†††
本来ならば一寸先すら見通すことができない闇の中、緑色の視界で動く無数の影を確認する。
その正体・・・・"残像を残すようなワープ"としか言いようがない移動をしている『人形』のパターンを逆算し、予測地点に覗き込んでいたスコープの照準を合わせる。大丈夫、いくらアレが"上級人形"でも、1.5kmは離れている場所に居る自分をこの闇夜の中で見つけるのは不可能、と自分に言い聞かせながらトリガーに指をかける。
「・・・・・ッ」
タイミングを見計らいトリガーを引く。轟音と共に吐き出された12.7×99mmNATO弾は狙い通りにグリフィンの部隊を嬲るようにワープをしながら攻撃をしていた鉄血の上級人形"錬金術師"の頭を死角から柘榴のように吹き飛ばす。
突然頭が吹き飛んだ錬金術師を見たグリフィンの部隊があたふたと警戒しているが、こちらとしては本来ならばしなくても良い仕事をした身。説明が面倒、もとい帰還途中である身なため、素早くライフルを背負うとその場から離れて行く。
『隊長、何かあったの?』
「ちょっと不愉快な通信を拾ったから黙らせてきただけ。今から帰還するよ、ウニカ」
腰に吊るしていた通信機から聞き慣れた声が聞こえる。それに軽く返すと、私はその場を後にする。通信相手も慣れているのか、それ以上は聞き返さない。
ああそうだ、改めて自己紹介を。死んだと思いきやとある戦術人形に転生した哀れな元男ーーもはやその記憶すら曖昧だがーー改め、今の姿での名はPGM へカートⅡ。今日も今日とて生き抜くために戦うライフル人形(のようなナニカ。詳しくは後ほど)の一人だ。何の因果か、とある組織で戦術人形の訳あり組達を纏める特殊遊撃小隊の隊長なんてものをやっている。
††††
廃棄された旧G&K社の指揮所。そこに帰還したPGM へカートⅡを出迎えたのは小柄な少女であった。
「隊長おっ帰りぃー!?」
「毎回、そのダイビングは止めろって言わなかった?ウニカ」
「痛い痛い痛い⁉︎申し訳ありません隊長!?」
飛びついてきた少女ーー困ったことに、これでもオペレーターや観測手をこなせる上に情報戦のエキスパートだーーをアイアンクローで迎撃し、片手で吊るしながら指揮所に入ってゆくと、先に帰還していたメンバーが武器を整備していた。
「あ、リーダーお帰りッス。ヤケに遅かったッスねぇ」
「どこかの部隊が錬金術師と不意打ち受けた状態でやり合っててね。混線した通信が煩かったから頭を吹き飛ばしてきた」
「うっはー。その部隊からしたらホラーじゃねーッスか」
真っ先に話しかけてきたのはC8-SFW。私が初めて拾った戦術人形であり、私が率いるチームの副隊長であるアサルトライフルの戦術人形だ。ちなみに普段は常に笑みを絶やさない子で、今も私がアイアンクローで吊るしている戦術人形ーーこの子も私が拾った子ーーを見てケラケラと笑っている。
「リーダー、いい加減ウニカを放してあげたら?もう抵抗する気力すらないみたいだし」
「そうね。ま、ウニカのコレはもはや仕方ない、か」
私が片手で吊るしているハンドガンの戦術人形"マテバ モデロ6 ウニカ"がピクリとも動かない事を指摘したのはサブマシンガンの戦術人形"SIG MPX-SD"だった。武器の整備をしていた彼女に言われた私は、この今更なこのやり取りも慣れてきたことに気付き、ウニカをソファに放り投げてからウェポンラックに相棒たる銃を置く。
「あ、リーダー。面白い情報を仕入れたッスよ」
「面白い情報?前みたいにブチ切れた侵入者に追いかけられるのは勘弁なんだけど?エイト」
「アレはマジで謝ったじゃないッスか!それに、今回の件は今伸びてるウニカちゃんがちゃんと精査したものッス。だから信頼性は高いッスよ」
そんな私にC8-SFWが思い出したように話しかける。とはいえ、以前ーーまだ私と彼女しかいなかった頃だーーに二人で酷い目にあった事を思い出した私のジト目に、エイトが慌てて弁明する。
「何でも鉄血の上級人形の一体が逃げ出したって通信をウニカが逆探したんスよ。鉄血の上級人形はAIのバックアップがあるってのがリーダーの話ッスけど、また出たバグか何かでこうなったんじゃねーかってのがウニカの予測ッス」
「私みたいな前例があるって言っても、鉄血工廠がそんなエラーを放置するかしら。陽動とか、罠じゃない?」
「や、それがそうとは思えねーんスよ。その上級人形の追撃に出撃した筈の処刑人と狩人の二体が返り討ちにあったみたいなんスよねぇ。罠にしちゃあ情報が漏れすぎだし、なによりも侵入者までもが追跡に出てるって情報まであったんス」
エイトからの話を聞き、ただの陽動や罠にしては大掛かりに過ぎると理解する。処刑人と狩人は追跡と追い込みを得意とする上級人形だし、侵入者に至っては非常に高い電子戦能力と戦闘力を誇るモデルだ。こう言ってはアレだが、この辺りに陽動や罠として出すには過剰戦力でしかない。
「そいつは?コード位は判明してるんでしょ?」
「一応は。侵入者が殺意すら感じられる口調で言ってたのが多分コードだと思うよ。で、口走っていたコードは"爆弾魔"。連中の通信を解析して、連中の拠点に電子戦仕掛けた結果だと破壊者の試作改良型みたいなんだよね。で、作られてから数回ほど破壊者本人がAIをアップロードして動かした後に問題が発覚。結果として爆弾魔は廃棄が決定していたみたいなんだけど・・・・」
「何故か勝手に起動して離反した、って事ッスね。連中の捜索範囲は?」
「割と本気で捜索する予定みたいで、アホみたいに広いよ。下手したらS地区にまで行くみたい」
SIG MPX-SDからの問いにアイアンクローのダメージからそうそ復帰したマテバ モデロ6 ウニカが答える。エイトが地図を引っ張り出しながら問うと、ウニカは周辺の地図に赤ペンでマーキングを入れる。その範囲内に更に現状判明している情報を書き込むウニカが視線で問いかける。
「よし、この爆弾魔を確保する。ついでに侵入者もついでに排除する。どちらかでも達成すればヘリアントスに恩を売れるでしょうし」
「リ、リーダーはヘリアンさん嫌いなの?」
「まさか。私は彼女に感謝しているわよ。
密かに支援してくれるしね」
「あー、諦めろウニカ。リーダーとヘリアンはいつもこんな感じだから」
イイ笑顔になった私に怯えたようにウニカが問う。私とヘリアントスの関係を唯一知るエイトが苦笑しながら答えると、ソファから立ち上がる。
「さあ、仕事の時間よ。装備は夜戦時の対上級人形。ウニカだけは対侵入者用に対抗電子戦装備ね」
「了解ッスよ」
「はーい」
「了解」
私の号令に応える三人はそれぞれが装備を取りに行くのであった。