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その頃、廃墟を囲むように鉄血の部隊を指揮していた上級人形の一人である侵入者はため息をついていた。
ただでさえ、数時間前に同僚である上級人形の錬金術師が謎の狙撃により撃破されており、さらに今回の追撃においても、狩人と処刑人の二人が爆弾魔に返り討ちにされているのだ。いくら指揮担当である代理人と夢想家の二人による連盟の命令とはいえ、こうも同僚が立て続けに撃破されている中での任務は気が重たくもなるものだった。
「(流し読みになったが、数時間前に撃破された錬金術師の記録ではグリフィンの人形と夜間という事もあり不意遭遇戦。が、その時の部隊は大した敵ではなかったはず。なのにいきなり、恐らくは視覚外からの攻撃で撃破されていた・・・・。確かに錬金術師も多少は被弾していたとはいえ、ラッキーヒットで撃破される程の被ダメージではなかったんだ。しかもあの時、あのエリアにいたグリフィンの部隊はあの時錬金術師と交戦していた部隊のみ。つまり錬金術師を撃破した奴は狙撃手の戦術人形で、恐らくは名前付き。夜間にも関わらず錬金術師に気付かれない距離から狙撃を可能とするとなれば、キロ単位での狙撃ができるって事になる。そんな奴がいるってのにこの強制探索命令だし未だに爆弾魔は見つからないし・・・・)」
「指揮官、働き蟻のセンサーに爆弾魔と思わしき反応をようやく捉えたとの報告が。ただし、その報告が数カ所から、とのことです」
ため息混じりに思案していた侵入者だったが、ようやく隣に控えていた副官の竜騎兵から望んでいた報告が告げられる。
「全く代理人も夢想家も爆弾魔の詳細を送ってくれないから現場が苦労する・・・・。爆弾魔は電子戦で我々を混乱させるつもりか?ならば私が先手を打って電子戦を仕掛ける。貴様らは爆弾魔を鶴翼の陣で包囲、爆弾魔を追い込む用意をしなさいな。念の為に虎の子の毒持つ獣も起動よ」
「はっ」
侵入者の指令を受け、竜騎兵が指示を出す。しかしこの時、侵入者は致命的なミスを犯した。爆弾魔が電子戦をしていると勘違いし、自身が真っ先に電子戦を仕掛けてしまったのである。それは致命的なミスとして、侵入者のAIに刻まれる事になるのであった。
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『隊長、侵入者が食いついたよ。で、今は毒持つ獣を操って敵を混乱させてるよ』
『完璧じゃない。さて、シグとエイトは周りの雑魚を潰したらマンティコアの武器を無力化。侵入者は私が撃ち抜くわ』
『了解隊長。マンティコアはエイトに任せるよ』
『了解だリーダー。マンティコアは私かあ』
爆弾魔を仮拠点に軟禁すると、廃墟群の中で二番目に高い建物の最上階の一室で狙撃態勢に入ったイーグルアイに、電子戦をしていたウニカが敵の通信を聞き取り、ソレを伝えてくる。
そのウニカからの報告を受け、イイ笑顔になるイーグルアイ。そんな笑顔の私の指示を受け、闇に溶けるようにシグが先行し、エイトが続いて行く。それを見送った私は、.50BMGを装填したPGM へカートⅡに取り付けたナイトスコープを覗き込むと、ウニカの電子戦により混乱している侵入者に照準を合わせるのだった。
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爆弾魔の電脳に侵入し、自分が動けなくなって初めて侵入者は自分が逆に罠に嵌ったのだと理解した。最初に働き蟻が発見したという反応の一つが未だにオンラインのままである事を、周囲の電子機器に侵入して確認した侵入者。そこで周辺の電子機器にアクセスしている反応が侵入者と爆弾魔だけだった為、安全だと判断して素早く対象に侵入を開始。するといきなり電脳内に流れるハッキング警告の音。その段階になってやっと侵入者は自身が罠に嵌った事に気付いた。
「(侵入された!?しかもこのパターンはデータベースに記録で代理人が警告していた例の部隊の手口の一つか!チクショウ、代理人の警告は正しかった訳だ。・・・・やられt)」
あっという間に電脳を制圧されてしまい、思考しかできない中侵入者は理解する。指揮系統を様々な方法で制圧してから手早く作戦を行う部隊の事を。それは鉄血のネットワーク上で、代理人が名指しで警戒を促す部隊の手口の一つだった。とはいえ、実際にその部隊と真っ当に交戦した部隊は居なかった為、一種の戦場伝説を代理人が過敏に警戒していただけだ、と当時は侵入者も笑い話にしていたものだった。しかし"死"の間際になって侵入者はその警告が間違いではなかった、と自笑する。そんな刹那の中、自身のコアが.50BMGでぶち抜かれるのを理解しながら侵入者のAIはシャットダウンされるのだった。
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『私よ。侵入者を排除。ウニカは毒持つ獣を操って廃墟に移動させて』
『エイト了解。今毒持つ獣の武器を無力化。現地で待機中』
『シグより隊長、敵部隊の殲滅を完了。エイトと共にウニカの元で合流します』
『ウニカりょーかい」
PGM へカートⅡから撃たれた.50BMGが侵入者の胸部を捉えて撃ち抜いた事を確認した私は、ボルトを操作しながらウニカのハッキングで棒立ちとなっていた鉄血の部隊を鏖殺した仲間に通信を行う。返ってきたまだ気を抜かない二人からの通信に満足しつつも、二人の合流まで周囲の警戒を行うのだった。
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まず対侵入者撃滅戦を完遂した私達は建前上の任務に戻る前に一度確保した爆弾魔との交渉を行う事にした。
無論、廃墟にウニカが制圧した毒持つ獣を運び終えた為、ウニカに爆弾魔の火器管制機能を無力化させてからであるが。
「ん・・・・ぅ・・・・?」
「ようやくお目覚めだね。ちょいと手強かったみたいだし隊長、だいぶ強引に制圧したのかなあ・・・・」
「ウニカがそこまで言うって珍しいな。って事は爆弾魔はリーダークラスの対電子防壁持ってるって事か?」
「うん。てか爆弾魔の電子戦能力のポテンシャルは侵入者クラスに匹敵するよ。多分理由としては鉄血の上級人形はネットワーク上に自身の経験を累積する事が可能だから、侵入者の電子戦の経験を流用したんじゃないかな?まあAI人格の基本骨子以外は一部だけしか引き継げないみたいだけれど、理論上は可能だろうし」
再起動する爆弾魔を見てボヤいたウニカに思わずエイトが問いかける。ウニカの分析に、思わず感心するエイト。イーグルアイはというと、周辺を念のために偵察してきたシグからの報告を受け、ヘリアントスへの報告書を纏めていた所であった。
「私は・・・・」
「現状把握は今は後回しにしてもらえると嬉しいわね。私からの問いは二つに一つ。仲間になるかならないか」
「酷いスカウト方法だなリーダーよぉ」
「でも我々らしい強引さ。でも、それが隊長らしいと思う」
ようやく現状を理解したのか、はたまた火器管制機能が動かないことに気づいたのか、少し怯えたように周辺を見渡す爆弾魔。そんな彼女の真正面に立つと、非常にイイ笑顔でスカウトする。その裏を理解したのかエイトは心底楽しそうな笑みを浮かべ、シグは珍しく楽しげな笑みを浮かべる。
ポカンとしていた爆弾魔だったが、私の正体に気づいたようで、唖然としながらもしっかりと頷く。それを確認したウニカが彼女の運動機能を解除する。
「貴女の誤魔化しなら任せなさいな。では改めて、歓迎するわ。ようこそ409 Conflict小隊へ」