「ふんっ────」
「ぐッッ────」
休みなく、絶え間なく打ち続ける両者。
必殺技級の一手を躱し、守り、返す。
会場に響き渡る足音が絶えることはなく、1秒ごとに音の密度が上がっている。
この恐ろしさに気づけるのはほんの一握り。多くの観客は固唾を飲んで見守っている。
第2ラウンド終盤、両者被弾無し。
主導権はどちらにも渡らずにいた。
『あ、当たらない!なんという打撃戦、いや平行線!
この迷路の突破口を手にするため、どちらも中央から離れずに打ち続けています!』
「………鷹村さんが押してますね」
「あぁ。汗の量が違う」
「鷹村さん、涼しい顔でチャンプと戦ってるぜ」
幕之内たちの意見を実現していくが如く、徐々にリング中央の占有率を鷹村が上げていく。
「すげぇ…」
誰かが呟いた。
鷹村の技術戦とワールの対応力。針の穴を倒すカウンターを躱し、死角から放った一撃にカウンターを合わせる。
当たらないことをため息に変える暇がない。側で見ている鴨川ですら、リング上で交わされる技巧侵略に理解が追いついていないのだ。
『第2ラウンド終了のゴング!ここまで互角だと誰が思ったでしょうか。会場の緊張が歓声に変わるときを、次のラウンドに期待したいところです』
打数だけで言えば鷹村は2ラウンドまでのホーク戦を優に超えている。減量苦が減ったとはいえ、このペースを続ければ第5ラウンドで沈むだろう。
そこまで急く理由があるのか、鴨川が問わねばならないとリングに入ったとき。鷹村が肩をぐるりと回して。
「強ぇな」
ニッと笑っていた。
「………ったく。どこから余裕が出てくるんじゃ」
「いっつもだってーの」
そんな言葉を掛け合いながら、会場の雰囲気から浮いた1分間が始まっていた。
▼
技術のみならば試合は平行線を辿る。
リズムを握られたら容易に引き戻せなくなる。
ゆえに第3ラウンド開幕、鷹村が選択したのは
左ジャブ、都度五連射。
1つ───ただのジャブだと受け止める。
2つ───左腕に走る亀裂を見て。
3つ───即座に右腕で払い退けたとき。
4つ───右腕が前進の妨げとなっていた。
「しまっ────」
ガードを打ち壊し、開いた中央に五連射目が空かさず捩じ込まれる。
『ついに届いたアっ!!待望のオープニングヒットは鷹村!第3ラウンド、ついに流れが挑戦者の手に渡る!』
この試合後、ワールはインタビューに対して試合の感想を問われたとき。
”高層ビル屋上から百メートル先の屋上へ、命綱無しの綱渡りをするような緊張感のあるファイト”
こう答えている。
これは、第3ラウンドまで均衡が崩れなかったからではない。
被弾など瑣末なものだ。この言葉の真意は別にある。
今から、鷹村の手によって引き起こされる、たった1つの挙動。
(なぁ、お前はなにを見た。どうやって倒そうとした)
流れを取り戻そうと左拳を握った瞬間、ワールの勢いは根本から押しとどめられていた。
死んだ左拳。空砲のような感触に戸惑うなか、左拳の不調の原因に気づく。鷹村の左手によって止められる左拳。そう、本当にワールが震撼した瞬間とは、鷹村のストッピングによるものだった。
この試合、両者は瞳に映る敵を”糧”として見ていた。
目的のみが一致している。
(……………成る程、
それでも、ワールは気づけなかった。鷹村による、ティム・フェザントの絶技の真似事でペースを狂わされたことに。
(彼を模倣するなんて、出来るはずが無いだろう!)
死んだ左拳に肩から捻りを加える。
たった1ミリに満たない隙間から抽出する力を溜めて、都度二連射の絶技崩し。
(封じられた!?)
(っと、危ねえ。ビデオ観られて対策されたら元も子もねえんだ。
再び、鷹村の
(安心しろ。貴様が向き合ってきた時間諸共、オレ様の糧にしてやるぜ)
ここから、鷹村が雑なストッピングを織り交ぜてはワールから攻略の糸口を引き出す、再確認の時間が始まった。
既に感触が違っていると知りながら、嫌な予感がワールの視界を過ぎる。
何もかもが遅かったのではないか、と。
───
──
─
静かに加速する戦場。
引き留めようと動いた矢先から潰される。ただ1度の深呼吸を許さない、最凶最悪のプレッシャーが玉座を襲う。
(もう、届かないのか……!)
最強の魔王の行進曲。
あろうことか玉座が怯えている。
第4ラウンド、観客たちは蹂躙劇を目撃していた。
ワールの身体は既に死に体。反撃する気力、体力、そして手段は殆ど鷹村によって潰されている。
2ラウンドまでの大接戦が嘘のように、鷹村が王者を圧倒している。
(悪ィな、こればかしは年季が違う)
枷はある。減量苦で従来の実力は未だに出せていない。そのうえで、ワールのことをリング中央で一方的に打ち続けていた。
(チクショ……。全部、タカムラのシナリオか…)
終末が始まる。
王座を掴んで離さなかった翼が羽ばたき、獲物をリングの最奥へと吹き飛ばす。
(上手く打ち合って、私のペースに巻き込むはずだった。
同じ目的でも、ここまで差があるとはね…)
ジャブが重く身体にのし掛かる。
2ラウンドで慣れている目が憎らしい。あの猛攻は慣れさせるため。ワールの慣れの遅さを逆手に取った、開幕6分間の攻防からズラしているリズム。3ラウンド以降、鷹村の攻撃はより小さく、細かく分散してワールを襲った。
左右のコンビネーションが突き刺さる。
コーナーに背を預けたワールの腰が折れていく。それを勝利への執念で起こしたとき、鷹村が仕留めにかかった。
(まだ………来い、来い……)
ワールが最後に狙う場所。
バイソン戦で誰もが見た弱点、左のフルスウィング。
当たれば一発逆転の大穴は然し、積み重ねがあってこその賭け。ここまでワールが賭してきたものは全て闇の向こうへと消えた。
ならば、想定外の事態を想定内に収めるため、策をここで練り直せば済む話。
(ここッ────)
鷹村の右ストレートに合わせてスリップし、身体を入れ替える。肩でコーナーに押し込んで、ガード出来ない顔面に一撃を打ち込む。崖っぷちから山頂へ、起死回生の道は間も無く塞がれた。
(バックステップ、だと……!?)
(フェザントを倒す武器、確かに見させてもらった)
右ストレートをフェイントにして、鷹村はワールの最後の手段を炙り出したのだ。もう王者に打つ手は残されていない。
「感謝する、さらばだ」
ワールに出来ることは、負けを認めて次に走り出すことのみ。
冷徹に突き刺さる右ボディブローを受け止めながら、最強に成れない世界の高さを知るのだった。
こうして、この物語は冒頭へと辿り着いた。
鷹村 守はライトヘビー級へと駆け上がり、ティム・フェザントを打ち下す。
そのための前日譚はここで一先ず終了となる。
だが、クルーザーには至れない。
次に行くための物語がまだ残されているからだ。
※原作の最近のこと語ったりするだけなので、作品を楽しみたい方は4.30(土)までお待ちください。今回、次回対戦発表はありません。
追記:69話を書き直しているため暫くお待ちください。
閲覧ありがとうございます、ひとりのリクです。
1話目の後書きで私は書きました。
原作で近々やるから二次創作のスーパーミドル級は要らん!と。(誇張)
本当にやってくれましたよ、去年!鷹村の3階級目!読んだ?もう読んだよね?ネタバレなるかもしれないので、読んでない読者さまは直ぐに書店へGO!!
………。
行きました?
本当に行ってたら面白いですね。
では失礼して。
原作のスーパー・ミドル級王者、キース・ドラゴン。ビジュアルがかなり良い、キャノン砲みたいな髪型がお気に入りです。麻雀を絡めたお話しだったので、ルールが分からない私は八木が顔芸してるところを眺めてましたね。麻雀アニメ、咲を観て予習したけど謎が深まりました。
あの試合で鷹村の網膜剥離疑惑が晴れて一安心です。もう終わりですよね、流石に笑笑
鷹村の網膜剥離疑惑の使い所、減量苦のないヘビー級辺りで爆発させるものと思っていました。なにかと枷を外した試合をさせてもらえませんからね、鷹村は。あの試合で宮田の階級転向フラグみたいなシーンも入れてあったので、そろそろ東洋から世界に行ってくれるのかな〜と思ったり。
個人的には世界前哨戦で宮田vs一歩を予想してます。え、どうして?
わかんないっピ…。
私には予想と妄想しか出来ないので…。
でも、いつか原作で2人の試合が読めるなら、どう合流するのか考えるのが楽しいので仕方ないね。こんなことを書いて、読んでくださる読者さまがいてくださるので妄想止まりませんよ。
原作で決着したスーパー・ミドル級制覇。幣作では2話決着となりました。
最初は全ラウンドを3分間書き綴る予定でしたが、既に1話目で結果は分かっているので2ラウンド目からはスピード感重視で締めました。
ちょっと試験的な意味もありまして、こってこて?に書いたティム戦と、中身をあっさり仕上げたワール戦。どっちが読者さまにウケがいいかな〜、なんてのを見てみたかったり。私が独り突っ走りすぎても、そこは二次創作なので笑
来年辺りに実施するベストバウト(後半)投票を見て、反応を見たいと思います。掲載試合数が違うから、単純比較にはならないですが…。
毎度のこと長々と失礼しました。
現在、勝者予想アンケートを実施しているので投票参加よろしくお願いします!
次回対戦は次の話で発表します。
いま準備中なので、少々お待ちください!
どうぞこれからも幣作、そしてなによりも原作『はじめの一歩』の応援をどうぞ宜しくお願いします!
勝者予想のアンケートが見たいボクサーは?
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幕之内 一歩
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鷹村 守
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青木 勝
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木村 タツヤ
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板垣 学
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宮田 一郎
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千堂 武士
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間柴 了
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今井 京介
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星 洋行
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伊賀 忍
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リカルド・マルチネス
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アルフレド・ゴンザレス
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ウォーリー
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ジェイソン・尾妻