鷹の6本のツメ   作:ひとりのリク

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神話の果て、星屑ダンス

 

景色が揺れる。

常識が敗れた現実に、民衆が鬨の声に熱狂を込めた。

 

ある者は涙した。

死神の最期を見届けるつもりで会場に来た自分を恥じて、彼の苦節と過程に感動した。

 

ある者は歓喜した。

自分が立っているか座っているかなんてどうでもいい。ただ感涙に声を上げて足をバタつかせて、目撃した真実を赤子のような挙動で表現した。

 

ある者は怒り、ある者は黙し、ある者は手を叩き、ある者は立ち上がり、ある者は天を仰いで、ある者は────。

 

リカルド・マルチネスは驚愕した。

 

(立た、なければ…)

 

これは自分が押し付けてきたことだ。

起き上がる光景も何度も見てきた。

なのに、力の入れる場所を探して四苦八苦している。

 

気分が高い。

呼吸は…正常だ。

身体に痛みはない。

少しの頭痛が意識に雑味を出している。

それだけなのに、地面から鎖で縛られたように身体が起き上がらない。

 

(重い…‼︎膝から立てていかないと、重心と噛み合わずに転んでしまう)

 

膝を付いて、膝を支点に上半身を起こす。

迫り来るカウントと、少しの冷や汗を流しながら、10カウント以内の復帰は漸く果たされる。

 

やっと立ち上がるリカルドを見ながら、千堂たちもまた民衆のように興奮に染まっていた。

 

「だ、大胆………!

なんて人なんだ、アルフレド・ゴンザレス‼︎」

「あんの死神、この土壇場でワイを真似しおった‼︎」

「リカルドと右の相打ち。

崩れた姿勢を利用したスマッシュ!

並み外れた覚悟がないと、こんな芸当出来ないよ!」

 

コーナーで待っているゴンザレスは冷静を装っているが、内心の喜びが雰囲気に滲み出ているのが見て分かる。

同時に、相打ちのダメージが大きいせいで深刻な様子を隠している。ここまで負傷して、あのリカルドからダウンを1つ奪った。あまりにも遠い…辿り着くまでを目撃したことの興奮は、深刻なダメージを忘れるには丁度良い麻酔になっている。

 

『リカルドが立ち上がって睨み合うこと数秒、狂瀾怒濤の第10ラウンドが終了です‼︎このラウンドは歴史を揺るがす3分間となりました!

ほ、本当に試合の行方が分からなくなってきたぞ!

残り2ラウンド、ここから待ち受ける結末から目が離せません‼︎』

 

まだ興奮冷めぬ場内に微かに響くゴングが、次のラウンドの期待値を徐々に押し上げていく。

 

決着は目前に迫っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10ラウンド終了と同時に、血相を変えて駆け寄ってきたビルを右グローブで制して、悠然とコーナーに戻ったリカルド。

陣営は沈黙で出迎えた。励ましの言葉を送るのは違うと思ったのだ。戻ってきたリカルドに精神的なダメージはない。スコッチを飲み込んだ後の余韻を味わうように、ゆっくりと口を開いた。

 

「ビル」

「ど、どうした」

「私はどう映っているか教えてほしい。動揺しているのか、落ち込んでいるのか、それとも………」

 

1つ、1つ、自分を俯瞰して当てはまりそうな感情を並べていく。インターバルが1分では足りないほどに並べたい気持ちを抑制したのは、この気持ちに早々に色を塗りたいからだ。

 

「笑っているかな?」

 

残りの時間は、この気持ちを全身に浴びることにした。

新しい体験から生まれた未知の感情は、リカルドが人に堕ちたことを意味しない。

リングの上では人ならざる存在なのだと、気づかせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いぞ‼︎あのリカルドが茫然としたぞ‼︎お前たちが世界初のボクサーだ‼︎」

「落ち着けよ‼︎涙拭け‼︎いや気持ちは分かるぜ‼︎」

 

興奮の熱の最高潮は、間違いなくブラスの顔面だろうとミキストリは確信した。この顔は勝ってからしてくれなんて言わない。どんな結果が待っていようとも、この過程が無ければ終わるモノがあった。

 

だが、この過程に囚われてしまえばリカルドの二の舞になる。

 

「それよりさ、俺たちを宥めてくれ…。

のぼせて次のラウンド、調子に乗りそうだ」

「────そういうことか」

 

ブラスはゴンザレスの不安を即座に理解すると、両肩を叩いた。

 

「お前たちは勘違いしてる。その体温(こうふん)は、リカルドの眼差しが君を敵と認識したから上がってるんだ。

その熱量のお陰でカウンターを耐えられただろ」

 

思い返せば、その通りだった。

リカルドのように、この想いはマイナスにならない。

俺たちを奮い立たせるモノは、背中を押し続けている。

 

「…助かった、危うく手札を捨てるところだった」

「お前たちに言うことは1つだけになった。

悔いを残すな、諦めるな、たまには後ろを向け」

「3つも言ってんじゃねーかよ〜」

 

俺たちの日常を振り返るように活力を補給して、重要な3分間に向けて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民衆の熱狂を他人事のようにして、2人はゆっくりとコーナーから出ていった。1歩進む、この1秒から民衆は目が離せない。

 

「これまでと違って、全身の筋肉が満足に動かへん。こっからは気力の問題や。体感時間は長いで」

「僕には未体験の世界です。

「ワイかてヴォルグとやった10ラウンドまでしか経験ない。そこだけ判定や、しんどかったわ」

 

ここからはフェイント1つ仕掛けることにも注意しなければならない。体力が底を尽きる前の決着を望むなら、試行回数を減らすことになる。これまでの試合を分析して、先に解を導いた方が勝利に近づく。

最も、彼らに常識が通用するかは別だが。

 

「あと6分しかない。しっかり決めてこい…」

 

千堂が柄にもなく勝利を祈ったとき。

リカルドの様子を見て、ゴンザレスは自らを点に変えるつもりで踏み込み、リカルドに急接近した。勢い余らない加減を極めたステップインから、左右を顔に目がけて放つ。これをリカルドはガードする…その両腕で前傾姿勢で受け止める様子から、先ほどのダウンが深い傷を与えたことを意味していた。

 

(ヤツの動きも遅い。コイツは効いてるぜえ…!)

 

続けて上下、左右と打ち分けて、偶に返ってくるカウンターを躱しながら試合を自分好みに展開していく。

 

『11ラウンドはゴンザレスが主導権を奪った!

歴史を塗り替えるボクサーが勝利へ邁進する!』

 

興奮気味に攻めるミキストリを見ながら、ゴンザレスはリカルドの様子に警戒心を上げていた。

 

(……静かすぎる。大振り待ちか?出さねえぞ)

 

あの目は放心状態に近い。初めてのダウンがそこまで衝撃的だったのなら、倒した甲斐がある。だが、相手はリカルド。ここまで尾を引くボクサーじゃない。

 

(…寒気すら感じるぜ。このまま攻めていいか迷う)

 

モーションすら見せてはいけない気がする。暗雲立ち込める雰囲気に呑まれて手を出せば、太陽の熱量に灼かれて野垂れ死ぬ。

 

(だが、すぐそこに底がある。分かる、もうちょっとでリカルドの体力も限界がくる)

(ならよォ、答えは決まったな!)

 

リカルドの贖罪を断ち切る日は来るのだろうか。

いつか抱いた不安は今日で終わらせる。そうしなくちゃ、後ろを振り向けないと分かっているから。

 

恐るな、攻めるのが挑戦者だ。

灼かれるより先に仕留めればいい────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ダウンをした直後から、身体がどこか噛み合わない)

 

迫り来る世闇を見上げながら、リカルドは身体の内側を駆け巡る亀裂に意識を向けていた。

普通に考えれば筋肉繊維の悲鳴だ。ダウンしたことで10ラウンド分の疲労が現れ始めている。外部からの衝撃で亀裂はその深度を増すだろう。

それを確かめるためにゴンザレスの左ジャブを受け止める。……その後、コンビネーションを数秒受け止めて、こちらも左右を返した……これは躱された。

どちらも重要じゃない。確認し終えたのは、内側の亀裂が筋肉繊維ではないということ。呆れることに、まだ動いても全力を出し足りないようだ。

 

なるば……アレか。

そう思って内側に意識を向ける。

 

(……前に、いる)

 

ダウンの衝撃で入った亀裂から、微かな光が漏れ出た。その光のおかげで、ずっとそこに居た、亀裂の擬人化したような人物をリカルドは見つけた。

 

容姿を見て判別することは出来ない。

意図的に情報が隠されている。

身体中に入った亀裂のせいで、何もわからない。

 

「アーティット…」

「ピンとくるのが早いな」

 

それでも、自分の内側で…前に立ちはだかる人物なんて2人しかいない。いま現れたことを鑑みれば、必然的にアーティットの名前に絞られた。

 

「何故ここに居るんだって顔だな。最後に教えてやろう。お前が楽しんでボクシングするとこ、観たかったんだ」

 

亀裂越しに、心に潜んでいた厚かましい漢が笑う。

今更出てきて、どう言葉を交わせというのか。アーティットが引退した時点で、この身は覚悟を決めている。

 

「お前さ、負けたら引退する気じゃん?

10回だろうと20回だろうと防衛して、負けたらそこで引退とか強情すぎるぜ。だから楽しくないんだよ?」

 

彼を追い抜けば内側の亀裂は治る。

そう確信して歩いているのに、一向に距離が縮まらない。

聞きたくもない言葉を聞かされて、不愉快だ。

 

「公開スパーで倒さなければ、こんな事にはならなかった。過ちを繰り返さないように細心の注意を払ってきた」

「“まだ、そこにいんのか?”」

 

折り合いをつけるための言葉に、聞き覚えのある言葉を返される。私を見下ろしたゴンザレスが言い放ったから、忘れるわけがない。

月と見紛うほど傷だらけで、太陽を追いかける想い。

あの瞳に見抜かれたら、一生忘れられない。

 

リカルド・マルチネスの肉体は常に全盛期を更新し続けてきた。

だが、精神は違った。

アーティットを倒し、アーティットから学び、アーティットに責任を負わせたあの日にしがみ付いている。

その自覚はある。だから、亀裂の意味に気づいた。

ゴンザレスに見抜かれたことで、この亀裂を思い出した。

 

あとは、選ぶだけだ。

治すか、破るかを。

 

「償おうとするな。足を止めるな。

そして、怖がるな。答えはすぐそこだ、行け」

「あぁ…見ていてほしい。私の生き様を」

 

言葉を聞き届けて、亀裂が深く心に沈んでいく。浸透して広がって、やがてそれはリカルドの殻を破った。

 

重く、濃ゆい瘴気が霧散して虹を作り出す。

 

神をも(ひし)いてきた呪縛が、ゆっくりと(ほど)けていくことを光が祝福しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴンザレスのパンチが意のままにリカルドを打ち抜いている!一打一打に場内から歓声が湧き上がる!』

 

既に2分間、ゴンザレスたちはギリギリの攻防を制してリカルドにダメージを与えている。

 

(おかしい……ヤバいぜ理性!コイツおかしい)

(分かってる。だが殴るしかねえ!止まったら捕まるのはコッチだ、時間に釣られて焦るんじゃねえぞ……)

 

こちらは精神を擦り減らしているというのに、リカルドの挙動からは疲れが感じられない。

嫌な気配だ。打てば打つほど、自分の体験談が脳にチラつく。表裏・死神(アズール・ミキストリ)に至った時のような…まさか!

 

「────フッ」

 

予感していた事態は、突如として発現した。

 

リカルドの左ストレートで押し留められ、次の右ストレートで身体が後方に吹き飛ばされていた。

 

(いきなり────ィ!?)

 

マッチの火を点けるような弱々しい火花が灯る。

内側に敷き詰めた活力が漏れ出る、満タンのバケツを持ち上げた時に溢れる水のようなものだと思ったとき。目の前にリカルドの輝くような瞳が迫っていた。

 

『激しいワンツーで一気に挑戦者を突き放した!?

これまでは体力回復に専念していたかチャンピオン!?』

 

まだ止まらないと左拳を持ち上げたとき、自然とカウンターを合わせにいっていた。リカルドとゴンザレスの左拳が互いを直撃し、その洗練しきった左拳と意識が(しわ)りを見せる。

 

手応えがあるのに、ダメージは深いはずなのに…!

 

(お前の実力は底が見えていた……はずだ)

 

見えない…いや、底との距離が見当もつかないと言ったほうが正しい。直線距離なら手を伸ばせば届く距離かもしれないが、無敗神話の世界は底に近づけば近づくほど複雑に入り組んでいる。心を見て、思考を読んで、勇者を喰んだもので構成されるボクシングの理想郷だ。

ここに到達するまでに幾つもの試練があった。その全てを越えて、洗練された漢が辿り着いた場所は蠱毒のような地獄だと知る。理想郷を埋め尽くす物質は贖罪と罪人。リカルドを倒せる人物を想像して、最強を作り出し、自らで越えていく無限地獄。

 

その性質がいま、変わろうとしている。

立ち上がり闘う意志を示す両の拳から、微かに漏れ出る光を幻視していた。

 

(底が見えなくなった…!こんちくしょう…!)

 

理解した、やっと疑問が解決した。

思考時間にして10秒。

存在に気づけなかった時間は、約6年間。

 

こいつ、身体がほぐれているんだ。

長年、凝り固まった無敗神話の殻に収まって、贖罪で押し付けてきたリカルドの本能が上を目指し始めたんだ。

これがリカルド・マルチネスに近づくということ。

止まった時を動かした証拠。終わりに近づいている。

 

無敗神話を終わらせるのは、生半可では叶わない。

 

(手数だ!雪崩れのような手数で迎え撃つしかない‼︎)

(一撃だ!千堂を倒した右でトドメを刺してやるぜ‼︎)

 

想定してはいた。ダウンを奪ったあと、眠れる闘志を起こすことになるのは見ずとも知っていた。

 

(なら2つ同時に出しゃいい‼︎)(大賛成だ‼︎)

 

それでも、たったの一振り。

2人の全力を込めたコンビネーションを、真っ向から遮断する右ストレートで突き放されて、カウンターの痛みを感じるより先に乾いた笑みを浮かべていた。

 

この試合はまだ終わらない。

まだ終わってくれないと暗に言ってくる。

 

恐ろしい事態だ。

誰もが震撼した。

 

懊悩を解きほぐしただけなのに、リカルドは更にボクシングに耽溺していく。

 

「じょ………冗談キツイで、ほんまに……」

「そんな……!

まさか、リカルドの実力はまだ上があるのか!?」

 

唖然とするのは千堂。

両拳が震えて止まらないのは幕之内。

 

2人とも見えてしまった。肩を並べたゴンザレスを突き放し始めたリカルドの地力を。敗北の2文字が浮かび上がるほど、致命的な差が開き始めた。

 

「バカな!バイオレンスが本気じゃなくてなんだと言うんです!」

「リカルド・マルチネスが成長しとるんや‼︎

それ以外になにがあるっちゅーねん!いままで手ェ抜いとった訳やあらへんはずやで」

「衰えるどころか強くなった…。なんで」

 

疑問に答えを探して、答えに当たる言葉を思い出す。

それは試合前にゴンザレスが出した、リカルドが無敗神話を築く理由。

 

“完成された神の過ちを償うために、自らに重い罰を課した。ダウン、若しくは────敗北するまでの防衛を”

 

てっきり負けの方だと思っていた。それくらいの重みでなければならないと、あの時に結論した。

だが、ゴンザレスとの試合で、ゴンザレスによるダウンがトリガーだとしたら…罪を償いきったと本人が納得したら。

 

「強すぎる…」

 

冷や汗が止まらない幕之内の肩を鷲掴んで、千堂が立ち上がる。

 

「んなこと気にしとる場合ちゃう!声出せ!」

「そ、そうですよ!諦めないで!ゴンザレスさんなら勝てます!」

「僕たちがついてます!」

 

千堂の声で身体が動き始める。

冷や汗を応援の熱で上書きする。

嫌な予感を受け入れたらダメだ。

ゴンザレスさんが諦めても声を出し続けるんだ。

 

観客席で千堂たちが必死に激を飛ばすのを、ゴンザレスはしっかりと聞き届けていた。幾分か楽になった思考で、縮こまりかけた心に余裕をこじ開ける。

 

心が揺らいでいる。

弱くはなっていない。ただ、リカルドの興味を一身に注がれる体験に、悦びに似た恐怖で心が支配されていた。

切れた頸動脈から血が流れるように汗が流れて、迫り来る神の降臨に言葉が声にならない悲鳴を上げる。

 

前のラウンドまでのバイオレンスは、塵芥も残さない気概で攻めてきていた。対して今は、太陽のように眩しくて…光に呑み込まれてしまう。

 

(やばい、俺じゃ間に合わない…!)

 

頭を振り回して、カウンターの斜線から逸れる反動を利用する拳撃に捕まった。入れ替わっても間に合わない。意識が切り替わる準備を終えていない…!

 

星繁く意志が叫ぶ。

 

(打たせるかァ────)

 

凶気が理性とのコンビネーションをかなぐり捨てて、身体の主導権を奪い取る。不恰好な動きで、リカルドの意表を突いた左ジャブがカウンターとなり命を繋ぐ。

 

「な!?」

 

これにはリカルドも思わず驚きの声を漏らす。

表裏・死神(アズール・ミキストリ)のカラクリを理性と凶気の交代によるコンビネーションと見定めていたのに、ゴンザレスをミキストリが強引に捩じ伏せていた。

無敗神話の観察眼を欺いた。リカルドの警戒心は既に最大に引き上げられていた。

 

(ミキストリが主導権を奪ったように見える。ゴンザレスとの共存は完璧ではなかったのか?)

 

アルフレド・ゴンザレスの全盛期もまた更新される。更新され続けている。留まるところを知らない。止まることは出来ない。

 

(これは……今のは!?)(…どうだ、思いつきだが)

 

あと少し、まだ一年分の研鑽くらいの差がある。だけど第10ラウンドまでに10年分の研鑽に勝るものを得た。

 

「…間に合うぜ、夜明け前に」

 

両者、共に最後の領域に足を踏み入れる。

先に全盛期を更新した方が勝つ。

 

最後の力を振り絞る方法を知っている者に、勝利の女神が微笑むということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リカルドと戦うことを糧にして、2回の試合をした。

無様に負けた。そもそも前提が間違っていた。

火を灯す原料がリカルドである限り、その火はリカルドに吸収される。彼自身が蒔いた種だからだ。

 

アーティットに真実を聞いて、まだ俺は誤った。

次は標準を間違えた。いまのリカルドに向けてしまった。

遠い過去、リカルドの心が立ち止まっていた日を見つけなきゃ届かないなんて、なんの笑い話だよ。

 

『運命の最終ラウンドがいま始まります‼︎』

 

そうして3度目、あまりにも長い下準備が完了した。

間に合った、安堵している。俺の夢が、新しい夢に変わった。負けてから生まれる夢ばかりだけど………。

 

(兄弟、今の調子は?)

(スカッと晴天。今日はぐっすり眠れそうだ)

(はっ!今から太陽落とすのにか!)

(そのための試合だろ)(それはそう!)

 

最終ラウンド、拳を突き合わせて。

この夢を忘れまいと言葉にする。

 

「さぁ、歴史を塗り替えてやろうぜ!」

 

勝利宣言とともに星屑は笑った。

 

「────行くぞ、アルフレド・ゴンザレス」

 

目醒めた漢が神域に進み始める。

 

 

 

WBAフェザー級タイトルマッチ、最終ラウンド開幕‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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