読者の皆様、お久しぶりです!
いきなりですが、64〜69話で開催したアンケート『勝者予想のアンケートが見たいボクサーは?』の結果発表!
はじめの一歩を愛するあまり2次創作にまで足を運んだ読者さま総勢41名が選ぶ、堂々の第1位は!!!
やば‼︎(興奮)
投票総数の約6割も集めてしまうなんて‼︎
やっぱり主人公だなあと思いました‼︎
早く復帰して‼︎ねぇ早く‼︎‼︎‼︎
ということで。
これから幕之内の全試合は『勝者予想アンケート』を実施します‼︎
なお、幕之内の試合の勝敗は既に決めています。というより、幣作を構想する段階から道筋を立てていますので、アンケートの結果を見て勝敗を変えることはありません。
ご理解、そしてご安心のうえ、投票をしてください‼︎
見慣れた風景のなかで拳を打つ。
バンテージに守られた右拳は空を押した。
脚は軽くステップを刻んで地面を蹴る。
前に、ひたすら前に。ガードを上げて、前へ。
「し────」
相手は最凶のボクサー、間柴 了。
2度とリベンジ出来ないと理解していながら、それでも目指さずにはいられない。自分で生み出す偶像へ踏み込んで、持ち味のステップワークで翻弄する。だが、あの鎌は相変わらずこの頭を切り裂いていく。
右目、2ラウンドで失った。体力、燃料タンクのガワごと破られる。そして、最後は────。
「木村、もう3分経ったぞ」
「っ……そうか、さんきゅーな青木」
意識は遠い景色から鴨川ジムへ。
ようやく届いたブザー音。
青木の呼びかけによって、1ラウンドが終了していたことを知る。
リングから離れて早半年、鷹村の3階級制覇から1ヶ月が過ぎた午前10時。木村は練習に練習を重ね、復帰戦に向けた準備を整えていた。
「試合も決まってねーのに減量レベルの汗じゃねーか。オーバーワークで怪我して引退しても知らねえぞ」
「ちょっと鷹村さん!心配するにしても言い方が…」
幕之内が慌てて止めに入る。それに手をふらふらさせて心配無用と伝えた。
ひと息つくためベンチに座る。
無茶な練習はしていない。ただ、復帰を目指すなら最終目標は当然、日本タイトル奪取。日本ランキング最下位まで落ちた今、年齢を考えても練習量を増やさなければ体力向上は見込めない。
(あの時は3センチの差だった。それが今じゃ……)
伊賀を瞬殺して世界に行った間柴。
日本ランカーとしてやり直す自分。
(あの日、届かなかった3センチをどうしたいんだ)
自分の右拳に視線を落とし、まだ覚束ないイメージに悪態を吐く。
煮えている活力と現実的なマッチングは必ずしも追従しない。ランクは膨大な時間と努力を注いで手に入れるもの。木村のように、ベテランで勝てる見込みが少ないボクサーは不良物件として嫌煙されがちだ。ランクを明け渡す行為に誰がおいそれと手を出すというのか。
(篠田さんにも苦労をかけるな……)
引退を撤回して誰よりも喜んだのは篠田だった。
いま、彼は木村の対戦相手を探して各所に頼み込んでいる。結果を得ることは出来ず、気持ちが前のめりになってしまうのも無理はない。
「なんじゃ、板垣はまたおらんのか。…まあよい。貴様らに伝えておくことがある」
そこへ、鴨川が事務所から降りてきた。
いつものメンツが集まるなか、鴨川と最初に視線が合ったことに珍しいと思った木村。いつもは幕之内か鷹村の姿を探す鴨川が、自分に視線を向けたこと。その違和感が焦燥感を燻ったとき、理由が鴨川の口から判明する。
「木村、復帰戦の相手が決まった」
「………ま、まじすか!ついに……!!」
「相手は誰なんすか?」
「日本ジュニア・ライト級9位、
「ま、まぁ強い方が倒し甲斐ありますからね。どんとこいです」
「これが顔写真じゃ」
そう言って差し出してきた写真。
全員が覗き込むと、渋い顔をするくらいには一般人離れした風貌の顔が写っていた。
「も〜、やだなぁ会長。どっかの指名手配犯の写真と間違えてますよ」
「あ、これ交番に張ってあるのと似たようなの見ましたよ俺」
「………木村さん、載ってます」
「だろうな。こんな凶悪犯、新聞の一面にドカンと載ってても可笑しくは「違いますよ」……えっ」
「ボクシング雑誌のここ。いま最も注目される問題児として紹介されています」
木村は顔を真っ青にしながら、幕之内が手に持っている雑誌の片側1ページを読む。
不良仲間の罵声。セコンドへのゴミの投擲。観客席を汚しては観客と揉める。中にはお金を盗られたという人間までいる始末。
数々の暴虐を記した現実に口を開くしかなかった。
「試合に駆けつけた暴走族仲間がヤジ飛ばすせいで試合は滅茶苦茶。萎縮したところを滅多打ちがお決まりらしい」
「なんでそんなやつのプロ資格剥奪しないんだ!?」
「バカヤロウ!こんなザコさっさとボコってランク奪い返してきやがれ!」
「試合が決まったボクサーに暴力するでないわ!」
鷹村が木村の背中を蹴っ飛ばす。
そして鴨川が鷹村を引っ叩く。
「そりゃ勿論っすよ!
負けても引き分けても引退って決めたんですから」
鷹村の激励に応えて、木村の復帰戦はここに決定した。
試合の行方を見定めた鷹村は、欠伸をしながら。
「んで、メインは誰なんだよ。
まさか木村の復帰がメインじゃあるまいな?」
木村を添える主催者の名前を問いかけた。
「俺だ!俺の日本タイトル戦っすよね」
「寝言は寝て言わんか。
貴様はあと2試合の調整を入れるつもりじゃろうが」
肩を落とす青木を放り投げて、鴨川は一拍置いて答えた。
「メインは宮田 一郎の世界タイトルマッチじゃ」
「宮田くんが………!本っ当ですか!?」
「えぇい、近い!引っ付くな!」
息を乱す幕之内が汗涙を垂らして鴨川に問い詰める。
「マジか、あいつライト級でまだ1試合しかしてないんだろ。大丈夫なのかよオイ!?」
「それは心配ないかと!初めてのライト級で6ラウンドまでかかってますけど、手応えを確かめながらの試合でした。キレの増したフットワーク、安定感抜群のシフトウェイト、なにより息切れが見えないスタミナ!前回のままでも世界は狙えたと思います!」
「あ、うん、そうね……」
ほんのり紅く染まる頬、普段よりも…それこそロードワーク時よりも湿気を浴びた吐息に青木はゆっくりと身を引く。
木村、鷹村も鴨川から距離を置いていた。
「会長、宮田くんが挑戦するのはどの団体ですか!?」
「WBCライト級王者、コンコート・グルー。キューバ出身、ライト級史上最速のボクサーとして名を馳せている」
「カ、カウンターパンチャー同士の試合!これはすごい見応えがありますよ!グルー選手はカウンターパンチャー相手に負けたことがないんです!きっと宮田くんもそれを分かったうえで挑戦状を送ったんだ!」
「落ち着かんか…貴様なに鼻血を出しとる!」
「興奮しすぎて宮田の晴れ舞台見る前に死ぬんじゃねえか」
「宮田の戴冠後に死ぬのが本望って顔だぞ…」
「鷹村さん、宥めてください。会長もタジタジですよ」
「宮田のことになるとオレ様にも手が負えん。諦めろ」
両鼻の穴にティッシュを詰め込む男を、3人はそう評した。
「それだけじゃないだろ。
木村が前座なわけないからな」
「ひでぇけど事実だ…!ムカつくけど言い返せねえ」
「木村は前々座だ、気を抜くなよ」
「うす…」
「じゃあ、前座は誰なんですか?
僕は…まだ出られないですし。前座、やりたいなぁ」
そう呟いてティッシュを濡らす。
チラチラと鴨川を見るも、杖を振るわれて一蹴された。
「間柴じゃ。WBA世界前哨戦…かつての小僧と同じく、初めて世界の舞台に立つ」
「「「えええええええええ!?」」」
鴨川の言葉に驚く一行。
そして幕之内は、自分が敗北した苦い記憶を思い出す。
ゴンザレスに僅差で敗北した。世間ではそう見られているが、最後のカウンターは自身の驕りが招いた埋めようのない実力差があった。
だが、間柴を見てきた幕之内は知っている。彼が既に世界の舞台で相手を倒す実力を備えていることを。
仲間とライバルたちの試合に期待感を募らせながら、ひっそりと懐で右拳に熱を込めていた。
▼
2ヶ月前、間柴 了はOPBFライト級タイトルを返上した。最後の防衛戦に指名したのは伊賀 忍という、悪辣なセコンド、バロンが操る機械兵。
大波乱もあり得るこの試合、その結果を見ればミスマッチでしかなかった。
1ラウンド2分50秒。それが伊賀 忍を斬殺した記録である。バロンが準備してきたと思われる手口、最初の一手目で勝負は決した。木村 達也のボディ打ちを彷彿とさせるバロンの指示に、間柴は容赦なく右拳を解放。伊賀に仕込んだ対間柴戦略は呆気なく崩れ去り、一方的な試合展開のまま伊賀はリングを降りた。
今日、そんな試合ぶりを見せつけた間柴に一通の招待状が届く。
「間柴、お前に世界前哨戦の話が舞い込んできた」
「………そうか。ついに」
東邦ジムのサンドバッグを叩く間柴に、東邦会長はかつて流れ去ったものを持ってきた。
木村との試合から、かれこれ3年は経過する。
かつてWBC5位の選手から声はかかったものの、木村との試合後に自ら破棄した。実力を付けた今、受け取る手は誰にも邪魔されない。
「相手はWBA2位。名はリボルブ・ゲイル。オリンピック2連覇の強敵だ。いまはスペインの名工、エミリオ・ラバルのもとで師事を受けている。
打ってきたパンチに同時にカウンターを決めるのが勝ちパターン。触れれば相手選手が吹き飛ぶもんだから、ついた渾名は『人間導火線』だとさ」
「クク…。導火線なんざ俺の左で切り落としてやる」
サンドバッグに左拳を打ち込む。
美しく吊るされた砂丘に波が立つ。つい溢れた感激を明日に預けて、東邦が持ってきた資料に目を通す。目についたのはアマチュアの戦績、299戦298勝241K.O、そして1敗。
「アマ戦績、この1敗はなんだ」
「それは最後の試合だな。オリンピック3連覇目をかけた決勝戦で負けている。相手はロシアの……ブラン選手だそうだ。
聞いたことねえな。世界ランクにもいないみたいだ」
「…ふん、まあどうでもいい」
ブランという名前に心当たりがなく、興味も無いためすぐに間柴の記憶から消えた。
そもそも、間柴は伊賀のことでさえ記憶の片隅に断片が散らばっている程度の印象しか抱いてはいない。
「こんにちはー!」
「遅い」
着々と増す目標への殺意に水を差す、陽気な挨拶の主に鋭い視線を向ける。東邦ジムに現れたのは板垣 学。間柴のスパーリングパートナーだ。
「いやいや、約束の15分前ですよ?
世界前哨戦が決まって気持ちが昂るのは仕方ないけど。あっ、リボルブ選手のDVDお返ししますね。
とても参考になりました!」
「あ、あぁどういたしまして」
板垣がリュックから取り出したDVDには、『リボルブ・ゲイル』とマッキーペンで書かれていた。
東邦は肝が冷えたのを感じ取る。間柴よりも先に、ジム外のボクサーに教えていることを死神がどう判決するのかなど目に見えていたから。
「……おい、どうして板垣が先に知ってんだ」
「で、出来るだけ相手の特徴を真似てもらおうと思って!悪い!あんまピリピリし過ぎても身体に毒だろう?」
「いま血圧が上がってるよ」
「え〜っ、それを言うなら”決闘値”じゃないですか」
間柴の背中をふざけたテンションで叩く板垣に、ジム内の緊張感がピークに達した。
(やめてくれェ!間柴を煽るなっ!)
他の練習生が青ざめるなか、間柴の右腕が振り上がり…。
「その調子ならリングに上がれるな。
インファイトをしてこい。リボルブとやらの動きより鈍いなら、ここから叩き出す」
「は〜い!」
花を撫でるように板垣の肩を叩いて、間柴はリングへと向かっていく。
「怒らない…?」
「どうなってんだ、あれ…」
「板垣が正解だったということしか分からん…」
困惑する会長たちに近寄る板垣。
鼻歌交じりに笑いながら、間柴からは想像も出来ない答えを提示する。
「違いますよ。
間柴さんもジョークを分かってきたんです」
「あれってそういう…?」
「信じられん…」
流石に首を傾げるが、言われれば納得も出来る反応だ。
ジムに入った最初の頃と比べても、確かに丸くはなっている。東邦だって分かってはいるものの、板垣の目はより深いところが見えていた。
「伊賀をボコボコにしたのだって、木村さんの真似をしたからですしね」
「えっ、それはどういう…」
なんとなしに呟いた板垣に、言葉の意味を問おうとして。
「なにしてんだ。
ぼーっとしてんなら、俺だけで終わらせるぞ」
「すぐ行きまーす!」
まるでワザと会話を遮るかのように、間柴がリングの上からグローブを板垣に投げる。片手で受け取ると、板垣は荷物をそそくさと置いてリングに登った。
東邦もそれに続く形でリングの上に視線を向ける。朗らか、とまではいかずとも。そこには確かに、人を見ている1人のボクサーがいて。
「あ、あぁ。悪い悪い。間柴の言った通り、板垣君にはリボルブ対策として────」
感慨深い想いを胸のうちに仕舞い、次の試合に向けた準備を開始するためリングに上がる。
試合まで残り3ヶ月。
間柴の変化が良い結果をもたらす事を信じて。