鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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リボルブ・ゲイルVS間柴 了

 

木村 タツヤが完全復活したことを観客たちは確信する。世界を前にしたボクサーたちに熱い応援は届いた。

観客の歓声、期待、全てが異国の者にとっての重圧へと変化する。

 

「き、緊張しますね……。この日のために練習したとはいえ、リョウのフリッカーは長いです。毎ラウンドあれを掻い潜れるか…」

「ウジウジすんな。最短で試合終わらせるって話だろうが。長引けばどの道やられんだよ」

 

セコンドのラバルがリングに続く茨の道を歩くのを他所に、チーフセコンドのミロが緊張で喉を震わせる。

 

「努力を惜しまないでくれた2人に感謝を。

今度は世界行きの特等席、確保してきます」

 

会場の熱気に染まらない暖かい三白眼で、リボルブは前を向いて感謝を告げた。まだ前哨戦だとラバルが返して、気が早いことを肴に笑う。

 

『ここからは世界に臨む漢たちが登壇』

 

敵地への招集で凝った肩はほぐれた。

勢いある日本のボクシング界に挑むには十分なコンディションだ。

 

『9戦9勝9K.O。

オリンピック2連覇、アマチュア世界最強の名を冠したボクサー。アマチュア時代のK.O率は脅威の80%!』

 

剣のように鋭い三白眼、青空のように透明感のある瞳、髪は耳まで伸びる紅色の中分けストレートパーマ。前髪の中心から一本、後ろに流れる黄色の髪が黄金の像を連想させる。

間柴より一回り小さい代わりに硬骨を秘めた褐色の肌で、しっかりとリングを踏み締めた。

 

『剛打の持ち主がスペインより来日!』

 

異国かつ史上の世界で激る高揚感を、羽織る黒いガウンとともに放り上げた。世界行きの切符を手にする準備を終え、ゆっくりと深淵を見据える。

 

「アマ時代のK.O8割って強いのかあ?」

「いや、でもプロのK.O率100%だぞ」

「まだ一桁しか試合してねえんだ。

K.O率100%なんて国内にも沢山いるだろ」

 

観客たちが騒ぐなか、鴨川軍団の1人、板垣が幕之内たちに解説を入れる。

 

「アマの決着は判定が大多数です。プロに比べてグローブのオンス(大きさ)が2つも上だ。加えて、3ラウンドという短さがK.O勝利への道を阻んできます」

「ヘッドギアも着けてやるんだ。ありゃ視界が狭まってやり難いったらありゃしねえ」

「安全重視つっても、重いもんは重いからなぁ」

「お前らはあっても無くても然程変わらんだろ」

 

鷹村の事実陳列に秒速K.Oされる青木村。

 

「大きなグローブでも抑えられない威力。まるで今井くんだね」

「……僕も同じことを考えていました。東邦ジムで彼の試合映像を観ていながら、脳裏に京介の顔が横切りったくらいですから」

「そんなに凄い相手なんだ…」

「映像で観た感じだと間柴は勝てそうだったか?」

「………恐らくは2割が良いところです」

「あの間柴が2割だと!?」

「相手、無茶苦茶強いじゃねえか!」

「リボルブの強さは懐に飛び込めるステップワークにあります。左を掻い潜って、先輩並みの破壊力でズドン」

「ははぁん。一歩みてえな相手か。

新人王のときの憂さ晴らしとでも思ってんじゃねえの」

「や、やめてくださいよ…」

「確かに先輩に通ずるものがありました。

耐久力が心許ない間柴さんにとって、強敵ですよ」

 

世界前哨戦に相応しい……最早、タイトルマッチ級の試合だと理解して、幕之内は不安を潰すように拳を握った。

自分は前哨戦(ここ)で、ゴンザレスに倒されたから。

 

前座を飾る男は幕之内の心配など知りもせず、前前座で勝利した遅咲きの生命に反吐を吐いていた。

 

「日本で収まったら承知しねぇぞ」

 

日本の死神にとって、木村との試合は汚点のまま記録されている。本来の実力を出せず、国内留まりの木村。僅か3センチの実力差、いっそ木村が世界王者に成れば黄金に輝く宝石だというのに。

 

『世界2連覇を迎え討つ死神の降臨だ‼︎』

 

腹立たしい過去を見送り、暖まる会場を零度にせんと間柴が動き始めた。

 

『半年前、東洋太平洋(OPBF)タイトル防衛戦を1ラウンドで果たし、圧巻のベルト返上劇を披露。

WBAランカーとして実力は十二分、世界挑戦の資格があることを今日証明してくれ‼︎』

 

全容を喰らう曇天の布地。

等身に影を落とし、清く美しい景観に滲みよる。

 

『世界へと、ついに日本の死神が降臨!』

 

宮田の世界戦の前座として、最も添えてはならない地獄の門は開かれた。

 

「間柴ア!初の世界ランク戦がなんだ!

俺たち『地獄会』がついてる!なにも心配はいらんぞ!」

「そうだー!お前なら大丈夫だ!!」

「まっしっばっ!!!」

 

会場の中程から湧き上がる一際暖かい歓声。

間柴が勤める運送会社『』の社長が発足した、間柴 了のファンクラブである。クラブ会員は社員で占められており、間柴の人徳が厚いものだと物語ってくれている。

 

「社長たちも応援してくれている。間柴、お前の努力が成したものだ。胸を張って世界に行こう」

「……うるさいくらいだ。

見せつけられる方の身になってほしいもんだぜ」

 

地獄会に背を向けて間柴は呟いた。

 

「リョウは信頼されていますね。

人気者とは違う、暖かい声が聞こえます」

「………」

 

散歩中のように笑いながら、リボルブは挨拶を差し出した。しかし、ハナから見向きするつもりのない間柴は口を閉じて応える。

 

「日本のボクサーは好きです。貴方たちは諦めないことを教えてくださります。

才能を磨いた拳、努力で築いた土台。私もいつか戦いたいと思い、今日その願いは叶いました。

同郷の世界戦を祝う者同士、悔いの残らない試合にしましょうね?」

「…甘い。苦痛で泣き喚くそのツラを晒し上げて、メインを観る余裕無くしてやるよ」

 

敵と心を通わせることはあり得ない。

心から差し出してきた手を引っ込めて、リボルブの感情は喜びに昂っていた。パフォーマンスでも、観客がそう望むからでもない。間柴が生み出す本心からの(わずら)いを見込み通りだと知れたからだ。

 

 

 

 

WBAライト級2位

リボルブ・ゲイル

 

VS

 

WBAライト級5位

間柴 了

 

 

 

 

『無敗への有罪判決か。はたまた死神への罷免(ひめん)か。

1枚の切符を賭けた裁判がいま、開廷です!!』

 

各陣コーナーに構えて、世界前哨戦の火蓋は切り落とされた。

 

「貪欲のラバル。選手のスタイルに合わせて、古今東西の知恵を授け王座に導く男。選手に必要ならボクシングではなくチェスを指導する、異端なセコンドだ」

「そんな人がいるのに、よかったんですか?

最初から左で流れを掴めって…。普通なら慣れるために様子見だと思うんですけど」

 

東邦の作戦指示にチーフセコンドは疑問を投げる。

あの間柴とはいえ、初の世界だ。しかも、相手は世界2連覇の超絶格上で、世界を主戦場としてきたボクサー。つい弱気になるのも仕方がなかった。

 

「俺もギリギリまで迷ったさ。けどよ、間柴が”行かせてもらうぜ”って俺に断りをいれてきたんだ。

意志を示してまで行くと言ったあいつを信じてくれ」

「わ、分かりました」

 

今朝方のことを伝えて、間柴の背中を見守る。こちらの安い言葉で勢いを削いで、なにが得られるというのか。躓いてもいい、思いきり腕を広げてこいと東邦は心のなかで叫んだ。

 

リボルブのセコンド、ラバルもまた東邦たちの考えを読んでいた。

 

「先ずは押してくる。開幕、鼻っぱしを折ってこい」

「おっけい、いっぱい任せてください!」

 

ぐっと拳を突き上げて、白光のように笑うメダリスト。

棍棒のように太い腕をマットに振り下ろし、リボルブの背中に喝を送った。

 

「骨は拾ってやんよ、しっかり暖めてもらえ」

 

コーナーから両者離れて、会場の熱気はスイッチを切り替えたかの如く暗礁へと乗り上がる。

 

(────こいつ)

 

これまで観てきたボクサーとは一風変わっている。

ゴングが冥界の扉を開いても穏やかな表情。

握手後にカフェへ誘うような瞳、街中で肩を並べて歩く様と重なるステップ。

 

(俺を前にして眠そうだな。

煽っている自覚がねえのに腹が立つ)

 

平穏に満ちた挙動1つ1つが間柴を逆撫でする。

遊士の瞳を裂き、友人気取りの呑気さを潰すため。30分以内の余命を告げる鎌が持ち上がる。

 

(やる気が無えなら、今すぐ殺す───)

 

頭に昇る感情に委ねて構える。

次の瞬間、眼前に迫る挨拶が本物の鎌を幻視するほどに冷えた左腕へと乗り出していた。

 

(ぐ────!)

 

間柴の視界を塞ぐリボルブの左拳。

右手(ガード)に減り込んだ奇襲は力強く、前傾姿勢に移行した間柴の顔に容赦なく貫通する。

 

「後ろ足を先に詰めてきた!」

「あの重心移動はメキシカンだな」

「1ラウンドから超接近戦(スーパー・クロスレンジ)!?

間柴さんを相手に軽々とやってのけるなんて……強い!」

 

リボルブの初撃をガードした間柴は舌打ちする。

フリッカーの挙動を研究して開幕を止める。実物を前にして、大舞台の最中で間柴相手に成功させる。出来ると思わせた時点で間柴は負けていたのだ。

 

(さあ日本人(リョウ)、踊りましょう。

謙遜合戦(アウトボクシング)は交友に向きません)

 

射線上から散った火花が次の導火線に落ちる。

瞬間、拳に火が付いた。リボルブの右拳が歪曲して間柴の顎を刺し狙う。奔る火花を視界の隅に捉え、半歩分のスウェーでやり過ごす。

再び、拳に火が付いた。間柴がスウェー中に右拳を躱すとき、奥の方で散る光を目撃する。リボルブが拳を握る動作をそう幻視しながら、左頬を殴られる景色に流された。

 

『あぁっ!最初に被弾したのは間柴!

いきなり相手の壇上に引きずりこまれた!』

 

幻と現実で交差した意識から間柴が戻る。

 

(いまのは……フェイントか?)

 

リボルブの左拳が戻っていく。ビデオでもよく観た挙動ゆえに見切る自信があった。然し、対峙して初めて気づく。リボルブの拳は質が違う、と。

意味までは読み取れない。だが、確かに見ていた右拳はいま、目下で握り締められている。

 

(…テメェの拳は嫌いだ)

 

間柴の懐に軸足を落とし、急所である顎に狙いを定めていた。退避を許さない思い切った行動に対して。

 

(だが、潜り込んでくるバカで助かるぜ)

 

ほぼ直立となった姿勢から利き足を真横に置き、右で歓迎する姿勢を整えた。

 

(インファイターは必ず殺すと決めてるからな)

(退きませんか……素晴らしい姿勢ですね)

 

両者、腰を据える。

開幕20秒、利き腕同士の打ち比べを目前に観客たちは目を見張った。あまりにも生き急ぐ行動は勝利を疑わない強者同士がゆえに。

21秒を刻んだ瞬間、真下と真横へ身体が繰り出した。

 

(────ッ)

(驚きました)

 

真下に飛び出したのは間柴の右腕。相打ちを覚悟し終える右拳の圧がマット表面に波紋を描く。

 

(本当に振り抜くとは、驚きましたよ。

もう少し慎重に行くものと思うのですが)

 

そして真横に躱したリボルブ。相打ち上等に乗り出した意志を晒させて打つ振りをやり抜き、間柴の右側面に降り立った。

 

「腕を振り上げる瞬間を狙ったんだ!」

「右を構えてる…”リボルバー”が来ます!避けて!」

 

リボルブの左拳が空気を最小限に取り込んで、零秒。

彼の瞳が狙う場所は肝臓(リバー)。その左拳が最大6回で相手をK.Oしてきた実績から付いた必殺名、リボルバー。

絶好の機会、最高の立ち位置から最短距離を奔る。

空を切った鎌を見ながら、右耳で引き金が鳴るのを間柴は聞いていた。死角から向けられた銃口。たった6発の弾丸(ひっさつ)(みぎ)が反応する。

 

「バカヤロウめ」

 

弾丸の横っ腹から引き裂く死神の右肘。

間髪入れず、硝煙を縦に割る左拳(アッパー)

 

『か、返した!相手の必殺をいきなり見破ったア!』

 

反り返るのは読み誤ったリボルブの上半身。

リボルバーは不発に終わり、死神の反撃が意識を真上に散らす。高く飛んだ頭部が頂点に届いたとき、観客が興奮に沸き上がる。

 

「懐から離しましたよ!」

「得意技で間柴が勝ちやがった!」

「この距離は間柴さんの独壇場です!」

 

ついに間柴の左が持ち上がる。

東洋最凶の鎌をアマ世界王者へ構えて、ゆっくりと呼吸を整えた。直ぐに追撃しないのは死神の直感だ。

 

(6発でK.Oしてきたパンチにしちゃ軽すぎる。本腰入れてなかったのか?)

 

沸いた場内とは裏腹に、間柴の体感温度は下がっている。拳の質が違うと判断したが、まだ真実までは見えない。

 

(……まぁいい、これから(なぶ)り殺すんだ)

 

見え隠れする銃口。撃鉄に繋がれた無数の導火線。更には自分の手で構える弾き金。

研究してきたから見える景色。明らかに優位な場面に立ちながら、自分の寿命だけが一刻だけ延命したような錯覚。当然だった、左で制するには限界がある。インファイトに長けたボクサーが懐に飛び込むまでの時間と比べて、自分が首を落とす時間はあまりにも長い。

 

(大舞台を目前にして早とちりしました)

 

リボルブの両脚が地に着く。まだリズムを測る。リボルブの瞳を見た瞬間、死神の鎌を振りかざすために。

 

「こっちの必殺も研究されてるに決まってるだろ。

暖まるよか、頭冷やしてもらえ、バカタレめ」

 

必殺は崩した。だがセコンドもボクサーも諦める雰囲気ではない。間柴の視線はリボルブの肩へ。オーソドックスな構えを取る直前、ウォームダウンするかのように脱力してみせたのだ。

必殺を破られた戸惑いは一切ないと知る。そして今から、世界2連覇の圧力は本領に踏み込んでいくと確信した。

死刑に争う罪人へ断頭の鎌を放つ。

 

迫る裁判を閉廷へ落とすために───。

 

(い”ッ!!!)

 

握った拳を構えるより早く、死神の鎌が鼻を真横に引き裂いていた。

世界を知るボクサーでさえ異彩に満ちると思わせる拳。ダッシュ力には自信のあったリボルブだが、そもそも踏み込む足が押し戻されて武器を落とされている。

 

(ただ速くて回転力の高い左ではなくなっていますね)

 

踏み込みを上から潰しに来る左。

的確に、慎重に全てを深淵に攫っていくさまは、リボルブとラバルの想定にはない技術を備えていた。

 

『追撃の左が炸裂!間柴の距離で試合が動きます!

このチャンスをものに出来れば勝利に近づく!』

 

目前から飛び出す鎌を潜り、ガラ空きの懐へと脚を踏み入る。リボルブの瞳は朱色を渇望する鎌を写していた。

 

(フェイントも巧いんですか…!)

 

後ろを駆け抜ける鎌は消えて、その首を刈るために新しく用意されている。罪人を断つまで、容易に止める手段はない。

朽ちかけた外套の奥から繰り出すように左腕は振られて、動体視力を欺くフェイント混じりにリボルブを襲う。赤いグローブをかわすために状態を逸らす瞬間、鎌の切っ先が加速した。

 

『フリッカーの雨嵐がアマチュア2冠の前身を止めている!間柴の左がアスリートの頂点を圧しています!!』

 

大樹の細枝のようなしなやかさで長い距離を走る左拳。防ぐのが困難だというリボルブ陣営の判断は正しかった。ゆえに開幕、早々に懐に潜り込んで打ち崩す瞬殺案を練ってきたが、束の間の喜びを手にして終わってしまった。

 

「ど、どうしますか。リボルブに指示は!?」

「慌てるな、目だけは守れと言ってある。そもそも、世界レベルの左は見切れるレベルじゃねぇんだ」

 

ラバルは冷静に返答する。

 

「ま、1ラウンドがボロボロなのはいつものこった」

「そうですけど……」

 

全ては順調だと言うように、リボルブが唇を噛む様子を2人は感情を抑えて見守っていく。

 

「にしても、ちょいと当たりすぎる。リョウのヤツ、突進型に慣れてねえか…?」

 

頭を振った先に待ち構える鎌。

ラバルは()()の日本タイトル戦、そしてOPBFタイトル戦の資料を思い返しても、該当の選手が引っかからずに疑問を抱く。全ての資料は手に入れられなかった。なら、リボルブと同じ突進型との試合はもっと前にあったのだろうと考える。

それも、とことん手酷い形で倒されたのだ。

 

(幕之内と同じタイプは対策済みだ)

 

開幕の襲撃を許しはしたものの、間柴はアウトボクシングにおいて絶対に引けを取らない自信があった。幕之内に負けた時から、サンドバッグを叩くと嫌でもあの格好を思い出す。冬の風のようにしつこい前進を黙らせるため、過去現在の幕之内を想定して何度打ったか。

 

(野郎以下の迫力にビビるかよ)

 

敗北した禍根のようにしつこい突撃を寄せ付けないのは、果たして誰とのリマッチを想定したものか。

屈辱を募らせる男はいま、観客席で間柴の攻勢に大きく喜んでいた。まさか自分に標準が当てられているなんて思いもせず。

 

「ちっ、ついてねえな」

 

また、リボルブ・ゲイルが最悪級の飛び火を受けていると察したのは、リボルブとラバルくらいなものだった。

弾かれる頭、進まない気勢を受け入れろと、ポイントを落とした合図がリボルブの耳に届く。

 

『第1ラウンド終了です!開幕は間柴が圧倒‼︎

オリンピアンが近づけない、近づけさせない‼︎』

 

絶対の射程距離に沈みゆく黄金の国。

死神の鎌が1つ、輝く大地に死の楔を打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インファイターとの試合に慣れてますね」

 

コーナーに戻って一声、リボルブは浮き上がる笑みを隠しながら言う。

 

「お前さんのリズムは一定じゃなかった。

そうするように師事していたが……リョウには効きにくいらしい。変調なボクサーとバカみたいに粘り強いインファイターを抱えてんのかね」

 

舌打ちしながらも作業をこなして数十秒、ラバルは次の方針を定めた。

 

「どれだけ慣れようと、リョウの左に苦悩する。

だからリズムを短調にはするな。ポイント取られても負けじゃねえ、気持ちだけは切り替えていけよ」

「おや、このままでいいんですね?」

「あぁ」

 

可笑しな言葉選びをする。

ミロの頭は疑問符だらけだが、リボルブの聞き返しは冗談のようなものだ。

 

「いまは普通の変調に慣れさせとけ」

「分かりました」

 

フリッカーに痛ぶられた身体の機能に問題はない。

相手の動きを目に焼き付けんと、リング中央へと向けて立ち上がった。

 

 

 

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