鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

68 / 127
始発の1つ前から、未来へのいっぽ

「ふんっ────」

「ぐッッ────」

 

休みなく、絶え間なく打ち続ける両者。

必殺技級の一手を躱し、守り、返す。

会場に響き渡る足音が絶えることはなく、1秒ごとに音の密度が上がっている。

この恐ろしさに気づけるのはほんの一握り。多くの観客は固唾を飲んで見守っている。

 

第2ラウンド終盤、両者被弾無し。

主導権はどちらにも渡らずにいた。

 

『あ、当たらない!なんという打撃戦、いや平行線!

この迷路の突破口を手にするため、どちらも中央から離れずに打ち続けています!』

 

「………鷹村さんが押してますね」

「あぁ。汗の量が違う」

「鷹村さん、涼しい顔でチャンプと戦ってるぜ」

 

幕之内たちの意見を実現していくが如く、徐々にリング中央の占有率を鷹村が上げていく。

 

「すげぇ…」

 

誰かが呟いた。

鷹村の技術戦とワールの対応力。針の穴を倒すカウンターを躱し、死角から放った一撃にカウンターを合わせる。

当たらないことをため息に変える暇がない。側で見ている鴨川ですら、リング上で交わされる技巧侵略に理解が追いついていないのだ。

 

『第2ラウンド終了のゴング!ここまで互角だと誰が思ったでしょうか。会場の緊張が歓声に変わるときを、次のラウンドに期待したいところです』

 

打数だけで言えば鷹村は2ラウンドまでのホーク戦を優に超えている。減量苦が減ったとはいえ、このペースを続ければ第5ラウンドで沈むだろう。

そこまで急く理由があるのか、鴨川が問わねばならないとリングに入ったとき。鷹村が肩をぐるりと回して。

 

「強ぇな」

 

ニッと笑っていた。

 

「………ったく。どこから余裕が出てくるんじゃ」

「いっつもだってーの」

 

そんな言葉を掛け合いながら、会場の雰囲気から浮いた1分間が始まっていた。

 

 

 

 

 

 

技術のみならば試合は平行線を辿る。

 

リズムを握られたら容易に引き戻せなくなる。

ゆえに第3ラウンド開幕、鷹村が選択したのは(かいな)によるゴリ押し。

左ジャブ、都度五連射。

 

1つ───ただのジャブだと受け止める。

 

2つ───左腕に走る亀裂を見て。

 

3つ───即座に右腕で払い退けたとき。

 

4つ───右腕が前進の妨げとなっていた。

 

「しまっ────」

 

ガードを打ち壊し、開いた中央に五連射目が空かさず捩じ込まれる。

 

『ついに届いたアっ!!待望のオープニングヒットは鷹村!第3ラウンド、ついに流れが挑戦者の手に渡る!』

 

この試合後、ワールはインタビューに対して試合の感想を問われたとき。

 

”高層ビル屋上から百メートル先の屋上へ、命綱無しの綱渡りをするような緊張感のあるファイト”

 

こう答えている。

 

これは、第3ラウンドまで均衡が崩れなかったからではない。

被弾など瑣末なものだ。この言葉の真意は別にある。

今から、鷹村の手によって引き起こされる、たった1つの挙動。

 

(なぁ、お前はなにを見た。どうやって倒そうとした)

 

流れを取り戻そうと左拳を握った瞬間、ワールの勢いは根本から押しとどめられていた。

死んだ左拳。空砲のような感触に戸惑うなか、左拳の不調の原因に気づく。鷹村の左手によって止められる左拳。そう、本当にワールが震撼した瞬間とは、鷹村のストッピングによるものだった。

 

この試合、両者は瞳に映る敵を”糧”として見ていた。

目的のみが一致している。

 

(……………成る程、ドラゴン(WBA)ではなく私に挑んだ理由が分かった。ティムと試合しているからだ)

 

それでも、ワールは気づけなかった。鷹村による、ティム・フェザントの絶技の真似事でペースを狂わされたことに。

 

(彼を模倣するなんて、出来るはずが無いだろう!)

 

死んだ左拳に肩から捻りを加える。

たった1ミリに満たない隙間から抽出する力を溜めて、都度二連射の絶技崩し。

 

(封じられた!?)

(っと、危ねえ。ビデオ観られて対策されたら元も子もねえんだ。()()だけ確認させてもらう)

 

再び、鷹村の(かいな)による力技でワールの技は不発に終わる。

 

(安心しろ。貴様が向き合ってきた時間諸共、オレ様の糧にしてやるぜ)

 

ここから、鷹村が雑なストッピングを織り交ぜてはワールから攻略の糸口を引き出す、再確認の時間が始まった。

 

既に感触が違っていると知りながら、嫌な予感がワールの視界を過ぎる。

何もかもが遅かったのではないか、と。

 

 

 

───

 

──

 

 

 

 

静かに加速する戦場。

引き留めようと動いた矢先から潰される。ただ1度の深呼吸を許さない、最凶最悪のプレッシャーが玉座を襲う。

 

(もう、届かないのか……!)

 

最強の魔王の行進曲。

あろうことか玉座が怯えている。

 

第4ラウンド、観客たちは蹂躙劇を目撃していた。

ワールの身体は既に死に体。反撃する気力、体力、そして手段は殆ど鷹村によって潰されている。

2ラウンドまでの大接戦が嘘のように、鷹村が王者を圧倒している。

 

(悪ィな、こればかしは年季が違う)

 

枷はある。減量苦で従来の実力は未だに出せていない。そのうえで、ワールのことをリング中央で一方的に打ち続けていた。

 

(チクショ……。全部、タカムラのシナリオか…)

 

終末が始まる。

王座を掴んで離さなかった翼が羽ばたき、獲物をリングの最奥へと吹き飛ばす。

 

(上手く打ち合って、私のペースに巻き込むはずだった。

同じ目的でも、ここまで差があるとはね…)

 

ジャブが重く身体にのし掛かる。

2ラウンドで慣れている目が憎らしい。あの猛攻は慣れさせるため。ワールの慣れの遅さを逆手に取った、開幕6分間の攻防からズラしているリズム。3ラウンド以降、鷹村の攻撃はより小さく、細かく分散してワールを襲った。

 

左右のコンビネーションが突き刺さる。

コーナーに背を預けたワールの腰が折れていく。それを勝利への執念で起こしたとき、鷹村が仕留めにかかった。

 

(まだ………来い、来い……)

 

ワールが最後に狙う場所。

バイソン戦で誰もが見た弱点、左のフルスウィング。

当たれば一発逆転の大穴は然し、積み重ねがあってこその賭け。ここまでワールが賭してきたものは全て闇の向こうへと消えた。

ならば、想定外の事態を想定内に収めるため、策をここで練り直せば済む話。

 

(ここッ────)

 

鷹村の右ストレートに合わせてスリップし、身体を入れ替える。肩でコーナーに押し込んで、ガード出来ない顔面に一撃を打ち込む。崖っぷちから山頂へ、起死回生の道は間も無く塞がれた。

 

(バックステップ、だと……!?)

(フェザントを倒す武器、確かに見させてもらった)

 

右ストレートをフェイントにして、鷹村はワールの最後の手段を炙り出したのだ。もう王者に打つ手は残されていない。

 

「感謝する、さらばだ」

 

ワールに出来ることは、負けを認めて次に走り出すことのみ。

 

冷徹に突き刺さる右ボディブローを受け止めながら、最強に成れない世界の高さを知るのだった。

 

 

 

 

鷹村 守

WBCスーパー・ミドル級タイトル獲得

 

 

 

 

こうして、この物語は冒頭へと辿り着いた。

 

鷹村 守はライトヘビー級へと駆け上がり、ティム・フェザントを打ち下す。

そのための前日譚はここで一先ず終了となる。

 

だが、クルーザーには至れない。

次に行くための物語がまだ残されているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









※原作の最近のこと語ったりするだけなので、作品を楽しみたい方は4.30(土)までお待ちください。今回、次回対戦発表はありません。
追記:69話を書き直しているため暫くお待ちください。

閲覧ありがとうございます、ひとりのリクです。

1話目の後書きで私は書きました。
原作で近々やるから二次創作のスーパーミドル級は要らん!と。(誇張)
本当にやってくれましたよ、去年!鷹村の3階級目!読んだ?もう読んだよね?ネタバレなるかもしれないので、読んでない読者さまは直ぐに書店へGO!!

………。

行きました?
本当に行ってたら面白いですね。
では失礼して。
原作のスーパー・ミドル級王者、キース・ドラゴン。ビジュアルがかなり良い、キャノン砲みたいな髪型がお気に入りです。麻雀を絡めたお話しだったので、ルールが分からない私は八木が顔芸してるところを眺めてましたね。麻雀アニメ、咲を観て予習したけど謎が深まりました。
あの試合で鷹村の網膜剥離疑惑が晴れて一安心です。もう終わりですよね、流石に笑笑
鷹村の網膜剥離疑惑の使い所、減量苦のないヘビー級辺りで爆発させるものと思っていました。なにかと枷を外した試合をさせてもらえませんからね、鷹村は。あの試合で宮田の階級転向フラグみたいなシーンも入れてあったので、そろそろ東洋から世界に行ってくれるのかな〜と思ったり。
個人的には世界前哨戦で宮田vs一歩を予想してます。え、どうして?
わかんないっピ…。
私には予想と妄想しか出来ないので…。
でも、いつか原作で2人の試合が読めるなら、どう合流するのか考えるのが楽しいので仕方ないね。こんなことを書いて、読んでくださる読者さまがいてくださるので妄想止まりませんよ。

原作で決着したスーパー・ミドル級制覇。幣作では2話決着となりました。
最初は全ラウンドを3分間書き綴る予定でしたが、既に1話目で結果は分かっているので2ラウンド目からはスピード感重視で締めました。
ちょっと試験的な意味もありまして、こってこて?に書いたティム戦と、中身をあっさり仕上げたワール戦。どっちが読者さまにウケがいいかな〜、なんてのを見てみたかったり。私が独り突っ走りすぎても、そこは二次創作なので笑
来年辺りに実施するベストバウト(後半)投票を見て、反応を見たいと思います。掲載試合数が違うから、単純比較にはならないですが…。

毎度のこと長々と失礼しました。
現在、勝者予想アンケートを実施しているので投票参加よろしくお願いします!

次回対戦は次の話で発表します。
いま準備中なので、少々お待ちください!

どうぞこれからも幣作、そしてなによりも原作『はじめの一歩』の応援をどうぞ宜しくお願いします!




勝者予想のアンケートが見たいボクサーは?

  • 幕之内 一歩
  • 鷹村 守
  • 青木 勝
  • 木村 タツヤ
  • 板垣 学
  • 宮田 一郎
  • 千堂 武士
  • 間柴 了
  • 今井 京介
  • 星 洋行
  • 伊賀 忍
  • リカルド・マルチネス
  • アルフレド・ゴンザレス
  • ウォーリー
  • ジェイソン・尾妻
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。