鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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病室で3人、先のこと

 

 

 

『壮絶な打ち合いの果てに、日本の死神ここに敗北。

誰もが唖然、誰もが予想外。リングで栄光に近づいたのは、スペインからの使者、リボルブ・ゲイルだった!』

 

会場中から悲壮漂うなか、その雰囲気を忘れまいと振り返り、瞳にしっかりと間柴がいた景色を焼き付ける。

 

「あとは王座を戴き、私たちの国を始めましょう」

「WBAライト級王者、ファン・ガルシアに挑む前に」

 

威勢に乗ったリボルブは興奮気味に言い放つ。

適当に相槌を打つラバルの表情は固かった。

花道を抜けて、控え室に入るやラバルはリボルブの右手を持ち上げる。苦悶に顔を歪めたことに溜め息を吐いた。

 

「その手、治さねえとな」

「……あはは、流石にバレましたか」

 

『ただいまより、メインイベント───』

 

テレビから流れる歓声を遮り、ラバルは荷物を纏めた。

 

「観たいだろうか諦めな」

「えぇ〜…。まあ我慢します。今後のために、グルー君の防衛を観ておきたかったんですけどね」

「残念だな。お前の戴冠先延ばしも、流れに乗れないグルーもな」

「まさか…グルー君の脚が捕まると言うんですか?」

「会場の熱気に呑まれない人間ってのはごく少数いるもんだ。グルーのやつは災難と割り切るこった」

 

ラバルは当たり前のように憐れんでいる。

リボルブはグルーが勝つと信じていただけに、ラバルの宣言は辛いものがあった。それだけラバルの発言には信頼を置いているからで、彼の拳を尊敬している。

兎も角、リボルブがグルーの試合を観ることは叶わない。どうせならラバルの予想外れろ、と祈りつつ。

 

「世界は広い。治療したら直ぐに準備すっぞ」

「ふふ。はい、宜しくお願いしますね」

 

リボルブ・ゲイルは少しの物足りなさを飲み込んで、両国国技館をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間柴 了が次に目を覚ましたのは、死地から隔離された白い世界。即ち病院のベッドの上だった。

外が暗くとも、この場所は決まって白い世界を演出している。この場所に来るときは、大抵が敗北したときで────。

 

「なんや、もっと荒れとんのかと思ったけど、想像より大人しいんやな」

「………」

 

最悪の寝覚めに堪らず殴ろうとする。

しかし、身体はびくとも起きなかった。

 

「まあまあ、世界で負けたモン同士やないか。

顎砕かれてもそこそこ話せるやんけ。こりゃ復帰に影響はないな、良かった良かっ…うおわ!?アホ、動くやつがあるか!」

「ちっ、外したか」

 

無理やり身体に喝を入れて、右拳を投げ出した。

顔を合わせれば殴り合う仲だ。これくらいは挨拶の範疇だと舌打ちで伝える。

 

「久美ちゃんと会長はんらは帰ったで。今日は色々と気持ちを整理せい言うてな。それに、死神のアホ面見れるんは今日くらいや。特等席譲ってもろたわ」

「勝手にしろ」

 

恨めしい目で用件を促す。

 

「相手のこと小耳に挟んだから教えたろ思うてな」

「………」

「右拳、折れたんやと。多分、最後の1発やな。

硬い顎に全力で振り切ったんや、そういうこともあるわ。

あの強さや、リボルブなら世界獲れるんちゃうか?

そんなボクサーに紙一重で負けたんや、すごいで自分」

 

そう、自分を褒め称える男を。

 

「…千堂」

 

いよいよ鬱陶しいと名前で糾弾した。

気遣いには腹が立つ。そんな余裕もない表情をしている千堂を見て、間柴は「笑ってやる」と話を促す。

 

一拍置いて、肩を落とした千堂。

 

病室から見える月を遠い国の男と重ねながら、

 

「ワイな、階級変えよう思うとんねん」

 

静かに、吐き出した。

 

「幕之内やゴンに、リカルド倒すって約束しときながら、蓋を開けたら惨敗や。……負けて初めて、悔しさよりも絶望感で心が満たされよった」

 

それは、今晩だけの告白。

千堂が見せた、敗北者としての悔いだった。

 

「やけんか知らんが、活気溢れてこん。やから旅に出るゆうて、各地の試合を観て回っとった」

 

その成果は………言わなかった。

無言が、つまりは成果だということだ。間柴の試合を観ても、それは変わらないということ。

 

「………で?」

「幕之内に聞きたいんや。リカルド、倒せるかって。

今日は宮田の世界戦やから来るのは分かっとった。せやけど、後ろ姿見たら急に足が止まった。しっかり前を向いとる姿で確信したわ。あぁ、こいつの背中なら、倒してくれる……ってな」

 

徐々に傾いていく身体。

 

俯く姿は、敗北という恐怖に潰されていくようで。

 

「……は!」

 

だから間柴は笑ってやった。

 

「傲慢だ。下で足掻いてるやつ、より…。

お前を、追うヤツに聞きにいけ…」

 

そう言って、力のない左腕を上げる。

弱々しい人差し指が示した先で、

 

「ま、幕之内!?」

 

驚きに飛び上がる千堂。

 

一瞬で千堂の背筋を伸ばしたボクサーは、静かに、謙虚に病室に入って2人の前に立つ。

そして、人が変わったように真っ直ぐな瞳で宣言した。

 

「僕は、リカルド・マルチネスを倒します。

その為に復帰の準備をしてますから」

「………………………………あぁ、信じとるで。心配なんざせえへんわ。せやから、ワイの想いも託してええか」

 

ここまでの話を病室の外で聞いていたのだ。

すんなりと納得がいった。この男ならやれると。自分が背負いきれなかった想いを右手に乗せて、前に差し出す。

 

「お断りします」

「─────え」

 

それを、幕之内は呆気なく断ってみせた。

 

「そんな弱気な千堂さんから……。悔しい目のまま渡されても、僕はどうすればいいのか分かりません」

「………あ」

「僕も倒したい。だけど、僕だけが倒したいわけじゃない。千堂さんも、早くしないと先を越されちゃいますよ」

「…………せやったな。

この手、引っ込めるにはまだ早いわ」

 

夜空に浮かぶ月を見上げながら。

きっと、同じボクサーを思っただろう。

 

千堂 武士の葛藤にケリが着いた。

両頬をパンと叩いて、

 

「幕之内、感謝するで。間柴もな!」

「うるせえ…早く消えやがれ」

「ほんま素直やないなぁ」

 

千堂は手提げを抱えてあっという間に病室から出ていってしまった。かと思えば戻ってきて、

 

「あぁ、それとな幕之内。近いうちにまた連絡するわ。せやから、たーんと貯金しとくんやで!どっちに行ってもええようにな!」

 

嵐の如く、今度こそ去っていった。

 

「それどういう意味………って、もういない」

 

千堂さんらしい、と呟く。

 

病室の外で千堂の独白を聞いていた幕之内。

出ていくか迷っていたが、千堂が自ら道を譲ろうとする姿を見て、勝手に身体が止めに行っていた。行くなら自分で。そんな男が道を譲った場所で、幕之内は戦いたいとは思えなかったのだ。

 

「律儀なやつめ」

「あっ、その間柴さん、今日はお疲れさまでした。結果は残念でしたけど、オリンピック2連覇相手にあそこまで戦うなんてすごいですよ!」

「……媚び売っても久美はやらん」

「っ────」

 

一気に冷える病室。

青ざめる顔。

カチカチと踊り震える歯。

息切れと震えが止まらない膝。

 

「な、なんのことで、しょうか」

「テメェ、その反応、やっぱりか!」

「ひぇ────!」

 

死神がカマをかけたことに気づいたがもう遅い。

死に体だったとは思えない身体で、幕之内に襲いかかり。

 

「2人ともうるさい!!」

「「ぶっ!?」」

 

巡回中の看護婦、もといトミ子のゲンコツが2人の頭に直撃。夜も遅いのだ、迷惑極まりない行為に厳重注意を受けてしまった。

 

「とにかく…。負け犬には任せられん」

「────はい、勿論です」

 

寝そべり、薄目で睨む男の言葉をしっかりと受け止める。

 

間柴が認めるには勝つしかない。

まだ見えない強者に勝って、無敗神話を破って、そして宮田 一郎を越える。どこまでも広がる青空に向かうが如く、力強い返事は放たれていた。

 

「負けても、負けても、挫けない人が近くにいるんです。

だから僕も、負けていられません。

今日は失礼します。お大事に」

 

ぺこりと一礼をして、幕之内は病室をあとにする。

 

「…………それは、俺もだな」

 

静かになり、やっと敗北の夜を噛み締めながら。

間柴は独り、宙空の闇に囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








お久しぶりです、ひとりのリクです。

今回の試合結果に驚いた読者は多いのかもしれません。まさか、原作キャラクターを創作キャラクターが倒すのか?といった困惑のものでしょうか。
やられ役として登場させるよりも、原作を越えるつもりでオリキャラを書いています。これからも申し訳なさを感じながら、原作キャラを倒すための創作ボクサーを登場させていこうと思います。

それでですね、間柴を倒すんだからそりゃ生半可なボクサーは書けないわけでして。ここ数ヶ月は図書館に行って、スペインの文化や格闘技の本、人体について調べつつ創り上げたのがリボルブになります。
ちょっと盛りすぎた感を感じながら、過去設定に影をひとつまみ。これでやっと間柴に対抗出来るキャラの完成!となったわけでして。他にもあった設定は重いのでポイ。キャラクターを創るのって本当に大変です…。

今回、投稿時間がゴチャゴチャしてしまったこと、申し訳なく思ってます。出来るだけ0時更新にしようと心がけているのですが、今回は執筆が間に合わなくて…。
というか、試合内容に手を加えてたら増えるわ増える…!オリキャラ入れすぎるのも良くないと思いました。本当に最小限が良い。話がややこしくなるので、途中でリボルブのチーフセコンド、ミロさんは省きました。すみません、ミロさん。


さて、次回のお話をしましょう。
原作の再登場では、ちょっと言えないような状態の速水 龍一の物語を進めていきます。あの再登場にはショックを受けました。だからこそ、無視することが出来ず、こうして幣作でも書くことにしたんです。
綺麗で強い身体ではなく、崩れかけのスプラッタ状態でも足掻き続けるボクサーの結末を見届けてください。

今回もここまで読んでいただきありがとうございました。
『Next Champion編』は残すところ2人となり、2023年中の完結が現実的となってまいりました。読者の皆様が読んでくださるお陰です。本当に感謝しています。
しおり機能やお気に入り登録、ここ好き、感想などで応援してくださると励みになります。
これからも執筆を続けていきますので、どうぞ宜しくお願いします!







【次回予告】

「俺がボクシングを辞めても、ただ痕が残るだけだ。速水 龍一という男のボクサー転落街道中、見せ場のない三流の書き物がね」

男は嘆いた。
もう溢れていった努力の結晶を見て見ぬフリをして。

「負けを積み重ねて、確かに俺は強くなれました。
だけど速水さん、貴方の負けは意味が違う!!」

音羽ジム、もう人も帰ったリングに2人。
今井 京介は朽ちていくボクサー、速水 龍一に問いかける。

「無理やりボクシングを続けて壊れた男がいた。どうですか、たった一行の文で、ボクシングのイメージを落とす。
これ以上続ければ、貴方がボクシングを裏切ることになるんです」

8度の敗北が速水に語りかける。

「……………………………うるさい」

救いは求められない。
嘘を轟かせる虚勢もない。
引退する意味をただ考える。

「……………………まだ、やれる」

ひたすら転げ落ちる身体。
傷だらけの龍に出来ることといえば、前のめりにリングを見つめることだけだった。

「速水、引退勧告だ。もうここには来るな」

朽ちかけた龍は独り、曇天を見上げる。

「────────ちくしょう」

負けも許されない、錆びた拳に意味はあるのか。



2023.2.17(金) 昇龍(しっつい)伝説、開幕



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