君臨以降、ワールの成長は止まるところを知らない。

 

やがて刻は経ち、群雄割拠のスーパー・ミドル級。

3団体中最強の男として君臨したとき、日本の鷹がついに現れた。

 

 

 

───

 

──

 

 

 

 

ジムの片隅、お気に入りの定位置で資料を片手にドリンクを飲むワール。毎朝、陽が昇る前から活動を開始する彼のルーティンの1つである。

朝6時には身体の調子が整い、朝食で野菜、穀物、そして肉類を戴く。普通の人間ならばワールの食卓を見て頬を引きつらせるだろう食事量。ワールは陽が暮れてから食事を取ると体調が悪化する、不思議な体質持ちだ。そのため、朝に夕飯、夜は軽食で済ませている。

 

「よぅ、ワール。今日は誰のデータを見てるんだ」

 

ワールの背後から声をかけてスポドリを差し出す男。

 

「おはよう、ザック。いま最もアメリカの興味を惹く男、タカムラの試合内容さ。このためにジャパンの知り合いに記事を送ってもらったよ」

「…へぇ。あの異常者が次の対戦相手か」

 

ザックと呼ばれた男は大きな欠伸を1つ放つ。

さした興味がなさそうにワールの傍らに置かれた資料を手に取った。

 

「30キロ近い減量たぁ、いま見ても呆れた男だ。どうやってホークを倒すか考えてた頃が懐かしいなぁ」

「彼はブライアンを倒し、あのイーグルさえ根負けした男。凶気の減量を繰り返す精神……こちらが王者だと忘れるほど緊張している」

「ははぁ、そんな相手の挑戦をよく受けたな。そろそろ消化期間が来たからか?」

「うん、勝算を見つけた。

彼に勝てばティムを倒せる。そう思えたんだ」

 

資料を置いたザック。

ワールが階級を落とした頃、鷹村の破天荒すぎる戴冠を見届けた。あの興奮の渦に飛び込むため、周到な準備を整えてきたワールが自信げに言うのだ。ザックの期待値が上がるのは仕方のないことだった。

 

「へぇ、あの化け物も射程に捉えたか。あいつに勝てりゃ近隣に敵無しになっちまうな」

「いいよね、そうなったら。けど、ザックには負けっぱなし。2人を倒したら、次は君なんだよ?」

「ん〜?ま、考えるのはまだ早え。

おめーさんはマモルに専念するこった。なにするにも時間が掛かるサガなんだ、早くしねぇと勝てなくなる。ほれ、急いだ急いだ」

 

背中を叩いて、ザックは寝ぼけた意識にゆっくりと闘志を流し込んでいく。

 

「世界中の頂点たちから生まれたアヒルの王様。

おめーさんなら日本最強のボクサーを倒せるよ」

「バカにされたのか、褒められたのか分からないんだけど?」

「コヨーテの言葉を鵜呑みにすんな」

 

鷹の翼を()いでみたい。

即ち後輩の負けを少しでも願ったことを詫びるように、体調万全のボクサーの練習相手に名乗り出ていった。

 

 

 

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